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「キャンディード」 3回目の観劇。台詞の細部まで聞き取って、作品のメッセージの深みに達することができ、電流がじんじん走った。千穐楽で、2階席のA席しか取れなかったのだが、1階席からでは分からない照明の工夫も見どころだった。地震の場面など、窓明かりを模したスポットライトを床の上で揺さぶることで、大振動の錯覚を与えてくれた。千穐楽の舞台挨拶は、青年キャンディードの忠実な友人にして召使のカカンボを演じた駒田 一(はじめ)さんが司会役。駒田さん:≪今日まで練習期間を含め2ヶ月半、我々がやってこれたのも、スタッフ、オーケストラの皆さん、そして誰よりも、ここにおられるお客さまの応援のおかげです。厚く御礼申し上げます。≫挨拶の一番手は、掃除夫に身をやつす悲観主義哲学者マーティンを演じた村井国夫さん:≪「キャンディード」は決して今回が初演というわけではなく、これまでもいろんなヴァージョンのものが演じられてきたのですが、じつに分かりにくい劇なのです。自分も過去に別の「キャンディード」の舞台で演じたことがあるのですが、やっている自分も、いったい何を言おうとしている劇なのか分からなかった。今回のジョン・ケアード版は分かりやすく、ようやく自分もこの劇の意味がはたと分かった。「キャンディード」を過去にやったことのある仲間たちも今回帝劇に観に来てくれたのですが「あぁ、そういう劇だったのか」と言ってくれた。ロンドンにいる演出家のジョン・ケアードさん、みごとな仕事をしてくれました。ほんとはもっと続けたいのですが、キャンディードを演じている井上芳雄君の体重がどんどん減っているということなので、この辺でひとまず終えさせていただきます。≫美しい男爵令嬢クネゴンデを演じて、オペラ歌手のような歌いぶりの新境地を開いた新妻聖子さん:≪ここまでひとりも缺(か)けることなく公演を全うできてよかった。「キャンディード」 のすばらしい世界でこの1ヶ月を生きることができて、しあわせでした。≫純真にして天真爛漫、クネゴンデを愛しつづける青年キャンディードを演じた井上芳雄さん:≪この1ヶ月間、どんどん体重が減っていって、デビュー当時のころまで戻ってしまいました。≫狂言回しの、ヴォルテールとパングロス博士の2役を華麗に演じた市村正親(まさちか)さん:≪わたしは舞台が大好きなのですが、こんなにずっと舞台に立たせなくてもいいじゃないかと思うくらい、今回はずっと舞台に立っておりました。舞台で進行を眺める立場でもあったわけですが、それぞれの役者が自らに問いかけながら作品に向き合っている姿を、こうして舞台に立ち続けて眺めることができて、自分もまた多くのことを新たに学ぶことができたと思います。井上芳雄も体重が減って大変そうで、できたら替ってやりたかったけれども (笑) 、とにかく自分も足が立つ限り、この作品をやっていきたいと思います。≫そのあと、役者さん皆で客席へたくさんの小さな花束を投げ込み、スタンディング・オヴェーションのころには指揮者の塩田明弘さんも舞台前面に出て来られた。劇場を出ると、外には8台のトラックが待っていた。さっそく大道具の入れ替えというわけだ。*帝国ホテルのバーで余韻を楽しもうと思って日比谷界隈へ行くと、シアター・クリエ前で、これまた千穐楽だった 「M・クンツェ&S・リーヴァイの世界」 に出演したサブリナ・ヴェッカリンさん (「マリー・アントワネット」ドイツ語版のマルグリット役) とパトリック・シュタンケさん (同じくフェルセン役) が、出待ちの人たちと話をしたりサインをしたり。バーで飲んだのは、ブランデーベースのカクテル 「ボンベイ」 (ちょっと妖しい味が気に入っている) と、ジンベースのカクテル 「ブロードウェイ・メロディ」 (軽やかな春の風のよう。ピアノの音を感じる) でした。最高の一日になりました。
Jun 27, 2010
