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より玄人受けしそうなロバ・ジョン・カヴァー・アルバム エリック・クラプトンによるロバート・ジョンソンのカヴァー・アルバム『ミー・アンド・Mr.ジョンソン』に続き、今回も同じくロバ・ジョン・カヴァー集。けれども、今回の演奏者はクラプトンと一味異なる。ピーター・グリーンって誰?という人もいるかもしれないが、彼はフリートウッド・マックの創設メンバーにして、ブルース・ロック愛好者にとっては避けて通れないビッグ・ネームである。ブルース・ロックが確立された時代のギタリストとしては、クラプトンと同じぐらいか、あるいはそれ以上に重要な人物なのだが、その後の経歴は全く異なり、日本ではむしろ忘れ去られた存在に等しい。 ピーター・グリーンは1946年、ロンドン生まれ。1960年代末にフリートウッド・マック(当初は“ピーター・グリーンズ・フリートウッド・マック”と名乗っていた)のリーダーとして、イギリスのブルース・ロック・シーンを牽引した。けれども、ドラッグに蝕まれて1970年に業界から姿を消した。その後は引退・復帰を繰り返した。70年代末~80年代に一時復帰、それからは精神的な病を抱えた後、90年代後半に復帰し、2003年にかけてアルバムをリリースしている。 本作『ザ・ロバート・ジョンソン・ソングブック(The Robert Johnson Songbook)』は、1998年に発表(録音は前年の97年から開始)されたもので、90年代後半、ピーター・グリーンの2度目の復帰直後の時期に当たる。スプリンター・グループとしては2枚目のアルバムで、このグループとしての活動は2004年まで続くことになる。タイトルからもわかるように、本盤に収められた楽曲は全曲が伝説的ブルースマン、ロバート・ジョンソンのカヴァーである。ちなみに、前年のアルバム(スプリンター・グループの1枚目)でもロバ・ジョンの曲(3曲のみ)を演っており、数年後には残るロバ・ジョンの曲を演奏したアルバムを作って“全曲(29曲)カヴァー”を成し遂げている。 60年代後半の、ある種“弾きまくる”ピーター・グリーンをイメージしていると肩透かしを食らう。復帰後の彼の演奏は、むしろ、枯れた味わいとでも言うべき雰囲気で、ヴォーカルの擦れた声と併せて渋いギター演奏が哀愁を呼び起こす。余談ながら、若い頃からすると見る影もないほど変貌してしまった容姿がその哀愁を増幅させる(ショックを受けたくない人はあまり写真を見ない方がいいかもしれない)。本作は全体としてはアコースティックに強く傾いた音であるが、ブルース解釈のフィーリングはかつてと変わらない。それどころか、経験と年齢を重ねた分、重みがあるようにさえ感じられる。 先の『ミー・アンド・Mr.ジョンソン』の項では、このクラプトンのアルバムがロバート・ジョンソンへの入口となると述べた。逆に、ピーター・グリーンの本作はロバ・ジョンの原曲を知る人にとって、より一層楽しめる内容だと思う。戦前ブルースのあれらの楽曲を現代的に解釈すればこうなるという一つの形(特にハーモニカとピアノの使用が重要なアクセントになっている)を提示している。それでいて、原曲のブルース感覚は全く損なわれていない。比較的、原曲からイメージしやすい例を挙げれば、10.「通り道に石がある」や13.「心やさしい女のブルーズ」といったあたりからは、ピーター・グリーンの身体にブルースが染みついたものだということが感じ取られる。 なお、このアルバムにはもう一つ聴きどころがある。アルバムを締めくくる最後の曲(16.「スウィート・ホーム・シカゴ」)では、元フリー~バッド・カンパニーのポール・ロジャースをゲスト・ヴォーカリストに迎えている。ロジャースもまた、マディ・ウォーターのカヴァーを出すなどブルースに傾倒した人物で、このヴォーカルも見事。(各曲は短いとはいえ)全16曲の最後の曲だが、ここも聴きどころなので、お見逃しなく。[収録曲]1. When You Got a Good Friend2. 32-20 Blues3. Phonograph Blues4. Last Fair Deal Gone Down5. Stop Breakin' Down Blues6. Terraplane Blues7. Walkin' Blues8. Love in Vain Blues9. Ramblin' on My Mind10. Stones in My Passway11. Me and the Devil Blues12. Honeymoon Blues13. Kind Hearted Woman Blues14. I Believe I'll Dust My Broom15. If I Had Possession over Judgment Day16. Sweet Home Chicago1998年リリース。 【メール便送料無料】Peter Green with Nigel Watson / The Robert Johnson Songbook (輸入盤CD)【★】
2010年01月30日
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2010年01月29日
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ザ・バンド好きにも強く勧めたい一枚 ボビー・チャールズ、本名ロバート・チャールズ・ギドリー。つい先頃(2010年1月14日)に亡くなった米国出身のシンガーの名である。まとまったアルバムとしてはこれ一枚しか筆者は聴いていないのだが、お気に入りの一枚である。そんなミュージシャンの訃報を目にしたので、これを機にセルフタイトルの本アルバム『ボビー・チャールズ(Bobby Charles)』を紹介したいと思い立った次第である。 彼は1938年、ルイジアナ州、ニューオーリンズから200キロ余り離れたとある町に生まれ、ケイジャンやカントリー・ウェスタン音楽を聴いて育ったとされる。1950年代から録音を残しているが、当時のチェス・レコード(R&Bのレーベルとして有名)の創始者レナード・チェスは初めてボビーに会った時、「なんてこった!黒人じゃないのか!」と言ったという。実際、彼は黒人出身ではないにもかかわらず、よくそうであると間違われたらしい。その理由は、南部色の強いR&B的なヴォーカル・スタイルにあり、それゆえ、スワンプ・ポップなどと称されるルイジアナ南部特有のジャンルの第一人者となった。 1960年代の彼の動きについてはよく知られていないが、やがてマネージャーを通してザ・バンドと知り合い、交流を深めったいった。そんな時期(70年代初頭)に制作されたのが、ボビーにとって初のフル・アルバムでベアズヴィル・レーベルから出された本盤であった。 それゆえ、メンバーにはザ・バンドの面々(リチャード・マニュエル、リック・ダンコ、リヴォン・ヘルム、ガース・ハドソン)が名を連ねており、それ以外にも、ドクター・ジョン(クレジットではマック・レベナック)、デイヴィッド・サンボーン、エイモス・ギャレットなど豪華な顔ぶれがクレジットされている。これらのウッドストック世代のミュージシャンたちをバックに、ボビーはアーシーで人間的な情感に満ちたヴォーカルを披露している。共作も含めると、収録の全10曲ともが自作曲で、ザ・バンドのリック・ダンコとは2曲を共作している。プロデュースは、本人に加えて、リック・ダンコとジョン・サイモン(ザ・バンドの最初の二枚=下記の参考リンクを参照=の他、レナード・コーエンやブラッド・スウェット・アンド・ティアーズなどのプロデューサーとして知られる)が担当している。 ヴォーカルはR&Bや米国南部的なアーシーな雰囲気に加え、哀愁をたたえた人間味あふれる声が印象的。大雑把にいえば、ザ・バンドがゲスト・ヴォーカリストを迎えて演っているような曲が多いため、ザ・バンドが好きな人にも勧められる。個人的な好みでは、1.「ストリート・ピープル」、4.「セイヴ・ミー・ジーザス」に代表される、どちらかと言えば土臭いナンバーがいい。とはいえ、この手の曲一辺倒で押し通すアルバムというわけではなく、6.「スモール・タウン・トーク」のように、もう少し肩の力を抜いて聴ける曲も含まれている。あと、意外なところでは、10.「テネシー・ブルース」のエイモス・ギャレットの演奏がなかなかいい味を出していると思う。 ボビー・チャールズは、1980年代~2000年代にかけても数枚のアルバムをリリースしているとのことなので、新しい盤も少しずつ聴いてみたいと以前から思っていたが、冒頭で述べたように、今年に入ってボビーの訃報が届いた。これ以上、彼の新作は出ないということになってしまったことは残念である。彼のご冥福をお祈りしたい。[収録曲]1. Street People2. Long Face3. I Must Be In A Good Place Now4. Save Me Jesus5. He’s Got All The Whiskey6. Small Town Talk7. Let Yourself Go8. Grow Too Old9. I’m That Way10. Tennesse Blues1972年リリース。参考リンク(過去記事):ザ・バンド『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』ザ・バンド『ザ・バンド』【中古】 ボビー・チャールズ /ボビー・チャールズ 【中古】afb ボビー・チャールズ/ボビー・チャールズ[CD]【返品種別A】↓以下、ランキングサイトへのリンクです。応援くださる方はクリックをお願いします!
