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2024.10.20
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『琉球処分・上下』大城立裕(講談社文庫)

 タイトルに「琉球処分」とありますが、この語は本小説独自のものではなく、歴史用語であるようです。例えばネットの本屋さんで検索しますと、この単語をタイトルに用いたたくさんの書籍が現れます。
 本書の下巻(上下巻で1000ページにも及ぶ長編小説)解説に、こう書かれています。

 金城正篤氏(琉球大学名誉教授)は、琉球処分について、〈明治政府のもとで沖縄が日本国家の中に強行的に組み込まれる一連の政治過程をいう。〉と定義する。

 明治維新後の廃藩置県において、なぜ琉球だけがやや別藩と異なった対応となったのかについては、まず、琉球がそこに至るまで長く独立した別国家であったという点が一つ、もう一つは本書の筆者による「あとがき」にこう触れられています。

琉球=沖縄が、日本にとって国内軍事植民地としての重要な価値を持っていて(略)

 この今に至るまで沖縄を「軍事拠点」(本文中用語)と見る視点に対する危惧は、同じく本文中には作品中の時間設定として、このようにも描かれています。

​ いずれ日本政府が、これまでの中国より以上に恩恵をたまわるといっても、なにか、にわかには信じがたい。いや、恩恵そのものは確かにあるかもしれないが、信に琉球の人民をいつくしむ志をもってのことであるかどうか。​

 上記に私は、「琉球がそこに至るまで長く独立した別国家であった」と書きました。
 もちろん、そのような現実の歴史的経過をどう考えるべきなのかは、本作品の極めて重要なテーマではあるのですが、同時にそれが「別国家」であったことの記述が、本書の小説としての面白さの核になっています。

 そんな「別国家」の特質を、筆者は、本作の各章のタイトルにとても巧妙に表しています。たとえば、

 「ぼんやり王国」「外交だらけの国」「ただふしぎな蒙昧」……

 特に私が興味深かったのは「外交だらけの国」という表現で、例えばこんな個所があります。琉球国王に家臣が進言する部分です。

​古来わが国は外国に向かっては、頼り、こいねがうだけが道。薩摩だけにはそれも利きめがありませんでしたが、中国はいつでもそれを聞き届けてくださいましたし、日本政府もどうやら、大きなことを言うだけに島津よりはいくらか御しやすいものと思われます。ここまで引き延ばしてきたのですから、あと一息で我を折るに違いありません。そうすれば、おのづからまた活路はひらけるというもの。​

 この対応の巧妙さは、本書において再三触れられているのですが、それに対する当時の日本側対応人物の視点では、例えばこんなふうに描かれます。

(略)けれども、琉球の使節にはそれがあるとは思えない。あの表情にはひとかけらの偽りも感じられないが、真実自信のない表情にみちみちているのだ。すると、自信のないねばり強さなるものが世のなかにあるのだろうか。大久保は、たぶんはじめてそのような人生を目の前に見て、とまどってしまったのであろう。

 大陸的な充実した強さではないのだよ。あくまでも島国の――貧乏な島国のものだ。なんにももたない空しさだけだ。決してかれら自体が強いのではない。が、あの空しさを見て、ぼくらが薄気味の悪さを感じとるだけなのだ。口がせまくて底の深い古井戸のようにね。

 引用終盤に古井戸のような薄気味悪さとありますが、それは日本側人物の心情としては「近代的政治感覚が琉球にだけは全然通じない」という表現になり、さらには内務卿・大久保利通のセリフとしてこのように描かれます。

​「一体、われわれは琉球を支配しえているのだろうか、松田君」​

 実は本書は、冒頭に触れたように、文庫本上下巻1000頁にも及ぶ物語でありますので、最初はかなり内容がつかみにくく(「事件(政治過程)」が主題の作品であることで、読者が感情移入しやすい主人公が表面に出てこないせいでもあります)、少し読みにくくあるのですが、上記のような対立構造がわかってくるあたりから、その双方の食い違いが無限ループのように繰り返され、えんえん下巻終盤まで、その構図が続きます。

 私は、この小説の文学的成果(小説的面白さ)はここにあると思います。(1000頁もあることの意味も。)
 あるいは、こんな読み方はあまりに偏っているんじゃないかという気もしないではありませんが、小説が小説であって「大説」ではない面白さ素晴らしさとは、そんな部分を決して見落とさないことではないかと、……まー、少々ひねくれものを自任する私は、考えるのでありました。

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Last updated  2024.10.20 13:01:47
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七詩 @ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
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