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安心して聴ける1960年代当時の“現代ジャズ” ケニー・ドーハム(Kenny Dorham)というトランペット奏者は、ずば抜けて何か革新的なことをやったとか、ジャズ界に激変をもたらしたとかいうわけではなかったと言っていいように思ったりする。むしろ、ビバップからモダン・ジャズへの発展の枠組みの中で、自身の演奏を工夫して披露していったタイプだったという評価が妥当なのかもしれない。無論、このように述べるのは、否定的な意味合いではなく、そういう立ち位置こそが、私たち聴き手を安心して楽しませてくれる音楽につながっていると言いたいからである。 とりわけ日本では、『静かなるケニー』が圧倒的な彼の代表盤としての地位と名声を得ている。同盤が名盤なのは確かだと思うけれど、ケニー・ドーハムが残した演奏は、あの“マイナーの境地”のようなものだけがすべてではなく、安心して聴ける好演が他にいくつもある(そして、それらはもっと聴かれてしかるべしとも思う)。カフェ・ボヘミアのライヴ演奏盤(『カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム』)は、個人的には別格なのだけれど、それを別にしても、この盤はぜひというものが複数存在する。そうしたものの一つが1960年のタイム盤『ジャズ・コンテンポラリー(Jazz Contemporary)』というアルバムだったりする。 何よりもまず、本盤は、“自然体”のケニー・ドーハムの演奏といった趣がいい。上で述べたように、ケニー・ドーハムは決して突飛なことを試みる奏者ではなかった。とはいえ、この盤では、表題に“コンテンポラリー”、すなわち“現代”とあるように、従来とは違ったフレーバーを出そうという意図もいくらかあったものと推察される。 本盤で注目したい点の一つは、バリトン・サックスを組み合わせたというところ。バリトン奏者のチャーリー・デイヴィスはどちらかと言うとスタンダードな演奏をしているのだけれども、ケニー・ドーハムのトランペット演奏との相性がよく、この起用は功を奏したと思わされる。もう一つは、若きピアノ奏者スティーヴ・キューンの参加である。この当時、まだ21歳だったキューンにとっては、最初に発表されたレコーディング作品となった。後々の熟練度はまだ十分にみられないものの、キューンの演奏のタイミングのよさというのも随所で感じられる。 もともとのリリースの収録曲(1.~6.)の中から、筆者が特にいいと思うところをピックアップして述べておきたい。ケニー・ドーハムのまさしく自然体のトランペットが最高にいいと思う演奏としては、1.「ア・ワルツ」と3.「イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ」を挙げたい。とりわけ、前者は、イントロのバリトン・サックスとの絡みからして、聴く側をわくわくさせてくれる。バリトン・サックスとの相性のよさという意味では、6.「ディス・ラヴ・オブ・マイン」も外せない。個人的には、トランペットのソロからバリトンのソロへの流れは最高である。先にピアノのスティーヴ・キューンに触れたが、上述の3.なんかは彼のピアノが効果を発揮している演奏の一つだと言えるように思う。 [収録曲]1. A Waltz2. Monk's Mood3. In Your Own Sweet Way4. Horn Salute5. Tonica6. This Love of Mine~以下、CD所収のボーナス・トラック~7. Sign Off8. A Waltz [take 5]9. Monk's Mood [take 2]10. This Love of Mine [take 1]11. This Love of Mine [take 2]12. This Love of Mine [take 3][パーソネル、録音]Kenny Dorham (tp)Charles Davis (bs)Steve Kuhn (p)Jimmy Garrison (b: 1.~3., 8., 9.), Butch Warren (b: 1., 4.~7., 10.~12.)Buddy Enlow (ds)1960年2月11・12日録音。 ジャズ・コンテンポラリー [ ケニー・ドーハム ] 次のブログのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓
2022年02月28日
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イタリア人ピアニストによる初の自己名義盤 ピエトロ・ルッス(Pietro Lussu,ピエートロ・ルッスとも表記)は、1971年、ローマ生まれのイタリア人ピアノ奏者である。ルッスはLTC(参考過去記事)の活動などで知られるが、2009年の本作『ノーザン・ライツ(Northern Lights)』は、個人名義の盤として最初となった盤である。 ベースはヴィンチェンツォ・フローリオ、ドラムはマルコ・ヴァレーリ、そしてピアノ(エレピも使用)がルッスというレギュラー・トリオ盤とのことで、録音されたのは南イタリアのバーリ(地図でよく言う“ブーツ型”の国の形のちょうどかかとの部分に位置する町)である。そして、この録音を手掛けたのは、日本のアルボーレ・ジャズ(Albore Jazz)なるレーベルである。 ルッスのピアノ演奏の特徴として、“歯切れのよさ”がある。本盤でもこの特徴はしっかりと感じられる。柔らかなタッチでメロウなピアノ盤も嫌いではないが、筆者の意見としては、高いテクニックでしっかり鍵盤を打っている演奏は、総じて気持ちいいものだ。そして、本盤でもう一つ気になる彼のピアノ演奏の特徴は、“知性”だというように思う。ラテン系のイタリア人だから豪快である意味ちゃらんぽらんなのかというとそんなことはなく、インテリジェントな計算や判断に裏打ちされた演奏を繰り出していくのが、ルッスのよさの一つなのだと、本盤を聴いて特に感じる(余談ながら、筆者の知り合いのイタリア人男性にも確かにこういうタイプがいる)。 本盤に収められたうち、特に注目曲と言えそうなものをいくつか見ておきたい。1.「ノーザン・ライツ」は、抑え気味に始まる演奏が次第にきらびやかさを見せていくかのようで、“オーロラ”を意味するタイトル通りの幻想的な光景を連想させる。3.「ナブー」は、繊細な演奏で上述の知性を感じさせる演奏の一つ。6.「アフロセントリック」は、やや実験的な感じで、ファンキーな曲調に電子音をうまく組み合わせていて面白い。考えようによっては、こういう工夫も知性のなせる業なのかもしれないなどと想像してみたりもする。[収録曲]1. Northern Lights2. Freak-E3. Naboo4. She Knows the Ropes5. Dakota Song6. Afro-Centric7. Pent-Up House8. Freak-E II[パーソネル、録音]Pietro Lussu(p, elp)Vincenzo Florio(b)Marco Valeri(ds)2009年5月11・12日 【中古】 Pietro Lussu / Northern Lights 【CD】 【中古】 ア・ディファレント・ヴュー /LTC,ピエトロ・ルッス(p),ロレンツォ・トゥッチ(ds),ピエトロ・チャンカリーニ(b) 【中古】afb 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2022年02月25日
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高い完成度のマイナージャンルの名作 メヒカント(Mexicanto)は、1985年に結成されたメキシコ人のデュオ。アコースティック・ギターと2人のヴォーカル・ハーモニーを軸に独自路線の音楽を発表し、メキシコにおけるトローバあるいはヌエバ・カンシオンを発展させたグループとされる。 彼らは、1980年代後半以降、コンスタントにアルバムを制作していったが、その完成度が極みに達したのが、デビュー11年目の本盤『フェリックス・フィリオ(Felix-Filio)』だった。この表題は、メンバー2人の名(ダビー・フィリオ、セルヒオ・フェリックス)をつなげたもので、いわば、セルフ・タイトル作のようなものだとも言える。そして、実際、その完成度は、このデュオの諸作の中でもずば抜けて高い。 シンプルなアコギと声のハーモニーといった彼らの典型的スタイルの曲としては、1.「ダノス・ピエ」が最もお勧め。これに次ぐのが、3.「アシー・タン・ペケーニャ」や9.「カニカ」といったところだろうか。その一方で、本盤の収録曲には、シンセやピアノ、エレキギターといった本来の彼らのスタイルとは異なる楽器を思い切って導入した、印象的なインストルメンタル曲がいくつも見られる。