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「どうぞ どうぞ」と 奥さんの声に誘われて 書斎に上がって来たのは 先生の教え子の学生らしい 二人の会話から察するに 学生は隣県の越前海岸の出身らしい 期末試験に備えて 夏休み中だというのに 先生に指導を仰ぎにやって来たのだと 越前海岸といえば ここらへんは 素潜りの海女がいたり 漁師がいたり とにかく 漁村だから この学生は このあたりでは 出来のいい努力家に違いない その学生が 先生へのご挨拶代わりだと言って 地元で獲れた雲丹の塩漬けを持ってきた これはかなりの珍味なのだ 先生の好物でもあるらしい あたしもちょっぴりいただいた 舐めてみると ほかのどんな食物にもない旨みがあって 「磯の香りがたまらない」と 先生はいうのだが あたしは海に行ったことないので そもそも磯の香りというものが 実感できなくて残念だ 雲丹というのは 栗のイガみたいな格好をしていて イガのなかに体の組織があるのだそうな イガを取り除いて 貝殻のような体の中から 卵巣を取り出す そいつを塩漬けにするというのだから 人間の食に対する欲望には 恐れ入るばかり トラの言を借りれば まさに「オソレイリヤノキシモジン」だ 学生の君は ついでに持ってきたといって 雲丹のイガイガのついたままのを 一個取り出した 先生は初めて目にしたらしい 「なるほど なるほど これが《アリストテレスのちょうちん》か」と 感心することしきりである 要するに こいつは ウニ類の咀嚼口で 5個の石灰質の顎と それを動かす筋肉とから成っている 筋肉の収縮によって 顎の骨片が噛み合って 食物を噛み砕く 《なんだかややっこしい》けど 先生の話によれば アリストテレスの『動物誌』に記載があって 後世の学者が 名付けたのだそうな にゃんと にゃんと 先生のおかげで あたしもこれで 猫界屈指の物識りになれそうだ
2009.08.25
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あたし 猫のパトラ 今日はちょっとした発見の日だった 発見のテーマは 「アリストテレスのちょうちん」 これって何のこと アリストテレス哲学の研究者である 先生にしても 言葉としては知ってはいたけど 実物をつぶさに見たことはないらしい そんなわけで 先生の舎弟のあたしが 知るわけもなかった はなしの発端はこうだった 今朝はやく あたしが身づくろいをしていると 奥さんが言った 「あらあら今日は男のご来客があるらしいよ」 猫がみづくろいをすると 来客があるのだそうな (*^_^*)を洗うと女の客 背中をこすれば男の客なんだそうな そういえば あたしは背中を後足でこすっていたのだった なんとなく 背中がむずむずしたから たったそれだけのこと 人間の迷信ってけっこう面白い だって (*^_^*)を洗おうが 背中をこすろうが それは猫の習性にすぎなくって 人間社会のことを 予知した結果でもなければ 予知したところで 人間様のお知らせしなければならない 義理もいまのところないわけだから でも 偶然にも あたしたちの行動と 人間様の迷信とが合致することだって たまにはあるわけ 今朝の場合がまさにそうだった ほどなく 玄関先に来客の気配がした
2009.08.24
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今年は梅雨の季節がなかなか明けない ゲリラ豪雨とかで 各地に水害が発生している 憂うつな季節なのである 当用漢字は昭和21年に 1850字が定められた 常用漢字として昭和56年 当用漢字に95字が追加された 平成9年1月 新常用漢字試案では 1945字から 5字削除 191字追加されている ユウウツの「憂」は当用漢字 ユウウツの「鬱」は 新常用漢字にようやく認められた まだ試案の段階だから 決定したわけではないが おそらく「うつ病」が蔓延している昨今の 時代を反映しての措置であろう それにしても 削除したり 追加したり 他に人名漢字を決めてみたりと そもそも 漢字は日本の文化の淵源 それを平成の世の一部の人たちが 管理し制限しようというのか なんという僭越にして厚顔 梅雨の季節があけても 「憂うつ」は晴れそうにもない
2009.08.08
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