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ウイリー (自信有りげにラリーに寄りかかり、低い震え声で)上のあの部屋は地獄みたいだよ。俺が想像した事柄、(身を震わす)俺は発狂したかと思ったよ。(情熱的な自慢のプライドを示して)俺は取り敢えず出直すよ。明日の朝までにはワゴンに乗る。まず最初に服を受け戻す、ヒッキーが俺に金を貸してくれたから。いつも言っていた事をするつもりだ、例の事務所に行く。彼は俺の老人組の善友だよ。それからただひとりの助手さ。彼は汚職に加わっていたが、俺の老人組は彼を裏切らなかった。それで彼はそれを恩に着て俺にチャンスをくれた。それに彼は俺がりゅうとした法律学徒だと知っているのだよ。(自分を盛り立てるようにして)おー、俺は善をなせるし、今では飲んだくれを完全に克服してしまった。(感動して)ヒッキーには随分と借りがある。彼は俺を自分自身に目覚めさせてくれたよ。何たる馬鹿かを見ろってね。自分と向き合うのは辛いことだが…、(苦々しい拒絶心で)彼が言った事ではないがね。後で感じることなのだが…、彼は仄めかしたのだ。神よ、こう思ってくれたまえ、俺が自分の人生に本当にしたいと思ったことの全ては、ここに座って酔いしれる事だ。(憎しみを込めて)彼に示してやろうよ。ラリー (皮肉な口調の背後に哀れみを包み込んで)もし君が俺の忠告が欲しいのなら、一番近くにあるボトルを口に運んでヒッキーに罵りを発しないようにしろよ。ウイリー (貪欲そうにボトルを見つめてから、一瞬ためらって、次に厳しく)それはいいアドバイスだ。君は俺の友人だと思った。(傷ついた一瞥をラリーにくれて、動いて左側のテーブルの端に行き落胆した如くに座り、悲惨さを振り払うように顎を胸に置いた)ジョー (コーラに)いいや、こんなじゃないよ。(拍子を取りながら低い声で歌う)彼女は天国の谷の日の光だ。(コーラが曲を弾く)いい調子だ、もう一度やってみなよ。 (彼女はまた全曲を弾き始める。ドン・パリットがホールから入って来る。ビックリしたような顔である。彼はそっと歩いている、まるで誰かから逃げてでもいるように。ラリーの姿を見ると安心したようになり、ラリーの右に来て椅子に座り込んだ。ラリーはパリットが来たのに気付かないふりをしているが、本能的に反発している。パリットはラリーに寄りかかり低い内密な話を始める調子で迎合するような口調で)パリット ああ、あなたが此処にいてくれて嬉しいです、ラリー。あのバカが、ヒッキーが僕のドアを叩いたのだ。てっきりあなただと思ったのでドアを開けたのです。ヒッキーは勢い込んで入って来て下に来させたのですよ。何の目的なのかは知らなかった。僕はこの誕生の祝宴には加わっていなかった。僕はこの人達を知らないし、その仲間に組み込まれたくはない。ただあなたを見つけるためだけに来たのですよ。ラリー (緊張して)俺は前もって警告したはずだよ…。パリット (聞こえなかったかのように続ける)ヒッキーには自分のことだけをやらせればいい。あの男は好きじゃないのですよ、ラリー。彼の行動を見ていると、僕に何か含む所があるみたいだと思いませんか。ええ、さっきも彼は何か共感を感じているみたいに僕の肩を叩くんです。そして言うのですよ、俺は事情を知っている、青年、だが君は自分から隠れることなどは出来はしないさ、海の底みたいな此処に居てさえもな。君は真実を直視して、自分の平和や幸福に関連した事の為にしなければならないことをするべきなのだよ、ってね。どういう意味だと思いますか、ラリー。ラリー オレが知るもんか。パリット それからニヤリと笑って言うんです、気にするな、ラリーは自分に対して賢くなっている。結局、君は最後には彼の手助けに頼れるのだ。彼は生き続けるか死んでしまうのかを選択しなければならない。老いた偽者にひと息が残っている限りは死を選ばないだろうよ、って。そして笑うんですよ、今のは僕に対する冗談だと言わないばかりに。(一息つく。ラリーは椅子の中で固まり、前を見詰めている。パリッとは憑かれたような声でラリーに訊ねた)どう思いますか、ラリー。ラリー 言うことは何もない。彼以上に君は大馬鹿野郎だよ、奴のいうことに耳を傾けるなんて。パリット (冷笑して)そうですか。あなたが関係する所では彼は馬鹿なんかじゃありません。彼はあなたの流儀を受けつでいるのですからね、大丈夫なのですよ。(ラリーの顔は固くなるが黙まったままである。パリットは罪を悔いている、訴えるような態度で)そういう意味じゃありません。でもあなたは僕に対して大マジじゃありませんか。そしてヒッキーは僕の迷える子羊なんですよ。あなたは僕が最も欲しているのは、あなたの友人になることだって知っていますよね、ラリー。僕にはこの世にたった一人も友が残っちゃいない。僕があなたに望むのは…、(厳しく)あなたも同様なんで、御自分を傷つけているのだ。あなたには義務がある、マザーの為に。彼女は真実あなたを愛していた。あなただって彼女を愛していたんでしょ。ラリー (緊張して)死者は墓場にそっとしておくべきなんだよ。パリット 僕はほんの子供だけれども、あなたや彼女について賢明だとはあなたは思わない。でも、僕は賢明なんですよ。僕は自分が記憶している限り賢明だった、彼女が関係した男達については。彼女はそうではないと僕をからかったけれども。それは愚かな曲芸だった、自由な無政府主義者の女性としてはね。自由であることを恥じていたのですよ。ラリー 口を閉じろよ。パリット (罪を恥じるようにではあるが不思議な満足感を背後に秘めて)はい、そうでした、それを今言うべきではなかった。彼女がもう自由ではないことを僕は忘れ続けていのですよ。(一息つく)知ってますか、ラリー。彼女が最も気遣った大勢の中の一人にしか過ぎない。あの運動を離脱した誰もが彼女にとっては死んだ者なんだ。でも彼女はあなたを忘れられなかった。彼女は何時でもあなたの為に言い訳をしていた。僕は努めて彼女をあなたに心配をかけさせようとしていたのですよ。僕は言ったものです、ラリーには知恵があるのでまだ運動は単なる狂気のパイプドリームだって考えているのだ。彼女は飲酒があなたをダメにしていると非難している。運動に明日にでも戻って来て欲しいのだよ。彼女は言っていたさ、ラリーは自分の中の信念を殺すことはできない、命を捧げていたから。自分を殺すことに繋がるから。(冷笑して)どうですか、ラリー、彼女は正しかったか。(ラリーは黙ったままで、パリットは話を続ける)彼女が本当に望んでいたのはあなたが彼女の元に復帰することだった。彼女はいつだって運動を自分に関連付けていたからね。僕は確信しているのだが、彼女は心底あなたを愛していた、ラリー。自分自身と同じくらいにあなたに惚れ込んでしまっていた。でも、あなたに忠実だったのでもない、そうでしょう。それが最終的にあなたが彼女から離れた理由なのですね。僕はあなたが彼女とした最後の喧嘩を覚えている。僕は耳を澄ましていたんですよ。僕はあなたの味方だった、彼女が僕の母親だったけれども、僕はあなたが大好きだったから、あなたはずっと僕によくしてくれていた、父親のようにね。僕は覚えていますよ、彼女が高踏的で強力な女性仲間に話しているのを、あなたは依然としてブルジョワ道徳や嫉妬、あなたが愛した女性を自分が所有している財産の一部だと言う思想の奴隷だって。覚えているのだが、あなたは狂気のようになって彼女に言ったのを、俺は君のような売春婦となんか生活を共にしたくはない、と。ラリー (叫ぶ)嘘だ。俺はそんな風に呼んだことはないぞ。パリット (ラリーが何も言わなかった如くに)それで彼女はあなたを尊敬しているのですよ。あなたの方が彼女を捨てたから。あなただけが彼女を鞭打つ資格があるのですよ。彼女は相手が彼女を袖にする前に彼女の方から唾を吐きかけていた。そういう人達を彼女が気にかけていたとは僕には思えないのですよ。彼女は愛人たちと自分が自由だということを自分に証明する為に付き合っていたので。(一息つき、それから厳しい反発を見せて)それが家庭を不潔にしたんだ。あなたもそう感じたと思う。僕はまるで売春宿で生活しているみたいに感じ始めていた。それに悪いことには、彼女は自分の人生を…、ラリー この腰抜けめ。彼女は君の産みの母親じゃないか。恥を知れ。パリット (厳しく)いいえ、彼女は家族を敬愛するのはブルジョワの財産所有欲の権化なのだと僕に信じさせるように教育したんです。何故、僕が恥を知らなければならないのですか。ラリー (立ち上がる動きをして)もう沢山だよ。パリット (ラリーの腕を掴み、哀願するかのように)いいえ、僕をほっとかないでくださいよ。どうか、二度と彼女の事は口にしないので。 (ラリーは椅子に腰を下ろした) 僕はあなたが事態をよりよく理解するようにと話をしただけなのですから。此処がそれに相応しくない場所だと承知しておるのです。何故上に上がって来てはくれなかったのですか、僕がお願いしたように。僕は待ち続けていたのです。あそこでなら、僕らは何でも話せたのです。ラリー 話すことなどは何もないぞ。パリット でも、僕はあなたとお話がしたかった。そうでなければ、ヒッキーとでも。彼は僕を一人にしてくれなかった。とにかく、彼は事情を知っていると思うから。彼流に理解していると僕は思っている。でも、僕は彼の心根が憎いのです。彼とは何もしたくはないのです、正直、彼が怖いのですよ。彼の嫌味な笑いや冗談の背後に人間的ではない何かがある。
2024年03月28日
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ヒッキー (熱狂的な調子で)ジョーは正しい考えを持っている。大ジョッキだ。それはハリーの誕生パーティーへの景気づけだ。 (ロッキーとチャックがワイン籠をバーへ運び込んだ。三人の娘は戻ってバーへの入口に立った。仲間内できゃっきゃとお喋りをし、バーの中のロッキーとチャックに話しかけている)ヒューゴ (バカバカしい笑い声を出して)俺等達は柳の木の下でワインを飲む。ヒッキー (ヒューゴにニヤリと笑いかけ)景気づけだよ、兄弟。そして不潔な奴隷には酢を飲ませろ。 (ヒューゴはヒッキーを吃驚したように見てから、目をそらした)ヒューゴ (呟く)大嘘つきめ。 (両腕を頭の後ろに回し、目を閉じた。が今度の習慣的な失神は身を隠している性質のものだ)ラリー (憐憫の一瞥を与えて、怒りを込めた低声で)ヒューゴはほっとけよ。奴は自分の信念とかで十年も監獄で腐っていたんだ。夢を獲得したんだよ。親切も哀れみも無用だよ。ヒッキー (困惑したように)元気かい、これは何だ。君はスタンドプレイが過ぎるよ。(それから単純な熱意で、ラリーの傍の椅子をとって彼の肩に手を置いて)聴けよ、ラリー、君は俺を全く誤解してる。そう、俺をもっと深く理解しなければいけないよ。俺はいつだって世界で一番善良な腰抜けさ。勿論、俺にも人を憐れむ心はあるさ。だが俺は今、光を目にしているんだよ、それは昔からの俺の憐憫なんかじゃない、君等と同じ性質のものさ。それは誰か哀れな奴を元気づけて嘘で自分をからかわせる、そんなものじゃないんだ。哀れな腰抜けをもっと悪くしている性質なのは前よりももっと罪深さを感じさせるからで。嘘の希望で自分を傷つけて、自身の目にもどうしようもないクズ野郎だと決め付けるまで自分を非難させる性質のものだよ。