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報徳記 巻の一
【一】 二宮 先生 幼時 艱難 事跡 の 大略
茲
に 二宮金次郎尊徳
先生
の 実跡
を 尋
ぬるに、 歳月
久
しくして 其
の 詳細
を 知
ることあたはず、 且
先生
謙遜
にして 自己
の 功績
を 説
かず、 聊
か 邑人
の 口碑
に 残
れりといへども 万
が一に 及
ばず、 又
鄙人
の 口碑
何
ぞ 其
の 大志
深遠
の 誠心
を 察
する 事
を 得
んや。 聊
か 常 人
と 異
なる 所
を 唱
ふるのみ。 復
安
んぞ 其
の 深理
実業
を 見
るに 足
らんや。 然
りと 雖
も 之
を 記
さざる 時
は、 弥々
其
の 才徳
功業
湮滅
し、 漠然
として、 誰
か 先生
幼若
の 時
より 異
志
出
群
の 所行
を 知
らん。 是
れ 豈
に 歎
ずべきの 至
りに 非
ずや。 是
の 故
に 已
むを 得
ず、 邑
民
の 口碑
に 基
づき、 斯
に 筆
を 操
りて 其
の 概略
を 記
せり。
先生
姓
は 平
、 名
は 尊徳
、 通称
金次郎
、 其
の 先
曽我氏
に 出
づ。 二宮
は 其
の 氏
也
。 同
じく 二宮
と 称
する 者
相模国
栢山村
に 凡
そ八 戸
あり。 皆
其
の 氏族
也
と 云
ふ。 父
は 二宮
利右衛門
、 母
は 曽我別所
村
、 川窪某
の 女
なり。 祖父
銀右衛門
常
に 節倹
を 守
り 家業
に 力
を 尽
し 頗
る 富有
を 致
せり。 父
利右衛門
の 世
に 至
り、 邑人
皆之
を 善人
と 称
す。 民
の 求
に 応
じ、 或
は 施
し 或
は 賑貸
し、 数年
にして 家産
を 減
じ、 積財
悉
く 散
じ 衰貧
既
に 極
る。 然
りと 雖
も 其
貧苦
を 安
んじ 敢
へて 昔日
施貸
の 報
を 思
はず。 此
の 時
に 当
つて 先生
を 生
む。 実
に 天明
七 丁
未年
七 月
二十三 日
なり。 次子
三郎左衛門
、 其
の 次
を 富次郎
と 云
ふ。 父母
貧困
の 中
三 男子
を 養育
し、 其
の 艱苦
言語
の 尽
すべきにあらず。 于時
寛政
三 辛
亥年
、 先生
僅
かに五 歳
、 酒匂川
洪水
大口
の 堤
を 破
り 数ヶ村
流亡
す。 此
の 時
利右衛門
の 田圃
一畝
も 残
らず 悉
く 石河原
となる。 素
より 赤貧
、 加
ふるに 此
の 水害
に 罹
り、 艱難
弥々
迫
り、三 子
を 養
ふに 心力
を 労
すること 幾千万
、 先生
終身
言
此
の 事
に 及
べば 必
ず 涕泣
して、 父母
の 大恩
無量
なることを 云
ふ。 聞
く 者
皆之
が 為
に 涕
を 流
せり。 某年
父
病
に 罹
り 極貧
にして 薬餌
の 料
に 当
つべき 物
無
し、 已
むを 得
ず 田地
を 鬻
て 金
二 両
を 得
たり。 利右衛門
疾
治
して 歎
じて 曰
く、 貧富
は 時
にして 免
れ 難
しと 雖
も、 田地
は 祖先
の 田地
なり。 我
治病
の 為
に 之
を 減
ずること 豈
不孝
の 罪
を 免
れんや。 然
りと 雖
も 医薬
其
の 価
を 謝
せずんばあらずと。 大息
して 医
に 往
き二 両
を 出
し 其
の 労
を 謝
す。
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