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源氏物語〔36帖 横笛 11〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。月が昇り、秋の澄みきった夜空を雁の群れが鳴き交わしながら渡っていく。その姿を眺める宮は、自分には寄り添う者もなく、遠くへ連れ立って飛んで行ける雁たちのほうが、よほど孤独ではないのだろうと思った。冷たく澄んだ風が身に染みて吹き込んでくるのに心を動かされ、宮は十三絃の琴を静かに爪弾いた。その控えめでありながら深い響きは、夜の静けさとよく調和し、大将の心をいっそう強く引きつけた。もっとその音色を聞いていたいという思いに駆られた大将は、そばにあった琵琶を借り受け、「想夫恋」を弾き始めた。大将は少し照れたように笑いながら、自信があるように見えるのは気恥ずかしい。この曲だけは一緒に演奏してもらえるだけの理由がある」と言って、御簾の奥にいる宮へ合奏を勧めた。しかし宮は、この曲には人前で演奏することへの恥ずかしさがとりわけ強く感じられ、すぐには手を伸ばそうとはしなかった。ただ琵琶の響きに耳を傾け、その音色に心の奥まで染み入るような思いだけを味わっていた。
2026.08.31
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源氏物語〔36帖 横笛 10〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。院の御前で内親王様がた にいろいろの芸事のお稽古をおさせになりましたころには、音楽の才はおありになるというよ うな御批評をお受けあそばした宮様ですが、あれ以来はぼんやりとしておしまいになりまして、 毎日なさいますことはお物思いだけでございますから、音楽も結局寂しさを慰めるものではないという。そのような気がしますと御息所は言う。ごもっともなことですよ。恋しさの限りだにある世なりせば(つらきをしひて歎かざら まし)大将は歎息をして楽器を前へ押しやった。楽器に故人の音がついているかどうかが、私どもにわかりますほどお弾きになって見てくださいませ。みじめにめいっております。われわれの耳だけでも助けてくださいませ。私よりも御縁の深い方のあそばすものにこそ故人の芸術のうかがわれるものがあるでしょうから、ぜひ宮様のを承りたい御簾のそばに近く和琴を押し寄せて大将はこう言うのであるが、すぐに気軽く御承引あそば すものでないことを知っている大将は、強いても望みはしなかった。
2026.08.30
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源氏物語〔36帖 横笛 9〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。 植え込みの花草が虫の音に満ちた野のように乱れた夕明りのもと の夜を大将はながめていた。そこに出たままになっていた和琴を引き寄せてみると、それは律 の調子に合わされてあって、よく弾き馴らされて人間の香に染んだなつかしいものであった。 こんな趣味の美しい女住居に放縦な癖のついた男が来たなら、自制もできずに醜態を見せるこ とがあるのであろう、とこんなことも心に思いながら大将は和琴を弾いていた。これは柏木が 生前よく弾いていた楽器である。ある曲のおもしろい一節だけを弾いたあとで、大将は、ことに和琴は名手というべき人でしたがね。忘れがたいあの人の芸術の妙味は宮様へお伝 わりしているでしょうから、私はそれを承りたいのですがと言うと、あの不幸のございましてからは、全くこうしたことに無関心におなりあそばしまして、お小さいころのお稽古弾きと申し上げるほどのこともあそばしませんと言う。
2026.08.29
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源氏物語〔36帖 横笛 8〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。 きわめてよい機会を見つけて自分は真相も知っておきたいし、故人が煩悶していた話もお耳に入れることにしたいと常に思っていた。物哀れな気のする夕方に大将は一条の宮をお訪ねした。柔らかいしめやかな感じがまずして 宮は今まで琴などを弾いておいでになったものらしかった。来訪者を長く立たせておくことも できなくて、人々はいつもの南の中の座敷へ案内した。今までこの辺の座敷に出ていた人が奥 へいざってはいった気配が何となく覚えられて、衣擦れの音と衣の香が散り、艶な気分を味わ った。いつもの御息所が出て来て柏木の話などを双方でした。自身の所は人出入りも多く幾人 もの子供が始終家の中を騒がしくしているのに馴れている大将には御殿の中の静かさがことさ ら身にしむように思われた。以前よりもまた荒れてきたような気はするが、さすがに貴人の住 居らしい品は備わっていた。
2026.08.28
