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2008 アメリカ 監督:エドワード・ズウィック出演者:ダニエル・クレイグ、リーヴ・シュレイバー、ジェイミー・ベル、アレクサ・タヴァロス、ミア・ワシコウスカほか136分 カラー DEFIANCE 第二次世界大戦時のベラルーシを舞台に、ドイツ軍のユダヤ人虐殺(ホロコースト)から逃れ、森の中で抵抗を続けながら1,200名のユダヤ人を救った 3人のユダヤ人兄弟ビエルスキを描いたヒューマン戦争ドラマ。ユダヤ人がユダヤ人を救ったこの話は実話をベースにしており、原作は1993年のネハマ・テック教授による「ディファイアンス ヒトラーと闘った3兄弟」。ビエルスキ3兄弟はドイツ軍侵攻によって両親を殺害されたのち森に逃げ込み、それから約 3年間もの間ユダヤ人パルチザンとしてドイツ軍と闘いながら森の中にキャンプを形成するのだ。 ユダヤ人以外の者がユダヤ人の命を救う話は「シンドラーのリスト(1993)」「戦火の奇跡~ユダヤを救った男~(2002)」「ゲシュタポ・地獄の追跡 ホロコーストの子供たち (2004)」「日本のシンドラー杉原千畝物語・六千人の命のビザ(2005)」といった映画で知られているが、本作はユダヤ人レジスタンスの中での救命劇といったものになる。当時多くのユダヤ人が強制収容所に送られたり、虐殺されたのだが、それから逃れたユダヤ人が各地でレジスタンス(抵抗)活動を行っていたことは知られている。だが、その多くは武器を持った若者らであり、対ドイツへの破壊活動を主としたものであった。ビエルスキの長兄トゥヴィアは「10人のドイツ兵を殺すより、おれは一人のユダヤ人の老婆を救う」として、戦えない老人や女子供の救済に主眼を置いたことが注目されているのだそうだ。ちなみに、ユダヤ人レジスタンスが登場する映画としては「聖週間 (1995)」「アップライジング(2001)」「戦場のピアニスト (2003 )」が有名。 本作は、勇敢な行為と美しい人情に感銘を受けるものではあるが、決して美化された場面ばかりではないのが好感だ。人の命を救うためには、ドイツ兵や協力者の殺害、略奪、復讐、そして造反者の粛清など避けて通れぬ道がある。確かに1,200名の命を救った事実に評価すべき側面はあるが、そのために犯した罪は正当化されるわけではない。本作では、その行為が正しいかどうかということではなく、生きるためには何を選択すべきなのか、人間の性とは何なのかということを強く感じ取ることができた。生き残るためには、ドイツ人、ロシア人、ユダヤ人だろうと関係なく、主義・思想など何の意味もない。そこに必要なのは統制と義務だけだ。従って、本作を美談としてではなく、人間の本能を表現したものとして捉えるのがいいだろう。そういう意味で「戦場のピアニスト (2003)」と似たテーマ性を感じた。 内容的には、1941年6月のドイツ軍侵攻から約3年間の、恐怖と苦難に満ちた逃亡劇の中で、多くの同胞を救おうとする心情と葛藤、その共同体を統括するリーダーの苦渋などが良く描かれている。だが、残念なことに3年間の逃亡の恐怖と苦難というものは余りリアルに感じられなかった。たった2時間で3年間の森の中の生活を表すのは難しかったのだろうが、ベラルーシの極寒や極度の飢え、そして敵の恐怖というものが真に迫ってこない。1,200名もが森の中で生活するのだから、相当な食糧や日用品不足に襲われていただろうと思われるが、登場する役者たちが思いのほかふくよかなのが・・・。そう言う点では「戦場のピアニスト」の寒さや飢えの表現は素晴らしかったと言える。 また、ドイツ軍や地元警察との関係や、彼らからのプレッシャーも今一つわかりにくい。1,200人もの人間が森の中で暮す訳だから、相当見つかりにくい森の奥に潜んでいたのだろうか。とはいえ、食料調達のためにはそう深くにいては困るだろう。それとも実際にはそれほど執拗にユダヤ人パルチザン狩りは行われていなかったのか、赤軍に守られていたのか。ゲットーからの集団脱走が出来るくらいだから、実は駐屯するドイツ軍の支配力はさほど強くなかったのかもしれない。映画の中からはそういう背景が余り見えてこず、逃亡劇というリアル感が感じにくく、3年間がたかだか数カ月といった印象だった。 監督は「ラストサムライ(2003) 」「ブラッド・ダイヤモンド(2007)」のエドワード・ズウィックで、ドラマ性を重視しリアル感を追随するタイプではないのがその要因の一つかもしれない。 ロケ地はリトアニアだそうで、実際にリトアニアでも本作と同様なドイツ軍によるユダヤ人虐殺があったそうだ。地形的にも似ているので、森の雰囲気は良く出ているのだろう。森の中に作ったログハウス風のキャンプの雰囲気もいい。ただ、最盛期にはパン屋、靴屋、床屋のほか、学校、刑務所まであったというので、そこまで復元してくれたら面白かったかも。 主役のビエルスキ長兄トゥヴィア役はダニエル・クレイグ。彼が終始健康的すぎるのも逃亡劇の雰囲気を阻害したが、ちょっとユダヤ人役のイメージでもない。恋人リルカ役は美女アレクサ・タヴァロス。こちらも終始ふくよかなのが・・・(笑)。 なお、ソヴィエト赤軍パルチザンと共闘する場面もあるので、一部ロシア語で話しているが、その他は英語。本来はベラルーシ語かロシア語だと思われるが、まあ仕方のないところか。 兵器類では稼働しているIV号戦車が一台登場。長身砲搭載なのでG、H型あたりのイメージだろうか。航空機ではキャンプを爆撃するJu87急降下爆撃機スツーカやJu86爆撃機?が登場するが、多分CG。銃撃戦はやや淡泊ながらも結構リアルで、短機関銃やライフルでの銃撃、着弾映像はしっかりしている。ただ、爆撃、戦車弾の着弾シーンはちょっとしょぼいかも。 全般に重い題材を良くまとめあげており、ホロコーストの歴史の一部を掘り起こしたという意味で重要な映画の一つになるだろう。ストーリー性も問題なく、映画作品として堪能できる出来栄えだ。ただ欲を言えば、その凄惨さをもう少し表現しても良かったのでは、という点で若干の減点要素となってしまった。興奮度★★★沈痛度★★★★爽快度★★感涙度★★★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1941年6月、ベラルーシにドイツ軍が侵攻。8月になり、ホロコースト政策により、地元警察の協力者のもとユダヤ人の連行と殺害が始まる。ビエルスキ家でも両親が殺され、次男のズシュ、三男アザエルは幼い四男のアローンを連れて、近くのリピクザンスカの森に逃げ込む。そこに長兄のトヴィアが合流し、さらに森にのげ込んでいたユダヤ人たちが合流し始める。トヴィアは食糧と武器調達のため父の友人コスチュクの家に行き、食糧と武器を入手するも、そこにユダヤ人狩りをしている警察署長ベルニッチがやってくる。両親を殺した犯人である。コスチュクの納屋にはほかのユダヤ人も隠れており、トヴィアは彼らを連れていく。彼らの中にはトヴィアの恩師ハレッツや編集者のイザックらもいた。 トヴィアは復讐のためベルニッチの家に行き、息子二人とともにベルニッチを射殺する。しかし、復讐した後の気分がすぐれない。 10月になり、十人に膨れ上がった彼らは簡単なログハウスを造り、生活を始める。そこにホロディッシュ町から逃れてきた二人が合流する。ホロディッシュにはズシュの妻子が残っていたが、殺されていた。ズシュは自暴自棄になるが、すぐに武器を取りドイツ軍への抵抗を意識するようになる。レジスタンス化し、ドイツ軍から武器を奪い、農民から食料を略奪するようになり、農民からも厭われるようになる。そんな中、ドイツ軍へのテロ攻撃の際に二人が死亡、アザエルが行方不明になる。戦闘に意識を強くするズシュだったが、トヴィアはあくまで森での生活を重視する。そんなトヴィアを腰抜けと呼ぶものもいた。 アザエルはコスチュクの家にベラとハイアという女性とともに匿われていた。コスチュクはユダヤ人隠匿容疑で処刑されていた。森ではさらに人々が増え始め、ズシュはベラと、アザエルはハイアと恋仲になっていく。ノバグルドクの町でトヴィアの妻が殺された情報が入り、さらに農民の案内で警察部隊がキャンプに攻めてくる。なんとか、撃退したものの彼らは森の中で流浪の旅を余儀なくされる。 その後、偵察に出たトヴィアとズシュはソヴィエト赤軍パルチザン部隊と出会い、指揮官のヴィクトル・パンチェンコ とグラモフと会談のうえ、共通の敵と戦うため協力することとなる。その時、バラノヴィッチのゲットーが閉鎖されユダヤ人が処刑されるとの情報が入り、トヴィアは全員の脱走救出に向かおうとするが、人数が増えることを危惧したズシュは対立し、戦う仲間を連れて赤軍のもとに行ってしまう。 トヴィアはゲットーでユダヤ人を説得し、結局全員の脱走に成功する。森のユダヤ人は1,000人以上に増え、時計職人や看護師など各職業を生かしてキャンプを作っていく。アザエルはハイアと結婚する。 12月になり寒さに凍える中、食糧も何日も取れない日が続く。さらにチフスが蔓延し、ペニシリンが必要だが赤軍はわけてくれない。そこで、ズシュは警察署を襲撃して薬を奪取するが、仲間を失い自身も負傷する。また、キャンプでは食料調達班のアルカディが不公平な横暴を始め、リーダーの座を奪おうとする。トヴィアはアルカディアを射殺し、キャンプの統制を保とうとする。 1942年春になり、トヴィアはゲットーから来た女子大生リルカと恋仲になる。また、妊娠は禁止にしていたが、ドイツ兵にレイプされた女性が出産する。そんな中、見張りについていたアローンがドイツ兵を捕虜にしてくる。怒りに駆られるユダヤ人は、ドイツ兵を撲殺するが、トヴィアはそれを見て見ぬふりをする。そのドイツ兵の書類から2日後にドイツ軍が森を包囲することが判明する。ソヴィエト軍は森からの撤退を決め、トヴィアたちは取り残されることに。 出エジプトの日、トヴィアは森の脱出を決意し準備を始めるが、上空にドイツ軍の爆撃機が飛来し攻撃を受ける。さらに地上軍の攻撃が予想されるため、アザエルら数人が後衛を買って出る。その間にトヴィアたちは森を後にする。しかし、行く手に巨大な川が広がっており、老人子供らのいるトヴィアは絶望し渡る決断がつかない。そこに生き残ったアザエルが追いつき、奇跡を起こそうとトヴィアを促すのだった。トヴィアたちはやっとの思いで川をわたりきるが、ハレッツは息絶え、さらに戦車を有するドイツ軍が待ち構えていた。イザックも戦死し、窮地に追い込まれたトヴィアたちだったが、そこにズシュらの部隊が現れる。戦車を撃破し、ユダヤ人たちは命拾いする。ズシュは撤退する赤軍から離れ、再びトヴィアたちに合流することに。 その後、1944年7月ドイツが撤退するまで彼らは森の中をさ迷い歩くのだった。 戦後、ズシュとトヴィアはアメリカに移住した。アザエルは戦中にソヴィエト軍に召集されて戦死した。
2009年02月16日
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2008 アメリカ 監督:キンバリー・ピアース出演者:ライアン・フィリップ、アビー・コーニッシュ、ジョセフ・ゴードン・レヴィット、チャニング・テイタムほか112分 カラー STOP-LOSSストップ・ロス 戦火の逃亡者 スペシャル・コレクターズ・エディション(DVD) ◆20%OFF! DVD検索「ストップ・ロス」を探す(楽天) 最近とみに増えているイラク戦争を題材にした映画の一つ。帰還者の苦悩や戦争後遺症を主題にするオーソドックスな作品が多い中、本作品は「ストップ・ロス」、つまり大統領令による強制的な兵役延長に焦点をあてた異色作となっている。 前半部は、他作品と同様にイラク戦で精神的打撃を受けた分隊長とその仲間が、英雄として勲章を得ながらも、なかなか元の世界に馴染むことが出来ず、姿のない戦争後遺症と戦っていく姿が描かれている。後半になると、除隊するつもりがストップ・ロスをかけられてしまった二等軍曹が、兵役拒否(脱走兵)を試みる様子が描かれる。 そこにベトナム戦、イラク戦に共通する、戦争の意義、戦死者の存在、戦友への義理などが深く関わってくる。何故、主人公が英雄として勲章を得るほどの活躍を見せながらも除隊したいのか。ストップ・ロスをかけられ、犯罪者となることを覚悟してまで兵役拒否を望むのか。そして、未だ戦場にいる戦友を見捨てて、自分だけが自由になることができるのか。結局はほとんどのアメリカ軍物映画において回帰する結論に達するのだが、アメリカの持つ矛盾と、アメリカ人の持つ正義感のせめぎ合いがそこにはある。人は行動するのに大義や理屈を求める。だが、正義や紙に書いたルールだけに縛られるわけではない。矛盾した行動に再び大義やルールを探す旅を続けなければならないのだ。兵士の気持ちは兵士になった者にしかわからないという。死を介在とした友情には、正義も悪もないのだということを痛感させられる。 全般にストーリー性はしっかりとしており、映画としての見応えはそこそこある。エピソードの量も丁度良く、登場人物それぞれの性格付けもしっかりしており、メリハリの利いた流れが好感。ただ、淡々とした心理描写はやや浅めで、精神的苦悩や葛藤シーンでの深みに欠けるのが残念。特に、要所要所でのエピソードのきっかけとなるべき心理描写が甘いために、転機の理由がわかりにくいので、ストーリーに入れ込みにくいのが欠点。実は、DVDのおまけで未公開カットシーンが収録されているが、それを見て納得できることが多かった。主人公二人の友情度合い、主人公親子の絆の強さ、何故舞台がテキサスなのか、など多少長くなってもある程度盛り込んでおいてもらったら良い作品になっただろうと思われる。やや蛇足的な逃亡ドライブシーンをカットしてでも、上記のエピソードは入れて欲しかった。監督の意志だったのかも知れないが、リアリティ重視というよりは、青春ロードムービー的な雰囲気が強かった。 さて、本作の主人公らは、イラク駐留のシャドー3分隊所属のブランドン二等軍曹、スティーブ三等軍曹らテキサス州出身者となっている。軍服のパッチは良くわからないが「110」「infantry」の文字が見えるので第28師団第2旅団第110歩兵連隊所属か。ストップ・ロスでは第一旅団に編入ともなっている。 戦闘シーンはイラク人テロリストの追撃行動がメインとなっており、敵RPGや銃撃戦シーンはそこそこの出来。シーン自体の量は少なめなのでアクションとしては物足りない程度。途中で戦死者の紹介シーンが歌に乗せてあり、もしかもすると実話?ベースなのかもしれない。 なお、ストップ・ロスの詳しいことは分からないが、映画中ではイラク戦争で8万人の兵士が受けたと出てくる。一度赴任すればあとは自由除隊かと思っていたが、想像以上の強制的兵役延長があるようだ。一度行ったらもう結構という気持ちは十分理解できるが、またあと2年とか言われたら確かに気が狂いそうになるかもしれない。 ややストーリーに深みが足りないのと、分かりづらいシーンがあるが、レアな題材を取り上げた、全般に良くできた映画だと言える。影像もチープ感はないので見る価値は十分にある。興奮度★★★★沈痛度★★★爽快度★★感涙度★★★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 2007年イラクのティクリート。帰還まであと28日に迫り、検問にあたっていたシャドー3分隊のブランドン・L・キング二等軍曹の分隊は検問に銃撃を加えてきたテロリストを追って市街地に入る。しかし、そこではテロリストが待ち伏せており、激しい銃撃戦・ロケット弾が飛び交う。ハービー・ランクフォード、ブリーチャー・コルソンは銃弾を受けて戦死。リコ・ロドリゲスはロケット弾をかばって負傷する。ブランドンの制止にも関わらず親友のスティーブ・シュライバー三等軍曹が家の中に突入し、足を撃たれて孤立してしまう。ブランドンはやむなく助けに入り、敵を掃討するが、謝って民間人の親子も殺してしまう。 帰還したブランドンらは地元のテキサス州ブラゾスで帰還パーティに出迎えられ、負傷章、名誉勲章、青銅星章を授与される。スティーブとブランドンは除隊するつもりでおり、スティーブはミッシェルと結婚するつもりでいる。しかし、戦争後遺症でスティーブはミッシェルを殴ってしまう。また、トミーは妻ジーニーに逃げられ、酒に溺れるようになる。 ブランドンは除隊するつもりだったが、ブート中佐により「ストップ・ロス」となり第一旅団編入として兵役延長を告げられる。これに怒ったブランドンは脱走を決意し、ワシントンの上院議員に相談することにする。その逃亡にミッシェルが一緒に行動することとなる。一方、トミーは酒で問題を起こし除隊寸前になったうえ、元妻のジーニーに接近禁止令が出される。スティーブはトミーを救うためブランドンに戻ってくるよう頼む。 ブランドンは移動途中で三人組にからまれるが、その際イラク人に見えてきて瀕死の重傷を負わせてしまう。また、同じく脱走兵の家族と会うが、社会保障も得られず、カナダに越境する計画であることを聞かされる。 スティーブはブート中佐の口車に乗せられ、狙撃兵として再入隊を決意する。ミッシェルはもうこれ以上待てないとして別れを告げる。 ブランドンは上院議員と面会を求めるが、上院議員は脱走兵に会うわけにもいかず断られる。仕方なく、海外に逃亡することを決意し、1000ドルでメキシコへ逃げるため、逃がし屋のカールソンに連絡を取る。片道で二度と戻ることは出来ないのだと強く言われ、ブランドンは最後に家族と別れをしに戻る。父親はブランドンとのドライブイン経営を夢見ていたが、母親は会えないことよりも生きていることを尊重し、ブランドンの選択を受け入れる。スティーブは自分を見捨てるのかと殴り合いとなる。一方、トミーは全てに絶望し、牧場で自殺を図る。 メキシコ国境。ブランドンは、やはり仲間を裏切ることはできないと、軍の再入隊に応じるのだった。
2009年02月13日
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2004 イタリア 監督:レオーネ・ポンプッチ出演者:ケン・デュケン、ジャスミン・トリンカ、エンニオ・ファンタスティキーニ、エリアナ・ミリオほか前編105分後編93分 カラー HIDDEN CHILDRENゲシュタポ・地獄の追跡 ホロコーストの子供たち[前編](DVD) ◆20%OFF! DVD検索「ゲシュタポ 地獄の追跡」を探す(楽天) ドイツナチスのホロコースト政策(ユダヤ人抹殺)から、子供たちを中立国スイスに逃がそうとするユダヤ人やイタリア人の苦闘を描いたシリアス系ドラマ。一応史実をもとに練られた作品のようで、ドイツやポーランドにいたユダヤ人の子供たちがイタリア経由で中立国スイスに逃れたという史実があるらしい。 想像を絶するユダヤ人迫害で命を落とす大勢の大人達の中、何とか偽装し隠れながら子供たちを救おうとするユダヤ人や、ドイツ軍の圧力にもめげずにユダヤ人を救おうとするイタリア人の姿がなんとも痛々しい。主人公であるユダヤ人教師、逃亡を手助けするレジスタンス、イタリア系ユダヤ人組織デラセムの責任者、詐欺師のイタリア系ユダヤ人、ドイツ軍に抵抗するイタリア軍士官、執拗に子供たちを追いかけるドイツSS将校など、それぞれが実に個性的な役割と性格を持っており、見ていて小気味良い。慎重で臆病だったり、陽気で脳天気な性格の持ち主らが互いに助け合いながら、解決していく様は物語としては解りやすい。ただ、ちょっとシリアス感を阻害するけれど。また、ユダヤ人の子供たちが何ともかわいらしく愛おしい。本当に弱者である子供たちは、ただただ大人たちに連れられて長い道のりを歩いていくのだ。 幾度にも渡る逃亡劇は、やや断片的編集でわかりにくい箇所もあるが、全体にハラハラし通しで、かなりの見応えがある。メリハリの利いたストーリーと個性豊かな登場人物は秀作の部類にはいる。 しかし、問題は映画の長さだ。前後編で200分(3時間20分)は長すぎる。シリーズもののドラマならばともかく、1本の映画としてはかなり疲れてしまう。余りに多くのエピソードが入り込みすぎていて、もう少し整理してもらっても良かったと感じた。映画としての完成度としては減点要素となってしまっているのが残念。 近年、「シンドラー」に似た諸外国のユダヤ人救出劇が明るみになっているが、本作もその部類に位置づけられよう。そもそもイタリアはユダヤ人宥和政策を取っていた立場ゆえ、こうしたホロコーストに対する反駁というものは、まま存在したようだ。その辺りのイタリアとドイツの微妙な温度差関係がなかなか興味深い。また、ユダヤ人の視点としても、初期段階でのホロコーストに対する認識の甘さや、ユダヤ人としての尊厳、生き残るための苦肉の策など、実に深いものがある。ユダヤ人が「ガス室送り」をもっと早く知っていれば・・・と思わざるを得ない、哀しいシーンも多い。 全体にまあまあの出来だが、やはり長時間映画というのが最大のネックとなった。長い分、感動等のインパクトが分散されてしまった感がある。もう少しコンパクトに製作されていれば、より良い作品になったであろうに。興奮度★★沈痛度★★★★爽快度★★★感涙度★★★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1941年のウイーン。シュミッツ夫妻の子供ロラとトマスは、ドイツ軍の子供狩りから逃れるため、子供だけでグラーツ駅に向けて列車に乗り込む。同様にオットーもまた一人で列車に乗る。実は、ある団体(イタリア系ユダヤ人組織デラセム)の手引きでユダヤ人の子供たちが匿われていたのだ。ドイツ軍のSS大佐は何百人も消えたユダヤ人の子供の行方を探り始める。一人でも逃げたことが公になれば、メンツに関わるからだ。ユダヤ人の子供のリストを探して関係者が処刑されていく。 ユダヤ人の若者テオ・ドライアン、ミラ・ロゼンバーグの引率で、集められたユダヤ人の子供たちはユーゴスラビアに越境し、ザグレブのユダヤ人学校に隠れる。しかし、そこにもドイツ軍の手が伸び、校長はドイツ軍に捕まり強制収容所送りとなってしまう。校長の息子で教師のヨセフ・ペルツァーは、父親にユダヤ人の子供たちを逃すよう託される。当初は無理だと思っていたが、デラセムの責任者ディエゴやミラらに後押しされて、イタリア領スロベニアに逃がすことを決意する。テオが女遊びで窮地にはまったところを助けたイタリア系ユダヤ人マルコヴィッチも加わり、一行は列車でリュブリャナ駅まで向かう。列車の中でユダヤ人母子(薬剤師)も加わり、リュブリャナ駅に到着するが、そこにはドイツ軍SS大佐らが待ちかまえていた。強制連行されそうになるが、鉄道駅員や鉄道警備隊のイタリア軍少佐の機転と温情でなんとか逃れることが出来る。 イタリア軍は彼らを隠れ家に連れて行くが、そこはパルチザンの出没するエリアでもあった。食料にも事欠き、マルコヴィッチが得意の女たらしで食料を得てくる。そんな中、彼らは負傷したパルチザンらと出会い、薬剤師のユダヤ人女性が治療にあたる。また、娘のショシャがパルチザンの男と懇意になっていく。パルチザンと一緒にいるところをイタリア軍に見つかってはやばいが、人道上彼らを追い出すことが出来ない。やがてパルチザンは死亡しパルチザンの一行は出て行くが、そこにテオが付いていく。また、食料調達のため街にでたミラは捕まってしまうが、あのイタリア軍将校に助けられる。だが、もはや彼らをその場所に匿っていることもできず、一行は移動を余儀なくされる。また、テオが捕まってしまい、処刑寸前のところでまたもやイタリア人将校によって助けられる。 一行は戦闘地域を抜けてヴェローナ駅に向かうが、途中でまたもやドイツ軍に見つかってしまう。駅のイタリア軍警備隊とデラセムの機転で、イタリア系ユダヤ人の可能性があるということで、何とかドイツ軍に捕まらずに済み、モデナ近郊の邸宅に隠れる。地元民との接触を禁じられるが、ショシャは地元の青年オルモと出会ってしまう。ショシャはパルチザンの子を宿していたが、オルモの愛は本物だった。 1943年7月25日、ムッソリーニが失脚。新首相にパドリオ司令官がなり、一行は喜ぶが、まだドイツ軍の支配は続いていた。だが、赤十字の働きにより徐々に子供たちの父母の動向が判明してくる。それに連れて、収容所やガス室の存在が明白となり、ほとんどの父母が死んでいることがわかってくる。ドイツ軍将校を殺そうとするものや自殺しようとするものも出てくるが、ペルツァーはそれをやめさせる。 デラセムの存在がドイツ軍にばれ、ディエゴが捕まってしまう。ユダヤ人の名前リストは廃棄し、記憶していたため名簿はドイツ軍に渡らなかったが、一行はさらに逃げる必要に迫られ、川向かいの家に向かう。しかし、そこにもドイツ軍がやってきて、テオが単身立ち向かって死亡する。その間に一行はトラックでスイス国境に向けて移動。途中でガス欠になり徒歩で国境に向かう。国境で密入国の案内人を捜し出し、一行はついに中立地帯に入るが、ドイツ軍が迫ってくる。スイス軍とドイツ軍が対峙する中、入国を断るスイス軍兵士に「子供を見捨てる気か」と迫り、ついにスイスに入国することが出来るのだった。ミラだけは戦って死んだテオを見て、私も戦うとして残るのだった。
