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2024.12.29
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『しょっぱいドライブ』大道珠貴(文春文庫)

 実は我が家の本棚の隅っこに隠れていた(隠れていたってことは、ないでしょうが)文庫本でありました。
 手に取ってホコリを拭いて見てみますと、薄っぺらいし、さくっと一気に読んでみました。
 で、読んだ後、なんとなく似た雰囲気の小説(本作もそうですが、芥川賞受賞の女性作家の小説)が浮かんだので、少し調べてみました。

 本作(この文庫には3つの小説が収録されていますが、総タイトルとなった小説が芥川賞受賞作品です)は、2002年に芥川賞を受賞しています。
 私が、よく似た雰囲気と思ったのは、津村記久子(2008年受賞)とか、本谷有希子(2015年受賞)とか、村田沙耶香(2016年受賞)なんですが、比べてみると大道珠貴が10年ほど先んじているのがわかりますね。

 併せて気が付いたのですが、この大道珠貴の受賞あたりから女性作家の芥川賞受賞数がぐんぐん増えて来て、近年ではもう圧倒的女性優位になっているのではないですかね。

 これは良い悪いの話ではないでしょうが、どんな世界においても、その世界で褒められる性に偏りがあるというのは、短期的にみれば、あまりよくないのかな、と。(短期的と書きましたが、改めて書くまでもなく、おそらくは文学においても、長い歴史スパンの中では圧倒的女性差別的期間があった事にちょっと触れているつもりであります。)

 で、「似た雰囲気」というのは、これも一時言われていた言葉のようですが「こじらせ女子」的な雰囲気のことで、脱力感、虚無感、自己肯定感の低さあたりを私は本作にも感じました。

 ただ、主人公の描かれ方の底に流れているのはそういったネガティブなものであっても、例えば上記に並べた女性作家たちは、それらの感情や人間性を、小説に仕上げるにあたってきわめて達者に描いているという気がします。

 だから読んでいて感情移入がしやすく、ユーモラスであったり、適度に癒されたりして、ほどほどの好感度が得られたりする、というのは少し意地悪な見方でありましょうか。

 この度取り上げている短編集も、自分の年齢の倍以上も年上の男と同棲する30代の女性の話であったり、二十歳を越えてなお、小学校時代からの明かな主従関係の元に付き合ってきた同性女性(こちらが「主」)との話とか、ややまっとうではない(「まっとう」とは何かというのはそれはそれで難しくはあるのですが)、「こじらせ」系の主人公を描きながら、その描き方は、とてもテンポがよく、会話のやり取りなどを読んでいると、本当に達者だなあと感じさせるものです。

 そんなふうに、本作は芥川賞「こじらせ女子」系作品の先達、とまとめることができるのかな、と思いました。
 ただ、そんなことをぼんやりと、かつ、じっと考えていますと、やはり少し物足りない感じが残りました。

 「こじらせ女子」系の話が、新しい作家の間に結果的に多く輩出されたということは、やはり時代を映していることでありましょう。
 例えば、近代日本文学史のなかで、古くは「浪漫主義」「写実主義」などから「白樺派」「新感覚派」とか「第三の新人」「内向の世代」など、限られた時代に似通った作風の作家が現れるのは、やはり時代の要請と捉えることができると思います。

 そんな意味で考えれば、芥川賞に女性作家の花盛りである現代というピリオドも、やはりそんな時代を表しているのだと思います。
 ただ、私がどうも少し物足りなく思うのは、描かれる「こじらせ」人間関係の原因が、主人公(個人)の資質の枠からほとんど踏み出されていない感じがするところであります。だから、時代や社会の要請だとは思いつつ、そこに時代や社会を描く広がりが感じられない。

 あるいはそれには、別の要素もあるのかもしれません。文学がもはや、時代や社会の諸問題と正面から有意に切り結ぶ力を失ってしまった、ということなのかもしれません。

 ただ、そうだとすると、後に残るのは感性しかないのか、いや、そんなこともあるまいと思いつつ、せめてもう少し背筋をピッと伸ばして正面を見ているような主人公の姿や、それなりの大きさを持つテーマを、私などは読んでみたいと思うものではありますが……。

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Last updated  2024.12.29 10:32:40
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七詩 @ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
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