俺はその種の哀れみを全部知っている。俺は俺なりに腹いっぱい体験したし、全部良くはなかったよ。(商売人の説得力を示して)いいや、今俺が感じている憐憫は実際に哀れな奴を救うだろうし、現在ありのままの自分に満足させるし、自分の心の葛藤を解消して、残りの人生を平和理に送れるようにする。君は俺が明瞭に示している道を憤慨して拒絶する理由を知っている。俺は君を責めないよ。俺は自分の経験で承知している、鏡の前で付け髭を外して自分と対峙するのは苦々しい薬だよ。でも、一回完治したことは忘れてしまえよ。君は俺に感謝するさ、突然君が恥ずかしさを感じないで大げさな馬鹿哲学者と偉大なる眠りを待っているのはパイプドリームだと、明朗に認識出来た際に。君は自分に言うよ、俺は自分を畏怖している老人だと。でも俺は死すらも恐れているのだよ。それで俺は飲んだくれて生にぶら下がっている、どんなに高くついてもだ。だから何だって、やがて君は知るだろうよ、真の平和が何を意味するかを、ラリー。君は生も死もどちらも恐れてはいない。君は単純にバカをやりたくないだけだ。俺以上にな。ラリー (ヒッキーの目を見つめながら、一種魅了された不思議な恐怖感で)ああ、神様、君が完全に発狂したなんて思い始めているぞ。(怒りの発作で)この嘘つきめ。ヒッキー (傷ついたように)さあ、聴いて、君を手助けする旧友に話しかける方法がそれだ。やい、君が本当に死にたいのなら、ただ火災救助の服を脱いでしまえよ。君がみんなから目立つ位置にいるなら誰も憐れむ必要はないのだ。おお、真実は最初は厳しいのだが、それは俺にとってなんだよ。俺が訊ねたいことの全ては、君が判断を保留して、チャンスを生かすことだ。俺は絶対的に保証する…、畜生、ラリー、俺はバカなんかじゃない。俺は慎重にみんなの内側に入り込んで、旧友とタッグを組んで、仮に確信が持てなくても自分の経験から君等みんなの満足を意味するのだよ。(ラリーはまたヒッキーを魅惑されたように見詰めている。ヒッキーはニヤリとする)俺が名士の家にいることに関しては君らはそこから這い出る訳にはいかないのだ。そう、俺は異常に平静なのだ。俺は男たちを値踏みして人格を変えてしまう力が、以前にも増してあるのだよ。あのパリット少年のような見ず知らずのよそ者であってもだよ。彼は勝者だ、ラリー。彼を安全地帯に連れ出せるただ一つの方法があると俺は思うんだよ。それは彼に対して正しい哀れみを持つことだ。ラリー (落ち着かない様子で)どういう意味なんだい。(無関心を装って)俺は彼に忠告なんかしていないさ、彼の面倒に俺を巻き込まないでいてくれる限りは。彼は俺にとって何でもないのだ。ヒッキー (頭を振って)彼がそれに賛成するかしないかはそのうちに分かるさ。彼が君に手助けしてもらうまで彼は君の後を追いかけるだろうよ。彼は懲罰を受けなければならないので、自分自身を許せるのだよ。彼は現在意気阻喪している。一人では制御できないでいる。そして君は彼が頼りにできるたった一人の人間だ。ラリー 神の愛を求めて、自分の事を気にかけていればいい。(強制した軽蔑を込めて)彼については一杯知っているし、彼は君に殆ど話しかけられずにいる。ヒッキー そう、その通りだ。だが俺は君と同じくらい彼については知っている。俺は心に地獄を抱えているんだ。俺はそれを他人にも見つけるんだよ。(顔をしかめて)多分それが彼と近親の情を持ち、共通の何かがあると感じさせる物なのだよ。(頭を振り)いや、それ以上のものがあるよ。うまく言葉には出来ないがね。彼について話してくれないかね。例えば、彼は結婚しているのかね、どうなんだ。ラリー いいや。ヒッキー 彼は誰か女性と関係を持ったことがあるんかな、つまり売春婦とじゃなくという意味でだが。君を死ぬほどに苦しめている古い真実の恋の相手という意味さ。ラリー (探るような救われたような安堵の表情でヒッキーを見て、自身を励ますように)多分君は正しいよ。俺は驚かないよ。ヒッキー (不思議そうにラリーに笑いかけて)分かったよ。君は俺が間違っていると思っているし、それで喜んでいる。パリットが偉大なる理性の為に何をしても俺は疑ったりはしない。それは君が自身についているもう一つの嘘さ、ラリー、良き古い理性などもはや君には無意味なのだ。(ラリーは性急に否定しようとするがヒッキーは言葉を続ける)だが、君はパリットについてまるで見当違いをしている。それは背後に隠れている物じゃないよ、それは或る女なのだよ。俺はその徴候を認めているのさ。ラリー (嘲笑って)そして君は決して間違わない少年なのだ。バカをするなよ。彼の問題は彼が敬虔な運動の信奉者として育てられたことなのだ。しかも彼は既にその信仰を失ってしまっている事だ。衝撃的なことだが、彼は若いから同じような善良な別の夢を見つけるだろう。(皮肉に付け加えた)同じくらい始末に悪い夢だ。ヒッキー 分かったよ。そうさせようよ、ラリー。彼は俺にとって何でもないし、此処にいれば君が自身に目覚める手助けをするから、俺は嬉しいのだ。俺は奴などは好きでさえないが、我々の間に何がしかの物がある感情もあるのだ。しかし君は俺が同じくらいに正しいと分かるだろうう。君が彼との最後の土壇場にたどり着いた時にだよ。ラリー 土壇場などないよ。俺はヘボ職人になんか何もやらないぞ。ヒッキー 古い観覧席にしがみついて、なあ。そう、君は仲間を固く信じている豪の者だと俺は承知している。そしてハリーやジミートモローと並んで君は俺が手助けしたいと思う一人なのだ。(片腕をラリーの肩に回し、愛情あるハグをした)俺はいつだって君を大いに好いていたよ、古い偽者め。(立ち上がって、彼の態度は急き立てられたパーティー興奮に変化して、腕時計を見て)そう、そう、もうすぐ十二時だ。諸君、急ごうじゃないか。(ケーキのあるテーブルを見下ろして)ケーキは大丈夫、よしと。そして、俺のプレゼント、君の、娘たちの、チャックの、ロッキーの、結構だよ。ハリーは君が彼を思っていることに確かに感動している。(娘たちの所に戻る)バーへ行ってくれ、パールとマギー、食べ物を用意して、部屋に運び込んでくれ。酒と焼きパンを最初にしてくれ。俺のアイデアはワインをそれに使うのだ、だから準備を頼むよ。俺は上の階に行って全員を呼んでこよう。ハリーは最後だ。俺が彼を連れてくる。俺と彼が来るのがわかったら誰かロウソクに火をつけてくれ。コーラ、君はハリーのお気に入りの曲を弾いてくれ。張り切ろうぜ、みんな。型どおりに決めようや。 (彼はホールへと急ぎ、マギーとパールはバーに姿を消す。コーラはピアノに向かう。ジョーはむっつりしながらも彼女の為に椅子を引いてやる)コーラ 練習しておこう。もう大分曲を弾いてないからね。(彼女はそっとペダルを踏み、天上の谷の日の光を探るように弾き始めた)こうだったかしら、ジョー。私、曲の調子を忘れてしまったわ。(数音を弾いてみる)ねえ、ねえ、メロディーを口ずさんでよ、それを辿るからさ。 (ジョーは低い声で口ずさみ始め、コーラを訂正する。彼は自分の不機嫌さを忘れ、元の彼らしさを取り戻している)ラリー (急に笑い、その滑稽な急迫した狂的な調子で)神様、それはバルシャザールの第二祝祭でヒッキーが壁に書かせたものだ。コーラ ああ、お黙りよ、古いお墓め。いつも不平ばかり言ってるよ。 (ウイリーがホールから入って来る。彼はみじめな様子であり、顔は青白くて睡眠不足と神経からひどくやつれた風で、目は病的で霊に取り憑かれたような感じである) あらまあ、ウイリー王子じゃないかい。(やさしくなって)まあまあ、いい子よ、病気かね。酒でもお上がりよ。ウイリー (不自然な感じで)結構だよ。今はね。元気が出ないんだよ。(ラリーの右に腰を下ろす)コーラ (吃驚したように)何だって。何を言いたいのだか。
2024年03月27日
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ロッキー (しか目面をして)何だって。ハリーは随分お前によくしているな。ジョー (恥ずかしそうに)確かに。そういうつもりじゃなかった。いずれにしても大丈夫だよ。俺は警察のシュバルツに祝宴の為に店を閉めると告げたよ。彼は人々を中へ入れないようにするだろう。(再び攻撃的になって)俺は大酒を喰らいたい、それだけだ。チャック 誰がお前さんを止めているのだい。お前はヒッキーに関して何でも出来るのだよ。ジョー (テーブルからグラスを取って、ヒッキーの名前が声に出された時にボトルに手を伸ばした。彼は何かを拒否するかのように手をひっこめた。次には喧嘩腰でボトルを掴み、なみなみと酒を注いだ)分かったよ。俺は彼の飲み代は稼いだ。一年中あいつの与太話を聞いて酒を飲めるよ。奴が破傷風に罹る希望が生じているのさ。(彼は酒を飲んで、更につぎ足す)俺は彼の為に酒を飲むが、一緒には飲まないよ。そうだ、もう二度とは。ロッキー この牡牛め。ヒッキーは大丈夫だが、彼がお前に何をしたと言うのだよ。ジョー (膨れて)お前には関係ないだろう。俺はお前につっかかちゃいないぞ。(辛辣に)確かに君はヒッキーは大丈夫だと思うだろうよ。彼は白人だからな。(口調は攻撃的になる)俺の話を聴けよ、この白人どもめ。お前たちの頭から俺の事は消してしまえ。俺が現にどうあろうとしているかとか、現在の自分を誇りにしているのだって、理解できるかな。さもないと、俺と君等は面倒を起こすことになる。(酒を手にして、周囲から出来るだけ離れる様にして、ピアノの前の座椅子にどんと腰かけた)マギー (低い怒りの口調で)何ていう騒ぎだい。われわれがヒッキーに良くしたからって、彼は前から頭がいかれているのだよ。黒人だったとしても全ておじゃんなのさ。チャック 喧嘩腰の話かね、俺は黒人は嫌いだよ。(ジョーに脅すように近づいて行くが、ジョーの方はしおらしく頭を垂れてしまう)ジョー (恥ずかしそうに)聞いてくれよ、諸君。俺は謝るよ。そういう意味じゃなかったのさ。君等はずっと俺の良き友だった。俺はいかれぽんちなんだよ。あのヒッキーは俺の頭を掻きまわして狂わしてしまったのだよ。 (周囲の者達の顔は彼に対する拒絶を解消してしまっている)コーラ もういいわ、ジョー。皆はあんたが本気だなんて思ってはいないから。(みんなに向かって、無理に笑いを作り)私が言いたいのは、ヒッキーは誰も見下してなんかいないってことさ。ジョーに対してだってね。(一旦言葉を切って、困惑したように加えた)可笑しなことに彼が姿を現す時に誰も素面ではいられないことよ。彼があの勿体ぶった御説教を忘れれば、そしてあんた等が離れている場所を彼に話すのを止めれば、ヒッキーは同じ昔ながらの男なのだからね。あんた等はあのシラミみたいな奴を好きにならざるをえないのさ。そして彼がアヘンを吸引するのを認めてやらないといけないよ…、(急いで付け加えた)つまり、ここのかすみたいな奴と一緒にさ。マギー (冷やかすようにロッキーを見て)そう、彼は私が捕まえた男をカモにしたよ、ねー、パール。パール 彼がカモに。ロッキー やめろッ、そう言うぞ。ラリー (前方を幅広く見て、周囲の者にと言うよりは自分自身に声に出して言う)ヒッキーに何が起ころうと俺には無関係だ。彼は俺達に語りたくて仕方がないのだと俺は感じている。彼の内部で、恐れているんだよ。彼はあの駄目な子供みたいだ。彼が自身を認めている独特な奇妙なやり方は不思議だ。