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2019.08.13
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​​​   『穴』小山田浩子(新潮文庫)

 前回の続きです。「ゆきの宿」のクライマックスの部分。友人斉木君の家に泊まった翌朝、「僕」が雪の庭で斉木君に会う場面です。
 斉木君は、昨晩僕が先に寝た後、妻が泣いていたという話を切り出して、そしてヘンな言葉を使います。

「妻は最近仕事が忙しいんだ。それは知っているよ。大変なんだ。毎日すごく遅くまで残業でさ……」
「ふーん」斉木君は僕を見た。「まあ俺は倫理的な人間でもないし、口は挟まないけれど、少し心配になったもんでね。奥さんが、元気なら、いいんだ。なんだか気の道のようなことだろう」

 どうですか。斉木君のセリフには、二つのヘンな言葉がありますね。
 しかしその前に、斉木君が「僕」のセリフを全く受けた返答をしていないことに気が付きます。受けた返答をしていないというより、わざと外している(少々強調すれば「別にごまかさないでもいいんだ」とでも言っている)ようなやり取りの描写です。

 そして斉木君のセリフですが、まずひとつ目、「気の道」って何でしょうか。前回にも少し触れましたが、これは筆者の造語でしょうか。

 昔、私の祖母が、今思うと婦人病のことでしょうか、「血の道」(きっとこんな漢字だと思うのですが)という言葉を使っていたのを思い出します。
 その辺のイメージを重ね合わせると、女性の生理に結びつくような「精神的な塞ぎ」「疑心暗鬼」といった感情を表すと思える言葉です。

 次のもう一つのヘンな言葉。
 「倫理的」とありますね。「倫理的」という語を、斉木君はなぜこんなところで使っているのでしょう。
 妻が泣いていたという話題の場面です。結婚した男女の間で妻が泣いていて「倫理的」とくれば、それは「不倫」以外に何が想像されますかね。

 では少し遡って、前回書いた「X年12月頃」の妻のsperm採取依頼の時の描写を詳しく見てみます。
 妻はsperm採取容器らしきものを持って、「妙に真剣な顔をして」、会社から帰宅直後の「僕」にまずこう言います。

​「ねえ、あなたは最近でも自分でしたりするの」​

 その後「自分でしたり」の意味についてのやり取りが少しあって、さらにこんな風に展開していきます。

「どうして一体そんな……」
「何かを疑ったり責めたりしているんじゃないのよ」妻は浮かべていた薄笑いを引っ込めた。額に脂が浮いた顔で、しかし頬は白く粉を吹いていて、足元を見るとストッキングを片方だけ脱いでいるのだった。よほど急いで出て来たらしい。
「どうしたんだい」
 妻は急に早口になった。「あのね、面倒なことを頼んであなたには気の毒なんだけれど、自分で精〇を出して、この容器に入れて欲しいんです」

 妻のセリフがヘンに夫に説明的ですね。前回にも触れましたが、不妊治療について両者の間で共通理解ができているとはとても思えないような話しぶりです。(そもそもこの夫婦は、二人一緒に産婦人科に受診しているんでしょうか。疑わしい記述です。)
 特に私が少しヘンだと思う部分。

「ねえ、あなたは最近でも自分でしたりするの」
「何かを疑ったり責めたりしているんじゃないのよ」

 ……さて、ここまでかなりしつこく文字数を使ってきましたが、以下、わたくしの「妄想的読み」を一気に書いてみたいと思います。
 たぶんそれは「妄想」だろうとは思いますが、でも今のところ私にはこうとしか読めない展開であります。

 と、思ったところで、あ、とても以下に書ききれそうもない。
 すみません。次回に続きます。次回こそ、終わります。


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Last updated  2019.08.13 09:08:09
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analog純文 @ Re[1]:父親という苦悩(06/04)  七詩さん、コメントありがとうございま…
七詩 @ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
analog純文 @ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03)  おや、今猿人さん、ご無沙汰しています…
今猿人@ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03) この件は、私よく覚えておりますよ。何故…
analog純文 @ Re:漱石は「I love you」をどう訳したのか、それとも、、、(08/25) 今猿人さんへ コメントありがとうございま…

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