2009年02月10日
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2008 アメリカ 監督:ダニエル・J・ピコ出演者:キース・コンプトン、ブリアーナ・ウィーバー、サーカス・ルザルースキーほか98分 カラー FAREWELL DARKNESSジャーヘッド・レスキュー(DVD) ◆20%OFF! DVD検索「ジャーヘッド・レスキュー」を探す(楽天) イラク戦争から戻った海兵隊員が織りなす家族との確執を描いたヒューマンドラマ。最近良く映画になりがちな帰還兵の苦悩も描かれてはいるが、そちらがメインではなく、むしろ彼の生い立ちや家族との確執がメインである。海兵隊に入隊する若者達が、往々にして持つ家庭の問題を著しているとも言えようか。海兵隊の勧誘はなかなか強引なものとして知られており、犯罪に手を染めたり、家庭環境に問題を有する若者が入隊し、そして除隊しているのも現実の姿なのだろう。入隊後に得られる独特の戦友愛と裏腹に、帰国後の社会の受容とのギャップはやはり厳しいものがあるようだ。本作の場合、他作にありがちな著しい恋人や友人等の裏切りというものがない分、比較的おだやかではあるが、それでも軍隊に逃げ口を見いださざるを得ない、社会の閉鎖性というものが重くのしかかってくる。 短尺の映画であり、内容的には比較的コンパクトな部類。帰還し、恋人を巻き込みながら、父親や母親との確執に直面していくだけの単純ストーリーながら、意外にも映画に引き込まれていく。映像的にはかなりブツ切りの編集で、やや謎の多いストーリーはサスペンス的要素も併せ持っているとも言える。言い換えれば、わかりにくい場面も多いが、最終的にはヒューマンドラマとして成功した部類か。結構重めの題材なので、このヒューマンドラマ展開に興味が得られない人にとっては、ちょっときついかも。 本作の主人公は第4海兵連隊第3大隊目標攻撃部隊狙撃小隊所属となっている。戦闘シーン自体はほとんどなく、冒頭にテロ攻撃にさらされたシーンがあるのみ。ややグロい影像もあり、以降の展開に期待(危惧)を抱かせるが、全く裏切られる。 戦争映画として一応は取り上げるが、イラク戦争は単なるヒューマンドラマの背景でしかなく、ヒューマンドラマ中心の作品であると思っておいた方がよいだろう。興奮度★★沈痛度★★★★爽快度★感涙度★★★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) イラクに派兵されていた海兵隊マイケル一等兵は、テロ攻撃を目の当たりにし、黒こげになった民間人を射殺する。こうしたトラウマを抱えながら4年間の兵役を終え、帰国したマイケルだったが、本国の日常生活に馴染むことが出来ない。 彼女のローズは、マイケルのことを待っていたが、彼女にも辛く当たってしまう。食堂で海兵隊面接官ウェイクリー軍曹と出会うが、それも不愉快だった。養育親のミセスAの所にも行くがしっくりと来ない。実はマイケルは父親の虐待によりミセスAのところに預けられていたのだ。仲間と起こした窃盗事件で逮捕され、マイケルはやむなく海兵隊に入隊した経緯があった。その従軍中に母親は父親の暴力により首つり自殺していた。行き場のない怒りに、マイケルは父親を殺害することを決意する。いつも父親に怯え、誉めて貰おうとしていた。母親もまた父から逃げることができず、マイケルにとっては共犯であった。 昔の仲間のドギーとポールを強引に頼み込んで協力させ、父親の所まで連れて行くよう頼む。ローズはマイケルを引き留めようとするが、マイケルは聞かずに飛び出していく。 ドギーらは裏切って引き留めようとするが、それを無視してマイケルは父親の所にいく。父はすっかり弱っており、銃を向けるマイケルに、殺さないでくれと泣きつくのだった。マイケルはもう二度と会わないと言い残して、ローズの元に帰っていく。
2009年02月08日
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2007 中国 監督:マー・ルンション出演者:ロン・ハンション、シャオ・ユンポン、チャン・イーミンほか110分 カラー MISSION FOR PEACE DVD検索「パトリオット・ミッション(DVD) ◆20%OFF!」を探す(楽天) 冒頭から申し訳ないが、はっきり言ってつまらない。しかも、これ映画じゃない。影像はハンディビデオレベルで、中国軍による演習風景の顛末をストーリー仕立てにはしてあるが、単なる軍事演習ドキュメンタリーにしか見えず、日本の自衛隊で売っている演習ものビデオの中国版といった感じ。しかも、演習ドキュメンタリーならばまだ楽しみ方もあるのだが、大部分は軍から提供された演習風景に、訳の分からない中国軍人マンセー的ストーリーが、ブツ切り、支離滅裂に展開されるので、内容なんてまるでないに等しい。ただただ、陸海空軍の全ての兵器が無意味に登場してくるだけ。 まあ、製作が娯楽映画として作ったのではなく、軍賞賛や若者への入隊促進的目的のプロモーション的映画だったのだとすれば、理解できなくもないが、見る価値はない。パッケージ説明では2005年のロシア・中国共同軍事演習の真実、とか書いてあるが、多分ほとんど関係ないと思う。 唯一評価するとすれば、中国軍兵器が陸海空ともにこれでもかという位登場すること。軍の全面バックアップだけに、惜しげもなく戦車、装甲車、ミサイル、航空機、艦船が映し出される。ただし、前にも書いたが軍提供の映像も多いと思われ、兵器類は決して最新のものではなく、実演習時の記録影像も多用されているようだ。従って、兵器影像の割にエキストラの兵士の数は少なく、スケール感は乏しい。 もう一点、中国が軍の最新技術を誇示しようとする意図があるのだろう、演習風景で衛星や赤外線装置、レーダーなどの最新兵器が出てくるのが興味深い。中国軍と言えば、もっと泥臭いイメージがあるのだが、自衛隊並の演習を行う中国軍はかなり違和感を感じる(笑)。もちろん、これも軍事機密があるので、出来もしないことをさぞ出来るように描いたり、その逆もあるだろう。 ちなみに、地上兵器では85-II式戦車、90式6輪装輪装甲車、97式歩兵戦闘車、水陸両用戦車、トラック搭載型ロケット砲、4連装対空戦車などの姿が見える。航空機ではJ-11(殲撃十一型・SU-27)戦闘攻撃機やH-6(轟炸六型)爆撃機、KJ-2000(空警二千型)空中早期警戒機、ミルH- 8ヘリ、ドーファン型ヘリ、海軍では潜水艦、ミサイル駆逐艦などの影像がある。 演習を行っているのは「アイアン師団」と呼ばれる中国人民解放軍最強の師団だそうで、劇中では日本軍相手に戦ったこともあるそうだ。仮想的になるのは「タイガー師団」と呼ばれ、それぞれ緑と白黒の迷彩服を着ているのでわかりやすい。師団長は大校(大佐)で副師団長と連隊長は上校(上佐)となっている。演習本部指揮班では中将クラスが検閲する中、少将クラスが演習指揮監督となっている。副指揮官クラスは大校クラスが占めている。 とにかく作品としての価値は乏しくつまらない。加えて、いくら中国の兵器が出てきたとしても、資料価値も乏しい。うーん、これは映画なんだろうか。興奮度★沈痛度★爽快度★感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 2005年8月に中国とロシアは日本を仮想敵とする共同軍事演習を実施することになる。それに先んじる2004年、中国屈指の「アイアン師団」は過酷な設定のうえ、軍事演習を行っていた。師団長のチェン・ハイタオは敵に向けて師団を勧めるが、演習指揮班の指揮官タン少将は妨害電波、電話線の切断、燃料切れ、地雷埋設など過酷な設定を課し、チェン師団長はその対応に苦慮する。副指揮官のロン・ハンション大佐はチェン師団長に同情するが、伝達ミスをしたヤオ・ホーシン副指揮官が解任されるなど、指揮班の厳しい雰囲気は崩れなかった。 チェン師団長は痺れをきらして、演習中に指揮班のタン少将に直訴する。タン少将は冷酷にチェン師団長の戦死を宣告する。チェン師団長は退役を決心し、後任にロン・ハンション大佐が任命される。 ロン師団長は演習で、逆に指揮班に対して、10日のところを4日で目的地に到着し、かつ仮想敵には航空機をつけてもいいと提案する。無謀なロン師団長の提案だったが、ロン師団長は用意周到な作戦があった。仮想敵はヤオ師団長のタイガー師団で、偵察衛星や空軍のマウ師団長の部隊も投入できた。ロン師団長は偵察衛星の盲点をつき、部隊の一部に陽動作戦をさせることで仮想敵を混乱に陥れる。敵戦闘攻撃機やヘリ、爆撃機も撃墜し、指揮班により第一連隊を全滅させられ、ホンシャン鉄橋の死守に失敗するも、ブリッジ連隊による川への架橋作戦で見事目的地に到達する。 抜群の成績をおさめたアイアン師団は2005年8月25日、チンタオでのロシア軍との共同演習に参加する。ロシア軍のリオノフ師団長、空軍、海軍との協力により無事演習を成功させるのだった。
2009年02月06日
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2005 アメリカ 監督:アドリナーナ・ボッシュ出演者:ドキュメンタリー115分 モノクロ&カラー THE AMERICAN EXPERIENCE FIDEL CASTROフィデル・カストロ×キューバ革命(DVD) ◆20%OFF! DVD検索「フィデル・カストロ×キューバ革命」を探す(楽天) キューバ革命、キューバ建国の礎となった前評議会議長フィデル・カストロを題材にしたドキュメンタリー。記録映像のモノクロと関係者証言のカラーを混ぜた映像で構成され、カストロの生い立ちから現在に至るまでを、ほぼ時系列に追っていく。 かなり盛りだくさんの内容のため、事象の展開はかなり早く、次から次へと登場する証言者の数も20人近くに上る。正直言って画面の字幕を追いかけるのが精一杯。背後に映る記録映像も実に貴重なものではあるのだが、1回の視聴ではなかなか掴みきれないだろう。記録映画としての作り方、編集の仕方はお世辞にもうまいとは思えない。視聴者をぐいと引き込む魅力も、起承転結もほとんどない。だが、最後まで画面に釘付けにされたのは、やはりフィデル・カストロの波瀾万丈の人生の魅力なのだろう。そういう意味で、本作はドキュメンタリーとして良作だったと言える。 記録映像中のフィデル・カストロの多くはキューバ革命以降のものが大多数だが、若き頃のカストロは思ったよりも太っている。現在の髭じいさんの姿に至るまでの過程がよく分かるのが面白い。 元スペイン軍人だった父アンヘルの息子フィデル・カストロの誕生から始まる本作は、カストロの人となりを理解するには良作だ。かなり素早い展開の映画ながらも、細かい部分までしっかりと描写しているので、なんとなくでも理解できてくるのだ。 特に、彼の幼少期の逸話は興味深く、私生児(メイドの子)として生まれたフィデルが、ラウルを含む3人兄弟揃って乱暴者で学校を退学になったり、「変人」というあだ名をつけられたり、自転車のチキンレースで壁に激突して気絶するなど、相当な粗暴者であったことが明かされる。また、弁護士になるなどかなりの秀才ではあったが、家庭を顧みない、他人に感情移入できないタイプでもあったようだ。これらが、フィデル・カストロの革命人生を作り上げた人格の一部なのだろう。 また、女性関係では愛人ナタリーと妻ミルタへの手紙が看守の手違いで反対に渡ってしまったことも明かされる。 キューバ革命闘争中については、他の映画等でも詳しく描かれており、それほど目新しい内容はないが、キューバ革命以降についての描写は再び詳しくなる。特に、アメリカのニクソンやケネディとのやり取り、ソヴィエトのフルシチョフ、ゴルバチョフとのやり取りが興味深い。 国民の前で、権力や地位、金銭にはこだわらないと宣言したフィデル・カストロだったが、結局選挙を実行せず、権力に固執していく過程が手に取るようにわかる。思うように経済政策が立ちゆかず、理想と現実の間で葛藤、大国の権力に反抗しながらも、自らは国民に権力を行使していく矛盾。そうしたものがフィデル・カストロに波のように押し寄せ、次第にフィデルの表情に疲労と絶望の色が漂ってくる。アメリカ、ソヴィエトに次いで「第3の大国」として世界に影響を与えようとする野望は、いつしか空回りしてゆき、世界各国のみならず、国民からも背を向けられていくのだ。 結局、彼は1人で何でもしようとし、全てを掌握しようとしたのだ。「コマンダンテ(2003)」の中でもフィデルが語るように、誰も信用していなかったことが最大の欠陥だった。 カストロ体制のキューバは今なお現存している。ドキュメンタリーは現在までの姿を描いているが、今後どうなっていくのか非常に興味をわかせる。本作はややアメリカ寄りの内容ではあるけれど、カストロを評価する者にとっても、そうでない者にとっても十分に楽しめる内容になっているのではないだろうか。キューバ史を知るならちょうどよい入門編と思われる。証言者登場人物C・A・モンタネール(作家)、G・ガイヤー(ジャーナリスト)、N・フエンデス(作家)、M・P・スタビレ(作家)、ジェームス・ブライト(国際関係論教授)、ブライアン・ラテル(CIA分析官)、J・イグナチオ・ラスコ(級友)、「中国人」エスキュバル(学友)、ホルヘ・ドミンゲス(国際関係論教授)、R・ディアス・バラート(義兄)、A・F・レブエルタ(娘 ナタリーの子)、R・ボフイル(人権擁護活動家)、W・レオグランデ(政治学教授)、カルロス・フランキ(ジャーナリスト)、H・マトス(革命指導者)、A・デュラン(退役軍人亡命者)、T・ナフタリ(作家)、A・イダルゴ(政府関係者)、ウエイン・スミス(米国外交官)、A・オッペンハイマー(ジャーナリスト)興奮度★★★沈痛度★★爽快度★感涙度★ あらすじは容量オーバーなので、下記のリンクでご覧下さい。フィデル・カストロ× キューバ革命(2005米)
2009年02月03日
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2008 スペイン・フランス・アメリカ 監督:スティーブン・ソダーバーグ出演者:ベニチオ・デル・トロ、フランカ・ポテンサ、ルー・ダイアモンド・フィリップスほか133分 カラー CHE part2:The Argentine チェ・ゲバラの半生を描いたドキュメンタリードラマの後半第二部。本作ではキューバ革命を成功させたゲバラが、1965年にカストロのもとを離れたところから始まり、1966年のボリビア革命闘争を主題として描かれている。ご存じのとおり、ゲバラはボリビア武力闘争の途中1967年に処刑され39歳の人生を閉じることとなるが、そのため第一部の華々しく勇敢なアクション性に比べ、この第二部は陰鬱とした絶望感のヒューマンドラマとなっている。 監督はこの第二部をメインに作ろうとしたらしいが、わずか11カ月のボリビア闘争だけではゲバラを描き切ることができなかったらしく、第一部の製作となったという。確かにこの第二部のゲバラは第一部のゲバラとはまるで異なり、崇高な理想像が次第に鳴りを潜め、苦悩と焦燥がありありとあらわされている。髭もボウボウになっているが、第一部と比較されることによってその変化が見て取れるのだ。 ボリビアでのゲバラの活動は彼の著書「ゲバラ日記」に記されており、本作もそれに忠実に制作されたという。ボリビアの貧民・農民のために武力闘争を立ち上げたにも関わらず、共闘するはずだったボリビア共産党の支援もソヴィエトもキューバのカストロからさえも満足な支援を得られなかった。現地の農民に対して革命の意義を説得し、協力を得ようと試みるも、反対に裏切り、密告を受ける始末だった。農民からの協力を得られないゲバラらは食糧弾薬に事欠き、次第に仲間同士の結束すら失っていくのだ。最後まで希望と理想を捨てなかったゲバラだが、一説には終盤期には非協力な農民からの略奪、離反容疑の同士処刑という厳しい行動に出たとも言われている。革命が思い通りに進まない苛立ちがあったのだろう。 本作では、ゲバラ日記に忠実だったためか、終盤の苛立ちや過激な行動についてはあまり触れられていない。身も心もボロボロだったはずのゲバラがかなり元気なまま最期を迎える。真実はどうだったのかわからないが、「革命戦士ゲバラ!(1969米)」では顔つきも精神的にも極限に達したゲバラが描かれており、この方がリアルに感じられた。 また、ボリビア農民との接点や農民の感情があまり描かれず、何故ゲバラの理想が農民に受け入れられなかったのかということが、あやふやなまま終わってしまったのが残念だ。このあたりは、第一部でも第二部でも描かれなかったが、キューバ革命成立後にゲバラが指導したキューバの農業政策を抜きには語れないだろう。 ゲバラは農業改革機構工業部長にも就任し、高い意識を持った農民育成に情熱を傾け、自らも土日には農場に出かけてボランティア活動をしたという。このパフォーマンスが、たとえそれが本心からのものであったとしても、彼はその限界を感じていたはずだと思う。いくら自身が農場に出かけたところで、農民の士気は思ったほどあがらなかったはずだし、生産性も向上しない。それは、何と言っても彼が「戦う農民」ではなくて、あくまで「戦う革命家」だったからだ。真の理想的革命家を標榜するのであれば、彼自身が生産の核となる農民になるのが筋だ。農民にとって彼はいつまでも天上の人でしかない。 革命という反体制活動は人間にとって(男女問わず)、アドレナリンが噴出する麻薬のような存在だ。生きていること、自己の存在を実感する最適の手法であり、自己陶酔の最たるものだ。だが、陶酔できるのはあくまで指導者だけであって、それ以下のもの(兵や農民など)はさほどそれを感じることはないだろう。むしろ、日々の生活や家族のことを想えば、現実的な功利が優先するのが人間の性だ。決してリーダーになることのない農民や兵にとって、指導者は超えることが出来ない最初の敵となっていくのだ。 結局、チェ・ゲバラが最も悩み、彼を死に追いやった原因はここにあると言えるのであって、革命活動、共産主義体制において、指導者とそれ以外のものが決して交わることがないという内部崩壊の構図を見て取ることが出来る。革命の核は農民であり、各個が指導者となるのが理想である。だが、指導者ばかりで生産性があがるわけもなし、農民ばかりで将来性が開けることもない。結局、指導者と農民は主と従の関係にならざるを得ず、対立した指導者を放遂してもまた新たな指導者と対立していくのは共産主義の歴史が物語っている。 チェ・ゲバラは適正なる指導者に活路を見いだしたわけだが、次第に革命の矛盾に苛まれていく。彼自身気づいていたはずであるが、戦う農民の代わりはいくらでもいるが、戦う革命家(自身)の代わりはいないという矛盾である。共産主義において個に依存することは、本来公平性に反することであり、それが腐敗や不公平につながっていく。