もし彼が恐れているのなら、それで彼は飲酒を絶ったのだろう。あの駄目な子供をまた引き合いに出そう。彼が酔っぱらうのを恐れているとすれば、彼は言うかもしれない…。(ラリーが話している間に、ヒッキーが背後のドアから中に入って来る。彼は第一場と同様に見えるが、ただ一つ、パーティーに行く少年の如くに期待で顔が輝いている。彼の両腕には包装した品物が抱えられている)ヒッキー (人気のポロ観覧席の応援の声の様に景気よく、次第に声を張り上げて)さあ、さあ、さあ! (みんなは吃驚して飛び上がった。ヒッキーはニヤニヤして前進して)俺はきわどく間に合ったぞ。この包みに誰か手を貸してくれないか。 (マギーとパールがヒッキーに手を貸して、荷物をテーブルの上に置いた。彼がこの場に来た以上は、彼等の態度は前にコーラが表現した反応を示している。彼等は彼が大好きで、彼を許さないではいられないのだ)マギー ねえねえ、ヒッキー。あんたは一年越しで私を驚かしたわよ、あんな風にそっと入って来てね。ヒッキー そっと入ったって。俺とタクシーの運転手は死人でもびっくりして飛び起きる様な大騒ぎを入り口のところでやらかしなのだ。君等は全員酒を飲むのに忙しくて、ここの老賢人から智慧の言葉を浴びながらだが。他には何か聞こえないのかな。(ラリーにニヤリと笑いかけて)俺が聞いたところによると、シャーロック・ホームズ遊びを始めたころは今ほどは善人じゃなかっよ。君が俺を全て悪くしたんだ。俺は今じゃ何も恐れてはいない、俺自身もだ。君達は古い墓地、永遠の眠りの客引き、の一部に縋り付いて、つまり、君等がそこから離れればいいのさ。(くっくと上機嫌で笑い、ラリーの背中を友愛のしるしにかるく叩いた) (ラリーはヒッキーに厳しい怒りを示した) コーラ (キャッキャッと笑い)古い墓地だって。それがヒッキーさ。我々はこれから彼をそう呼ぶことにしよう。ヒッキー (からかうようにラリーを見て)俺についての謎かけを一杯始めたらどうだい、ラリー。だが、それは助けにはならないよ。君は自分を考えることに専心したらいいよ。俺の平和を君にやるわけにはいかない。自分の平和は自分で見つけなくては。俺に出来る事のすべては君を手助けすることだけだ。その残りは、それを見つけ出す方法を示すことだ。(彼はこの言葉を単純に説得力のある熱意で言った。一息ついて、しばらくラリーを魅惑された拒否の不安さを見せながら見詰めている)ロッキー (魔力を打ち破るように)ああ、教会を貸し切りにしろ。ヒッキー (宥める様に)分かった、分かった。静粛にしてくれ、諸君。俺の声は不潔な説教師のようだろうが、それは忘れて祝宴に没頭しようや。 (みんなは安心)チャック この包みは食べ物なんだ、ヒッキー。軍隊に食料を補給する程買い込んだよ。ヒッキー (再び少年のように興奮して)買いすぎじゃあないよ。俺はこれが最大の誕生日だとハリーが感じてもらえれば嬉しいのだ。君とロッキーはホールに行って大きな驚きを受け取って呉れ。俺の両腕は荷物で痺れてしまっている。 (周囲の者はヒッキーの興奮に気づく。チャックとロッキーは何かを期待するように出て行った。三人の娘は好奇心に胸を膨らませるようにしてヒッキーの回りに集まった)パール あんたは私等を興奮させてるよ。何なのさ、ヒッキー。ヒッキー 待ちなよ、他の誰にと言うよりも、君達可愛い子ちゃんへの御褒美として買ったんだよ。心の中で考えた、何よりもこの売春婦達を喜ばせるべきなのだってね。(三人は彼に叩かれでもしたようにたじろいだが、彼女らが怒り出す前に彼は愛情を込めて続けた)俺は自分に言ったさ、いくらかかったって構わない、彼女らにはそれだけの価値があるのだから。彼女らは世界で最高の小さな集団だ、俺が地獄の苦しみを味わっていた時に、ひどく親切にしてくれたよ。どんな品物だって彼女等に勿体ない事はない。(熱心に)その言葉通りだ、それに、プラスアルファ―がつく。(それから、初めて彼女達の表情に気づいたかのように)どうしたんだね、おおマジだね、何だね…、(クックと笑った後で)ああ、分かったぞ。俺がどんなふうに感じているか解るだろう。君等を傷付ける意図などないさ、だから馬鹿な事を考えちゃアいけないよ。マギー (軽く息継ぎして)大丈夫よ、ヒッキー。先を続けてよ。ヒッキー (歓喜で顔を輝かせながら、チャックとロッキーが枝組細工のかごを運びながら部屋に戻って来るのを見迎えた)見ろよ、来たぞ。包みをあけろよ、君達。 (彼等は表面の包み紙をはがす。かごはシャンペンが一杯に詰まっている)パール (子供じみた興奮を見せて)シャンペンだよ、有難う、ヒッキー。気障な人じゃないよ。(彼女は彼をハグして、全ての憎悪を忘れている、他の娘も同様だ)マギー 私はシャンペンで酔いつぶれた経験はないのよ。酔おうよ、パール・パール 人生を謳歌しようよ、二人してね・ (賑やかな休日の精神が全員を包み込み、ジョーモットでさえニヤニヤしながら立ち上がってワインを羨ましそうにみる。ヒューゴは頭をもたげてシャンペンを見ている)ジョー 君は確かに高い所を目指しているよ、ヒッキー。(得意げに)俺が賭博場を経営していた時に、泡のたつ液体を大ジョッキで飲んだ、(何か罪を犯したかのように一息ついてからヒッキーに反抗的な視線を向けて)俺はまた酒を以前の様にのむつもりなんだ、垣根を取っ払ってしまい。それはパイプドリームなんかじゃないよ。(彼は自分の席に戻り、みんなに背を向けた)ロッキー 酒を飲み干そうぜ、ヒッキー。ワイングラスがないぞ。
2024年03月23日
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マギー (コーラを睨んで)パールをほっといておやりよ、ロッキー。彼女は金髪の時計を訂正したのさ。それでなかったら、私がそうするよ。ロッキー お前、黙れ。(吐き捨てる様に)何て女郎だ。お前はハリーのパーティーにケチをつけようと言うのか。パール (ちょっと恥ずかし気に、気難しそうに)誰がそんなことを…、でも、誰にもそんな口はきかせないよ。ロッキー (怒りを込めて)ああ、やめろよ。貴様は何様なんだよ。 (パールはロッキーを見詰め、彼女の顔はこわばり、厳しくなる。マギーも同様である)パール あんたは私もまた売春婦だって言いたいわけ。マギー そうよ、私の事もよ。ロッキー 文句を言うなよ。パール 私とマギーがあの薄汚いヒッキーの事であんたにくってかかっているのじゃないよ。ヒッキーに私等が売春婦だって認めさせてやりなよ。ロッキー 分かったよ。それがどうしたんだ、本当の事だ。コーラ (パールとマギーに同調して、憮然としたように)ねえ、ロッキー、パールとマギーの二人の娘はあんたにとって素敵な存在だったじゃないか。(パールに)私はロッキーみたいに売春婦だなんて呼ばないよ、わたしゃ気違いだからね。パール (この訴えを嬉し気に受けて)確かに、私も狂人だよ、コーラ。悪感情を持たないでよ。ロッキー (救われたように)さあさあ、それで全てが納まった、そうだろう。パール (ロッキーの方を向いて、厳しく、辛辣に)分かったよ、ロッキー。私等は売春婦さ。それが何を意味するか、あんたは分かっているでしょうよ。ロッキー (怒って)見ろよ、なっ。マギー 薄汚い小女衒め、それがどうしたのさ。ロッキー こうしてやる。(マギーの横っ面をぴしゃりと叩いた)パール 薄汚いケチな女衒野郎め、それがどうしたのだい。ロッキー (パールにもびんたをくれて)お前にも、こうしてくれる。 (二人の娘はロッキーを厳しい冷笑で見つめている)マギー 彼は私等に示しをつけたのさ、パール。パール そうね、ヒッキーはロッキーを洗礼してしまった、彼は自分のパイプドリームを捨て去ったのよ。ロッキー (憤激して、同時に彼女達の反抗にどぎまぎしながら)ほっといてくれよ、さもないともっと暴れてやるぞ。チャック (ぶつぶつと不平を言う)ああ、やめろよ。ハリーのパーティーは文句なくお前達の度肝を抜くことになるだろうよ。ロッキー (チャックの方を向き)何だって、誰に対してお前は口をきいているのだよ。俺は何もしないよ。俺を誰だと思っているのだ。俺はただびんたをしただけだ、女房が余りに御喋りが過ぎた時に亭主がするようにだ。何で彼女達に俺をほっておけと言わないのだよ。俺はハリーの誕生パーティーに迷惑を掛けたりしたくないだけだよ。マギー (勝利の輝きを目に浮かべて、嘲るように)分かったよ、ケチな女衒さんよ。パールがそうするなら、私もパーティーが終わるまではあんたをほっといてやるよ。パール (嘲るように)ええ、そうするよ。ハリーの為にね。あんため為にじゃないよ、根性曲がりめ。ロッキー (辛辣に)聞けよ、あまっ子。ののしるのはそれくらいにして。 (しかし、邪魔がラリーから入った、彼は皮肉な笑いを投げ入れて。周囲の者は吃驚して跳ね上がり、同様な敵意でラリーを見た。ロッキーは自分の怒りを彼に移して)誰を笑っているのだ。死にぞこないの馬鹿野郎め。コーラ (冷笑して)自分をさ、そうすべきだからさ。ヒッキーは確かにロッキーの番号を受け継いだのさ。ラリー (周囲を無視して、ヒューゴに向き、相手の肩をゆすって、独特の滑稽な、狂的な囁き声で)目を覚ませよ、同士よ。お前の周囲では革命が勃発しているのだ、その間中、お前はずっと眠っていたのだよ。神よ、お前が夢の中で祈りを捧げるべきなのはバクーニンの幽霊になんかじゃないのだ、それは偉大なる虚無主義者のヒッキーになんだよ。ヒッキーは世界中を吹き飛ばす運動をおっぱじめやがったぞ。ヒューゴ (分厚い眼鏡越しにラリーを見上げて、ぶつぶつと非難を始めた)お前、ラリー。裏切者、逆賊め。撃ち殺してやる、(クックと笑い)馬鹿を言うな、酒をおごれ、(前の酒を一気にがぶ飲みし、ガラガラ声で、グラスで拍子を取りながらフランス革命歌を歌い始めた)革命の踊りを踊れ、ビブ ラ ソン 革命を踊れ ビブ ラ ソン 輪唱を!ロッキー 何たる雑音だ。ヒューゴ (それを無視して、ラリーに向かい、憎しみの低い声で)このブルジョワやろうが、ヒッキー。彼は善良な人みたいに笑うし、冗談も言う、ヒントを与えて彼が何を考えているかを俺に推測させる。彼は俺が終わってしまっていると考えている、もう遅すぎる、それで俺は俺の日が来ないように願うのだが、それは断じて俺の日なんかじゃないからだ。ああ、彼が何を考えているか解る。彼は思っているんだよ、嘘はもっと悪いのだと、俺は…。(突然に言葉をとがらせて罪深そうな表情になり、何かを手放してしまったことを恐れるかのごとくに、そして復讐するかのように)俺は明るい光の下で、大勢の中でも真っ先に奴を縛り首にしたやるつもりだ。(突然に雰囲気を変えて、ロッキーを始め周囲の者達を眺めてから、クスクス笑って)何で君達はそう真面目腐っているのだよ、不潔な猿面冠者ども。大ぼらだよな、それで俺達は酔っぱらって馬鹿笑いして、死んでしまうだろうよ、それでパイプドリームも消えるのだ。(辛辣な馬鹿にした軽蔑が彼の口調に入り込んでいる)から元気でもだそうや、不潔な馬鹿どもよ。「 日はまさに灼熱し、おー、バビロンよ 」 やがて、虚けた労働者共、涼しい蔭でピクニックをしよう、ホットドックを食べて、柳の木の下で自由に冷たいビールを飲もうぜ、豚みたいにだ、美々しい虚けた豚みたいにだ、(彼は吃驚したように言葉を止めた、自分が何を言ったのかを聞いて混乱し、怯えたように。憎しみを込めて囁く)あの糞野郎の大ウソつきのヒッキーめ。