2010年01月28日
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2010年01月26日
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賛否両論だけれども、“キング・オブ・デルタ・ブルース”への入口としては大いに意義のある一枚 エリック・クラプトン(Eric Clapton)という人はある意味、不幸だと思う。若くしてその才能を認められ、“神”や“天才”ともてはやされる一方で、その後の各時期や各作品の音楽性については様々に批評されてきた。それだけ注目され、多くのファンを抱えていることの裏返しなわけで、それはそれで恵まれたことなのかもしれないが、いろいろと考えて出した作品を時に評論家やファンから酷評されたりというのはやはり不幸と言った方がいいように思う。 このアルバムを出した頃にもいろいろと批判を受けた。何といっても、本作『ミー&Mr.ジョンソン(Me and Mr. Johnson)』は、かの偉大なブルース・マン、“ロバ・ジョン”ことロバート・ジョンソンのカバー曲集である。その時点からして、生粋のブルース愛好者たちから様々なコメントが出ることが予想された。おまけにクラプトンは遥か過去にロバート・ジョンソンの曲を名演として残している(クリーム時代の「クロスロード」は、ロバ・ジョンの「クロス・ロード・ブルース」と同一曲だし、他にもカバーした曲がある)。 しかし、私見を述べれば、エリック・クラプトンはブルース・マンではない。ブルース的要素を含む(あるいはブルージーな)プレイを得意とするロック・ギタリストであるといった方が正確だと思う。ましてシンガーとしては、絶対にブルース・シンガーではない。そんなクラプトンがロバート・ジョンソンの楽曲をギター演奏し、なおかつ歌うというのは、そうした批判を覚悟の上で敢えてやったとしか考えられない。クラプトンはそのことは見通していて、その上で、ロバート・ジョンソンの存在をこれまで以上に知らしめる役割を担おうとしたのではないかと思う。 実際、本盤リリースの前年(厳密には2003年2月から04年1月まで)は米国で“ブルースの年”として大々的にキャンペーンがなされていた。クラプトンの『ミー&Mr.ジョンソン』のリリースがこの動向を見据えてのことであったことは想像に難くない。 以上のことを考えれば、本盤の各楽曲が原曲とは全く違う雰囲気で解釈・演奏されていることにも合点がいく。“オリジナル(ロバート・ジョンソン)から感じられる魂の叫びがクラプトンのヴァージョンにはない”などという批判は、実は案外的外れなのかもしれない。地位も名声も手に入れたクラプトンが演るからこそ聴衆は注目するのである。そう思って聴くと、バンドサウンドでカバーしたということも、曲によってはギタープレイが控えめなのも、なるほど納得がいく。クラプトンは自己を強く主張するよりは、ロバート・ジョンソンという敬愛するブルース・マンの存在に対する人々の注目や理解を深めてほしいと考えたのではなかろうか。“ブルースかくありき”といった姿勢を前面に出すことも意図していなければ、革新的なブルース的ギタープレイを披露することもを目的ではなかったのではないだろうか。つまりは、本家(オリジナル)に敵わないことを承知で、批判が出るであろうこともわかった上で、敢えてこのスタイルを選択したのだと思う。 余談ながら、個人的には「スウィート・ホーム・シカゴ」をやって欲しかった。後に発売されたDVD『セッションズ・フォー・ロバート・J』にはリハーサルでのこの曲の演奏が含まれているらしい。筆者は未見だが、そのうちどんなものか見てみたいとも思う。 ロバート・ジョンソンは音源(録音は1930年代)が古いことからもとっつきにくいし、実際のところ聴きやすいものとは言いにくい。でも“ロバ・ジョン”の名が気になる人にとって、このアルバムは貴重な入口になるに違いない。コアなブルースの21世紀的解釈を提示して過去への入口を開く。そんな入口を作ったクラプトンの功績は、十分に評価されるべきだと思う。[収録曲]1. When You Got a Good Friend2. Little Queen of Spades3. They’re Red Hot4. Me and the Devil Blues5. Traveling Riverside Blues6. Last Fair Deal Gone Down7. Stop Breakin’ Down Blues8. Milkcow’s Calf Blues9. Kind Hearted Woman10. Come on in My Kitchen11. If I Had Possession over Judgement Day12. Love in Vain13. 32-30 Blues14. Hell Hound on My Trail2004年リリース。 【楽天ブックスならいつでも送料無料】ミー&Mr.ジョンソン [ エリック・クラプトン ]
2010年01月25日
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70年代前半、売れないバンド時代に生まれた超名曲 ニルス・ロフグレンは1951年、スウェーデン系とイタリア系の両親の家庭に生まれた。1975年からソロ・アーティスト、同時に1984年からブルース・スプリングスティーンのバンド(E・ストリート・バンド)のメンバーとして活躍するヴォーカリストでありギタリスト(ピアノやアコーデオンなども演奏する)。最初のメジャーな仕事は1969年、ニール・ヤングのアルバム『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』へ参加(ピアノ)であり、その後も『今宵その夜(Tonight's The Night)』でギター、ピアノ、ヴォーカル参加を果たしたり、クレイジー・ホースのファースト・アルバム(1971年)に参加したりしている。また、一時期はミック・テイラーの後釜として、ローリング・ストーンズのギタリストになると噂されたこともある(結局、この話は流れ、ロン・ウッドの加入となったことを本人が回想している)。さらに後には、リンゴ・スターのバンド(オール・スター・バンド)にも参加経験がある。 当初、1969年頃に結成したグリンというバンドを中心に活動するが、一部の熱心なファンにしか受け入れられず、なかなか人気に火はつかなかった。グリンのメンバーは、バンドリーダーのニルス・ロフグレンがギターとヴォーカル(必要に応じてピアノ・キーボード)を主に担当し、ボブ・バーバリッチ(Bob Berberich)がドラム、ボブ・ゴードン(Bob Gordon)がベースを担うというシンプルな構成のバンドで、後にはニルスの実弟トム・ロフグレンもギターとしてメンバーに加わった。だが、結局、グリンは大きなヒットを生むことはなく、1971~74年の間に4枚のアルバムを残しただけで解散する。 この「オール・アウト(All Out)」は、そうしたグリン時代を代表する1曲である。「オール・アウト」が収録されているのは、グリンの1973年発表の同名のアルバム(『オール・アウト(All Out)』)。ちなみにグリン(Grin)というバンド名は“ニヤッと笑う”という意味で、アルバム『オール・アウト』のジャケット・デザインは、大きな口が歯を見せてニヤリと笑っているイラストである。 以前、「心はいつもヴァレンタイン(Valentine)」というニルスの曲を紹介した際、90年代に入って彼のヴォーカルが成熟していったという話を書いたが、この「オール・アウト」は、そうして”歌心に目覚めた”ニルスを生かすことになる曲が既に70年代から生み出され始めていたことを示すものでもある。 それが演奏としてCDに記録されたものとして、1997年のウィーンでのアコースティック・ライブを収録した盤(1998年リリースの『アコースティック・ライヴ(Acoustic Live)』)所収の「オール・アウト」を聴いてもらいたい。売れない若きバンド時代(それはそれで筆者は好きなのだが)の名曲が、中年を過ぎてヴォーカリストとして磨きのかかったニルスの声で歌われる。敢えて”売れないバンド時代”と書いたが、何らかの拍子で多くの聴衆に受け入れられうるだけの下地がグリンというバンドにはあったことの裏返しでもあり、グリンの再評価がもう少し進んでもいいのかも知れないと思う。 [収録アルバム]Grin / All Out (1973年) *オリジナル・ヴァージョンGrin / The Very Best of Grin Featuring Nils Lofgren (1999年) *同上Nils Lofgren / Acoustic Live (1998年) *アコースティック・ライブでの演奏。ほか 【メール便送料無料】ニルス・ロフグレンNILS LOFGREN / GRIN / 1+1 / ALL OUT (REIS) (RMST) (輸入盤CD)(ニルス・ロフグレン)