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6月のブログ冒頭は『石田徹也全作品集』 (求龍堂、平成22年刊) を掲げていた。カバーに使われた 「燃料補給のような食事」 (平成8年作) は、作者・石田徹也さん23歳のときの作品。牛丼店をガソリンスタンドに見立てた。5月にギャラリーQ (銀座一丁目) で、出版記念および五周忌展を見て、一作一作のウルトラQワールドのアンバランスにのめされ、作品集を買った。8,500円+税 と高価だが、開いただけで特異な世界が広がるこの1冊は、高くない。石田さんは昭和48年、焼津生まれで、平成17年に31歳で事故死した。「分解」 (平成11年作) は、変調しつづけるダイニングキッチン。ネジがつぎつぎ男の頭のかたちに増殖し、部屋を支配し解体してゆく。*6月25日11:07:41 PM に別項目に書き込まれた読者コメントを、こちらに転載します。≪かねてよりのファンですがいただけません! 表紙の絵 じろうさん モダンタイムスのような、何かを感じられていらっしゃいますか?牛丼って、あてがい扶持の給餌ではなく、牛丼同士の熾烈な味、商品構成、価格の競争によって、少なくとも今そこで食べている消費者に選好された結果なんですよね。いくら低価格を追求しているとはいっても、そこには分厚い立ち食いそば業界の壁があり、コンビニ、290円弁当の強力なライバルがいるわけです。昨今の若手会社員男女は、なぜか会議室に集まって弁当喰うランチが多いし…。画一さを感じさせる表紙の絵が、なぜ尊敬する商社マン兄を引きつけたのか、ご教示いただければ幸いです。貴兄の対極がこの絵と見えなくもないもので…。場所違い深くお詫びします。 (Jun 25, 2010 11:07:41 PM)≫「燃料補給のような食事」 が作品集カバーに使われたのは、その最大公約数的なところ (一見して分かりやすい社会批判性) が理由だったのでしょう。わたしが編集者なら 「分解」 をカバーに使ったと思います。ほかにもいろいろ、いい作品があります。ちなみに 牛丼店 は、食事場所が一見してブロイラーのケージに似ていることから、風刺画の格好の題材として選ばれたわけです。一直線にすきまなく坐る人々が、同じ動作を繰り返す。ところが、牛丼 そのものが、食べる人それぞれに自分の好みを主張できるファーストフードであることも確か。最近ぼくは、牛丼店で 「豚丼+生卵+けんちん汁+お新香」 を食べるのが毎週一度の定番になっています。「豚+七味」 をまず味わい、つぎに 「豚+紅生姜」 を味わい、つぎに 「豚+生卵+七味」 を味わい、つぎに 「豚+生卵+紅生姜」 を味わい、これをご飯とお新香が囃(はや)してくれて、健康的根菜スープのけんちん汁までいただける。食べながら、味わいに変化をつけていく。ハンバーガー店の場合、食べはじめると味に変化はつけにくい。タバスコをふりかける程度でしょうか。その意味ではハンバーガー店のほうが、よほど 「燃料補給のような食事」 です。ところが店内の風景は、人それぞれが気ままに過ごしていて、画一化を風刺する題材になりにくいわけです。
Jun 26, 2010
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劇団 「わらび座」 による鉄腕アトムのミュージカル公演がはじまりました。「アトム」。 6月27日までは新宿文化センターで。 そのあと、多摩市、入間市、藤沢市、佐倉市など関東公演が続き、再来年の平成24年3月まで全国各地で公演の予定です。 ゴレンジャーのショーではありませんよ。いわゆるファミリーミュージカルではないのです。 アトムやウランちゃんの着ぐるみは、なし。人間型ロボットの印は、左手に巻かれたメタリックな帯だけ。 アトムやコバルト、ウランちゃんの時代は、すでに過去のもの。 10万馬力の高出力ロボットが、悪者の指示にも従順にこたえて破壊的な結果をもたらすことを恐れた政府は、ロボットの筋力を人間以下にとどめるよう規制しだした。 この規制を進めたのは、神楽坂(かぐらざか)町子。お茶の水博士のさいごの弟子だった。 断腸の思いで、みずから鉄腕アトムを解体した……はずだったが、アトムの体は神楽坂邸に厳重保管されていた。 そしてアトムの心である電子頭脳は、筋力が人間以下の、あるロボットに埋め込まれていて…… と、「続 アトム」 ともいうべきストーリーです。■ 手塚作品のキモとなる問いかけの数々 ■ 手塚治虫さんが描いた 「鉄腕アトム」 は、単なる勧善懲悪ものではなかった。 