アルツハイマー型認知症と診断された以上、もう運転免許証の更新が出来ない事は確定している。
しかし、父にそのことを少しでも理解してもらう為に敢えて試験を受けてもらった。
しばらく待つと係の人から呼ばれ、試験結果の結果が告げられた。
「運転免許証の更新が出来ません」
そう言われた父はしばし呆然とし、何が起こったのか分からない様子だった。
前回までは自動車学校で新しい運転免許証用の写真を撮り、更新されたピカピカの運転免許証をニコニコしながら持って帰っていたのに、初めて不合格通知を持って帰ることになった。
家に帰り、やや重たい雰囲気で昼食を済ませ「父に言うのは今日しかない」と僕は覚悟を決めて
「免許の更新が出来なかったから今日免許を返さないといけない」
と父に言った。
そう言われた父は「えー!何で?」と今にも泣き出しそうな表情であった。
それは今まで大切に大切にしていた大事な宝物を取り上げるようだった。
辛さをグッと堪えて「今までいろんな所に連れて行ってくれてありがとうございました、62年間無事故無違反は本当に凄いことです、無事故無違反のまま終わろう」と言ったら少し間を置いて父はようやく首を縦に振った。
それから警察署へ行き運転免許証返納の手続きをした。
そして実家で少し早い夕飯をみんなで食べた。
この時、父はとっても明るかった。
それとも無理に明るく振る舞ってたのかな?
僕らに課せられたラストミッションは「父が大好きな車の運転を62年間無事故無違反のまま終わらせる」であった。
これでミッション完了である。
夕食を済ませ、父と母が2人きりになった時父が
「62年間無事故無違反で終われたのはさっちゃんのおかげだ、ありがとう」と言って母は涙したと言う。
母も「あんな事言ってくれると思わんやった」と嬉しそうだった。
喜びと感動に包まれた本当に幸せな一日だった。
しかし次の日、父が母に言った衝撃の一言に僕らは凍りついた。
つづく
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