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中日春秋 (書写) 廃屋の博物館化走り梅雨 『前略おふくろ様』などの脚本家、倉本聰さんは北海道の富良野 に移り住んで間もないころ「廃屋」をよく訪ね歩いていたそうだ▼ 捨てられた家を見つけては中におじゃまする。その昔は居間だった 場所に座り込む。散乱した室内に放り出されたランドセルや少女雑 誌…。寂しい光景にかって住んだ家族がこの地にやってきたときの 夢や家を出るしかなかった事情を想像する。廃屋は「哀しい博物館 」だという。廃屋に着想を得て書いたのが『北の国から』という▼ 以前は笑い声があふれた家だが、今は誰もいない。そんな「哀しい 博物館」の建設ラッシュが日本中で起きているのか。空き家問題で ある▼総務省の住宅・土地統計調査(速報値)によると全国の空き 家数は900万戸と過去最多。住宅総数に占める割合は13.8%で、約 7戸に1戸は空き家ということになる▼ひとり暮らしの高齢者が亡 くなり、そのまま空き家になるケースが相次いでいる。相続する人 がいない、相続して売り出したものの買い手がつかない、解体費が 払えない―。少子高齢化の進んだ社会では空き家が増える理由はい くらでもあるのだろう▼ 2035年には3戸に1戸が空き家になると の推計もある。空き家は都会でも増えている。政府の対策も効き目 が見えない。「哀しい博物館」を再び、誰かの「楽しいわが家」に 戻す有力な手はないものか。
2024.05.20
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中日春秋 (書写) キダ・タローCМ曲はだしにのり 古代ローマの都市ポンペイはベズビオ火山の噴火によって、一夜 にして壊滅した。〈赤い火をふく あの山へ 登ろう 登ろう〉― 。イタリア歌謡の 「フニクリ・フニクラ」(1880年)はこの火山 の登山鉄道のCМソングである▼大ヒットし、勘違いする人も。ド イツの作曲家リヒャルト・シュトラウスはこれをイタリア伝統の民 謡と思い込み、自分の曲の中に取り入れてしまった。それほど地元 に溶け込んだCМ曲なのだろう▼〈とれとれぴちぴち かに料理〉 〈あーらよ、出前一丁〉。この人のCМ曲だって負けていまい。作 曲家のキダ・タローさんが亡くなった。 93歳。何も知らない異国 の方が聞けば大阪あたりの民謡と勘違いされる…ことはないかもし れないが、時代を超えて広く浸透し、愛されたのは確かである▼覚 えやすく、高度成長期にマッチした朗らかな曲調。当時の子どもは よく歌った。商品名を曲に乗せるのが巧みで名を売りたいスポンサ ーには頼りになる人だったはずだ▼〈アリマヒョウエノコウヨウカ クヘ〉。昔、兵庫出身の友人がよく口にしていた。聞き慣れぬ文句 に民謡か何かかと尋ねて恥をかいた。関西では有名な老舗旅館のC М曲である▼漢字だと「有馬兵衛の向陽閣へ」。わずか3秒少々の 曲に場所と旅館名と誘い文句の「へ」まで入っている。これも「浪 花のモーツアルト」の名人芸である。
2024.05.19
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中日春秋 (書写) 国策も民を守りて清和かな 中山道大湫宿は江戸日本橋から数えて 47番目の宿。現在の岐阜 県瑞浪市大湫町に当時の面影が残る▼旧宿場で語り継がれる出来事 は1861年、徳川 14代将軍家茂に嫁ぐ皇女和宮らの宿泊である。京 からの一行は約5千人。宿場に召集された人馬は2万8千人と820 頭に上った。4日間にわたって大湫宿に泊まったという比類なき大 行列である▼53年のペリー来航以来、世は騒がしくなった。外敵と 向きあうため朝廷と幕府が団結しようと、別に婚約者がいた和宮を 将軍家に嫁がせることに。国策たる結婚である▼現代の国策たるリ ニア中央新幹線が地下を通過する予定の旧大湫宿で、井戸やため池 の水位低下が相次いでいる。昔、旅人も飲んだ古い井戸も枯れたと 聞く。リニア建設工事の影響らしい▼JR東海は代替水源となる深 い井戸を掘り、トンネル掘削を一定程度進めてから工事を中断して 詳しい原因を調べるというが、水位低下が見つかったのは2月。最 近になって問題が報じられてから、バタバタと対策が示されたよう にも映り「対応が遅い」といった声が地元で聞こえる。喫緊の課題 は不信解消か▼国難を前に、江戸で生きる決意をした和宮の歌は知 られる。「惜しまじな君と民とのためならば 身は武蔵野の露と消 ゆとも」。民らのため惜しむものなどない―。古今を問わず民の心 を捉えるのは、そんな態度だろう。
2024.05.18
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中日春秋 (書写) 千枚田輪島に田植悲願かな 日本人を「米食民族」と呼ぶことがあるが、むしろ「米食悲願民 族」と呼ぶのが正しい。稲作文化に詳しい渡部忠世さんが著書で語 っていた。長い歴史で皆が常に米を食べられる時代は最近に限られ る。民は長く、もっと食べたいと渇望してきたという▼なるほど米 は年貢であり、武士への給料であり、権力の基盤であったが、農家 でも白米は特別な日のごちそうだったと聞く。一回でも多く食べた いと願う私たちの祖先は可能な限り田を開いた。山の斜面の棚田は 、日本人の米への執着の象徴らしい▼奥能登・輪島の日本海沿いの 棚田「白米千枚田」で田植えが始まった。地震で亀裂が入るなどし たが、1004枚のうち被災を免れたり修復したりした約120枚で植え る▼作業をする地元有志団体の代表は田植え開始の式でマイクを握 ると、途中で言葉を詰まらせた。寛永期に用水が開かれたという千 枚田。今年も何とか伝統をつなぎ、思いがこみ上げたか▼千枚田に 限らず奥能登の田の被害は大きいが、今年は無理でも来年はと修復 に励む農家がいる。米への執着が絶えぬ人の存在に希望を見出した くなる▼渡部さんの本によると昔、海を望む佐渡の棚田を守る老人 は「田植えの日は酒や餅などを供え、田を開いた知る限りの先祖の 名を空と海に向かって叫ぶ」と語ったという。奥能登のご先祖様た ちも見てくれているだろうか。
2024.05.17
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中日春秋 (書写) 平和の日今更ながら聖五月 名古屋出身の18歳の特攻隊員服部武雄少尉が鹿児島・知覧を飛び 立ち、帰らぬ人となったのは1945年5月25日。 23日に家族に書い た遺書を知覧特攻平和会館の展示で以前、読んだ▼出撃間近になっ たと伝え、こうつづる。「知覧にて名古屋から帰った人の話を聞い たのですが、熱田神宮名古屋城天守閣は焼けてしまったとの事さぞ かし我家も焼けてしまった事でせう。此の仇は此の武雄が討って見 せます」▼熱田神宮はこの年の 3月12日、5月17日に被災し新聞 も伝えた。名古屋が広く襲われ天守閣焼失に至る空襲は5月14日。 衝撃ゆえ遺書で触れたのだろう▼同じ10代の高校生の願いから名古 屋市に生まれた5月14日の「なごや平和の日」が一昨日、制定後初 めてその日を迎え式典があった。3年余で60回超の名古屋空襲の犠 牲者を天守閣が焼けた日に悼む趣旨で条例案は今年3月、議会で可 決された。名古屋の東邦高校の生徒たちが約10年前から制定を求め る運動をしてきた▼前身の東邦商業高校の生徒・教員計20人が44年 12月13日、勤労動員中の軍需工場で空襲の犠牲に。未来のある若者 も落命した戦争に思いをはせる日を、今の同世代が求めたことが尊 い▼服部少尉に遺書はこう結ばれる。「御両親様一同も元気で暮さ れます様に、健康を祈って居ります。さようなら」。非情な別れに 胸をかきむしる日々は繰り返すまい。
2024.05.16
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中日春秋 (書写) コンビニや便利すぎても更衣 村田沙耶香さんの小説『コンビニ人間』は8年前の芥川賞受賞作 で、就職も結婚もせずコンビニでアルバイトをする36歳女性が主人 公。自身の経験をいかし書いた▼主人公は18年前の開店時から勤め 、仕える店長は8人目。開店時の他の店員も既にいない。気が利き 、杖をつく女性常連客が腰をかがめ下段の商品に手を伸ばしている と素早く代わりに取る。店は人手不足で、ベトナム人のダットくん もレジを打つ▼高齢者を含む単身者や共働き世帯らを支え外国人も 働くコンビニ。日本に誕生し今日で50年になる。最初の店は東京・ 豊洲のセブンーイレブン▼おにぎりや弁当が人気で公共料金の支払 いもできるコンビニだが、主要6社で24時間営業をしない店は1割 超という。人口減少時代。夜間需要が減った地域もあると聞く。セ ルフレジは増えた。コンビニに関わる人間は減ってゆくかもしれな い▼小説で先の女性常連客に「ここは変わらないわね」と言われた 主人公はこう思う。「店長も、店員も、割り箸も、スプーンも、制 服も、小銭も、バーコードを通した牛乳も卵も、それを入れるビニ ール袋も、オープンした当初のものはもうほとんど店にない。ずっ とあるけど、少しずつ入れ替わっている。それが『変わらない』と いうことなのかもしれない」▼変わるコンビニは50年後も、変わら ず頼りにされているだろうか。
2024.05.15
