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その後の自民党総裁選では、連日のように4人の候補がテレビに出演し、政策や人物像がつぶさに報じられている。その「お祭り」報道の影響もあるだろう。毎日新聞の世論調査(9月18日)によると、菅内閣の支持率は、最低を記録した8月から11ポイントも上昇し、37%に回復した。退陣する菅氏へのねぎらいの意味もあるだろうが、彼は何もしていない。「コロナ対策に集中するため退陣する」といいながら、すべきことをしていない。
第5波では都心を中心に医療崩壊を起こした。9月3日の全国の重傷者は過去最多の2221人、自宅「放置」は13万5674人に上った。自宅放置中のコロナ感染死者数は、8月の東京都内だけで250人で7月の8倍に達した。この責任をうやむやにしてはならない。コロナ禍はあと数年続くだろう。行き詰まったら政権を投げ出し、その都度「ご破算」にされてはかなわない。公衆衛生政策は、個人の努力だけでは難しい。外交と並んで、国家が最優先で果たさなければならない義務だ。
菅政権はなぜ失敗したのか。一言でいえば、菅氏の言葉に人々を納得させる力がなかった。批判に耳を傾け、改善につなげる意欲にも欠けていた。代わりに、人事と情報を駆使し、「アメ」と「ムチ」で官僚や政治家、メディアを支配し続けた。学術会議の推薦候補者の任命拒否や総務省官僚の接待問題などでは国会でも説明を果たさず、異論を封殺してきた。 言葉がないのは政治理念や国家観がないからで、政治家として致命的だ。
最たる例は、東京五輪の強行開催だろう。不要不急の外出の自粛を訴えている以上、開催の意義と感染防止対策を丁寧に説明する義務があった。それでも、おそらく開催は難しかった。だが、菅氏から出てきた言葉は「安心・安全」ばかり。複数の閣僚が五輪中止を進言しても耳を傾けなかった。
2年目に突入したコロナ禍で、国内経済が疲弊し、職を失った人たちがいる。健康・生命が危機にさらされる一方で、医療は崩壊したまま。そんな状況でスポーツイベントに熱中できる人は極めて少ない。誰もが「今はそれどこじゃない」と思っているのに、その気持ちが理解できない首相だとわかれば、人心は離れていく。さらに「五輪開催で庶民が熱狂し、政権浮揚につなげて再選を目論む」という下心しか見えなければ、当然、支持率は回復しない。これが決定的だったと思う。
8月にあった「お膝元」の横浜市長選では、菅氏側近の小此木八郎・前国家公安委員長が50万票差で敗北した。この頃からようやく、党内の若手議員を中心に「菅首相のもとでは総選挙を戦えない」という批判が出始め、党内で急速に求心力を失っていく。
だが、それでも菅氏は、自分のやり方を変えることができなかった。立候補の意欲を示した下村博文政調会長には、政調会長の辞任を迫り断念させ、岸田文雄前政調会長が「党役員1期3年まで」と「二階切り」を表明すると、党役員人事の刷新を打ち出し、争点つぶしを図った。さらに内閣改造を断行し、解散総選挙に打って出る「禁じ手」を模索した。 なりふりかまわず権力にしがみつく姿は実に菅氏らしく、やっぱり国民不在だった。 最後の相談相手は、小泉進次郎環境人臣だったが、その小泉氏からも「解散したら自民党が終わる」と説得され、解散も封じられた。
そんな菅氏がなぜ総理になれたのか、振り返ってみて欲しい。菅氏は二階氏を筆頭に5派閥の支持を固め、筆頭候補に踊り出た。一方で、 官僚が作った紙を読み上げ、質問に答えない官房長官時代の仕事ぶりについて、メディアが批判することは少なかった。むしろ、テレビを中心に「パンケーキおじさん」「令和おじさん」「仕事師で喧嘩好き」などと、夕レントのように扱った。
都合の悪い質問には「答える必要がない」と拒否し、記者や政敵にレッテルを貼り、差別を仕向けたのが実像だったのに、「鉄壁」などという虚像を拡散したのもメディアだった。 コロナ禍で国民が疲弊し、最も「公助」が必要なタイミングで「自助」を掲げた菅氏の本性 を知りながら、首相としての適性や実績とは無関係な内容を詳報した。そういう意味で、菅失敗政権の製造責任の筆頭はメディアだろう。
この記事の掲載号が書店に出るころには新総裁が誕生し、総選挙前の臨時国会での攻防が佳境を迎えているだろう。国民は直接、新総裁を選べないが、新総裁や与党への信任は、投票で示せる。ここで必要な情報は「意外に知られていない、首相候補のお茶目な一面」ではない。その人物の本性や国のリーダーとなった際のリスクであり、それを暴くのはメディアの責務だ。菅政権誕生時と同じ轍(てつ)を踏むのか。今回は、メディアの姿勢も国民に問われることになる。
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