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源氏物語〔34帖 若菜 274〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。夫人の病後も院の訪れが稀になったという話を聞くにつけ、その間に何か不祥な出来事が起こったのではないかとの疑念も生じた。宮が自ら堕落の道を選ばれたのではなく、軽薄な女房の仕業などによって、不快な事件が引き起こされたのではないか。宮廷における男女の交際は、本来清潔なものであるべきである。その中にさえ醜聞を生む者がいるのではないかと、そのような想像にまで及び、すべてを捨て去った心境にありながらも、なお御子を思う愛情だけは消えずに残っていたからである。あの濃密な言葉が並べられていた衛門督の手紙に対してであれば、院の心にはまた反感が起こった。それでも院は、言葉を選びながら口授した。今月も結局お目にかかることはかなわなかったこと、新婚の女二の宮が華やかな賀宴を催された折に、年老いた良人を持つあなたが、競うように人前へ出るのは控えるべきであると考えたこと、十一月は母君の忌月であり、十二月は年も押し迫って落ち着かず、また身体の具合も見苦しくなるであろう。
2026.06.30
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源氏物語〔34帖 若菜 273〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。すでに衛門督の夫人となっていた宮は、その月に参内され、舅の太政大臣は力を尽くし、きわめて豪華な賀宴が催された。病のため長く引きこもっていた衛門督も、この折に初めて外出することとなり、病床に親しむ日々を送るようになった。女三の宮もまた、絶えず煩悶を重ねているためか、身体がつらそうに見受けられた。院は、恨めしいという思いを心の底に抱きながらも、可憐な姿で病んでおいでになる宮を目にするたびに、この先の行く末を案じ、不安を覚えて嘆かれることが多かった。そのため、祈祷を命じて行わせることにも追われ、日々多忙な時を過ごし、法皇も宮の妊娠を聞き、その様子をいとおしく思い描いた。六条院が長く二条の院に別れて住んで、宮のもとを訪れることが稀であると申し上げた者を思い出されるにつけ、今回の妊娠が、ただ事の結果ではないのではないかと、ふと胸騒ぎを覚えられることもあった。人生の出来事が今さらながら恨めしく思われ、紫の夫人が病に伏していたころ、院がそちらにばかり通っておられた。
2026.06.29
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源氏物語〔34帖 若菜 272〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。袈裟というものが具体的にどのように仕立てられるのかについては詳しくなく、夫人に向かって、誰か適当な者に命じて縫わせるようにと指示されたが、そろいは六条の東にいる女房に作らせることとし、あまりにも法服らしくなりすぎては見た目にも好ましくないため、その点を十分に考慮して仕立てるよう注意をした。その言葉を受けて、夫人は青鈍色の装束一そろいを、新たに尼となった尚侍のために、自らの手元で作らせた。また院は、御所付きの工匠を呼び寄せ、尼が日常に用いる手道具の製作を命じ、さらに座蒲団、上敷、屏風、几帳などについても、質のすぐれた品々を早急に整えさせておいでになった。紫の夫人の大病によって、法皇の賀宴は延期され、秋に行うことと定められていた。八月は左大将の忌月にあたり、音楽を受け持つこの人にとって都合が悪く、九月は院の太后が崩御された月であるため、これも避けねばならなかった。十月であれば可能かと六条院は考えたが、女三の宮の健康がすぐれず、計画も再び延ばされた。
2026.06.28
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源氏物語〔34帖 若菜 271〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。院ももはや長くはおいでにならないと続け、以前にもましてお身体が弱り、心細い様子でいらっしゃると聞く以上、今になって悪い噂などを耳に入れ、御心配をかけてはならない。この世のことは取るに足らぬものであるが、来世の妨げになる行いをすれば、あなたの罪も重くなるのだと、諭すように結ばれた。これらのことは、露骨に言葉にされたわけではないが、しみじみと説かれるため、宮は涙が止まらず、知らぬ間に深く心を沈められた。その様子をご覧になった院もまた涙を流し、かつては、他人がこのようなことを言うのを、聞く必要もない老人の理屈だと思っていた私が、いつの間にか、それを言う側の人間になってしまった。硯を引き寄せ、自ら墨をすり、紙を選ぶなどして、返事を書かせようとした。しかし、宮は手が震えて、どうしても筆を取ることができなかった。尚侍の住まいでは、尼としての装束もまだ十分には整っていないであろうと考え、院はできるだけ早く自分のほうから用意して贈りたいと思われた。