人間とロボットの心の交流は、どこまで可能なのか。 人間への絶対服従を強いられるロボットが人間から理不尽な扱いを受けるとき、その悲劇はいかにして正されるべきなのか。 2010年の我々も考え込んでしまう問いかけが、漫画 「鉄腕アトム」 には埋め込まれている。 まさにそのキモの部分を中心に据えたのが、今回のわらび座のミュージカル 「アトム」。 だから、メッセージが深い。 ロボットたちが雇い主や通行人から受ける理不尽の数々。 癒しを求めて、偽りの口実をつくって夜な夜な集まって音楽パーティーを開く、人間型ロボットたちの姿からはじまるステージ。 親からの束縛に苦しむ令嬢マリアが、介護ロボットのアズリに恋をする。 人生に迷う人を力づけるセリフが星のように光る。 手塚作品に必ず登場する悪役科学者。 このミュージカルでは、スーラという一見ダンディな男が、ロボットの反乱をあおる狂言回しを演じ、自分が違法改造したロボットから報いを受ける。■ 碓井涼子さんからの手紙 ■「アトム」 公演をぜひ観てくださいと、じつは出演者の方から手紙をいただいた。 新宿公演ではちょいワルのエミを演じる 碓井(うすい)涼子さんから。 碓井さんには、手紙とともにお気に入りのCDをお送りしたことがあった。 わたしの生まれ故郷の松山市近郊にある 「坊っちゃん劇場」 で去年、ミュージカル 「鶴姫伝説」 の長期公演があり、富山県出身の碓井さんが主演女優をみごとに務めていた。 愛媛県東温市の坊っちゃん劇場は、松山市駅から電車でゴトゴトと30分、周囲に田んぼしかないショッピングセンターの一角にある。 道後温泉からも離れた辺鄙なところだが、松山周辺の学校や福祉施設などから上手に集客し、営業的には成功している劇場だ。「新妻聖子さんみたいなパワーがあるなぁ。レ・ミゼラブル だってこなせるひとだ」 碓井さんの演技と歌への、わたしの感想。 そんな碓井さんが、わが故郷の人々にみごとな舞台を観せてくださったことに、感謝の気持ちでいっぱいだった。■ 進化へ GO! ■ 新宿文化センターの公演が終わったあと、わらび座の役者の皆さんがロビーに出てきてくださった。 思いがけず、碓井涼子さんにもご挨拶できた。碓井さんのはじける笑顔に、わたしも「ブログやメルマガでご紹介します」と、お約束したのである。* わらび座公演の音楽は、生演奏ではなくオーケストラの録音を使っているが、満足な出来ばえ。ここぞというシーンでは、からだに電気が走った。 オリジナルミュージカルなのだが、音楽にところどころ、ミュージカル 「エリザベート」 の節回しを拝借したように聞こえる箇所がある。将来的には修正がほしい。 役者さんのなかでは、神楽坂町子を演じた椿 千代さんが、宝塚女優のような堂々たる歌唱力を発揮していたし、悪徳科学者スーラを演じた速水けんたろうさんは、ベテランの沢木 順さんを彷彿とさせた。(キャストは公演ごとに替わることがあります。) いい材料が揃っているのだが、アンサンブルの振付けやセリフの一部にわざとらしさが残る。2年間の全国公演の間に 「進化」 を遂げることでしょう。<わらび座「アトム」ウェブサイト>http://www.warabi.jp/atom/special/ (音声入り)http://www.warabi.jp/atom/tezuka.html (解説が充実) 6月19~27日の新宿文化センター公演と、7月18~19日の兵庫県立藝術文化センター公演は、配役にもとりわけ力が入っています。 7月3日のパルテノン多摩公演では碓井涼子さんが主役の令嬢マリアを演じることになっていて、わたしもまた観にいくつもりです。
Jun 21, 2010
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ことしも7月13~16日に靖國神社の 「みたままつり」 があります。おととしから、献燈をしております。「配信コラム主宰 泉 幸男」という文字の入った提燈(ちょうちん)が2つ、夏の夜を照らす万燈の 「みあかし」 に加わっているはずなのですが、じつは 「みたままつり」 そのものには、相当むかしに1度行ったきりで、自分の提燈も見ていません。30代の後半から靖國神社崇敬奉賛会の終身会員になっておりますが、月報が届き、暦の小冊子とお札(ふだ)も毎年送られ、このままでは靖國神社はわたしが終身会員になったばかりに却って赤字になってしまうと思い (終身会費は現在でもわずか5万円なのです) 、おととしから献燈することにしたわけです。