壮大な雰囲気を醸し出す2.「コラソン・ポル・コラソン」、ギター・インスト・ナンバーの5.「ラ・ノチェ」、柔らかく優しく音が紡がれていく8.「アンテ・トド・ラ・テルヌーラ」がその例である。こうした曲がアルバム構成上では重要な役割を果たしていて、実際、アルバムの最後には、2.のリプライズに当たる12.「コラソン・ポル・コラソン(バージョン2)」が配されている。 メヒカントのお勧め盤はというと、いろいろ個人的思い入れや好みはあるのだけれど、客観的にみて、本盤は最初の推奨盤の有力候補だと思う。完成度が高いとうのは先に述べたとおりだけれど、彼らがこの後、2000年代に入って活動を休止してしまったのは、本盤の出来のよささえもその原因の一つだったのではと勘繰りたくなるほどである。アコースティック、ヴォーカル・ハーモニー、ムード音楽的なインスト曲、とそもそもの好みは分かれるかもしれない。けれども、そちら方向の音楽に関心がある人には、ぜひとも推奨したい名盤の一つと言えるように思う。[収録曲]1. Danos pie2. Corazón por corazón3. Así tan pequeña4. Una canción o un cuento5. La noche6. Sobremuriendo7. El mar de noche8. Ante todo la ternura9. Canica10. Esperando11. Un año más12. Corazón por corazón (Versión II)1998年リリース。 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓
2022年02月22日
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オリジナル・レインボーの最終作 ディープ・パープルを抜けたリッチー・ブラックモアは、1975年から新しいバンド、レインボー(Rainbow)としての活動を展開していった。このレインボーというバンドは、“バロック様式美”と呼ばれるハード・ロック音楽を作り上げていく。しかし、その一方で、アメリカでの売り上げが伸びないという問題とも向かい合わざるを得なくなった。結局のところ、レインボーは、米国リスナーに広く受けいれられるようなストレートで聴きやすいハード・ロック路線へと舵を切っていった。 1981年の『アイ・サレンダー(原題:ディフィカルト・トゥ・キュア)』がその象徴ともいえるアルバムだったが、その路線を継続したのが、その次作に当たる本盤『ストリート・オブ・ドリームス(Bent Out Of Shape)』(1983年)だった。 この時期のレインボーと言えば、何よりもジョー・リン・ターナーの存在が大きな特徴である。個人的には、この売れ筋志向の路線と彼のヴォーカルは実にマッチしていたと思う。その典型は、冒頭の1.「ストランデッド」。伸びのある高音のヴォーカルとキャッチーな曲調は、賛否両論あるとはいえ、レインボーの活動後期を象徴するナンバーの一つだと言えるだろう。同じく聴きやすさという意味では、アルバム表題の邦訳にも採用された7.「ストリート・オブ・ドリームス」も、コアなファンからは否定的な評価を下されがちなのかもしれないが、大衆向けの意図がわかりやすく反映された1曲ということになるだろう。 その一方で、当初からのレインボーらしさの名残をところどころに保っていることも無視できない。個人的な好みでは、2.「キャント・レット・ユー・ゴー」、4.「ファイヤー・ダンス」、9.「スノーマン」などは、本盤の収録の中で注目度の高いナンバーだという気がしている。 ディープ・パープル再結成の話もあって、レインボーはこの盤を最後に解散してしまった(ただし、1990年代、2010年代にそれぞれメンバー総入れ替えでブラックモアはレインボー名義で再び活動している)。キャッチーでポップな部分を含んだハード・ロックという路線は、次の世代へとバトンをつないだということだろうか。例えば、ボン・ジョヴィが結成されたのは本盤がリリースされたのと同じ1983年(デビュー盤の発表は翌年)であった。時代は着実に移り変わりつつあった。レインボーの“ラスト作”は、そんな当時の環境を映し出すアルバムでもあったとも言えるのかもしれない。[収録曲]1. Stranded2. Can't Let You Go3. Fool for the Night4. Fire Dance5. Anybody There6. Desperate Heart7. Street of Dreams8. Drinking with the Devil9. Snowman10. Make Your Move1983年リリース。 【輸入盤CD】Rainbow / Bent Out Of Shape ストリート・オブ・ドリームス [ レインボー ] 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2022年02月19日
