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analog純文

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2026.05.16
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『乙女の密告』赤染晶子(新潮社)

 本書は2010年に芥川賞を受賞した作品です。私はこの作家の作品をこの度初めて読みました。というより、この作家は、2017年、42歳で病死なさいました。元々持病をお持ちであったようです。だからというか、作品数は少ないです。

 これは本作の筆者とはあまり関係ないことですが、没年が42歳というその数字を見ていてぼーっと思ったことです。
 私の好きな作家で、比較的「夭折」作家と言われそうな方が3人います。この3人です。

  太宰治(39歳)・中島敦(33歳)・梶井基次郎(31歳)

 一方、文豪夏目漱石は49歳でなくなりました。彼の42歳は、『それから』を書いていた時です。後に「前期三部作」といわれるものの二作目です。

 例えば、一番近い没年は太宰だがその次は漱石ではないかなどというように、あれこれ比べて見ていると、なんといいますか、言葉ではまとめにくい様々な感慨が浮かびます。いえ、上記にも書きましたように、それは、この作品ともこの筆者とも何ら関係のないことではありますが。

 というわけで冒頭に戻ります。
 わたくし、芥川賞受賞作もぽつりぽつりと、積極的にとは言い難くも、まー、一応の読書意欲を持って読んでいますが、本作はまず、文体にとても感心しました。

 ユーモラス。軽快。
 特に前半部(後半部はちょっと重くなっていきます)ですが、読んでいて、まるで自転車に乗って涼やかな風を感じて走っているように、とっても気持ちがよかったです。これはなかなか得難い読書体験だと思いました。

 その理由は、読んでいて明らかです。
 文中に出てくるセリフの部分が関西弁で書かれている(舞台は京都です)こともさることながら(実はこのセリフ部は全てが関西弁というのではなく、部分的な関西弁のように思います)、それよりも特徴的なことは、一文がとても短いセンテンスで描かれていること。短い一文がリズミカルにどんどん積み重ねられていることでありましょう。

 二つ目は、現在形で次々に終わっている文末です。畳みかけるように短文の現在形文末が続いていきます。そしてそこに、ふっと一、二文の過去形文末が出てきます。するとそこにアクセントができて、心地よいメリハリが生まれます。
 こういう文章の流れを読むと、過去形というのは強い文の形だなということがわかりますね。(だって、もう終わってしまったのですから。)
 ちょっと長めですが、一つ紹介してみます。

 とうとう、恐るべき事態になってしまった。麗子様が黒ばら組から追放されてしまったのだ。みか子は麗子様のことを心配した。組を追放されるなど、乙女にとって生存に関わることだ。乙女とはトイレさえ群れをなして行く生き物なのだ。トイレの個室の数と乙女の人数は一致しない。トイレでの需要と供給のバランスは常に崩れている。そんなことは乙女にはちっとも関係ない。トイレは乙女の聖地である。ここでは最も頻繁に噂が囁かれる。トイレでさえ、すみれ組と黒ばら組の縄張り争いがある。安心して噂話をしていると、個室に相手の組の乙女が潜んでいたりする。
「なんやてぇ!」
 と言って突然、個室から飛び出してきたりする。時に乙女は神出鬼没である。油断ならない。

 ついでにもう一つ報告しておきます。
 上記に私は、セリフ部が部分的な関西弁と書きましたが、この部分的な用い方は、関西弁ネイティブな私にとって、ちょっと不思議な感じ(悪くない感じ)がしました。特に、何度か出てくる「あほ」「あほな」の、微妙な前後の部分とのつながりやずれに、何か不思議な「異化効果」を感じました。何だかくすぐられているような、これは何なんだろう、と思いました。

 というわけで、とても楽しく読み進めたのですが、中盤あたりから、テーマらしいまとまりがなされてきて、『アンネの日記』の本文が重要なキーワードになってきました。

 これはもちろん読み手の私の方の問題なのですが、いかんせん、通り一遍以下の一般教養しか持ち合わせていない私は、急遽アンネ・フランクをググったりせねばならなくなり、そして一応のグーグル知識でついていけなくもない程度で理解していきました。

 で、どうも本作の中心テーマは、やはりいわゆる青春小説に多い「自分探し」のものであるようだと考えました。アンネの生涯や日記の一部分を自らの心情に重ね合わせながら、とまどいつつ「自分探し」をする物語なのだな、と。

 と、さて、ここからですが……。
 本書報告についてザックリ考えていた字数もほぼ使いかけているこの時点から、アンネ・フランクのかなりシビアな話と、京都の外国語大学の人間関係に悩む女子学生の話との重ね合わせを論じるには、ちょっと、あれ、難しいのじゃないか、と感じました。(何と言っても重みがかなり違うように思います。)

 ……ごまかしています。すみません。
 実は、そんな重ね合わせはやはり無理なんじゃないかなという考えと、この軽やかな文体に乗せて物語るのにちょうどいいくらいの重ね合わせが書かれているのだという思いと、どちらがふさわしいのか、ちょっとよくわからないでいるのであります。すみません。

 というようなことを考えました。
 しかし、本当に久々に心地よい文体に出会ったように思いました。
 もちろんそれは、私にとってとても大きな収穫であります。


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Last updated  2026.05.16 17:39:45
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Comments

シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21) 純文さんへ  あたたかいお返事ありがとう…
analog純文 @ Re[1]:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  シマクマ君さんへ。  おや、思わぬお方…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  いつも読ませていただいてます。あのせ…
analog純文 @ Re[3]:無理筋仮定を考えてみる(12/28)  七詩さんへ、重ねてのコメントありがと…
七詩 @ Re[2]:無理筋仮定を考えてみる(12/28) analog純文さんへ 私もときどき読書日記を…

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