2026.06.27
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源氏物語〔34帖 若菜 270〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。院がご在世の間は、今選ばれている道を幸福なものとして受けとめるべきであり、老いた良人をあまりにも無視するような振る舞いは慎むのがよいと諭すように続けた。昔から抱いていた出家の志についても触れられた。自分よりも幼い宗教心しか持たないだろうと思っていた女性たちが先に出家していくのを傍観してきた。この世の欲を捨てきれなかったからではなく、出家に際してあなたを託された院の御志に心を打たれ、その直後にあなたを捨て去るような行動を取ることができなかったからである、と静かに語られた。かつて気がかりであった人々も、今ではもはや出家の妨げになる存在ではなくなっているとも述べられた。女御についても、将来がどうなるかは分からないが、皇子たちが次々に生まれていく以上、後宮での地位など問題にしなければ、苦労の少ない立場は得られると見通しを語った。その他の人々についても、成り行きに任せ、自分とともに出家してもよいと思えるほどの年齢になってきたと、近ごろは感じられるのだとも言われた。
2026.06.26
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源氏物語〔34帖 若菜 269〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。あなたにどんなことがあっても、人前で変わった様子は見せまいと努めています。いったい誰がこのようなことを法皇に申し上げたのでしょうと語りかけられた。そう言われて、恥じ入るように顔をそむける宮の姿はいかにも可憐であった。顔はすっかり痩せ物思いに疲れている様子がかえって上品な美しさを帯びて見えた。院はさらに、穏やかな調子で言葉を重ねた。法皇は宮の幼い性質をよく存じているからこそ、あのような言葉を書かれたのだろうと、他の事情とあわせて考えると、もっともだと思われる点もある。しかしそれだけに、今後も危なっかしく思われてならないのだと語られ、院が自分を頼りなく思われるのではないかと考える。それが苦痛であるため、自分が軽薄な者ではないことを理解してほしいのだと打ち明けられた。深く考えることなく、人のいいかげんな言葉に心を動かしてしまう宮には、自分の真実の愛が浅いもののように見えるかもしれないし、年齢の大きく離れた良人を軽んじたくなる気持ちも起こるだろう。
2026.06.25
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源氏物語〔34帖 若菜 268〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。特別な用事もないまま無沙汰を続けているうちに月日が過ぎてしまうこと自体が、この世の悲しみであるという嘆きから書き起こされ、宮が普通ではない身体の状態となり、健康を損ねていると詳しく聞いたが、現在はどのようであるかと案じる言葉が続いていた。たとえ世の中が寂しく思われるような運命に遭遇したとしても、それを忍んで暮らすように、また、恨みがましい様子を見せたり、妬みを言葉に出したりするのは、上品なことではないから慎むようにと、静かながらも訓戒の気持ちをこめて書かれていた。それを読み終えた院は、いっそう宮を気の毒に思い、胸が痛む思いをされた。宮に何か秘密があるなどとは、法皇は少しもお知りにならず、ただひたすら自分の不誠意のみを原因として受け取っておられるのだろうと考えられたからである。そこで院はあまりに心苦しい手紙で私は読んでいてつらくなりましたよ。
2026.06.24
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源氏物語〔34帖 若菜 267〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。婚前の教育こそが重要であると、娘が一人しかおらず、その責任が少ないことを、今ではありがたく思っていることを述べ、若い頃には子の少なさを寂しく感じた事もあったが、今は孫である内親王を大切に育ててほしいと語り、女御はまだ十分に成長しきらないまま宮廷に入ったため、いまだ不完全なところが多いのだろうと述べた。姫宮の教育については、最高の女性を育てる覚悟で、わずかな欠点もないようにし、たとえ一生独身で過ごすことになっても不安のない素養を備えさせたいと語った。一般の家の娘であれば、良い夫に恵まれることで助けられる場合もあるが、姫宮にはそれ以上の備えが必要だという考えであった。それを聞いて夫人は、自分には立派な後見はできないかもしれないが、生きている間は姫宮のために尽くしたいという気持ちはあると答えた。しかし自身の健康状態を思い、心細さを覚え、自由に信仰生活に入ることのできた人々を、どこか羨ましく思った。法皇が宮に宛てて書いた愛情のこもった手紙を、六条院は拝見する。