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中日春秋 (書写) オーロラの脅威忘れて夏きざす 「オーロラに向かい口笛を吹くと、オーロラが空から降りてきて さらわれる」。オーロラがよく出る北極圏には古くから、子にそう 注意する住民がいるという▼伝承によると、天界で精霊たちがセイ ウチの頭蓋骨を蹴って遊ぶ姿が地上の人間にほオーロラに見える。 ヒューヒューなどと聞こえる音は精霊が駆ける音で、外に 1人でい る時に口笛で返事をしたらオーロラの光が近づいてくるらしい。自 然への畏怖を感じさせる子への言いつけである(赤祖父俊一『オー ロラ その謎と魅力』)▼音まで聞こえたかは知らぬが、日本など 普段は現れない世界の低緯度地域でオーロラが観測された。太陽の 表面で大規模な爆発現象「太陽フレア」が起き地球の磁場が乱れた せいらしい▼天体ショーは美しくとも、磁場の乱れで数日、人工衛 星や衛星利用測位システム(GPS)に障害が出る恐れがある点は 心配▼今回は大丈夫でも太陽フレアはまた起こる。最悪、携帯電話 は使えず、レーダーに支障が出て飛行機は飛ばず、電力関連装置の 誤作動で広く停電する恐れもあるという。宇宙を開発し高度に文明 化したゆえ口笛を吹かずとも災いを招くらしい▼昔、欧米の低緯度 地域にオーロラが出ると民は世界の終わりだと驚き、教会は祈る人 々であふれた。精霊が存在するかはともかく天は時に、人間は万能 にあらずと警告するのかもしれない。
2024.05.14
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中日春秋 (書写) 休刊日母の日過ぎて甘えおり 新聞休刊日につき、今日の「中日春秋丸写し」はありません。
2024.05.13
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中日春秋 (書写) 終結に原爆投下溝浚 歴史的な世論調査の結果がある。 1945年8月、米ギャラップ社 による調査で、米国民に広島、長崎で原子爆弾が使用されたことの 是非を尋ねている。原爆投下直後の調査である▼結果は容認する人 85%、容認しない人 10%。ほとんどが容認した。戦争を早期に終 結させるためという当時のトルーマン大統領の説明が効いたか▼時 代の経過とともに原爆の非人道性が認識され、原爆投下を容認する 比率はかなり減ったそうだが、「本音」では今もさほど変わってい ないのか。オースティン米国防長官とブラウン総合参謀本部議長。 原爆投下が「世界大戦を終わらせた」との見解を示した▼上川陽子 外相が米側に抗議したが、当然である。数十万人の命を奪い、大き な災危を生んだ現実に目をつむり、原爆投下の正当性のみを語る言 葉が悲しい▼恐ろしいのはこうした考え方が45年ではなく今も利用 されようとしていることか。統合参謀本部議長に質問し、その言葉 を引き出したのは共和党のグラム上院議員。パレスチナ自治区ガザ での戦いを終わらせるため、批判はあろうと米国はイスラエルへの 武器支援をやめてはならない―。そう主張したくて、原爆投下の正 当性を政府側に言わせたかったらしい▼市民の命の重さを無視した 議論にうろたえる。広島、長崎、ガザ。どんな理屈をこしらえよう と奪われて構わぬ命など一つもない。
2024.05.12
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中日春秋 (書写) 警告は慎重であれ聖五月 サッカーの警告・イエローカードは何枚かたまると次の試合に出 られない。誕生の契機は、1966 年ワールドカップ(W杯)準々決 勝イングランド―アルゼンチン戦という▼ドイツ人主審がアルゼン チン選手にドイツ語で退場を告げたが、選手は言葉が通じないこと を理由に拒んだ。最後は応じるも審判の権威は傷ついた。明確に意 図を伝えるため、信号をヒントにイエローカードと退場を命じるレ ッドカードが考案された▼沖縄の県立高校には校則違反の回数に応 じ段階的に生徒を処分する「イエローカード制度」があると沖縄紙 で知り驚いた。教師から理不尽に叱責された生徒が3年前に死を選 んだ高校では違反1回目は注意、2回目は反省文、3回目は日記指 導5日間と保護者呼び出しなど、4回目は訓告、5回目は停学…▼ 弁護士ら外部組織が生徒がものを言いにくい不寛容な制度と指摘し た。この高校は廃したが、一部高校に残り県教育長は廃止も検討す るという。確かに権威主義的にすぎる▼志あるサッカーの審判は語 学を学び、選手との会話を厭わず、カードに頼らず試合を御する。 Jリーグで笛を吹き、カード乱発で荒れた試合にした苦い経験もあ る家本政明さんは「審判は最終決定者である以上絶対なんだけど、 絶対権力者とは違う」と著書で語る▼誰かが威張るだけではうまく いかないのは、学校も同じだろう。
2024.05.11
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中日春秋 (書写) ナパーム弾少女の写真聖五月 ベトナム戦争時、ナパーム弾の誤爆で服を焼かれ、裸で逃げる9 歳の少女の写真が撮られ、優れた報道を称えるピュリツァー賞に選 ばれた。世界の反戦機運を高めた1枚である▼撮影はベトナム出身 の 21歳のAP通信写真記者ニック・ウト氏。 少女はやけどがひ どく、撮影をやめバンに乗せ病院へ。命は助かった▼ニック氏には APの写真記者の兄がいたが、戦争取材中に27歳で死亡。遺志を継 ぎ同じ道に進んだ(藤えりか)『「ナパーム弾の少女」五〇年の物 語』)▼今年のピュリツァー賞の特別賞に、特定の社や個人ではな くパレスチナ自治区ガザ情勢を取材する全ての記者らが選ばれた。 「悲惨な状況下での勇敢な功績」があったという▼昨年12月配信の 共同通信ガザ通信員ハッサン・エスドゥーディー氏の手記でも状況 は分かる。20代。ガザで取材しエルサレム支局に伝える仕事で両親 や兄もガザにいる。「16階にあるオフィスの窓からは空爆の炎や黒 煙が見え、市民の泣き叫ぶ声が響く」。殉職した同業者もいる。さ らに数カ月たち状況は深刻化したことだろう▼ニック氏の兄は生前 、過酷な現実を写真で世界に伝えベトナムに平和を、と願った。ニ ック氏はナパーム弾の現場を撮った際に「この写真で、今度こそ戦 争を終わらせてほしい」と言われた気がしたという。ガザにはあと どれぐらい、写真や記事が必要なのだろう。
2024.05.10
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中日春秋 (書写) リニアにも我田引水薄暑かな 「我田引水」は自分の田に水を引き入れることから、自らの利益 となるようにひきつけて言ったり、行動したりすることをいう▼こ の四字熟語をもじったのが「我田引鉄」。政治家らが自分の地元に 鉄道を誘致することをいう。JR大船渡線はその代表例としてよく 知られる▼内陸部の岩手・一ノ関から太平洋側の宮城・気仙沼に向 けて延びる線路は途中、蛇行する。昔、二つの地域が衆院議員らを 動員して路線誘致にしのぎを削った結果、両地区とも走らせるべく あっちへこっちへと曲がりくねった。鉄道と政治の縁の深さを体現 する路線である▼リニア中央新幹線の建設の行方を左右する静岡県 知事選が今日、告示される。別件で失言した川勝平太氏の辞職に伴 う▼静岡県内は南アルプス山中を通過するのみで駅もできぬリニア を巡り、建設すれば大井川の水が減りかねないなどと県内着工を認 めなかった人の後任選び。品川―名古屋間の開業は当初掲げた2027 年が断念され、大幅に遅れる見通しになっただけに注目度は高い▼ 主な立候補予定者では、2人が水などの対策をとりつつ「推進」、 1人が「建設反対」と聞く。他県のリニア沿線には「なるべく早く 推進する人を」と願う人が多いかもしれないが、水への人々の思い を他県の人間が軽視してはそれこそ、我田引水であろう。「鉄」と 「水」を巡る議論の充実を祈る。
2024.05.09
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中日春秋 (書写) 地震後も太魯閣渓谷夏の風 鉄道を愛した紀行作家の宮脇俊三さんは44年前、初めて台湾を旅 した。著書『台湾鉄路千公里』によると途中、東部・花蓮の駅に夕 刻着くと日本語が堪能なタクシー運転手に呼び止められ「あした天 祥に行きますね」と迫られた。天祥は近くの景勝地・太魯閣渓谷の 中心。往復しようとの誘いである▼了承したが、太魯閣の前に朝、 花蓮ー花蓮港間の列車に乗ると告げると不安そうにし、花蓮港なら 私の車で行けばいいと訴えた▼旅の目的は鉄道というのはなかなか 理解されない。何度も「あした天祥に行きますね」と念を押され、 その夜、太魯閣の断崖に立って足がすくむ夢を見たという▼花蓮県 で震度6強を観測した台湾東部沖の地震発生から1か月が過ぎた。 発生時に多くの観光客が取り残された太魯閣渓谷は、今も土砂や岩 が道を塞いでいると伝えられる。余震が山を崩落する恐れもあるら しい。観光客を迎えられるのは相当先のようだ▼夜市がある花蓮も 閑散としていると聞く。タクシー運転手も頭を抱えているのだろう ▼宮脇さんは夢から覚めた朝、無事に目的の列車に乗った後、約束 した運転手の車で太魯閣を訪れ、狭い道を行く車内で手に汗を握る 。「いまだかって見たこともない深い谷である。谷は、これほど深 く切れ込めるものなのだろうか」と書いている。「あした行きます ね」と誘われる日が早く戻ることを。