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音楽的バックグラウンドが詰まったデビュー盤 見るからにマニアックそうな青年の顔写真のジャケット…。1970年にリリースされたジョン・ホール(John Hall)の『アクション(Action)』というアルバムである。ジョン・ホールは、1948年、ボルチモア出身で、ニューヨークで育ったミュージシャンである。東海岸で頭角を現していった彼は、1972年にはオーリアンズを結成し、やがてこのバンドのヒット曲「ダンス・ウィズ・ミー」などに結びつく。本盤は、その前の段階で彼がソロとしてリリースしたデビュー作というわけである。 ギタリストであるジョン・ホールのスタイルの確立が見てとられるアルバムと言われたりもするが、筆者としては、本盤の魅力はこの点だけではないという風に思う。ブルース・ロック、スワンプ、カントリーなど彼のバックボーンとなった音楽を消化し、彼なりのヴォーカルとギターで表現している。そのため、確かに雰囲気の異なる楽曲が散りばめられているという印象は免れないが、このヴォーカルがこれら作風の異なる素材を貫く一つの軸になっているようにも思う。 私的にお勧めのナンバーをいくつか挙げておきたい。まずは、ヴォーカルに着目すると、1.「ニュー・トゥーン」と7.「アクション」がいい。加えて、8.「シング・ア・ブルース・ソング」も、筆者としてはお気に入りである。とりわけ、表題曲の7.はギターを強く前に出しつつ、ヴォーカルのよさがうまく組み合わされているように思う。あと、ギターに注目するなら、9.「パーク・レーン・ブルース」、10.「スカッフル」といったインスト曲も含まれている。とりわけ、後者の10.は筆者としてはお勧めの1曲だったりする。 ちなみに、冒頭で触れた写真の青年ことジョン・ホールは、21世紀に入って民主党所属の下院議員としても活躍した。その一方、演奏活動も続けたのだけれど、2019年いっぱいで引退しているとのことだ。[収録曲]1. Nu Toone2. Look in My Eyes3. Where Would I Be4. Milwaukee5. True Love6. Sitting on Top of the World7. Action8. Sing a Blues Song9. Park Lane Blues10. Scuffle11. Going to the Valley1970年リリース。 アクション/ジョン・ホール[CD]【返品種別A】 アクション [ ジョン・ホール ] 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2022年02月17日
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音よし演奏よし歌よし、心に染み入る好作 ジェームス・テイラー(James Taylor)は、1970年の『スウィート・ベイビー・ジェームス』がヒット作となり、以降、順調にアルバム・セールスを積み上げていった。今回取り上げる『ゴリラ(Gorilla)』は、前作に当たる『ウォーキング・マン』からおよそ1年後にリリースされた第6作となるアルバムで、1975年にリリースされた。前作よりもセールスを伸ばし、全米チャートで6位を記録した。 本盤収録曲のうち、1.「メキシコ」と3.「君の愛につつまれて」がシングルとして発売され、とくに後者は全米5位のヒットとなった。この3.は、マーヴィン・ゲイが10年前にヒットさせていたモータウン曲である。また、さほど目立つ部分ではないものの、バックの女性コーラスは、当時の妻であったカーリー・サイモンが務めている。 上記のシングル2曲以外では、2.「ミュージック」が聴き逃がせない。ジェームス・テイラーの曲作りという意味では、上述の1.「メキシコ」とこの2.