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2024.11.29
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カテゴリ: 健康・元気
「長生きできるか」を左右する腸内代謝物ポリアミン


腸内環境が乱れると不眠、うつ、発達障害、認知症、糖尿病、肥満、高血圧、免疫疾患や感染症の重症化……と、全身のあらゆる不調に関わることがわかってきている

こうした研究から、 認知症の発症と相関関係のある腸内代謝物の一つとしてポリアミン が同定されました。ポリアミンは、プトレッシン、スペルミジン、スペルミンの総称で、すべての生き物の細胞で合成され、細胞の増殖や分化など、細胞のさまざまな生命活動に関わっています。ポリアミンは細胞を正常に保ち、生命活動を維持するのに必要不可欠な物質です。

残念ながら、 ポリアミンを産生する能力は、加齢とともに低下 していきます。ちなみに ポリアミン は、さまざまな食品にも含まれていて、 小麦胚芽や納豆、大豆、熟成チーズやキノコ、エンドウ豆、ブロッコリーなどにも含まれています

細胞を構成しているタンパク質は、時間とともに自然に壊れてしまうのではなく、一定時間後に細胞によって能動的に分解されます。つまり私たちは、タンパク質の合成と分解のバランスによって生きています。このタンパク質の分解には、寿命の短いタンパク質の分解を司るオートファジーと呼ばれるしくみと、寿命の長いタンパク質(ほとんどの細胞を構成するために必要なタンパク質)の分解を司るプロテアソーム系と呼ばれるしくみがあります。



この オートファジーの機能の調節に、ポリアミンが重要な役割 をしています。具体的には、 細胞内で増加したポリアミンが、オートファジーを促して細胞内に蓄積した老廃物を取り除くように作用し、細胞内の環境をよい状態に保つ ことがわかったのです。

ヒトのさまざまな臓器や組織にもポリアミンは含まれていますが、その ポリアミン濃度(とくにスペルミジン) は、 加齢とともに減少 します。30~50歳代の血中スペルミジン濃度の平均値は、60~80歳代の平均値と比較して約3倍高くなっています。

一方で、 90~100歳超の平均値は、30~50歳代の平均濃度と同程度 であることが報告されています。どうしてかというと、90~100歳超でスペルミジンの合成量が増加するというわけではなく、 血中のスペルミジンを高濃度に維持できた人だけが長く生きることができる ということを示唆しています。

ポリアミンを培養液や餌などに添加して酵母やショウジョウバエ、線虫に与えたところ、寿命が延びた
また心疾患モデルマウスにポリアミンの一つ(スペルミジン)を経口投与したところ、心機能が改善されました


ポリアミンが認知機能にも作用するか、研究が進められました。ヒトと同様に、マウスも高齢になると認知機能が低下します。そこで高齢マウスにポリアミンの一つであるスペルミジンを経口投与し、認知機能への影響が解析されました。
解析の結果、経口投与したスペルミジンが、マウスの脳に直接到達していることがわかりました。

スペルミジンを経口投与し続けた高齢マウスに認知機能テストを行い、認知機能にどのような効果が見られるのか確かめました。その結果、空間学習能力や記憶力に改善が見られた
これは、脳の海馬と呼ばれる記憶学習を司る部位のニューロンが、ポリアミン(スペルミジン)の摂取により活性化されやすくなっており、その結果、弱い刺激でも効率的に記憶学習が起こるように変化していた

ポリアミンの一つであるスペルミジンを摂取することで、認知機能の低下を抑制できる可能性があることが示唆された

腸内で作られる「長寿物質」ポリアミン…?!認知症予防研究から見えてきた「驚きのメカニズム」


「アルツハイマー病発症」の原因が「腸」にもある

アルツハイマー型認知症をはじめとする認知症 脳のニューロンにタウと呼ばれるタンパク質またはアミロイドβと呼ばれるタンパク質が異常に蓄積 しています。

細胞内には、微小管と呼ばれるタンパク質があり、細胞分裂や細胞内のさまざまな物質を輸送する際のレールの役目を担っています。この微小管にタウタンパク質が結合することで、微小管の構造を安定化しています。しかし、ひとたび タウタンパク質に異常が起こると、タウタンパク質同士が互いに凝集して線維状の構造をとるようになり、細胞内で蓄積し、除去が難しくなります

一方、 アミロイドβは、脳内にあるアミロイドβ前駆体タンパク質が酵素によって切断されることで産生 されます。 タウタンパク質と同様に、互いに凝集して線維状の構造をとるようになると、細胞外で蓄積し、除去することが難しくなります

これまでの研究から、 タウタンパク質やアミロイドβの異常な蓄積がニューロンの細胞死を引き起こし、認知症の原因となる可能性が報告 されています。しかし、なぜ異常な蓄積が起こるのか、その詳細な機構については明らかになっていません。蓄積させない方法や、蓄積後に効率よくニューロンから除去するしくみが解明できれば、認知症の治療や予防につながると考えられています。

じつはタウタンパク質やアミロイドβ以外にも、認知症に関係するタンパク質がいくつか知られています。それは、血中で水に溶けないコレステロールなどの脂質を運搬する役目を担っているリポタンパク質です。また、このリポタンパク質に結合して脂質の可溶性を補助しているのが、アポリポタンパク質です。

