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今、福岡にある国立博物館には、興福寺から阿修羅像が来ていて、連日たいへんな人が詰め掛けているようです。なにしろ、お住まいの奈良の興福寺から、めったに外出されたこともない阿修羅さんが、はるばる九州まで足を伸ばしてくださったんです。トラックに長時間揺られ、さぞかしお疲れになったことでしょう。おまけに、初めて来た福岡の地では、たいへんな豪雨になり、博物館が臨時閉館するという騒ぎ。阿修羅さん、びっくりされたことでしょうね。というわけで、興福寺の阿修羅さんといえば、国宝中の国宝。仏像中の仏像。おそらく、日本でいちばん有名で人気のある、ハンサム仏像さんと言ってもいいでしょう。なんと、ファンクラブまである仏像さんですよ。九州にご滞在中に、一度はお目にかかりたいと思っていた私です。しかし、どう考えても向こうはモテモテ過ぎて、お客が多すぎ。二人きりで目と目を合わせるなんて、とても無理。なるべく人が少ない状況で、お会いしたい!考えた私は、あの豪雨の上がった翌日。まだ大雨予報が出ていたという日に、阿修羅さんとのデートを決行いたしました。この日を逃して、二度と阿修羅さんと親密に語り合える日は来ないであろうと思ってね。そして、これは大正解。大雨予報は出ていましたが、幸い大降りにはならず、待ち時間ゼロで館内へ。あっけないくらいすぐに阿修羅さんとお目にかかることができました。阿修羅さんの正面のりりしいお顔はもちろんのこと、左右のお顔も、お顔のない後姿も、ぐるりを何度もまわりながら拝見したのでした。阿修羅さんもハンサムでよかったですが、いっしょに来られていたお仲間たちも、それぞれ個性的でした。この人たち(と、言いたくなるくらい人間性を近くに感じられる少年たちです)なんだか時代を超えて、同じ思いを語りかけてくるみたいに見えるんだわ。不思議ですねえ。もうお会いすることもないかと思いますが、興福寺までの帰路のご無事をお祈りいたします。そして、これから先の何千年も興福寺でお元気にお過ごしくださることを。あ、そうそう。阿修羅さんに会いに興福寺に行こうと思っていらっしゃる方、阿修羅さんは9月いっぱいまで九州にご旅行のため、お留守です。お忘れなくね。7月に読んだ本です。1「風花」 川上弘美2「ダーシェンカ あるいは子犬の生活」 カレル・チャペック3「太ったんでないのっ?!」 阿川佐和子・檀ふみ4「れんげ荘」 群ようこ5「女たちは二度遊ぶ」 吉田修一6「神様から一言」 荻原浩7「ぜいたく貧乏」 森茉莉8「サウスバウンド」 奥田英朗1. Mike's luckey day2. Karen and the artist3. The Barcelona game4. Marcell and the Shakespeare letters5. Marcell goes to Hollywood6. Thr black tulip
2009.08.06
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何年か前、カズオ・イシグロさんがイギリス最高の文学賞、ブッカー賞をを受賞されたとき、朝のニュースでその受賞理由を聞いた覚えがあります。5歳で渡英し、その後帰化した日本人。繊細で情緒的な日本人の感受性で、失われつつある古き良き時代のイギリスを描いた点が評価された。うろ覚えですが、そういうふうなことを記憶しています。そして、つい最近も、朝のニュースで「ノーベル文学賞にいちばん近い作家」として、紹介されていました。私は「あれ?それは村上春樹じゃないの?」と思ったのが、この本に興味を持ったきっかけでした。ストーリーは特になくて、一人の中年の執事が、品格ある執事のあり方、品格について、主人だったダーリントン卿への敬慕、女中頭との淡い恋、などを振り返るという物語。最初は、この本のどこがおもしろいの?と思いながら読みましたが、読み進めるうちに、すっかりとりことなってしまい、重厚で上質な雰囲気の中でなめらかに読みました。それは、とても心地よい作業でした。そもそも、私は執事をやってる人を見たこともないし、聞いたこともありません。けれど、普通の職業のように、後から勉強や努力によって身につけるものとは、根本的に違う職業みたいです。一生懸命勉強して経験を積めば医者にはなれるかもしれませんが、執事は生まれながらにして体に「執事」を持っている人、あるいは手足のように「執事」が生えている人、そんな人にしかできない仕事のようです。日本には「滅私奉公」という古い言葉があるけれど、執事という仕事は、滅私奉公の究極にいなければできない仕事です。どんな難題であっても、表面的には穏やかに静かにやってのけ、しかも「私は何もしていません」と自分で思い込み、ご主人様にも思い込ませる。そんなこと、生身の人間にできるわけがないと、私は思うのですが、この本によると、それこそが品格ある執事の条件のようです。品格ある執事をめざし、自分の仕事ぶりを自負していた主人公ですが、旅先でさまざまなことを思い返したり、素朴な人々に触れるうちに、自分の生き方にかすかな疑問を抱き始めます。自分は、人の感情のわからないつまらない人生を送ってきたのではないか。女中頭との淡い心のやりとりにも、目をつぶって職務に励んできたのは、間違っていたのではないかと。旅の終わりに、夕暮れの中で静かに涙する主人公。人生の夕暮れを迎える世代の人なら誰でも、上質な感動を得ることができるでしょう。もちろん、イシグロさんの力量もすばらしいのですが、私は翻訳家の土屋政雄さんにも敬意を表したいです。この雰囲気を読み取り日本語にするという作業は、並々ならぬ感性と日本語力であると、翻訳のことなんか何も知らない私でも、強く感じました。 日の名残りところで、本当にどうしようもなくつまらない余談ですが、この本を読み終わってすぐに、「執事」を検索してみました。そこで、日本には「執事喫茶」というものがあるって、初めて知りました。(執事喫茶を知らない方は、どうぞ検索してみてください)上質な感動の涙の後だったので、あまりの驚きにあぜん!絶句!イシグロさん、これが日本の現実です。私なんかが謝るっていうのもナンですが、ごめんなさい。
2009.08.02
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