2026.06.23
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源氏物語〔34帖 若菜 266〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。濃い鈍色の紙に記され、樒の枝に添えられていたのは、こうした身分の人々にとっては特別に珍しいことではないが、その達筆さには今なお十分な趣があった。この日、院は二条の院に滞在しておられたため、この手紙を夫人にもお見せになった。すでに実際の恋愛感情は遠い過去のものとなっていた相手であったからである。尚侍の態度を侮辱と感じ、それを残念に思う気持ち、またどのような境遇に置かれても平然としているように見えることが、かえって恥ずかしく感じられること。恋愛関係ではなく、友人として同じ程度に趣味や感性を分かち合える異性は、尚侍と斎院の二人だけであったが、そのいずれもがすでに尼となってしまったこと。とりわけ斎院は、完全に尼僧の務めに身を捧げる人となったこと。多くの女性を見てきた中で、高い見識を備えながら、なお親しみ深さを失わない点において、尚侍に及ぶ人はいなかったことなどである。さらに院は、女性を教育することの難しさ、結婚という宿命が親の力ではどうにもならないものである。
2026.06.22
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源氏物語〔34帖 若菜 265〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。「あまの世をよそに聞かめや須磨の浦に藻塩垂れしもたれならなくに」書状全体もまた、そのような思いに満ちた長文であった。人の世の無常を十分に知りながらも、なお出家を実行できずにいる自分を、たとえどれほど冷淡になっても、回向の人数の中に加えてもらえるだろうという、かすかな期待がこめられていた。尚侍にとって、表向きの事情とは別に、決断をためらう気持ちが残っていたのも事実だった。そのため、この手紙を読んで、青春時代から今日に至るまでの二人の関係の深さが、改めて胸に迫ってきた。尚侍は、この返事を、今後二度と交わすことのない最後の文として、心をこめて書いた。筆跡は美しく整っていた。無常は自分一人が体験によって知ったものと思っておりましたが、思い遅れたと仰せになりますと、これほどまでに思われます。「あま船にいかがは思ひおくれけん明石の浦にいさりせし君」回向の折には、この世にすぐれたお方として、決してあなた様を漏らしはいたしませんと内容はこのようなものであった。
2026.06.21
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源氏物語〔34帖 若菜 264〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。親や一族の意向によって形づくられた夫婦関係を受け入れながらも、決して自らを安売りしなかったが、その在り方は、今考えても立派だった。そうした玉鬘の姿を思い浮かべると、どうしても、この宮のふがいなさが際立って見えてしまう。深い宿縁があって夫婦となった相手である以上、離縁しようとは考えない。しかし、もし品行の問題で世評が立つような事があれば、それに応じて、自分の心の中に侮蔑の影が差し込むだろう。これまで、実質に伴わぬほどの尊敬を払ってきたのではないかと、院は、過去の自分の態度を振り返りながら、そんな思いにとらわれていた。院は、二条の朧月夜の尚侍に対して、心のどこかに執着していた。女三の宮の事件を経たことで、みだりな行動は慎むべきと自戒を強く持ち、その結果、尚侍の弱さそのものに、いつしか反感に近い感情さえ抱くようになった。尚侍が望んでいたとおり、尼となったと聞いたとき、院はすぐに書状をしたためたが、その文面には、事前に何の知らせもなかったことを恨む気持ちが含まれていた。
2026.06.20