自身が農民によって評価され、淘汰されるべき存在でありながら、それを受け入れなかった。彼の最大の失敗はそこにあり、星の数ほどの共産主義者が陥った人間の性でもある。 このあたりを表すシーンが少なかったのが、あやふやなイメージとなった原因ではないかと思うのだ。ボリビアの農民たちはゲバラの理想など理解もしていなかたし、必要とも感じていなかった。映像を通して見れば、愚かな農民たちに見えるが、彼らにとってゲバラは単なる犯罪者でしかなかったのではないだろうか。 とはいえ、ほとんど描かれることのなかったボリビア革命闘争を堪能できたのは良かった。キューバ人指導層とボリビア人兵士との微妙な温度差も良く描かれていたし、ボリビア政府軍に追い詰められていく過程も詳細に描かれていた。ただ、登場人物がたくさんいるので、名前と顔が一致しないことが多々ある。タニア、ミゲル、ホアキン、ウイリー以外は思い出せない(汗)。ラストの処刑シーンは、どうやって処刑されたか諸説あるので、本作はオーソドックスにマリオ・テラン軍曹の銃撃という形で仕上げられている。その際のゲバラ目線は意表をつかれた。戦闘シーンでは銃撃戦シーンがメインとなっているが、まあまあの出来かな。余談だが、エンドロールは無音でやたら長い。どこで席をたっていいのかわからなかった(笑)。 全体に本作は、ゲバラの美しい部分に焦点をあてすぎた感はある。ゲバラの著書に忠実に描けば当然そうなるのだろうが、果たしてそれで良かったのかなという思いはある。もう少し、ゲバラの真実に触れてみたかった気はするが、それは望みすぎだろうか。「モータサイクル・ダイアリーズ」「チェ 28歳の革命」興奮度★★★沈痛度★★★★爽快度★★感涙度★★新訳ゲバラ日記(book) 革命戦争回顧録(book)(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1965年10月3日、キューバ共産党の発足式典に閣僚チェ・ゲバラの姿も名前もなかった。共産党書記長に就任したフィデル・カストロは聴衆の前で静かにゲバラからの手手紙を朗読する。 ゲバラは、キューバへの愛情をあらわしながらも、キューバでやるべきことはやったとして、地位も市民権も放棄し、新たな革命の地を求めて去って行ったのだ。ゲバラはアフリカのコンゴ革命に参加したのち、1966年にキューバに一時帰国する。そこで、妻のアレイダや4人の子どもと再会し、最後の別れとなる。 1966年11月3日、米州機構の特使のラモンと偽ったゲバラはボリビアに入国する。ボリビア人の兵士を訓練するため、かつての戦友たちもキューバからやってくる。準備計画は順調のように見えたが、協力するはずだったボリビア共産党第一書記のマリオ・モンヘは武力闘争への懐疑と外国人指導者に対する不信感から、ゲバラへの協力を断ったうえ、妨害活動まで始める。 共産党や農民からの支持も得られず、ゲバラらは空腹と貧困にあえぎながらも、ゲリラ活動を開始する。都市部との連絡係りだったタニアは、フランス人活動家レジス・ドブレやアルゼンチン活動家を連れてくる。ゲバラはドブレにサルトルやラッセルといった著名な人物に支援を要請するよう頼む。しかし、ドブレは岐路途中にボリビア政府軍に捕まってしまう。このことでボリビア政府は非難されるが、ゲリラ組織の指導者がゲバラであることがばれてしまう。さらに、ボリビアのバリエントス大統領はゲリラ掃討のためにアメリカCIAの支援を受けることとなり、特殊部隊の訓練と爆撃機の支援を得る。 このことにより、ゲバラのゲリラ隊は苦戦を余儀なくされる。シグロ・ペインテ鉱山の労働者がストを起こし、ゲバラは共闘を目論むが、労働者たちは無残に殺されてしまう。そして、別動していたホアキンやタニアの隊が、農民の裏切りにより待ち伏せ攻撃で全滅してしまう。 病人や負傷者を抱え、ゲバラたちは山中をさまよい、ボリビア政府軍はCIAの指導のもと、特殊部隊で包囲網を狭めてくる。ある村で待ち伏せ攻撃を受け、ミゲルが戦死。 さらに、1967年10月18日、ロ渓谷でゲバラたちは追い詰められ、脚を撃たれたゲバラは捕まってしまう。イゲラ村に移送されたゲバラは、ボリビア軍大佐の質問につばを吐く。仲間の遺体を同室に投げ込まれたりもするが、警備に立った軍曹はゲバラに若干の親しみを感じ煙草を与える。 翌日、ボリビア軍大尉は司令本部から処刑の「パピ600」の命令を受領する。戻ってきた大佐はゲバラの処刑を、進んで申し出たマリオ・テラン軍曹に命じる。隣室ではウイリーが処刑される。軍曹は躊躇するが、ゲバラは軍曹にしっかりと撃てと言い、軍曹は3発の銃弾をゲバラに撃ち込む。
2009年02月02日
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今日は映画「チェ 39歳別れの手紙」を見てきました。出来はまあまあでしたが、思ったよりも戦闘シーンは少なめでしたね。監督はこの第二部をメインに作りたかったそうですが、第一部の方がアクション重視で、第二部はヒューマンドラマ重視といったところか。 それにしても、登場人物の部下の名前が多すぎて結構大変かも。タニア、ホアキン、ミゲルまではわかるけど、あとの連中は・・・。ゲバラ日記を読み返してから行けばよかった・・・。 カストロやアレイダの出番はほとんどなし・・・。 第二部はコンゴはほとんどカットされ、ボリビア入りから。ボリビア革命を描いた作品は「革命戦士ゲバラ!(1969米)」ぐらいなので、なかなか新鮮でした。上記作品とは若干内容が異なっており、部下の造反や脱走という点はあまりたくさん描かれてなかったな。ゲバラが捕まる直前はもっと疲弊しているイメージだったんだが、本作は結構元気。どっちが実態に近いのだろう。あと、最後のゲバラ処刑シーンは諸説あるので、本作では最もオーソドックスにまとめた感じ。ゲバラ目線がなかなかリアル。 あと、エンドロールは・・・・いつ席を立っていいのかわからなかったぞ。 まあ、評価は第一部と同じ★3.5かな 詳しいレビューはまた後日。
2009年01月31日
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2008 日本(森の映画社) 監督:藤本幸久出演者:ドキュメンタリー118分 カラー アメリカ海兵隊の新兵キャンプやイラク戦争帰還兵、脱走兵の姿を介して、ホームレスなどアメリカ格差社会の抱える問題をクローズアップしようとしたドキュメンタリー。アメリカのホームレスの三分の一が帰還兵なのだそうで、帰還兵や兵役拒否者、その家族など、多彩な人物が登場するが、全体的にはアメリカのホームレス事情を描いたような印象が強い。一応、米軍による劣化ウラン弾の使用、民間人虐殺、軍病院の新薬モルモットなど闇の部分も取り上げ、アメリカ批判、米軍批判を前面に出してはいるが、主題があちこちにブレがちで、以下にあげるような理由で、ひどく説得力に欠ける出来となった。映像的、内容的にも映画である必要はほとんどないレベル。 米軍の戦争後遺症(PTSD)や兵役拒否者(脱走兵)を扱った映画作品は近年増えており、PTSDでは「勇者たちの戦場 (2006米)」「アルティメット・ソルジャーズ(2007米)」「ジャーヘッド・レスキュー(2007米)」、 兵役拒否では 「ストップ・ロス 戦火の逃亡者(2008米)」などがある。それらに比べると、平和ボケ国家日本で製作された本作はかなり甘い、浅いという印象は拭えない。取材対象の選定から始まって、その証言裏付け根拠、構成に至るまで、正直言って舐めてるのかという怒りさえ覚えるレベルだ。まあ、協賛が連帯、国労などといった制作サイドの背景を考えればそんなもんだろうとは思うが。 本作は貧困、格差を扱った題材ゆえに、登場する人物らはいわゆる社会の底辺層、アウトローに属する人たちだ。その彼らは軍や体制批判はするものの、非常に感覚的・感傷的で、理知的なコメントはほとんど見られない。もちろん、こうした人々を取り上げること自体は意味のあることだが、本作の支援者コメントなどでは「アメリカのごく普通の人々を取材」などという表現も見られ、彼らがアメリカ社会の一般的意見のようにすり替えられていくのが気になる。どうみてもごく限られた特殊な人々でしかないように思え、彼らの偏狭な視点から、アメリカ社会の一般論に仕立て上げることには違和感を感じざるを得ない。彼らがアメリカ社会の中でどのような立ち位置におり、どれくらいの割合を占めているのかがわからないことには、正確な理解には至らない。うがった見方をすれば、瑣末な出来事をことさら大事件に仕立て上げようとしている風に見える。 やはりドキュメンタリーとしてこうした問題を真面目に取り上げるなら、もう少し社会的に受容される知識層の意見は欲しいところだ。社会的に認知された証拠や、数字的なバックボーンをきちんと明示し、彼らと対極側の意見もきちんと取り上げて欲しかった。この作品では、社会弱者の愚痴にしか聞こえず、内容が薄っぺらいのだ。個人主義、自分さえ、自分の家族さえよければいいという風にさえ見えてくる。 ちなみに、脱走兵母子の例では、母親は息子を「スポーツ万能でとてもいい子だった。軍に入ってすっかり性格が変わった」などと言っているが、息子は「高校卒業後に職がなく、寄生していた祖母の家を追い出されて軍に入らざるを得なかった」のが実情らしく、「モンスター親子」の姿がちらついた。他の登場人物も多かれ少なかれ同様だ。 確かに、彼らのような考え方や生き方があるのも確かだし、尊重すべきだとは思う。だが、実際の兵士たちの多くは、正しいか正しくないかはともかく、逃げることなく義務を全うしているのであって、こうしたドキュメンタリーで軍や貧困格差を批判するのであれば、両者を対比する作りこみにしないと、視聴者は公平な判断ができないのでは。もちろん、端からそういうつもりがなく、単なる一方的アジテーション作品なら、別にそれでもいいんだが。 また、本作では、PTSDや脱走兵の増加の背景に、貧困層を対象にした騙し的徴兵制度にあるとしている。確かにこれはその通りだろうと思うし、アメリカ軍に限らず世界各国の軍でも同様の問題を抱えている。ただ、これだけ悲惨な状況と新兵勧誘の裏話があるにもかかわらず、何故アメリカ軍入隊の若者が途切れないのか。学費稼ぎや技能習得のために「貧困層が騙された」というには余りに短絡的すぎるだろう。そこには、同胞としての義務と責任、人間の尊厳や友情といった、社会共同体を形成する上での最低限のルールというものが存在しているはずだ。本作には、日本人には理解できないアメリカ人のルールというものの視点がまるで欠落してしまっているのだ。あの、アメリカ人の高慢とも言える愛国心とプライドを描かないことには始まらない。 まあ、そういうわけで、ドキュメンタリー、映画としての価値はかなり低いと評価せざるを得ない。アメリカにはこういう底辺層(ホームレス)の人々がいるのだ、ということを知ることができるのは価値があるが、ただそれだけ。日本の危機的将来像(徴兵制?)に直結させようとする意図もあるようだが、本作からはそこに結び付けるのは、相当妄想力が逞しくないと無理だろう。脱走兵やPTSD兵士については、すでに多くの映画作品やドキュメンタリーでも描かれているし、そこに内在する問題については様々な議論や問題提起がなされている。貧困層の入隊、戦争の不条理、アメリカの大義。そんなことはアメリカ人の誰もがわかりきっていることであり、葛藤し続けていることだ。よその国日本人が取り上げたところで、大多数のアメリカ人は余計なお世話だと感じるのではないだろうか。 もちろん、個人的には帰還兵のPTSDについては、かなり深刻な問題だとは思っているけども。 余談だが、ラストシーンに出てくる海兵隊新兵訓練場面でのおチビな指導教官。八百屋のようなしわがれ声になっちゃって、ずっと新兵訓練で声張り上げてるのだろうな。でも、やさしく銃の持ち方直してあげたりと、とっても優しい。 興奮度★沈痛度★★★爽快度★感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) サウスカロライナ州の海兵隊新兵キャンプには毎週新兵がやってくる。教官の罵声のもと、髪を刈られ、電話口で肉親に機械的なあいさつを絶叫させられる。 イラク戦に参加し、少年を射殺しPTSDになった娘を持つアデール・クペインは、二度と娘を戦場に送らない決意を持ち、反戦を訴える。 息子をイラク戦争で失ったシンディ・シーハンも、子供を失った母親の気持ちを語る。 横須賀の海軍駆逐艦勤務だったパブロ・パレデスは日本人妻と結婚して、イラク派遣を拒否し服役させられた。今は兵士達の電話相談に乗っている。 ダレル・アンダーソンはスポーツ選手だったが高校卒業後に職が無く、やむなく陸軍に入隊。イラクに派遣後、2度目の派遣を言い渡され、母親の説得によってカナダに逃亡。その後、アメリカに戻り、なんとか職を得る。 湾岸戦争から従軍したデニス・カインは劣化ウラン弾に被爆し、そのことを訴えている。 こうした、戦争後遺症や兵役拒否者にはホームレスになるものも少なくない。ホームレスの三分の一が元兵士で、ベトナム戦争の元兵士も多いが、最近はイラク戦争の元兵士が若くしてホームレスになるという。 ワシントン州オリンピアにはホームレスの自主キャンプ「キャンプ・キホーテ」があり、支援組織「ブレッド&ローズ」には多くのホームレスが集まってくる。住所を与え、自立支援をしているが、そのボランティアの1人トム・スタンフィールドももとは麻薬中毒者でホームレスだった。アフガン、イラク戦に従軍したスティーブ・ローレンスも逃亡兵となり、今はキャンプで職業訓練をする身で、子供が7人もいる。フィリピン出身のサージは元海兵隊員で、麻薬には手を出さないが酒に溺れる。 その自主キャンプではホームレス同士のいざこざも多く、二人のホームレスが殺害される事件も起こる。また、ホームレスには政府の支援を切られた精神障害者たちも多いという。 アメリカ国内の基地の放射能汚染も問題となっている。ケリー空軍基地では労働に従事していた地域の住民がガンなどで次々に死去しているという。 軍の新兵勧誘所前では老婆達が座り込みをする。何度も逮捕されながらも嬉しそうに座り込む老婆達。 新兵キャンプでは新兵達が次第に一人前の兵士になっていくのだった。
2009年01月30日
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2003 ドイツ 監督:フィリップ・セルカーク出演者:ドキュメンタリー72分 モノクロ・カラー Castroカストロ CASTRO(DVD) ◆20%OFF! DVD検索「カストロ CASTRO」を探す(楽天) キューバの最高権力者フィデル・カストロを記録映像と関係者の証言によって描いた、テレビ版ドキュメンタリー。カストロを題材にしたドキュメンタリーは「チェ・ゲバラ&カストロ(2002 米)」「コマンダンテ(2003米西)」「カストロ人生と革命を語る(2003仏)」「フィデル・カストロ× キューバ革命(2005米)」など多くあるが、それらの中ではかなり出来の悪い部類に入る。キューバがスペインにうち勝って独立を果たしたところから、現在に至るまで幅広く描いてはいるのだが、カストロの波瀾万丈の人生を語るには72分は余りに短い。キューバ独立までの過程は凄い勢いで年代を経てゆき、正直言って内容についていくのは大変。後半以降はキューバの経済体制とカストロの迷走ぶりをメインに捉えている感はあるが、描かれる逸話や証言者の発言がバラバラで、各個のつながりや関連づけがいい加減。話しがあっちこっちに飛び、総体的になんとなくイメージがつかめてくるが、単品のドキュメンタリー作品としてはまとまりがなさすぎる。 また、制作がドイツというのも何か変。内容がキューバ寄りでもアメリカ寄りでもないのは公平性という点で良いのだが、結局何を伝えたいのかというのが良くわからない。直接関係ないけど、ブームに乗って作ってみました的なノリが感じられる。それ故、ノンフィクションだというのに、内容に誤謬や勘違いが見られ、例えばキューバ革命成立年が1958年1月になっていたり、登場する数字類への信憑性が軽んじられている感じがする。 ただ、登場するエピソードや証言などは他のドキュメンタリーにはないものも散見でき、バレラ計画やローマ教皇来訪、ラウルへの政権継承など、新鮮なものもある。また、他作品に比べ、経済活動に対しての描写が多いのも面白いし、キューバ人への取材も親カストロ、反カストロともにあって興味深い。それ故、もう少し理解しやすい編集の仕方がなかったものか、残念だ。 一つ一つのエピソードは短く、飛ばし気味なのだが残念だが、内容的には興味深いものも多いので、カストロやキューバについて知った上で視聴するには良いかも知れない。見るには大変だが、色々なまめ知識を得るには最適だ。ドキュメンタリー作品としての評価は高くないけれど、実はお勧めの作品だったりする(笑)。 なお、内容が被ってくるドキュメンタリーとしては「フィデル・カストロ× キューバ革命(2005米)」の方が出来は良いのだが、制作年を考えてみると、意外と本作を参考にして作っているのでは、と思わせる箇所が多いのだ。 興奮度★★★沈痛度★★爽快度★★感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)(ドキュメンタリーの内容・・・数値等記述は映画のママ) キューバの子供たちは、学校にテレビを入れてくれたとしてカストロを賞賛する。一方、大人は名ばかりの独裁者と非難する。 1898年アメリカがスペインに勝利し、キューバは4年後名目だけの独立を果たす。実質アメリカの奴隷であり、アメリカ製品と果物、牛肉、砂糖の交換が主要貿易であった。 バティスタが軍事クーデターで政権を取るが、大物不良マフィアと交流が深く、売春、賭博を許す代わりに金銭授受により莫大な資金を集めていた。 フィデル・カストロは1926年に成金の父親のもとに生まれ、1945年ハバナ大学法学部に入学。学生運動のリーダーとして積極的に活動し、武器を携帯していたことをカストロも認めている。この頃カストロは強い権力欲を持っていた。ミルタと結婚し長男フィデリートが誕生。しかし、後に政治的理由で離婚する。 カストロはモンカダ兵営襲撃に失敗し投獄。1954年に恩赦で釈放後、メキシコでチェ・ゲバラと出会う。1956年12月、カストロは80人(ママ)の同志とキューバに上陸し、政府軍の反撃にあってシエラ・マエストロ山に辿り着いたのはわずか15人(ママ)だった。カストロは農民からの掠奪を禁じ、農民からの支持を勝ち得ていく。この結果、ハバナへの攻勢に出、1958年1月1日(ママ)バティスタは亡命。1月7日にハバナへ凱旋する。 カストロは議会を解散し、大半の役人を解雇、400ha以上の土地所有を没収、旧政府側の550人を処刑する。政権は握らないと語っていたカストロだが、結局首相の座に座り、ゲバラも工業大臣、国立銀行総裁の座に座る。 1960年、米国企業を没収。1961年米と断交。亡命キューバ人によるピッグス湾事件が起きる。 1976年段階ではカナダとメキシコのみと交流がある状態で、民主政治と選挙を約束したカストロは嘘ばかりであった。 1962年キューバ危機が勃発し、それを回避したソヴィエトと離れ、カストロは独自路線を打ち出す。共産主義者ではないと言いつつも、1965年にキューバ共産党を設立する。一方で、福祉や教育に力を入れ、農村に教師を派遣して識字率98%にまで高める。カストロは独自経済として高級葉巻のオークションを開催し、欧米の富裕層から資金を得るが、あくまで福祉に回すと言い切るのだった。だが、経済の生産性は一向に上がらず、ゲバラはボリビアで処刑される。 カストロは革命の輸出にも積極的で、チリ、アンゴラ左派の支援を行う。また、黒人等の人種差別撤廃にも積極的だったが、一方で芸術家、知識人、同性愛者に対しては厳しく差別し、収容所に送り込む一面もあった。それでも、キューバ王立バレエ団のマリシア・アロンソらの熱意でバレエについては理解を示した。 1980年、恩赦により犯罪者や同性愛者の国外退去を認め、13万人の難民が発生する。国連人権委員会はカストロ政権による刑務所の劣悪な処遇を糾弾する。 1986年、ソヴィエトのゴルバチョフはキューバへの支援を縮小。カストロはこれに反抗するも、1989年のソヴィエト解体でキューバ経済の縮小を余儀なくされる。年間15億ドルの支援が途絶え、極度の経済危機となり、1990から1991年には売春がはびこることとなる。結局アメリカ資本主義経済の救援を仰ぐこととなり、1999年耕作機械と食物の輸入解禁となる。カストロは資本主義を批判しながらも、現在のキューバでは投資家を歓迎し、主要産業は年間18億ドルを落としていく観光業となっていく。カストロは歴史的建造物の修復を始めるが、国民の大半は貧困のままであった。だが、キューバ人はカストロに苦しめられるも、ラテンの血で楽しんで生きている。ただし、元革命運動世代と若者の間には食い違いがあり、貧困に耐える革命世代に対し、若者世代は現実的で亡命希望者も多いのが現実だ。 キューバは米ドルとペソの通貨が共存し、ドルがない場合は配給カードに頼るしかない。ぎりぎりの生活をする民衆に、カストロは今なお戦争中であるという言葉で、様々な制限や公民権制限の理由とし続けている。 カストロは国中を視察して回り、農民に慕われてはいる。女性関係はずっと秘密であったが、セリアと大恋愛、現在の妻ダリアとの間には5人の子がいることが判明している。愛人との間の娘はマイアミに亡命し、政界についているのは最初の子フィデリートのみである。 国内の反対勢力としては、キリスト教自由運動により社会主義の民主化を求める1万1000人の署名運動があったが、カストロは黙殺。また、アメリカCIAも40年にわたり卑劣なテロでカストロ暗殺等を目論むがことごとく失敗。カストロはアメリカを強く非難する。アメリカにあるキューバ系米国人財団ではカストロ政権打倒を目指す「バレラ計画」を建てるが、カストロはこれに対してスパイ活動の弾圧強化する。 カストロは2000年12月、ジョン・レノンをキューバの文化遺産にし、国境のない平和を支持し、テロ国家を強く非難する。だが、その裏で亡命者を密かに処刑し、その母親が死を知ったのは埋葬後という事態も発生している。 ローマ教皇がキューバにやってくると、カストロはそれを歓迎し、宗教を認めないキューバでもそれ以降は宗教活動がしやすくなる。 カストロは蓄財には無縁だが、二枚舌でリスクの高い施策を実施し、権力を維持し続けてきた。次期政権は弟で国防大臣のラウルが濃厚だ。軍隊と秘密警察を率いるラウルは、農園や工場の管理を軍隊に移管するなど権力構造を強化している。各大臣級も若い世代を登用し始めているが、果たしてカストロのカリスマ性をラウルが踏襲できるのだろうか。