アポリポタンパク質にはさまざまな種類がありますが、その中でもアポリポタンパク質E(アポE)には3種類の遺伝子型があり(それぞれE2、E3、E4遺伝子と呼びます)、ヒトはそのうちのどれか一つを保有しています。その中でもE4遺伝子を保有していることがアルツハイマー型認知症を発症する危険因子として知られています。

ヒトで見られるアルツハイマー型認知症の症状をマウスで引き起こすためには、アルツハイマー型認知症の発症に関連するヒトの遺伝子をマウスの遺伝子と入れ替える必要があります。具体的には、ニューロンにタウタンパク質が異常に蓄積するヒト由来の遺伝子変異(タウ遺伝子変異体)とヒト由来のアポE4遺伝子の2つを、マウスがもともと保有しているタウ遺伝子とアポE4遺伝子と入れ替えたマウス(TE4マウス)が作出されました。このTE4マウスは、加齢によってタウタンパク質がニューロンに異常に蓄積し、アルツハイマー型認知症を自然に発症します。

これまでの研究から、 認知症の発症により腸内マイクロバイオータの組成が大きく変化 することが明らかになっていました。そこでこのTE4マウスの腸内マイクロバイオータの組成を変化させた際、ニューロンにタウタンパク質の蓄積が起こるのかどうかについて解析が行われました。

驚いたことに、TE4マウスを無菌状態、つまり腸内マイクロバイオータが存在しない条件で飼育したところ(無菌TE4マウス)、ニューロンへのタウタンパク質の蓄積が抑えられ、アルツハイマー型認知症の発症が通常よりも遅くなりました。一方で、無菌TE4マウスに正常マウスの腸内マイクロバイオータを移植すると、ニューロンにタウタンパク質が蓄積するようになり、アルツハイマー型認知症の発症が通常よりも早まったのです。

腸内マイクロバイオータが腸内に存在することでアルツハイマー型認知症を発症するまでの時間が短くなったということは、腸内マイクロバイオータによって産生される何らかの腸内代謝物とアポE4が相互作用することで、ニューロンへのタウタンパク質の蓄積が促され、アルツハイマー型認知症を引き起こしていることを示します。逆にいえば、 アポE4遺伝子をたとえ保有していたとしても、ニューロンへのタウタンパク質の蓄積を引き起こす腸内マイクロバイオータや腸内代謝物を同定さえできれば、アルツハイマー型認知症の発症を抑えることが可能 になるかもしれないということです。

私たちの周囲にはさまざまな微生物が存在しています。そのため、完全に無菌の状態で生活することは困難ですし、生まれたときから腸内には母親由来の腸内マイクロバイオータが存在しています。

そこで、通常の環境で飼育したTE4マウスに、認知症を発症することのない成長期の短期間だけ抗菌剤を投与し、腸内マイクロバイオータを一時的に除去しました。その結果、無菌TE4マウスとは異なり、アルツハイマー型認知症の発症を遅らせる効果は見られませんでした。しかし、成長期に抗菌剤を投与したオスマウスにだけニューロンへのタウタンパク質の蓄積が若干抑えられていたのです。この結果は、いったい何を示すのでしょうか?

まず、オスの無菌TE4マウスと、成長期に抗菌剤を投与したオスマウスの腸内代謝物の組成が比較されました。その結果、成長期に抗菌剤を投与したオスマウスでは、腸内代謝物に短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)が統計的に有意に多いことがわかりました。そこで、腸内マイクロバイオータの中でも短鎖脂肪酸を合成する腸内細菌を除去したところ、アルツハイマー型認知症の発症が抑えられたのです。一方で、TE4マウスの餌に短鎖脂肪酸を添加して与えるとニューロンにタウタンパク質が異常に蓄積しました。

つまり、腸内マイクロバイオータが産生する短鎖脂肪酸がニューロンへのタウタンパク質の蓄積を引き起こしたのです(※参考文献4-19)。しかしながら、この研究成果が、そのままヒトにも当てはまるのかについては、現時点では不明です。

この章で取り上げたさまざまな研究成果から、腸内マイクロバイオータや腸内代謝物と記憶や認知機能との間には相関関係がありそうだといえます。 ただし、注意しなければならないのは、これらの物質の生体への作用は極めて複雑で、「特定の細菌や腸内代謝物が腸内に存在すると、記憶力の低下や認知症の発症を防げる(あるいは病気にかかる)」といった単純なものではなさそうだ ということです。今後の研究の進展が待たれます。

注意しなければならないのは、スペルミジンがどのようにして認知機能を改善するのか、また1日の食事でどれくらいの量のスペルミジンをどれくらいの期間にわたって摂取すればよいのか(毎日摂取するのがよいのか、週に1度の摂取でよいのかなど)、といった因果関係については明らかになっていません。今後の研究に期待したい

💛つまりは、「小麦胚芽や納豆、大豆、熟成チーズやキノコ、エンドウ豆、ブロッコリーなど」を摂取すると、「アルツハイマー型認知症予防」や「長命」に資する可能性があるということかなあ?

納豆、大豆、熟成チーズ、ブロッコリーは毎日摂取してるぞ(^^)





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最終更新日  2024.11.29 23:05:51


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