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源氏物語〔34帖 若菜 263〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。高貴な身分にふさわしいとはいえ、あまりに柔らかすぎる性質は、安心して任せられない。そう考え始めると、院の頭にはさまざまな人の姿が浮かんできた。もし、女御がこの宮のように過度に柔順な性格であったなら、衛門督のような男が現れた時、その目に触れただけで心を乱し、過ちを犯すことになったかもしれない。(ももの10才の誕生祝いで末孫娘と撮影)女性の持つ柔らかさというものは、異性に軽んじてもよいという気持ちを呼び起こし、刹那的な不正を誘ってしまうのではないかと、院はそんな風に考える。それに比べると、右大臣夫人の生き方は、今思い返しても見事だった。幼いころから頼るべき後ろ盾もなく、苦労を重ねながらも、才覚と見識を身につけてきた。自分も義父の立場にありながら、恋人のような情を抑えきれず胸に秘めたことがあったが、彼女はそれに気づかぬふりをして、角を立てることなく距離を保ち続けた。やがて右大臣が、軽率な女房の取り持ちで無理に婚姻を成立させた時でさえ、自分はただの受難者にすぎないのだという姿勢を、その後の態度ではっきりと示した。
2026.06.19
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源氏物語〔34帖 若菜 262〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。宮が悪阻に苦しみながらも、まだあどけなさの残る可憐な姿で横たわっている様子に、胸が締めつけられるように苦しく、哀れだという思いが抑えきれなくなる。夫としての愛情は、もう失われたように感じていながらも、恨みの心と並んで、消しきれない恋しさが残っていて、それに引きずられるように、院は六条院へ足を運んだ。実際に顔を見た途端、胸の内がいっぱいになり、息苦しさばかりが込み上げてきた。院は寺々に命じて祈祷をさせ、表向きの扱いは以前と何ひとつ変えていない。むしろ、周囲の目には、以前にも増して手厚く遇しているようにさえ見えた。しかし、夫婦として親しく交わることだけは、それ以来きっぱりと断たれていた。人目を避けるために同じ部屋で休むことはあっても、院は夜通し独りで煩悶を続けている。その様子をそばで見ている宮の心中は、苦しさに満ちていた。院は秘密を知っても、責める言葉を口にすることもないが、その沈黙こそが重く、宮は自分自身を罪人のように思って萎縮しきっていた。その姿は幼く頼りないものに映る。
2026.06.18
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源氏物語〔34帖 若菜 261〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。だからといって急に出入りを断てば、人は不審に思い、かえって院の不快を招くだろう。その板挟みの苦悩の中で、衛門督は心身を病み、出仕もできなくなってしまった。大罪人として断罪されるわけではない。それでも、自分の人生はもう終わったのだという思いが拭えなかった。この結末は、予感していたのかも。誤った道に足を踏み入れた最初の自分が、恨めしくてならない。そもそも、あの最初に垣間見た御簾の隙間に、身分にふさわしい奥深さを感じ取れなかったこと自体が、正しくなかったと思う。大将が軽々しいと感じた気配も、あの時の表情に確かに表れていたと、そんなことまで、今さら思い合わせる。これは無理に心を引き離そうとして、欠点を探しているだけなのかも。どれほど高貴な身であっても、大らかで柔らかな気性の人は、世の中の機微を知らず、侍女という存在への警戒も欠いたまま、取り返しのつかぬ過ちを自分のためにも、人のためにも作ってしまう。そう思うと、宮の身の上があまりにも気の毒に思う。
2026.06.17
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源氏物語〔34帖 若菜 260〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。院が長く訪れないことを、これまでは恨みに思っていた宮だったが、今は、その一端が自分自身の罪によるものだと悟っていた。もしこのことが法皇の耳にまで入ったらどうなるだろうか。そう考えると、生きていることさえ恐ろしく思われた。衛門督は会いたいとしきりに言って寄越したが、小侍従は事が大きくなるのを恐れた。例の薄緑の手紙の件を打ち明けてやった。それを知った衛門督は愕然とした。いつの間に、そんな事態になっていたのか。年月が重なれば、秘密が漏れるかもしれないとは覚悟していたが、これほど確かな証拠が院の手に渡ってしまったとなれば、これ以上の不幸はない。恥ずかしさと恐れ、申し訳なさが胸に満ちあふれた。朝夕の涼しさもまだ乏しいこの時分であるのに、身に冷たいものが染み渡るように感じられた。長年、政務の場でも遊興の席でも、常に院の近くに仕え、誰よりも厚い信頼と恩寵を受けてきた。その懐かしくも優しい姿を思うと、無礼者として憎まれる存在になってしまった自分が、もはや御前に顔向けできるはずもない。
2026.06.16
