本日はこちら「イレブンアイズ クロスオーバー」のレビューです。
序盤はよくあるギャルゲーの展開で少々だるいのですが、そこをぐっと我慢して二、三回の「赤い夜」を生き抜いた頃、最初の仲間が現れるあたりから加速的に面白くなっていき、気が付いたらむさぼるようにテキストを読み、ハマりこんでいる自分がいました。
もう、これでもかってくらいに中二病展開なんですが(主人公の右目とか)これがもうばっちりしっくり来るくらい世界観にはまっていまして。
とても面白かったです。
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私が面白さの源泉として注目したのは、BGMと構成力ですね。
以後、「罪と罰と贖いの少女」編を本編、「虚ろなる鏡界」編を追加ストーリーとして記述します。
本作はBGMの力がいかんなく発揮されていると思います。戦闘シーンのみならずあらゆるシーンにおいて、BGMとのマッチ感が非常に良く、何倍も盛り上げてくれます。
オーケストラなど格式高い舞台で使われるような楽器(バイオリンやパイプオルガンなど)と、現代ロックなどで使用するギターやドラムが本当に違和感なく共鳴しあっていて、ノリとテンポがよく、それでいてどこか荘厳な素晴らしいメロディが目白押しです。
特にお気に入りなのが、本編「ラスボス」戦で使用される「聖詩篇666」という曲で、クラシックのような厳正な音色が、ジャズ調の軽妙なアレンジをされていて軽くショックを受けました。もちろん、良い意味でのショックです。
そして、構成力。本編はかなりたくさんの伏線やら世界観やらが詰め込まれていまして、それらの伏線回収、隠された事実が少しずつ解禁されていく「謎解き」がとても気持ちいいです。
これは、やはりストーリーを練り込む前にきちんと前提を設定しておいたからこそだと思うんですね。
というのも、追加ストーリーをプレイしていると、どうしても底が浅く感じられ、「文章力の差」以外にもきちんと伏線などを練り込み「世界観の厚み」を意識しているかどうかでも、一言の文章に「興味」の差が出るんだなぁと、感じずにはいられませんでした。
本編は文章力も高いですし、校正もきちんとされているようで(それでも二、三箇所ミスはありましたが)没頭して読めます。というのもやはり張り巡らされた伏線が気になるからで、こうなるとイカニモな中二設定にも説得力があり、「中二」心の本来の意味「格好良い!」がなんの衒いもなく本気で格好良い! と思えるんです。
さあ、そこでオリジナルストーリー、「虚ろなる鏡界」編ですよ……。
この「……」でお察しかとは思いますが、正直なところ、
「ゲームの追加シナリオ、いいかげん本編以上に興奮させてくださいよ!」と、言いたいです。
そんなゲームに出会ったことがありません。
ただし、本作の追加ストーリーは、そんじょそこらのギャルゲーと比べると必ずしも出来が酷いわけではありません。
間に合わせには違いないんでしょうけど、単なる追加シナリオとして見れば文章量は多いですし、その中でも攻略対象がたくさんいますし、量としては問題ないでしょう。
ただ、文章量に対して攻略対象が多すぎる嫌いはあります。選択肢は一度きりで、誰のエンドか決まってしまいますし、その選択肢によって流れる個別のシーンは二度だけです。これでは、各キャラクターとの絡みが十分ではなく、エンディングの流れは性急に感じます。
栞エンドとか「ふざけてんだろうな」とはっきり感じましたしね。
もう一つ追加ストーリーで気になったのが、表現力の低さです。
もしかしてシーンや前後編に分けて二人以上の人が書いているのでしょうか。
特に、心理描写や平時のセリフ回しにはとても興味深いことが書かれていたり、感心してしまうような文章も出てきたりするのですが、逆に戦闘シーンやそこでの駆け引きが妙にご都合的だったり、表現が滑っていて全然緊迫感が感じられなかったりするのです。
現代魔術の特異性やコンピュータープログラムに類似した設定が、直感的にわかりづらいものだったのも大きいかもしれません。コマンドの名前だけ出てきて仰々しく叫んでもこれは本編とは逆の悪い意味での中二病ですね。
主人公の内心を吐露する地の文も、二言目には「現代魔術師、現代魔術師」と吐き気がしてくるのですが、ここはあえて主人公が現代魔術に傾倒、心酔しているのだと思えば若干許容の兆しは見えてきます。
本編の流れをベースに見ると、質は悪く、各所に詰まるヒロインの独白もイタイだけの無駄に思えてしまうのですが、同時に書き手は理詰めで物を考えるタイプなのかな、と思うほどに心理描写はしっかりとされていました。
私個人としては
主人公、そのヒロインに対して品定めする→ヒロイン「私の顔に何かついてる?」
とか、
「主人公、結構格好いいじゃん(ボソッ)」→主人公「ん? なんか言った?」
のようなセリフが出た瞬間三流シナリオ決定なんですが、そうかと思えばある昼下がりの黒芝さんとの掛け合いがなかなか鋭く、ミステリアスな「魔女」の印象がよく表れています。彼女には後に語られる大きな秘密があり、その伏線があるがゆえにこういう風に描けるのかな、と。上記の三文芝居のアンチのような受け答えもあり、いったいどんな人が書いているんだ、と煩悶してしまいました。
複数の人間が書いているのかも、と思ったのはこの辺が理由です。
他にもいろいろダメ出ししたいところがあるのですが、ぐっとこらえてもう一つだけに絞るなら、追加ストーリーさんの本編さんへの片恋感が半端ないことですかね。
クロスオーバーを意識して本編とは同時間軸上にあったもう一つの物語、ということで、追加ストーリープレイ中にちょいちょい本編でも進行度合いやら関係性の変化が垣間見れるのですが、本編側からは当然、追加ストーリー主人公・修の「し」の字も話題になりません。
その他大勢のクラスメイトの一人としてまったくのノーマークなので、追加ストーリー中に駆やゆかの描写が入るたびになんだか切なくなります(笑)。
ちょっと追加ストーリーに対する「ディス」が多くなってしまいましたが、逆に考えればそれだけ本編が面白かったということ。そしてプレイヤーは自然と、その流れを引きずって追加ストーリーへと臨むわけですから、こちらに関してもどうしても本編以上のクオリティが欲しいわけです。
本編については序盤さえ乗り切れば掛け値なしに面白かった、熱中したの一言に尽きます。
赤い夜と仲間たちにまつわる多くの謎と謎解きもさることながら、「黒騎士」達との命を掛けた一戦一戦も非常に熱く、そして本編のテーマである「日常と非日常」の境界が曖昧になっていく様も見事でした。
のほほんと会話していたら突然赤い夜に、即座に臨戦態勢で選択肢を誤れば死、と、この唐突感がなかなか面白いのですが、逆にこの唐突感、(正解はわかっているのですが実績のためにしかたなく不正解を選ぶと)今までの熱い流れをぶった切り、さあここからというところでゲームオーバーになってしまうのは、昂ぶった神経の開放先を見失ったようで釈然としません(待ち受ける未来を「眼」の力で予測した、と脳内設定でごまかしますが 笑)。
本作はXbox360とPSPで発売されています。
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