俺を嘲笑わせるのは奴なのだ、俺は眠りたいのだぞ…、(また折りたたんだ両腕の上に頭をもたせかけて目を閉じた) (ラリーは気の毒そうにヒューゴを一瞥して、急いで酒を一気に呷った)コーラ (落ち着きなく)ヒッキーは誰も見下してなどいないよ。ヒューゴにだって仕事を回してやっているもの。ラリー (鋭く拒否するように)俺は…、(突然に酔っぱらいの善良さを示しているが、これは回避的な誇張の類だろう)分かった、俺に任せろよ、君達をもっと満足させると思ってね。確かに、俺は君等の頭の毛さえ愛しているんだ。俺の偉大なビッグな美しい人形達よ、君等に俺が仕掛ける物を何もないよ。パール (表情を固くして)古いスコットランドの銀行かい。私等は大きくはないよ。それにお前の赤ちゃん人形でもないしさ。(突然に宥められたように笑い)だって私等は美しいのだからね、マギー。マギー 確かに。美しい人形で彼は何を目論んでいるって。値段をつけて老いたヤギに箔をつけようと言うのだよ。(宥める様に笑い、愛情を込めてラリーの肩をポンと叩いた)ああ、それで大丈夫よ、ラリー。あんたは勇猛な牡牛だもの。パール 確かに。あんたは私等の切り札さ。私等は騒々しいだけ、それだけ。あの不潔な金物屋は、なんだっていつもあんな風なんだろうね。あんなに変わった男を見た事が無い。あんたは狐みたいに狡猾な振りをしてる、ラリー。ヒッキーに何が起こったのだと思う。ラリー 知らないよ。奴は無駄話をしてるだけで今のところは自分だけに留めているようだ。多分奴はハリーのパーティーの為に偉大なる啓示を用意している模様だ。(次にイライラとして)彼なんか糞くらえだよ、知りたくもないや。奴には自分の鼻の埃を払わせて、俺は自分の事をやるよ。チャック 俺が言いたかったのはそれだよ。コーラ ねえ、ラリー、あなたの若い友人は何処へ姿を消してしまったのかね。ラリー 奴が何処に居ようと構いはしないさ、ただ、出来るだけ遠くに吹っ飛んでしまえばおんの字だよ。(周囲が彼の激烈さに驚いているのを見て、性急に付け加えた)彼は死病のペストだ よ。ロッキー (一種の忘我の状態で切り出した)ヒッキーに何が起ころうと構わないが、奴が自分の足元に気を付けないと、困ったことが起こるのを知っている。奴に言ってやったさ、お前からは多くの物を得たが、ヒッキー、このごみ溜めのような場所の他のみんな同様に。お前はいつだって大人物だったからな。でも、俺には君やほかの誰からも手に入れていない物がある。それを忘れるなよ、さもないとお前は病院で目覚める始末になるぞ。いや、もっと悪いかもな、お前の女房とあの死神の氷屋が一緒にお前に隠れて逢い引きしてるかもな。コーラ ああ、あんたはあの氷屋に一撃を食らわしたりしたらだめよ、ロッキー。彼が冗談を言うのは構わないけれども…、気づいたのだけど、今度はヒッキーはあの氷屋の冗談を持ち出さなかっよ。(興奮して)もし彼が奥さんに騙されていると知ったらどうするだろうね。私は氷屋とと言う意味ではなくて、誰かの男とさ。ロッキー それは大ぼらだ。彼はそのギャグを持ち出さなかったし、女房の写真もひけらかしはしなかった、酔っぱらっちゃいなかったからな。もし女房に騙されていたと知ったら、彼はぐでんぐでん酔っぱらってしまうだろうよ。彼女を張り倒して、とことん酔いのめしてぶっ倒れるだろうな、他の男と同様に。 (娘達は頷き、この合理的な説明に納得している)チャック そうだよ。ロッキーは麻薬をやっているんだ、可愛い子ちゃん。彼は痺れているのだよ。 (彼が話をしている間に、黒人のジョーがホールから部屋に入って来た。彼には顕著な変化がみられる。彼は荒ら荒しくふんぞり返って歩いているが、善良そうな顔は疑惑でふくれっ面になっている)ジョー (ロッキーに、喧嘩腰で)俺は町角に立ってこの溜まり場は一晩中店を閉めていると話していたんだ。ハリーにドアマンを雇わせて賃金を払わせろよ。
2024年03月19日
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第 二 幕場面 裏部屋だけである。バーとの仕切りの黒いカーテンは場面の上手壁にある。第一幕と同じ日の真夜中に近くなっている。裏部屋は祝祭に備えて既に準備されている。中央に、前の方に四つの丸テーブルが押し詰められて一つの長い列を作っている。テーブルの背後には椅子が並べられている。両端にも椅子が置かれている。この間に合わせに作った祝宴のテーブルにはテーブルクロスが掛けられている。それは近所の店から借りたものでグラスや刃物類、などが十七の椅子の前に並べられている。バーのウイスキーの瓶が座席に座る者から手が届く位置に置かれている、古いアップライトのピアノと座椅子が運び入れられて下手前にある。上手の前には椅子のないテーブルが壁に添っておかれている。室内にあったその他の椅子とテーブルは運び出されており、後方にダンス用の空きスペースが作られている。床はおが屑で清掃されて磨かれている。三方の壁さえもが洗われているのだ。がその結果は、染みで汚れたみすぼらしい外見を浮き彫りにしているだけなのだ。電気の光源には赤いリボンが飾りとしてつけられている。上手の分けられたテーブルの右手前には七つのロウソクが載った誕生日ケーキがある。いくつかの包み紙がリボンをかけられてテーブルの上にある。二つのネクタイの箱、二つの煙草の箱、半ダースのハンカチーフと六つの時計の箱がある。幕が開くと、コーラ、チャック、ヒューゴ、ラリー、マギー、パールとロッキーが板付きでいる。チャックとロッキー、それと三人の娘が正装してその場に臨んでいる。コーラは花瓶に花束を活けている。花瓶はバーから大びんを運んで来てピアノの上に載せてある。チャックは祝祭用のテーブルの足元の椅子に座っている。コーラを見守るようにしているのだ。テーブルの後ろの椅子の列の中央近くに、ラリーが前を向いて坐っている。ウイスキーのグラスを前にして。彼は沈思黙考でもするように顔をしかめて、混乱した瞑想を続けるような感じでいる。彼の左隣にはヒューゴが自分の定位置に収まり、気を失った如くに両腕をテーブルに乗せ、頭の所にウイスキーが一杯に注がれたグラスを置いている。舞台上手のテーブルの中央に、マギーとパールがプレゼントやケーキを配置していて、その脇にはローッキーが立っている。ロッキーとチャックを除く全員がしこたまウイスキーを前にしているが、ヒュウーゴ以外は誰も酔っぱらっていないのだ。彼等はその場に相応しく元気を出そうと努力してはいるが、彼等の態度はどう見てもぎこちなくて、内部では神経的にイライラして、半ばは放心しているありさまだ。コーラ (生け花の効果を確かめようと少しピアノから離れて)どうかしらね、ねえ。チャック (むっつりとして)俺に生け花の趣味はないよ。コーラ 花が綺麗だって事はわかるでしょうよ、あんた。チャック (宥めるように)そう、ベービー、確かに。君がいいと言うのなら俺も依存はないさ。 「コーラはもう少し生け花に手を加える為に前に出た)マギー (ケーキを称賛して)ケーキだよ、パール。見て見ろよ。七個のロウソク。一つが十歳だ。ール 何時、ロウソクに火をつけようかしら、ロッキー。ロッキー (むっつりとして)ヒッキーに訊いてみろよ。彼は自分をこの誕生日の主催者に選んだんだから。ハリーが降りてくる丁度前に、言ったのさ。ハリーは一吐息で幸運を呼び込むさ。ヒッキーは六十本のロウソクを買おうとしてたのだが、俺は言ったよ、あの老人が大きく息を吐けば、死んでしまうだろうよって。マギー (挑むように)ああ、いつでもお菓子さ。ロッキー (力なく)俺に関しては大丈夫だ。だけど、ハリーはお菓子をどうしようと言うのだだ。もし彼が大きな塊を飲み込んだら死んでしまうよ。パール あんたは間抜けさ。そうでしょ、マギー。マギー 間抜けと言うのは正しいよ。ロッキー (とげとげしく)君等娘っ子は自分の足元を気を付けた方がいい。、さもないと…。パール (喧嘩腰で)さもないと、何よ。マギー はっ、さもないと、何さ。 (二人は残忍な顔つきでロッキーを睨んだ)ロッキー 例えば、君等には関係ない事だ。もうすぐ十二時だ、間もなくハリーの誕生日だよ。俺は揉め事はごめんだ。パール (恥じらいを見せて)そう、私等だって同じさ、ロッキー。 (しばらくの間、この口論は止んだ)コーラ (肩越しにチャックを見て、プリプリとしながら)花が綺麗だなんて見ている奴は薄のろだよ。チャック そう、成程、俺が君の言う薄野呂なら…、(次に宥める様に)そうだ、そのボロズボンをちゃんと履いたらどうだい。(善良そうにニヤリと笑う)畜生目、可愛い子ちゃん、何を食べているのだい。俺が考えている事のすべては花はあの不潔なヒッキーの妙技なのだ、と。ハリーは花をどうするつもりなのだろうか。彼はゼラニウムとカリフラワーの区別さえつかないのだ。 ロッキー そうだよ、チャック。お菓子について俺は大仰な事を言いすぎたようだ。それはヒッキーの入れ知恵でもあるのさ。(痛烈に)そう、彼は目を覚ましてから、何処かへ姿を隠してしまったよ。彼は祝宴を自分の誕生日だと心得ているのだ。マギー 支払いは全部彼がしたんでしょう。ロッキー ああ、俺は誕生日のメンバーについてはあまり気には掛けていないさ。俺に仲間をかき集める為に、この辺のたまり場を走り回ってかき集めるつもりらしい。そして告げているのだ、出来るだけ早く集まれと。つまり、君には本気では言ってないのだ。彼はちょっと仄めかしているだけなのだよ。パール 彼は私とマギーにも仄めかしただけよ。マギー あの不潔な金物屋は。ロッキー 彼は自分に正直になれって御託宣を垂れているのだ。自分をからかっては駄目だってね。ありのままの自分でいろってね。俺は素面で彼に言ったさ、此処の連中は大丈夫だからって。彼が連中を上手く起こしてくれるといいのだがなあ。だが、俺には関係ない事だ。俺はパイプドリームで自分を玩具になんかしていないからなあ。(パールとマギーは嘲りの笑いを表情を交わした。ロッキーはそれを捉えて、眼を細める)君達は何をニヤニヤ笑っているのかね。パール (顔を固くして、嘲るように)何にも。ロッキー その方がいい。健康でいたかったら、ヒッキーに何も言わせるなよ。(次に怒りを込めて)あの嫌な奴が二度と姿を現さないといいのだが。奴が食品売り場から戻らない事を願うよ。彼はみんなを気違いにしている。彼はとっかえひっかえして誰かを犠牲にしようともくろんでいる。ハリーとジミートモローもかた輪にしちまった。外の連中は自分の部屋に閉じこもって彼の話を聴くまいとしている。彼等は抜け目なく酒を喰らい、酔っぱらうのが恐ろしいとでもいうような具合さ。それぞれに考えがあるのだろうさ。コーラ そうよ、彼は私に当てこすりを言ってね、チャックにもよ。彼は私とチャックが実際には結婚しないのではないかと疑っている、と思うでしょう。チャックは賭け事を止めないつもりだし、そういう意志も示そうとはしない。チャック 彼はそれは正しいとは言わないし、彼を殴ってやろうと思うんだよ。俺は彼に言ったよ、生計の為にワゴンを引こうと、それをコーラも知っている、と。コーラ 私は承知している、そしてチャックは私が売春婦だなどと汚い言葉を投げつけたりはしない。もし私達がじゃれあっているだけなら、正直にそう言うだろうね。チャック ヒッキーにも言うつもりだよ。コーラ 私等はもう決めてしまったのさ。