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源氏物語〔36帖 横笛 7〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。 若君は笑っているだけで何のことであるとも知らない。 そそくさと院のお膝をおりてほかへ這って行く。月日に添って顔のかわいくなっていくこの人 に院は愛をお感じになって、過去の不祥事など忘れておしまいになりそうである。この愛すべ き子を自分が得る因縁の過程として意外なことも起ったのであろう。すべて前生の約束事な のであろうと思召されることに少しの慰めが見いだされた。自分の宿命というものも必ずしも 完全なものではなかった。幾人かの妻妾の中でも最も尊貴で、好配偶者たるべき人はすでに尼 になっておいでになるではないかとお思いになると、今もなお誘惑にたやすく負けておしまい になった宮がお恨めしかった。 大将は柏木が命の終わりにとどめた一言を心一つに思い出して何事であったかいぶかしいと 院に申し上げて見たく思い、その時の御表情などでお心も読みたいと願っているが、淡くほの かに想像のつくこともあるために、かえって思いやりのないお尋ねを持ち出して不快なお気持 ちにおさせしてはならない。
2026.08.27
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源氏物語〔36帖 横笛 6〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。口の悪い女房たちが何を言うか分からないと冗談を言いながら若君を御自身の膝へ抱き取りになり 「この子の眉がすばらしい。小さい子を見ないせいか、これくらいの時はただ 赤ん坊らしい顔しかしていないものだと思っていたのだが、この子はすでに美しい貴公子の相 があるのは危険なこととも思われる。内親王もおられる家の中でこんな人が大きくなって いっては、どちらにも心の苦労をさせなければならぬ日が必ず来るだろう。しかし皆のその遠 い将来は私の見ることのできないものなのだ。『花の盛りはありなめど』(逢ひ見んことは命なりけり)だね」こうお言いになって若君の顔を見守っていた。縁起のよいことと女房たちは言っていた。若君は歯茎から出始めてむずがゆい気のする歯で物が噛みたいころで、竹の子をかかえ込んでよだれをたらしながらどこもかも噛み試みている。「変わった風流男だね」と院は冗談を言い、竹の子を離してしまい、憂きふしも忘れずながらくれ竹の子は捨てがたき物にぞありける
2026.08.26
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源氏物語〔36帖 横笛 5〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。若君は乳母のそばで眠っていたが、目を覚ますと這って来て六条院の袖にまとわりついた。その姿はたいへん愛らしかった。白い羅の下着に支那風の小模様がある紅梅色の上着を長く引きずり、小さな子供らしく着物だけが後ろへずれていた。肌は白く、姿はすらりとして柳の木を削って作ったように美しい。頭は露草の汁で染めたような青さだった。口元は整い、上品に長い眉には柏木の面影があった。しかし柏木もこれほどまでに美しい容姿ではなかった。女三の宮にもあまり似ておらず、すでに備わっている気高い風采だけを見ると、鏡に映る自分の子のようにも思われた。六条院はそんな若君を静かに見つめていた。若君はもう立って二、三歩ほど歩けるようになっていた。やがて竹の子を載せた広蓋のそばへ近づき、何も分からないまま手で掻き回し、その一本を口にくわえては放り出した。その様子を見た六条院は笑いながら、行儀が悪いね。あれはどこかへ隠したほうがいい。食べ物ばかり欲しがる子だと、冗談を言う。
2026.08.25
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源氏物語〔36帖 横笛 4〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。娘を託された自分が誠実でなければならないと気遣う思いも、年老いた今はいっそう強くなっているのだろうと考え、その心情を気の毒に思い女三の宮は慎ましく返事を書き、使者には青鈍色の綾一襲を贈った。書き損じた紙が几帳のそばに見えていたので六条院が手に取ると、力のない細い字で次のように書いた。「うき世にはあらぬところのゆかしくて背く山路に思ひこそ入れ」と書かれていた。「あなたを心配している父上に、こんな山奥へ入りたいなどと思わせることを書いてはいけません」と六条院は穏やかに言った。女三の宮は出家してから、同じ部屋にいても顔をなるべく見られないようにしていた。しかし美しい額の髪や整った顔立ちは幼い子供のようにあどけなく、いかにも可憐だった。その姿を見るたびに、なぜこのような境遇にしてしまったのかと後悔し、自分はまた罪を重ねているような思いにとらわれた。そのため几帳だけを間に立てて隔てながらも、よそよそしく見えないよう心を配っていた。
2026.08.24