2010年01月23日
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80年代後半AORの名バラード、あなたの好みはどちら? 和製英語AOR(Adult-Oriented Rock、訳せば「大人向けロック」)という表現は、ボズ・スキャッグスの1988年のアルバム『アザー・ロード』、そこからのシングルカット曲「ハート・オブ・マイン(Heart Of Mine)」を日本国内で売り出す際に普及した表現である。AORの定義や語源には諸説あるけれども、この「大人向けロック」の特徴がポップでメロウな、いわば“甘め”のロックという点はおおむね同意が得られるのではないか。 そのAORの代表格としてよく名が挙げられるのが、このボズ・スキャッグス(Boz Scaggs)やボビー・コールドウェル(Bobby Caldwell)、さらにはTOTOやピーター・セテラ(元シカゴ)といった面々である。なかでも特にボビー・コールドウェルは“ミスター・AOR”と呼ばれたりもされ、ボズ・スキャッグスもボビー・コールドウェルも、米国では「日本で特に人気のあるシンガー」と認識されている。 さて、このボビー・コールドウェルがデビューしたのは70年代末のこと。ところが、初期の曲はそこそこのヒットにとどまったまま、デビューから2作でレコード会社が倒産するわ、ろくにプロモーションもされぬまま、次第に消えゆく人となってしまった不幸な人物である。80年代に入ってアルバムも発表はしていたが、他のアーティストへの楽曲提供でむしろ成功する。そうしたソングライターとしての彼の成功を象徴するのが、ボズ・スキャッグスに提供した本曲「ハート・オブ・マイン」と、ピーター・セテラ(エイミー・グラントとのデュエット曲)がヒットさせた「ネクスト・タイム(原題:Next Time I Fall)」である。 他方、ボズ・スキャッグスは、AORと呼ばれることになる甘めロック~バラード路線でヒットを飛ばしてはいたが、上記のアルバム『アザー・ロード』は、前作(『ミドル・マン』)から8年ものブランクを経てのリリースだった。しかし、このアルバムからカットされた「ハート・オブ・マイン」がリリース翌年の89年に大ヒットし、見事なカムバックを果たした。 ボズ・スキャッグスによる「ハート・オブ・マイン」の成功を受けて、今度は作者であるボビー・コールドウェル自身がこの曲を吹き込み、89年のアルバム『ハート・オブ・マイン』をリリースする。ここに収められた同曲はテレビCM(タバコのCM)にも使用されてオンエアされた。 ボズ・スキャッグスの歌う「ハート・オブ・マイン」もボビー・コールドウェルによるそれも基本的なアレンジは大差ないが、後者の方がヴォーカルがやや甘めに感じる。よく耳にするのはボビーのヴァージョンだが、個人的にはボズのヴァージョンの方がしっくりくる気がする。単にリアルタイムで先に聞いたからそう思うだけなのかもしれないのだけれど、筆者はサビ部分のヴォーカルの表情とメリハリの点でボズに軍配が上がるように思う。ちなみに、これをお読みの皆さんはどちらがよいだろうか。何となく耳にしていたという方は、一度聴き比べてみるのもいいかも知れない。[収録アルバム]Boz Scaggs / Other Roads (1988年)Bobby Caldwell / Heart Of Mine (1989年)その他、各々のベスト盤類にも同曲の収録されたものあり。 【楽天ブックスならいつでも送料無料】ハート・オブ・マイン +1 [ ボビー・コールドウェル ] Boz Scaggs ボズスキャッグス / Other Roads 【CD】
2010年01月21日
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前年のライブ盤とは違った魅力を見せるクインテット 本作『ジャズ・フォーザ・キャリッジ・トレード(Jazz For The Carriage Trade)』は、ジョージ・ウォーリントン(George Wallington)率いるクインテットが1956年初頭に吹き込んだもの。ジョージ・ウォーリントンその人については、『ライヴ・アット・カフェ・ボヘミア』の項で簡単に触れたので割愛するが、同ライブ録音盤の翌年、時間にしてわずか数ヵ月後の録音ということになる。 この間にはクインテット(五重奏団)のうちのメンバー二人の交代があった。一人はマイルス・デイヴィスのグループのレギュラーとなったポール・チェンバース(ベース)で、本盤ではテディ・コティックに交代している。もう一人は、アルトサックスのジャッキー・マクリーンで、後任者は白人アルト奏者のフィル・ウッズに替わっている。 上述のメンバーの変化から、“マクリーンのいないジョージ・ウォーリントン・クインテットは面白くない”という評価も一方にある。けれども、『ライヴ・アット・カフェ・ボヘミア』とこの『ジャズ・フォーザ・キャリッジ・トレード』は、共通点もあるのだけれども、根本的に大きく趣が異なり、どうも比較しづらいように思う。 その根本的相違とは、『カフェ・ボヘミア』には“勢い”が非常に強く感じられるのに対し、『キャリッジ・トレード』はより洗練された“知性”が前面に出ている点である。あえて“知性”という言葉を使ったが、“より計算されている”と言い直してもよいかもしれない。つまり、ライヴ感溢れる勢いを求めるのか、もう少し落ち着いて耳を傾ける楽しみを優先させるのか。この2つの評価は観点がまったく異なるゆえ、これら2枚のどちらがよいかという選択は困難だと思われるわけである。 とはいえ、同じウォーリントンのグループの近い時期の録音ということで、共通点も存在する。何よりも、リーダーであるウォーリントンの“手綱の締め方”が両盤には共通する。各自に特徴あるプレイをさせつつも全体のまとまりをしっかりと決めるという、グループ全体のコントロールはやはり見事としか言いようがない。本盤『キャリッジ・トレード』に関して言えば、筆者は1.「アワ・デライト」の一体感が特に好きである。その上で、5.「ホワッツ・ニュー」のような知性溢れる演奏を見せられると、聴き手は一気にノックアウトされるしかない。もう一つ付け加えるならば、新加入のフィル・ウッズによる2曲(4.「トゥゲザー・ウィ・ウェイル」と6.「バット・ジョージ」)が意外にいいと思う。この2曲が含まれているおかげで、21世紀の現在という“未来”から聴くと、“古き良きジャズ時代”の雰囲気がより一層高められるという効果を生んでいる。 この“雰囲気”を楽しみながら聞き流すのもよし、1曲1曲の細部に散りばめられた“知性”(これがまた聴くたびに新たなところで感心させられる!)を捜しながら聴くのもよし。いずれの聴き方もできる優れた盤だと思う。 [収録曲]1. Our Delight2. Our Love Is Here To Stay3. Foster Dulles4. Together We Wail5. What's New6. But George George Wallington (p)Phil Woods (as)Donald Byrd (tp)Teddy Kotick (b)Arthur Taylor (ds) 録音: 1956年1月20日 【楽天ブックスならいつでも送料無料】ジャズ・フォー・ザ・キャリッジ・トレード [ ジョージ・ウォーリントン ]
2010年01月19日