「ミュージック」が本盤収録曲の中ではベスト2曲と筆者は思っている。さらにもう1曲、どうしても外しがたい名曲と言えるのが、7.「愚かだった僕」。シンガーとして、心に染み入る歌唱がジェームス・テイラーの本領発揮だと思うのだけれど、この観点からすると、2.「ミュージック」とこの7.「愚かだった僕」が本盤のベスト2曲という風にも言えると思う。 そもそも、ジェームス・テイラーは、弾き語りがベースにあるシンガーソングライターである。本盤だけの傾向ではないとはいえ、作曲がよい、演奏がよい、そして歌唱がよいという三拍子が見事に揃っていることが、本盤からは強く感じ取られる。こういう心に染みる名作は、細々とでもいいから永久に聴き続けられてほしい、そんな風に思わされる1枚だったりする。[収録曲]1. Mexico2. Music3. How Sweet It Is (To Be Loved by You)4. Wandering5. Gorilla6. You Make It Easy7. I Was a Fool to Care8. Lighthouse9. Angry Blues10. Love Songs11. Sarah Maria1975年リリース。 【中古】 ゴリラ /ジェイムス・テイラー(Rock) 【中古】afb 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2022年02月15日
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少々、間が開いてしまいましたが、INDEXページ(ジャンル別、アーティストのアルファベット順)を更新しました。ここ数週間分の新しい記事へのリンクを追加しています。INDEXページへは、下のリンク、もしくは本ブログのトップページ(フリーページ欄)からお入りください。 アーティスト別INDEX~ジャズ編(A-G)へ → つづき(H-M)・つづき(N-Z) アーティスト別INDEX~ロック・ポップス編(A-B)へ → つづき(C-D)・つづき(E-I)・つづき(J-K)・つづき(L-N)・つづき(O-S)・つづき(T-Z) アーティスト別INDEX~ラテン系ロック・ポップス編(A-L)へ → つづき(M-Z)アーティスト別INDEX~邦ロック・ポップス編へ 下記ランキングに参加しています。応援くださる方は、各バナー(1つでもありが たいです)をクリックお願いします! ↓ ↓
2022年02月12日
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死後10数年を経て世に出たお蔵入り盤 兄リチャードと妹カレンによるデュオ、カーペンターズ(Carpenters)のカレン・カーペンター(Karen Carpenter)による初ソロ作となるはずだったのが、1980年に一度は完成した『遠い初恋(Karen Carpenter)』というセルフタイトル作(邦題は、収録ナンバーの邦訳がそのままアルバムのタイトルとなっている)である。 本盤作成の経緯というのは、次のようなものだった。1979年、薬物依存症からの回復のため、カンザス州のリハビリ施設に留まり、カーペンターズの活動は一時的に休止することになった。その間にカレンはニューヨークへ渡り、フィル・ラモーンをプロデューサーとしてソロ作の制作に取り掛かった。けれども、完成したアルバムは、レコード会社(A&M)にとっても、兄リチャードにとっても納得のいくものではなく、結局カレンは発表しないことを決断してお蔵入りとなった。 1983年のカレン死去の後、本盤の収録曲のうち1.「ラヴラインズ」などいくつかのナンバーは、未発表曲集アルバム『ラヴラインズ』に収められた。そして、カレンの没後13年が経った1996年、お蔵入りとなった1980年作の本盤は正式リリースとなった。その背景には、日本でカーペンターズのリヴァイヴァルがあり、これに伴って日本だけでなく米国でもリリースされることになったらしい。 お蔵入りとなったこのアルバムのどこがよくなかったのか。その当時はカレンも悩んでいたというが、全体としてカーペンターズと大きく作風が違っているのは明白である。1980年頃のディスコ調サウンドやフュージョン的なサウンドが特徴的である。このイメージチェンジの捉え方は、聴き手によってさまざまなのだろうけれど、少なくとも当時のレーベルや兄リチャードには前向きに捉えられるものではなかったということなのだろう。