300.The Witcher2 :Assassins of Kings

ウィッチャー2



エルフの血脈 (魔法剣士ゲラルト)




 本日はこちら「ウィッチャー2 :王の暗殺者」と原作小説「エルフの血脈」のレビューです。

 いやー、楽しませてもらいました。
 見た目私の好きなB級洋RPGっぽいというか、実のところその通りだったのですが、演出が想像以上にドラマチックで、本当に小説の世界観がそのままゲームになったような物凄い意欲作でした。
 ウィッチャーといえばOneのウィッチャー3で有名になりましたが、2も捨てたもんではありませんよー。

 ただし。ただし、ストーリーは面白い、演出を始めクエスト解説等製作者のウィッチャー愛、ウィッチャーの世界観をきちんと理解しゲームに素直に落とし込めているのには本当に脱帽するくらい素晴らしい出来なのですが、実際のゲームの感触は、残念ながら私の愛するB級洋RPGそのままなのです。
 何かと面倒臭く、もっさりしていて、不自由かつ不親切。気になるバグもちょいちょい。

 セリフ字幕が背景と被ってまったく読めなくなるのだけは擁護のしようがありませんね。本当に残念。しかも結構頻繁。
 スキルツリー表示を経由してマップタブを開くと現在地がどこだかわからなくなったり、マップの継ぎ目で突然ミニマップがブラックアウトして現在地がわからなくなったり、ちょっとした段差のせいで攻撃が空振りになったり。引っ掛かりのせいで攻撃したつもりがステップに化けるのは仕様だと思いますが被ダメの怖い状況でこれはちょっとストレスです。たまにセリフ音声が抜けちゃったり(Aボタンでセリフ送りしないと先に進まなくなる)、エルソン殿(笑)のクエストのテキストログは何かの呪いかと思って割と肝を冷やしました(汗)
 どれも軽微な現象なので支障はありませんが。

 剣を抜くのにいちいち立ち止まり、悠長に抜いている間に先制を食らう……。また、相手が魔物か人かで使う剣を選ばなくてはならなかったり。
 クラフトや霊薬の扱いも面倒ですし、クエストも何かと入り組んでいて果てしなく面倒くさいです。

 ただ、この面倒くさい作業が本作の大きな味でもあるんですよね。
 たとえばクエストを進行させていくとメニューのクエスト進捗が逐一更新されていくんですが、これが友人ダンディリオンの筆を借りた物語調になっていて、クエストを終えた後にこれを読むのがまたたまらないんですよね。

 面倒くさいに拍車をかけるのが入り組んだクエストと知ってる前提の世界観ですね。
 メインクエストを進めるにはそのメインクエストをアクティブにして追いかけているだけでは到底成し得ず、いくつかのサブクエストをこなすうちに芋づる式に発展していったりと一筋縄ではいきませんし、突然エイダーンがどうとかヘンセルト王がなんのこっちゃって、初見じゃたぶん理解できないかもしません。丁寧に読んでいけば矛盾はないのでわかるのですが、事前に小説を読んでいた私でさえしばらくはエイダーンの王がヘンセルトで、冒頭ムービーで暗殺されたのがフォルテスト王だと思ってました(笑)

 こんだけ混乱するんだから、じゃあ小説はいらないかというとそうでもなく、小説に登場する人物の何人かはゲームでもしっかり登場し、活躍もしますし、主人公ゲラルトの人となりを認識するのにも役に立ちます。
 小説から多くの知識は持って来られないけれども、あればあったできちんと役にたつ知識です。何よりウィッチャーの世界観がより深く、より広がるので私としては是非ウィッチャーを始める前に小説を読んでおいてほしいですね。
 そしてゲームをクリアしたあとにもう一度小説を読む、と。

 とにかく初見は「ルシがパージでエボンがペリシティリウム」なのですが、一周終わってもう一度初めから見直すと驚くくらいわかりやすいです。特に最序盤のダンディリオンやゾルタンとの政治談議は初周にロッシュルートをクリアしていると、話に出てくる人物像がわかっているだけににやにやしまくりです。
 そんな感じで一周済んだら二周目も同じルートを辿っても良いくらいに奥が深く、ストーリーもドラマチックで面白いのですが、本作を攻略する上でざっくりと別れた二つのルートは、展開がまるで別物でした。どちらが良い悪いではなく、またプレイヤーの心情としてどちらを取捨選択するか、でもなく、どちらもまた「ウィッチャーの物語」らしい良いシナリオでした。
 本当、面白い。作者は分かってる。ウィッチャーとしての中立性など、全体で見れば狭いマップによくもまあこんなに押し込められたものだ。
 そもそも原作ありきのゲームって、ストーリーは完全オリジナルで、原作の展開がどう転んでも問題ないようにすごくすごくすごく無難である意味つまらない展開っていうのがセオリーなんですが、「え? ここまでやっちゃう!?」と心配になるくらい本作のストーリーははっちゃけてますよね。
 だって小説でもしっかりと描かれていた各国の王が、このゲーム内で殺されちゃうんですよ? 世界情勢が変わっちゃうんですよ? 小説にも登場したあの人が取り返しのつかないあんな仕打ちを受けるんですよ??
 小説のゲラルトの風貌とゲームのゲラルトの顔……老けたなぁwww
 3だともっと老けてるからなんかすごく歴史を感じる……。

