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2024.11.23
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カテゴリ: 報徳
「安居院庄七 50歳からの大冒険」クラウドファンディング中

2人、テキストの画像のようです

二宮翁夜話巻の1

【33】 下館侯の宝蔵火災ありて、重宝(ぢゆうはう)天国(あまくに)の剣(つるぎ)焼けたり、
官吏城下の富商中村某(それがし)に謂ひて曰く、
如其(かく)焼けたりといへども、当家第一の宝物なり、
能く研ぎて白鞘(しらさや)にし、蔵に納め置かんと評議せり、如何(いかん)、
中村某焼けたる剣を見て曰く、
尤もの論なれど無益なり、
例令(たとへ)此の剣(けん)焼けずとも、如此(かくのごとく)細し、何の用にか立たん、

此の侭にて仕舞置べしと云へり、
翁(をう)声を励まして曰く、
汝大家の子孫に産まれ、
祖先の余光に因りて格式を賜り、
人の上に立ちて人に敬せらるゝ、
汝にして、右様の事を申すは、大(だい)なる過ちなり、
汝が人に敬せらるゝは、太平の恩沢なり、
今は太平なり、何ぞ剣の用に立つと立たざるとを論ずる時ならんや、
夫れ汝自ら省り見よ、
汝が身用に立つ者と思ふか、
汝はこの天国の焼剣(やけみ)と同じく、実は用に立つ者にあらず、

用立つ者の如くに見え、人にも敬せらるゝなり、
焼身にても細身にても重宝と尊むは、太平の恩沢此剣の幸福なり、
汝を中村氏と人々敬するは、是又太平の恩徳と先祖の余蔭なり、
用立つ、用立たざるを論ぜば、汝が如きは捨てて可なり、
仮令(たとひ)用立たずとも、

我は此剣の為に云ふにあらず、汝がために云ふなり、
能々(よくよく)沈思せよ、
往時水府公、寺社の梵鐘(つりがね)を取り上げて、大砲に鋳替へ玉ひし事あり、
予此の時にも、 御処置悪きにはあらねども、未だ太平なれば甚だ早し、
太平には鐘や手水鉢を鋳て、社寺に納めて、太平を祈らすべし、
事あらば速かに取つて大砲となす、
誰か異議を云はん、社寺ともに悦んで捧ぐべし、
斯(かく)して国は保つべきなり、
若し敵を見て大砲を造る、所謂盗(ぬすびと)を捕へて縄を索(な)ふが如しと云はんか、
然りといへども尋常の敵を防ぐべき備へは、今日足れり、
其敵の容易ならざるを見て、我が領内の鐘を取つて大砲に鋳る、何ぞ遅からんや、
此の時日もなき程ならば、大砲ありといへども、必ず防ぐ事あたはざるべし、と云し事ありき。
何ぞ太平の時に、乱世の如き論を出ださんや、
斯の如く用立たざる焼身をも宝とす、
況んや用立べき剣に於てをや、
然らば自然宜敷き剣も出来たらん、
されば能く研ぎあげて白鞘(しらさや)にし、元の如く、腹紗(ふくさ)に包み二重の箱に納めて、重宝とすべし、
是れ汝に帯刀を許し格式を与ふるに同じ、
能々(よくよく)心得べしと、
中村某叩頭(こうとう)して謝す、
時に九月なり、
翌朝中村氏発句(ほつく)を作りて或人に示す、
其の句「じりじりと照りつけられて実法(みの)る秋」と、
ある人是を翁に呈す、
翁見て悦喜(えつき)限りなし、
曰く、
我昨夜中村を教戒す、
定めて不快の念あらんか、怒気内心に満たんかと、ひそかに案じたり、
然れども家柄と大家とに懼(おそ)れ、おもねる者のみなれば、しらずしらず増長して、終に家を保つ事覚束(おぼつか)なしと思ひたれば、止むを得ず厳に教戒せるなり、
然るに怒気を貯へず、 不快の念もなく、
虚心平気に此の句を作る、
其の器量按外にして、大度見えたり、
此家の主人たるに恥ぢず、此家の維持疑ひなし、
古語に、
我を非として当る者は我が師也とあり、
且大禹(タイウ)は善言を拝すともあり、
汝等も肝銘(かんめい)せよ、夫れ富家の主人は、何を言ふても御尤御尤と錆付(さびつ)く者のみにて、礪(と)に出合つて研ぎ磨かるゝ事なき故、慢心生ずる也、
譬(たとへ)ば、
爰(ここ)に正宗の刀ありといへども、
研ぐ事なく磨く事なく、錆付く物とのみ一処におかば、忽ち腐れて紙も切れざるに至るべし、
其の如く、三味線引や太鼓持などゝのみ交り居て、
夫も御尤、是も御尤と、こび諂(へつら)ふを悦んで明し暮し、争友(そういう)一人のなきは、豈あやふからざらんや。