2009年01月30日
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今週末からは「チェ 39歳 別れの手紙」が始まりますが、3月公開の「ワルキューレ」との間にも、「ディファイアンス」というベラルーシを舞台にしたユダヤ人の映画があるようです。 また、公開館はあまり増えてきませんが「いのちの戦場 アルジェリア1959」も楽しみです。 気の早い話ですが、2010年正月にアルバトロス配給で「カチン(Katyn)」というのが公開予定だそうです。あのポーランドのカチンの森、ポーランド軍将校虐殺事件を扱った作品のようです。監督はあのアンジェイ・ワイダで、ついにこの核心に着手したのですね。とてもおどろおどろしい作品になっていそうですが(笑)、名作になる予感がします。 あと、6月には邦画で「三十九枚の年賀状」という大戦末期から戦後期を舞台にした映画があるようです。どうなんでしょう。 今日は仕事を休んで(汗)、映画を隣県まで見に行く予定です。どうでもいい駄作戦争系なのですが、わが地元ではやらないので・・・。DVDでもいいんだけど、まあ一応見ておくかということで。酷評を期待して下さい(爆)。
2009年01月29日
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6月13日に封切り?らしいですが、「真夏のオリオン」というのがあるそうです。 池上司著の小説「雷撃深度一九・五」(文春文庫刊)を原作に、福井晴敏が脚色したそうで、いわゆる架空戦記ものシリーズですね。第2次大戦末期の沖縄南東海域を舞台に、沖縄上陸を目指す米海軍の補給路を断つため、日本海軍のイー77、イー81潜水艦が米海軍駆逐艦パージバルと闘うという設定だそうです。 これまでもローレライとか、亡国のイージスとかで微妙に裏切られてきているので、どうかなあと思ったのですが、潜水艦内部のセットも力を入れているようですが、なんと米駆逐艦はニューヨーク州アルバニーに繋留されている本物やメキシコ海軍現役の旧米国駆逐艦を使用しての撮影らしいです。うーん、日本映画としては頑張って居るなあ、ということで期待しておこうかな(笑)。 ちなみに、米駆逐艦はUSS766のスレイターで、あのハドソン川で繋留展示されている艦のようです。 現役のメキシコ艦となると、ギアリング級の863スタイネイカー(ネツァワルコヨトル)、エドサル型250ハースト(マヌエル・アズエタ)あたりが考えられそうです。(Keyのミリタリーなページさんを参考)
2009年01月26日
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2002 アメリカ 監督:デヴィッド・アットウッド出演者:ビクトル・フーゴ・マルティン、ガエル・ガルシア・ベルナル、パトリシア・ヴェラスケスほか120分 カラー Fidel and Cheチェ・ゲバラ&カストロ(DVD) ◆20%OFF! DVD検索「チェ・ゲバラ&カストロ」を探す(楽天) キューバ革命、キューバ建国の礎となった前評議会議長フィデル・カストロの半生を追ったドキュメンタリー風ドラマ。テレビムービーで、日本版は120分だが、原版は206分という長尺もののようだ。邦題ではチェ・ゲバラが先に書かれているが、内容的にはフィデル・カストロを主としたもので、ゲバラは副次的な出演に留まる。既にいくつものカストロやゲバラに関する映画は製作されているが、本作はその中でも最も長い期間を表現した作品のうちに入る。特に、バティスタの軍事クーデーター、モンカダ兵営襲撃から描かれているのが新鮮で、1970年代のキューバ人亡命増加あたりまでを描いている。一応史実に沿って作られてはいるが、冒頭に「創作の登場人物や話しもある」と出てくるので、細かい設定等はフィクションも入っているようだ。 局所的な描写の映画が多い中、カストロの半生を長く追った作品として、その全容を知る上で貴重な作品ではあるが、何分内容が多すぎて、特に後半はかなり飛ばし気味の映画となった。キューバ革命成功までは比較的しっかりとした描写だったが、その後のアメリカ、ソヴィエトとの確執、協力といった部分はかなり端折られており、断片的なものになってしまったのが残念。元々は206分だったものを120分にしたために、後半のかなりの部分を削ってしまった結果なのだろう。従って、映画の厚みという点では欠け、興味の薄い人には後半は苦痛になるかも知れない。後に「モーターサイクル・ダイアリーズ(2003)」でも演じるガエル・ガルシア・ベルナルのチェ・ゲバラも、おまけ程度でしかない。主演のフィデル役ビクトル・フーゴ・マルティンはなかなかの好演。でも、フィデルは身振りが派手なので、結構演じやすい役なのかも知れないが。 とはいえ、他作品にはない描写も多く、貴重であることは間違いない。フィデル・カストロの女性関係にもしっかりと触れており、最初の妻ラファエル・ミルタとの恋、再婚相手のナタリー・レベルタをはじめ、革命同志のアイデ・サンタマリアやセリア・サンチェスなどの描写も詳しい。また、ラプラタ兵営襲撃時の農村警備隊員チチョ・オソリア殺害、NYタイムズ記者マシューズの入山、ウベルト・マトスの逮捕劇などもなかなか興味深かった。 どのあたりがフィクションだったのか、今ひとつわからなかったが、全般に史実に忠実だったように感じた。他作品と被る部分も多いが、この作品もちょっと違った視点という意味で見ると面白いだろう。ちなみに、当作品もアメリカ製作ということで、キューバ経済崩壊、キューバ難民といった場面でエンディングを迎える。カストロの革命への熱意というものを強く感じることは出来たが、結局は迷走したのだという印象を強く持つ。 どうせなら完全版を見てみたい。4話構成ぐらいに分割して上映していれば、テレビムービーとしては大作の部類にはいるだろう。 興奮度★★★沈痛度★★爽快度★感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1949年のハバナ。弁護士のフィデル・カストロはキューバ独立の英雄ホセ・マルティの銅像に小便をかける米兵をみて激怒する。これに抗議したキューバ人はアメリカ大使館に詰め寄るが、ここでフィデルは雄弁をふるう。そこで出会った裕福なディアス家のミルタと出会い、結婚し息子フェデリトが生まれる。 フィデルが支持するアルトドクソ党のチバス上院議員は、政府の悪事を暴こうとするが、証拠が届かず自殺未遂を起こす。フィデル・カストロはその意志を継いで、政治活動に手を染めていき、議員立候補にまでこぎつけるが、その直前の1952年3月10日、プリオ大統領が亡命し、バティスタが軍事クーデターを起こす。 フィデルは警察に追われる身となり、隠れ家を転々とするが、そこでナタリー・レベルタと出会い恋に落ちる。フィデルは無武装蜂起を計画しモンカダ兵営襲撃を実行する。 7月26日、フィデルらは3番ゲートから侵入し、アベル、アイデら22名が病院を占拠する。しかし、政府軍によって反撃され、フィデルはなんとか脱出するも、多くが捕らえられ処刑されてしまう。看護婦に化けたアイデ・サンタマリアは兄の目の玉をくり出されるなど拷問を受ける。フィデルは山に逃げ込むが包囲され捕らえられる。 ピノス島に監禁されたフィデルは獄内から声明を発表し、国内の人気を得るようになる。これに手を焼いたバティスタはフィデルを釈放し、フィデルはメキシコに亡命する。ナタリーはフィデルの子を宿す。 メキシコでフィデルはチェ・ゲバラと会い、革命軍を組織して訓練する。1956年11月25日、82名の兵はメキシコを出発し、12月2日にラス・コロラダスに上陸する。バティスタ軍の襲撃で多くが命を落とすが、フィデルやラウル、ゲバラは生き残った。報道ではペドロ・アビラ将軍の軍がゲリラを全滅させたと報じるが、山ではギジェルモ・ガルシアらと会い、セリア・サンチェスの軍と合流することが出来る。 フィデルらはラプラタ兵営を襲撃し、悪名高い農村警備隊員チチョ・オソリアを殺害する。また、生きていることを示すため、NYタイムズ記者マシューズに記事を書かせる。都市部の共産党や地下組織とも連携を取るようになり、兵器はマトスが提供するようになる。 いよいよ都市部での戦いとなり、ゲバラが装甲列車を破壊してサンタクララを占領。カミラはラスビリャスに入る。カストロ軍はサンチアゴににまで迫り、CIAからの支援を打ち切られたバティスタは亡命する。 1959年1月7日、カストロは演説で民衆の支持を集める。家賃を半額にし、農地改革法を制定し、学校や病院を設立することを約束する。一方で、ゲバラやラウルを中心に、旧バティスタ派を次々に処刑していく。また、共産党員を支配下に置き、フィデルのやりかたに不満を漏らす盟友マトス少佐を反逆罪で逮捕する。マトスは20年の刑に服する。 フィデルはソヴィエトのフルシチョフとも接近を始め、国交回復、貿易博覧会の開催を通じて、アメリカの侵攻に対処していく。アメリカは1961年4月 19日にビッグス湾事件を起こすが失敗。フィデルはソヴィエトの核ミサイル基地をキューバ国内に建設させる。このことがばれ、キューバ危機が発生するが、フルシチョフはミサイルを撤退させ、フィデルはソヴィエトへの不信感を募らせる。 1965年2月25日、アルジェリアでのチェ・ゲバラの演説はソヴィエトに不快感を与え、チェ・ゲバラは職を辞して革命闘争に下っていく。ボリビアに渡ったチェ・ゲバラは政府軍に捕まって処刑される。 アメリカの液剤封鎖、ソヴィエトとの距離によりキューバ経済は崩壊し、3人に1人しか生き残れないにもかかわらず、海を渡ってのキューバ亡命者が激増する。しかし、CIAの暗殺計画などにも関わらず、フィデルは生きているのだった。 元妻のミルタ・マドリードは再婚してマドリードに住む。息子のフェデリトはキューバに戻った。ナタリーはハバナでフィデルを支え、娘はスペインに亡命した。マトスは釈放されマイアミで反カストロ運動の中心となる。カミロは事故死し、アイデ・サンタマリアはしばらく政権を支えるが、1980年7月26日、失望して自殺を図った。
2009年01月26日
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2007 イラン 監督:モハメド・ハッサン・ラティフ出演者:プリア・パーソーコー、バラン・コサリほか102分 カラー THE THIRD DAY/RAZ E SEVOMサード・デイ -ホラムシャハル攻防戦- DVD検索「サード・デイ」を探す(楽天) イラン・イラク戦争を舞台にしたアクション系ヒューマンドラマ。映画全般にはイラン市民兵の家族愛、友情を主題にしており、哀しい系の結末はヒューマンドラマと言って良いだろう。だが、随所に、特に終盤部ではランボーばりのアクションシーンも登場し、本作の位置づけを不安定にしているのが特徴。イラン製作と言うこともあり、愛国が前面に押し出されており、メイン視聴者であるイラン人を盛り上げるためにも派手なアクションシーンは欠かせなかったというのが実情だろう。そういう意味で、若干リアリティに欠ける嫌いはあるが、それでもベールに包まれたイ・イ戦争の裏舞台を垣間見るという面ではレアな作品だと言えよう。 本作の邦題にもなっているように、舞台はイラン・イラク戦争の序盤1980年9月から10月頃に行われたイラク軍によるイランのホラムシャハル市街占領戦を描いている。ちょうどこの頃、イラン軍は革命防衛隊が組織されたばかりの時期であり、軍としては組織的な体制ができていなかったと言われ、交通・交易の要衝ホラムシャハルでは市民兵が立ち上がって戦ったとされる。本作では、その市民兵が中心となりイラク軍と戦うのである。さすがに女性が戦うシーンはないが、まだ幼い少年が銃を持ち立ち向かっていく様は、祖国防衛という愛国心を大いに盛り上げる。 ただ、ストーリー全般にフラッシュバックシーンが多用され、役者の顔と名前が一致しないうえに、夜間影像シーンが多すぎて、顔の判別が困難なのが最大の難点。誰が話しているのか、おまえは誰だ、というようなことも多く、映画に集中することができない。イラン人にはわかるのだろうが、日本人から見ると皆同じ顔に見えてしまうのだ。 また、時代背景や戦闘背景の説明がまるでないので、ホラムシャハル攻防戦の基礎知識がないと、何の事やらわからないかもしれない。とりあえず、イラク兵は残酷だということだけは強調されているが(笑)、イラン人がどれほど祖国防衛、ホラムシャハル防衛に力を注いでいるかの緊迫感が今ひとつ伝わってこない。前半部は特にややだらけ気味の展開なので、眠気を誘う恐れあり。 本作での見所は終盤部とも言えよう。先にも書いたが、ランボーばりのアクションシーンは、ある意味爽快で物悲しい。一人の女性を救うため、幾人もの男性が辞世の弁を述べるシーンは、あまりにベタなんだが、思わずホロリ。アクション自体は、銃やRPG乱射といささか稚拙だが、まあそういう映画だと割り切って見たい。 登場する兵器は当然イラン軍のものなので、アメリカ製M113装甲車、ソヴィエト製T-62戦車、BTR-80装甲兵員輸送車、ヘリコプターではイロコイが登場している。イラン映画ではおきまりの登場兵器だ。銃ではAK銃、RPGのほかドラグノフ狙撃銃も登場し、イラク軍戦車に立ち向かっている。 全般に悲惨度は高めでハッピーエンドとは言い難いので、そういうのが嫌いな人は見ない方が良い。あとは前半部の影像が暗いシーンが続くのだけが悔やまれる。まあ、前半部はさほど前ふりとも言える内容でもないので、アクション映画として後半部だけ見るのも手かも知れない。興奮度★★★沈痛度★★★★爽快度★★感涙度★★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 子供を車で轢いた罪で服役していたアミール・バハドリは、出迎えにきた妹が意気消沈しているのを見て、妹を捨てた?レザに復讐をしようとホラムシャハルの街に向かう。 ホラムシャハルは、侵攻してきたイラク軍により最前線と化しており、イラン革命防衛軍の手助けもなく、レザら市民が志願兵となって戦っていた。戦車など圧倒的兵力に勝るイラク軍は市内に侵入しはじめ、レザや弟のラソールらはゲリラ戦に転じる。しかし、足を怪我していたレザの妹サミレフは兄の指示を守らず、まだ家に滞在していた。やむなくレザはサミレフを家の庭に掘った穴に隠して、その場を退却する。防衛拠点に戻ったレザはラソールにサミレフの居場所を聞かれるが、答えることが出来ない。 サミレフは家の庭に隠れていたが、その家に侵入してきたのは、かつて彼女に求婚してきたイラク人のフォアド少佐の部隊だった。フォアド少佐はサミレフの家だと知り、掠奪してきた部下をたしなめ、まだサミレフがいるのではないかと気を使う。しかし、サミレフは戦争が始まる前に、市内のテロ爆破事件でフォアドが絡んでいることを知り、結婚を断っていた。 レザはサミレフが心配になり、家に戻ろうとするが、途中でアミールと遭遇する。アミールはレザを殺そうとするが、イラク軍に囲まれてなんとか脱出する。再び、レザらは市内に戻るが、弟のラソールがイラク軍に撃たれて死亡してしまう。さらに防衛拠点がイラク軍に砲撃され、女子供が死亡する。 フォアド少佐の部隊に帰還命令が出て、サミレフの家から撤退する。サミレフは穴から出るが、そこに忘れ物を取りに来たイラク兵にレイプされそうになる。フォアド少佐は部下を射殺し、サミレフを助ける。そこにレザらイラン市民兵が到着し、銃撃戦となる。レザらはサミレフを奪還し、イラク軍の包囲網からの脱出を試みる。フォアド少佐は命の補償はするから投降しろと呼びかけるが、レザもサミレフも応じない。 追いつめられたレザらはRPGを使った強硬突破を図り、孤児だったマジッドが死亡。カールーン川に向けて逃げる一行をフォアド少佐はヘリで追いかける。妻と別れたマレク、ラオーク、眼鏡の優男ノラーニが撃たれて死亡。サミレフを担いでいた革命防衛軍のモルテザ司令官も戦死。モルテザは子供があと2ヶ月で生まれる所であり、父は勇敢に戦った伝えてくれと頼む。レザは残ったアミールにサミレフを頼むと言い残して、道を戻っていく。フォアド少佐はついに川を渡ろうとするサミレフに追いつく。サミレフはフォアド少佐を撃ち殺すのだった。
2009年01月20日
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2006 アメリカ 監督:アーウィン・ウインクラー 出演者:サミュエル・L・ジャクソン、ジェシカ・ビール、ブライアン・プレスリーほか 107分 カラー HOME OF THE BRAVE 勇者たちの戦場 / サミュエル・L・ジャクソン DVD検索「勇者たちの戦場」を探す(楽天) イラク戦争の帰還アメリカ兵の精神的苦悩を描いたヒューマンドラマ。ベトナム戦争でもこうした映画はいくつも作られているが、イラク戦争でもこれから数多く作られそうなジャンルだ。いわゆる戦争心理描写は体験した者でなければわからない、という側面があり、映画等で一般に伝えることはなかなか難しい。加えて、戦争肯定、否定派の政治的介入というデリケートな一面を併せ持っており、とかく恣意的な内容だったり、難解なものになってしまう。 結論から言うと、本作は戦争心理描写ものとしては秀逸な部類に入ると思う。多すぎないエピソードをもとにさっぱりと仕上げているのだ。戦争行為自体の是非について突っ込みすぎず、苦悩する兵士自体にも善悪の評価を下さないのが良い。それでいて、兵士の苦悩を共感できるのは、蛋白ながらも確実に描かれた戦闘シーンにあるのだと思う。戦闘シーンは決してグロいものでもなく、かなり短めなのだが、イラク戦での敵狙撃兵やテロリストの恐怖を確実に感じることが出来る。また、帰国を熱望する感情や、戦友との友情も本当に蛋白ながらきちんと伝わってくる。こうしたイラクでの戦争シーンが本作の基盤となっているのである。 やはり本作が秀逸だと感じたのは、帰還兵士の苦悩表現だ。兵士の苦悩の根底にあるのは、自身の過去の自己評価であり、それは戦争そのものへの意義でもある。自分の行った行為は正しかったのか、自身の行動は評価されたのか。いつの時代の戦争でもつきまとうテーゼではあるが、本作ではそれを結論づけるような取り上げ方はしない。そんなことは見ているおまえが考えろ、という姿勢なのだとも感じる。だからこそ、兵士の苦悩は見ている側にも伝わってくるし、同調できるのかもしれない。 志願し、多くの戦友の死を目の当たりにした父親が、反戦を唱える息子にどのように接すればいいのか。そんな些細な苦悩がリアルに描かれている。その分、映画としてはやや小ぶりなイメージになってしまっているが、戦争心理を描く作品としてはちょうどいいバランスになっているのではないだろうか。軍医、戦闘部隊兵卒、整備部隊女性兵が登場するが、いずれの心情にも引き込まれていく。 演じる役者陣は特に個性的という訳でもないのだが、そつなくこなしている感がある。もう少し演技力のある役者が演じていたらどうのようになっていたか、ちょっと興味はあるところだ。 撮影はモロッコで行われたようで、モロッコ軍の協力で軽装甲車両、トラックが登場している。砂漠地帯での撮影だけにイラクの感じが良く出ているのではないだろうか。 描かれている戦闘はアル・ハイへの医療用具輸送作戦とされ、ファルージャ作戦後で正規軍はナジャフ攻撃となっていることから、2004年頃の話しということだろうか。軍装は今ひとつ良くわからなかったが、それなりに考証されているような気がする。主人公らでは、ウィル軍医中佐は第1機甲師団(OLD IRONSIRES)の所属で、主人公の一人の女性兵士(ヴァネッサ上等兵)は第 951整備中隊所属と出てくることから、ウィンスコンシン州軍の第32旅団第724整備大隊所属と思われる。ジャマール、トミー、ジョーダン二等兵?らは右袖に第4歩兵師団と思われるパッチをつけているが、映画中で第161歩兵連隊第1大隊B中隊と言っていることから、ワシントン州軍の第81旅団所属と思われる。このほか作戦指揮の軍曹が第82空挺師団のパッチをつけているほか、第1騎兵師団らしきパッチも見える。これらの第 951整備中隊所属も第161歩兵連隊第1大隊も2004年時にイラクに派遣されていることから、かなり史実に基づいた検証がなされているのだとは思われる。ちなみに、第161歩兵連隊第1大隊はイラク派遣時に第1騎兵師団第3旅団や第1機甲師団の歩兵ともアタッチされているので、これらの登場人物が同時に作戦を遂行していてもおかしくはないようだ。 全般に見やすく、映画に没入できる良い作品と言える。人の死や生の重みというものを、こういう視点で感じることも大事なことなのだと感じた。 興奮度★★ 沈痛度★★★★ 爽快度★★★ 感涙度★★★★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) イラクのバラドに展開していた米軍兵のトミー、ジャマール、ジョーダンの3名は2週間後の帰還が決まった。トミーは軍医のウイル軍医中佐に報告する。一方、第951整備中隊の女性ヴァネッサ上等兵も残してきたお幼い息子との再会を楽しみにしていた。 彼らにアル・ハイへの医療用品補給任務が言い渡される。比較的安全な地域であったが、ファジール作戦に同行したイラク兵が参加すると聞いてジャマールは嫌がる。アル・ハイに到着すると、車が通行止めにされ、テロ組織からの攻撃を受ける。B中隊のトミーらはすぐさま応戦し、テロリストを射殺し、残りを追跡する。ジャマールは誤って民間人を殺してしまう。一方、ヴァネッサのトラックは現場を回避するため脇道にそれるが、イラク少年の仕掛けた爆弾で助手席の兵が戦死、ヴァネッサも腕に重傷を負ってしまう。駆け付けたウイル軍医が懸命の介抱をする。敵を追いかけたトミーらだが、ジャマールが転んで負傷。深追いしたジョーダンはトミーの目の前で射殺されてしまう。 ワシントンに帰国したトミーはジョーダンの葬儀に立ち会い、ジョーダンの恋人をなぐさめるが、何か変わってしまった自分を感じる。勤めていた店もくびになり、映画館のもぎりを始める。父親からは警察官試験の受験を勧められるが、どうしても街の人間とイラクでの出来事との乖離に落ち着かず、陸軍のカウンセリングを受けることにする。 軍医のウイルは元の民間病院に戻るが、イラクでの若者の死が頭をよぎり、妻にもイラクでの出来事を話すことができない。さらに息子のビリーは反戦運動を行っており、父親に反抗的なのも悩みとなり、酒におぼれ始める。妻も耐えてきたのだと訴えられるが、心を許すことができない。 腕を切断したヴァネッサは陸軍病院での生活後、高校教師に戻るが、腕を切断したことなどで神経が高ぶっている。同僚のケアリーの親切にも向かい合えず、子供にもつらくあたってしまう。そんな時、映画館でトミーと出会い、イラクの時を共有した戦友独特の親近感を得るのだった。さらに、自分を助けてくれたウイルのもとを訪れるが、ウイル自身が不安定だった。 ジャマールは民間人を撃ったことがトラウマとなり、陸軍の集団カウンセリングでも荒れている。車のディーラーの仕事もうまくいかず、恋人からも冷たくされ、恋人の働く店で、銃をもって立てこもり事件を起こしてしまう。トミーはジャマールに呼び出されて店を訪れ、ジャマールを落ち着かせるが、ジャマールは立ち上がった瞬間に狙撃隊に射殺されてしまう。トミーはジャマールを救えなかったこと、ジョーダンを救えなかったことに苦悩し、荒れ狂う。そして、スポーケン警察の試験を受験中に中座し、「軍に行かないとジョーダンたちを裏切る気がする」と、軍に戻ることを決意する。 ウイルはすっかりアル中になり、パーティーの席で他人を連れ込んだり、息子ビリーを傷つけるなどし、拳銃で自殺しようとするが、ようやく我にかえってカウンセリングの治療により、イラクでの出来事を話し始める。 ヴァネッサはカウンセリングを信用していなかったが、ようやく同僚ケアリーの好意に甘える決意を固め、新しい生活を始めようとするのだった。
