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2023.01.23
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カテゴリ: 昭和期・後半男性
 『中国行きのスロウ・ボート』村上春樹(中央公論社)

 いつだったか、作家の小川洋子さんが、本書をかなり絶賛していた文章を読んだ記憶があります。本書の初版は1983年で(文庫本ではありません)、帯に書かれたコピーはこんな文章が書かれています。


 今でも本の帯のコピーって、こんな感じなんですかね。最近の本についてはよく知らないのですが、とにかく、とってもおしゃれな感じの文章ですよねー、なんか、透明感があって。よく吟味して読めば、ボルグと僕たちと本書にはほとんどなんの関係もないのだけれど(つまり中身などなんにもない文章だけれど)、記憶では私自身もこんな「ノリ」で本書を読んだように思い出します。

 で、それから40年の月日が流れました。えらいものですねー。
 でも、そのことは決してマイナスのことばかりを生んだわけではありません、少なくとも私の今回の読書体験において。

 それは何かというと、この40年間に筆者が次々に発表した(本当に次々という感じの「勤勉さ」の)作品のおかげで、私がこの度の読書のための補助線を密かにたくさん手に入れていたということです。

 あ、これはそういうことか、なるほどそう読めばいいのか、と思う個所がいくつもありました。その結果、今回の読書で私が新たに知ったのは、本書は、40年前の帯の文章のように軽いノリの感覚だけで読み終える短編ばかりではない、ということでありました。

 特に本書の表題になっている「中国行きのスロウ・ボート」は、その後の村上作品をそれなりに読めば、彼の「中国」へこだわりが、すでにこれほどまでに表れていたのかと驚くばかりでありました。

 以下に、この短編について、私が驚きつつ感心した事柄をまとめようと思うのですが、ただ、この短編のできが本短編集の中で一番いいというわけではないようです。

 本書には7つの短編小説(ひとつは少年少女向けかな)が収録されています。
 「中国行き…」を少し置いておくと、残りの3作は、私はこんな風にまとめられるのではないかと読みました。

 一種の想像力の極限状況を、反リアリズムの手法でどこまで作品化できるかの試み。

 後年、筆者は小説の価値の第一位に文体を多く挙げているように思いますが、それは言葉だけで現実と対峙するという小説の基本的構造について、自分にどの程度までやっていける力(才能)があるのかを探っているような(ある意味では少しけなげな感じのする)試みであるように思いました。

 そして後ろの3作(本書には小さなまえがきのような文章があって、前4作と後ろ3作の間に『羊をめぐる冒険』の執筆のための1年近いブランクがあると書かれています。)は、同じ初期作品としてまとめられるとしても、いわゆる「デビュー作にはその作家のすべてが詰まっている」的な、後年の筆者の才能の萌芽があちこちの展開から見え出しているような、そんな懐の深いできの良さがあります。

 ということで、私は数十年ぶりの本書の再読をとても「スリリング」に読みました。
 そして、上記に書いたように、その中心的読書の「中国行き…」について、以下に、私が思ったことをまとめてみたいと思います。

 本短編は、半生の中で主人公が中国人と出会ったうちの印象的なエピソードが3つ、そしてそれを挟んで「序」と「結」のようなパートの、5つの章からなっています。
 今回私はわりと一生懸命にこのお話を読んだんですね。そして読みながらいくつかの疑問を持ちました。(小説というのは大体真剣に読むと「?」がまず現れてくるもので、その疑問の解けることこそが、小説読書の快楽だと私は思っています。)

 それを、本当はもっとたくさんあちこちに散らばっているのですが、まとめながら簡潔にかつ順番に書くとこんな風になります。

 1章→僕に正確な日付の調査を止まらせたにわとり小屋とは何か。
 2章→机の上に誰かの落書きはあったのか。
 3章→僕は「心の底でそう望んでいた」のか。
 4章→僕と元中国人同級生の違いと、それが僕にもたらしたものは何か。
 5章→作品終末部は、なぜ書かれていることが逆方向なのか。

 こんな感じですかね。
 うまくまとめられていない気もしながら、しかし、これらの問いの答えも、ほぼ作品内に書かれてあることに私は気づきました。
 どうですか、なかなかスリリングでしょ。

 それを……、あ、すみません、次回に続きます。

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Last updated  2023.01.23 06:57:50
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Comments

analog純文 @ Re[1]:父親という苦悩(06/04)  七詩さん、コメントありがとうございま…
七詩 @ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
analog純文 @ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03)  おや、今猿人さん、ご無沙汰しています…
今猿人@ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03) この件は、私よく覚えておりますよ。何故…
analog純文 @ Re:漱石は「I love you」をどう訳したのか、それとも、、、(08/25) 今猿人さんへ コメントありがとうございま…

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