Jun 16, 2010
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6月15日に、またひとつ、気持ちの悪い会ができる。 「東 ア ジ ア 共 同 体 議員連盟」 だそうだ。友愛外交 (?) が破綻したばかりなのに、まったく懲りてません。 東アジア共同体議連の会長は鳩山由紀夫氏だ。 発起人は海江田万里氏ら民主党議員10名。民主党議員70名ていどで議連発足の見込みだと。 たまに良い政策をちらつかせても、本質は相変わらず気持ちの悪い民主党である。■ 経産省のビジョンに乗った ■ さて、民主党が参院選公約に 「法人税の引下げ」 を掲げたのには驚いた向きも多かったのではないか。 経済産業省が 「産業構造ビジョン2010」 の中で力説しているスローガンに、民主党の新執行部が乗ったのである。 小沢政権がうそぶいていた 「官僚排除」 を、菅政権はいさぎよく捨て始めたようすだ。手ごわい政権になりそうだ。 法人税の税収が減る分は、消費税の税率アップで補う。要すれば、日本の税制をヨーロッパ諸国や韓国に近づけてゆくもの。 わたしはこれに、賛成である。 これを一時代前に与党自民党が言い出せば、野党も主流メディアもいっせいに「企業や金持ちを優遇し、ツケを庶民に回すものだ」と非難囂々(ごうごう)。 だから自民党は言い出せなかった。■ 税引き後の当期純利益が増える ■ 法人税率は今や、日本よりEU諸国や韓国のほうが10~15%低い。 低い法人税率でEU諸国や韓国の財政がなぜ回るかといえば、代わりに消費税率が高いからだ。 法人税率が低くなれば、当然ながら企業の収益は劇的に改善する。「どうせそれを役員報酬や株主配当にまわすのであろう。新規投資拡大へとカネが回る保証がどこにある?」と、反対論は簡単に言える。 金持ちへの嫉妬を煽ることほど簡単なことはない。 役員報酬にも株主配当にも縁のない企業人のわたしから見て、やはり法人税引下げは経済を元気にすると思う。 企業の現場で、新しい投資をするとき何を判断の基準にするか。 新規投資で 「売上高」 がいくら増えるとか、「営業利益」 がいくら増えるとか、そんな数字はあまり意味がない。 法人税を支払ったあとに残る 「当期純利益」 が、投資金額に見合っているかが、経営判断のポイントになる。■ 新規投資案件が進めやすくなる ■ いかに意義あるプロジェクトでも、最後に41%の法人税等を差し引いた 「当期純利益」 がいくら見込めるかで、投資の青信号・赤信号が決まる。 法人税率が下がれば、青信号がともる新規投資案件が増えるのは、これは間違いない。現場感覚としてそう言える。(社外秘漏洩になるので、具体例はご紹介できないが…。) かりに政府の補助金をもらうとしても、プロジェクトの目論見書(もくろみしょ)には当年の (あるいは確定済の数年間の) 補助金の実額しか織り込めない。 ところが、法人税率の引下げはインパクトがデカい。プロジェクトの永い将来にわたる採算を、引き下げられた法人税率でもって計算することになるからだ。 法人税が下がると、投資金額に対する当期純利益額は、単純にプロジェクトの全期間を通してアップする計算だ。新規投資へのハードルは、一気に跳び越えやすくなる。 いずれの企業も、投資金額に対していくらの収益を上げるべきか、経営指針を設けている。 採算ぎりぎりだった新規プロジェクトが、経営指針を悠々クリアできるプロジェクトに変わるのだ。■ 超党派の意味 ■ 現場感覚として、EU諸国や韓国企業の鼻息は、日本企業よりも力強く感じられる。「ほんとうの実力は俺たちのほうが上じゃないのか」と常々思うのだが、要すれば彼らのほうが新規投資に取り組むハードルが低いのである。 法人税引下げは経済再生の基本だから、ほんらいは自民党がとうの昔に党の公約として掲げるべきであった。民主党に先を越されてしまったのが、残念でならない。 真摯(しんし)な願いである。 どうか自民党も、こと税制論議に関しては、経産省のビジョンに乗ってほしい。