2009年01月18日
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2000 イギリス 監督:ローレンス・エルマン出演者:ローレンス・エルマン、関係者(ドキュメンタリー)52分 カラー Tracing Cheモーターサイクル旅行記(DVD) ◆20%OFF! DVD検索「モーターサイクル旅行記」を探す(楽天) 革命家エルメスト・ゲバラ・デ・ラ・セルナ(チェ)が、学生時代に行った友人との南米旅行の足跡を、監督自らが同じオートバイによって追ったドキュメンタリー。チェ・ゲバラは言うまでもなく、キューバ革命の英雄であり、その革命闘争思想の原点がこの南米旅行にあるとされる。南米旅行は、医学生だったチェと化学者のアルベルト・グラナードが、オートバイ(ノートン500)に二人乗りで、アルゼンチンからチリ、ペルー、ベネズエラまでの6ヶ月半余りを費やしたものであった。本作は、監督のローレンス・エルマン自身が同じノートン500を入手して行程を辿っていくものである。 監督のロレンス・ノルマンとは何者か良くわからない。同じコースを旅したい、とゲバラに興味はあるようだが、さして知識があるようにも見えず、傾倒している風でもない。従って、本作の中身的には非常に浅いものとなってしまっており、単に行程をトレースしただけというものだ。加えて、行程トレース作業はかなりの短期間で所々を端折っているだけでなく、ゲバラ達が訪れたであろう場所や人物の捜索も形だけのものとなっている。破損したオートバイの預け先やゲバラが訪ねた消防署など重要なポイントも、結局わからなかったり、中に入れなかったりと、本当に馬鹿にしている。この監督、何をしたかったんだろうという怒りが沸いてくるほどで、ほとんど学園祭レベルだ。 それでいて、証言者だけはアルベルト・グラナード本人を始め、ゲバラの従兄弟や幼馴染みであるフェルナンド・コルドバ、カルロス・フィゲロア、マリオ・サラビアらが登場するなど手が込んでいる。その証言はなかなか面白く、ゲバラが女好きだったこと、ダンスが下手だったこと、きれい好きでなく「ブタ」と呼ばれていたことなどが暴露される。また、破損したオートバイはその後にアルベルトの兄トーマスが回収し、アルゼンチンで解体されて売却されたことも明かされる。 せっかくこうしたゲバラの異なった一面などのエピソードを証言などから拾い上げているのだから、行程を追う映像にももっと力を入れて欲しかったところ。何だか旅行好きの監督が、趣味と実益をかねて旅行してみました的な映画にしか見えないのだ。 総じてたいしたことのない映画だ。ドキュメンタリーとしての内容もないし、この程度ならば書籍で十分かなと思わせる。この後「モーターサイクル・ダイアリーズ(2003)」が制作されているので、さらに本作の評価は下がってしまうが、ゲバラの足跡を辿るという発想という点では当時としては新鮮だったとは言えようか。 興奮度★★沈痛度★爽快度★感涙度★
2009年01月14日
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2003 イギリス、アメリカ、ドイツ、アルゼンチン、ペルー 監督:ウォルター・サレス出演者:ガエル・ガルシア・ベルナル、ロドリゴ・デ・ラ・セルナ、ミア・マエストロほか126分 カラー Diarios de motocicletaモーターサイクル・ダイアリーズ DVD検索「モーターサイクル・ダイアリーズ」を探す(楽天) キューバ革命の革命家エルメスト・ゲバラ・デ・ラ・セルナ(チェ)が、共産主義革命に傾倒する人生基盤を形成した中南米旅行記を描いたドキュメンタリードラマ。原作はゲバラ自身の「モーターサイクル南米旅行日記(ダイアリーズ)」と、共に旅行した友人のアルベルト・グラナード著「トラベリング・ウイズ・ゲバラ」。どちらかというと、本作は後者に近い内容であり、というのも本作制作にあたり、グラナード本人が監修にあたっているのだ。チェ・ゲバラはキューバ革命後ボリビアで39歳の生涯を閉じるが、友人グラナードはゲバラに請われてキューバのハバナ大学に籍を置き、定年までをキューバで過ごしている。 本作はいわゆる青春ロードムービーに属するもので、のどかな風景とゆったりとした時間の流れの中で、ゲバラが後に革命武力闘争に身を投じるとは思えない雰囲気である。医学生で喘息持ちのゲバラは真面目かつ穏やかで思慮深い慈悲を持ち合わせ、どちらかというとやんちゃで無謀なグラナードとは正反対の人物である。そんな彼が武力革命にまで至る思想を形成したのがこの南米旅行だったのだ。 旅行はポデローザ号と名付けた中古のバイク1939年式ノートン500に二人乗りで出発し、アルゼンチンからアンデスを越えてチリに入り、ペルー、ベネズエラまで、6ヶ月半にわたった。途中、バイクの破損、病気など幾多の困難を伴いながらも、その場しのぎの旅行が続く。その中で、ゲバラは貧しい農民の姿を目撃し続け、次第に地主や権力者の圧政への反抗心が芽生える。さらに、彼が専攻していたハンセン病患者の療養所で手伝いをする中で、人への愛に目覚めていく。 本作はゲバラという人物像を知っているのと知らないのでは、まるで評価が異なるであろう。ゲバラを知らなければ単に気の良い兄ちゃんというだけであり、旅の中で何かが変わったとは言え、それが何なのか、どうなっていくのかへの興味が出てこない。特に映画の後半は、オートバイが壊れて旅という流れがやや滞ってくるので、冗長感は否めない。だが、この冗長なやり取りの中にこそゲバラの緻密な人間観察が隠されているのであり、マルクス・レーニン主義実践への確信を深めていくのだ。 ただ、そうは言っても本作だけでチェ・ゲバラの魅力や真実に迫るには物足りなすぎる。それを補うかのように「チェ28歳の革命(2008)」「チェ39歳別れの手紙(2008)」という映画が制作されたのは嬉しい。是非、三部作として見るといいだろう。 チェに扮したガエル・ガルシア・ベルナルは優男風のメキシコ人。当時の写真からは、ゲバラはもう少し無骨な感じに見えるのだが。オートバイは実にいい音をさせている。でも、すぐに壊れてしまうので堪能できるのはほんのわずか。映画では結構良い道ばかり出てくるが、実際は相当な悪路だったと想像できる。換えの部品も持たずにかなり無謀だな。 単品としてはそう高い評価の作品とは思えないが、チェ・ゲバラ三部作の序章として見れば重要な作品である。ちなみに、アルベルト・グラナードは本作撮影のメイキング的位置づけとして「トラベリング・ウイズ・ゲバラ(2004)」を制作している。モーターサイクル・ダイアリーズ興奮度★★★沈痛度★★爽快度★★★感涙度★★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) アルゼンチンの医学生エルネスト・ゲバラ(23)は、友人で6歳年上の「放浪化学者」アルベルト・グラナードと、オートバイによる南米旅行を企画する。うらやましがる父親らの見送りで、1952年1月4日、1939年式ノートン500 「ポデローザ(怪力号)」で二人は出発する。 愛称フーセル(激しい男)と呼ばれたゲバラは、喘息持ちでありながらも弱音を吐かない強い意志をもった男だった。ブエノスアイレスを出発した二人は、まずミラマールのゲバラの恋人チチーナのもとを訪ねる。裕福なチチーナの家ではゲバラらは歓迎されないが、チチーナと愛をかわしたゲバラは6日間もそこに逗留する。 バイクでの旅行は思いの外厳しく、転倒を繰り返しながら1月29日、ピエドラ・デル・アギラに着く。強風でテントが飛ばされ、近所の住人に頼んで農園労働者の小屋に泊まることが出来る。グラナードは機転を利かせて医者だと嘘をつくが、まだ医学生のゲバラはそれをよしとしない。また、チチーナから預かった水着購入資金をベルナードは使おうとけしかけるが、ゲバラは拒否する。 1/31。サン・マルティン・デ・ロス・アンデスに着く。物乞いに訪ねた家で主人の腫瘍を見つけるが、医学生で治療は出来ない。仕方なく湖で猟をするが、ゲバラはひどい喘息を患ってしまう。 2/15 チリのフリアス湖に到着。初めての外国だ。2/18には雪のテムーコに難儀する。グラナードはゲバラに真面目すぎるのも困りものだ。嘘も方便だと諭し、ゲバラも次第に適当な嘘をつき始める。手始めにチリのアウストラル新聞に有名な医師が来たことを書かせ、その記事を見せて無償でバイクの修理をさせる。だが、夜のパーティで修理工の妻に手を出そうとして追いかけられるはめに。結局バイクは治らずに廃車に。2/26 チリのロス・アンヘレス。姉妹に声を掛けて食事と寝床を確保する。そこで、喘息の老女をみたゲバラは自分の喘息薬を置いていく。ここから二人は徒歩やヒッチハイクでの移動となる。3/7 パルパライソ。チチーナから手紙が来る。3/11 アタカマ砂漠を徒歩でゆき、チュキカマタ銅山に向かうが、途中で共産主義者の夫婦に出会う。弾圧で銅山に職を求めてきたのだった。彼らに人間的親しみを感じ、銅山で支配者階級の傲慢さを目撃する。いよいよペルーに入り、原住民が増えてくるなど雰囲気が変わってくる。グラナードは30歳の誕生日を迎え、4/2にはクスコに。知り合ったドン・ネストールが案内役を務め、インカ帝国の遺跡を巡る。そこで貧しい農民らに出会い、地主などの厳しい搾取の現状を知る。4/5 マチュ・ピチュ遺跡。5/12 リマのペッツェ博士の家に到着。前もって手紙で頼んでおいたハンセン病の権威だ。食事と宿を提供され、去り際に博士の書いた私小説の感想を求められる。グラナードは賞賛するが、ゲバラは素直に駄目出しする。5/25 プカルパから船に乗ってサンパブロに向かう。船中でルスという売春婦に出会い、グラナードは金をくれとゲバラに頼むが、実は銅山で出会った夫婦にあげてしまっていた。グラナードは船内の賭で勝ち、ルスを手中におさめる。6/8 サンパブロ。ここでハンセン病療養所の医者プレシアーニ医師と会う。二人はここで医師の手伝いをすることとなる。対岸の隔離療棟では修道院女たちが働いていたが、皆手袋を着用する決まりとなっていた。だが、感染しないことを知っている二人は手袋を拒否する。親身に話しを聞き、差別しないゲバラに、患者のリーダーパパ・カルリートをはじめ、修道院女たちも心を開いてくる。6/14 いよいよお別れの時となり、ゲバラは感謝の言葉として、国は別れているが南米は一つだと語る。そして、パーティのあと、対岸の療養所まで泳いで渡り患者と別れを惜しむ。7/26 ベネズエラのカラカス空港。カラカスの研究所への就職が決まったグラナードと別れる。一緒に働かないかというグラナードに、ゲバラは「この旅で何かが変わった。少なくとも昔の僕ではなくなった」と感じ帰国するのだった。 二人が再会したのは8年後。キューバ革命を成功させたゲバラにグラナードは招かれ、キューバ医大の設立などに奔走し、ハバナに在住している。
2009年01月13日
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2008 スペイン・フランス・アメリカ 監督:スティーブン・ソダーバーグ出演者:ベニチオ・デル・トロ、デミアン・ビチル、ロドリゴ・サントロほか132分 カラー CHE part1:The Argentine DVD検索「チェ 28歳の革命」を探す(楽天) キューバ革命50周年を控えて制作された、キューバ革命の雄エルネスト・チェ・ゲバラの伝記的ドラマ。キューバ革命実行時のパート1、ボリビア革命での死を描いたパート2の2部に別れており、本作はパート1になる。こちらはゲバラの「革命戦争回顧録」を基盤に、パート2は「ゲバラ日記」を基盤にしている。 チェ・ゲバラはアルゼンチンの裕福な家に生まれ、医学生時代に中南米をバイク旅行したことで貧民・農民救済の必要性を感じる。医者になった後、キューバから亡命していたフィデル・カストロに共鳴し、1956年にキューバ革命に参加し、1959年にバティスタ政権を倒した。キューバ革命後はキューバの主要閣僚として政権を担うが、1965年に再び革命闘争に戻り、1967年にボリビアで死を遂げた。本作はそのうち1956年のキューバ上陸前後から1959 年1月のサンタクララ占領(バティスタ亡命)までを描いている。 登場するエピソード類は、彼の著作「革命闘争回顧録」そのまんまと言っても良いぐらいで、監督によれば脚色によるエピソードはないのだそうだ。著作どおり時系列のキューバ武力闘争を描いていく中で、モノクロ映像による1964年ハバナでのリサ・ハワードのインタビューと、ニューヨークでの国連総会演説の再現を随所に盛り込む形で進んでいく。そのモノクロ映像がドキュメンタリーということを思い出させてくれるが、ストーリー全般はドラマとして高い完成度で出来上がっている。二部作と言う長尺ながらもダレることなく楽しめる。 全体の雰囲気としては1969年のアメリカ映画「革命戦士ゲバラ!」に似ている感じ。同じ著作を利用しているので似て当たり前なのだが、特にゲバラやカストロの人物像の描き方と言う点に共通性を感じた。やはりアメリカ的視点が強いのかなとも思わせる。異なるのはエピソードの選び方で、本作では82名でのキューバ上陸や政府軍による直後の壊滅的打撃が大胆に省かれているかわりに、シエラ・マエストラ山中での戦闘、エル・オンブリトでの拠点構築、都市ゲリラとの共同、サンタクララ市街戦を詳細に描いている。中でも、初期の外国人としての気後れを描いたホルヘ・ソトゥス大尉との合流、部下が苛めと勘違いしたカミロの褒め言葉、政府軍列車の転覆作戦などはエピソードとして新鮮であった。 また、ゼネスト戦略の各都市ゲリラなどとの協定やシエラマエストロ宣言など、革命過程が描かれているのも良かった。カストロやゲバラの革命思想や方法が、必ずしもキューバ全民に支持されていたわけではないという泥臭い一面をうかがうことができる。こうした個別事象を詳細に描きこんだため、結構時系列が飛んでしまっていて、歴史的背景に知識がない人には理解するのがやや厳しいかもしれないが、ドラマ仕立てとしてはメリハリがついていて良かった。 真正なる革命家として神聖視されるゲバラだが、本作のゲバラは美化されるわけでもなく淡々と描かれている。熱烈なマルクス・レーニン主義者だった彼の高尚な理想とそれを裏打ちするための倫理、そして実行力は偉大なものではあるが、そのあたりの描写はあまりない。確かに著作に忠実とはいえ、何故命を賭して革命に参じたのか、何を目的にしていたのか、彼を語る上で重要な「革命は愛によって導かれる」という言葉も、本作からその裏にあるニュアンスを理解するのはやや難しいかもしれない。そこは自分で勉強しておけということか。革命と言う、ややもすると甘美な蜜の裏にある、理想と現実の乖離に苦渋する姿はパート2に引き継がれていく。 監督のソダーバーグはスペイン語があまりわからないまま、スペイン語の映画を撮影したそうで、主役のゲバラ役ベニチオ・デル・トロをはじめ各役者は中南米出身者でスペイン語を話している。アルゼンチン出身のゲバラがキューバ、メキシコ、プエルトリコなど各国の人間と話している姿は、スペイン征服の証なのだなと感じる。 主役のベニチオ・デル・トロだが、ゲバラに心酔しきったような迫真の演技はなかなかのもの。特に喘息の演技は上手だ。だが、雰囲気全般でいえば1969 年版のオマー・シャリフの方が似ている感じ。知人が言っていたが、ベニチオは何だか古谷一行みたいだそうだ。言われてみれば・・・・。 やや気になったのは、登場人物の解説が少ないこと。ゲバラやフィデル・カストロはともかく、弟のラウル、ゲバラと並ぶ司令官のカミロ・シエンフゴエスをはじめ、ラミロ・バルデス、フアン・アルメイダ、セリア・サンチェス・アレイダ・マルチなど反乱軍の主要人物が色々と登場するのだがちょっとわかりにくい。やはり事前の知識はかなり必要だと感じる。 戦闘シーンは思ったよりも秀逸。山中やサンタクララ市街戦は銃弾による負傷や射撃、着弾映像がリアルで、戦争映画として及第点レベル。ドラマのストーリー性を阻害するほどでなく、リアリティを維持できており、バランスとしても良い。 とにかく、キューバ革命やゲバラについての知識は最低限必要かな。知った上で見ると全然楽しみ方が変わってくるだろう。知らずに見るとただただ眠いだけかも。また、監督にはゲバラの革命思想を形成した中南米旅行を描いた「モーターサイクル・ダイアリーズ(2003米英)」とあわせて、3部作とする意向もあるようだから、それらも視聴するとより一層良いかもしれない。興奮度★★★★沈痛度★★爽快度★★★感涙度★革命戦争回顧録 新訳ゲバラ日記 (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1955年7月、メキシコでキューバ革命指導者フィデル・カストロと会ったエルネスト・チェ・ゲバラは、キューバのバティスタ政権打倒のために共鳴し、1956年11月82名の兵で漁船に乗ってキューバに上陸する。 政府軍によって大打撃を受けたカストロらは 1957年1月17日にラ・プラタ兵営の攻撃に成功し、武器や食料を得る。3月には現地部隊のホルヘ・ソトゥス大尉と合流したが、アルゼンチン出身のゲバラはまだ気後れするところがあり、カストロに叱責される。 5月28日、エル・ウベロの敵駐屯地攻撃でも成功をおさめるが、ゲバラは負傷した兵の輸送を買って出、カストロと別行動をとる。7月になり、カストロは都市部でのゼネスト闘争を主とする反政府グループであるウラル・チバスやフェリペ・パソスと協定を結び、シエラ・マエストロ宣言を出す。そして、軍事的能力を評価されたゲバラは軍医をやめて第2部隊の司令官に任命される。 司令官としてのゲバラは規律と指揮系統を重視し、マナーに劣る脱落者を厳しく処刑する。カストロと別れ、カミロとともに戦線を移動しながら兵を集めていく。 1957年の終わり頃にはエル・オンブリトで拠点を形成し、学校、病院、発電機までそろえていた。そこが政府軍に急襲されたのち、ゲバラは新兵教育係として任命される。彼にしかできない重要な任務だった。 1958年になり、他の武装勢力と協定を結ぶ。革命後を心配するゲバラだったが、なんとか彼らをまとめあげ、カストロが総司令官となる。いよいよ政府軍との最終対決が迫り、カミラとともにサンタクララの攻略に向かう。政府軍が陣を構えるサンタクララは手ごわいが、敵の増援部隊を乗せた列車を転覆させるなどして、次第に敵司令部に迫る。バティスタ政府軍は部下に徹底抗戦を指示しながら高級幹部は逃げる始末。1959年1月1日、ついにバティスタがドミニカに亡命し、革命が成功するのだった。 いよいよハバナへの進軍という最中、敵兵の車を盗んだ兵を叱責するゲバラの姿があった。
2009年01月11日
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チェ 28歳の革命 見てきました。詳しい感想は後ほど書きますが、出来具合はまあまあ標準以上、期待に沿ったと評価できる感じです。上映時間が長いうえ、2部作なので、だいぶダラダラした感じかもしれないと想像してましたが、以外に内容濃くしっかりしてました。 ついでに、3月20日公開の「ワルキューレ」の前売り券もゲット。前売り特典でこえだちゃんのワルキューレ版ドクッキノという変なおもちゃももらいました。なんだこりゃ。 しかし、寒いです・・・。雪降ってる・・・。