ジョージ―で農園を営み、そこで結婚しようよ、って。許可証などは必要ないからね。実は、明日結婚するのさ。そうだよね、あんた。チャック そのとおりだよ、かわい子ちゃん。ロッキー (憤慨したように)ああ、神様、不潔なヒッキーが君等を追い込んでしまったのかな。コーラ (怒ってロッキーを見て)誰もヒッキーをからかっちゃいなし、私だってそうよ。それでヒッキーは正しいのよ。それでこの大男が私と結婚するし、彼もそうする義務を感じている。彼は後ろを振り返る事などないでしょうよ。ロッキー (彼女を無視して)彼はそれほどに馬鹿じゃないだろう、チャック。コーラ この事は内緒よ。農園でクリケットをして、私等を馬鹿にしないで御くれよ。あんたとクリケット遊戯。あれが象だなんて思わないでよ。マギー (ロッキーの防御に回って、せせら笑いながら)そんな馬鹿話を聞く必要はないでしょう、ロッキー。彼女は今、明日だって言ったわよね。相も変わらない古い博打よ。コーラ (目を怒らせて)そうなの。パール (マギーに同調するように、嘲笑い)コーラが花嫁だなんて、想像してよ。熱々の話だよ。ねえ、コーラ、あんたが同衾した男共を引き連れて、テキサスまで行進したらどうなのさ。コーラ (パールの方に動き始め、脅すように)あんたは私にそんな風な口をきかないほうがいいよ。私が売春婦でも、あんたみたいな安い女郎じゃないからね。パール (激こうして)女郎がどんなものか教えてやろうか。 (二人は相手に掴みかかろうとするが、チャックとロッキーが背後から引き留めた)チャック (無理にコーラを椅子に座らせて)坐って、冷静になれよ、ベイビー。ロッキー (パールに対して同様にして)だめだよ、パール。
2024年03月18日
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(ヒッキーの科白の続き) (再び欠伸をする)急に眠くなってしまったよ。長く歩いたのが効いてきたのだ。二階に行った方がよさそうだ。こんな様な芸当など糞くらえだよ。(一旦は立ち上がろうとするが、また腰を下ろし、眼を見開こうと瞼をしばたたかせる)いや、諸君、俺は本当の平和がどんなものかまで知らなかったよ。それは偉大な感情さ、病気の時にひどく頭痛がしている際に、医者が腕に注射をしてくれる。すると痛みは消えて、気分が回復する。(目を閉じて)最後には気ままにやれる。海の底まで沈めるよ。平和に休め。もうそれ以上は何処へも行く必要がないのだ。君を引き止めるどんな希望も夢も全然残っちゃいないから。君等は全員が俺が何を言わんとしているかを知るだろうよ。(一息ついて、口の中でぶつぶつ言う)失礼、全部で四十回のウインクをする…、飲めよ皆、俺の為に…、(完全に力尽きたように眠り込んだ。顎が胸に落ちる) (一同は、困惑して不安な魅惑で幻惑されたようにヒッキーを見詰める)ホープ (イライラした感じを無理に抑えて)何ていう曲芸を見せてくれるんだ。目の前で眠り込むなんて。(それから周囲に向かってプリプリして)ああ、一体何てこった。何故酒を飲まないのだよ。いつも酒をくれって口癖のように言っているのに。鼻の下に酒がしこたま置かれていると言うのに、木偶の坊みたいに坐っているだけだ。(彼らは自分のウイスキーをがぶ飲みし始め、更にもう一杯グラスに注いだ。ホープはヒッキーを見詰めて)畜生目、俺にはヒッキーの正体が掴めねえや。奴は俺達をまだからかっているのだ。彼は自分の祖母さえからかってしまうのだ。君はどう思うかね、ジミー。ジミー (確信が持てずに)それは彼の別の冗談さ、ハリー、だが…。そう、彼は確かに見かけ上は変わったさ。でも、また明日になれば元の自然な彼に戻っているだろうよ…、(急いで)つまり目を覚ました時にはだ。ラリー (目を細めてしかめ面を作り、ヒッキーを見詰めてから、周囲へと言うよりは彼自身に声に出して語りかけた)彼が単なる冗談を言っていると思うなら、間違いを犯すことになるよ。パリット (低い、確信ある声で)僕はあの男は好きじゃないよ、ラリー。余りにうるさすぎる。これからは彼を避けていよう。 (ラリーはパリットに疑惑の視線を向け、それから急いで視線を逸らした)ジミー (あけっぴろげな合理性を見せて)でも、ハリー。彼の無意味にはある種のひらめきがあるよ。俺は元の仕事を取り戻す時期になった…、でも、彼が俺を思い出させる必要なない。ホープ (率直さを示して)そう、俺はこの地区を一回り散歩して来なければならない。でも、ヒッキーに俺が明日の誕生パーティーを整えたのを見せて、そう言わせる必要はないよ。ラリー (皮肉に)はっ、(次に滑稽な緊張と狂的な囁き声で)神様、とうとう奴は平和の二つの商売を成し遂げるつもりらしい。でも、先ずはそれが真実のマッコイで、毒なんかじゃないことを確認するべきなのだよ。彼は君の番号を持っているのだからなあ。(彼は急にこの脅しを恥ずかしく感じて言い訳するように付け加えた)ねえ、ラリー、君はいつでも死に関わりのある事をぶつくさと喚いているだろう。あれは俺の乳母なのだ。さあさあ、みんなの飲もじゃないか、(みんなが酒を飲む。ホープの視線は又ヒッキーに固定したままだ)石の如き素面と死を世界に。パイプドリーム仕事に唾を吐きかけてやれよ。俺はごめんだよ。(再び怒りの不平をぶちまけた)彼は昔のヒッキーじゃないよ。彼は俺の誕生パーティ―に湿った毛布をかぶせようという魂胆なのだ。あいつなんか姿を現さなければよかったんだ。モッシャー (ヒッキーの話に一番関心を示さなかったが、正気を取り戻すと酒を呷りなおして温情ある調子で)時間をやれよ、ハリー。そうすれば元に戻るさ。俺は絶対的な禁酒主義者の殆どの場合を見て来たが、全員が完治して前の様に復帰している。そして飲んだくれている。俺の意見では過度な飲酒から一時的に避難している状態なのだ。(沈思する様子で)あまり心配し過ぎる必要はない。それは最悪の習慣だって科学にのも知られている。偉大な物理学の権威が俺に説明してくれたことがあったよ。彼は灯りを掲げた表通りで実験をしていたが、ガラガラ蛇の油が三日で心臓発作を治してしまうと主張した世界でただ一人の人だった。彼が俺によく言っていたのを忘れないでいるよ、君は非常に繊細だよ、エド、君が朝食や夕食前に質の悪い酒をがぶ飲みしていたら安定した熟年に達することなどふかのうだよ、と。酒を飲まずに、健康に働けば人は良い人生を全うできるものだ、とね。 (彼が話をしている間、彼等はニヤニヤしながら彼を見て、どっと笑いたいのを我慢していたが、話が終わった時に爆笑した。パリットさえ笑った。ヒッキーは死人の如くに眠り、ヒューゴは彼の熟睡から半ば覚めて、眼鏡越しに見上げて馬鹿の様にクックと笑った)ヒューゴ (瞬きして、周囲を見、笑いが納まるとニヤニヤ笑いの甘言で子供でもからかうように)笑えよ、馬鹿な大衆諸君。馬鹿宜しく笑え、怠け者達よ。(彼の口調はある種威嚇するように変わり、テーブルを拳で軽く叩いて)俺も笑うよ。が、最後に笑うのだ。君達を笑ってやるさ。(愛用の文句を暗唱する)日は暑くなる、おお、バビロンよ。柳の木陰の許ではこんなにも涼しい。(そこにいた全員が面白がって彼を野次り倒す。ヒューゴは傷つかない。これは明らかに彼等の習慣的な反動だ。彼は善良そうに笑う。ヒッキーは眠り続けている。彼等はヒッキーに対する不安を忘れてしまい、今は彼を無視している)ルイス (ほろ酔い加減で)おや、もう我等の小ロベスピエールは自分の首をギロチン台にかけて胸に落としてしまった。もっと君の友人の医師の話を聞かせてくれないか、エド。彼は今までで俺が話に聞いた医師の中で滅法印象に残った唯一の御仁だよ。俺達はその医師を我々のかかりつけ医に一刻も早く認定しようと思うのだ。(彼等は笑いながら同意した)モッシャー (自分の話題を温めながら、悲し気に首を振って)遅すぎるよ。その老医師は創造主に召されてしまっているよ。仕事のし過ぎでもあった。自分の助言に従えなかったのさ。自分の鼻を石臼にくっつけて、蛇油を売り過ぎたのだ。彼が昇天したのは八十歳だった。もっとも悲しい部分は、彼が自分の運命を承知していたことなのだよ。我々が一緒に体を麻痺させた時に、彼は言った、このゲームはまだ終わってはいないよ、エド。君の前には破滅した人間がいる、医学への献身者さ。私に少しでも神経と言うものがあれば、私は神経破滅者なのだよ。君は私を信じないがよい。でも、この最後の年に私は持て余すくらいの患者を診察することになった。酔っぱらっている暇などないくらいにさ。私の診療法の衝撃は最後には自分は医師としては終わってしまったと自覚させられたことだった。哀れな老医師よ。彼がそう言った際に、こう彼は叫び始めたよ。私の使命が終わったのに前に進むなどとは、出来ない相談さ、エド。彼はめそめそと泣いたさ。私は望んでいたのだよ、この輝かしい国にどのような患者もいない医院が出現する奇跡の時代が到来することを。(どっという笑いの渦。暫く待ってから、悲し気に続けた)あの医師を悲しく思い出すよ。彼は古い学派の紳士だった。彼は表通りに立っていて、ダメ人間共に告げているだろうさ、酷いやけどには蛇の油に勝る薬はない、と。 (またもや爆笑の渦。今度はヒッキーの熟睡を刺激する程のもの。ヒッキーは椅子を動かし目を覚まそうと努め、少し頭をもたげて、無理やり半分目を開いた。そして話す、眠そうではあるが愛情に満ち溢れた元気づける様な笑顔で。急に笑いが止み、みんながヒッキーを見た)ヒッキー それが根性だよ。俺を湿った毛布になんかしないでくれよ。俺が望んでいる全ての事は君達が幸せになる事なのだ。(ヒッキーは元の爆睡状態に戻った) (一同はヒッキーを見詰め、顔は再度困惑したそれになった。拒否するように、不安げに) 静かに幕が下りる。
2024年03月14日