結果として民主党に歩調を合わせることになるが、良いではないか。 法人税引下げと消費税引上げを、民主党・自民党が一丸となりスピード感をもって実現してほしい。 何年か後に再び自民党政権に戻ったときも、法人税率は引き下げられたままだ、という安心感があれば、企業も新規投資に取り組みやすくなる。 それが、日本の明日のためになる。▲ 後記 ▼ 経済産業省の提言書 「産業構造ビジョン2010」 は、読みごたえがあります。 各部局の言いたいことを寄せ集めた感じは否めませんが、きれいに整理しすぎていないのが、逆に新鮮です。(つまり、内容に濃淡あり、ということです。) 総じて、日本の産業経済の危機を冷徹に見据えつつ、決して投げやりになることなく、我々が目指すべき道を語っています。http://www.meti.go.jp/committee/materials2/data/g100601aj.html ↑ このサイトの資料3と資料4をぜひ読んでみてください。
Jun 13, 2010
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かつてシベリア抑留で苦労した83歳のひとが若者に「ロシアと戦った」と言ったら「日露戦争の生き残りですか」と言われた、という実話がある。もし 生き残り なら130歳前後のご老人だ。アホっぽくて笑えるが、はたと気がつけば、「ソ連」 という存在がドテッと横たわっていたことが、同時代人のぼくの記憶脳からも少しずつ薄らぎ、「ソビエト社会主義共和国連邦」 だの、ロシア語の CCCP という略語だのが、ベールの向こうに遠のいている。娘たちの世代にとっては、「ソ連」 は 「ローマ帝国」 や 「ササン朝ペルシア」 と等距離なのだろう。6月10日に、ひょいと会社を休んで、両国のシアターX(カイ)にチェーホフの短篇小説の芝居仕立てを観にいった。ロシアの俳優ふたりがロシア語で演じてくれた。「チェーホフ作品を読む」 が、ぼくの未来メニューにしっかり書き込まれた。『北國新聞』 コラム 「時鐘」 平成22年6月13日 ≪日本がアメリカと戦争をしたのを知らない大学生がいて「どっちが勝ったの」と真顔で聞くという。冗談だと思っていたが、現実にいるそうだ。先日の投稿欄には、シベリア抑留体験者 (83) の話があった。「ロシアと戦った」と言ったら「日露戦争の生き残りですか」と言われたと書いている。太平洋戦争を知らない学生がいるくらいなら、シベリア抑留を知らない若者もいるのだろう。抑留体験者にこんな話を聞いたことがある。強制労働は夜間にまで及んだ。凍るような満月が輝いていた。見張り役の若い旧ソ連兵が自慢そうに言ったそうだ。「きれいだろ。日本にも月はあるのか?」質問の意味が分かっても、笑うどころか悔しかったという。旧ソ連と日本の教育水準の違いを思った。こんな国に敗れたのかと思うと悔しかったのである。帰国できず凍土の土となったのは6万人以上ともいい、定かではない。成立確実とされた抑留者のための補償法案の行方がさだかではない。体験者の高齢化が進んでいる。補償以上に大事なのは抑留の歴史を正確に伝えることであり、これも新内閣の仕事である。 ≫
Jun 13, 2010
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『ウォールストリート・ジャーナル』 紙が5月10日に始めた日本ニュース短信ブログが気に入った。Japan Real Time 「日本リアルタイム」http://blogs.wsj.com/japanrealtime/短信ニュースごとに添えられた写真のセンスもいい。文章も読みやすくウィットがある。同じフォーマットで編集されている短信ニュースブログに、METROPOLIS (ニューヨークの話題)http://blogs.wsj.com/metropolis/NEW EUROPE (中欧・東欧の話題)http://blogs.wsj.com/new-europe/India Real Time (インドの話題)http://blogs.wsj.com/indiarealtime/China Real Time 「中国実時報」http://blogs.wsj.com/chinarealtime/あと、満足度が高いのが、はっと息をのむような、その日の世界の写真選(よ)りすぐりPHOTO JOURNAL ― Pictures of the Dayhttp://blogs.wsj.com/photojournal/