 ゲラルトはたしかに主人公で、物語の中心にいるけれども、中心人物ではない。彼の周囲を取り巻く人物たちの群像劇が、本当に血が通っているようで活き活きとしてるんですよね。それぞれにはそれぞれの信念や思い描く未来、目的があって、それはゲラルトでさえ同じです。
 なので利害の一致で協力しつつも情勢の変化によって敵対せざるを得なかったり、裏ではゲラルトの意に反するようなことをしていたり、あるいはゲラルト自身が自身の目的のために相手の好意を蹴ることもできます。
 単なる善悪ではなく、善人だと思っていた人物が飛躍しすぎた理想のために裏でネクロマンシーだとかあくどいことやってたとか、そんな単純な構図じゃないのがとても差別化できていると思いました。また、単純な善悪の判断基準ではないので、敵対しているはずなのにこっそり助けてくれたり。
 どのサイドに立っても、この世界ならではの「筋」が通っているというか。

 一つ懸念があるとすれば、それは次回作のウィッチャー3です。個人的にとても楽しみにとっておいてあるため、動画や攻略にはほとんど触れていないのですが、広大なオープンワールド形式ということは、結論から言うとクエスト間の繋がりが弱くなる、と思うんですよね。
 本作ウィッチャー2のストーリーがどうしてこうもドラマチックかつ奥深く、ゲラルトだけでなく人々の群像劇を描き出せたかというと、それは偏によくあるレールタイプのRPGだからでもあります。だからこそクエストを達成するために別のクエストをこなしたり、重要人物と密に話し合ったり、ランドマークを抜粋して印象的なイベントを起こしたりできるんです(不可逆的な時間の経過の概念を持ち込める)。
 どこへでもいけて、どこからでも手をつけられて、自分の思うままに冒険する、自分だけのストーリー、というのはある意味プレイヤーの心理に近い自然な冒険にはなるのですが、そのデメリットとしていく先々で起こる事件が他の事件と絡み合いにくく、単発に終わってしまうという懸念を持っているわけです。
 私がイメージしてるのはフォールアウトやスカイリムみたいな感じ。
「事態の進展を待つ」なんていうクエスト目標は、他のゲームではそうそうお目にかかれません。

 さあこれをどうひっくり返してくれるのか、3になってもぐいぐい引っ張るストーリーや魅力的すぎるキャラは健在なのか、そして2でたった一度名前が出たきりだったシリは可愛いのか!? すっごく楽しみです。

 あ、そうそう。小説を読み終えた後に本作をプレイしたのですが、最初のうちはやっぱり表記の揺れが気になりました。どうしようもないことなんですけどね。小説では「ポンタル渓谷」が、ゲームでは「ポンタ—谷」になっていたり、「ニルフガルド」が「ニルフガード」、「テメリア」がゲームパッケージ裏では「テメリーエン」になっててさすがにそれは、と思いましたがゲーム中では「テメリア」になっててちょっと安心。最初はゲーム内登場人物「シレ」が小説の登場人物「シリ」のことかと思ってました(笑)
 そんな違いを楽しみながら、じっくりやりましょう。
 個人的には小説版の翻訳の方が語呂や語感も意識した翻訳になっていて気に入っています。ゲーム中に「ニルフガード」の文字が出てきたら頭の中で「ニルフガルド」に直して読んだりしてました。
 原作者がポーランド人だからなのかどうなのか、ゲーム中の人々の英語の話し方にもかなり訛りがあって(しかもその訛り方にも地方や種族で少しずつ違う。ヘンセルト王やドワーフはかなり訛りが強めだったり)そんなこだわりも魅力を存分に引き出していると感じました。素敵。

 おまけモードであるはずのアリーナも、世界観を大事にしたストーリー仕立てになってて、なんとチュートリアルと繋がってる構造には驚きました。
 もうね、すごく好き!

 ウィッチャー3で本当にこの作品の知名度上がったと思うので、「エルフの血脈」以外のウィッチャーシリーズ作が翻訳されるのもあと一押しだと思うのよね。読みたいなぁ。

攻略サイト

↓360とは思えない超美麗オープニングムービー。
残念ながら綺麗なのはこのムービーだけです。

↓なんとなく街散策。めっちゃグダってますが本人は動画を意識してゲームの紹介をしているつもりです……。

↓良い雰囲気になっていたところをぶち壊されたあげく、とんでもない罰当たりなことを言い出す盗賊たちに、口をあんぐりさせたトリスが可愛い。


・追記
 実際あとで小説を眺め返してみたら小説版の翻訳が全然頭に入ってなかった罠……。
 目と耳と指を刺激するゲームの方が、印象の刷り込みは当然小説よりも強いので、もしかしたらゲームを先にやってから小説読んだ方がすんなり頭に入るかもしれませんね。

 やはり作者や書かれたお国柄を慮ってか、小説の翻訳はrやlを強く発音する訛りの強い英語を意識して日本語訳されていますね。

 (小説) → (ゲーム)
キードヴェン → ケイドウェン
テメリーエン → テメリア
エーディルン → エイダーン
ポンタル → ポンター
オクセンフルト → オクセンフート
ニルフガルド → ニルフガード
他多数。

 そういった意味ではゲーム内の登場人物が訛りのある英語でしゃべっているのに対しローカライズがインターナショナルな英語読みの翻訳というのは、国や作者に配慮して翻訳された小説版と比べていささか質が劣るとも捉えられますが、あんまりラ行が出てくるのも目がくどくなるので、すっきりした英語読みの方が良いという向きもあります。
 ただ、ゲーム内の文章の流れはとても自然で、ちゃんと人の手と目を介して注意深く翻訳されていることはわかります。不満はありません。

 多くの人にとってはどうでもいい(混乱するのでどうでもよくはないが)話ですが、恥ずかしくなったので追記させてもらいました。


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2017年04月16日

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