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源氏物語〔36帖 横笛 3〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。その中であなたを思いながらこれを掘らせたので、ほんのわずかだが受け取ってほしいと記した。そして、「世を別れ入りなん道は後るとも同じところを君も尋ねよ」と詠み、自分が先に往生しても同じ浄土へ来られるよう、さらに仏道の修行に励まなければならないと諭した。女三の宮がその手紙を涙ぐみながら読んでいるところへ六条院が訪れた。宮がいつもより寂しそうに手紙を読み、そばに漆器の広蓋が置かれているのを見て不思議に思ったが、それは朱雀院から届けられた贈り物だった。六条院も手紙に目を通し、その内容に深く心を動かされた。老衰が進み、もう今日か明日にも命が尽きるかもしれないと思いながら、娘に会えないことを嘆く父の思いが率直に記されていた。同じ浄土へ来るようにという言葉は僧がよく口にするものではあったが、この手紙には朱雀院自身の切実な実感がそのまま表れていると六条院は感じた。朱雀院は本心からそう願っていた。
2026.08.23
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源氏物語〔36帖 横笛 2〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。また慰めとして未亡人となった一条の宮にも多くの品を贈ることを忘れなかった。兄弟以上の情けを故人に尽くす夕霧の姿を見て、大臣も夫人も、これほど深い志があったとは思わなかったと喜び、あらためて亡き子を惜しんだ。法要の華やかさにも柏木が生前に持っていた勢いが表れ、両親は栄えていた姿を思い返して悲しみを深めた。朱雀院は、女二の宮も不幸な境遇となり、出家した女三の宮も世俗の幸福とは縁のない暮らしを送っていることを父として残念に思っていたが、今さらこの世の出来事に執着しても仕方がないと自らに言い聞かせ、その思いを胸にしまっていた。仏道の勤めをするたびに、女三の宮も同じように修行を続けていると思い浮かべていた。女三の宮が出家してからは、それまで以上に折に触れて手紙を送り、父として変わらぬ気遣いを示して、朱雀院は寺の近くの林で採れた竹の子や、そのあたりの山で掘った自然薯に山里らしい新鮮な趣を感じ、女三の宮へ贈った。手紙にはさまざまなことを書き添えたあと、春の野山は霞に包まれている。
2026.08.22
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源氏物語〔36帖 横笛 1〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。「柏木」は衛門督の死、その後の人々の悲しみや秘密が中心でしたが、「横笛」ではその後の人間関係、とくに柏木の残したものをめぐる苦しみや、源氏・夕霧・女三の宮などの心の動きが続いていく。権大納言柏木の死を惜しむ者は多く、月日が過ぎてもなお恋しく思う人ばかりだった。六条院も同じだった。もともと関係の薄い人物であっても、何か一つでも優れたところを持つ者が亡くなれば深く悲しむ人だった。柏木は朝夕六条院へ出入りする身近な存在であり、多くの者の中でも特に愛すべき男として見ていたため、一つの問題は別としてたびたび心に思い浮かべていた。四十九日の法要では厚い志を示す読経料を寄進した。事情を知らない幼い若君の顔を見るたびに悲しみは深まり、そのほかにも法要のため黄金百両を贈った。事情を知らない柏木の父大臣は、その厚意に何度も感激して礼を述べた。夕霧も従兄であり、妻の兄であり、親友でもあった柏木の法要を盛大に営もうと心を尽くした。
2026.08.21
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源氏物語〔35帖 柏木49〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。柏木の面影をとどめるものは何もないと思って、その死を惜しんでいた。やがて秋になると、若君は這い回るようになった。その愛らしさは言葉に尽くせないほどで、六条院は人前だけでなく心の底からかわいがり、いつも自分の腕に抱いて大切に育てていた。こうして「柏木」の巻は終わる。栄華を誇った若き貴公子は、許されぬ恋の罪と悔恨を胸に抱えたまま短い生涯を閉じた。しかし死後も多くの人々に惜しまれ、その名は帝から友人、家族に至るまで人々の心の中に生き続けた。一方で、誰にも知られぬ秘密として残された若君だけが、柏木の血を受け継ぐ唯一の存在だった。だがその真実は表に出ることなく、やがて若君は源氏の子として成長していくことになる。次の「横笛」の巻では、柏木を失った人々の悲しみと、残された者たちの思いがさらに描かれていく。(完)明日より36帖 横笛(よこぶえ)を公開予定。
2026.08.20