2009年01月10日
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1999 アルゼンチン 監督:マルセロ・シャプセス出演者:ドキュメンタリー88分 カラー CHE, A MAN OF THIS WORLDチェ・ゲバラ 人々のために(DVD) ◆20%OFF!DVD検索「チェ・ゲバラ 人々のために」を探す(楽天) 1953年に蜂起したキューバ革命をカストロとともに戦い、1967年にボリビアで死ぬまで、世界の共産主義武力革命を志した革命家「エルネスト・チェ・ゲバラ」のドキュメンタリー。ゲバラの出身地アルゼンチンの監督マルセロ・シャプセスが手がけ、日本でも2003年に公開されている。 本編の映像は、当時の記録映像とゲバラとともに戦った関係者や家族などのインタビュー映像で構成されている。一応アルゼンチンでの出生から、南米旅行、キューバ革命、コンゴ闘争、ボリビア闘争での死までを通して扱っている。中核となるのは、あくまで関係者のインタビューであり、彼らが語るチェ・ゲバラ像をつなぎ合わせることによって、彼の革命家としての姿を描こうと試みている。 挿入されるゲバラやカストロの演説など、当時の記録映像はなかなか貴重なものだが、さすがに保存状態は良くない。また、関係者のコメントも興味深いものではあるが、近年、関係映画や書籍が増えているため、さほど新鮮には感じられなかった。制作当時であればまた少し印象が異なったかも知れない。 本作はチェ・ゲバラを再評価・高評価するぞという意向が如実で、チェ・ゲバラ万歳的な展開がどうもいただけない。もちろん、ゲバラ支持的なドキュメンタリーならそれで良い訳なのだが、やっぱり歴史の再評価という観点では、もっと客観的な視点やゲバラ批判的な内容も欲しかったところ。特に、カストロへの直撃取材やインタビューなんかは欲しいし、それがほとんど無いところで大幅減点。 ちなみに、カストロの個人的意見という点では「コマンダンテ(2003)」で少しゲバラについて語っており、本作のニュアンスとはちょっと違う感じがする。金や名誉・地位にこだわらず、貧しい庶民を救い、理想郷を作るためにだけ生きる純粋な革命家。こうしたイメージばかりが先行し、評価されがちだが、では何故彼が革命に失敗し、彼についていく人間が減っていったのか。その辺りを紐解くキーワードがもう少し欲しかった。カストロの冷徹なまでの現実主義からの視点が余りに薄いのだ。 ただ、ゲバラがいかに冷静で、聡明な人物であったかは良く表現できている。特に側近らが語るゲバラ像からは、モラルに厳しくも人に優しい一面が映し出され、人を観察し操る術に長けていることがわかる。また、いち早く東欧の社会主義に不信感を抱き、勤労意欲向上の重要性に着目していたゲバラが、工業省の幹部らといかに議論を交わしていたかは実に興味深い。結局、ゲバラと彼以外の者のレベルの差が著しすぎたことに失望するのだが。 本作で、もう一つ決定的な欠陥はやはり映像にある。断片的な記録映像の挿入が著しく見にくい。関連性の薄い映像も多く、インタビューと被ってしまっているし、これならわざわざ映像にせずに書籍でもいいのではないかというレベル。加えて、テロップの用い方、インタビューの挿入の仕方が機械的で、段々飽きてくる。真実を明らかにしていくというドキュメンタリーならばそれでも良いのだろうが、偉人と称される伝記タイプのドキュメンタリーなので、もう少し起承転結や盛り上がりの場面を作っても面白かったのでは。 また、登場する関係者がわかりにくい。一応最初はテロップが出ることはでるのだが、次第に誰が誰だかわからなくなってくるのが難点。私が理解できた範囲内では、学生時代の友人アルベルト・グラナドス、キューバ上陸戦に参加させてもらえなかった女性同志メルバ・エルナンデス、都市ゲリラ側指導者エンリケ・オルトスキ、後任軍医オスカー・フェルナンデス・メル、14歳でゲバラの元で戦ったジョエル・イグレシアス、ゲバラの副官アリストイデス・ゲラ、ゲバラの護衛隊長アルベルト・カステラノス、護衛隊員ホセ・メンデーサ・アルグディン、ゲバラの娘アレイダ・ゲバラ・マルチ、エベリオ・スルエタ・パレラ、工業省副大臣だったオルランド・ボンゴ、写真家リボリオ・ノバル、有名なゲバラ像を撮影した写真家アルベルト・ディアス・コルダ、コンゴ闘争の同志アリー・ビエガス・タマーヨが証言者として登場している。 少佐の階級章の付いたベレー帽に髭もじゃのチェ・ゲバラ。インパクトのある出で立ちに、理想的な革命家としてカリスマ的な人気を誇るゲバラだが、本作を見てもなお彼に共鳴できない自分がいる。理想像を貫き通すことの難しさ、モラルを維持することの難しさ、誰もが感じることではあろうが、なおそれを実行しようとしたゲバラへの嫉妬心なのかもしれない。興奮度★★沈痛度★★★爽快度★感涙度★
2009年01月09日
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1969 アメリカ 監督:リチャード・フライシャー出演者:オマー・シャリフ、ジャック・パランス、チェザーレ・ダノーバほか97分 カラー CHE!革命戦士ゲバラ! DVD検索「革命戦士ゲバラ」を探す(楽天) カリスマ的な革命家チェ・ゲバラの革命半生を描いたヒューマンドラマ。役者による関係者の証言を交えた、一風変わったドキュメンタリー風の仕立てだが、証言そのものが本人ではないので、半生を描いたドラマとしての位置づけになるだろう。1959年1月1日のキューバ革命成功、1967年のゲバラの死からさほど年月を経ずして制作された意欲作ではあるが、何せゲバラとは対立軸であるアメリカが制作した作品だけに、事実を含めてアメリカ寄りであることは否めない。とは言え、カストロを含めてゲバラの描き方は決して完全批判的ではない。当時の国際情勢を考えるに、なかなか思い切った作品であることは間違いない。私の印象としては、キューバやゲバラを云々というよりは、キューバの背後にある旧ソヴィエトの関与を白日の下に曝そうという意図があるようにも感じた。冷戦時ならではの作品とも言える。 チェ・ゲバラは言うまでもないが、アルゼンチン人の医者でありながらキューバ人の反乱軍カストロに協力する。革命成功後にはナンバー2の地位を得ながらも、再びアフリカやボリビアでの革命運動を先導し、39歳の若さで死んでいる。地位や金などにとらわれず、その実直で一本気な行動力と理想から、最も革命家らしい革命家と言われ、カリスマ的な存在として今なお慕われている。日本でも人気が博され、Tシャツのモチーフやサッカーのサポーター段幕にも用いられるなど、政治的・思想的な垣根を越えて、熱意・情熱をあらわす象徴となっているようだ。 ただし、彼の革命闘争はボリビアの地で失墜したのも事実である。共産主義武力革命の限界性と非現実性を抜きにして、神格化するのはいささか不快感も感じる。武力革命とは日本赤軍がその理想を継承したように、人間の闘争本能をくすぐる甘い蜜のようなものであり、国民や農民のためなどという理想はいつしか自己の陶酔にすり替わってしまうものだからだ。 本作はさすがにアメリカ制作だけあって、その辺りの非現実性を、次第にゲバラが共同闘争者であるべき農民から乖離していく様子として描いている。むしろカストロに肩入れするかのように、カストロの現実的路線に不満を抱き決別していく姿が強調される。ただ、残念なのはカストロしかり、ゲバラの革命理論や理想についての描写がほとんどなく、ゲバラの心情の葛藤というものはほとんど伝わってこない。カストロに組みするまでの過程は省かれ、いきなりキューバ上陸から始まるので、何故農民を救うための革命闘争に身を投じたのかという、ゲバラの人格を理解するための手段がないのだ。アメリカという対極からゲバラの革命行動そのものを冷ややかに見つめたものだと言えよう。 ゲバラはオマー・シャリフが演じる。帽子に付けられた一つ星(少佐)がよく似合う。カストロはジャック・パランスが演じ、若き日のカストロと言えば見えなくもない。 登場する兵器類は小銃類とトラックがほとんど。唯一航空機でセスナが出るのみ。もともとゲリラ戦なので期待はできないのだが、銃撃戦などの戦闘シーン自体もかなり少なめ。 単なる革命家を描いたドラマとすれば、まあまあ楽しめる。チェ・ゲバラに変に肩入れせずにキューバ革命を知る上では入門編か(笑)。ただ、やはり革命家ゲバラを描いたものとしては及第点には及ばない。 興奮度★★★沈痛度★★★爽快度★感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) キューバの反乱軍カストロとともに、アルゼンチン人の軍医チェ・ゲバラは82名の戦士と共に小舟でキューバに上陸する。内陸に進軍する反乱軍の中にあって、ゲバラは持病の喘息に苦しみながらも、治療にあたっていた。しかし、キューバ政府バティスタ軍はカストロの上陸を察知し、待ち伏せ攻撃を仕掛け、カストロ、ゲバラなど17名のみがなんとか生き残る。 カストロは意気消沈するどころか、山岳ゲリラ戦を駆使して政府軍を攻撃していく。ラプラタの陸軍武器庫襲撃作戦では、ゲバラの火炎瓶投擲の活躍により多量の武器弾薬を確保することが出来た。カストロの解放区も増え、反乱軍はトゥルキーノ山に陣を構える。 そんな活躍に以前は見向きもしなかったルイス前首相の特使がやってきて、反乱軍に資金援助を申し入れる。虫歯の治療にいらだつカストロは憤慨するも、ゲバラの先見によりそれをとりなす。そして、カストロはゲバラの軍医を解任し、第二部隊の司令官(少佐)に任命する。それほどゲバラへの信任は厚かったのだ。 ゲバラは医師の活動を止めることに後悔はなく、むしろこれまで見てきた中南米の貧民を解放するため、反乱軍の指揮を執ることに執着する。貧しい農民を説得し、反乱軍に加えさせようとする。農民は花、革命家はミツバチだ、力を合わせろ、と。 だが、一方軍の規律にも厳しかった。スパイ容疑の身内を容赦なく殺害し、規律を乱す者も容赦なく処刑する。ゲバラは反乱軍の規律そのものだった。また、法律を学んだこともあるゲバラは宣伝活動も卓越しており、カストロの演説の草稿も作った。情報を重視した軍事作戦にも卓越し、しばしばカストロに意見し、次第にカストロの右腕となっていく。ハバナを孤立するためにサンタクララ占領作戦にはカミロと並んで指揮官に任命される。 ついに1959年の1月1日にバティスタが亡命し、カストロは革命を成功させる。国民の圧倒的支持を受けるカストロに反し、ゲバラは建物にこもって政府軍関係者の処刑を続ける。処刑をやめるよう進言されるが、熱狂的な国民の中に放り出すよりはましだとゲバラは言うのだった。 カストロは新内閣の組閣にあたり、ゲバラを人民軍司令官に任命する。最初は断ったゲバラだったが、軍内部からのクーデターを防ぐためだと説得され、優秀な軍を作るために就任する。また、国家銀行総裁、工業大臣も兼務し、国のナンバー2としての地位を得る。 だが、ゲバラは現実路線の国造りをするカストロの方針に不満を抱き始め、独自に南米の共産党指導者と密会を始める。さらに、アメリカに対抗するため、ソヴィエトの核ミサイル基地をキューバに建設させる。しかし、これは米ソの核戦争危機を招く結果となり、ソヴィエトは撤退していく。なお強硬論を具申するゲバラに、ソヴィエトは不快感を抱く。 ゲバラはついに世界に革命を広げたいとして、カストロと決別を決意する。カストロもついにゲバラを懐柔することはできなかった。 その後、ゲバラはボリビアに入国し、アメリカCIAに支援される政府軍と戦い、武力革命を試みる。キューバからの義勇軍を率いて戦い始めるが、かつてのようにうまくはいかなかった。ボリビア人はボリビア人による革命を望み、ボリビア共産党指導者と決裂してしまう。ゲバラは一層厳格に規律を守らせるが、武器も食料にも困る革命軍からは脱走者が後を絶たない。ゲバラはカストロに支援を頼むが、それも次第に途絶えていく。村々で農民を説得するが、ゲバラの意志が通じることはなかった。ついに、ゲバラは自分の記したゲリラ戦の掟に反し、村々での掠奪を始める。 CIAに訓練されたボリビア軍の攻撃で、ホアキン隊が全滅。助手のタニア(女性)も死ぬ。腹心らもゲバラに絶望感を抱き始め、ついにチェロ渓谷で政府軍に捕らえられてしまう。生け捕られたゲバラは命令により処刑されることに。その直前にゲバラの居場所を通報した老農民がやってくる。ゲバラが来てから山羊が乳を出さなくなったのだという。農民を救おうとするゲバラの気持ちは何一つ農民のためにはなっていなかったのだ。そして、ゲバラは射殺される。
2009年01月05日
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来週の土曜日から「チェ 28歳の革命」が公開です。近年、なぜかチェブームのようですねえ。サッカーのサポーターも何でかゲバラ像を掲げているところありますし・・・???共産党員っていうわけでもなかろうに。ただ、赤色だけが共通点?? そんなわけで?ゲバラ&カストロ関係の映画を並べてみました革命戦士ゲバラ!(1969米) チェ・ゲバラ/密林のゲリラ戦(1969伊) ビバ・カストロ(1993露) 伝説になった英雄(1997仏) チェ・ゲバラ-人々のために-(1999アルゼンチン)モーターサイクル旅行記(2000英) チェ・ゲバラ&カストロ(2002米)コマンダンテ(2003米西)モーターサイクル・ダイアリーズ(2003米英) チェ・ゲバラ 英雄の素顔(2004伊) チェ・ゲバラ 最期の時(2004伊) トラベリング・ウイズ・ゲバラ(2004伊) フィデル・カストロ×キューバ革命(2005米) チェ★ゲバラ/世界一有名なポートレート(2005墨米キューバ) チェ 28歳の革命(2008西仏米) チェ 39歳別れの手紙(2008西仏米) 結構あるもんですねえ。このうち見たのはまだ数作品のみ。今週はレンタルで革命戦士ゲバラ!(1969米)を見ました。なかなか古い作品ですが面白かったです。近いうちにレビューもします。革命戦士ゲバラ!(DVD) ◆20%OFF! また、今月のヒストリーチャンネルでは記録映画ですが「モーターサイクル旅行記(2000英)」も放映されます。 なんだかゲバラづくしになりそうです(汗)。あんまり好きじゃないんだけどなあ。 伝説になった英雄(DVD) ◆20%OFF!ビデオメーカー チェ・ゲバラ/チェ・ゲバラ-人々のために-チェ・ゲバラ&カストロ(DVD) ◆20%OFF!コマンダンテ COMANDANTE(DVD) ◆20%OFF!チェ・ゲバラ 英雄の素顔(DVD) ◆20%OFF!チェ・ゲバラ 最期の時(DVD) ◆20%OFF!フィデル・カストロ×キューバ革命(DVD) ◆20%OFF!チェ★ゲバラ 世界一有名なポートレート(DVD) ◆20%OFF!
2009年01月04日
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2006 トルコ 監督:セルダル・アカル 出演者:ネジャーティ・シャシュマズ、ビリー・ゼイン、ゲイリー・ビューシィほか 118分 カラー KURTLAR VADISI IRAKイラク-狼の谷-(DVD) ◆20%OFF! DVD検索「イラク 狼の谷」を探す(楽天) イラク戦争を背景に、イラク北部のクルド自治区で起きた様々な事件をトルコ側視点から見た異色作。異色というよりも我々が目にする作品のほとんどが西側製作のため、本作から感じる違和感はかなり強い。トルコという国はEU加盟国でありながらもイスラム国家であり、第二次世界大戦時から独自の独立、依存路線を辿ってきた国である。親米のようであり、反米であるという、なかなか日本人には理解しづらいポジションであり、本作もそうした背景をしっかりと把握しておかなければ、単なるアンチアメリカ映画という印象しか残らない。アメリカでは公開されていないようだし、公開された国々でも評価は大きく二分されるようだ。 ちなみに、トルコはスンニ派イスラム教徒が大半の国家で、「クルド人民会議」のトルコ版PKKと対立してきた。イラク戦争でアメリカがクルド人組織を支援したことからアメリカとの溝が広まっている。 本作では、全般に極悪アメリカ兵と小狡いクルド人が敵であり、トルコ人とアラブ人が善者として描かれている。何故、こういうポジションで本作が描かれなくてはならなかったか、ということを考えてみる必要があるようだ。 本作で描かれている内容は、2003年7月4日の「フード事件」(イラク北部で米軍がトルコ軍特殊部隊本部を急襲し、11人のトルコ兵が拘束された事件)、2004年5月19日のムカラディーブ村での米軍によるイラク人結婚式襲撃事件などを題材にしていることは明らかで、さらに北部同盟兵士がトラックで護送中にトラックコンテナに銃撃を加えてタリバン兵を殺害したエピソード(このエピソードは「グアンタナモ、僕達が見た真実(2006英)」で描かれている)も米兵が行う仕業として描かれている。このほか、有名になった米兵によるアブグレイブ捕虜虐待事件(「アメリカン・ソルジャーズ(2005カナダ)」でも一部描かれる)も描かれる。 従って、描かれている内容の真偽についてはいささか疑わしいものがあるが、少なくともイラク人のみならずトルコ人にとってもアメリカ人の傲慢さ、残虐さというものがどのように捉えてられているかは窺い知ることが出来る。キリスト教、正義の鉄拳を振りかざしてきた大国への敵意は根深く、民意にも反映されているのだと感じる。 ただし、アメリカ全てを否定しているわけでもなさそうで、あくまでも悪者は米軍の一部であって、トルコが戦うのもトルコの名誉の回復のためという点をことさらに強調している感がある。この当たりはやはりトルコの置かれた微妙なポジションを感じる。 トルコ視点(イスラム視点)という点では非常に興味深い作品ではあるが、全般のストーリーや流れという点では今ひとつ。反米なら反米で政治色一辺倒で突き進んでくれればいいが、イラク人女性やトルコ情報部員がスーパーアクションを繰り広げてしまうという陳腐さ。そのアクションもハリウッドに比べれば陳腐なもので、見た後の達成感や爽快感は感じられない。まあ、こんな作品があってもいいかというB級レベル。 撮影はトルコで行われており、登場する兵器類はかなり少なめ。米軍が乗るジープ以外はトラックのみ。銃器類もあまり考証されているとは思えない。 興奮度★★ 沈痛度★★ 爽快度★★ 感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 2003年7月4日、イラク北部クルド自治区スレイマニエ市に駐留する多国籍軍のトルコ部隊司令部に米軍が踏み込んでくる。少佐を長とする11名のトルコ兵は拘束される。トルコ軍がイラクテロリストを支援したとの疑いだが、スレイマン少佐はトルコへの侮辱だとして自決する。 裏で米軍を仕切っているのは元米兵で死の商人サム・マーシャルだった。サムはイラク人レイラの結婚式パーティを襲撃させ、子供を含む多数の民間イラク人を殺害する。さらに、暴走した米軍兵は臓器売買のための提供者としてイラク人を連れ去り、途中で空気穴と称してトラックに銃撃を加えイラク人を殺害する。臓器売買を手がけているのはユダヤ系アメリカ人で、生きて連れてこられたイラク人をアブグレイブ収容所の捕虜として臓器を取り出していた。 スレイマン少佐の部下だった元トルコ諜報部員のポラットは、仲間のアブドュレー、メナティとともにアメリカ軍への報復を決意する。クルド人民兵の検問を突破し、ハリルトン・ホテルに爆弾を設置して占拠する。ホテルの支配人を通じてサムを呼び出したポラットだったが、サムは上手にもトルコ人の少年少女を連れてきており、サム殺害は失敗に終わる。 婚約者を殺害されたレイラは復讐を試みようとするが、ケルクーキ師は自爆テロを許さなかった。しかし、幼い子供アリを殺害された父親はサム、クルド人、アラブ人、トルコ人を交えた三者会議を狙って自爆テロを決行する。しかし、サム殺害は失敗し、暗殺を狙っていたポラットらは米兵をついでに殺害する。米軍に追われたポラットらはレイラの手引きで米軍から逃れる。 サムはトルコ代表のハサンを殺害し、ますますトルコの立場が悪くなる。クルド人代表にもケルクーキ師の殺害を求めるが、万人から崇拝されるケルクーキ師の暗殺は断られる。 ポラットはサムへ贈られるピアノに爆弾を仕掛ける。ピアノは爆発するもののサムは生き延びる。ケルクーキ師のもとを訪れたポラットらとレイラはそこで米軍の襲撃を受ける。周囲を囲まれたレイラは婚約者から贈られたナイフで米兵を殺すが、サムによって射殺されてしまう。ポラットの腕の中で息絶えたレイラの敵討ちと、ポラットはサムと格闘戦になり、ついにサムを殺すのだった。
2008年12月29日