2024.05.08
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中日春秋 (書写) 革命児世の中変える黄雀風 1969年にリビアに革命を起こしたカダフィ大佐はテント生活を続 け、外遊先のモスクワのクレムリンやパリのホテルでも設営した▼ 受け入れ国は迷惑でも、遊牧民出身の大佐にはテント生活が自然。 設置の是非はリビアの伝統を認めるか否かであり、大国への不服従 を旨とする大佐には譲れない話だった。宮殿に住み、石油を狙う欧 米に操られた王族を倒した69年の革命。大佐は2011年、反体制デ モが内戦状態を招いて権力の座を追われ、殺されたが、革命当初は 大衆に支持された▼同様に60年代に世に出て、テント公演を続け、 革命児と呼ばれた劇作家、唐十郎さんが亡くなった。既存の劇場を 向こうにまわし、各地に設けた「紅テント」で役者と客は一体にな った▼学生運動が盛んなころ。新宿の公園で無許可公演を強行し機 動隊に囲まれた。公演は独裁政権下の韓国や中東のパレスチナ難民 キャンプでも。選ぶ地が反骨の人らしい▼学生運動の時代が去って も俳優佐野史郎さんらを育て、野田秀樹さんら後進に影響を与えた 。唐さんが率いた劇団は今後もテント公演を続けるという。思いは 継がれる▼カダフィ時代のリビアにほ人々がテントを囲む革命礼賛 の絵が飾られ「テントは宮殿に勝った」と書いてあった。唐さんの テントには「勝った」といった過去形の表現は似合わぬか。恐らく 今後も世に何かを問い続ける。
2024.05.07
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中日春秋 (書写) 夏浅しピアニストの死音色何処 進化論のダーウィン、哲学者のルソー、ノーベル平和賞のマザー ・テレサ、短編小説のオー・ヘンリー、画家のエドワード・ホッパ ー…▼一つ道を志し、成功を夢見ながらもなかなか芽の出ない人に とっては励まされるリストかも知れない。この方々、いずれも世間 に評価されるようになったのは人生の半分を過ぎてからだそうだ。 苦労を耐え忍んだ末、遅くに咲く花もある▼この人の名もリストに 大きく加えておく。ピアニストのフジコ・ヘミングさんが亡くなっ た。92歳。世間の評判を取ったのは60代からである▼「長い人生 において辛いことは数え切れないほどありました」(『耳の中の記 憶』)。指揮者のバーンスタインに見いだされ、成功を目の前にし ながら風邪をこじらせ、聴力を一時的に失う。成功は遠のいた。苦 しい生活の中でも1日数時間の練習を欠かさなかったという。困難 にも歩き続ける。遅咲きの秘訣はそれなのだろう▼「機械的にでは なく、歌うように弾きなさい」。幼い日に師事したピアニストのレ オニード・クロイツァーの教え。歌うようなピアノはその人が波乱 の人生の中で味わった悲しみと喜びまで響かせていたのだろう。「 完璧じゃなくてもかまわない」。生きていくことを励ます音色だっ た▼絶望の日々にもネコを飼ってからは泣くことはなくなったそう だ。今、ネコに囲まれていらっしゃる。
2024.05.06
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中日春秋 (書写) こどもの日親の心配無限大 腰を痛めて近所の整形外科に駆け込む。夕方のことで、ずいぶん と混雑している▼小学生らしい子どもが目立つ。学校で転びでもし たか。親に連れられ、この時間に来たのだろう▼待合室。女の子を 連れたお母さんが小声で電話をしている。相手は家で待つ女の子の きょうだいのようだ。「○○ちゃんがけがをしてかわいそうだから 、晩ご飯はマクドナルドでもいい?」▼女の子の腕は折れていたら しい。「簡単に折れてしまうものですね」。お母さんが看護師さん と話している。腕の三角巾が痛々しいが、女の子の方はめったにな い経験に自慢げでもある。分かる、分かる。君、夜はマックらしい よ▼午後5時を過ぎて小学高学年の男の子がお母さんとやって来る 。お母さんのスーツ姿から察するに、子どもの急に会社からあわて て家に戻り、ここに来ているのだろう。気の毒に受付時間を過ぎて しまっている。別の病院へと向かっていく▼夕方の病院の待合室か らあふれる親の心配。〈うしろを振りむくと/親である/親のうしろ がその親である/ その親のそのまたうしろがまたその親の親である …〉。詩人、山之口貘の「喪のある景色」。地球上の歴史とは子を 案じる親とその親とそのまた親と果てしなく続く長い列なのだろう 。「こどもの日」に心配の絶えない親の列を思う。親なき身は病院 から1人でマクドナルドに向かう。
2024.05.05
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中日春秋 (書写) 糖尿病切断恐しみどりの日 近鉄、中日などで中継ぎ投手を務めた佐野慈紀さん(56)は人気 者。投球動作の途中でわざと帽子を落とし自身の薄毛を打者に見せ る「ぴっかり投法」を引退後のOB戦などで披露した▼近鉄時代、 仰木彬監督らに重宝され、中継ぎ初の1億円プレーヤーになった右 腕。先発や抑えと比べると地味だが、緊迫した場面で呼ばれ、自分 が抑えるか否かで試合の流れは変わる。「こんなに面白いポジショ ンはないな」と思い、ピンチで西鉄の清原和博選手ら強打者を抑え ると力が入ったという(澤宮優『中継ぎ投手 荒れたマウンドのエ ースたち』)▼懸命に振った右腕を失ったと知り、絶句した。佐野 さんが感染症の進行で右腕を切断する手術を受けたとブログで明か した▼昨春に重症下肢虚血と診断され右足中指を切断。入院するが 、後に心臓の病も判明し「糖尿病による影響は恐ろしい」とも書い ていた▼闘いに負けまいという思いはブログから伝わる。「右腕の 事は受け入れない気持ちと受け入れてる気持ちが交差してます。だ から目標をたてました。左投げでぴっかり投法をやります。皆様暫 くお待ち下さい」▼現役時代、ピンチで登板すると打者を横目で見 て「調子に乗るなよ」とつぶやいたという。完璧に封じ落胆した打 者の顔を見るのが喜び。内心「ざまーみろ」とほくそ笑んだ。同じ 言葉を病気に進呈する日を待ちたい。
2024.05.04
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中日春秋 (書写) 5月3日憲法記念日悩み大 海外渡航の自由は憲法22条2項が保障する。何人も、外国に移住 し、又は国籍を離脱する自由を侵されない―とあり、旅行も自由と 解される▼1964年まで観光目的の海外旅行が解禁されなかったのは 、戦後復興期の国内産業保護のため為替取引や貿易を制限したから 。国外での散財はご法度だった▼解禁時も1人年1回限り、外貨持 ち出しは上限500㌦とされた。1㌦=360円の固定相場制の時代。 大卒初任給は2万円程度なのに欧州17日間ツアーが1人70万円を超 え、庶民には高根の花だった▼今日は憲法記念日。連休も後半に入っ たが、海外旅行は近年にない円安で大変だ。先月29日には1㌦=16 0円台をつけた。旅にインスタント食品を持参する人もいると聞く。 昔みたいに国に命じられなくても節約は不可避らしい。超低金利政 策が招いた円安。恨むなら、相手は近年の政治だろうか▼旅行の歴 史を書いた白幡洋三郎氏の『旅行ノススメ』(中公新書)によると 、国家は国民の海外渡航を本能的に恐れるという。かって東ドイツ 国民は同じ共産圏のハンガリーがオーストリア国境を開放すると押 し寄せ、西ドイツへと逃れた。人流の圧力はベルリンの壁をも崩壊 させた▼自国の長短に気付くこともある渡航。国民が異国でカップ 麺をすすり、何かが間違っていないかと考えるのも、憲法が想定す るところなのだろう。
2024.05.03
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中日春秋 (書写) 卯月曇選挙妨害あらずして 明治15年、国会開設を求める自由民権運動の指導者、板垣退助は 遊説先の岐阜で暴漢に刺された。その際に言ったとされる有名な言 葉が「板垣死すとも自由は死せず」▼「吾死するとも自由は死せん 」と言ったのが「板垣死すとも―」に変わって定着したとの説明も ある。幸い一命をとりとめたが、大日本帝国憲法もないころで演説 はまさに命がけ。政府は集会条例などで言論を弾圧していた▼刃物 ではなく拡声器で演説が脅かされたとの訴えが相次いだ。先の衆院 東京15区補選で、ある陣営が他の候補たちの演説場所で大音量で批 判などを繰り返し、追いかけ回したりもした▼「表現の自由の範囲 内での批判」と説明するが、悪目立ち狙いにも映り、度が過ぎてい る。演説が聞こえなかった人がおり、妨害を恐れ演説場所の事前公 表をやめた陣営もある▼仕掛けた側は別の選挙にも出ると聞く。再 発防止に知恵を絞りたいが、やられた側が怒りにかられ安直に規制 強化に走るのも避けたい。街頭演説はヤジも含め尊重されるべき言 論。法で何かを排除するなら、慎重を期したい▼評論家草森紳一氏 の随筆『板垣退助の涙』によると、板垣は「冷情」と「熱情」を併 せ持つ重要性を説いていた。冷情は判断を誤らぬ理性。熱情は事を 起こすのに必要だが、見方が偏る欠点もあると考えていたという。 自由を殺さぬためには冷静さもいる。
2024.05.02