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源氏物語〔35帖 柏木48〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。容姿の美醜などは問題ではなく、よほど人目に余るものでない限り、それだけで心が離れたり他の女性に移ったりすることは自分にはできないと左大将は考えていた。清楚な直衣姿の左大将は背が高く堂々としており、女房たちは、六条院は優雅で愛嬌のある美しさを持ち、男らしく華やかで、心を奪われると噂し合った。そして、できることなら女三の宮の新しい夫となり、いつも宮のそばにいてくれればよいのにとまで願う者もいた。左大将は「右将軍が墓に草はじめて青し」と口ずさみながら、友を失った詩人の気持ちを重ね合わせていた。世の人々もまた、数か月前に亡くなった柏木を惜しまぬ者はなく、帝でさえ追憶した。音楽の催しのたびに「ああ、衛門督がいてくれたなら」と思い、何かにつけて柏木の名を口にしない人はいなかった。まして六条院の悲しみは月日とともに深まるばかりであった。院は女三の宮の若君を、誰にも知られていないまま、ひそかに柏木の形見として愛していた。しかし周囲の人々は真実を知らない。
2026.08.19
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源氏物語〔35帖 柏木47〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。病床にあった御息所が姿を現し、左大将も姿勢を正し、改めて挨拶を交わした。御息所は悲しみのあまり体調を崩し、ぼんやりと日々を送っているが、左大将の度重なる見舞いに励まされて出て来たのだと語った。左大将も、故人を悲しむのは当然だが、あまり深く嘆き続けては体に障り、この世の出来事は前世からの因縁による。この世の出来事は前世からの因縁により、悲しみも永遠には続かないと慰めた。左大将は、噂に聞いていた以上に女三の宮が優美で気品ある女性であることを知った。そして若くして夫を失った悲しみに加え、人々から不幸な女性として憐れまれることまで苦しんでいるのだろうと思ううちに、同情は次第に恋心へと変わった。自分でも変化に気づきながら、御息所を通じて宮の様子を熱心に尋ねた。人の価値は性格によって決まり、尊ぶべき女性とそうでない女性は内面によって分かれるものだと思っていた。そして衛門督を親しく扱われたように、自分も他人と思わず接してほしいと、露骨ではないながらも、深い好意をにじませるようになっていた。
2026.08.18
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源氏物語〔35帖 柏木46〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。互いに枝を重ね合って頼り合う姿が実によい」と語った。そしてさらに簾の近くへ寄り、葉守の神のお許しがあるなら、御簾の隔てを取り払い、もっと近くでお目にかかりたいものだと歌に託して気持ちを伝えた。左大将は一段高くなった室の長押に外から寄りかかるようにしていた。その姿は柔らかく優雅だ。女房たちは、こうして気を許している時は、また格別に美しく見えると小声でささやき合った。先ほどまで左大将と話していた少将の君という女房が取り次ぎ役となり、長く姿を見せない女三の宮も、ようやく返事をすることに。悲しみに閉ざされた宮と左大将との間に、御簾越しながら静かな対話が始まろうとしていた。女三の宮は少将の君を通して、「柏木という葉を守る神がいらっしゃるとしても、人を親しくさせる宿の梢ではないでしょう」と歌を返した。突然そのようなことを言われるのは、かえって好意が疑われるからだという慎み深い返事であった。もっともな答えだと感じた左大将は、思わず微笑んだ。
2026.08.17
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源氏物語〔35帖 柏木45〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。枝を思うままに伸ばしていた。茂る草むらを見ていると、秋になれば虫の音が響くであろう様子まで想像され、左大将はしみじみとした哀愁に包まれた。喪中の邸では御簾の代わりに伊予簾が掛けられ、室内には鈍色の几帳が透けて見えていた。その落ち着いた色合いは夏の気配の中でかえって涼しげだった。女童たちの鈍色の汗袗の袖や、後ろ姿の髪がちらりと見えるのも上品であったが、やはり鈍色という色は、見る者に悲しみを思い起こさせる色で、今日は左大将は女三の宮の座敷の縁近くに席を取ろうとした。女房たちはいつものように御息所に応対を頼んだが、この頃は病がちで、今日も横になっていた。御息所が現れるまで、女房たちが応対している間、左大将は青々とした庭木を眺めていた。自然は人の悲しみとは関係なく生命に満ちている。しかしその美しさがかえって胸を痛めた。柏の木と楓が若葉を茂らせ、枝を交わし合って立っている姿を見て、左大将は女房に向かって「よほど深い縁のある木なのだろう。
2026.08.16