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スイング感+アルトのトーン+スタンダード美曲群の"三位一体" アルト・サックス奏者のジャッキー・マクリーンは、プレスティッジとの契約が切れた後、ブルーノート・レーベルに立て続けに録音を行なう。ブルーノートでの初レコーディングは1959年1月だったが、この時の音源は後日までリリースされず(後の『ジャッキーズ・バッグ』に所収)、同じ年の5月録音の『ニュー・ソイル』が同レーベルの第一作となる。本盤『スイング・スワング・スインギン(Swing, Swang, Swingin')』は、ブルーノートからの二作目で、同年10月に吹き込まれたものである。 『スイング・スワング・スインギン』というタイトルは、ブルーノートのオーナー、アルフレッド・ライオンが名付けたものである。しかし、"マクリーンがスイングし、それゆえに名盤"などと単純に結びつけて先入観を持ってしまってはいけない。ライオン自身の言葉(本盤のオリジナルのライナーに記載されている)によれば、「彼らはやって来て、スイングし、帰っていったので、そのアルバムを『スイング・スワング・スインギン』と名付けた」。つまり、"彼(マクリーン)"ではなくて、"彼ら(マクリーンを含む本作のメンバー)"なのである。したがって、この4人の演奏に"スイング"を求めるのは間違っていないが、マクリーンだけにそれを求めるのはよくないと思う。なぜなら、本作にはスイング感以外のよさがあるにもかかわらず、スイングにこだわるとそちらを聴き逃してしまうかもしれないからだ。 さて、筆者の考える本盤のよさは"三位一体"である。その1つめは上述のスイング感。これは少し聴いてみればすぐにわかるように、マクリーン個人と言うよりは、演奏メンバー全体のものである。ドラムのアート・テイラーの演奏はもちろんだが、ピアノのウォルター・ビショップ・JRが随所でスイング感を煽るいい演奏をしていると思う。そして全体として見れば、これら二人にベースのジミー・ギャリソンを加えたスインギーな下地の上にマクリーンがのっかっているようにすら聴こえる。 "三位一体のよさ"の2つめは、マクリーンのサックスの音である。そのトーンはとにかく艶やかである。なおかつ本盤はワンホーン(他の管楽器はなし)なので、特にそれが際立っている。その意味では、マクリーンを初めて聴く人にも向いているし(実際、筆者が最初に聴いたマクリーンのリーダー作は本盤だった)、別にマクリーンにこだわらずとも、"アルト・サックスの演奏でも聴いてみようか"と思った人にも推薦できるアルバムである。 さて、"三位一体"の3つめは、"選曲"である。プレスティッジ時代のマクリーンは、レーベルの意向に沿って活動する以上、なかなか自由に演奏・録音ができなかったという。けれども、ブルーノートではかなりの自由を手に入れた(このことは、別にマクリーンに限らず、他の多くのミュージシャンに関しても当てはまる)。結果、マクリーンは、本作においてはスタンダード曲を多く選び、快演を繰り広げた。本人いわく、「ブロードウェイのミュージカルで使われている曲が好き」で、また、「ラウンド・ミッドナイトがいちばん好きだけれども、これをアルトで演奏するのは難しい」とのこと。ともあれ、本作でマクリーンは思い通りに録音に関わることができたのであろう。好きな曲を好きなように吹く。そんな環境が与えられたからこそ、マクリーンは好きな曲を選び、気持ちよくスイングしながら吹くことができた。結果、艶やかなトーンの快演を繰り広げることになったのだと思う。 上記のように考えながら聴くと、タイトルの"スイング"という語ばかりに振り回されてイメージを作ってしまう必要はないように思える。無論、録音に立ち会ったライオンとしてみれば、「彼らはやって来て、スイングし、帰っていった」わけで、このタイトルしかつけようがなかったというのは頷ける。けれども、録音から半世紀を経た現在、今の私たちが聴くとすれば、ブルーノート移籍という過去の文脈も含めた上での上記の"三位一体"の組み合わせ、それゆえの見事なまでの快演に思いを馳せながら聴くのもいいのではないだろうか。 [収録曲]1. What's New2. Let's Face The Music And Dance3. Stable Mates4. I Remember You5. I Love You6. I'll Take Romance7. 116th and Lenox Jackie McLean (as)Walter Bishop Jr. (p)Jimmy Garrison (b)Art Taylor (ds) 録音: 1959年10月2日Blue Note 4024 【送料無料】スイング・スワング・スインギン/ジャッキー・マクリーン[CD]【返品種別A】
2010年01月18日
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ブルース・ロックからハード・ロックへ、そしてブルースへ向かっての回帰 ゲイリー・ムーア(Gary Moore)は、1952年生まれで、アイルランド出身のギタリスト。1969年にスキッド・ロウの一員としてレコード・デビューし、その後はシン・リジィにも参加。自身のグループでの活動、ソロ活動を続けてきた。 本盤『スティル・ゴット・ザ・ブルース(Still Got The Blues)』は、ハードなロック演奏者として完成されたゲイリー・ムーアがブルースへと回帰した一連の作品の第一作である。参加アーティストもなかなか豪華で、アルバート・キング(1.)、アルバート・コリンズ(3.)、ジョージ・ハリスン(10.)といった面々がクレジットされている。 ハード・ロックの源流はブルース・ロックにあるという言い方がよくなされる。そのブルース・ロックとは、白人によるブルースの模倣あるいは一種の取り込みなわけであって、その意味でブルースを祖としている。つまるところ、一つの流れとしては、「ブルース→ブルース・ロック→ハード・ロック」という進化が存在する。ゲイリー・ムーアはこの進化の流れの中で、「ブルース・ロック→ハード・ロック」の時代を直に経験してきた人物だと言える。 正直なところ、アルバムとしての統一感は必ずしも十分とは言えないと筆者は思う。一説によると、実際にそうなったようにブルース回帰ものを続ける意思がこの時点で明確だったわけではなく、どちらかというと軽い気持ちで本盤を製作してみたらしい。だが、逆にそれが楽曲ごとのヴァリエーションを生むことにつながり魅力になっているというように感じる。収録曲12曲(日本盤は13曲)のうち、5曲が自作だが、カヴァー曲を多く取り上げたこともこのヴァリエーションに寄与しているのだろう。 1.「ムーヴィング・オン」は、ゲイリー・ムーアの自作で、ノリのいいロック=ブルース・ロックのナンバー。かと思うと、同じ自作曲でも4.の表題曲「スティル・ゴット・ザ・ブルース」では得意の“泣きのギター”を全面的にフィーチャーし、“演歌的抒情ブルース”を聴かせる。その一方で、他人の楽曲のカヴァーには有名曲が多く含まれる。アルバート・キングの『悪い星の下に生まれて(Born Under A Bad Sign)』からの2.「オー・プリティ・ウーマン」と8.「アズ・ザ・イヤーズ・ゴー・パッシング・バイ」も素晴らしいが、圧巻は終盤の2曲である。11.「オール・ユア・ラヴ」はジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズのアルバムでのエリック・クラプトンの演奏が有名な曲だ(ただし、この曲のオリジナルはオーティス・ラッシュによる)。そして、ピーター・グリーンの12.「ストップ・メッシン・アラウンド」は、ブルース・ロックの典型ともいうべき初期フリートウッド・マックの演奏で知られる。 結局のところ、作成の経緯はともかく、本盤は一人のロック・ギタリストがいきなりブルースをやってみたという風情のものではなく、「ブルース→ブルース・ロック→ハード・ロック」という進化を体感した者がその過程を忠実に逆戻りしていっている、そんなアルバムだと思う。したがって、出来上がった演奏は純粋な意味での(狭義の)ブルースというわけではなく、ブルースとブルース・ロックの間を行き来するものである。いくつかの楽曲ではブルースに近く、またいくつかの楽曲ではむしろブルース・ロックそのものの仕上がりとなっている。そして、このスタイルこそが、演奏者ゲイリー・ムーアのギタリストとしての原点ということなのではないだろうか。[収録曲]1. Moving On2. Oh Pretty Woman3. Walking By Myself4. Still Got The Blues5. Texas Strut6. Too Tired7. King Of The Blues8. As The Years Go Passing By9. Midnight Blues10. That kind Of Woman11. All Your Love12. Stop Messin’ Around13. The Stumble (日本盤のみ収録)1990年リリース。 【メール便送料無料】ゲイリー・ムーア / スティル・ゴット・ザ・ブルース[CD]【K2015/5/20発売】
2010年01月17日
