おしゃれ手紙

2005.11.26
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カテゴリ: 父の麦わら帽子



みぞれが降ってきて/表は変に明るいのだ

「雨ゆじゅとて来てけんじゃ」・・・・・・・・・

宮沢賢治の「永訣の朝」を習ったのは、高校生のとき。
以来、時々読みます。

死んでいく、最愛の妹トシに「雨ゆじゅ=あめゆき」を食べさせようと、「鉄砲玉のように表に飛び出す」賢治。

「永訣の朝」を読むと、きまって、父から聞いた父の妹・シゲの話を思い出します。

・・・・・・・・・・
父の妹は、結婚して間もなく、稲刈りの手伝いと秋祭いう口実で、里帰りしました。

シゲも私の父も祖父母も、彼女の里帰りを、どんなに喜んだことでしょう。

ところがシゲは、風邪をこじらせ、肺炎になってしまいました。

肺炎は当時、死の病。
祖母は、秋も深まる寒い中、*「水ごり」*をとり、必死で看病しましたがシゲの容態はどんどん悪くなるばかり。

どんどん衰弱していくシゲに家族の者は
「なにか、喰いたいものは、ないか?」と聞きました。

「スイカが喰いたい。」熱で乾いた口を潤したかったのかシゲは、そう答えました。

稲刈りが終わった季節にスイカがあるはじずもなく、けれども家族みんなで、スイカをさがして歩きまわりました。

「なんとかして、シゲにスイカを食べさせとうてな。」
父から幾度となく聞いた話。
その度に父は、つらそうに言うのでした。



「スイカが食いたい」と言って死んだシゲ。

もちろん、私はシゲに会ったことはないのですが小さい時から何回となく聞いたシゲの話に

「永訣の朝」のトシがだぶり、この時期スーパーでスイカを見ると、ふと涙が出てくるのです。

見たこともない、私の叔母、シゲが死んだのは、今頃でしょうか・・・。

朝夕はめっきり冷え込んできました。



・・・・・・・・・・
**「水ごり」**

水をかぶって、神仏に願うこと。

●毎月26日は、昔の思い出を書いています。

●今回は、以前書いたものに加筆しました。





けふのうちに/とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ

みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ

(あめゆじゅとてちてけんじゃ)

うすあかくいっさう陰惨〔いんさん〕な雲から/みぞれはびちょびちょふってくる

(あめゆじゅとてちてけんじゃ)

青い蓴菜〔じゅんさい〕のもやうのついた/これらふたつのかけた陶椀〔たうわん〕に/

おまへがたべるあめゆきをとらうとして/わたくしはまがったてっぽうだまのやうに/

このくらいみぞれのなかに飛びだした

   (あめゆじゅとてちてけんじゃ)

蒼鉛〔さうえん〕いろの暗い雲から/みぞれはびちょびちょ沈んでくる

ああとし子

死ぬといふいまごろになって/わたくしをいっしゃうあかるくするために/

こんなさっぱりした雪のひとわんを/おまへはわたくしにたのんだのだ

ありがたうわたくしのけなげないもうとよ

わたくしもまっすぐにすすんでいくから

   (あめゆじゅとてちてけんじゃ)

はげしいはげしい熱やあえぎのあひだから/おまへはわたくしにたのんだのだ

 銀河や太陽、気圏などとよばれたせかいの/そらからおちた雪のさいごのひとわんを……

…ふたきれのみかげせきざいに/みぞれはさびしくたまってゐる

わたくしはそのうへにあぶなくたち/雪と水とのまっしろな二相系〔にさうけい〕をたもち/

すきとほるつめたい雫にみちた/このつややかな松のえだから/

わたくしのやさしいいもうとの/さいごのたべものをもらっていかう

わたしたちがいっしょにそだってきたあひだ/みなれたちゃわんのこの藍のもやうにも/

もうけふおまへはわかれてしまふ

(Ora Orade Shitori egumo)

ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ

あああのとざされた病室の/くらいびゃうぶやかやのなかに/

やさしくあをじろく燃えてゐる/わたくしのけなげないもうとよ

この雪はどこをえらばうにも/あんまりどこもまっしろなのだ

あんなおそろしいみだれたそらから/このうつくしい雪がきたのだ

   (うまれでくるたて
    こんどはこたにわりやのごとばかりで
    くるしまなあよにうまれてくる)

おまへがたべるこのふたわんのゆきに/わたくしはいまこころからいのる

どうかこれが天上のアイスクリームになって/おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに

わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ



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・・・・・・・・・・・・・・・

◎自然と人間が仲良く暮らしていたころの話です。
★11月26日 *父の麦わら帽子:里山の歌:「里の秋」* UP





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Last updated  2005.11.26 23:01:49
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Re:昔語り:永訣の朝(11/26)  
和草  さん
「あめゆじゅとてきてけんじゃ」
わたしも この言葉はとても美しく
悲しく、心に残る言葉です。
死に行く身内に限りない愛を感じます。

宮沢賢治の素朴さ
子どもが学校で「やまなし」を習いました。
「くらむぼんはわらったよ・・・」

美しい詩の言葉はいつまでも
心に響いてきます。 (2005.11.27 10:26:46)

Re[1]:昔語り:永訣の朝(11/26)  
和草さん
賢治と妹のトシ子はとっても気があっていたそうですね。その妹が、若くして死んでいくのを見るのはさぞ辛かったと思います。昔は、こんな悲しい別れが沢山あったのでしょうね。
賢治の「ヨタカの星」もすごく考えさせられる物語です。

>「あめゆじゅとてきてけんじゃ」
>わたしも この言葉はとても美しく
>悲しく、心に残る言葉です。
>死に行く身内に限りない愛を感じます。

>宮沢賢治の素朴さ
>子どもが学校で「やまなし」を習いました。
>「くらむぼんはわらったよ・・・」

>美しい詩の言葉はいつまでも
>心に響いてきます。
-----
(2005.11.27 23:39:04)

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