カレンの没後となっては、貴重な音源ということでリリースされたが、聴衆にとってみれば、おそらくはカレンの歌声がさらに聴けてよかったという人もいれば、カーペンターズとのイメージの違いに違和感を感じる人もいるという、そんな作品と言えるのかもしれない。[収録曲]1. Lovelines2. All Because of You3. If I Had You4. Making Love in the Afternoon5. If We Try6. Remember When Lovin' Took All Night(愛の想い出)7. Still in Love With You8. My Body Keeps Changing My Mind9. Make Believe It's Your First Time(遠い初恋)10. Guess I Just Lost My Head11. Still Crazy After All These Years(時の流れに)12. Last One Singin' the Blues1996年リリース。 遠い初恋 [ カレン・カーペンター ] 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2022年02月11日
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絶頂期を記録した初のライヴ盤 ミハーレスことマヌエル・ミハーレス(Manuel Mijares)は、1958年メキシコシティ生まれの男性シンガー。1980年代半ばにメキシコのポップ・シーンに颯爽と登場し、とりわけ1980年代後半から1990年代を通じて絶大な人気を誇った。さらには、2000年代以降、現在に至るまでコンスタントに作品のリリースを続けている。 そんなミハーレスの絶頂期とも言える1995年に、彼にとっての初のライヴ盤として発表されたのが、この『エル・エンクエントロ(El encuentro…)』というアルバムであった。そのライヴというのは、大手テレビ局のテレビサ(Televisa)が企画したアコースティック・ライヴ(当時、好評を博していたMTVアンプラグドに追従した企画)であった。なお、アコースティックな企画とはいえ、実際の演奏では、アコギを弾いているという程度で、プラグを抜いているという感じはそれほど強くない。ともあれ、アルバムは大ヒットし、メキシコのチャートのみならず、中米の4つの国や南米チリでも1位を獲得した。 全17曲というヴォリュームで、人気絶頂の中でのヒット・メドレー的な選曲が中心となっている。とはいえ、未発表曲もうまく組み合わされていて、未発表のナンバーは、4.「ミ・ウニカ・ドローガ・エレス・トゥ」と8.「エル・コラソン・シゲ・アフェラード」の2曲。一方、女性シンガーのルセーロ(Lucero)とのデュエット曲の13.「クアトロ・べセス・アモール」のほか、3.「タン・ソロ」、バリオ・ボーイズ(Barrio Boyzz)との共演による6.「タルデ・オ・テンプラーノ」の計3曲がシングルとして発売された。つまるところ、単なるライヴ盤で終わらせずにファンへの新曲のサーヴィスやシングルカットでのヒット狙いも織り込まれていたということになるだろうか。 筆者の個人的な好みを含め、お勧めのナンバーをいくつか挙げてみたい。ミハーレスのヴォーカルの真骨頂が披露されているのは、9.「エル・ブレべ・エスパシオ(君のいないわずかな空間)」。キューバのシンガーソングライター、パブロ・ミラネスの名曲をカバーしているが、アコースティック調の演奏にのせて彼らしいヴォーカルで歌いきっている。同じくこの人の声の魅力が活かされた歌唱としては、16.「ウノ・エントレ・ミル」がいい。、次いで12.「ソルダード・デル・アモール(愛の戦士)」。ファン的には、上記のルセーロとの13.や未発表曲に加え、2つのメドレー(5.と12.)も聴きどころと言える。それぞれ彼の人気曲を文字通りメドレーにしたものだが、5.は「パラ・アマールノス・マス」から始まってちゃんと同じ曲で終わり、12.も「ボニータ」に始まり「ボニータ」で終わるという点もなかなかいい感じだと思う。