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源氏物語〔34帖 若菜 259〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。院が深く息をつくと、女王は、宮中へのご遠慮よりも、宮様ご自身を恨めしく思うお気持ちのほうが、あなたには苦しいのではありませんか。宮様はともかく、周囲の者たちは必ずいろいろ申します。そうなると、私の立場もまた苦しゅうございますと静かに言った。院は微笑んで、言葉をやわらげるように続けた。私に愛されているあなたにとって、あちらの存在は迷惑この上ないに違いない。それでも、あなたは私を責めず、取るに足らない人間の感情まで思いやってくれる。その寛大さに比べれば、私はただ、お上にどう思われるかばかりを気にして苦しんでいる。ずいぶん浅はかな愛の持ち主だと話を切り替えるように話した。六条院へは、あなたが完全に回復してから一緒に帰ればいい。宮を訪ねるのも、その後で良いと、すでに心を決めたかのように言った。すると夫人は、私は静かに一人で過ごす暮らしもしてみたいのです。ですから、あちらへおいでになって、宮様のお心が慰まるまで、ずっとおいでになっても構いませんと勧めた。
2026.06.15
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源氏物語〔34帖 若菜 258〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。恋愛の過ちで人を責め立てることなど、自分にはできないと、そう思い至った時、院はようやく、自分自身を裁くこともできず、宮を許すこともできずにいる矛盾の中にいると悟った。院は表向きには何もなかったかのように振る舞っていたが、その沈んだ物思いの気配は、周囲の目から完全に隠せるものではなかった。夫人は、かろうじて命を取りとめた自分を気づかって院が戻って来たのだとは理解していたものの、六条院の宮のことを思えば、院の胸中には耐えがたい苦しみが渦巻いているのだろうと察して、私はよくなり、宮様の具合が悪い時に帰ってしまって、かえってお気の毒ですそう言うと、院は軽く首を振った。いや、少し不調な様子はあるが、たいしたことはない。だから安心して帰って来たのだ。宮中からはたびたび使いも来ているらしい。今日も手紙が届いたそうだ。法皇から特別に頼まれている身だから、お上もそれほどまでに心を配っておられるのだろう。私が冷淡でいれば、あちらにもこちらにも余計な心配を掛ける事になる。
2026.06.14
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源氏物語〔34帖 若菜 257〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。宮に対する自分の態度以前とは違った。第一の妻として扱い、心の中では、より深く愛する人を差し置いてまで、最大限の愛情を注いできたではないか。その自分を裏切る行為を、同じ土俵で論じることはできない。これはあまりにも罪深いとそう反感が湧き上がる。仕えている君主からほとんど顧みられることもない。ただ後宮の一人として存在しているだけの、不幸な女性であったなら、異性としての友情が恋へと進み、苦しむ男に一言の慰めを送ってしまうことも、人として理解できないわけではない。そこから恋が深まってしまう罪には、同情すべき点もある。だが、宮の場合は、自分より、あの男のほうが価値ある存在だとでも言うのか。院は、どうしても宮に対して不満を抱かずにはいられなかった。それでも、この問題を他人に知らせてはならない。そう思うことで、院の煩悶はさらに深まった。父帝もまた、かつて自分が犯した罪を知りながら、知らぬ顔をしておられたのではなかったか。そう考えると、自分の過去が恐ろしいものとして思い起こされる。
2026.06.13
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源氏物語〔34帖 若菜 256〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。文章を書く注意ができないのは、やはり器量の差なのだろうと。それにしても、これから宮をどう扱えばよいのか。妊娠さえも、この不純な恋の結果だったのである。なんと情けないことだ。誰かに吹き込まれた話ではない。直接証拠をこの目で見てしまった今、以前と同じように宮を愛することは、自分でも不可能に思えた。たとえ一時の情人として、初めから重く思っていなかった相手であっても、他に男がいると知れば、不快に耐えられないものだ。それが宮はそうした存在ではない。正妻である。無礼な男だ、と怒りは衛門督へ向かう。後宮の女性と恋に落ちる過失は昔からあった。しかし、それとこれは違う。宮仕えとは、男女ともに一人の君主に仕える身であり、同じ立場の親しさから友情が恋へと変わり、過ちを犯すことも起こる。女御や更衣といっても、皆が皆、気高い人格者ばかりではない。浮き名を流す者がいても、表立った破綻を見せない限り、宮仕えを続け、批難されるような事態にまでは至らないこともある。