Jun 12, 2010
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民主党の次の代表選は、9月。 「それまでは高みの見物ぢゃ」 と、うそぶく小沢一郎氏にピッタリの句を進ぜよう。一 郎 に た か る 無 数 の 蠅 し づ か 現代の東京では、汲み取り式の便所がないから、ウンコにたかる銀蠅が再生産されない。 道端の犬の糞に来るハエも少なく、陽光にたちまち干からびる。 わたしが子供のころ、松山市辻町の自宅付近の道を歩けば、草のまにまに黒い物体が見えた。 茶色いウンコの正体が見えないほどに、無数の銀蠅が黒くたかって、しずかにうごめいている。 近づくと蠅は一斉に飛び立って、ウンコの正体が見える。 まことに、小沢一郎氏に捧げたい一句である。■ シンクロの水面下 ■ 6月8日に内閣発足の菅直人総理に進ぜる句は、これだ。満 月 や 直 人(なおと)の 永 く 立 泳(たちおよぎ) ボロが出ないよう、普天間問題でも沈黙を守り通した。 これから参院選まで、国家観・外交手腕の無さを隠し通すべく、ひきつづき忍の一字であろう。 みごとな立ち泳ぎ。 シンクロナイズド・スイミングよろしく、その立ち泳ぎを水面下で支える奥方にも敬意を表したつもりである。 まっとうな国家観なくしては永久に立ち泳ぎで、いずこの岸にもたどりつけない。■ 幻影を追うあやまち ■ さて、梅雨どきの選挙戦である。梅雨は寒いか、しょっぱいか。あ や ま ち は く り か へ し ま す 梅 雨 寒 し あやまちとは、またまた幻影を追って民主党に投票する国民のあやまち。 持ち前の (はずの) 国家像を自信をもって語らない自民党のあやまち。(語れ、自民党! わたしは自民党の支持者である。)「梅雨寒し」 は夏の季語。* 以上の3句は、俳句好きならご存知の三橋敏雄(みつはし・としお)さんの有名な句を捩(もじ)らせていただいた。 平成13年に亡くなられた三橋さんの句のうち、わたしが最も好きなのはか も め 来(こ)よ 天 金 の 書 を ひ ら く た び 敏雄 書斎空間に華麗に広がるロマンの軽やかさ、すがすがしさ。 さて、忍びなくもお借りした句は、以下の3つである。戦 争 に た か る 無 数 の 蠅 し づ か 敏雄満 月 や 水 兵 永 く 立 泳あ や ま ち は く り か へ し ま す 秋 の 暮「戦争に…」 と 「あやまちは…」 の句は、解説不要だろう。「満月や…」 の句は、船が沈み海に投げ出された海軍兵士を待ち受ける無残な運命をしずかに暗示する。 酷(むご)い満月だ。無意味に、あまりにも無意味に美しいがゆえに。 あらためて思うのは、三橋敏雄さんの句のみごとさ。ことばが動かない。 もじった途端に文学でなくなり、コラムのネタにしか使えない。三橋さん、申し訳ありません。
Jun 9, 2010
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出光美術館などで陶磁器を見るのは好きだが、焼き物への関心は絵画に対するほどではない。というか、器の名品を見ても図柄や彩色にまず目が行く。要は絵付けの美を鑑賞しているわけである。ならば、窯で焼いたものを見るまでもなく、屏風をたんと楽しみなされ。ルーシー・リー展は名品ぞろいと想像しつつ、何となく躊躇していたのは、そのせいだ。八重洲二丁目の画廊 T-BOX に行ったらビラが貼ってあったので、「行こうかどうしようか、迷ってるんですよ」と言ったら、オーナーの高橋盛夫さんが「ぜひお行きなさい。自分は画廊の留守番でどうしても時間が取れないが」とおっしゃる。6月4日に国立新美術館に行って、ルーシー・リーの釉薬調合への飽くなき挑戦を目(ま)の当たりにして、すがすがしさで満たされた。挑戦心こそ青春。青春を片時も離れることなく、自らのセンスを形と線で表出しつづけたひと、ルーシー・リー。え? と思われるだろうが、ルーシーのウィーン修行時代の虹のようにカラフルな鉢が、ぼくはいちばん好きだ。