[収録曲]1. Volverás2. No se murió el amor3. Tan solo4. Mi única droga eres tú5. Medley: Para amarnos más/Me acordaré de ti/Que nada nos separe/Para amarnos más6. Tarde o temprano [con Barrio Boyzz]7. Palabras de mujer/Perfidia8. El corazón sigue aferrado9. El breve espacio10. Te dejaré (Ti lascero) [con Patricia Sosa]11. Corazón salvaje12. Soldado del amor13. Cuatro veces amor [con Lucero]14. Bella15. No hace falta16. Uno entre mil17. Medley 2: Bonita/A pedir su mano/Pará nené pará/Bonita1995年リリース。 ↓別盤(いずれもベスト編集版)です↓ 【輸入盤CD】MIJARES / COLECCION SUPREMA 【輸入盤CD】MIJARES / 30 EXITOS INSUPERABLES (RMST) 下記ランキングに参加しています。 お時間のある方、応援くださる方は、“ぽちっと”よろしくお願いいたします! ↓ ↓
2022年02月08日
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ハグアーレス絶頂期の推奨盤 1995年にメンバー間での確執からカイファネス(Caifanes)が解散した後、リーダーだったサウル・エルナンデス(Saúl Hernández)が結成したバンド、ハグアーレス(Jaguares,スペイン語で‟ジャガーたち“の意味)は、1996年にこの新バンドとしての最初のアルバム(過去記事)を発表した。このバンドの活動は、2010年まで続き、都合6枚のアルバムを残したが、そのハイライトの一つとも言えそうなのが、2001年発表の『クアンド・ラ・サングレ・ガローパ(Cuando la sangre galopa)』という盤である。 個人的には、当時、本盤のリリースを知ると真っ先に買い求めた。そして、本当によく聴いた。“血がギャロップするとき”というよくわからないタイトル(とはいえ、ジャケット・イメージは大勢の馬たちが駆けている姿のものである)、カイファネス時代を彷彿とさせつつ進化を遂げた作風がとりわけ印象に残った。この盤は本国メキシコのみならず、とくに米国受けもしたという。 本盤は、全体的にテーマも曲調もどちらかというと重ためでややハードな演奏の印象を聴き手に与えるところがある。注目したい曲としては、表題曲の1.「クアンド・ラ・サングレ・ガローパ」。サウルの世界観が満開なところにハードなギターがうまく組み合わされている。3.「コモ・トゥ」は本盤の中でよく知られる曲の一つで、ファースト・シングルとしてリリースされた。5.「エン・ラ・ティエラ」は、強いリズムとハードな演奏が個人的にお気に入りだったりする。 6.「ラ・ビダ・ノ・エス・イグアル」も、シングル・カットされたことからよく知られている人気のナンバーで、基本は真っ直ぐなロック・ナンバーでありながら、途中や終盤に直球ではない部分があって、そこにラテンの雰囲気が感じられる。8.「コンティーゴ」は、ノリのよいナンバーで、シングル化された2曲とともに広く聴衆に受けそうな曲と言える。10.「ビアへ・アストラル」は、個人的な推奨曲で、“星々の旅”というタイトルの通り、ハードな演奏の中に宇宙的浮遊感が感じられるのがいい。 なお、正式なクレジットの上では、13.「ビエホ・エル・ムンド?」でアルバムは終わることになっているが、本盤には追加のシークレット・トラックが含まれている。「ディメ・デ・ウン・アモール・ケ・ノ・ア・スフリード」というギターを中心になかなかハードな演奏を繰り広げているナンバーである。13.の演奏は6分強で終わるのだけれど、そのまま2分ほどの無音状態の後、同じトラック内でこの演奏が始まる。つまり、トラック13.には、無音状態を含む2曲が収められていて、本来の13.は6分強で終わるけれど、トラックの長さは12分近くあるという紛らわしい仕組み(だからシークレット曲と言えるのだけれど)となっている。[収録曲]1. Cuando la sangre galopa2. El secreto3. Como tú4. Estoy cansado5. En la tierra6. La vida no es igual7. Por un beso8. Contigo9. El aislamiento10. Viaje astral11. El momento12. El último planeta13. ¿Viejo el mundo?