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中日春秋 (書写) ウェディングドレス着たさにレース編む ウェディングドレスを日本に定着させたデザイナー桂由美さんは 東京・小岩生まれ。父は役所勤め、母は洋裁を教える仕事で忙しく 、幼いころは シンデレラなどの物語を読み、空想の世界に浸った▼ 高等女学校時代は戦時色が強まり、海軍にあこがれる。「なぜ女性 には特攻隊がないのか。ぜひ認めてほしい」と海軍大臣あてに血判 状を送ったという(『ブライダル革命 桂由美』読売新聞社)▼軍 国主義の浸透が分かるが、納得できないと閣僚にも臆せず書状を献 上するあたり、向こう気の強さを感じる。訃報に接した。なりたい なら、物語のお姫様のようにもなれる―。女性の思いに寄り添い、 和服一辺倒の結婚式を変革した人の旅立ちである▼仕事を始めた19 60年代、ウェディングドレス着用率は3%。普及を図るべく百貨店 にサロン設置を提案したら、売れても着物の売り上げの1割と断ら れ、自分で店を開いた▼女性がドレスを望んでも、和装が当然と思 う姑らの反対で後にキャンセルになることも多々。和服を憎んだの でなく、女性の選択肢を広げたいと願ったが、風習とはかくも難敵 だった▼9年前、産経新聞で「50年のキャリアで一番良かったのは 今。ようやく日本の女性が自分らしいウェディングを挙げられるよ になった」と語っていた。優先されるのは「家」から「個」へ。移 りゆく時代を辛抱強く駆けた。
2024.05.01
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中日春秋 (書写) 裏金の解決なくて四月尽 福島県二本松市の霞ケ城跡に二本松藩主が藩主への戒めを石に刻 ませた「戒石銘」がある。完成は18世紀。「爾の俸 爾の禄は 民 の膏民の脂なり 下民は虐げ易きも 上天は欺き難し」と読む漢文 で「武士の俸給は民の汗と脂の結晶。謝意を忘れ虐げれば、天罰が あるだろう」との趣旨という▼二本松商工会議所が裏金事件があっ た自民党に襟を正してもらおうと約2週間前、岸田首相を官邸に訪 ね、碑文を刻んだ石盤などを贈呈。非公開だが、首相は碑文の説明 にうなずいていたという出席者の話を東北の新聞、河北新報が伝え た▼天罰と言えば大仰だが、報いを受けたのだろう。衆院3補欠選 挙で自民は二つの不戦敗を含め全敗した。政治資金を裏金にした議 員は民を虐げる気はなかったと言うのだろうが、公人が金で道に反 すると当然、民の怒りを買う▼首相が視野に入れていたらしい早期 衆院解散は難しくなった。負けそうな選挙は先に延ばしたいのが議 員の情。秋の党総裁選で党首交代を願う向きが増えるかもしれぬ▼ 19世紀の戊辰戦争で二本松藩は不利を承知で新政府軍に降伏せず、 散った。戦闘前、家臣らは、嫡子がない当時の藩主に何かあれば藩 が絶えるとして「皆と一緒に死ぬ」と言う藩主を泣いて説得し、城 を脱出させたという▼窮地でも首領以下が心を通わせる―。古今を 問わず、そう簡単なことではない。
2024.04.30
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中日春秋 (書写) ペットには躾が大事春嵐 『怒りの葡萄』などのノーベル賞作家、ジョン・スタインベック は犬を愛した作家だが、犬に泣かされたこともある▼1936年のこと 。当時飼っていたセッターの幼犬トビーを一晩、家の中でひとりき りにして外出したらしい。帰宅後、発見したのは大量の紙吹雪。執 筆中だった『二十日鼠と人間』の初稿をトビーが食べ、破いてしま った。コピーはなく、2カ月がかりの仕事が台無しになっては大作 家も頭を抱えたか▼犬を飼った人ならよくご存じだろう。紙を破く なんぞ朝飯前。何が楽しいのか、メガネを壊し、ストッキングをほ おばり、椅子の脚を傷だらけにする。思わぬことの連続である。犬 や猫の行動が原因となる火災も毎年、発生しているそうだ▼製品評 価技術基盤機構(NIТE)によると勝手にガスこんろの操作ボタン に触れて発火するケースが報告されている。電気製品の上にオシッ コをかけてしまい、ショートさせ発火ということもあるそうだ。油 断ならない▼「わが友なる子犬は(初稿が不満で)批判精神から食 べたのかもしれぬ」。スタインベックはトビーを少し叱った後で許 し、原稿を書き直したそうだが、火災となれば大目に見るわけにも いくまい▼人間の方でよく見張るしかなかろう。ペットが火を出す 危険はないか、家の中を再点検したい。何も分からない彼らを火災 の「下手人」にしたくはない。
2024.04.29
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中日春秋 (書写) 丁半のトランプ詣で蜃気楼 丁半バクチの下手な男の小咄がある。この男が丁(偶数)と賭け れば半(奇数)、半と賭ければ丁と出る▼腹を立てた男はヤケにな って丁と半の両方に賭ける。壺を開けるとサイコロが二つ重なって 勝負なし…▼品のないたとえだが、丁と半の両方に賭けるというの は外交の世界では珍しいことではないらしい。「賭場」は米大統領 選である。トランプさんの勝利にも賭けたか。自民党の麻生太郎副 総裁が大統領選挙に出馬しているトランプ前大統領と約1時間会談 したそうだ▼岸田政権は再選を目指すバイデン大統領と良好な関係 にあるが、選挙戦がどう転ぶかが見えず、トランプさんの勝利の可 能性も見据えての会談と伝わる。日本としてはバイデンさんにもそ のライバルのトランプさんにも賭けておこうというわけである▼英 国なども既に「トランプ詣で」を済ませたそうだ。日米同盟を外交 の基軸とする日本としては「次期大統領」との親密な関係は欠かせ ないのは理解するにしても丁半両方とはいささか品位には欠けまい か▼岸田さんは先の訪米でバイデンさんから歓迎を受けたばかりと いうのもきまりの悪い話だろう。麻生・トランプ会談を日本政府は 「一議員の訪米で政府は無関係」と説明するが、それでバイデン政 権が笑って納得してくれるか。バイデン再選の場合、先方にわだか まりも残りそうなバクチにも見える。
2024.04.28
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中日春秋 (書写) 「消滅」は悲しからずや落花なほ 岐阜県白鳥町(現郡上市)に生まれ「奥美濃の桜守」といわれた 佐藤良二さんの生涯は映画にもなった▼かつて名古屋から白鳥を経 て金沢まで結んだ国鉄バス名金線の車掌。病で早世するまで自費で 路線沿いに桜の苗木約2千本を植えた▼始めたのは、白鳥の北の飛 騨の山あいに昭和35年に完成した御母衣ダムのほとりで、ダムに沈 んだ集落から移された桜が花を咲かせたことに感動したため。花は、 電源開発のために故郷を捨てざるを得なかった住民を慰めた。山村 の悲しみがあったから、奥美濃の桜守も生まれた▼佐藤さんを称え 名古屋から金沢まで250㌔を走るウルトラマラソン「さくら道国際 ネイチャーラン」が先日、30年の歴史に幕を下ろした。最後の大会 は名古屋をスタートし、佐藤さんの故郷、白鳥がゴール▼白鳥など の住民がボランティアで運営を支えてきたが、高齢化し人手確保が 困難になったことが閉幕の理由という。先に民間組織が、人口減少 が進んで自治体運営がたちゆかなくなる「消滅」の可能性があると みなした744市町村を公表したが、郡上市も入っている。御母衣ダ ムの悲しみもあった昭和より、日本の山里は苦しくなった感がある ▼佐藤さんは「花を見る心がひとつになって、人々が仲よく暮らせ るように」と願っていた。それをこれからも続けるには何が必要か 。試行錯誤を続けるほかない。
2024.04.27
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中日春秋 (書写) ハラスメント昭和のボスじゃ朧なり 戦後間もなく、文部省が子どもら向けに『民主主義』と題した教 科書を作った。復刻版を読むと民主主義は単なる政治の制度ではな く、民主主義の根本精神たる「人間の尊重」が大事だと教えている ▼「人間の尊さを知る人は、自分の信念を曲げたり、ボスの口車に 乗せられたりしてはならないと思うであろう」。信念を曲げ理不尽 な命に従うことは民主主義の対極のようだ▼「民主主義は、家庭の 中にもあるし、村や町にもある。それは、政治の原理であると同時 に、経済の原理であり、教育の精神であり、社会の全般に行きわた って行くべき人間の共同生活の根本のあり方である」▼そこに民主 主義はあったのか。愛知県東郷町長、岐阜県池田町長が職員にハラ スメントを繰り返したとそれぞれ第三者委員会に設定され、辞職を 決めた。前者は「死ね」などと暴言を浴びせるなどし、後者は頻繁 に女子職員の体を触った▼両者とも町長に対する職員の委縮を各第 三者委に指摘された。ボスにものを言えぬ空気。副町長以下は事実 上無力で人の尊厳は損なわれ続けた。選挙の洗礼を受けた人も無謬 にあらず。トップが誤った時にそれをただせる組織をどうつくるの か。議会も知恵を絞りたい▼先の教科書は「人間の生活の中に実現 された民主主義のみが、ほんとうの民主主義」と唱える。職場の風 通しの良さも民主主義の体現である。
2024.04.26