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2008 TBS 出演者:ビートたけし、阿部寛、市川団十郎、野村萬斎、西田敏行、高橋克典ほか165分(CM込) カラー 2008年12月24日にTBS系で放映されたドキュメンタリー風ドラマ。3月10日に放映された「シリーズ激動の昭和 3月10日東京大空襲語られなかった33枚の真実」とシリーズ激動の昭和として制作された。約5時間にわたる放映で前半はドキュメンタリー、後半に本作ドラマが放映された。 主に日米開戦を巡る政府、軍部の動きを捉えたもので、どこに開戦の戦争責任があるのかといった問題にクローズアップしていく。ドラマは、宰相東条英機、その懐刀であった陸軍軍務局軍務課員石井秋穂中佐、前首相近衛文麿、徳富蘇峰を中心に、架空の新聞記者を介在させることによって取材という形式で掘り下げを行っている。 ドラマでは悪名高いTBS制作ということもあり、思い切り軍部批判に終始するのかと思いきや、意外にまともな出来に驚いた。不謹慎かもしれないが、直前に亡くなられた筑紫哲也氏が登場しなかったのが良かったのか、全般に左がかった批判的雰囲気が一掃されており、相変わらず取材の浅さと的はずれさは色濃く残るものの、決めつけ的な誘導がないのが好感だった。 何と言っても、戦争責任や開戦責任について、無為に軍部や政府に求めるのではなく、マスコミや国民世論そのものにも責任があることを明瞭に示した画期的作品であったことが評価できる。現代の政治家批判や官僚批判に見られるように、不満のはけ口を実像のない責任者に押しつけて満足するのと同様、戦争責任を特定の個人に押しつけて解決を図ろうとする、これまでの風潮に一石を投じるものと言える。開戦責任や意志決定が特定の個人の悪意で行われたのではなく、国民世論やマスコミの論調によって強く影響されていたことは、古くから指摘されていたことだが、こうした大衆ドラマとして表現できたのは喜ばしいことだ。 国民を多大な犠牲にさらしたのは国民の世論であり、戦争を推し進めたのも、止めることができなかったのも国民の責任であって、軍部や政府に責任を転嫁しても同じ過ちは再び起こる。軍部も政府も一国民から成り立っているのだから。そう言う意味で、世論というものの影響力の強さを、その世論を悪意にも善意にも誘導しうる唯一の機関マスコミが取り上げたことは評価に値するだろう。今後、こうしたマスコミ総括的な内容が増えることを望む。 さて内容だが、ドキュメンタリー部分も含めて東条家、近衛家などの関係者への取材を行っているが、その成果が十分にドラマに生かされているようには思えない。 東条英機、近衛文麿の知られざる素顔に迫ると言った点では非常に興味深いのだが、それを検証するための論拠に浅く(もしあったとしても映像で示していない)、不信感を抱く。また、軍務局の石井中佐を中核に置く手法は1991年放映のNHKスペシャル「御前会議~太平洋戦争開戦はこうして決められた~」でもあったので、オリジナリティ性はちょっと薄いイメージ。まあ、そもそもかなりの箇所で脚色しているようだから、楽しんで開戦裏話を学習しましょう的なものとしてはそんな程度か。そう言う意味では、陸軍参謀総長杉山大将以外は悪者に仕立て上げなかった(笑)のは、各人の解釈余地を与えたということで良かったのだろう。 ドラマとしての出来だが、キャスティングがいかにもお粗末。ビートたけしの東条には笑ったが、石井中佐の阿部寛・・・でかすぎないか(笑)。野村萬斎の昭和天皇も元気いっぱい・・・。キャスティングのせいで、思い切りリアリティに欠ける雰囲気になってしまったが、逆にこれはフィクションドラマを多く含んでいることを思い出せる効果もあるかもしれない(笑)。 全般に、適度な緊迫感とテーマ性が表現されていて楽しめた。ただ、TBS的にはこんな評価に落ち着いてしまって、良かったのだろうか(笑)。TBS公式 興奮度★★★沈痛度★★★★爽快度★★感涙度★★陸軍省軍務局と日米開戦東條英機と天皇の時代
2008年12月26日
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1970 イギリス 監督:エチエンヌ・ペリエ 出演者:マイケル・ヨーク、エルケ・ソマー、ペーター・カルステンほか 102分 カラー ZEPPELIN DVD検索「ツェッペリン」を探す(楽天) 第一次大戦時のドイツ軍のツェッペリン飛行船を題材にしたサスペンスアクションドラマ。ドイツ系の英国軍将校がドイツ軍の新型飛行船ツェッペリンの情報を入手するためにドイツに潜入して活躍するというもので、ストーリー自体はフィクション仕立てながら、風変り兵器の飛行船を扱った異色作で、なかなか戦争ものとしても興味深い。 舞台がまだ第一次大戦と言うこともあり、若干ほんわかとした情報戦で、戦争の悲惨さや壮絶さというよりは、互いの裏をかいたスパイ戦を楽しむ作品である。また、リアル感よりも役者の個性を重視する70年代を感じさせる作りでもあり、今となってはやや古くさい感じのする映画でもある。 ツェッペリン飛行船はいわゆる硬式飛行船のことで、今でも時折飛んでいる葉巻型の飛行船のことである。1900年頃にドイツのツェッペリン伯爵が設計したLZ1が初号で、本作はLZ36が主役として描かれている(史実のLZ36はドイツ海軍に運用された)。以降、ドイツでは1930年代まで119隻が建造され、偵察や爆撃任務につく機体もあったが、その鈍重さから実戦兵器としてはあまり活躍していなかったようである。むしろ、音もなく忍び寄る恐怖の兵器として心理的動揺を与えるものであったようだ。ちなみに、飛行船の浮遊は水素ガスが主流であり、敵機の銃弾で容易に爆発してしまうため、当初は複葉戦闘機の上昇限度高度以上の飛行高度を取ることで機体の安全性を確保していたことが本作にも登場する。また、本作では撮影用セットとはいえ、かなり忠実な飛行船内部の影像や、給油、海上着水のシーンもあり、実用面での飛行船の姿を堪能できる。 先にも述べたが、戦争ものというよりは、主役の英国軍スパイ、ドイツ側女性博士などの個性がかなり強く、サスペンス、ラブロマンス的なストーリー展開を楽しむものとなっている。そのストーリー展開は意外に先が読めず、ぐいぐいと映画に引き込まれた。場面設定や行動、戦闘シーンにはややリアリティに欠ける嫌いはあるが、それを補うだけの内容があるといえる。 多分、記録影像以外の実機の飛行船は登場していないとは思うが、飛行船セットの出来はかなり良い。また、飛行船内部や外部の影像はセットや模型を利用しているのだろうが、それを感じさせない秀逸なカメラワークだ。さすがに、英国軍戦闘機との空中戦シーンはボロが見えるが、それでも飛行船に乗っているかのような浮揚感を十分感じることが出来る。70年代の映画としてはなかなか良くできている。 また、イギリス軍の戦闘機としてはローヤルエアクラフトSE5aが複数機登場する。映画の背景が1915年なのだが、実際のSE5aは1917年から制式採用なのでちょっと時代錯誤はあるけれど・・・。 影像がやや古くさい感じがあるが、気軽に楽しめるサスペンスアクションとして、今でも十分楽しめるだろう。 gyaoで視聴 興奮度★★★ 沈痛度★★ 爽快度★★★ 感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1915年のロンドンの夜更け。上空をドイツ軍の飛行船が爆撃していく。 ドイツ出身のイギリス軍将校のジェフリー・フォン・リヒター中尉は、ドイツ軍の女スパイと懇意になり体の関係になっていた。その女スパイからスパイであることを明かされ、ドイツへの亡命密入国を勧められる。一方、イギリス軍情報部はそのことを把握しており、逆にジェフリー中尉に二重スパイとしてドイツに潜入し、新型飛行船ツェッペリンの情報を入手するよう命じる。 飛行船は水素ガスのため機銃弾に弱いが、戦闘機の上昇限度よりも高い2700mを飛行できており、さらにドイツは新型飛行船を開発しているとの情報だった。イギリス軍は新型機と焼夷弾の開発を急いでいたが、間に合わなかったのだ。 敵の目を欺くため、密入国の際にジェフリー中尉はイギリス兵に左腕を撃たれる。「バンティング・ブルー」というコード名となった中尉はドイツに入国し、かつての恩師であり飛行船の設計者クリスチャン・アルトシュル博士と会う。新型機はLZ36と言い、アルミ製のエンジンを装備していた。クリスチャン博士の妻エリカ博士はジェフリーに訝しさを感じていたが、ドイツ軍情報部のヒアシュ大佐、トーントラー少佐らは次々にジェフリーに飛行船の情報を与えていく。実は、ドイツ側もジェフリーを完全に信用しているわけではなく、利用しようとしていたのだ。 新型LZ36飛行船のテスト飛行が故障のため中止となった日、ジェフリーはヒアシュ大佐に呼ばれて飛行船に乗る。飛行船にはクリスチャン博士、エリカ博士のほか、フォン・ゴリアン船長らが搭乗していた。故障と嘘の情報を流してテスト飛行しようとしていたのだ。新型飛行船は高度3700mまで上昇、時速 100kmを出し、テストは成功する。1915年9月1日のことだった。 だが、ヒアシュ大佐らは帰還せず、そのまま爆撃任務に就くことを命じる。驚くクリスチャン博士らだが命令に従うしかない。まず、ノルウェーに向かって給油することとなり、ジェフリーはなんとか本国に報告しようと試みる。手の空いた無線士を外に出し、その隙に本国に飛行船の爆撃を無線で知らせる。しかし、そのことが無線士にバレ、やむなく無線士を殺害して空中から遺棄する。 次の中継地点はイギリス沿岸の洋上だった。目的は爆撃ではなく、スコットランドのバルコヴン城にあるイギリスの古文書類奪取だった。船から毒ガスや兵士らを乗せてLZ36は出発する。ジェフリーは地形に詳しいため、コースを決める役割を与えられ、少佐の階級を与えられる。なんとかそのことを知らせようと、ジェフリーは無線を打つが、エリカ博士に見つかってしまう。さらに少佐が探しに来て、とっさにジェフリーはエリカとキスをして誤魔化す。エリカはジェフリーがスパイであることを知るが、次第にジェフリーに愛を感じ始めていた。 いよいよ城の上空に到達。ジェフリーらは城内に侵入する。ジェフリーは監視所に駆け込んでドイツ軍の来襲を海軍本部に知らせるよう英国兵に言うが、ドイツ軍服を着ているために信用してもらえず、左腕を撃たれる。毒ガス攻撃等で英国兵は倒れ、ついに城内の古文書類に手が伸びる。ようやく英国軍も事態に気づき、反撃にやってくる。ドイツ軍は何も奪えずに撤収するが、英国兵に倒されていく。ジェフリーは信号弾で飛行船を爆破しようとするが、エリカに制止され、飛行船に搭乗して退避する。 飛行船は被弾してなかなか高度が上がらない。英国軍は新型の戦闘機第16、55、112、53戦隊が出撃。飛行船はようやく高度2100mに達するが、安全高度にはあと2400m必要だった。不用なものを全て捨て2800mに達するが、新型戦闘機によって次々被弾する。負傷したトーントラー少佐は自ら飛行船から飛び降り、クリスチャン博士も飛び降りる。ついに4500mに達した時、機内には数人しか残っていなかった。 飛行船はなんとかオランダ海岸線まで到達するも、着水時に爆発炎上。ジェフリーとエリカは泳いで海岸にたどりつく。
2008年12月25日
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2005 イギリス・ドイツ 監督:マイケル・ケイトン=ジョーンズ 出演者:ジョン・ハート、ヒュー・ダンシー、ドミニク・ホルヴィッツほか 115分 カラー SHOOTING DOGSルワンダの涙 DVD検索「ルワンダの涙」を探す(楽天) 1994年に起こったルワンダでの大量虐殺を題材にしたシリアス映画。前年に「ホテル・ルワンダ(2004)」という同題材を扱った映画が評価を得ているが、本作もかなり類似した作品である。場所と視点をちょっとだけ違えた姉妹作と言っても良いだろう。ホテル・ルワンダではベルギー系ホテルでルワンダ人が主人公。本作はキガリ公立技術学校でイギリス人教師が主人公。どちらも、フツ族とツチ族というルワンダ人同士の虐殺の理不尽さ、ベルギー、フランスを主体とした国連軍の無関心さをクローズアップする点で共通点がある。最大の違いは最後の結末であろう。 ちなみに、本作の制作者はBBCで実際に取材にあたったデヴィッド・ベルトンによるもので、自責の念から製作を思い立ったのだそうで、スタッフには実際に虐殺で肉親を多く失ったルワンダ人も多く関わっている。そういう意味では、ホテル・ルワンダよりもより一層核心に迫ったものであり、リアリティがあるのかもしれない。 本作では、イギリス人教師や牧師のいる公立技術学校にツチ族を主とする難民が避難してくるのだが、そこを拠点とする国連軍のベルギー軍部隊は結局撤退してしまう。難民に押し寄せる殺害の恐怖、白人の何も出来ないもどかしさと愚かさがリアルに伝わってくる。 ただ、ホテル・ルワンダに比べ、全体のスケール感やストーリーの展開やテンポという点では若干劣る感がある。実話ベースに縛られてしまったのか、登場人物や展開に膨らみがあまりない。突っ込んでの描写をためらったかのような箇所も見られ、若干傍観者的なイメージも感じる。この辺りは逆に完全フィクション仕立ての方が作りやすいのかも知れない。ホテル・ルワンダのほうは緊迫感という点で優れていた。 本作で興味深かったのは、こうした題材の場合、どうしてもフツ族によるツチ族虐殺という視点になりがちだが、本作ではフツ族の心情も描いている。「ツチ族は昔のようにフツ族を奴隷にしようとしている」。宗主国ベルギーやフランスの介入により、ツチ族とフツ族の争いが激化した背景があり、どちらが一方的に悪いというものではないのだ。 さらに、身内だったフツ族の青年が見る間に虐殺者に変貌を遂げていくシーンは、人間の凶暴本能を垣間見たような気がする。ギラギラとして血染めのナタを片手に徘徊する殺戮者の姿は恐ろしい。だが、彼らもまたほんの数日前まで善良な市民だったかもしれない。戦時の狂気と似たものがあり、暴走を止めるにはどうしたら良いのか。図らずも本作では宗教ではないことを暴露している。いずれにしても、白人の偽善者的態度と身勝手さは何の役にもたたない。 全体的に悪くはないが、バランスやまとまりにもうちょっと工夫があると良かった。映画の起承転結にもやや問題があったのか、心に響くインパクトがやや弱かった。 興奮度★★★ 沈痛度★★★★ 爽快度★ 感涙度★★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1994年ルワンダ。首都キガリの公立技術学校に国連平和監視団のベルギー小隊が駐留していた。学校には教師の英国人ジョー、牧師のクリストファーらがいた。ジョーは整備士のフツ族ルワンダ人フランソワと一緒に出かけ、出先でBBCのレイチェルに出会う。レイチェルは各地でフツ族によるツチ族虐殺が行われていると言う。 4/6。フツ族のシボマナ議員がやってくる。学校ではツチ族の女の子マリーがニェンジ(ゴキブリ)と蔑まれている。その晩、大統領の乗った飛行機が墜落し、フツ族はツチ族の行為としてツチ族虐殺が横行し始める。ツチ族らは学校に避難をはじめ、ベルギー軍のデロン大尉も渋々彼らを中に受け入れる。 4/7。白人達も学校に避難してくる。ジョーはマリーが心配になり家に行くがいない。戻ってみるとすでに学校に避難していた。市民らは国連の介入を要請するが、国連は監視団であった維持軍ではないとして出動を拒否する。街にはフツ族民兵が横行し始め、ツチ族の死体が至る所に見受けられるようになる。また、首相の警護にあたっていたベルギー兵10名が拉致され処刑される事件が起こる。国連は撤退を検討し始める。 ジョーは現状を打破するため、BBCのレイチェルに頼み込んで学校の取材をしてもらう。学校に行く途中で民兵の検問に会い、民兵の中にいたフランソワの口利きで抜けることが出来る。しかし、フランソワは血の付いたナタをもっていた。 ベルギー軍のデロン大尉は、クリストファー牧師の何故戦わないのかという詰問に、自身の祖父がかつてユダヤ人を匿ったことを誇りとしているが、軍人として出来ることはほかにないと苦しい心情を打ち明ける。 外では他の神父が殺され、修道院が心配になったクリストファーは赤ん坊の薬を買いがてら修道院に向かう。薬屋ではフツ族の子かツチ族の子かと聞かれ、フツ族と思わず嘘を付く。修道院では修道女らがレイプされ死んでいた。クリストファー牧師は怒りとともに絶望感を感じる。学校に戻ったクリストファーは、死体を食う犬を射殺したいというデロン大尉の申し出に、「犬が攻撃してきたか。自衛でしか発砲しないのだろう」と攻め寄る。 フランス軍のトラックがやってくる。しかし、フランス軍は白人のみしか乗せていかない。あきらめかけたツチ族の一部が学校の敷地外に出てしまう。あっという間に民兵が取り囲みナタで惨殺していく。生まれたばかりの赤ん坊を抱いたエッダもまた殺される。 いよいよベルギー軍の撤退が決まる。ジョーもクリストファーも一緒に撤退することにするが、マリーの一緒に居て欲しいとの言葉にクリストファー牧師は残ることを決意する。ジョーを乗せたベルギー軍部隊が撤収していく。マリーはジョーに「何故行ってしまうの」と問いかけるが、ジョーは「すまない」と言って去っていく。 学校内の2500人のルワンダ人が民兵に虐殺されるのは時間の問題だった。クリストファーはトラックの荷台にマリーら子供を乗せて脱出する。民兵の検問で止められ、クリストファーは銃殺されるが、その間に荷台の子供たちは逃げることに成功する。 5年後。イギリスの学校にいたジョーのもとに、マリーがやってくる。「何故見捨てたの」という質問にジョーは「死ぬのが怖かった」と答える。学校では 2500人のツチ族が殺されていた。
2008年12月19日
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2008 角川映画 監督:手塚昌明出演者:高山侑子、三浦友和、木村佳乃、渡辺大、金子賢、鈴木聖奈ほか118分 カラー DVD検索「空へ 救いの翼」を探す(楽天) 航空自衛隊小松基地の小松航空救難団における、新人女性パイロットを中心に繰り広げるレスキュー活動や私生活を描いたドラマ。原作はアニメーションの「よみがえる空-RESCUE WINGS-」、コミックの「レスキューウイングス」で、その映画化である。主役のヘリUH-60パイロット川島3尉役にはなんと16歳の高山侑子が抜擢され、脇には三浦友和、中村雅俊、木村佳乃などが固めている。当然のことながら撮影には航空自衛隊や海上自衛隊が全面協力しており、特に空自の航空救難団(小松、浜松など)の航空機が飛びまわり、小松基地での撮影も多い。 正直言って、ストーリーや映画の雰囲気は自衛隊PRか、隊員勧誘映画的(笑)。さらにシナリオやセリフに問題があったのか、もしくは自衛隊を描くとこうなってしまうのか、主役を除けば皆立派な役者のはずなのに、べタベタかつ棒読みの演技はちょっと失笑を誘う。ストーリーもレスキューシーンも、恋愛シーンも、友情シーンも超ストレートで、捻りも深みもあったものではない(笑)。素直に興行映画的に評価を下すと★2から2.5が良いところだろう。 だが、私の評価は★4つ(笑)。何故かといえば、棒読みセリフやベタな芝居に、いい加減にしろよと失笑しながらも、私の視線はスクリーンに釘付け状態。ベタな友情、恋愛に思わず涙。映画を観終わった後の爽快感も良い。 この映画、空自のドキュメンタリーだと思ってみると、随所に美化しすぎ、やりすぎの設定などおかしな所も多々あるのだが、元がアニメーションだから気にしてはいけない(笑)。ストーリーもはっきりいって今時ありえないほどB級の内容なんだが、実はそれを超越するほど登場人物が格好いいのだ。逆にベタベタなB級だからこそ引き立つ格好良さなのかもしれない。それに加えて、自衛隊全面協力の救難ヘリUH-60や救難捜索機U-125、戦闘機F-15の航空機飛行シーンは迫力十分。地上、機上撮影のリアル感はドキュメンタリーにも匹敵するほどで、特に救難ヘリのコックピットシーンやU-125の機首下の暗視カメラ作動シーンはまさに垂涎もの。また、私も航空祭で何度も行った小松基地を使用した撮影は、何だかとってもドキドキするのだ。いわゆるミリヲタ的には見どころ満載で、スクリーンに釘付けなのだ(笑)。 そういう意味で、真面目に映画を楽しもうという人には余りお勧めできないかもしれないが、ミリヲタ的に航空機アクションを楽しみたい人は、あえて自衛隊美化の罠にはめられるつもりで見ると堪能できるだろう。 主人公の川島3尉役の高山侑子はまあまあかわいい。美人過ぎないのが控えめでいいかも。空士長役の鈴木聖奈もブスなんだかチャーミングなのか微妙な感じがいい味。3佐でUー125パイロット役の木村佳乃も凛々しくて格好良かった。F-15パイロット役の金子賢はなかなかのマッチョで、いかにも自衛隊員らしい。 あと、気になったのは、3尉の主人公に空士長や3曹の女性がため口なところ。お友達と言うことなのだろうが、もはや自衛隊は軍隊ではなく職場ということなのかな。また、2曹の男性隊員もため口だったりするが、これは星の数よりメンコの数といったところかな。 映画中に登場するレスキューは、離島の病人輸送、遭難漁船からの救出、火災タンカーからの救出、山岳遭難者の救出、墜落したF-15パイロット救出だが、本来の救難団の業務は最後のパイロット救出。民間遭難者の救出は警察、消防防災、海保のヘリが行うが、困難な場合は救難団に出動要請が出るのだそうだ。山岳遭難で自衛隊が出動した例はあまり聞かないが、実際出動する県警や消防防災ヘリのパイロットは自衛隊上がりが多いらしい。なお、主人公は空自初の女性救難ヘリパイロットということだが、実際にはまだ存在していない。 登場する機体ではタンデムローターのKV-107IIA(74-4844)は浜松救難隊のもの、救難ヘリUH-60Jは小松救難隊(78-4587,88-4585,58-4582)の3機が登場、U-125Aは小松救難隊(22-3020)が主に登場している。F-15Jは小松基地306飛行隊(924 948)の3機が協力。海自の護衛艦は「はるさめ」で搭載のSH-60K哨戒ヘリも登場。願わくばもう少しF-15あたりの機動飛行が見たかったな。 本作は見る人によってかなり評価が分かれるだろう。私のようなミリヲタにはかなり楽しめるだろうが、もっと真面目に検証しちゃう人や自衛隊に興味ない人にとっては酷い映画かもしれない(笑)。 興奮度★★★★沈痛度★爽快度★★★★☆感涙度★★★★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 航空自衛隊航空救難団小松救難隊に配属された新人で、初の女性ヘリパイロットとなった川島遥風3尉は周囲の注目を浴びながら訓練に励んでいる。川島3尉はかつて急病の母親が自衛隊救難ヘリに運ばれた経験から、救難隊のパイロットを目指していたのだ。 