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源氏物語〔35帖 柏木44〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。さらに左大弁も、春を待つ前に花が散ってしまった恨みを歌に託した。皆の心に、柏木の早すぎる死への惜別が深く残っていた。大納言柏木の法事は盛大に営まれた。妹である左大将夫人が兄のために供養を尽くしたのはもちろん、左大将自身も真心を込めて供物を整え、読経のための寄進にも惜しみなく力を尽くした。その友情は生前と変わらず深く、柏木の死後も変わることはなかった。そして左大将は一条の宮へも絶えず見舞いの言葉を送り続け、残された女三の宮を気遣っていた。四月になり、初夏の空には爽やかな気配が満ちていた。木々は一斉に若葉を広げ、どこを見ても緑に包まれていたが、悲しみに閉ざされた。邸ではその鮮やかささえ寂しく感じられた。母君の御息所と女三の宮は、長く続く喪の日々の中で退屈と悲しさに沈んでいた。そんな折、左大将が再び訪ねて来た。庭の草は青く伸び、敷砂の隙間には蓬が力強く広がっていた。林泉を愛した柏木が丹精していた植え込みや花々も、今は手入れする者がない。
2026.08.15
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源氏物語〔35帖 柏木43〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。大臣は、自分の母を失った時以上の悲しみはないと思っていたが、今度の苦しみはそれとは比べものにならないと語った。柏木は朝廷の恩を受けて地位を得るにつれ、多くの人が頼る存在となっていたため、その死を惜しむ者も多かった。しかし自分にとっては官位や勢力を失ったことが悲しいのではない。何の肩書も持たない一人の息子としての柏木が恋しくてならないのだと言った。この悲しみを慰めるものなどあるはずもないと嘆き、空を見上げて深くため息をついた。夕暮れになると雲は鈍色にかすみ、花の散った桜の梢が寂しく浮かび上がり、大臣はその姿にようやく気づいたほど、息子を失った悲しみに心を奪われていた。左大将が帰った後、御息所は歌を書いて返した。亡き人を失った悲しみの中で、春の霞さえ喪服をまとったように見えるという心を詠んだものであった。これに対して左大将も、柏木自身もまさか自分が先に逝き、残された人々が夕霞のような喪の衣を着ることになるとは思わなかっただろうと返した。
2026.08.14
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源氏物語〔35帖 柏木42〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。左大将は柏木の晩年を振り返り、若いころの柏木は冷静で理知的な人だったが、亡くなる数年前からは心細そうな顔を見せることが多くなった。人生について深く考えた末に達した澄み切った境地なのかもしれないが、それでは以前の生き生きとした魅力まで失われると心配になり、時には忠告めいたことも言った。柏木は逆に自分を憐れむような優しい眼差しを向けるばかりで、左大将は、何よりも女三の宮が深い悲しみの中にいることを聞き、気の毒でならないと語った。その口調には亡き友への情愛と、残された宮を思いやる真心があふれて、しばらく懐かしい昔話を交わした後、左大将はなお名残惜しく静かに邸を後にした。衛門督は大将より五、六歳年上だったが、若々しく女性的な柔らかさを持つ人物で、一方の大将は重厚で端正な姿をしており、顔立ちの美しさは際立っていた。若い女房たちは悲しみを忘れるほどその姿に見入り、帰ろうとする大将を見送った。庭の桜を眺めながら大将は歌を口にしたが、尼姿を連想させる表現は避けた。
2026.08.13
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源氏物語〔35帖 柏木41〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。再び逢うことのできる命の尊さを詠んだ。さらに散った枝を残した桜の歌を自然に口ずさむと、一条の御息所からも返歌が届けられ、御息所は才気あふれるほどではなかったが、以前から才女と評判だった更衣らしい気の利いた歌を返してきたので、大将は評判に違わぬ人物だと感じた。その後、大将は太政大臣家を訪れた。子息たちに案内されながら離れ座敷へ向かったが、舅のもとへ無遠慮に入ることをためらった。そこで目にした大臣の姿は変わり果てていた。かつて端麗だった顔はやせ衰え、髭も伸びたままで、親を失った時より子を失った後の衰えの方が深いという世間の言葉そのままだった。大将は顔を見るなり涙があふれた。一条の宮を訪ねてきた話でも、涙もろくなっていた大臣は涙を流し、亡き柏木の思い出を語り、大将が一条の御息所から託された歌を見せると、大臣は涙でかすむ目を押し懸命に読み取った。老いと悲しみで誇りに満ちていた面影は失われていたが、「玉は貫く」という言葉だけは胸に深く突き刺さり、再び涙がこぼれた。
2026.08.12
