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人は、歩けなくなり、痰を吐き出せなくなったころ、嚥下(飲み込む)
こともできなくなります。水を飲むだけでもむせてしまいます。この
段階でリハビリをするのは難しいです。病院なら、胃ろうによって延命
する道もありますが……。
ただし、嚥下困難をリハビリで改善できる場合もあります。胸の奥の
「縦隔」と呼ばれる部位にがんがあると「反回神経麻痺」という病態に
なり、声がかすれ、飲み込みが悪くなります。この場合は、リハビリで
ある程度改善できる可能性があります。早期にやればやるほど効果が
あるので、少しでも声がかすれてきた患者さんがいれば、嚥下リハビリ
をオススメしています。
嚥下の際は、喉のいろいろな筋肉が動いて食べ物を食道に送り込んで
います。飲食するとき飲み込む行為に集中すると、喉の複雑な動きを
感じられるでしょう。
飲食の時間こそ、リハビリです。ゴクゴク飲み込まないで、少しずつ、
気合を入れて真剣に飲み込みます。「今、飲み込んだものがどこを通っ
ているか?」と意識しながら飲み込むだけで、それが嚥下のリハビリに
なります。「唾液や少量のゼリーを1分間に何回飲み込めるか」試して
みるのも、嚥下の筋肉を鍛えるリハビリになるでしょう。これを死ぬま
で続ければ、死ぬまでむせることはありません。飲み込む力に不安が
ある人は、歩く筋肉や体幹の筋肉、呼吸筋と一緒で、元気なうちから
意識的に鍛えるのもいいと思います。
また、口や喉の周囲のがん、歯肉がん、舌がん、咽頭がんなどの再発
・進行で口が開かなくなっている患者さんがいます。口が開かない、舌
が動かない、声が出ない、飲めない、食べられない、歯も磨けないと、
とにかくつらい状態です。誤嚥性肺炎になるからと嚥下を禁止されて
いる人も少なくありません。
ほとんどの患者さんは「打つ手がない」と言われているので、リハビ
リを提案すると、いきいきと始めます。たいていの場合、効果がありま
す。口が開くようになったり、がんで硬くなったりデコボコした舌が
動くようになったり、飲み込めるようになったり、声が出るようになっ
たりします。口まわりのリハビリは、比較的効果が見込めるのです。
私はリハビリの専門家ではありません。けれど、その患者さんの状態
に向き合い、訴えを聞き、オリジナルのリハビリ法をひねり出します。
たとえば、前歯の上下が5mm程度しか開かない患者さんがいました。
歩けて意識もあり、少しだけは食べられる状態でした。
そのときは、まずは小さなプラスチック製の板を3枚、歯と歯の間に
ねじ込み、顎のマッサージをしながら、指で口をこじ開けるようにして、
4枚、5枚と枚数を増やしていきました。その結果、ストローしか入ら
なかった口が、ゼリー状のものなら食べれるくらい開くようになりまし
た。
その患者さんは余命1ヶ月といわれていましたが、リハビリを継続
しているうちに数ヶ月経ち、初診時よりも明らかに元気になっていまし
た。
できないことが増えるのはつらいですが、できることが増えていくと、
余命を宣告された時期でも前向きに生きていくことができます。
患者さんにはいつも、「死ぬまでは少しでも楽しく生きよう!」と
呼びかけています。

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さそい水さん