全5件 (5件中 1-5件目)
1
娘がうつ病になったとき、うつ病について何も知らなかった私は、まず書店に行って、うつ病に関する本を何冊も買いました。精神科医とかカウンセラーとか、プロが書いた本ばかりでした。難しい言葉ばっかりで読みにくく、実感のないものがほとんどでした。あるいは、毎日早起きしろとか、外を歩けとか、何を食べろとか、日記をつけろとか、極端なハウツー本みたいなのもありました。うつ病の人なら分かると思うけど、調子の悪いときにそんなこと絶対にできないよねえ。それができたら、うつ病じゃないよ。結局本はすべて何の役にも立たず、後になって捨ててしまいました。次に私は、インターネットやブログに頼り始めました。私が開いたうつ病のブログには、たくさんのうつ病の人が訪れてくださり、さまざまな体験談や励ましの言葉をくださって、感激しました。うつ病はまじめでいい人がかかる病気と聞いたことがあるけれど、まさにそのとおりでした。が、当時は今ほどうつ病が多くなかったのか、ブログそのものが少なかったのか、うつ病本人の書いたものたくさんありましたが、それを看病する家族の書いたものはほとんどありませんでした。うつ病は本人もつらいでしょうが、それを見ている家族も、それはそれはつらいものです。おまけに「励ましてはいけない」というのは鉄則ですから、言葉にもものすごく注意を払っていました。「よくなったら遊びにいこうね」「早くよくなってね」そういう優しい言葉に反応して刃物に手が伸びるのですから、家族の中で言動に気をつけるのはもちろんのこと、遊びに来てくれる友達の言葉にもびくびくしていました。真っ暗い部屋のすみっこで涙だけをぽたぽた流していた娘。ただ抱きしめて、いっしょに泣くことしかできなかった私。ほんとうに無力な私でした。うつ病の子供を持つお母さんは、日々子供にどう接しているんだろう。それが、当時の私のいちばん知りたかったことです。けれど結局、そういう情報はほとんど得ることができませんでした。この本「その後のツレがうつになりまして」は、あの頃私が知りたくて知りたくて、探し回っていた情報がぎっしり詰まった、ほんとうに価値のある本です。あの頃この本を手にしていたら・・・・そう思いながら、書店で一気に立ち読みし、全部読んだのに買ってきて、その日のうちにもう一度読みました。前作の「ツレうつ」が、夫婦の闘病記だとしたら、この「その後のツレうつ」は、二人がうつ病のために何をしてきたのかをまとめたものです。目次をちょっとご紹介すると、○うつになってわかったこと○うつになって、あきらめたこと○こんなときどうする?こういうことをやってきた。けど、それでよかったの?ついついやっちゃった。これだけはやっちゃだめよ。そういう素人の視線で書かれているので、患者本人と家族が何をするべきかを(もちろん全員が同じとは思わないけれど)知りたいと思っている人には、何より役に立ちます。家族だけじゃなくて、会社の上司さんなんかも読むといいですよ。ただし、この本。普通の人が読むにはとてもいい本ですが、うつ病の人によってはちょっとつらくなるかも。実際、娘も「ツレうつ」を読んで調子を落とし、しばらく立ち直れませんでした。つらくなったら、すぐやめて、休憩してね。
2009.04.24
コメント(12)
漂流記、無人島・・・そう聞いて私が思い出すのは、子供の頃ワクワクしながら読んだ「15少年漂流記」、長じてから読んだ井上靖の「おろしや国酔夢譚」、最近では須川邦彦の「無人島に生きる16人」の三つです。しかも、「おろしや」と「無人島に生きる」は実話だというのですから、すごいの一言です。人間の持つ可能性と、究極の環境の中の人間の尊厳を考えさせられました。しかし、今日ご紹介する「東京島」は、同じ無人島に漂着した物語でも、人間の180度反対の部分を表現した、かなり衝撃的な内容でした。上の小説の中では、その過酷で悲惨な生活の中にも、救出される日をただ待つのではなく、人間として向上していこうという強い気持ちがあり、それが大きな力となっていました。でも、東京島の人々に、そういう気概はまったくありません。生きるための工夫もなく努力もなく、リーダーシップをとる人すらなく、彼らはてんでばらばらに気の合った者どおし、好き勝手に生活を始めていきます。それは、無人島じゃなくても現代の都会と同じやり方だと、私は感じました。彼らのうちの一人は島で村八分にされていて、偶然訪れた船に救出されるのですが、他にも人がいて救出を待っているということを、隠し通すのです。上記の小説は、しょせん昔の話。今の人が無人島で暮らすとこうなるんだと、桐野夏生さんは思ったのかもしれません。東京島の人々の中には、無人島に向く性格と向かない性格。中国人と日本人。そして男と女。その対比もまた、なかなかおもしろく、深いものがありました。この小説が出版されたとき、その宣伝文句は「女性が一人だけ」ということばかりが強調されていたように思います。そのほうが、人々の想像をかき立てやすいということなんでしょうけれど、内容を一言で宣伝するのに、それはちょっとずれてるなあという気がしました。最初は確かに清子一人だった。そのせいで男たちは清子を奪い合ったけれど、その後女性は異分子として排除されるようになります。その後、若いフィリピン女性が7人も漂着したことでかえって人間関係が安定して、とりあえずの落ち着きと繁栄を得ることができた。という、ほんとうに皮肉な結末になるのです。Amazonのレビューではあまり評価は高くないようですが、私はこれこそ桐野夏生にしか書けない毒のある小説だと思うので、☆五つです。