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中日春秋 (書写) 夏近し栄冠は君に輝く 〈雲はわき 光あふれて〉。ご存じ、夏の高校野球の大会歌『栄 冠は君に輝く』の歌いだしである。いかにも夏らしい▼作詞は加賀 大作。30代で公募に応じ、採用された。石川県根上町(現能美市) の人で短歌をたしなみ、作家志望だったという▼家庭の事情により 進学をあきらめ、工場で働いていた16歳の時、草野球で負ったけが が悪化して右の膝から下を切断している。詞の2番の冒頭には〈風 をうち 大地をけりて〉とあるが、自分で地をけるのは難しい。夏 に躍動する若者を賛えた詞の作者は、壮健さを損なう悲しみを知る 人でもあった(手束仁『ああ栄冠は君に輝く』)▼球児の体を守る ための新たな試みである。今年の夏の甲子園は暑さ対策のため、最 も気温が上がる時間帯を避けようと大会初日から3日目まで1日3 試合を午前と夕方に分ける「2部制」で行うという。効果や課題を 見極める試験的な意味合いが強いようだ▼近年の酷暑は耐えがたく 、雲がわき光あふれる日中はスタンドで応援する生徒らもつらそう だ。熱中症らしい症状で足がつる選手が続出した試合もあった。取 り返しのつかぬことは起こせない。2部制の試みは自然な流れだろ う▼『栄冠は君に輝く』の3番は冒頭から、こうつづられる。〈空 をきる たまのいのちに かようもの 美しく におえる健康〉。 最も大切なものは何なのかがわかる。
2024.04.25
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中日春秋 (書写) 春潮や忍びの感知潜水艦 戦国の世では、夜は無法者が跋扈し、民が出歩くことは厳しく制 限された。越後の上杉景勝は、夜間の通行人に提灯の点灯を義務付 け、違反者は殺しても構わないと告げたという▼夜は戦闘の時間帯 でもあり、敵を襲う夜討ちは各地で頻繁にあった。草に伏せ敵の様 子を探ったり、待ち伏せ攻撃したりする「忍び」らが活躍した▼忍 びらは敵の城塞などに忍び寄り殺害、放火、略奪などを敢行。忍び 同士が遭遇し戦闘になることもあった(平山優『戦国の忍び』)▼ 海中に潜む現在の忍びともいうべき敵潜水艦に対処する、海上自衛 隊のヘリコプター2機が太平洋上で夜間訓練中、墜落した。衝突し た可能性が高いという。死者、行方不明者がいる。ご家族の心痛を 思う▼海に囲まれた日本。中国の軍事的台頭もあって、潜水艦対応 は海自の最重要任務とされる。相手は昼夜を問わず活動するため視 界が悪く危険な夜の訓練も重要というが、海自ヘリの夜間訓練の事 故は3年前や7年前にも。7年前は死者が出た。北朝鮮のミサイル 発射への対応などに追われ、ヘリ訓練が不足しているとの指摘もあ る。組織が疲弊しているのか。原因や背景を突き止めたい▼敵陣に 侵入して破壊工作を行う戦国時代の忍びの狙いは、敵を疲弊させ兵 などを消耗させることだったという。忍びに対応する訓練の段階で 、人員を失い消耗するのは避けたい。
2024.04.24
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中日春秋 (書写) ネコバスや乗車拒否なく風光る ジブリ映画の『となりのトトロ』は、妹のメイが迷子になりサツ キがトトロに助けを求めるあたりが佳境。ネコバスが呼ばれ、それ に乗りサツキは捜しに行く▼映画製作に加わった木原浩勝さんは『 となりのトトロ』ならぬ『となりのネコバス』になりかねないほど 、最後にネコバスが活躍しすぎではと感じ公開前、宮崎駿監督に話 した▼監督は変更も検討したが、結局そのままで落ち着き、自身も 納得したと木原さんが著書で明かす。トトロを食うほどの活躍でネ コバスは人気を博した▼愛知県長久手市の愛・地球博記念公園でネ コバスをイメージした車両が盲導犬利用者の乗車を断っていた。ジ ブリパークの各エリアが点在する公園の通路で運行を始めた3月16 日の話。側面に囲いがない車両で盲導犬が飛び出すことなどを危惧 したが、後に福祉関係者に聞くと心配ないと指摘された。公園を管 理する県と運行会社は準備不足だったと謝り、以後の乗車受け入れ を決めたという▼断られた方の心中を察するが、速やかな是正は救 い。今日、盲導犬利用者や福祉関係者らを招いて乗ってもらい運行 の際の留意点を聞く。前向きな取り組みと思える▼映画のネコバス はいかにもネコの体らしく、サツキが座るとふんわり柔らかかった 。公園の車両もフワフワ感ある席が売り。それを分け隔てなく楽し める、優しい乗り物になればいい。
2024.04.23
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中日春秋 (書写) 黄金の茶碗の行方風車 茶店で使われていたごく普通の茶碗。不思議なことに毛ほどの穴 もひびもないのに中の水がぽたぽた漏れ出てくる▼もちろん、ただ 同然の品なのだが、この茶碗がひょんなことから世間の評判となり 、果ては高貴な方がその不思議さに「はてな」と名を授けたことで 、千両の値がつく。落語の「はてなの茶碗」である▼別の茶碗の話 である。この茶碗、水がもれないどころか立派な純金製で、その値 は1040万円。東京のデパートで開かれていた「大黄金展」の会場か ら高価な抹茶茶碗が盗まれた先日の事件である▼容疑者はまもなく 逮捕されたものの、こちらの茶碗にも不思議の「はてな」がついて 回るようだ。大きな「はてな」は警備の甘さか。プラスチック製の ケースで覆っているだけだったそうで、これなら簡単に持ち出せた だろう▼「はてな」は続く。容疑者はその日のうちに古物買い取り 店で180万円で売却。ずいぶん安く買いたたかれたのも驚きだが、 この店はやはり同じ日に別の店に約480万円で転売している▼事件 から数時間後にはテレビなどで大きく報じられていたにもかかわら ら、盗品が店から店へとすいすい転売されていくのがどうにも不思 議である。警視庁で転売の経緯なども調べているそうだが、あの落 語の茶碗とは大違いで、事件の経過に大きな「穴」や「ひび」のよ うなものを感じてしまう。
2024.04.22
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中日春秋 (書写) 古書なれど国宝ならば春麗 字は正確、書くのも早いが、決してうまい筆ではない―。これが 当時の評価だそうだ。半分ほめられ、半分けなされる筆の主はどな たかといえば鎌倉時代を代表する歌人、藤原定家である▼なんでも 、自分でもあまりうまい字とは思っていなかったようで、自分の字 を「鬼」とまで評していたという▼その定家の書風が室町末期から 江戸時代にかけて「定家様」として評判になる。当時の人には親し みやすく味のある筆に映ったようで、徳川家康や大名茶人の小堀遠 州も「定家様」を使ったというから、今でいう人気の「フォント」 だったのだろう▼見つかった書は定家の直筆であると判断できたそ うだ。定家につながる冷泉家(京都市)が保管していた古今和歌集 の注釈書「顕注密勘」の原本である。 1221年にまとめられたとい うから、ざっと800年前の書が大切に継承されてきたことがありが たい。同じ書の写本が重要文化財に指定されているから原本となれ ばその価値は国宝級か▼「定家様」の魅力は一字一字が明確で堂々 としていることだそうだ。かなの連綿も少ない。発見された書の写 真にも、その特徴が見て取れる▼定家がこうした字を使いだしたの は読みやすさ、写しやすさのためではないかという説がある。とす れば後に読む人のことを思っての心やさしき筆跡か。見つかった書 も、後の人の大切な宝となる。
2024.04.21
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中日春秋 (書写) 贈り物賢者なくとも石鹸玉 若く貧しい夫婦はそれぞれひそかに相手へのクリスマスプレゼン トを買う。夫は自分の時計を売った金で櫛を、妻は自分の美しい髪 を切って売り時計に合う鎖を。オー・ヘンリーの有名な短編『賢者 の贈りもの』である▼行動に移す前、妻は貧しさに泣き「人生は『 むせび泣き』と『すすり泣き』と『微笑み』から成り立っている」 と考える。「なかでは『すすり泣き』がいちばん多くを占めている 」とも。すすり泣きはむせび泣きほど激しくはないが、悲しいこと には変わりない。人生は思うにまかせない▼独り泣いた日も多かっ ただろうか。バドミントン男子シングルスの世界選手権元覇者、桃 田賢斗選手(29)が日本代表からの引退を表明した。世界一に挑む には体力などに限界を感じたという▼賭博行為で出場停止処分を受 け、2016年リオデジャネイロ五輪出場を逃した。後に世界ランキン グ1位になるが、20年の交通事故で重傷を負い視力にも影響が出た 。金メダルが期待された21年の東京五輪は1次リーグ敗退。非情な 試練が多かった▼出場停止が明け「応援してもらえない」と覚悟し て出た大会の大声援が思い出という。逆境の若者を見捨てなかった 人たち。失ったものもあるが、得られたものもあった▼『賢者の贈 りもの』は大切なのは相手を思う心だと教える。挫折を知る元王者 にも確かに心通じ合う人々がいた。
2024.04.20