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INDEXページを更新し、表示も少し変更を加えてみました。少しは以前よりも見やすくなっているといいのですが…。ご意見・ご感想等ありましたらぜひともお寄せください。次回更新のときにでも反映させたいと思いますので、よろしくお願いします。アーティスト別INDEX~ロック・ポップス編へアーティスト別INDEX~ジャズ編へ*今回は「ロック・ポップス編」と「ジャズ編」のみの更新です。当ブログは下記の三種類のランキングサイトに参加しています。応援くださる方はぜひクリックをお願いします! ↓ ↓ ↓ ↓
2010年01月16日
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一通り有名曲になじみのある人にお勧め ロイ・オービソン(Roy Orbison)は、1936年、米国テキサス生まれのシンガー。1955年にデビューし、とくに1960年から65年にかけては、「オンリー・ザ・ロンリー」(本盤1.)、「イン・ドリームズ」(同2.)、「クライング」(同6.)、「オー・プリティ・ウーマン」(同16.)をはじめヒット曲を立て続けにチャートに送り込み、次世代の多くのアーティストからリスペクトを受けることになった。さらに後には、大物アーティストが集った覆面バンド、トラベリング・ウィルベリーズに参加し、『ヴォリューム・ワン』の録音にも加わった。 本作は、ロイ・オービソンがロックの殿堂入りを果たした1987年、”ココナッツ・グルーヴ・セッションズ”と題して行われたライブ録音で、テレビ放送されたものである。ロイ・オービソンは商業的なライブレコーディングを認めないアーティストであったため、本作が唯一のライブ作品である。残念なことに翌88年の末に、心臓発作により52歳で亡くなってしまったため、結果的には、アルバム『ミステリー・ガール』と並んで彼の遺作となってしまった。 上で”次世代からのリスペクト”と述べたが、その”次世代”とは、本作の”フレンズ”であり、録音当時には既に名を成した一流ミュージシャンたちであった。参加アーティストには、ブルース・スプリングスティーン、トム・ウェイツ、エルヴィス・コステロ、ジャクソン・ブラウン、J・D・サウザー、ボニー・レイットといった、そうそうたる面々が名を連ねている。彼らのリスペクトぶりを示す例を一つ挙げると、ロイ・オービソンのロックの殿堂入りの際にプレゼンターを務めたブルース・スプリングスティーンは、次のように述べている。「ボブ・ディランのような詞で、フィル・スペクターのような音のレコードを作りたかったのだが、何よりもロイ・オービソンのように歌おうと心がけた」(実際、このスピーチでスプリングスティーンが言及した『明日なき暴走』所収の「涙のサンダーロード」という曲には、ロイ・オービソンの名が登場する)。 映画『プリティ・ウーマン』(1990年)の主題歌としての16.の再ヒット(この曲は、80年代にヴァン・ヘイレンがカヴァーしたヴァージョンもある)や、同じく映画の『ブルーベルベット』(1986年)の挿入曲としての2.などでロイの曲に接したことのある人もいると思うが、上で述べたように、彼を慕うアーティストたちが参集してのライブ演奏であるので、原曲に親しみたい方には、種々あるベスト盤類をおすすめする。本盤は、その上でさらに興味のある向きや、参加アーティストたちに関心のある人に勧められる一枚だと思う。[収録曲]1. Only The Lonely2. In Dreams3. Dream Baby4. Leah5. Move On Down The Line6. Crying7. Mean Woman Blues8. Running Scared9. Blue Bayou10. Candy Man11. Uptown12. Ooby Dooby13. The Comedians14. (All I Can Do Is) Dream You15. It’s Over16. Oh Pretty Woman1989年リリース。 【輸入盤CD】Roy Orbison / Black & White Night (w/DVD) 【K2017/2/24発売】(ロイ・オービソン) 【輸入盤CD】Roy Orbison / Black & White Night 【K2017/5/5発売】(ロイ・オービソン)
2010年01月16日
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2万アクセス達成しました!日頃のご愛顧、あらためて感謝申し上げます。昨夜で20000アクセスを超えました。今後ともよろしくお願いいたします。ちなみに20000アクセス目は、みずがめ座…さん(ありがとうございます!)でした。 下記のランキングサイトに参加しています。応援いただける方は、以下のバナーのクリックをお願いします(それぞれのランキングサイトにリンクされています)。 にほんブログ村 → 人気ブログランキング → 音楽広場 →
2010年01月15日
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『フープラ』に続く80年代スターシップの第二作 このスターシップ(Starship)というバンドの歴史は実にややこしい。大元をたどれば、1960年代後半、カウンターカルチャーの代名詞となり、名作『シュールリアリスティック・ピロー』などで知られるジェファソン・エアプレインに行き着く系譜を持つ。 さて、スターシップと言えば、1985年のアルバム『フープラ(Knee Deep In The Hoopla)』のイメージが強い人も多いのではないだろうか。同アルバムからは、「シスコはロックシティ(We Built This City)」と「セーラ(Sara)」(ともに全米1位)をはじめ計4曲がシングルカットされた。アルバム自体もプラチナとなる売る上げを記録した。 『フープラ』は上で述べたややこしいバンド変遷の経緯の過程で特に複雑だった時期を経てリリースされた。その前のジェファソン・スターシップと名乗っていた時のメンバー同士が名称の使用をめぐって裁判沙汰となり、結果、双方ともにこの名称を名乗れなくなった。そしてグレース・スリックとミッキー・トーマスを中心とする元メンバーは自分たちのバンドの名称を単に"スターシップ"と決め、この新バンドとして最初のリリースとなったのが『フープラ』だった。なおかつ、この時期の彼らは60年代から数えて既に20年のキャリアのベテランロックグループであり、MTV時代に突入してどういう音楽性を押し出すのかが大きな問題となっていた。このスターシップは、ジェファソン・エアプレインからジェファソン・スターシップへと受け継がれてきた音楽性を大きく変更し、自作にこだわらず外部ライターの曲を大幅に取り入れて、ヒット志向のエレクトロ・ポップ/ロックな路線に走った。 いま述べたような経緯から、『フープラ』は、ある意味では少し背伸びしたような部分が残るアルバムだったと思う。これに対して、『フープラ』からおよそ2年後の1987年にリリースされた本作『ノー・プロテクション』では、完全に開き直ったというか、この音楽性がバンド内で消化され血肉となっている感がある。新しいスタイルが板についてきて、各曲の完成度が高い。2.「愛はとまらない」のシングルヒットの印象ばかりが強い人も多いかもしれないが(ただし実際にはこれに加え、3.「イッツ・ノット・オーヴァー」、1.「ビート・パトロール」、11.「今夜はミュージック・ナイト」の3曲もシングルカットされている)、あらためて聴いていると、全体を通してのトータルな完成度に驚かされる。こうした観点から一度通して聴いてみる価値があるアルバムだと思う。[収録曲]1. Beat Patrol2. Nothing’s Gonna Stop Us Now3. It’s Not Over (’Til It’s Over)4. Girls Like You5. Wings of a Lie6. The Children7. I Don’t Know Why8. Transatlantic9. Say When10. Babylon11. Set the Night to Music1987年リリース。 【中古】 ノー・プロテクション /スターシップ 【中古】afb
2010年01月14日
