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二宮翁夜話巻之3(【 】は夜話の通しで表記する)
【131】高野丹吾帰国せんとす、
翁曰く、
伊勢の国鳥羽の湊(みなと)より、相模国浦賀の湊までの間に、大風雨の時、船の掛(かか)るべき湊は、只伊豆国の下田湊のみ、故に燈明台あり、大風雨の時は、この燈台の明りを目的(めあて)として、往来の船は下田湊に入るなり、
此の脇に妻良子浦(めらこうら)と云ふ処あり、
岸巌(がんがん)高く大岩多く、船路なき処なり、
此の辺(へん)に悪民有つて風雨の夜、此の処の岸上(がんじやう)に焚きて、下田の燈台と、見違ふ様にしければ、難風を凌(シノ)がんと、燈台(トウダイ)を見当に走(ハシ)り来る船、燈台の火と見紛(みまが)ひ入り来る勢ひに、大岩に当り破船すること数度なり、
この破船の積荷物品を奪ひ、取り隠し置て分配せし事、度々有りし由、終には発覚し皆刑せられたりと聞けり、己が聊かの欲心の為に、船を破り人命を損じ、物品を流失せしむ、
悪き仕業ならずや、我が仕法にも又是に似たる事あり、
烏山の燈台は菅谷氏なり、
細川家の燈台は中村氏なるに、二氏の精神半途に変じ、前の居処と違へるが為に、二藩の仕法目的(もくてき)を失ひ今困難に陥れり、
仮初(かりそめ)にも、人の師表たらん者、恐れざるべけんや、慎まざるべけんや、貴藩の如きは、草野氏池田氏の如き、大燈明上にあれば、安心なりといへども、卿も又成田坪田二村の為には大燈明なり、
万一心を動かし、居処を移すが如き事あらば、二村の仕法の破れん事、船の岩に当れるが如し、
されば二村の盛衰・安危、卿が一身にあり、能々感銘せらるべし、
二村の為卿が為、此の上もなき大事なり、
卿能く此の決心を定め、不動仏の、猛火背を焼くといへども、動かざる如くならば、二村の成業に於ては嚢中(のうちゆう)の物を探(さぐ)るよりも安し、
卿(きみ)が心さへ動かざれば、村民は卿を目的となし、船頭の船路を見て、おも柁(かぢ)取柁と呼ぶが如く、驕奢に流れぬ様(やう)おも柁と呼んで直し、遊惰に流れぬ様取り柁と呼んで漕ぐのみ、然る時は興国・安民の宝船、
卿が所有の成田丸坪田丸は、成就の岸に、安着せん事疑ひなし、
此の時君公の御悦びは如何計(いかばか)りぞや、
草野池田の二氏の満足も如何計ならんや、
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