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中日春秋 (書写) 地震国備えあらばと田打する 『日本書紀』によると、684年に今の四国が揺れた地震があった 。「国挙りて男女叫び唱ひて、不知東西ひぬ。則ち山崩れ河涌く」 。阿鼻叫喚の様相となり山は崩れ、川の水はわきだしたようだ▼「 伊予湯泉、没れて出でず」。松山の道後温泉のことで温泉の湧出が 止まったらしい。「土佐国の田菀五十余万頃、没れて海と為る」。 五十万頃は約1200㌶で土佐の国、今の高知県でそれだけの田畑が 地盤沈下で海に沈んだ▼死傷者多数とも伝え、被害状況から記録に 残る最古の南海トラフ巨大地震とされる。後に白鳳大地震と名付け られた(伊藤和明『地震と噴火の日本史』)▼一昨日の夜、愛媛県 や高知県で震度6弱を観測した。負傷者が出て水道管の破裂や落石 なども伝えられる。お見舞い申しあげる▼白鳳大地震級の被害では なさそうだが、おおむね 100~150年間隔で起きるとされる南海ト ラフ巨大地震の想定震源域内で起きた。前回から約80年が経過。気 象庁は「この地震によって直接、南海トラフ巨大地震発生の可能性 が高まったとは言えない」と語っており、過度の心配は避けたいが 、備えを吟味する機とはしたい▼白鳳大地震に関し日本書紀は「古 老の曰はく、『是の如く地動ること、未だ曽より有らず』といふ」 とも伝えている。当時は未曽有の災い。日本人はその後幾度も経験 し、泣いた。無駄にすまい。
2024.04.19
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中日春秋 (書写) うまい話に載らずとも春の夢 夫と同じく息子には一流大学から一流企業に入ってほしいと願う 母親がいた。会社社長で金と女性にしか興味がないが、いずれ選挙 に出る野心を胸にPТA会長をやる父親がいた。子どもは大人の言 うことを聞いて当然と語る教頭や、体罰を辞さぬ教師もいた▼管理 教育の学校や親に反旗を翻し、中学生たちが廃工場に立てこもる宗 田理さんの小説『ぼくらの七日間戦争』で描かれた「敵役」の一部 である▼ 1985年の刊行で作中の親は学生運動をした世代。体制打 倒を叫んだのに子には従順さを求めるのかと、その世代を挑発して やろうと書いたら、子の側に受けたという▼宗田さんが亡くなった 。子どもたちが知恵を絞って大人を懲らしめる「ぼくら」シリーズ は先の作品以降約50作に上り、発行部数は累計2千万部超。プール に悪い大人と寒天を入れ「人間羊羹」にするなど、描く闘いは楽し げだった▼17歳で終戦を迎えると「国のために死ね」と言っていた 大人たちが「夢を持て」などと態度を変えた。大人の言いなりにな るなと訴える創作の原点という▼『ぼくらの七日間戦争』では、廃 工場に偶然いた老人が立てこもる中学生を助ける。元兵士で理不尽 な命に従った時代を語り、時計の針を戻すなと、こう諭す。「えら い奴が、立派なことを言うときは、気をつけた方がいい」。楽しく 、深い話だから子どもに読まれた。
2024.04.18
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中日春秋 (書写) 脈々と建設進む蜃気楼 先月、産経新聞が大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミ ャク」がインタビューに応じたと1面などに記事を載せていた▼ミ ャクミャクは基本的にジェスチャーで意思表示をしており、話した り筆談したりはしないため、万博協会の職員を通じて意思疎通を図 ったという。海外パビリオンの準備の遅れを聞くと「きっと大丈夫 」と答えたそうな。関西で人気者らしいが、半分シャレで載せたの だろうか▼ミャクミャクが初めて「こんにちは」と話す動画が、万 博開幕まで1年となった今月13日のイベントで公開された。今後、 徐々に言葉を覚えていくとか。盛り上げを狙う仕掛けだろうが、一 方で課題は山積する▼万博の花形で各国が独自に設計・建設するパ ビリオン「タイプA」は資材価格高騰などで契約が難航し一部は請 負業者も未定。当初予定した約 60カ国は40前後に減りそうで、協 会が建設する簡素なタイプにも変更せず万博から撤退する国も出る と予測する報道もある▼会場建設費は当初の 1.9倍になり、さらに 増える懸念も。人手不足でシャトルバスの運転手確保も容易でない という。流動的要素ばかりが目立つ現状である▼ミャクミャクは正 体不明の生き物。分かれたり増えたりする赤色の細胞と、青色の清 い水でできており、いろいろな形に姿を変えられるという。姿形が 定まらなぬ万博を表している感もある。
2024.04.17
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中日春秋 (書写) 中東のいざこざ困るフェーンかな 不倶戴天。俱に天を戴かず、つまり一緒に天下を生きない意で、 不俱戴天の敵は、それほど憎い敵をいう▼中国の礼記にある「父の 讎は与に共に天を戴かず。兄弟の讎は兵に反らず。交友の讎は国を 同じくせず」から。父の仇はこれと共に天を戴かず必ず討ち、兄弟 の仇を討つには武器を取りに引き返さない、すなわち武器を携え見 つけ次第討ち、友人の仇とは同じ国に住まない、すなわち同じ国に いれば討つとの意という▼中東の仇敵同士の応酬である。イスラエ ルが在シリアのイラン公館を攻撃したと伝えられていたが、イラン もミサイルや無人機でイスラエルを攻撃した。イスラエルは迎撃に ほぼ成功したが、反撃を検討するよう。もしも本格交戦に至れば産 油地帯も火の海になりかねない▼45年前、革命でイランの親米政権 が倒れ、イスラム教シーア派聖職者を頂点とする政権が生まれ聖地 エルサレムを支配するユダヤの国を敵視。両者の緊張は続いたが、 これまでは直接の本格交戦は避け、互いに不本意としても倶に天を 戴いた。自制は終わるのか。日本を含む各国の働きかけが問われる ▼礼記には「四郊塁多きは、此れ卿大夫の辱なり」ともある。都の 郊外に堡塁が多いのは内治外交がまずいからで、政治に携わる者の 恥だとの意という▼戦乱の多い中東だが、堡塁の類をこれ以上増や すのは世界の指導者の恥でもあろう。
2024.04.16
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中日春秋 (書写) 休刊日桜蘂降るプロムナード 新聞休刊日につき、今日の「中日春秋丸写し」はありません。
2024.04.15
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中日春秋 (書写) 国賓も良し悪しなりて春の闇 進学、就職など新たな出会いの季節だろう。初対面の人とどうや って親しくなるか。お悩みの方もいるだろう▼幼いころの「共通の 話題」はいいきっかけになるらしい。子どものときに見たテレビ番 組や聴いた音楽。自分と似た経験をしてきたのだなと思わせれば相 手は安心する。心を開きやすくなる▼周到に計算された例がある。 岸田首相の米連邦議会での演説である。冒頭、幼少期にニューヨー クで暮らした経験に触れている。へえ米国で暮らしていたのか。米 国民は興味を持ったはずだ。続けて子どものときに観戦したヤンキ ースやメッツの名に触れる。野球好きの米国の方には親近感を与え る魔法の言葉だろう▼とどめは米国の懐かしのアニメ番組「フリン トストーン(『恐妻天国』)」か。「今でも懐かしく感じる」と語 り、主人公の口癖の「ヤバダバドゥー」まで持ち出せば、米国の議 員には岸田さんが親しみやすい人物に映ったはずである▼さて、演 説の主題は防衛協力を柱とした新たな日米関係である。「米国は独 りであはありません。日本は米国と共にあります」。首相の言葉を 聞いてこっちもあのアニメを思い出す▼トンマな主人公フレッドの 言動にいつも振り回される気弱な親友バーニー。米国がフレッドな ら日本は…。米国では受けた演説なれど、日本で聞いている人には 「ヤバダバドゥー」とははしゃげまい。
2024.04.14
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中日春秋 (書写) 長ネギも迷惑してる種案山子 岩波少年文庫の朝鮮民話選に『ネギをうえた人』という少々怖い 話がある▼人間がネギを食べなかったころ、人間は互いが牛に見え 、間違えて食べることがよくあったそうな。そんな間違いが嫌にな ったある人が、人間が互いに人間に見える国を探す旅に出て、長い 年月を経てようやく見つける。なぜ人間と牛が見分けられるのか聞 くと、秘密はネギ。栽培して食べると間違いはなくなったと知る▼ 民話では人に和をもたらすネギだが、韓国の国会議員を選ぶ総選挙 で野党が与党打倒の象徴に長ネギを使い大勝。尹錫悦大統領を支え る与党は惨敗した▼ネギ活躍の発端は尹氏がスーパーの視察で1束 875㌆(約100円)の長ネギを見て「合理的な価格だと分かる」と 言ったこと。尹氏が接した品はあくまで特価で通常は数倍という▼ 物価の実情に疎いと批判が出て「長ネギ」と「大破」の韓国語の発 音は同じ「テパ」のため野党側は長ネギを手に「与党を大破」とア ピール。物価高に苦しむ民に浸透した。ネギのせいばかりではなか ろうが、尹氏には苦い結果である▼民話では、ネギを知った人は種 をもらい急ぎ故国に戻る。みんなを救えると種をまいたが、収穫前 に周囲の人たちが「牛がいる」と捕まえようとし危機に陥る。結論 を書くのは控えるが、公のために汗を流しても、理解を得るのはそ う簡単ではないと分かる話である。
2024.04.13