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CSN(CSNY)やスーパーセッションの立役者としての彼の才能を見直す スティヴン・スティルス(スティーヴン・スティルス、Stephen Stills)は1945年米国生まれのギタリスト、シンガーソングライター。バッファロー・スプリングフィールド(1960年代後半に数年だけ活動し3枚のアルバムを残したフォーク・ロック・バンド)の中心的メンバーであった。 1968年にアル・クーパー、マイク・ブルームフィールドとの共演盤『スーパー・セッション』、1969年にはデヴィッド・クロスビー、グレアム・ナッシュとともに『クロスビー、スティルス&ナッシュ(CSN)』を発表。さらに翌70年にはこの3人にバッファロー・スプリングフィールド時代の盟友ニール・ヤングを加えたクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング(CSNY)として『デジャ・ヴ』をリリースしている。いま挙げた3つのアルバムはいずれもロック史上では指折りの名作とされるものであるが、同時に、いずれのプロジェクトにおいても、他の共演者に注目が行きがちでスティルスが主役として評価されることが少ない。 その後は1970年からソロ活動を本格化させたスティルスであるが、彼の名義(厳密には彼を中心としたバンド)でよく知られているのは、1972年の『マナサス(Manassas)』である。これはこれで別個に取り上げて然るべき必聴盤で、個人的にも大好きなアルバムなのだが、これと同様にもっと注目を集めてもいいと思うアルバムがある。それが本作『スティヴン・スティルス(Stephen Stills)』という次第である。 本盤『スティヴン・スティルス』は、1970年リリースのソロ第1作で、雪の中でギターを弾くスティルスの姿(これがまた何ともアピール力の弱いというか、インパクトのない写真!)がジャケットになっている。ジャケットの地味さ加減とは対照的に、参加メンバーの方は実に豪華で、1曲目(「愛への讃歌」)からクロスビーとナッシュがゲスト・ヴォーカルで参加。4.「追憶」では、ジミ・ヘン(ジミ・ヘンドリックス)がリード・ギターで参加し、これにスティルスがオルガンで応えるという演奏を展開している。また、続く5.「ゴー・バック・ホーム」では、エリック・クラプトンがソロ・ギターで参加し、二人のギタープレイの応酬を聴くことができる。さらに加えると、2曲(7.と10.)で“リッチー”というドラマーがクレジットされているが、これは元ビートルズのリンゴ・スターである。 この豪華メンバーを迎えたスティルスのオリジナル曲10曲からなる本アルバムを聴くと、スティルスの才能と同時に懐の深さがよくわかる。CSN(CSNY)の2枚のアルバムや『スーパー・セッション』の陰の立役者になっていたのは、このスティヴン・スティルスの才であって、それなくしてはいずれも成立していなかったのではないかということを改めて認識させてくれる。単体の名盤というのもあれば、他と併せて聴いて納得の名盤というのもあっていいと思う。『スティヴン・スティルス』は、『スーパー・セッション』、『クロスビー・スティルス&ナッシュ』、『デジャ・ヴ』と並べて聴いてこそその価値の深さがわかる、そんなアルバムなのかもしれない。[収録曲]1. Love The One You’re With2. Do For The Others3. Church (Part of Someone)4. Old Times Good Times5. Go Back Home6. Sit Yourself Down7. To A Flame8. Black Queen9. Cherokee10. We Are Not Helpless1970年リリース。 【メール便送料無料】スティーブン・スティルスStephen Stills / Stephen Stills (輸入盤CD)(スティーブン・スティルス)
2010年01月13日
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非の打ちどころのない、熱狂のロック・ライブ盤 1974年、ボブ・ディランがザ・バンドを招いて行ったツアーを収録したライブ・アルバムで、同年にリリースされたのが、この『偉大なる復活(Before The Flood)』である。このライブ盤に先立って、ディランは同じくザ・バンドを従えてアルバム『プラネット・ウェイヴス』を発表していたが、ライブ盤『偉大なる復活』の方は、主に過去のナンバーを中心に構成されている。 全21曲、時間にしておよそ90分の長編2枚組で、13曲がディラン、8曲がザ・バンドという配分。ザ・バンドの楽曲はザ・バンドで、ディランの楽曲は基本的にザ・バンドがバックを務めている(ただし一部の曲ではアコースティックセットでディランが歌っている)。 ライブ・ロック・アルバムとしては見事な出来であるにもかかわらず、本作は、どうも正当に評価されていない節がある。多分その理由は次の二つだろう。一つ目は、ディラン目的で本作を聞く人たちの側の問題である。お目当てはディランだが、途中で必ずしも興味の対象ではないザ・バンドのみの演奏が入る。当然、ディラン・ファンにとっては”中弛み”もしくは”とばして聴きたくなる”瞬間である。二点目は、ザ・バンドのファンの側の問題で、ザ・バンドがディランのバックを務めている箇所はともかく、ディランがアコースティックで歌っているところはザ・バンド目当ての聴き手の望むところではない。 要するに企画の段階からしてボブ・ディラン目当ての聴き手、ザ・バンド目当ての聴き手の双方を満足させることが不可能なアルバムだった訳である(どちらかを聴きたくてアルバムを買う人の数は多いが、両方を聴きたくてこのアルバムを耳にする人の数は逆に少なくなる)。けれども、いま一度、落ち着いて本アルバムを聴いてみると、70年代最高のライブ・ロック・アルバムの一枚と言える出来だ。 そんなわけで、上記のようなボブ・ディラン目当ての人には、ザ・バンドを従えて完成されたディランのロック・サウンドを堪能してほしい。とくにアルバム終盤(Disc 2-8., 9., 10.)、「追憶のハイウェイ61」から「ライク・ア・ローリング・ストーン」を経て、「風に吹かれて」に至る一連の演奏は圧巻で、一つのバンドとしての一体感を備えた厚みあるサウンドで、ディランの代表曲の新たな解釈を出していると感じる。ちなみにディランは、本来の(と言っていいのかどうかわからないが)澄んだ声質ではなく、ダミ声のような声で熱唱している曲が多い。これはコンサートの盛り上がり具合にもよるのかもしれないが、おそらくはディランが意図的にロックよりに演じているように思える。 最後に、ザ・バンドが目当てで本盤を手にした人はどう聴くかであるが、ヴォーカリストが一人増えたと思えばいいのではないだろうか。そう考えると、より魅力的な盤に見えるし、それで本盤を気に入れば、ディランへの興味の入り口にもなることと思う。[収録曲](Disc 1)1. Most Likely You Go Your Way (And I’ll Go Mine)2. Lay Lady Lay3. Rainy Day Women #12&354. Knockin’ on Heaven’s Door5. It Ain’t Me, Babe6. Ballad of a Thin Man7. Up On Cripple Creek8. I Shall Be Released9. Endless Highway10. The Night They Drove Old Dixie Down11. Stage Fright(Disc 2)1. Don’t Think Twice, It’s All Right2. Just Like a Woman3. It’s All Right, Ma (I’m Only Bleeding)4. The Shape I’m In5. When You Awake6. The Weight7. All Along the Watchtower8. Highway 61 Revisited9. Like a Rolling Stone10. Blowin’ in the Wind1974年リリース。 【楽天ブックスならいつでも送料無料】偉大なる復活 [ ボブ・ディラン ]
2010年01月09日