[14.] Dime de un amor que no ha sufrido *13.の続きに収録のシークレット・トラック2001年リリース。 【輸入盤CD】JAGUARES / CUANDO LA SANGRE GALOPA (ハワレス) 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 “ぽち”応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2022年02月05日
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バランスのとれた好作 ジョー・ウォルシュ(Joe Walsh)と言えば、イーグルスのギタリストというイメージが強いことだろう。とはいえ、無名の人物がイーグルスで突然に開花したり注目を浴びたというわけではなかった。彼は、1975年にイーグルスに加入した時点で、既に複数のバンドなどでの活動歴を重ねたアーティストであった。1960年代末から1970年代に入る頃までの数年間、ジェイムズ・ギャングで活動したが、ソロの活動へと向かい、バンドを脱退して発表したのが、1972年の本盤『バーンストーム(Barnstorm)』だった。 少々ややこしいのだけれど、この作品の性質について少しだけ説明しておこうと思う。本盤はジョー・ウォルシュ名義の“バーンストーム”という表題の作品ということになっている。けれども、実態としては、ジョー・ウォルシュがバーンストームという名のバンドを結成していて、その実質的ファースト作がこのアルバムということになる。 本盤の楽曲と演奏は、ジェイムズ・ギャングのハードな演奏のイメージとは異なり、適度にロックしつつ、適度にマイルドかつキャッチーである。バーンストームのメンバーは、ウォルシュに加え、ベーシストのケニー・パサレリ、ドラマーのジョー・ヴァイタル(ヴィタール)。注目すべきは、それぞれが実にマルチなプレーヤーという点である。前者はギタロン(メキシカン・ギター)を操り、後者はピアノやキーボード、さらにはフルートも担当する。ウォルシュもギターに加えてシンセやキーボードを演奏するので、3人の演奏面の引き出しは多い。さらに、全員がヴォーカルを担当できたというのもそうしたマルチぶりの重要な要素だった。 本盤で筆者が特に気に入っているのは、アルバム全体の統一されたトーンである。特にアルバム前半にこのことが強くあてはまる。前に迫って来るのではなく、奥行きのある空間から届いてくるサウンド、といった雰囲気と言えばよいだろうか。1.「ヒア・ウィ・ゴー」は収録曲の中で上位の好ナンバー。本盤の楽曲の大半はウォルシュのペンによるが、4.「ジャイアント・ボヘモス」と5.「マザー・セッズ」は各メンバーとの共作で、インストの4.は特に聴きどころと言える。 アルバム後半に移って、やや牧歌的な雰囲気の曲も目立つようになる。上で述べたように奥行き感のあるサウンドが基本なので、前へ前へという目玉的な目立つ曲がないというのも事実だけれど、粒ぞろいの好曲がひたすら続く。筆者の好みとしては、6.「バードコール・モーニング」、8.「お前の世界(アイル・テル・ザ・ワールド)」がいい。ちなみに、ちょっとだけハードなギター・サウンドが顔をのぞかせる場面として、上述の5.と9.「ターン・トゥ・ストーン」がある。アルバムを通して聴いたとき、単調さを避ける上でのいいアクセントと言える曲配置になっていると感じる。[収録曲]1. Here We Go2. Midnight Visitor3. One and One4. Giant Bohemoth5. Mother Says6. Birdcall Morning7. Home8. I'll Tell the World9. Turn to Stone10. Comin' Down1972年リリース。 バーンストーム [ ジョー・ウォルシュ ] 下記ランキングに参加しています。 お時間のある方、応援くださる方は、“ぽちっと”よろしくお願いいたします! ↓ ↓
2022年02月03日
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