2026.06.12
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源氏物語〔34帖 若菜 255〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。院は屋敷へ戻ってからも、今朝見つけたあの手紙の疑いがどうしても晴れず、改めてそれをじっくり読み返した。最初は、女房の中にあの中納言に似た字を書く者がいるのではないかとさえ疑った。しかし、言葉遣いはどう見ても男のものであり、内容もまた、女房などが書けるはずのないものだった。昔から続いていた恋がようやく成就したこと、その喜びの裏でなお苦しみ続けている心情が、いかにも文学的に、情に訴えるように書かれていた。読む者の同情を誘う文章ではあったが、院はそこに強い不快感を覚えた。こうした関係で交わす手紙というものは、万が一人目に触れた時の備えがなければならないはずだ。それなのに、誰が読んでも一目で秘密がわかるような露骨さは、あまりにも軽率だ。男としては立派かもしれないが、女との関係における手紙の書き方を知らない男だと、院は衛門督を見下げた気持ちになった。自分が若い頃、似たような場合でも、文章はもっと簡単にし、意味をぼかして書いたものだ。
2026.06.11
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源氏物語〔34帖 若菜 254〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。敷き物の下にはさんだまま、忘れてしまったと聞いた小侍従は、今の自分の気持ちをどう言い表せばいいのか、わからなくなった。念のためその場所へ行ってみたが、そこに手紙があるはずもなかった。大変なことになりましたね。ほんのわずかでも院の耳に入ることがあったら申し訳が立たない、と言っておられた。もともと幼くて、男性に対する警戒心がまるでなかったから、長い年月をかけた恋とはいえ、ここまで深い関係になるとは、あちらも思っていなかったはずです。誰にとっても、気の毒なことをなさいましたと、小侍従は遠慮なく言った。若い主人に気安さを感じ、礼儀を失ってしまっているのだろう。宮は返事をすることもなく、ただ泣き伏していた。具合が悪そうなだけでなく、まったく物を口にしようとしない様子を見て、乳母たちは憤りを隠さなかった。こんなにも苦しんでいらっしゃるのに、この方を置き去りにして、奥様の看病ばかりに心を尽くさなければならないとそう言って、恨めしそうに嘆いた。
2026.06.10
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源氏物語〔34帖 若菜 253〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。軽はずみな性格が、ついには破滅を招いたと解釈されても仕方がない。小侍従にはそう思えてならなかった。院が帰ったあと、女房たちがあらかた宮の居間から引き上げたころを見計らって、小侍従がやって来て、昨日のあの手紙は、今朝、院が読んでいらしたお手紙と、紙の色がとてもよく似ていましたけれど。その言葉を聞いた瞬間、宮ははっとして、ただ涙だけをとめどなく流し続けた。かわいそうではあるが、あまりにも頼りないと小侍従は感じていた。どこへしまったのですか。あの時、ちょうど人が参ったので、何か秘密があると思われてはと考え、もっとも、その場では大事になるほどのことではありませんでした。良くないことをしているという思いがあって、席を外したのです。けれど、院がお座敷に戻って来られるまでには、少し時間があったので、隠されたと、安心していたと、宮は力なく答えた。読んでいるところへ人が入って来たから、しまう暇もなくて、敷き物の下にはさんだまま、そのまま忘れてしまった。
2026.06.09
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源氏物語〔34帖 若菜 252〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。敷き物のある一か所の端が少しよれていて、その下から、薄緑色の薄様の紙に書かれた、巻いた手紙がのぞいているのが目に入り、引き出してみると、それは男の筆跡で、紙の香りもどこか艶めかしく、書いたことのわかる、巧みな文字で綴られている。二重に、細かく書き込まれた文をよく見ると、間違いなく衛門督の筆跡だった。院のそばで鏡を開いている女房は、院が自分の用事の手紙を見ているのだと思っていたが、小侍従は、それを見た瞬間、手紙が昨日のものだと気づいた。胸がざわざわとする。院が粥を食べているほうを見ることが、小侍従にはもうできなかった。そんな残酷な運命の悪戯が、こんなふうに突然起こっていいはずがない。宮はきっと手紙を隠しておいたはずだと、小侍従はそう思った。宮は何も知らぬまま、なお眠り続けている。もし、こんなものを出しっぱなしにしていて、それを自分以外の誰かが見つけたらどうなるだろう。その時に受けるであろう軽蔑を思うと、やはり自分がいつも不安に思っていた通りだと院は考えたに違いない。