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80年代、一世を風靡した産業ロックの申し子の代表曲 名前は知らなくても、曲を聞いたある人は多いと思う。映画『ロッキー3』の主題歌「アイ・オブ・ザ・タイガー(Eye Of The Tiger)」。演じるのは、サバイバー(Survivor)という5人組のバンドである。 サバイバーは1977年に結成され、レコード・デビューは80年。デビューから2年ほどが経過した1982年、このシングル曲「アイ・オブ・ザ・タイガー」が全米で7週連続1位という大ヒットを記録した(前年発売の同名アルバムも全米2位に輝いた)。このヒットは、その時点でCBSレコードのシングル売り上げ記録を塗り替えたものであったらしい。 このバンドは、1980年代前半~半ばに活動のピークを迎え、上記のようなヒット曲も生み出した。だが、90年前後には一時期バンド活動を停止したりし、その後、バンド自体は復活して、現在まで活動を続けている。ただし、現在、オリジナルメンバーはフランキー・サリバン(ギター、ヴォーカル)ただ一人となっている。 長らくバンドのリード・ヴォーカルを務めたのは、デイヴ・ビックラー(1978~83、1993~2000年)とジミ・ジェイミソン(1984~89、2000~06年)である(現在はロビン・マッコーリーという別の人物がリード・ヴォーカルを務めている)。「アイ・オブ・ザ・タイガー」を歌ったのはデイヴ、後に「バーニング・ハート」や「イズ・ディス・ラブ」といった80年代半ばのヒット曲を歌ったのはジェイミソンである。 サバイバーは、ジャーニーやフォリナー、あるいはスティクスなどと並んでいわゆる”産業ロック”の典型のように言われてきた。フォリナー「アイ・ウォナ・ノウ」の項でも似たようなことを述べたが、ロックに何らかのメッセージ(社会的メッセージ、既存の世界への抵抗など)を求めず、メロディアスで美しい曲やキャッチーでかっこいい曲を欲するという観点に立つならば、“産業ロック”という表現が持つ否定的印象も変わってくる。つまり、ロックが"産業化"してしまった後の価値観からすると、”産業ロック”のレッテルを貼られたバンドの楽曲も、時には、ごくごく自然な名バラードであったり、名ロック・ナンバーであり得る。 「アイ・オブ・ザ・タイガー」は、メロディというよりもスリリングさ、ドラマチックなポップ感覚で聴かせる楽曲である。表題にある“虎の目”というこの歌のテーマは、次のような内容だ。“そして最後に生き残ったヤツは、夜に獲物を求めて徘徊するヤツは虎の目で俺たちみんなを見ている。” 別に寅年を迎えたからというわけでもなければ、阪神タイガース・ファンだからというわけでもないが、ふとこの“虎”を思い出したので、今回の曲紹介としてみた次第である。[収録アルバム]Survivor / Eye Of The Tiger (1982年)Survivor / Greatest Hits (1988年)など Survivor サバイバー / Eye Of The Tiger 【BLU-SPEC CD 2】 【輸入盤】Best Of [ Survivor ]
2010年01月08日
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80年代初頭、ハート過渡期のアルバム ハート(Heart)は、1975年にデビューした(ただし、バンド自体はそれ以前から様々な変遷を経ていたのであるが)米国のロックバンドである。アン・ウィルソンとナンシー・ウィルソンという姉妹の女性二人をフロントマンとし、レッド・ツェッペリンの影響の濃いハードロックを軸に、アコースティックサウンドも活かした作品群を70年代後半に次々と発表した。ハートのファンの中にはとりわけこの時期がもっとも良かったという人も多いようだ。 そんなハートにとって大きな転機となったのは1980年代半ばだった。1979年と82年のメンバーの相次ぐ脱退の後、所属するレコード会社を変え、バンドの自作にこだわらずに外部ライターの曲や売れっ子プロデューサーを起用してよりポップな方向に転換した。これによって、『HEART』(1985年)、『バッド・アニマルズ』(1987年)、『ブリゲード』(1990年)の三部作に代表される"全盛期"を築くこととなった。 本作『プライベート・オーディション(Private Audition)』は1982年の発表である。つまり、70年代後半の勢いが衰え、80年代半ばの大ブレークを迎える以前という時期で、セールスが伸び悩んでいた頃である。しかし、ある作品が売れなかったからといって、それが駄作ということは必ずしも当てはまらない。 本盤の特徴の一つは曲の配列とバランスのよさである。1.「炎の街」というハードでソリッドなロックナンバーを冒頭に置いているのはなかなか得点が高い(ちなみにリリース当時のアナログ盤では7.「ザ・シチュエイション」がB面1曲目で同様の効果を示していた)。だがアルバム全体は一本調子ではなく、起伏に富んでいる。アルバム前半では4.の表題曲「プライベート・オーディション」や、シングルカットされた6.「ディス・マン・イズ・マイン」がそうである。5.「エンジェル」や8.「ヘイ・ダーリン・ダーリン」といったアコースティック系の曲もバランスよく取り入れられており、とりわけ、壮大なアコースティック曲11.「アメリカ」がアルバムの最後を締めくくるというのも曲の配列という観点からすると非常に優れている。 さらに、本盤のもう一つの特徴として、アン・ウィルソンの歌唱力の高さが強く前面に出ている点があると思う。1.や7.のハードロック系ナンバー、5.や11.のようなアコースティック系ナンバーでの熱唱。ちなみに、発売当時のLPの帯には、「しなやかでしたたかなアンとナンシーの感性が織りなす大人のロック・ファンタジー」とある。いよいよこの頃からハートがアンとナンシー中心のバンドになったのも、このアルバム発表後にメンバーが二人抜けたというのもなるほど頷ける。加えて、現在(2000年代以降)のハートは完全にアン&ナンシーの姉妹プロジェクト化しているが、その芽生えは案外、この頃にあったのかも知れない。ともあれ、もっと評価されていい一枚だと思う。[収録曲]1. City’s Burning2. Bright Light Girl3. Perfect Stranger4. Private Audition5. Angels6. This Man Is Mine7. The Situation8. Hey Darlin Darlin9. One Word10. Fast Times11. America1982年リリース。 中古レコード 輸入盤 アメリカ盤 LP ハート プライベートオーディション 歌詞付 ★併190220 【送料無料】【輸入盤】 Private Audition [ Heart ]
2010年01月06日
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INDEX(ジャンル別、アーティストのアルファベット順)を更新しました。件数は少ないですが、年末年始の分を追加しています。この記事内のリンクもしくはブログトップの右側(フリーページ欄)から見ることができます。 なお、邦楽(Jポップ/ロック)は2件しか記事がないのでまだINDEXページを設けていません(いずれ増えたら設ける予定です)。アーティスト別INDEX~ジャズ編へアーティスト別INDEX~ロック・ポップス編へアーティスト別INDEX~ラテン系(ロック・ポップス)編へ 当ブログは3種類のランキングサイトに参加しています。応援くださる方、お時間のある方は、ぜひ下記バナーをクリックしていただけると嬉しいです。 ↓ こちらをクリック! ↓(1)にほんブログ村 (2)人気ブログランキング (3)音楽広場
2010年01月05日