【33】下館侯の宝蔵が火災にあい、代々、家宝としてきた「天国(あまくに)の剣(つるぎ)」が焼けてしまった。
下館城下で富豪の中村氏に下館藩の役人が尋ねた。
「このように焼けてしまったが、この剣は当家第一の宝物だ。
よく研いで白鞘(さや)にしまって、蔵に納めおこうと思うがどうだろう?」

中村はその焼けた剣を見て言った。
「ごもっともな話ですが、そんなことをしてもなんの益がございましょう。
たとえこの剣が焼けないとしても、このように細うございます。
何の用に立ちましょう。
このように焼けてしまったのを、いまさら研(と)いで何の用にたちましょう。
このまましまっておかれればよろしいでしょう」と言った。

これを聞かれて尊徳先生は、大きな声で叱責された。
「なんじは、大家の子孫に生まれ、祖先の余光によって、このように格式をたまわり、人の上に立って人に敬せられているではないか。
なんじのような者が、そのような事を申すのは、大きな過ちだ。
なんじが人に敬せられるのは、太平のお蔭ではないか。
今は太平の世だ。
どうして、剣が用に立つとか、立たないとか論ずる時であろうか。
自分自身を省りみてみよ。
なんじがなんの用にたっているか。
この天国の焼けた剣と同じように、実は用に立つ者ではないのだ。
ただ先祖が積んできた徳と、家柄と格式とによって、
役に立つ者のように見え、人にも敬まわれているのだ。
焼身であっても細身であっても重宝と尊ぶのが、太平のお蔭であり、この剣の幸福なのだ。
なんじを中村氏と人々が敬するのは、これまた太平の恩徳と先祖のお蔭である。
用に立つ、用に立たないを論ずるならば、なんじのような者は捨ておいてよい。
たとえ用に立たなくとも、当家御先祖様の重宝としてこれを大切にするのが、太平の今日において至当の理だ。
私はこの剣のために言うのではない。
なんじのために言うのだ。
よくよく深く考えよ。
かって水戸の殿様が、寺社のつりがねを取りあげて、大砲に鋳造された事があった。
わたしはこの時にも、 ご処置は悪くはないが、まだ太平の世であるからはなはだ早い。
太平の世には鐘や手水鉢を鋳(い)て、社寺に納めて、太平を祈らせるがよい。
事があった時にすぐにそれらを取り上げて大砲とすればよい。
その時、誰か異議を言おうか、社寺もともに喜んで出すであろう。
このようにして国は保つのだ。
敵を見て大砲を造る、いわゆる盗人を捕へて縄をなうようだと言う人もあろうが、
通常の敵を防ぐべき備えは、今日足っている。
その敵が容易でないのを見て、自分の領内の鐘を取って大砲を鋳造する、どうして遅いことがあろうか。
この時日もないほどであれば、大砲があっても、必ず防ぐ事はできないであろうと言った事があった。
どうして太平の時に、乱世のような論を出す必要があろう。
このように用に立たない焼身であっても宝とする。
ましてや用に立つ剣ならなおさらである。
そうであれば自然とよい剣もでてくるであろう。
そうであればよく研ぎあげて白鞘におさめて、元のように、ふくさに包んで二重の箱に納めて、重宝とするがよい。
これはなんじのような者に帯刀を許し、格式を与えるのと同じだ。
よくよく心得えておくがよい。」

中村氏は、頭を何度も畳にくっつけて先生に謝った。
時に九月であった。
翌朝、中村氏は句を作って、ある人に示した。
その句に
「じりじりと 照りつけられて みのる秋」と。
ある人はこれを尊徳先生に見せた。
尊徳先生はこれを見て大変に喜ばれ、こうおっしゃった。

「私は昨夜中村氏を教戒した。
定めて不快の念であろうか、怒気が内心に満ちていようかと、ひそかに案じていた。
しかし家柄と大家とをおそれて、おもねる者ばかりだから、しらずしらず増長して、ついには家を保つ事もおぼつかなくなるだろうと思ったから、やむを得ず厳しく教戒した。
それなのに怒気をたくわえることなく、不快の念もなく、虚心平気にこの句を作った、
その器量は案外大きいように見える、
この家の主人たるに恥じない、この家の維持は疑いない、
古語に、
我を非として当る者は我が師なり とある、
かつ大禹(たいう:古代中国の聖王であった禹)は善言を拝す ともある。
なんじら(門弟)も肝に銘ぜよ。
富家の主人は、何を言っても、ごもっとも、ごもっともと錆つかせる者ばかりで、と石に出合って研ぎ磨かれる事がないから、慢心を生ずるのだ。
たとえば、ここに正宗の刀があっても、研ぐ事がなく磨く事がなく、錆つく物とのみ一つところにに置けば、たちまち腐れて紙も切れないようになるであろう。
そのように、三味線引きや太鼓持(たいこもち)などとだけ交っていて、
それもごもっとも、これもごもっともなどと、こびへつらうのを喜んで明かし暮して、争友の一人もないのは、危ういというべきだ。





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最終更新日  2024.11.23 17:31:35


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