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ヒッキー (ニヤニヤして)こん畜生、長官殿。君は俺が行商して禁酒を勧めているとは思わないかね。もっとよく知っている。俺が禁酒法を広めているからだと。俺はそれ程バカじゃないさ。何度となく機会は与えられてはいるがね。俺は今までどおりだよ。もし誰かが酔っ払いたいと思うのなら、そうして幸福になるがいいさ。平安を保つがいい。そいつらは俺の全幅の同情を受けるがいいさ。俺はそのプロセスを一から十まで知っている。俺は本も書いている。俺がそれをやめた唯一の理由は、そう、自分自身と向き合う根性を持っていたからだ。俺を惨めにしていたパイプドリームを投げ捨てた。俺に関連した幸福を確保するべく、俺は一切飲酒から手を引いた。それが現状だよ。(一息つく。周囲の者は彼を見詰め、不安で防御的になる。ヒッキーは周りを見回し、愛情を示してニヤリと笑い、懇願するかのように)ええ、畜生め。湿った毛布みたいにしないでくれよ。自分を馬鹿にさせるような話をさせないでくれ。やり直しだよ、ロッキー。これだよ((ポケットから札束を取り出して十ドル札を引き出した。皆の顔が輝いた)これが無くなるまでボールを投げ続けよう。それから次を探ればいいさ。ロッキー ああ、札束がカバの首を絞めるかも知れないぞ。腹一杯にしろ、君達。 (彼等は酒を注ぐ)ホープ それは君以上の事を伝えたよ、ヒッキー。あの水屋台牛…。芝居は止めて、一杯飲めよ、お願いだよ。ヒッキー 芝居じゃないよ、長官。でも、悪く解釈しないでくれよ。それは俺が不機嫌な禁酒者なんかじゃないと言う意味で、仲間にはいられないのさ。どうして俺が仲間なしで此処にいられるなんて考えるのだ。いつもどおりに今夜の君の誕生パーティーを祝いに来たのだから。君らは俺の良き仲間だし、これまでに知った最良の友達なのだ。この家を去ってからずっと君達の事を考え続けて来ているのだ。ここへ来る間もずっとだ。ホープ 歩いてきたのかね。いった全体、ずっと歩いて来たっていうのか。ヒッキー そうなんだよ。暗黒のアストリアの荒野からずっとだよ。どのみち気にしないでくれたまえ。気がついたら此処に着いていたのさ。少しばかり疲れたし、眠いのだが、そのほかはいい気分でいるよ。(からかう様に)それは君を力づけるだろうよ、長官殿。この地区を少しばかり歩き回ってもびっくりするには当たらないよ。(他の連中にウインクして、ホープはちょっと拒否するように表情をこわばらせた。ヒッキーは言葉を続ける)俺は君の為に悪い思いはしてはいない。公園でしばらく考えてはいたけれども。夜中の十二時を過ぎていたよ、俺が寝室に行くのでエブリンに別れを告げに行った時には。六時間さ、いや、それ以下かも。コーラとチャックが姿を現すまでに俺は角のところで立っていたのだよ、君達全員の事を考えながら。勿論、俺は冗談を言っているのさ、君達を救済するなどと。(次に、真剣になって)自分だって救済などできない。酒のことじゃないのだ。あのパイプドリームからだよ。俺には今わかっているさ、経験からだ。パイプドリームは人を害し、破滅させる。幸福に到達する道を塞いでしまうのだよ。もし君達が満足して自由を感じているのなら、俺はそれを感じる。俺は生まれ変わったようなのだよ。治療法なんて簡単至極だ、まともな神経を持っていればいい。正直一途が最善なのだからね。自分に正直になること。自分に嘘をつくのを止めて、明日を気楽に迎え入れる。(彼は真っ直ぐに前を見て、周囲へと言うよりは、自分に声を出して語るように。周囲の者達は彼を凝視して不安な拒否の構えを見せている。キッキーの態度は又訴えるような感じになっている)善い人生を送る説教じみて聞こえるかもしれないが、その部分は忘れてくれ。これは俺の血が言わせるのだよ。俺の老人は救済を咆哮して止まなかった。彼はインディアナ州の説教師だった。俺は商売の方も彼から習ったのだ。彼は黄金街の住民の家を売ることのできる男だったよ。(セールスマンの説得術を示して)さあさあ、皆さん、俺が金塊でも売るような顔はしないでおくれ。正直、袖の中には何もない。一例を見せようか。誰でもいい、長官殿、君がしたことのない散歩をしてみたまえよ。ホープ (鋭く防御するように)それがどうしたって。ヒッキー (愛情あるニヤニヤを見せて)ああ、君は俺以上に知っているのさ。何もかもをね。ホープ (喧嘩腰で)解った、全部信じよう。ヒッキー 確かに、そのつもりなのだろう、今回は。君を助けるつもりでいるからね。本当の平和が何を意味するか理解する前にするべきことがあるのだよ。(ジミートモローを見る)君も同様だ努力して前の仕事を取り戻す必要がある。それについては明日なぞないのさ。俺は本を書いた男なのだ。(ジミーが切迫した努力を威厳を保ってする、宥めるように)いや、俺に何も言うな、ジミー。明日のことは何もかも知っている。ジミー 君が理解できないよ。俺は馬鹿なくらい出遅れたよ、でも起きてしまった。俺は整理がつくと同時に覚悟を固めてしまったのさ。ヒッキー 素晴らしい、根性だ。君を手助けするよ。君は馬鹿に親切なのだよ、ジミー。如何に感謝しているかを証明したいのだ。君はもういつも自分にガミガミ言って噛み付く必要はないのだ。君は俺に感謝すべきだ。(周囲を見回した)残りの淑女を含むみんな、諸君、同じ船に乗り合わせているのだから、どのみち一緒なのだよ。ラリー (皮肉な面持ちで謹聴していたが、独特の滑稽さと狂気の囁きで)有難いことだ、君は頭に釘を打ち付けたのだ、ヒッキー。このたまり場はパイプドリームの宮殿だからな。ヒッキー (愛情あるからかいの表情で)そう、そう。老いた芝居気たっぷりのキチガイ哲学者殿。君は自分を例外だと考えているのかな。人生は君にとってもう何物でもないわけだ。君はサーカスからは引退したのだ。最後の瞬間を待っているだけに過ぎない。良くて、古い、長い眠りさ。(クックと笑う)そう、俺は君のことを随分と考えている、ラリー、老怠け者殿。俺は君を正直者にするつもりさ。ラリー (トゲトゲとして)なんの当てこすりをしているのかな、とにかくも。ヒッキー 俺に質問などしないでくれよ、君のような賢い老人が。自問自答したまえよ。君は何でも知っているのだからね。パリット (ラリーの顔を見守り、奇妙な冷笑的な満足感で)彼は君の番号を正しく記憶しているよ、ラリー。(ヒッキーの方を向き)それが奴さ、ヒッキー。老いかさま師を仕上げしろ。彼はこっそりと抜け出す権利などありはしないのだ、何物からも。ヒッキー (最初は驚いて彼を見てから、それから戸惑ったような興味を示して)今日は、我々中のよそ者殿。兄弟、俺は最初誰だか分からなかったよ。パリット (困惑して目をそらし)僕の名はパリットだ。ラリーとは古い友人さ。(彼の視線はまたヒッキーに戻り、彼がずっと自分を見ていたことに気づき、防御するように)さてと、あなたは何を見詰めているのですか。ヒッキー (見つめ続けて、困惑して)攻撃しないでくれ、兄弟。俺は思い出そうとしているのだが…、前に何処かで会っているのかな。パリット (再確認するように)いいや、西に来るのは初めてだからね。ヒッキー そうだ、君は正しいよ。俺は知っていたよ。俺のゲームでは狙いをつければ、君は顔や名前を決して忘れたりはしないのだ。やはり俺は君を認識しているよ。我々は同じ小屋の住人だからね。パリット (再び不安げに)あなたは何を話しているのだろうか。キチガイさん。ヒッキー (そっけなく)冗談を言うのはよしなよ、少年。俺は善良な商人だ。農園などは飲んだくれた後でも買い戻せるよ。(眉をひそめて、また困惑し)でも、分からないのは…、(突然に風通しよく善良そうに)気にするな。君は自身と折り合いが悪いのさ。俺はラリーの友人に対してはどんなて手助でもするつもりだ。ラリー 自分の事だけで、余計な世話はやかにことだ、ヒッキー。彼は君にとって何者でもないし、俺にとっても同様だから。(ヒッキーは鋭く問いかけるような一瞥を与えて)ラリーは視線を外して、皮肉な調子で続ける)君は我々を不安な状態にする。どうやって我々を救済すると言うのだね。ヒッキー (善良そうであるが、少し傷ついたごとくに)そう皮肉るなよ、ラリー。俺を標的にしてだ。俺達は仲間だったろう。俺は君を相当にすいているよ。ラリー (やや恥ずかしげに)俺もそうだったが、それは忘れてくれよ、ヒッキー。ヒッキー (顔を輝かせて)すばらしい。それでこそ君だ。(酒を飲むのも忘れている周囲の者達を見回して)どうしたんだね、みんな。これは葬式なのかい。さあ、飲めよ。行動を起こせ。(みんなが酒をの飲む)もう一杯だよ。さあ、祝杯を挙げるのだよ。忘れちゃえよ、何かあっても極めて健全だって言っただろう。首に痛みなんかは感じたくもない。調子っパずれな事を俺が言ったなら、その度毎に注意してくれ。(眠そうに欠伸をして、声が少しくぐもっている)いや、諸君、俺は何も君らに手渡そうとはしていないさ。ただ俺が知っているのは嘘ばかりつくパイプドリームが何を君等に与えるかを経験上で知っているだけだ。
2024年03月13日
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コーラ いいや、私の番だよ。ついているんだ。それで私はチャックをお祝いの席に引きずり込むのさ。水兵さ。彼を丸めるよ。(クックと笑う)聴いて、叫び声だよ。私は気の変な呑んだくれに惚れちゃったのさ。ブルックリンの海軍省の酒はハリーの店と同じようにひどい味さ。私の犬共がこの男を吠えたてる前に街灯のところで彼を発見して、サツが手を回さないうちに彼を庇ったのよ。私は言う、今日は、ハンサムさん。いい思いをしようよ、ってさ。彼はぐでんぐでんなの皆が少しは酔っていた。彼は私にお辞儀をしようとした、想像して、私は彼を支えようとしたけど、顔からつんのめった。それから彼が言ったものさ、ご婦人、自然歴史博物館へはどう行くのが近道ですか、ってさ。(みんなが笑う)想像できる、夜中の二時だよ。私は言った、いい子ちゃん、嬉しいよ。そして私は彼を連れて横丁に入ってじゃれついた。(クックと笑い)彼どうしたと思う。うじゃじゃけていたよ。まっすぐ行きな、右手に白い建物があるよ。間違えっこなしさ、って。彼は北河を泳いでいるに違いないさ。(みんなが笑う)チャック アンクルサムはそういう奴を信用している。コーラ (事務的な口調で)私は十二人の客を拾ったよ。さあ、ロッキー。(ロッキーはバーへ行く。コーラは部屋を見回して)ねえ、チャックは冗談を言って、氷屋をちょっと前に思い出させてくれた。ヒッキーは何処にいるのだろうか。ロッキー それを俺たちも心配しているのだよ。コーラ 彼はここへ来るはず。私とチャックは彼に会ったのだから。ロッキー (興奮して、バーら戻って来て酒のことを忘れて)ねえ、ボス、コーラがヒッキーに会ったって。 (ホープは直ぐに正気を取り戻して、ヒューゴとパリット以外の誰もが希望を感じて起き上がった様は、不可思議な無線の通信が届いたかのようだ)ホープ 何処で彼を見かけたのだ、コーラ。コーラ ちょうど角の所さ。そこに立ってたよ。我々は言った、ようこそ、この町へ。連中が首を長くしてお待ちしているよ。私は彼にからかって言ったよ、氷屋の死神、ヒッキーさん、ってね。あんたの家ではどんな具合かね。彼は笑って言った、すこぶる元気だ、連中には直ぐに行くからと伝えてくれ。身支度整えて、最善の道を行き、彼らに平和を与えてやるよ、って。ホープ (クックと笑い)奴は新しいギャグを思いついたようだな。奴が救世軍の制服を借りてきていないのは驚きだよ。外へ出て奴を捕まえろよ、ロッキー。奴に言ってくれよ、俺たちは彼に救って貰いたいのだよ。 (ロッキーはニヤニヤして、出て行く)コーラ そう、ハリー、冗談を言っているだけよ。それでも彼は可笑しいよね。変わってるし、何者かだよ。チャック 彼は断酒してる、いい子だ。だから彼は変わったのさ。我々は彼が酔っ払っていないのを見たことがなかった。進んで克服しようと努めたのさ。コーラ 確かに、わたしゃ唖かね。ホープ (確信して)一番聞こえが悪いよ。(それから困惑したように)素面だって。それは可笑しいよ。彼はいつだって一流のやり方で飲み始めていたからなあ。そんなに長くはシラフでいるはずがないよ。今夜十二時の俺の誕生パーティーにはいつもどおりに戻っているだろうよ。(彼は興奮した期待を込めて、他のみんなに話しかけている)聴いて。彼は我々を惹きつける何か新しいギャグを温めているのだろう。騙されてやろうじゃないかね。そして鼻を明かしてやるのさ。 (全員が笑いながら、そうだ、ハリー、そうしよう、仲間だよ、鼻を明かしてやろう、などなどと口々に叫ぶ。彼らの顔は何かしら期待で同様に輝いている。ロッキーがヒッキーと一緒にバーの外れから現れる。彼の腕はロッキーの肩に置かれている)ロッキー (愛情あるニヤニヤ顔で)糞ったれ様の登場だよ。 (全員が起立してヒッキーを出迎え、今日は、ヒッキー、などと愛情あふれる声援で応じた。ヒューゴでさえ爆睡から目覚めて、頭をもたげ、分厚いメガネ越しに見迎えているのだ) ヒッキー (上機嫌で)やあ、皆。(彼は瞬間的に立ち止まり、一同をニコニコしながら見回した。彼は五十絡みで、中背より少し小柄、頑健、ずんぐりむっくりしている。彼の顔は丸く、つやつやして輝く青い目をしたとっちゃん坊やと言ったところ。平べったい鼻と巾着のような小さな口。頭は額際だけに毛が残っているハゲ頭。彼の表情は固定した商売人の勝ち誇ったような笑顔で満ち溢れ、心の底からの好意を示している。彼の目はユーモラスな光をたたえ、友と一緒に人生を楽しむのを旨としているようだ。彼は友好的で温和な人柄を示しているので、誰もが彼を一目見ると好きになってしまう。仕事に関しても有能さを感じてしまうに違いなかった。有効な事務的な仕草が特徴的で、彼の一瞥は素早く人を虜にしてしまう。彼には商人に特有な言葉使いで確実に相手に取り入ってしまうことは確実だ。彼の服装も成功している金物屋のそれであり、その商売圏は小都市と町である。決して派手ではないが堅実そのもの。彼はすぐさま最初の挨拶として腕を胸に置き、頭を後ろにそらして、作りのテノールで歌うように始めた)いつも良い天気で、良き人々が御参集でありまする。(滑稽なバスとその他の声を使い分けて)少しくらいお酒を過ごしたところで、何の害もありません。(皆がどっとばかりに笑い、この道化に応じた。実際、滑稽そのものだったから。彼は大様にロッキーに手を振って見せた)義務を果たしてくださいな、ロッキー兄さんや。殺鼠剤を持って来てくれなきゃあ。 (ロッキーはニヤリと笑い、酒を取りにバーの後ろに行き、群衆からの声援を受けている。ヒッキーは前に出てホープと握手して愛情ある情愛を示す)ご機嫌はどうかね、長官。ホープ (熱狂的に)やあ、ヒッキー。老私生児君。会えて嬉しいよ。 (ヒッキーはモッシャーとマクゴロインと握手して、右に体を傾けてマギーとパールとも握手した。次に中央に移動してルイス、ジョーモット、ウエットジョーエン、ジミーとも握手する。ウイリー、ラリー、ヒューゴに手を振った。彼はいちいち名前を口で言いながら、同じ愛情ある挨拶をして、あの子はどうかね、あの老人はどうだろうか、少年は元気かね、全部がうまく回っているかね、などなどと尋ねている。ロッキーは酒を各テーブルに配置し、ウイスキーグラスとチェイサーを、そしてウイスキー瓶を各テーブルに置いた。ホープが言う)座れ、ヒッキー、座れよ。(ヒッキーは椅子を取り前を向いて、ホープとジミートモローの間に坐る。ホープは興奮した体で続ける)やい、ヒッキー、君の醜いニヤついた顔を見るのは自然だ。(コーラに軽蔑するように頷いて見せて)この聾は君が変身したと我々に言おうとしてるのさ、君は捨てたものじゃないからね。君自身で説明してみたまえよ。そう、君は百万ドルの値打ちがあるからなあ。ロッキー (ヒッキーのテーブルに来て、ウイスキー瓶とグラスとチェイサーを置いた。それから鍵を手渡して)さい、君の鍵だ、ヒッキー。同じ古い部屋さ。 ヒッキー (鍵をポケットに押し込んで)有り難う、ロッキー。俺は少し部屋で仮眠して来よう。最近眠れなかったからひどい目に遭っている。数時間眠れば落ち着くだろうさ。ホープ (ロッキーが酒をテーブルに置いたので)君が眠りの事を言ったのを初めて耳にしたよ。つまり、君は今まで眠らなかったからね。(自分のグラスを上にあげた。パリット以外は同様にする)ベルトの下に数滴流し込めば、眠ることなどは忘れてしまうよ。君の目に詰まらない物が見えているだろう、ヒッキー。(彼等は全員がいつもの滑稽な乾杯に参加する)ヒッキー (心を込めて)心からの乾杯を、紳士淑女諸君。(皆が杯を空けるが、ヒッキーは形だけの真似事をした)ホープ おやおや、それは新しい曲芸かね、チェイサーだけ口につけるとはね。ヒッキー いいや、言うのを忘れていたがね、諸君、俺は禁酒しているのだよ。続けているのさ。 (一同は信じられない面持ちでいる)ホープ なんてこった、(ほかの連中にウインクして、からかうように)確かに、救世軍に参加したようだな。キリスト教婦人矯風会の総裁に選出されたなかな。ロッキー、そのボトルをどけてしまえよ。我々は彼に罪を犯させたくはないからなあ。(クックと笑い、他の連中は単に笑う)ヒッキー (真面目に)いいや、正直、ハリー。信じろとは言わないが、(息をついでから単に付け加えた)コーラは正しいよ、ハリー。俺は変わったのさ。つまりは、酒に関してさ。もう必要ないのだよ。 (全員が見つめている、それが冗談なのを望んでいる。感動したり、がっかりしたり、彼等が今ヒッキーに感じている変化をぼんやりとながら不安に感じて) ホープ (少し無理をして冗談にして)そう、続けろよ、俺達のズボンを脱いでくれよ。そうだ、コーラは君が我々を救いに来たと言った。そう、続けろよ。この冗談をとっぱらってくれ。サービスを始めろ。よければ、賛美歌を歌えよ。我々は合唱に加わるから。酔っ払い意外はこの美しい家には入れないのだよ。それは良い教えだ。(無理に笑った)
2024年03月08日
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ロッキー (もったいぶって」そうだ、君達に会ったが、銭の顔をまだ拝んじゃいないよ。パール (マギーにウインクして、宥めるように)仕事の事をいってるのでしょ、マギー。マギー そう、私らの小あきんど。それが彼よ。ロッキー さあさあ。当てこすりか。 (二人の娘はそれぞれがスカートを引き上げて、ストッキングからお金を取り出した。ロッキーはこの動きを注意深く見ている)パール (面白がっている)笛を吹いておやりよ、マギー。マギー (同様に面白がって)驚いてお金を差し出さなければ。パール 彼のひったくり方、仕事をくれているんだからね。(札を丸めた物をロッキーに差し出した)さあ、どうぞ、詐欺師さん。マギー (同様にして)喉を詰まらせないといいのだけれど。 (ロッキーは素早く金の計算をすると、それをポケットに押し込んだ)ロッキー (愛想よく)君達可愛子ちゃん達は俺に苦しみを与えるのだよ。もし俺がいなかったならば稼いだお金をどうするつもりなのだね。女衒にでも貢ぐつもりかい。パール (からかうように)同じことでしょうよ。(性急に)悪くは思わないで、ロッキー。ロッキー (目をこわばらせて、ゆっくりと)俺には違いはあるよ。パール 絡まないでよ。冗談くらいは許してよ。マギー そう、ロッキー、パールはちょっと冗談を言ったの。(慰めるように)定職を得たそうだね。だから好きなのだわ。あなたは私達を食いっぱぐれにはしないしょ。あなたはバーテンダーだからね。ロッキー (再び上機嫌で)確かに、俺はバーテンダーだ。俺を知ってる誰もが承知していることだよ。そして俺は君達若い娘をどう遇したらよいか熟知している。君らが俺に助けを求めるが、それはちょっとしたことだから、知恵を授けたりする。君らは気のいい娘さ。宝物なんだよ。パール あなたも私らにとっては宝物さ。そうでしょう、マギー。マギー そうよ、切り札だわ。 (ロッキーは独り悦に入って笑い、グラスをバーに持って行く。マギーが囁いた)おバカさんね。ああいう冗談めいた事を言って彼を怒らしてはダメじゃないの。彼が乱暴を働いても尽くさなければダメなのよ。パール (誉めそやすように)一度怒らせたら、彼はとことんあなたを打ちのめすに違いないのだからね。ひどく気性が荒いからねえ。マギー 私等には女郎屋の主人はいないのさ。古いタイプの売春婦とは違うからね。私等の方が程度はましだ。パール そう、売春婦さ。ただそれだけさ。ロッキー (バーの後ろでグラスをすすぎながら)コーラは三時頃に戻るだろうさ。彼女はチャックを起こして、引きずり出して干し草売り場へ行かせたよ。(吐き捨てるように)奴の突っ立っている様を想像してみろよ。マギー (同じく吐き捨てるように)私は賭けてもいいが、二人はじゃれあいながら結婚するパイプドリームを弄んじゃあ、農場で仕事しているさ。チャックがワゴンに乗っている時には二人は決して麻薬を手放さないから。誰かが話しかけさえしなければ、二人はダボラを吹くのを止めやしない。パール そうさ、チャックはあのブサイクな顔にバカ笑いを浮かべてるし、コーラは女学生気分で赤ん坊などは何かの妖精が煙突から投げ入れてくれるとでも信じているみたいに、振舞うのさ。マギー そして彼女はあんたと私よりずっと前に競馬業に携わっていた。そしてふたりは何時でも議論していた、コーラは怖いんだって。彼が飲んだくれてばかりだから結婚するのが。ほんの少しでも彼の飲酒はコーラを怯えさせるのさ。パール あの大嘘つきが誓約したりする、もう雑誌を買ったりはしない、と。そして彼女は騙されたふりをする。こうして話していても、苦しいんだよ。私たちは彼らを迎えに馬車を借り出す電話をする必要がありそうだ。 ロッキー (テーブルに戻って来て、憤慨して)そうだよ、このゴミ溜りの中で全部のパイプドリームが最悪の不潔さを露呈しているよ。何もそれを止められないのだ。彼らは何年も夢を見続けている。チャックがワゴンに行く毎にだ。俺はそれを誇大に飾り立てたりはしないよ。何が奴らを結婚に駆り立てるのだろうか。しかし農場の従業員は一番のろまな奴らだ。何時ふたりは此処を引き上げて、コニーアイランド付近の農場へ行くのだろうか。俺は一睡も出来ない。チャックがやっているようなバー経営を思い描くことが出来るかね。それと売春婦のねぐらだよ。神様っ、そいつあ美味しい想像図だよ。マギー (反駁して)コーラをそんな風に呼ばないでよ、ロッキー。彼女はいい子だよ。彼女は売春婦ではあるが…。ロッキー (思いやりを見せて)確かに、俺が言いたかったのは、売春婦だ。パール (クックと笑い)だけど彼は乳牛についても正しいよ、マギー。コーラは雌牛のどちら側に角が生えているか知らないのさ。彼女に訊いてみようと思っている。(ホールのドアのところで音がした。男と女の言い争う声が聞こえる)ロッキー 君のチャンスが巡ってきたよ。あの二人だからね。 (コーラとチャックが室内を覗き込み、入って来る。コーラは痩せて金髪に見えるように脱色している。パールやマギーよりは数歳年上で、同様の服装をしている。彼女の丸い顔は二人よりも更に商売上の辛さから来る疲労と涙を示している。が、それでも人形のような可愛らしさが見られる。チャックは頑健で、分厚い首、膨れた胸、イタリアとアメリカ人の混血で、肥満した愛想のよい浅黒い顔をしている。鮮やかなバンドの麦わら帽をかぶり、派手なスーツ、ネクタイ、シャツに黄色の靴を履いている。彼の目は澄んでいて、健康そうで、牡牛のように頑健である)コーラ (陽気に)今日は、怠け者達。(周囲を見回した)雨の土曜の夜の死体公示所だわね。(ラリーに手を振って,愛情を込めて)今日は、老賢者殿。まだ死ななかったの。ラリー (ニヤリとして)まだだよ、コーラ。くそ退屈だよ、最後を待っているのはさ。コーラ 大丈夫さ、決して死なないからね。あんたは誰かを雇って斧で自分を殺させないと死ねないね。ホープ (目をそばだてコーラを見て、イライラしたように)口の減らない女郎め。騒音を出すのをやめろ。ここは猫小屋じゃない。 コーラ (宥めるように)おや、ハリー。そんな事は言いっこなしよ。