2026.06.08
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源氏物語〔34帖 若菜 251〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。昼の座敷でしばらくうたた寝をしたかと思うと、日暮の鳴き声で目が覚めてしまい、あまり暗くならないうちに出かけようと言って着替えの支度を始めると、宮が若々しい調子で、夕暮れの道は心細いので月を待ってからと言った。その言い方が憎らしく思えるはずもなく、せめて月が出る頃までいてほしいと思ってるのだろうか。このように察すると、院は胸が痛み、そのまま支度をやめ、夕露に、袖を濡らせというのだろうか。日暮の声を聞きながら私は起きて行くのだろうか。幼い心のままの実感がそのまま出た歌も愛おしく、院は膝をかがめて、苦しいな私はとため息をついた。待つ里では、心をかき乱すこの日暮の声をどんな思いで聞くのだろう。そんなふうに迷いながら、冷たい人だと思われるのがつらくて、結局もう一晩泊まっていくことにした。さすがに心は落ち着かず、物思いに沈んだ様子で、夕食は取らず、菓子だけを口にした。まだ朝の涼しさが残るうちに帰ろうとして、院は早く目を覚まし、昨日の扇をなくしたと言いながら、うたた寝をした場所へ行ってみた。
2026.06.07
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源氏物語〔34帖 若菜 250〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。私はまた気分が悪くなってきているのに嫌なものを読めというのねと言って、宮はそのまま横になってしまう。でも、この追伸が、あまりにも胸にしみる文章なので、小侍従は手紙を広げたが、ほかの女房たちが近づく気配を感じ、几帳を宮のそばに引き寄せて立ち去った。宮は胸の高鳴りがいっそう激しくなった。院が早く戻ってこられ、手紙を十分に隠す暇もなく、敷物の下にはさんで置いた。院は、今夜には二条院へ行こうと思い、そのことを宮に伝えた。具合はもうよさそうだ。それに比べて、あちらはまだあまりにも心もとなく、とても放ってはおけないように思える。今さら見捨てるのも気の毒だから、また様子を見に行こうと思う。人がどんな中傷をしても、あなたは私を信じていてほしい。必ず、誠実な夫でいられる日が来るから。これまでは、こんな場面でも子どもじみた冗談を口にして、場を明るくする人だったのに、今日はひどく気落ちして、院のほうへ顔を向けようともせず、その様子に院は、胸の内に嫉妬の影が差しているのだろうと思った。
2026.06.06
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源氏物語〔34帖 若菜 249〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。宮からは妊娠の兆しがあるためという答えが返ってきた。今になって、ずいぶん珍しいことが起こったものだねと院は話すが、心の中では、長年そばにいる人々にはなかったことなので、どこか不吉な因縁がこちらにあるのではないかと疑いながらも、詳しくは聞かず、つわりに苦しむ若く可憐な姿に愛情を覚えた。せっかく来たのだからと、すぐに帰ることもできず、二、三日滞在する間も、院の心は二条院の女王の病状ばかりに向き、そちらへ手紙ばかりを書き送っていた。それを見て事情を知らない人々は、そんなに短い間に、そこまで感情が積もるものか。宮様も、とうとうお気の毒な方だと思われるようになったと言った。秘密を知る小侍従だけは、院の滞在中、無事に過ごせるだろうかと、胸をはらはらさせ、衛門督は、院が六条院に来ていると聞くと、度を越した嫉妬にかられ、自分の激しい恋心をさらに強く訴えようと、手紙を書いて送ってきた。院が対の方へ行っていて、宮の居間に誰もいないのを見計らって、手紙を宮に見せた。
2026.06.05