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安心して聴ける曲がずらりと並ぶ、ザ・バンドの最高傑作 本作『ザ・バンド(The Band)』は、1969年発表のザ・バンドのセカンド・アルバム。以前、別の項で書いたように、ザ・バンドを初めて聴く人には『南十字星』のようなものの方が入りやすいかもしれないし、ボブ・ディランとの共演ものもいいかもしれない。また、筆者が個人的に1枚だけを選ぶとすれば、『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』を選ぶかもしれない。けれども、客観的な立場からすると、本盤がザ・バンドの最高作であることは疑いの余地がない事実だと思う。 以前述べたように(こちらの記事を参照)、ザ・バンドの音楽は筆者にとって"波長が合う"ものである。言い換えると、それは、空気のごとく、周囲に自然に存在していて違和感のないというか、普通に周りに存在すべきものなのである。それは、このザ・バンドによる、米国音楽のルーツ探求の旅と重なり合う。彼ら――そのメンバーは一人(L・ヘルム)を除きカナダ人であった――は、米国の音楽的源流をサウンドに反映させ、したがって、彼らの作り出すサウンドは、米国音楽の基礎の部分に乗っかってできあがっている。裏を返せば、米国のロック、R&B、ポップ、ロカビリー、ブルース等々…といったジャンルを聴く人にとって、米国音楽に何らかの共通基盤が存在し、ザ・バンドの音楽がその"共通基盤"でもある。その意味で、ザ・バンドの音楽をすんなりと自然に受け入れられる層は、常に一定数が確実に存在するということになる。 実は筆者はザ・バンドで育ったわけではなく、1968年のデビュー作『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』も、翌1969年の本作『ザ・バンド』も、リアルタイムではなく後聴きである。しかし、それがすんなりと耳に馴染んだ理由はと言えば、その"後聴きした"頃までに聴いていたアメリカン・ミュージックの基盤がザ・バンドのアルバムには盛り込まれていたからだと感じる。メンバーのロビー・ロバートソンによれば、本作は『アメリカ』というタイトルにもなり得たと言うが、なるほどその通りだと思う。 おすすめ曲は全部といっても言いぐらいなのだが、あえて個人的・趣味的に選抜すると、1.「ロッキーを越えて」(原題は「Across The Great Divide」で、"大分界線(=ロッキー山脈)を越えて"の意)、2.「ラグ・ママ・ラグ」、3.「オールド・ディキシー・ダウン(The Night They Drove Old Dixie Down)」(ディキシーまたはディクシーとは、米南部諸州を指す)、5.「クリップル・クリーク(Up On Cripple Creek)」、9.「ルック・アウト・クリーヴランド」、12.「キング・ハーヴェスト」。本盤のほとんどの曲は3~4分の収録時間に収まっていて、聴きやすいというのも魅力である。 ちなみに、本盤のジャケットは茶色のバックにモノクロ写真。その写真には"モサくて暑苦しい"20代半ば~後半ぐらいの男たち5人が写り込んでいる。絶対に"ジャケ買い"されなさそうなデザインだが、ジャケットだけを見て避けて通ってはいけない。この"いけてない"ジャケットのアルバムこそ、何かの縁でザ・バンドを聴いた人のほとんどが最高傑作としてたどり着く名盤なのである。70年代以降、ここ40年ほどの米国音楽に慣れ親しんだリスナーで、未聴の人にもぜひおすすめしたい。"空気"のように、ふつうに身の周りに存在すべき音楽の核心がここにはあるのだから。[収録曲]1. Across The Great Divide2. Rag Mama Rag3. The Night They Drove Old Dixie Down4. When You Awake5. Up On Cripple Creek6. Whispering Pines7. Jemima Surrender8. Rockin' Chair9. Look Out Cleveland10. Jawbone11. The Unfaithful Servant12. King Harvest (Has Surely Come) 1969年リリース。 【メール便送料無料】ザ・バンドThe Band / The Band (輸入盤CD)(ザ・バンド)
2010年01月04日
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超有名盤“サキ・コロ”が名演となった訳 音楽の世界には、"必然的名演"と"偶発的名演"があると思う。クラシックのように演奏方法が安定しているジャンルでは、必然的な名演奏が生まれやすいのだろう。けれど、ジャズのように即興性という要素が強いジャンルになると、見事なメンバーをそろえても必ずしも名演が生まれるとは限らず、"やってみなければわからない"という不安定要素が残る場合が多い。とくにアドリブが多く含まれる分、やってみてうまくいく事もあれば、そうでない場合もあるというわけだ。 無論、ジャズの中にもしっかりと考え込まれ練られた名演というのもある。今までに紹介した盤からいくつか例を挙げると、マイルス・デイヴィスの『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』とか、カーティス・フラーの『ブルースエット』、あるいはMJQ(モダン・ジャズ・カルテット)の『たそがれのヴェニス』などといったアルバムは、いわば計算通りに出来上がった名作である。言い換えれば、1+1が2になるとか、2×2が4になることがある程度予想できたものと言える。しかし、1+1がマイナスになるかもしれない、掛け算をすると数字が減るかもしれない、という、普通の計算とは逆の場合もある。つまり、今回紹介する作品は、上記のものとはある意味で対極にあり、偶発的に生まれた名演の典型と言ってよい。そして、ジャズの世界ではこうした"偶発的名演盤"の方がむしろ主流と言った方がいいかもしれない。 本盤『サキソフォン・コロッサス(Saxophone Colossus)』(通称“サキ・コロ”)は、テナー奏者、ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)がプレスティッジに吹き込んだ代表作で、"一家に一枚"的な名盤としてよく紹介される。バックを務めるのは、トミー・フラナガン(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、マックス・ローチ(ドラム)。なるほど名盤が仕上がりそうなメンバーである。しかし、このメンバーが揃ったからといっても、それは、本作が名盤になる上での必要条件が整っていたに過ぎない。問題は、実際にやってみてどうなるかであり、アドリブにかなりの比重が置かれるロリンズの演奏だけに、"やってみないとわからない"という危うさが当然のように伴う。しかし、本盤に関しては、結果としてうまくいき、超名演に仕上がった。その結果が天下の名盤『サキソフォン・コロッサス』という訳である。 このことは、ところどころで様子を探るようにタイミングを計り、ここぞと言う時に一気になめらかなアドリブを噴出させるロリンズの演奏に注意して聴けばすぐにわかる。有名曲の1.「セント・トーマス」を例にとると、出だしのテーマは、遠慮がちに柔らかくテナーを吹く。続くアドリブでは、"ブブッ、ブブッ"とよくわからない音が最初にある。これこそ周囲の様子を伺っているわけで、来たるべきタイミングがあった瞬間、なめらかなメロディが一気に噴き出す。その後のドラム・ソロの後、待ち構えていましたとばかりにサックス・ソロが来るが、この頃には既にロリンズはのりまくっていて、見事なフレーズを連発する。ここまで来れば、後は上記のメンバーである。トミ・フラ(トミー・フラナガン)も見事に流れにマッチしたピアノ・ソロを披露し、ロリンズはと言うと、のりにのったままテーマへと戻り曲を締めくくる。 1956年と言えば、マイルスの名盤(上述の『ラウンド~』、『ワーキング』など)やセロニアス・モンクの『ブリリアント・コーナーズ』等々、モダン・ジャズの今では定番となったアルバムが多く生まれた年で、本盤もそうした名作群の中の1枚に数えられる。当時、26歳だったロリンズだが、自己のスタイルを既に確立していて、出たとこ勝負、あるいはその場の真剣勝負とでも言うべき、彼のアドリブの素晴らしさが抜群に発揮された1枚だと思う。[収録曲]1. St. Thomas2. You Don't Know What Love Is3. Strode Rode4. Moritat5. Blue SevenSonny Rollins (ts)Tommy Flanagan (p)Doug Watkins (b)Max Roach (ds)録音: 1956年6月22日Prestige [枚数限定][限定盤]サキソフォン・コロッサス/ソニー・ロリンズ[CD]【返品種別A】
2010年01月03日
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あけましておめでとうございます。本年も当ブログをよろしくお願いします。ふだん聴く音楽の中から、好きなアルバムや楽曲について紹介や感想を書くことで、好きな音楽の良さを考えたり、さらに好きな音楽を増やしていくきっかけにしたりしたいと思っています。開始からまだ半年ですが、焦らず急がず、末永く続けていきたいと思っています。下記のランキングサイトに参加しています。応援くださる方は、ぜひクリックをお願いします!(1)にほんブログ村 (2)人気ブログランキング (3)音楽広場
2010年01月01日
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