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源氏物語〔35帖 柏木39〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。大臣夫妻の悲しみも深いと聞いているが、柏木が最も心配していたのは妻である女三の宮のことだと思うと、宮の悲嘆がどれほどのものか胸が痛むと語り、その途中にも何度も涙をぬぐった。気高く美しい姿に深い情愛がにじみ、御息所も思わず声を詰まらせた。御息所は、この世の悲しみは避けられないと話す。自らをも励ましているが、まだ若い女三の宮は悲しみに沈み切り、このまま後を追ってしまうのではないかと心配になるほど嘆き続けていると話した。そして、自分だけが年老いて生き残り、大納言を失い、さらに娘を若くして未亡人にしてしまう運命を見届けねばならないことが、何よりもつらいと涙ながらに語った。長い人生を生きてきた母でさえ耐え難い悲しみなのだから、若い宮の心の傷がどれほど深いものか、左大将には痛いほど理解できた。御息所はさらに胸の内を語った。女三の宮の結婚話が持ち上がった当初、自分は賛成ではなかったという。しかし柏木の父である大臣が熱心に進め、法皇も許す様子だった。
2026.08.11
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源氏物語〔35帖 柏木40〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。自分の考えが古すぎるのだろうと思い直して結婚を受け入れた。だが今となっては、もっと強く反対していれば、このような不幸な結果を避けられたのではないかと悔やんでいた。もともと宮という高貴な人は、よほど深い縁でもない限り結婚などせず、神聖な存在として大切に守られるべきだと昔気質の考えを抱いていた。中途半端な形で若くして未亡人となった宮を見るにつけ、いっそ悲しみのまま命を終えたほうが幸せなのではないかとさえ思う。しかし実際にはそんなふうに諦め切れるものではなく、悲しみの中で日々を送っているのだった。その中で唯一の慰めとなっていたのが、左大将からたびたび届く心のこもった見舞いの手紙だった。これほど親切にしてくれるのも、柏木が最期に宮のことを頼み残したからと思うと、柏木は決して愛情深い夫には見えなかったものの、最後には誰に対しても宮を気遣う遺言を残していたことがわかり、悲しみの中にもかすかな慰めがあることを知ったと語った。そして御息所は言葉の途中で涙にくれ、大将も涙を流した。
2026.08.11
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源氏物語〔35帖 柏木38〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。柏木が亡くなってからの邸は、女房たちまで喪服をまとい、何もかもが沈んだ空気に包まれていた。ある日、高い前駆の声とともに車が門前に止まると、女房の中には、亡くなった殿がお帰りになったのかと思ったと泣き出す者までいた。最初はいつものように左大弁や参議あたりの来訪かと思われていた。姿を現した左大将は気品と美しさを兼ね備え、立ち居振る舞いまで見事で、人々の目を引いた。客は南向きの座敷に通され、女房だけに応対させるのは失礼だとして、宮の母である御息所が自ら姿を見せた。左大将は、柏木への悲しみは遺族にも劣らないが、立場上それを十分に表すことができなかったと語った。そして柏木が最期に女三の宮のことを託していった以上、自分もできる限り力になりたいと思っていると打ち明けた。本当ならもっと早く見舞いたかったが、宮中の神事や穢れを避けるしきたりもあり、さらに庭先から形式的に挨拶するだけでは自分の気持ちが済まなかったため、訪問が遅れてしまったのだという。
2026.08.10
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源氏物語〔35帖 柏木37〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。大臣夫妻は思い出せば悲しみが募るばかりで、かえって成仏の妨げになると言うだけで、生きながら魂を失った人のようになっていた。未亡人となった落葉の宮の悲しみはさらに深かった。最期の病床にも立ち会えないまま夫を失ってしまったからだ。広い邸は日を追うごとに寂れ、仕える人々も少しずつ去っていった。柏木に恩を受けた人は宮を訪れ、敬意を示した。柏木が愛用していた鷹や馬を預かっていた家臣たちも、主人を失って力を落としながら出仕していたが、その姿を見るだけで宮の心は痛んだ。柏木が日常使っていた品々がそのまま残されており、いつも手にしていた琵琶や和琴は今では弦も張られず静かに置かれている。それらを見るたびに在りし日の姿が思い出され、悲しみはいっそう深くなった。庭では季節が巡り、木々は霞み、花は時を違えず咲こうとしていた。しかし自然だけが変わらず美しく移りゆく様子は、宮に人の世のはかなさを感じさせたが春が訪れようとしていることが、何よりも寂しく悲しく思われたのである。
2026.08.09