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源氏物語〔34帖 若菜 248〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。このようにあなたの姿を見ることができるなんて、まるで夢のようだ。あなたの病が重く、私自身も悲しみのあまり、何度も今にも死んでしまいそうに思ったことがあったと、院が涙を浮かべて話すのを聞いて、夫人も胸に深く感じ入り、儚い命で長く生きられましょう。儚い蓮の露が、かかっているだけなのにと詠む。それに対して院は、この世での契りだけでなく、来世においても、蓮の葉に宿る玉のような露の心を、どうか隔てないでほしいと詠む。院は六条院へ行く気が進まず、宮中での評判や法皇の同情もあり、宮が病床に伏していると聞いていながら、同居している妻の重い病が気がかりで、あまり訪ねる事ができなかった。だが今回は、女王の容体がよくなった機会に、しばらく六条院に行こうという気持ちになり、出かけた。宮は、自分の心の乱れを院の前に出すのが恥ずかしく、気まずく感じて、返事もうまくできずにいた。その様子を、院は幼さゆえの恨み心だろうと心苦しく思い、慰めようと世話役の女房を呼び、宮の体調を聞いた。
2026.06.04
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源氏物語〔34帖 若菜 247〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。宮が寝込んでいると知って、院は訪ねようとお思いになった。夫人は暑い時分を清らかに過ごしたいと、髪を洗って少し爽やかな様子になり、そのまま横になっていた。まだ乾ききらぬ髪は、乱れもなく清らかにゆらぎ、病に伏す麗人の身に沿っていた。青みを帯びた白い顔は、透きとおるような肌をして美しかった。しかし虫の抜け殻のように頼りなかった。長く打ち捨てられていた二条の院も、女王の美の気配によって、かえって狭く感じられるほどで、ここ一、二日で夫人に人心地が戻ったことから、院内にはにわかに活気がよみがえり、水の流れや木草までもが手入れされ始めた。その庭を眺めながら、今は夏の終わりに近い景色である。病臥の間に過ぎ去った月日の長さが思われた。池には涼しげに蓮の花が多く咲き、青々とした葉には露が玉のようにきらめいている。それをご覧になって院が、あれを御覧なさい。まるで自分だけが爽やかでいる露のようではないですかと言うと、夫人は身を起こして、さらに庭の景色へと目を向けた。
2026.06.03
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源氏物語〔34帖 若菜 246〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。院の不安はなお消えず、六条院へ仮に立ち寄って様子を見ることさえしなかった。一方、姫宮はあの一件以来、心に深い煩悶を抱え続けるうちに、次第に身体の調子を崩していった。病気のようには見えるものの、命にかかわるほどの重さではない。しかし六月に入ってからは食欲が落ち、顔色も冴えず、やつれが目立つようになった。衛門督は思いあまると、夢の中をさまようように忍んで訪れて来たが、宮の心に今なお愛情が芽生えているわけではなかった。罪への恐れに加え、風采も身分も、到底それに値するとは思われぬ相手であり、気取って風流を装い、世間からは美男と評されてはいても、少女のころから光源氏を良人として仰いできた。宮が比べて見れば、格別に心を惹かれる顔とも思われない。ただ無礼な男という意識しか残らぬ相手のために、身ごもることになったという事実は、まことにお気の毒な宿命であった。気のついた乳母たちは、たまにしか訪れぬうえに、こんな重荷を宮に負わせるとはと、院を恨めしく思っていた。
2026.06.02
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源氏物語〔34帖 若菜 245〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。院は、物怪の罪を救うためとして、日ごとに法華経を一巻ずつ供養させ、ほかにもさまざまな仏事を欠かさず営ませておいでになった。病床のかたわらでは昼夜を分かたぬ読経が続けられ、ことさら声のよい僧を選んでそれに当てておられた。かつて姿を現して以来、物怪は折に触れてまた現れ、悲しげなことを語るばかりだ。完全に退散する様子はなく、夏の日差しが強まるにつれて、病夫人の衰えはますます激しくなり、それを目の当たりにする院の嘆きもまた尽きることがなかった。病に弱りながらも、夫人は院のその深い悲嘆を心苦しく思い、自分の死そのものは恐れるに足りぬとしても、これほどまでに悲しまれると知りながら世を去るのはどうか。あまりに思いやりを欠くことではないだろうかと考えるようになった。その思いから、せめて生きようと努めねばならぬという気持ちが起こり、米湯なども少しずつ口にするようになった。そのためか、六月に入るころからは、ときおり頭を上げて周囲を見ることもできるようになり、それを珍しく、うれしいことと思っていた。
2026.06.01
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