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中日春秋 (書写) 春は曙白星の降る土俵入り ハワイ出身の元横綱曙の曙太郎さんが生まれて初めて雪を見たの は、入門のため18歳で来日して間もなく。「雪って冷たいんだな」 と思ったという▼その後の土俵人生も節目には雪が舞ったと自署『 横綱』で明かしている。横綱に昇進し明治神宮で土俵入りした日も 、長野五輪開会式で横綱土俵入りを披露した日も、引退を決心した のに理事長からけがを治して頑張れと慰留されて撤回した日も、本 当に引退を決めて師匠に告げた日も降ったと書いている▼雪は白星 の色、勝ち星の象徴と本人は記すが、冷たいそれとの縁は常夏の故 郷を離れ、異国で苦労を重ねた力士らしい▼外国出身で初めて綱を 張り、若乃花、貴乃花兄弟との対決で土俵を盛り上げた人。訃報に 接した。54歳とは若すぎる▼横綱になってからのけがとの闘いは凄 絶で、両膝のけがで痛み止めを打ち続け、その末に胃や腸も病み、 痛んだ。注射のみならず点滴で激痛を和らげたこともある。俺は横 綱なんだと言い聞かせ自らを鼓舞。 2000年名古屋場所で19場所ぶ りに優勝を決めた際は涙をこらえようと天を仰いだ。色紙に書いた 字は「忍」。身長2㍍超の怪力自慢はいつしか、日本人に琴線に触 れる存在になった▼旅立つ前は東京近郊で入院中だったが、今年は 桜は見ただろうか。もうけがにも、病気にも、雪の舞う日の寒さに も耐えなくていい。どうか安らかに。
2024.04.12
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中日春秋 (書写) 宅急便置き配になる朧かな ヤマト運輸元会長の故・小倉昌男さんは宅配サービス「宅急便」 の生みの親。「宅急便を始めるうえで何が一番重要か。配達だろう か。ノーである。集荷である」と書き残している▼各家庭からの荷 の集め方が難題で、配達の心配はその次。社内も「家庭からいちい ち集めていたら赤字になる」と宅急便創設に反対が多かったという ▼打開策が地域の酒屋さんへの集荷の取り次ぎ依頼。なじみのある 店なら利用者も気軽に持ち込める。酒屋さんには手数料が入り、荷 を頼むついでに酒などを買う人もいるから喜ばれという▼集荷では なく配達に苦労する時代を故人は想像しただろうか。不在時の再配 達を減らすため、不在でも玄関前などに荷を置く「置き配」サービ スをヤマト運輸が6月から本格的に始める。会員登録すれば玄関前 、車庫、自転車のかごなど場所を指定できるという▼労働時間の規 制による運転手不足の懸念が背景にある。受け取る側も、忙しい単 身だと再配達の時間指定も悩ましく、指定した時間帯に配達を待つ ストレスもある。ネット通販の繁盛で利用が増えた宅配。盗難、紛 失対策という課題はあるが、置き配が気楽という人は多いだろう▼ 小倉さんはこうも書き残した。「当たり前だが、優れたサービスと は客がしてほしいと思うことをすることである」。当然だが、それ は時代とともに変わるのだろう。
2024.04.11
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中日春秋 (書写) ふぐ一途処理者の免許春の潮 〈ふぐ汁や鯛もあるのに無分別〉と芭蕉は詠んだ。鯛もあるのに 毒が怖いふぐを食べるとは分別がないといった意味らしいが、食通 の陶芸家、北大路魯山人が著書『春夏秋冬 料理王国』でかみつい ている▼「鯛である以上、いかなる鯛であっても、ふぐに比さるべ きものではないと私は断言する。全然違うのだ。ふぐの魅力、それ は絶対的なもので、他の何物をもってしても及ぶところではない」 。危険を除く調理法が発見され「人間の知能の前には毒魚も征服さ れてしまった」と書いた▼その毒魚を小学生が征服した。三重県尾 鷲市の内山雄介さんが小学6年でふぐ処理者の免許を取得したとい う。4月に中学生になったばかりのつわものである▼料理好きでこ れまでにさばいた魚は約200種。自分でも釣り、鮮魚店にさばき方 を教わった。カルパッチョやムニエルなど魚ごとおいしい調理法な どを「ぼくのお魚辞典」にまとめた。タレントのさかなクンが客員 教授を務める東京海洋大へ進学が目標で、尾鷲の魚のおいしさを世 に広めたいとも願う▼魯山人は料理の出来は材料でほぼ決まると説 く。「各人はせめて自分のいる場所の近くで、魚では何が一番おい しいか、また、同じ魚を手にしても、その魚の一番おいしいところ はどの部分か、ということを知らねばならぬ」▼言われなくても習 塾に務める尾鷲の逸材である。
2024.04.10
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中日春秋 (書写) 中東のいざこざ夢中春の闇 十数年前、反米国家イランのテヘランで米国のバービー人形を売 る玩具店を取材した▼肌を露出する衣装も着るバービーは反イスラ ム的とされ販売禁止で当局側は「文化的支配をもくろむ米国の使者 」と語ったが、店は密輸品を堂々と陳列。よく売れるといい、新し い衣装を次々と登場させ飽きさせないと店主は感心していた▼別の 店の摘発で自重した時期もあったが、ほとぼりが冷めると再開した という。当局も摘発は見せしめ程度で本気で撲滅する気はないよう に見えた▼米国の支援でイスラム教徒を抑圧しているとみなす敵イ スラエルへの報復宣言は本気なのか。在シリアのイラン公館がミサ イル攻撃され将官らが死亡し、最高指導者ハメネイ師はイスラエル の仕業とし「犯罪を後悔させる」と語った。イスラエルは警戒中と 聞く▼パレスチナ自治区ガザでイスラエルと戦うイスラム組織ハマ スを支持し、レバノンの民兵組織ヒズラボなどの後ろ盾でもあるイ ラン。自国への攻撃を招くほどの報復は自重しても、見せしめ程度 の反撃を代行する勢力はいる。いずれにせよ、中東で暴力の応酬は 続き、血や涙が流れるのだろう▼世界中で売れ、多様な職業などを 表現するバービーのメッセージは「You Can Be Anything(何に だってなれる)」だという。せっかくの理念も、紛争やまぬ地では 説得力が弱くなる。
2024.04.09
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中日春秋 (書写) カカオ豆不作に泣いて花の雨 ミステリー作家のアガサ・クリスティはチョコレートに目がなか ったらしい。子どものころの思い出としてミステリーがかった話が ある。フランス語の勉強が嫌になったクリスティさん、教科書をひ そかに隠してしまった▼家族が家中を捜し回るが、見つからない。 クリスティは知らん顔。そこでお母さんが宣言する。「見つけた人 にはチョコレートをあげる」。教科書を真っ先に発見したのはもち ろん、アガサ少女。「こんなところにあったわ」。だが、教科書隠 しの悪事もバレて「真犯人」はこっぴどく叱られることに。「わた しはまんまと(母親の)わなに落ちたのだった」▼クリスティが聞 けばさぞ顔を曇らせるだろう。チョコレートが世界的に値上がりし ている。日本でも「キットカット」「チョコボール」など、おなじ みの商品の値上げが発表されている▼子どもも大人も泣かせる、「 真犯人」は主原料カカオ豆の高騰。ニューヨーク市場の先物は今年 に入って約2倍に跳ね上がったそうで、消費者には「苦み」の強す ぎる話だ▼世界生産量の約6割を占めるガーナーとコートジボワー ルで天候不順が続いた上、カカオの木を枯らす病気が流行し、収穫 量が大幅に落ち込んだという▼早期の回復は見込めないと聞く。続 きそうな価格高騰に取り乱し、解決策を見つけた人には「チョコレ ートをあげる」とつい宣言したくなる。
2024.04.08
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中日春秋 (書写) 人道支援ホットフードに春の闇 創設のきっかけは 2010年のハイチ地震だった。深刻な状況を知 った米国の有名シェフ、ホセ・アンドレスさんが現地に入った。被 災地、戦地で食事を提供する国際NGO「ワールド・セントラル・ キッチン」(WCK)の始まりという。「空腹な人がいれば、どこ にでもいく」。ホセさんの言葉がうれしい▼「ホットフード」が合 言葉らしい。被災地での食事といえば、味は二の次になりやすいが 、温かい料理の提供を心がけているそうだ。現地に厨房をこしらえ 、そこで調理する▼ハリケーンの米国、オーストラリアの森林火災 、トルコの地震。その味が困難の中にあった人々の体と心を温めて きた。日本でも新型コロナウィルスの感染拡大で横浜港に足止めと なった「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客に食事を出した▼イ スラエルの侵攻で人道危機にあるパレスチナ自治区ガザでの活動中 に悲劇が起きた。WCKの車列がイスラエル軍の攻撃を受け、スタ ッフ7人が死亡した▼イスラエル軍は「誤爆」と説明するが、つら い人々のおなかをいっぱいにしたいと願い、奔走してきたスタッフ の死がくやしい▼事件を受け、米国はイスラエルに民間人保護や人 道状況の改善を求め、応じなければ、イスラエル支援を見直すと警 告した。ガザ側の死者は既に3万3千人を超えた。遅すぎる米国の 圧力に冷め切った「料理」を思う。
2024.04.07
