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2022.09.23
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カテゴリ: 報徳
鈴木藤三郎資料集


軍国の今日我々国民が大覚悟を以て各々職業に当らざるべからざることは、世人これを口にせざるものなし。然れども果たしてその実あるかというに、未だ我が輩は首肯するあたわざるの状あり。国民として平常国家のため職業に精励し以て、国運の隆昌を致さざるべからざるをいうは、また異口同音に唱道する所なるも、特に国家非常の今日においては然らざるべからざる所なり。軍人は国家の干城たるを以て、御国のために一身を捧ぐるの心得は常にこれを有するも、戦争に当りて始めて砲煙の間に一身を賭するがごとく、我々国民もまたこの非常の時に当りては、国民覚悟の実をあらわさざるべからず。商となく、工となく、農となく、いやしくも国民たる者は、皆兵士が戈(ほこ)をとって戦場に大敵と戦うがごとき決心を以て、各々その職業に精励尽瘁せざるべからず。
国民にしてこのごとき大覚悟を以て、業務に励まんが、我が産業はたちまちにして発達し、たちまちにして国富の強大を致すべく、租税の増徴あるも、今後幾十回の公債募集あるも、よくこれに資するを得べく、戦局幾十年の永きに渉るも毫も憂えるに足らざるなり。特に我が輩の常に嫌忌の情に堪えざるは、内国債権募集に対する各銀行連の行動なり。公債募集の利子償還年限、その他の条件に向かって、毎度協議の際、掛引の挙動あるは、いかに当業者にせよ、余りに心なき次第にあらざるか。幸い今は連戦連勝の奇功を奏するといえども、もしこれに反して戦敗の不幸を醸し、国連危頽に瀕するに至れば、国民として家を傾け産を尽くすも、軍費に資せざるべからざるにあらずや。あに国債募集条件のいかんを問うべき所ならんや。戦勝の時も戦敗の時も国民の覚悟としてはその間毫も徑庭なし。吾人は銀行家が公債の募集に当りて、条件を云々するの形状あるを見るは、彼らが未だ大決心大覚悟なきに座するものなりとして痛嘆せざるを得ざるなり。
商工業の局に当る実業家は、上陳の大決心を以て、事に当たらざるべからざると同時に、いわゆる政治家なるものも、またこの覚悟ある要す。然るに現時の政治家なるものはいかん。彼らは曰く、今は軍人の手柄時なり。我々政治家は不遇の境に陥れる。しばらく瞑目して戦局の終わるを待たんと揚言する者あり。なんぞそれかくも愚鈍にして薄識の甚だしきや。余は言わんとす。今は政治家の大活動すべき時期なりと。何を以てかこれを言う。政治家の為すべき任務は、国民に率先して国家に率先して国家の幸福を増進せしめんとするにあり。ただに国家を是非するのみならず、国民を誘引指導せざるべからず。決して政府攻撃内閣乗っ取り策のみがその能事にあらざるなり。また議会開会中のみがその活動の時機にあらざるなり。よく常に社会の形勢を達観して、これに対する活動を為さざるべからず。即ち今において大いに産業を奨励しその発達を来して、国富の強大を図らざるの要あるを知らば、即ちまた軍人が戈をとって戦場に闘うの決心を以て、実業家を誘引指導せざるべからざるなり。
この非常大変の戦時に当りては、上陳のごとく国民奮起を要すると同時に、政府当局者においてもまた非常の奮発を以て施政のよろしきを為さざるべからず。いやしくも政府が意を国家経済の発展伸暢に注がんか、財政は期せずして強大にならん。これ万全の策にあらずや。
国家経済の発達を図らんと欲せば、実業界を誘引奨励するを要す。これまでにおける政府の実業界奨励策は、はなはだ浅薄にして、かつ拙劣なるものなり。たとえば彼の奨励補助金を与ふるがごとし。元よりその補助金といえども時と場合により、またその事実により、これを与ふるの要あることあるも、多くはかえって不正の徒を益し、あるいは国民に政府依頼心を増長せしむるに過ぎざるものなり。これよほど注意せざるべからざる事に属す。
然らばいかにして実業界の発達を奨励せんとするか、曰く実業界の待遇を改むるにあり。我が国は近代の政府のみならず、開国以来施政の根本を誤れり。その根本たる実業界奨励にいたっては、一もあることなし。見よ古来我が国において、人々に膾炙(かいしゃ)せらるる有名なる人物はいかなるものぞというに、いわく軍人、いわく政治家、いわく讐打(かたきうち)、いわく大盗賊なり、この四種を除きては有名なる人物なし。いな、たまにはなきにあらず聞こえざるなり。今その実例を挙げんか、我々がかく生息する東京の大都会、百余万人の飲料水を玉川より引きたる人はいかなる人や、というに、人これに答ふるあたわざる者多からん。もしその人なかりせば、到底今日かくの盛大なる大都会を見るあたわざりしなり。飲料水の創設者は、換言すれば東京大都会の創設者というも過言にあらざるほどなり。然るにその人を知らざるは何がためぞや。これ全く上陳の四者の外なるが故なり。またかつて豆州(伊豆)に遊び足る際、佐野地方二十七か村ばかりの田地に灌漑する疎水は、函嶺(箱根)の湖口より幾多の山腹をうがちて、これを引きたるものなり。しかしてその創設者を問わば、引水の恩徳に浴しつつある農民といえども、よくその名を知るもの少なし。これ不審議の事にあらずや。もしそれその創立者が、その事業を企つるの精力を以て軍人となり、盗賊となりしならば、今に至るまで人々に膾炙(かいしゃ)せられたるや、推して知るを得べし。
我が国においては、殺閥の人たらずんば、名を竹帛(ちくはく)に垂るあたわざるなり。これまた政府として大いに政策の誤まりし所にあらずや。国家が恩賞を以てその功労を賞するものは、軍人を第一とし政治家を次とし、実業家に向かっては未だにあらずや。国家が恩賞を以てその功労を賞するものは、軍人を第一とし政治家を次とし、実業家に向かっては未だかつて聞かず、いなあるとするも微々たるものなり。位を有するものは、いわゆる武士に限れり。ここを以てか、人は皆武士たらんことを望み、花は桜に人は武士、武士は人間中の精華なるものとして称えり。

 彼の工科大学を卒業したるものを例とするも、大学を出でて工学士となり、民間において事業の触に当らんが、世才を通ぜざるべからず、経験を有せざるべからず、その他非情の困難辛苦を経ざるべからず。なおこれを顧みず実業家となるも社会の待遇は、はなはだ思はしからず。これに反し官吏とならんか、高等官となり位階を得、社会の尊敬を受け、衣食の心配なし。民間に入りて苦心せんよりは官人たらんとするは、実に無理もなき所、故に民間に入るものは、よほどの物好きにあらざれば、迂愚の者たるに至るべし。これあに大いに憂ふべき一事にあらずや。

(続く)





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最終更新日  2022.09.23 18:24:25


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