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源氏物語〔35帖 柏木36〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。時折、抑え切れない恋の苦しみをのぞかせることもあった。人柄も才能も優れていたが、恋愛に関しては感情に流されやすく、最後には許されない恋に身を投じて自らを滅ぼしてしまった。相手の女性にとっても不幸なことであり、自分の命まで失ったのは決して賢明な生き方ではなかった。前世からの因縁だ。因縁と言えばそれまでだが、やはり軽率な行動だったと夕霧は考えていた。しかしその思いは胸の内にしまい、妻にも語らなかった。また柏木が死の直前に打ち明けた言葉についても、夕霧はまだ院へ伝えていなかった。その話を切り出せば、隠されている秘密の全体像が見えてくると考えていたためだ。一方、柏木の父である大臣夫妻は深い悲しみの中にあり、日々の感覚さえ失っていた。法事の準備や供養のための経巻や仏像の手配は息子たちや婿たちが引き受け、特に次男の左大弁が中心となって進めていた。七日ごとの法要の日が来るたびに子供たちが知らせても、大臣は、あの子の話は聞かせないでくれと言うだけ。
2026.08.08
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源氏物語〔35帖 柏木35〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。一方で夕霧は、柏木が死の間際に自分へ秘密めいた話を打ち明けた意味を考え続けていた。もし柏木がもう少し元気な時期であったなら、さらに核心に近い話を聞き出せたかもしれないのにと悔やまれた。夕霧は兄弟たち以上に柏木を懐かしみ、その死を惜しんでいた。また女三の宮が突然出家した。出家したことも深い事情があると感じ、病気がそれほど重くない宮を、院が何の反対もせず尼にしてしまったのは不自然であり、その背後にはまだ知られていない事情が隠されているのではないかと疑っていた。柏木の死と女三の宮の出家について、夕霧はますます両者が深く結び付いていると考えるようになった。かつて二条院の夫人が重病となった時には、どれほど懇願されても出家を許さなかった院が、今回はほとんど異議を唱えず女三の宮を尼にしてしまった。その違いには必ず理由があるはずで、夕霧は昔から柏木が女三の宮へ特別な思いを抱いていたことを知っていた。柏木は感情を表に出さず冷静を装う人物だった。
2026.08.07
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源氏物語〔35帖 柏木34〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。思えば思うほど、宮が気の毒でならなかった。そのため院はすべてを知りながらも知らぬふりを貫き続けた。薫が無邪気に声を上げて喜ぶ姿を見るたび、院にはその目元や口元が柏木にそっくりに見えた。他人には分からなくとも、自分には疑いようがなかったのである。柏木の両親は息子を失った悲しみに沈んでいた。秘密の中にただ一人残された薫を思うと、かつては柏木の罪を憎み無礼な男だと怒っていた気持ちも薄れ、むしろ哀れさが込み上げて涙を流した。やがて女房たちが部屋を去った後、院は宮のそばへ寄り、こんなにかわいい子を残して、この世を去ってしまうとは冷たい人だったと不意に語りかけた。そして、人から誰の種を蒔いた子かと問われたなら、岩根に生える松は何と答えるだろうかと歌を口にした。それは薫の出生を暗に示す歌で、宮は顔を赤らめ、何も答えず伏して、院もそれ以上は言葉を重ねなかったが、純真な宮といえども平然としていられるはずはないと思うと、その胸の内を想像して気の毒に感じた。
2026.08.06
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源氏物語〔35帖 柏木33〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。今日は慶事の日で、人前で涙を見せられない。源氏は涙を隠しながら、五十八歳の老翁にもなお後継ぎがある。喜ぶべきことではあるが、また嘆くべきことでもあるという意味の漢詩の一句を口ずさんだ。そこには、晩年にようやく得た子を喜ぶ気持ちと、その子が実は柏木の忘れ形見であることを知る苦しみとが重なっていた。若君の成長は喜ばしい。しかしその存在そのものが、自らの過ちと柏木の悲劇を思い出させる。春の華やかな祝いの席にあっても、源氏の心だけは晴れることなく、喜びと悲しみが入り混じった複雑な感情に包まれていた。五十八歳となった院は、自分もすでに人生の晩年に差しかかったように感じていた。白楽天の詩にある「お前の父のような愚かな老人になるな」という句さえ思い浮かぶほどで、薫の出生の秘密を知る女房たちが宮の周囲にはいるはずであり、その者たちが自分を愚かな人間として見ているのではないかと思うと不快だが、自分が笑われることよりも、宮がどのような目で見られているのかを考えた。
2026.08.05