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中日春秋 (書写) 感動の一番列車桜咲く 宮城の気仙沼港は生鮮カツオの水揚げが27年連続日本一。例年6 月ごろに始まり、気仙沼の人々は夏場に大いに食べる▼東日本大震 災の約3カ月後、初水揚げを取材したことがあった。地元水産業者 の建物も津波で流され、がれきも片付いていなかったが、70㌢沈ん だ魚市場の岸壁を突貫工事でかさ上げしシーズンに間に合わせた▼ 頑張れたのは、カツオのない気仙沼の夏などありえないと人々が思 ったから。季節の風物は被災地では一層、価値を増す▼能登半島の 七尾と穴水を結び、先の地震で被災して一部区間の不通が続いてい た第三セクター・のと鉄道が今日、全線で運行を再開する。約100 本の桜並木が列車に覆いかぶさるように枝を伸ばす「桜のトンネル 」で有名な能登鹿島駅でも列車が発着する。昨日聞いたら、幸いつ ぼみ。運行再開後に見頃を迎えられ、よかった▼のと鉄道によると 、通学の利用が多く、新学期には全線で復旧させたいと工事を進め たという。おかげで例年同様に見られそうな列車と桜と愛でる人々 。現場の奮闘に敬意を表さねばなるまい▼震災後の気仙沼では早朝 の岸壁で、魚市場の人たちと一緒に最初のカツオ船の入港を待った 。もやに煙る海上に姿を現し徐々に近づいてきた時、取材者の立場 ながら胸に迫るものがあった。今朝、つぼみ膨らむ駅のホームに立 ち、列車を待つ人々の胸中を思う。
2024.04.06
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中日春秋 (書写) 白羽の矢裏金づくり春の闇 「白羽の矢が立つ」。多くの中から、これぞと思う人が特に選び 定められることをいう。名誉ある地位や役割の時にも使われている が、由来は怖い話らしい▼生け贄である人身御供を求める神が、そ の役となる少女の住む家の屋根に人知れず、白羽の矢を立てた俗説 からという。例えば、静岡県磐田市でも矢の立った家の娘は毎年の 見付天神の祭りに捧げられ、村人は泣いていたという話が伝えられ る▼自分は党を守るための人身御供かと納得できない人もいるよう だ。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で党は昨日、関係議 員ら39人の処分を決めた▼最も重い離党勧告は安倍派の塩谷立、世 耕弘成両氏。だが、処分の対象やその軽重の基準はいささか分かり にくい▼思い処分の議員はそれぞれある時期、派閥の要の地位にい るなどしたが、裏金づくりは、誰がいつ主導して始めたかなど肝心 なことは今もって不明である。かといって重い処分なしでは、国民 の怒りは鎮められまいと岸田首相は考えたのだろう。これまで何を 聞かれても知らぬ存ぜぬの安倍派などの面々に同情する気はないが 、人身御供かと言われれば、その通りなのだろう▼首相の思惑通り 、裏金問題が幕引きとなるかは知らない。有権者は政治家たちの弁 解や振る舞いを覚えておくことだろう。誰に一票を託すか、白羽の 矢を手に選び定める日はいずれ来る。
2024.04.05
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中日春秋 (書写) 県知事の本音か失言蜃気楼 詩人、童話作家の宮沢賢治は盛岡高等農林学校(現岩手大農学部 )で学び、岩手・花巻の農学校で教えた。教職を辞し1人で自炊生 活を始め、畑を耕し、農家の肥料相談に力を入れた▼夏に冷たい風 「やませ」が吹き、冷害が起きる東北。有名な『雨ニモマケズ』で 賢治は、病人ら困った人がいれば東奔西走したいとつづり〈サムサ ノナツハオロオロアルキ〉とも書いた。農民に寄り添った人である ▼尊敬する人に賢治をあげる川勝平太静岡県知事が、県の新規採用 職員への訓示で「野菜を売ったり、牛の世話をしたり、ものをつく ったりとかと違い、皆さまは頭脳、知性の高い人たち」と語って農 家らの怒りを招き、辞意を表明した▼県東部の御殿場を「コシヒカ リしかない」と揶揄したこともあった。農業への愛は正直、あまり 感じられない▼ざっくばらんでいいと支持する人も多く、選挙は強 かった。大井川の水が減りかねぬとリニア中央新幹線の県内着工を 認めないと拳をあげ喝采されたが、近年は対策を示されても自説を 曲げず、頑迷とみえる人も増えた。強烈な個は評価の振れ幅が大き い▼『雨ニモマケズ』で賢治は人に尽くすことに評価を求めなかっ た。〈ホメラレモセズ クニモサレズ サウイフモノニ ワタシハ ナリタイ〉。褒められ、苦にされ、そして去る知事は賢治をなぜ好 んだか。改めて聞いてみたい気もする。
2024.04.04
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中日春秋 (書写) 人手不足共生しあふ春の闇 箱根駅伝でケニアからの留学生を初めて起用したのは山梨学院大 である。 1989年、2区で1年生オツオリ選手が7人抜きして区間 賞。見る者の度肝を抜いたが、大学には「箱根駅伝の伝統を壊すな 」などと外国人起用への抗議が寄せられた▼地元の甲府の人々も当 初、ケニア人を見て驚いていたが、やがて打ち解け、銭湯で客のお じさんと留学生が洗いっこするようになったという。長く監督を務 めた上田誠仁さんが産経新聞の連載『話の肖像画』で明かしていた ▼箱根で外国人を使うかは各大学の考え方次第だが、日本社会全体 について言えば、もはや彼らなしには回らない。政府は人手不足解 消のため一定の技能がある外国人に与える任留資格「特定技能」の 対象分野にバスやタクシー、鉄道などの業界も加えると閣議決定し た▼2024年~28年度の特定技能の受け入れは最大82万人で、19~ 23年度の見込みの2倍超。ただ人手不足は日本に限らぬ話で安価な 働き手扱いでは来てもらえまい。彼らの日本での生活をどう支える か。共生社会をつくる覚悟が問われるのだろう▼以前、山梨学院大 の練習場に「オツオリさんたちと一緒に走らせてください」と来て 、実際に語りあいながら走った中学生がいたという。後に世界に飛 躍する山梨出身のサッカー選手中田英寿さん▼互いに認め、高めあ う。共生とはそういうことだろう。
2024.04.03
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中日春秋 (書写) 打開策あらばリニアの風光る 旧満州で鉄道経営に携わった十河信二は昭和 30年、 71歳で国鉄 総裁に就き、東海道新幹線建設に道筋をつけた▼工費は安くなく計 画当初、戦艦大和、万里の長城、ピラミッドと並ぶ愚挙とも評され た。国鉄内には「夢物語」と冷淡な空気が漂い、政治家も選挙区へ の在来線延伸に熱心だった▼十河は国鉄の各職場を回って新幹線を 造ろうと訴えた。岸信介、河野一郎、佐藤栄作ら政界要人を説得し た。国鉄総裁就任時に「残される愛するものへ」と遺書をしたため 、新幹線は国にとり「明治以来の夢なり 夢は生命なり」と書いて いたという(牧久『不屈の春雷 十河信二とその時代』)▼後進の 苦戦に天上で何を思っているのか。JR東海がリニア中央新幹線品 川―名古屋間の 2027年開業の断念を表明した。川勝平太静岡県知 事が県内着工をを認めておらず、開業は早くて34年以降らしい▼27 年開業は困難と察していたが、実際に10年以上先と聞くとずいぶん 先だなと感じる。大井川の水域少や南アルプスの環境への影響を懸 念する知事が着工容認に転ずる気配はない。昭和と時代が違うとは いえ、信念の人だった十河なら何か知恵を出させるだろうかと考え てしまう▼十河の座右の銘は大陸と縁があった人らしく中国語の「 有法子」だった。「没法子」(しかたない)の反対で、打開策はあ るとの意という。リニアもそうだろうか。
2024.04.02
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中日春秋 (書写) 偽物に注意せよとの四月馬鹿 英国のサスペンスドラマを見ていたら、古美術商を名乗る人物が チャーチル元首相の愛用した高級腕時計が本物か、偽物かを見極め るという場面が出てきた▼どう鑑定するのかと思えば、この古美術 商、腕時計に数秒触っただけで本物と断言する。「本物は冷たい」 。ほんまかいな。フィクション上の話とはいえ、偽物のあふれる時 代にこんな鑑識眼がほしくなる▼本物を見極める目がない以上、偽 物と疑わしきものには近づかないのが賢明だろう。東京・原宿のア パレル店で人気のブランド「ステューシー」の偽ロゴの入ったパー カを所持したとして警視庁は商標法違反の容疑で店長を逮捕した▼ 最近、原宿では修学旅行の中高生らから偽物ブランドを強引に売り つけられたなどの相談が増えていたそうで、警視庁が警戒を強めて いた▼「ステューシー」「クロムハーツ」と聞いても、小欄はぴん と来ない世代だが、偽物とはいえ中高生には安い買い物ではないの だろう。その昔、修学旅行のお土産といえば、絵はがきや観光ペナ ントだったが、お小遣いをはたいて買ったお土産が原宿の「偽ブラ ンド」では悲しい▼春休みや進学で東京を訪れる若者が増える季節 である。妙な客引きには警戒し、決して相手にしないことだ。四十 数年前の春、上京後数日にして、新宿でインチキな映画券を売りつ けられた身としては君たちが心配である。
2024.04.01
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