たぶんそれが最も絵画的だからだろう。ウェッジウッド社のために作ったジャスパーウェアのコーヒーカップのモデルも興味深かった。けっきょく商品化は見送られたが、ルーシー・リーが終生身近に飾っていたという。6月5日、高橋盛夫さんに、採用されなかったウェッジウッドモデルの話をしたら「きっとどこかに商品化には適さない何らかのゆがみの要素があったのでしょう。そしてそれこそが彼女の藝術の所以(ゆえん)だったのにちがいない」と推測していた。展覧会へと背中を押してくれた高橋さんに、お礼にルーシー・リー展の図録を差し上げた。*展覧会を見てから3階のレストランで食事した。開催中のオルセー展記念のメニューをたのんでみた。前菜のシーフードは、見かけは蒸し物のようだが網焼きの味がして、浅蜊をベースにしたソースをあわ立てたという海潮音の演出も楽しい。主菜の鴨のモモ肉は窯(かま)で焼かれてほろほろ。左上には白隠元豆のピューレにトマトピューレを配し、太陽のよう。表皮と肉の異なる食感に、ピューレのさまざまなコンビネーションを掛け合わせると、変化たっぷりに大振りのモモ肉がぺろりと入ってしまう。南仏の白隠元豆の煮込みがロートレックの好物のひとつだったそうだ。右下の卵のようなのは 「蜂蜜のアイスクリーム」 だと言われたが、肉桂なのか、なにかスパイシーで、いけた。あとで読んだら、あれは生姜の風味だったらしい。この3品で 5,800円。赤ワイン250 ml が 1,000円。展覧会チケットを見せると1割引だから、これはかなりオトクです。
Jun 6, 2010
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鳩山由紀夫氏が退陣表明をしても、明日の新聞1面に「真意は続投 退陣覚悟で参院選たたかうと宇宙人語の迷走きわまる」と大見出しが出ていそうで、こわい。鳩山氏が辞めても、迷走路線の元凶のひとりの寺島実郎(じつろう)氏は相変わらず週末のテレビ画面ででっぷり顔で偉そうにしているし、もうひとりの元凶である桜美林大学大学院の橋本晃和(あきかず)教授も懲りることはあるまい。橋本晃和氏は、5月7日の朝になってもなお、フジテレビの 「とくダネ!」 に出て (わたしはたまたま見ていた) 「普天間問題については、自分が総理に入れ知恵した腹案がこれから出てくる」と、いけしゃぁしゃぁと言っていた。その 「腹案」 というのが、何のことはない。普天間のヘリコプター部隊に九州の基地を転々としてもらうというもの。たとえ実現しても、普天間基地の返還には結びつかない。一生懸命やってるフリをするアリバイづくりにしかならない。そもそも九州各県の自治体との厳しい協議と補償金合意が必要だから、5月半ばになって 「鳩山腹案でござい」 と出してきても、5月末にはまったく間に合わない。信じられないようなアホだ。あまりのアホぶりが信じていただけないかもしれないので、以下のサイトにリンクしておきます:普天間 「鳩山腹案」これから出してくる ―― 総理ブレーンが明らかに橋本晃和 氏は現在、桜美林大学大学院の客員教授。昭和16 年生まれ、慶応大学経済学部卒、同大学院法学部博士課程修了で、法学博士号を取得している。鳩山由紀夫氏などよりむしろ、こういう華麗な経歴をもった暗愚な学者が国を迷走させ、かつ、しぶとく生き残るから始末が悪い。*小沢一郎氏は、これからどうなるのだろう。一部の政治評論家が言っていたように、権力の座からずり落ちた途端に検察幹部への抑えがきかなくなり、小沢氏はお縄になる、のだろうか。小沢一郎氏は、これからどうするのだろう。田中角栄みたいに退陣後も隠然たる影響力が行使できるのだろうか。ほんの一時期、北京へ大訪中団を繰り出し韓国でお粗末な講演をするなどしていい気になったときが、小沢氏の露出度のピークだった。次々と失態が露見して顰蹙を買い、また す~っとオモテに出なくなった。田中角栄氏のように有能な側近・部下を持っていれば、小沢氏もあそこまでの失態はなかったろう。つまるところ、田中角栄氏にあったような人望がないので、いよいよ小沢一郎氏の最後が来た、というのであれば喜ばしいのだが。
Jun 2, 2010
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