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源氏物語〔35帖 柏木32〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。ふっくらとよく育ち、肌は白く美しく、源氏は夕霧の幼いころを思い浮かべて比べてみたが、まるで似ていない。源氏の子女たちは多くが母方の帝に似て、気品と威厳を備えていたが、この若君にはそれとは異なる魅力があり、生まれながらの上品さに加え、人を惹きつける愛嬌があり、目元は美しくよく笑う。その姿を見ていると自然に愛情が湧いてくる。しかし源氏の胸には、誰にも言えない思いがあった。気のせいかもしれないが、若君は亡き柏木によく似ているように見えた。まだ幼児でありながら、どこか高貴な若君らしい眼差しを持ち、その面差しには柏木を思わせる艶やかな雰囲気さえ感じられた。もちろん女三の宮にはそのことがはっきりわからない。周囲の人々も全く気づいていなく、ただ一人、真実を知る源氏だけが、その面影を見出していたのである。若君の姿を見るたびに柏木との因縁が思い起こされ、亡き人への追憶と人生の無常が胸に迫った。祝いの日であるにもかかわらず、源氏の目には涙が浮かんだ。
2026.08.04
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源氏物語〔35帖 柏木31〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。女三の宮は病のためではなく私を嫌ってそうされたようにも思えてしまう。どうか今でも私を愛していてくださいと切実な思いを打ち明けた。しかし女三の宮は静かに、出家した者は人を愛する心から離れるものだと聞いており、まして私はもともと人を愛するということがよくわからなかったのです。何と答え申し上げればよいのかと答えた。その返事には冷淡さというより、宮らしい無垢さと世事への疎さが表れていた。源氏は困った方ですね。少しはおわかりになることもあるでしょうにと言いかけたが、それ以上は続けなかった。宮を責めることもできず、言葉を飲み込んで若君へ目を向けたのである。若君には身分の高い家柄の女性たちが乳母として選ばれ、何人も仕えていた。源氏は彼女たちを呼び寄せ、若君の養育について細かな注意を与えた。そして若君を抱き上げながら、かわいそうに、年老いた父を持ち、これからゆっくり成長していくのだねと語りかけた。若君は抱かれるとにこやかに笑った。
2026.08.03
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源氏物語〔35帖 柏木30〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。髪が長めのため、一見するとまだ普通の女性のようにも見えた。そこには、出家して俗世を離れたはずでありながら、なお若く美しい女三の宮の姿があり、源氏の胸には複雑な感慨が去来していた。女三の宮は、濃淡の異なる鈍色の衣を幾枚も重ね、その下には黄みを帯びた淡い色の単衣を着ていた。出家したとはいえ、まだ完全に尼僧らしい姿にはなりきっておらず、どこか幼く美しい少女のようにも見えた。源氏の目には、その姿がかえって宮に最もふさわしく映り、はかなくも艶やかな美しさを感じさせた。源氏は墨染めの衣を見ながら、この色はつらいもので、どうしても悲しみを思い出させる。こうして出家した後も共に暮らせるのだと思って自らを慰めているが、それでも涙だけは止まらない。あなたに見捨てられたことも、自分の罪の報いであるように思われて苦しい。何とか元へ戻せるものではないでのかと嘆いた。そして更に、もし本当に俗世への執着を断ち切り、完全に尼の心になってしまった。
2026.08.02
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源氏物語〔35帖 柏木29〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。南向きの座敷には若君のための小さな席が設けられ、祝い膳が整えられた。新しい乳母たちは華やかな装いで集まり、女房たちに配られる料理の器に至るまで美しく飾られ、式場全体が春の祝いにふさわしい明るさに満ちていたが、源氏の心は晴れなかった。世間の人々は若君を源氏の実子と信じていた。そのため数え切れないほどの祝品が届けられていた。その光景を見るたびに、真実を知る自分だけが抱える苦しさが胸に迫る。事実を明かすこともできず、誤解を正すこともできないまま、人々の善意を受けなければならず、そのことが源氏にはひどく後ろめたく感じられ、女三の宮もこの日は起き出していた。出家によって短く切りそろえられた髪は、まだ柔らかく厚みをもって広がり、本人には痛ましく思われた。額の髪をなでつけて整えているところへ、源氏は几帳を脇へ寄せて近くに座った。女三の宮は恥じらい顔を背けたが、その姿は以前にも増して小柄なのか弱く見えた。もっとも髪は受戒の日に僧が惜しんで長めに残した。
2026.08.01
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