2009.04.14
コメント(6)
どういうわけか、この頃とみに読書体力の低下を感じています。前は長編好きで、分厚いのが上下巻揃っているのを見ると、早く取り掛かりたくてワクワクしたものでした。ハリーポッターを初めから読み返すのも、平気だったし。それなのに、今はほんとにだらしない。今日も、だいぶ前に図書館に予約していた長編が2冊、同時に来たんですが、すぐに手に取る気になれず、ながめてため息をついている。それが、あの大好きな桐野夏生の「東京島」と「女神記」なんですよ。あ~こんなに読めなくなったのか。ショックだわあ~・・・・こんな私ですが、今は新聞が来るのが楽しみなくらいはまってるものがあるんです。それは新聞小説。今連載中なのは、林真理子の「下流の宴」です。それなりの教育のある中流家庭の主婦が主人公。それなのに、一人息子は高校を中退し、年上の女の子と同棲し、20歳で結婚しようとしている。あっという間に下流社会に行ってしまう息子と、とまどいを通り越して恐怖を感じるお母さん。深刻でなおかつユーモラスで、たぶん今の日本にはこんな家庭がいっぱいあるんだろうなと思わせられる設定です。時代に対する着眼の鋭さが、さすが林真理子だわ。もうひとつ、日曜版に連載が始まった角田光代の「ひそやかな花園」これはまだ明日が2回目なんだけど、もうすでに角田光代ワールドが華やかに広がっていて、今後の展開が楽しみです。だいたい、毎日新聞の日曜版は、今までどの記事もイラストもマンガも、ぜーんぜん面白くなかったんです。前に連載していた石田衣良の「チッチと子」もいまいちだったし。日曜日は角田光代と林真理子、両方読めるのでとってもうれしい。もひとつ、おまけ。小説ではないけれど、荻原浩の「極小農園日記」というのも連載されているんですよ。これはこちらで読むことができます。荻原浩の家庭菜園について書かれた、ユーモアたっぷりのエッセイで、なんとイラストも荻原浩さん。それがまた、とても上手でびっくりです。明日は待望の日曜日。書店に行かなくても、図書館まで行かなくても、いつもの新聞を開くだけで小説が読める。あーうれしい。毎日新聞さん、ありがとう!
2009.04.11
コメント(4)
ストーリーをよく知っている本を英語で読み直すと、意味が分かりやすくすらすら読めます。しかも、そのぶん雰囲気やストーリーの魅力を、より感じ取れるように思います。この「秘密の花園」もそうでした。ストーリーは有名ですね。主人公は、誰からも愛されたことのないまま孤児になった不幸な女の子マリー。彼女ををひきとった伯父さんもまた、最愛の妻を亡くしてから、何事にも愛情を持てなくなってしまった不幸な人でした。亡妻の愛していた庭園に鍵をかけ、記憶を葬ってしまおうとした彼。部屋にひきこもり、死ぬことだけを待っている息子コリン。彼らに、庭園の木々や草花やコマドリたちが、奇跡を起こすのです・・・主人公のマリーと従兄弟のコリンが初めて出会い、きつい言葉を投げかけあうシーンは、日本語で読んだときよりも、率直で簡潔で、小気味よいリズムを感じました。なにしろ二人とも、不幸な環境に育ったせいで、かなりいじけてますから。私が英語で読んだ「Secret Garden」は、英語学習者のために簡単な英語にリライトされたものですから、原作はもっと違う雰囲気になっているのかもしれません。ぜひ、いつか読んでみたいなと感じました。
2009.04.06
コメント(4)
このブログを始めて、2年半。毎月末に、その一ヶ月に読んだ本をまとめてご紹介してきました。このやり方、ブログ友達の読子さんの真似して始めたんですが、一ヶ月間の読書を思い返す手がかりになるので、気に入ってます。しかし、先月読んだ本はわずか3冊!!こんなに少なかったことって、初めてですよ。わざわざ「3月に読んだ本」なんて、報告するほどの量じゃない・・・今月はやめちゃおう。とは思ったけど、これまで続けてきたことをやめるのも、なんか悔しい。妙なところにマジメで律儀なA型です。「インターセックス」 箒木蓬生「グラビアの夜」 林真理子「食堂かたつむり」 小川糸「インターセックス」以外は、たいした本でもなかったし、3月のシメはこれでおしまい。
2009.04.03
コメント(8)
全5件 (5件中 1-5件目)
1