ホープ (目を閉じて、自身に対して満足げにクックと笑い)きっとベシーが墓場ででんぐり返りをしているさ。 (コーラはマギーとパールの間に座り、チャックはホープのテーブルから椅子を取り、彼女達の側に置いて座った。ラリーの傍らではパリットが拒絶するように娘達を睨みつけている)もしこのたまり場に派手な女が出入りしていると知っていたら、僕は決して此処には足を踏み入れなかった。ラリー (パリットを注視して)君は婦人方に屈してしまったようだな。パリット (復讐的に)僕はどんな淫らな女も憎むんだ。誰も同じようなものさ。(自身に罪を認めるように)僕がどんな気持でいるか分かるでしょう。僕が売春婦達と付き合っていたので、マザーと喧嘩になったのだからね。(拒絶的な冷笑を浮かべて)でも、それはあなたとは無関係だ。あなたは高見の見物をしているようなものだ。人生を降りてしまっているのだからね。ラリー (鋭く)君が覚えていてくれて嬉しいよ。君の事にちょっかいを出すつもりはないから。(目を閉じて、眠り込もうとするように深々と椅子に腰を掛けた) (パリッとは冷笑するようにラリーを見詰める。それから視線を逸らすと彼の表情は盗み見するかのように怯えている)コーラ ラリーと一緒なのは誰。ロッキー けちんぼうだよ。地獄に落ちろ。パール ねえ、コーラ。私に知恵をつけておくれよ。雌牛のどっち側に角はついているのさ。コーラ (困惑して)ああ、それを持ち出さないでよ。農場の話をするのは反吐が出るほど飽き飽きしてるんだ。ロッキー 俺たちとは無関係だ。コーラ (これを無視して)私とこの育ち過ぎの浮浪者はその事で喧嘩ばかりさ。彼はジョーセーは最高の場所だって言うのだ。私はロングアイランド、だって我々はコニーの側に行くからさ。それで私は彼に言うのさ、どうやって雑誌を生活の手段から遠避けるかを知らない、と。私らはいつだって酒びたりだし、結婚してからだってそうなるに決まっているの。チャック 俺は生活の為に酒をやめるよって言う。するとこの雌牛めは俺の面前でほざいたね、たった今断酒しなければ結婚なんかしないって。おい、かわいこちゃん。何だって俺は結婚なんかするのか。お前がそれを先延ばしするのを、のんべんだらりと待っている訳にはいかないよ。(彼は彼女に乱暴なハグをする)これが平均だ。(キスをする)コーラ (彼にキスする)ああ、このでかい浮浪者め。ロッキー (深い憎悪を込めて首を振り)結べるのかな。酒を一杯買おう。何でもしてやるよ。(立ち上がった)
2024年03月06日
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モッシャー 彼女が俺に十点くれた時には驚いたよ。ベスはいつでもよりよい感覚を持っていたし教会へと急いで行っていた。俺の本意ではなかったが、習慣がそうさせた。その上に、俺はまだ働いていたし、サーカスシーズンが直ぐに迫っていた。俺が手を染めるのにはちょっとばかり練習する必要があった。さもないと、君には決して分からないだろうが、俺のワゴンに切符を買いに来る最初の田舎者は正しい交換をしないだろうし、俺は恥をかくことになる。(クックと笑い)俺は言ったものさ、御免よ、ベス。俺はそれを全部十セント銀貨に変えなければならない。さああ、手を出して、不足していると後で突っ返さないように。(彼は計算を始めるが、次第に速くなる)十、二十、三十、四十、五十、六十、君は俺と一緒に勘定してくれるのかい、ベス。四十、五五十、七十、八十、九十、都合三ドル。十、二十、三十、教会では今夜何かあったかい、ベス。五十、六十、七十、八十、九十…、それはハイカラな新しい帽子だね、ベス、とても素敵だ、六十ドル。(クックと笑い)そんなもんだよ。今は練習不足でのらくらしているが、ミント係りと短期交代した。ホープ (ニヤニヤして)二ドル半、彼女から掠め取ったんだな、エド。モッシャー そうだ。いい歩合だよ。素面で勘定できる誰かと取引するとしたらね。残念だが彼女は俺が計算を誤魔化したのを見つけていたのだよ。俺のあとで自分で計算し直してね。兎に角彼女は妹として俺を信用なんかしていなかったから。(そっとため息をついて)親愛なる、老ベス。ホープ (今は憮然として)自分の妹を誤魔化したと自慢する馬鹿野郎なんだ、君は。もし戦争があって君がその中にいたら、君は死者から金をかすめ取るに違いない。モッシャー (少し傷ついて)それですごく強くなるだろうよ、ハリー。俺はいつも騙されやすい奴に幾らかのチャンスをやっている。死人から盗んでも面白くなんかない。(懐古的な憂鬱さを見せて)おやっ、古い切符売りの台が復活して来たりして。地上での最高の人生の最高の見世物さ。一般人の大群衆、一つのテントの下に集まった。俺はその人たちとまた握手がしてみたいよ。ホープ (痛烈に)彼らは手に銃を持っている。目視して銃撃するだろう。君は忌々しい奴等の一人一人に触れている。そう、かつてアザラシから魚を、君を覚えていた像からはピーナッツを借りている。(この幻想は彼をクスクス笑わせ、キャーキャーと笑わせる)モッシャー (これをじっと見て、夢見る様に)ねえ、ハリー。俺は決心したのさ、俺は二三日うちに上司に会って、前の仕事を与えてくれと頼もうと。俺は容易に変化の魔術的なタッチを取り戻し、彼をだますような一連のほら話を連ねて、次には彼と儲けを分け合うよう合理的に振る舞うつもりだよ。(媚びるように不平をならす)このゴミ溜めをうろつきまわっても何の利益はない、君の世話をしたり君の飼っている蛇を銃で撃ち殺したり、俺が面倒を解決するには目覚ましの一杯が必要じゃあない。ホープ (無慈悲に)いいや。 (モッシャーは溜息をつき、諦めたように目を閉じた。ラリーとパリット以外の者は全員が今は眠りこけている。ホープはぶつくさとぼやき続ける)地獄に行け、さもなくばサーカだ。心配しているのは、いい厄介払いだ。君には飽き飽きしている。(それから何か気遣うように)ねえ、エド。いったい全体ヒッキーに何が起こったと思うかね。彼が姿を現してもらいたいよ。いつだって無数の笑い話が出来た。君と他の奴らがぶどう畑を俺に提供しようとしてる。俺は老ヒッキーと笑い転げたい。(思い出してクックと笑い)思い出せよ、彼がいつも引き合いに出していた彼の家内と氷屋のギャグだ。彼は猫を笑わせる。 (ロッキーがバーから現れ、前に出て、モッシャーの椅子の後ろに立ち、後ろの黒いカーテンを閉めた)ロッキー 開店の時間です、ボス。(彼はボタンを押して明かりを消した。裏部屋は薄暗く灰色になり、通りに面した窓から灰色の光が差し込んでいる。ロッキーはホープに背を向けて、気難しげに)部屋に戻ってお休みになってはどうなんです、ボス。ヒッキーは朝のこの時刻には姿を現さないでしょう。ホープ (吃驚して、耳を澄ます)誰かが今やって来るぞ。ロッキー (耳を澄まして)ああ、あれは俺の二匹の豚だよ。彼女等があらわれる時刻なんだ。(バードアの方に戻って行く)ホープ (気難しくがっかりした様子で)あの娘達を黙らしておいてくれよ。俺は眠くはない。ここで二人を捕まえて何度もウインクさせ、バカ笑いさせたり、きゃっきゃと喜ばせてやりたいのさ。(椅子に腰掛けて、ぶつくさと不平を言う)ハリーホープが部屋貸しだけではなくて、商売に使わせるなどと考えもしなかっよ。ベシーはどう思うだろうな。俺は部屋を仕事には使わせたくない。それで二人は気のいい奴なのだから。他の誰彼と同様にだ。二人も生活しなければならない。二人に部屋代を払わせろ、それだけ言えば気が済むのだからね。(メガネ越しにモッシャーを上目遣いで見て、満足そうにニヤリとした)ねえ、エド。俺は賭けをしてもいいが、ベシーは墓場でとんぼ返りをしているさ。(クックと笑う) (しかしモッシャーの目は閉じられて、頭をこっくりこっくりさせて、返事をしない。ロッキーは後ろのバールームのドアを開けて、その向こうのホールに右を向いて立っている。若い娘の笑い声が聞こえる)ロッキー (警告するかのように)ダメだ、ダメだ。ピアノだよ。 (彼は二人に続いて来るようにと促す。バーの後ろに行って、ウイスキー瓶とグラスと椅子を持って来る。マギーとパールが彼に続き、周囲を一瞥した。ラリーとパリットを除いて全員が眠っていて、いびきをかいている。パリットさえ目を閉じている。二人の娘は二十歳に満たないのだが典型的な安売春婦で、安ピカの服装である。パールは見た目がイタリア人で、黒い髪と瞳をしている。マギーは褐色の髪とうす茶色の瞳をしている。二人とも太って一定の可愛さを持っていて、その稚拙な化粧はお似合いなのだ。二人は瑞々しい若さの痕跡を保持している。が、ゲームはそれに困難と疲れの表情を加え始めているのだ。二人共に感傷的で、能天気で、笑い上戸、怠惰、性格がよく、人生に心から満足している。彼女達のロッキーに対する態度は、母性愛溢れる姉妹が威嚇的に脅す兄を宥めたり賺したりするような風である。ホープのそれは二匹のペットを都合よく飼い慣らそうとしているようである。彼は経営者としての愛情を二人に注ぐのを自慢に感じている。が、それは彼の規律ある訓練からすれば生ぬるいものだ。マギー (周囲を見回して)パール、死体だわ。みんな甲板で硬直している。(ラリーの視線を受けて、ニコリと微笑みかけ)今日は、老賢人さん、まだ生きていたの。ラリー (ニッと笑い)まだ生きてる、マギー。でも、最後が待ちきれないでいるよ。 (パリットは目を開いて二人の娘を見るが、二人が自分を見たので再び目を閉じて、頭を横に向けてしまう)マギー (パールと一緒に右のテーブルの前にロッキーに伴われて来る)新人は誰なの。あなたの友人なの、ラリー。(自動的に笑い、誘惑するように職業的な歌で話しかけた)ねえ、楽しい時を持たないかい。パール おや、死んじまってるよ。地獄行きだね。 ホープ (メガネ越しに二人を見て、眠たそうにイライラして)二人共煩い話はするな。(また目を閉じた)ロッキー (善良そうな説得口調で)殴り倒されない前に座れよ。(マギーとパールは左側に、テーブルの前に坐る。ロッキーはその右に。娘達は酒を注ぐ。ロッキーはホープに目をつけて機敏な事務的な低声で)宿無しども、元気かね。マギー 御蔭さまでね。パール 確かに。私達は泊まりの客を捕まえたよ。マギー 六番街でね。薄のろども。パール 嫌な男さ、二人共に。マギー 私達はついていたよ。客を本物のホテルへ誘導してやった。男どもは薄のろ過ぎたから、十分に眠れたよ、この安宿とは違うから。 パール 不運でもあったよ。客は私の眠りを邪魔しなかったけれども、よくは眠れなかったみたいだ。あんなにお喋りな男を知らなかった。マギー 政治の話なんかしてたよ、ボトルで酒をラッパ飲みしながら。私らがそばにるのを忘れているみたいに。ブルムーサーは正当な人物だよ、と一人が言い、もうひとりが、それは違うよ、俺は共和党員だからな、と。それで、二人で笑うんだよ。パール ぐでんぐでんに酔っ払って、大声をだして叫んだり歌ったりした。歌は学生時代だ。蓄音機をかけながら一緒に寝るのを想像してご覧よ。マギー ホテルの男がやって来て、服を着て外気で頭を冷やせって言ったよ。パール 私らは客に街角で待っていてやるよって言った。マギー それで此処に来たのさ。
2024年03月04日
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