山岳訓練ではコントロールミスを犯し、救難隊長菊田2佐に怒られるが、期待の裏返しでもあった。基地ではU-125の女性パイロットでもある飛行班長鷹栖美那3佐が腕組をして待ち受けている。ヘリクルーのメディック(救難隊員)らは新人川島の操縦に不満を漏らすが、特に瀬南2曹は手厳しい。そんな川島3尉をF-15パイロットの横須賀1尉はからかいながらも励ますのだった。基地ではヘリ整備員の勝沼碧空士長や横山3曹らが女性仲間として励ましてくれる。 いよいよ実任務がやってくる。沖合で漁船が座礁。救難捜索機Uー125の情報により早稲田3佐操縦のUH-60は川島3尉や瀬南2曹らを乗せて出動。危険な任務のため、瀬南2曹は機上待機となり柿崎2曹が単身で乗組員の救助に当たる。しかし、最後の1名が見つからず燃料切れとなったために帰投を決める。その瞬間に川島3尉は最後の一人を発見するが、燃料切れのために見殺しにしてしまう。落ち込む川島に菊田2佐は決断することも大事だと諭す。また、瀬南2曹は阪神大震災で妹を失ったことを話し、感傷では人を救えないことを語る。 剣岳で山岳遭難者が出る。出動要請を受けて織田1尉操縦のヘリが出動する。今度はホイストで瀬南2曹が降りていくが、機体の整備不良で操縦が揺れた瞬間に瀬南2曹の体が崖に叩きつけられ、肋骨を折る重傷を負う。操縦ミスを悔やみ苦しむ織田1尉だが、基地では整備不良の責任に悩み自衛隊をやめようとする勝沼空士長がいた。川島は酒をあおる織田1尉に勝沼空士長を説得するように頼もうとするが、話しかけられず、そこに横須賀1尉がやってくる。横須賀1尉は何も言わずに去っていくが、翌日勝沼空士長のもとにバイクに乗って励ましにやってくるのだった。実は横須賀はかつて暴走族のリーダーで、勝沼もそこでバイクの整備をやっており、横須賀に憧れていたのだ。砂浜をバイクで走る横須賀と勝沼の姿を機上から川島は眺めほっとする。 川島は離島の急患を運ぶ任務につく。急病の少女を搬送し、手術に成功するが、少女からお礼の手紙をもらった時、少女は急死する。救った命が失われたことにショックを隠しきれない川島3尉を菊田2佐と鷹栖3佐が見守る。実は、過去に菊田は鷹栖の父を救えなかった過去があったのだ。 それから1ヵ月後、横須賀1尉と勝沼空士長が婚約を発表する。そして瀬南も復帰してくる。沖合の火災タンカーから乗員救出のため、早稲田3佐と織田1尉操縦の2機が出動する。無事に乗員は救出できたが、爆発のために織田1尉が目を負傷し、操縦は川島3尉に変わる。そんな矢先に、横須賀1尉の乗ったF-15戦闘機が墜落し消息を絶つ。鷹栖3佐の救難捜索機が飛び立ち、川島3尉のヘリが現場に急行することに。横須賀はなかなか発見できず、ようやく発煙筒により発見。だが、川島のヘリの残り燃料が足りなくなり、救出しても基地に戻ることができないことが判明。菊田2佐は苦渋に満ちながら帰投を命じる。そこに鷹栖3佐が海上に海上自衛隊の護衛艦がいたことを思い出し、護衛艦に着陸することを提案する。だが、川島3尉は護衛艦に着陸したことがない。それでも川島3尉は横須賀を救うために決断し、救出に向かう。基地では勝沼空士長が祈る気持で待機していたが、無事に救出した報に喜ぶ。 あとは護衛艦はるさめへの着艦だけだ。護衛艦の飯島艦長と副長は川島3尉への協力を惜しまず、無事に着艦することができるのだった。
2008年12月16日
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空へ 救いの翼 RESCUE WINGS 富山でやっていないので、金沢まで行って見てきました。空自の小松基地がメイン舞台で、自衛隊全面協力の作品です。 同じように自衛隊協力と言っておきながら見事に期待を裏切られた「ミッドナイトイーグル」なんてのがありましたけど、今回のはなかなか良かったです。 正直言って、ベタなストーリー、棒読み的なセリフまわしと雰囲気的には自衛隊PR、勧誘映画のようなんですけど(笑)、そんなのを超越して格好いいし、超ストレートな感動ストーリーが泣かせます。空自の救難ヘリがブンブン飛んでるし、日頃マイナーなU-125が格好良く見えます(笑)。F-15もそれなりに登場しますし、ミリヲタ的にはなかなか良い出来だと思います。 一般映画好きの人にはきっと評判は良くないと思いますが(笑)、私個人的にはなかなかツボにはまりました。きっとDVDを買うでしょう。とにかく登場人物がそれぞれ格好いい。そんなやついないだろうと思いながらも、引き込まれていきます(笑)。 それにしても、結構著名な役者が出ているのに、あの棒読みセリフはなんなんだろう。まあ、それがそれでいい味なのかもしれないけど。 というわけで、あたくし的には★4つはあげちゃいます。映画的には★2.5がいいところかもしれないけど・・・ ただ、空自小松基地のある石川県でさえ、あんまり公開館がないんですよねえ。やっぱりこの手は受けないのかなあ。 かぽん的に是非お勧めです。
2008年12月14日
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2005 韓国 監督:ミン・ジュンギ 出演者:キム・スンウ、パク・チュンフン、ファン・ジョンミンほか 106分 カラー GENERAL OF HEAVEN 天軍 特別版 / キム・スンウ DVD検索「天軍」を探す(楽天) 核兵器の争奪を繰り広げる韓国、北朝鮮軍兵士が、李氏朝鮮時代にタイムスリップして戦乱に巻き込まれていくという、「戦国自衛隊」のパクリ的映画。韓国軍3名、北朝鮮軍3名に女性の博士が1人タイムスリップする。時代は1572年で豊臣秀吉の朝鮮出兵時に水軍を率いた李瞬臣が登場する。 元来、現代軍隊が戦国時代にタイムスリップしたらどうなるだろう、という興味津々な題材だけに基本的にはずれはないはずと思われた。だが、結論から言ってしまえば期待を大きくはずしてしまった。ストーリー設定自体は何でもありなので、決して悪いものではなく、タイムスリップの背景、戦乱での戦闘、結末と、戦国自衛隊を越えるものではないが及第点レベル。 問題は、作品から漂ってくる「韓国自立主義」「太陽政策」的な政治色、民族色が余りに強すぎることだ。まず、韓国と北朝鮮が極秘に共同で核兵器を開発するという設定自体眉をひそめたくなるのだが、アメリカが引き渡しを強要することに反発し、ついでに日本や中国に対しても敵意をむき出しにするのだ。さらに、タイムスリップ先は韓国の抗日的英雄李瞬臣将軍のもとで、事ある毎に抗日の英雄として賛美し、戦う相手は蛮族なのだがこれは傲慢な中国を意識しているように見える。 いずれにしても、全編からプンプンと「朝鮮自立」「南北宥和」が漂ってきて、韓国人以外の者が見れば違和感を感じざるを得ない。制作年が2005年と言うことで、超ぬるい太陽政策、南北宥和政策に邁進したノ・ムヒョン大統領の全盛期でもある。世相を反映してこのような作品に仕上がったのだろう。 もう一点本作で不快だったのは戦闘シーン。朝鮮人や中国人のナタや蛮刀での殺害シーンはかなり残酷。外国人から見た日本刀も一緒の感覚なのだろうが、異文化の殺戮とはこれほどにも不快感を感じるものなのだろうか。日本人にとっては思ったよりも残酷感を感じるのではないだろうか。 作品のスケール感はあまり感じない。エキストラ数もさほど多くはなく、金がかかっている風には見えない。登場する兵器類は小銃と機関銃のみ。ただ、弾の数が限られているので余り乱射シーンはない。この辺りはリアリティがあって良い。 そういえば、李瞬臣を賛美する中で鳴梁海戦を代表的な戦功としてあげているが、ここにも歴史認識の違いが出ていると思われる。鳴梁海戦は戦術としては評価できるが、戦果としてはさほど評価されていない。いかにも李将軍が日本水軍を打ち破ったかのような描写は韓国史観そのものなのだろう。 全体に妙な朝鮮自立を前面に出しさえしなければ、それなりに楽しめる作品にはなったであろう。それにしても、韓国映画につきもののお笑いキャラクター。本作でも韓国兵で登場。面白いことは面白いんだが、作品にマッチしているかどうかは・・・疑問。 興奮度★★★ 沈痛度★★ 爽快度★ 感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 2005年、北朝鮮と韓国は極秘に核弾頭「飛撃震天雷」を開発していた。しかし、アメリカにバレて引き渡しを求められる。上層部は日本や中国の反発も予想されるため、引き渡しを決定するが、北朝鮮人民軍カン・ミンギル少佐はこれに反発し、キム博士(女性)を人質に核弾頭を奪取して逃亡を図る。すぐさま韓国軍に射殺命令が出されるが、銃撃戦の最中にカン少佐以下チェ・グアン軍曹、ファン伍長の3名の北朝鮮兵と韓国軍パク・チョンウ少佐以下イ・チョヒル軍曹、ウォン伍長の3名、そしてキム博士の計7名が1572年にタイムスリップしてしまう。接近していた彗星による影響だった。 7名は李氏朝鮮の村人が蛮族に襲われている所に出現。訳も分からず蛮族を撃退し、村人達から「天軍」と讃えられる。7名はとりあえず、山の洞窟に居住するも、北朝鮮兵と韓国兵の仲は決して良くはなかった。 その晩、洞窟に1人の盗人が潜入し銃を盗んでしまう。追いかけたイ軍曹とチェ軍曹は男とともに官兵に捕まってしまう。男は李瞬臣と名乗った。あの抗日英雄の李瞬臣である。ちょうど武科の試験に落ちて落ち込んでいたときであった。3人は何とか助け出され、7名は銃を返して貰うため、李瞬臣の住処に滞在することにする。 パク少佐は李瞬臣に武術の訓練を施そうとする。一方、カン少佐ら北朝鮮兵は核兵器の行方を捜索することに。李瞬臣は7人をなかなか信用せず、銃の在処を教えなかった。 李瞬臣をかばってウォン伍長が死亡する。李瞬臣は蛮族に捕まって磔になる。李将軍はカン少佐らに救い出されるが、孤児の幼い女の子を目の前で殺された李将軍の怒りは絶頂に達する。核兵器は蛮族のもとにあり、カン少佐は回収に成功する。 彗星の周期からあと数日後に再び異変が起きて元に戻れる可能性があることがわかる。李将軍は蛮族を討つために一緒に戦ってくれと頼み、彼らは元に戻る前日に戦うことを了承する。李将軍の発案で、敵の蛮族を狭い谷間におびき寄せて一網打尽にする作戦を考案する。後の鳴梁海戦と同じ戦術だ。 準備を行う彼らだが、彗星の接近が近くなり、異変は戦闘の前に早まってしまう。パク少佐は帰還のため戦闘をあきらめ、李将軍を安全な牙山に送りつけようとする。だが、北朝鮮のカン少佐は1人残って戦うことを決意。さらにチェ軍曹、イ軍曹も残ることに。パク少佐はしばらく悩むが、結局残ることに。いよいよ蛮族が攻めてくる。谷間に追い込んだ彼らは前衛部隊を打撃するが、多勢に押しやられて後退。銃も撃ちつくし、肉弾戦となり、チェ軍曹が腕を切り落とされる。さらに介抱にあたったイ軍曹が戦死し、カン少佐も死亡。パク少佐も李将軍をかばって死亡。最後は李将軍自身が敵の親分を打ち倒す。 一方、キム博士とウォン伍長の乗ったボートは蛮族に追撃され、ウォン伍長が単身抵抗して死亡。キム博士だけが元の世界に戻ることが出来た。 1597年9月6日、鳴梁海峡で豊臣水軍に対抗する水軍指揮官の李の姿があった。
2008年12月11日
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2005 スウェーデン 監督:レーナ・アインホルン 出演者:アニエシュカ・グロホフスカ、マリア・フヴァリブクほか 125分 カラー NINAS RESA/NINA'S JOURNEYポニーキャニオン ワルシャワ・ゲットー~ユダヤ人強制隔離居住区~ DVD検索「ワルシャワ・ゲットー」を探す(楽天) ポーランド在住のユダヤ人生存者ニーナの証言をもとに構成されたドキュメンタリードラマ。随所にニーナ本人のインタビューを交え、過酷なユダヤ人隔離居住区ゲットーでの出来事を描いていくもので、ドラマとしても比較的出来がよい。何と言っても、実話に基づくものであり、ヒシヒシと伝わってくる凄惨さと緊張感がリアルだ。 ポーランドのウッチ在住だったニーナの家族は、ドイツ軍のポーランド占領とともに戦乱とユダヤ人迫害に巻き込まれ、ワルシャワに設置されたユダヤ人隔離居住区ゲットーに収容される。このゲットーは大ゲットーと小ゲットーがあり、両方合わせて40万人近いユダヤ人が収容されていた。ゲットーからは順次列車で悪名高きガス室へ送られていき、最終的にワルシャワ市内で生き残ったユダヤ人は数百人と言われている。 本作では、奇跡的にゲットーで生き残ったニーナとその家族の顛末が描かれており、どのようにドイツ軍のユダヤ人虐殺が行われたか、ユダヤ人がどのように生き延び、死んでいったかがよく分かる。また生き延びることが、いかに偶然の産物であり、奇跡的であったかは、生存者の証言ならではの実感がこもる。ゲットーでは労働者として職にありつくこと、そしてタイミングこそが生き残る全てなのだ。 実話であるからこそ、家族や親類、知人らはハッピーエンドにはならない。小さな男の子、最愛の人、別れを惜しむ間もなく、その時と自覚することもなく、永遠の別れを迎える。人との別れは辛いものだが、それが抵抗できない大きな力によって強制されたものであることは、怒りのぶつけ所もなく呆然とするしかない。「これが姿を見た最後となった」シーンのいかに多い事よ。 ユダヤ人側からの視点が中心のため、ドイツのユダヤ人政策や虐殺そのもの自体の影像はほとんどない。そのため、ゲットー自体の全体像が掴みにくいのが難点だが、ユダヤ人虐殺、ゲットーについての基礎知識を持ってみれば、糸を紡ぐように見えてくるものがあるだろう。 映画では「アップライジング(2001)」が良く似た構成となっており、参考になるだろう。また、「聖週間(1995)」「戦場のピアニスト(2003)」はゲットーからの脱出とポーランド人との関わりといった観点で興味深い。 撮影はワルシャワで行われているようで、街の雰囲気等がよく出ている。ただ、さすがにゲットーの壁等の再現は無理だったようで、そのあたりのスケール感は乏しい。ドキュメンタリードラマなので、こじんまりとした雰囲気でも問題はないが、全体的にインパクトという点では今ひとつ。 興奮度★★ 沈痛度★★★★☆ 爽快度★ 感涙度★★★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1937年、ポーランドの片田舎ウッチに住んでいた二十歳そこそこの娘ニーナは母親ファイゲルとアメリカに移住した親類を訪ねてニューヨークに行く。当初は3ヶ月の滞在予定だったが、祖父の体調が悪化しそのままニューヨークに滞在し勉強をしていた。兄のルデックはポーランド軍に入隊した。平和なポーランドとユダヤ人の時であった。 ニューヨーク滞在中にドイツ軍がオーストリアに侵攻。1938年5月、ニーナとファイゲルはポーランドに帰国する。徐々にきな臭さが漂ってくる。ついに 1939年9月、ドイツ軍はポーランド侵攻。12月になり占領されたウッチを逃れ、ニーナの家族はワルシャワに逃げることにする。それでもワルシャワはまだ静かであり、ニーナは勉学に励むことが出来た。 だが、1940年の秋の終わりになり、ワルシャワにゲットーが設立され、ユダヤ人が狭い地域に強制収容される。ニーナの一家も狭い部屋に移住する。さらに親類の男の子リシオの一家も越してくる。友人のセリンカの家族も越してくるが、セリンカの家は貧しく、一緒に大学を受験することは許されなかった。兄のルデックは軍隊をやめ、ゲットー内で宝石売りをして生計をたてていたが、その後自衛警察隊に入隊する。父もユダヤ人評議会の調理場で働き、チェルニアコフ評議議長とのコネクションを作ろうとしていた。ゲットーではいかにコネクションを持つかが生活を左右していた。 1942年の夏頃、ゲットー内は飢えで死んだ死体が路上に転がっている状態ではあったが、劇場やコンサートも開催され、日常生活が送れていた。だが、 1942年7月22日からユダヤ人の東部移送が開始される。名目は東部での労働従事ということであったが、チェルニアコフ議長は自殺し、東部の強制収容所虐殺の噂が流れ始める。兄のルデックはドイツ軍に協力したくないと自衛警察を辞める。ニーナは大学入学許可証をもらう。 セリンカの母が連行される。助けに行ったセリンカも父親もそのまま帰ってこなかった。このころ毎日、5000人ほどが東部地方に移送されていた。東部に連行されないためには労働するしかなく、ニーナとファイゲルは縫製工場で働き始める。母親のファイデルは肝炎になるが、それでも必死に働くしかなかった。「ガス室」「トレブリンカ」という言葉がゲットー内を飛び交うようになる。 縫製工場でもより分けが始まる。ニーナの家族はゲットーに残ることができたが、すでに36万人のユダヤ人が東部地方に移送されていた。 1943年1月、スターリングラードでドイツ軍が大敗し、ゲットーにヒムラーがやってくる。ヒムラーは全てのユダヤ人をガス室送りにしろと命じ、ニーナとファイゲルも列車に乗るように命じられる。ニーナは列から脱走するが、ドイツ兵に捕まって射殺されそうになる。だが、兄のルデックから列の最後に並ぶよう言われていたことを思い出し、列の最後尾にいると自衛警察に変装したルデックがニーナとファイゲルを救い出す。 大ゲットーでは武器を集め蜂起の準備が始まっていた。兄のルデックはゲットー外のポーランド人レジスタンスのマリアと連絡を取り脱出の機会をうかがっていた。 1943年4月20日、大ゲットーで蜂起が起こる。シュルツにいたニーナらはカトリック教会の墓に隠れるが、リシオと両親はついに東部移送に応じて最後の別れとなる。 まず、ニーナだけが救急馬車に隠れてゲットーを脱出。ポーランド人のポーラのアパートに匿われる。だが、パルチザンも同居するようになり出て行かざるを得なくなる。マリアの手はずで引っ越ししている最中に出会ったペリカン氏の家に隠れることになる。ペリカン氏の母親と同郷だったことが幸いした。 5月になりゲットー炎上。間一髪のところで母親とルデックは脱出するが、父親は脱出できずにドイツ軍に捕まってしまう。兄はこのことを一生後悔していた。 ペリカン氏の家に兄ルデックも同居させてもらえる。だが、ロシア訛りの母親だけは他の家に匿われることに。ワルシャワではポーランドレジスタンスの蜂起が始まる。ドイツ軍の取締も強化されるが、今やポーランド人も逃げる身となっていた。ニーナは兄と農村に避難する。 1月17日、ついにソ連軍がワルシャワに到達しドイツ兵がいなくなる。ニーナは母親を捜しにワルシャワに戻るが、母親は避難先でドイツ兵に殺害されていた。 ニーナは医学生となり、後にスウェーデンに移住。2004年に死去する。
2008年12月08日
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今冬の戦争系映画予定です空へ 救いの翼 RESCUE WINGS ■2008年12月13日公開戦場のレクイエム(中国) ■2009年1月公開チェ 28歳の革命(スペイン・フランス・アメリカ) ■2009年1月10日公開チェ 39歳 別れの手紙(スペイン・フランス・アメリカ) ■2009年1月31日公開いのちの戦場 アルジェリア1959(フランス) ■2009年春 メジャー系公開はチェ・ゲバラシリーズだけですね。近年チェブームらしいですね。ヨン様ブームみたいですね(笑)。数年前にはイタリアで似たようなのが製作されてます。チェ・ゲバラ 英雄の素顔(DVD) ◆20%OFF!チェ・ゲバラ 最期の時(DVD) ◆20%OFF! 空自協力の空へ救いの翼レスキューは意外と公開館が少ないですね。富山ではやらないみたいなので、金沢まで遠征しなければ・・・。 中国の戦場のレクイエムは戦後の内戦を描いた作品のようです。相変わらず、人民軍兵士総出演でしょうから、スケール感はありそうですが、内容的にはどうなんでしょう。こちらでも公開するかなあ。 アルジェリアはなかなか面白そうですね。最近の映像技術を駆使していい作品になっているといいんですけど。アルジェ戦争を描いた作品には「ロスト・コマンド 名誉と栄光のためだけでなく(1966米)」がありますが、レア度は高いです。
2008年12月07日
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2006 フランス・ドイツ・アフガニスタン 監督:クリストフ・ド・ポンフリー 出演者:サシャ・ブルド、パトリック・ショーベル、モハマド・アミンほか 100分 カラー L'?toile du soldat DVD検索「スター・オブ・ソルジャー」を探す(楽天) ソヴィエトのアフガニスタン侵攻(1979~1989年)を題材に、徴兵され厭戦的なソヴィエト兵がアフガニスタンゲリラ(ムジャヒディン)に捕えられ、解放される様子をフランス人カメラマンの目を通して描かれたミリタリードラマ。この戦争でアフガニスタン人は150万人、ソヴィエト兵は13,000 名が戦死したとされる。 監督のポンフリーは製作の2006年に死去しているが、1980年代からアフガニスタンを取材し、これまでに何作もマスード司令官のドキュメンタリー映画を製作するなど、アフガニスタン特にマスード司令官に造詣が深い人物だったらしい。 アフマド・シャー・マスードはソヴィエト軍に対してパンジシール渓谷でゲリラ抵抗した司令官で、後にタリバンと対立する北部同盟の軍司令官となった人物である。2001年9月11日のアメリカ多発テロ事件の2日前に自爆テロで死亡した。人望の厚い人物だったらしく「パンジシールの獅子」とも呼ばれた。本作では中心的な登場人物ではないが、本作は多分にマスードを意識した作りとなっていることは間違いない。本作に出てくるナジムディーン司令官はマスード自身ではないかとも思える。捕虜を丁重に保護するエピソードは、マスード司令官が捕虜を自発的に解放したことと重なってくる。 ストーリー自体はさほど複雑ではないが、主役級のソヴィエト兵とフランス人カメラマン以外に多数の兵士が登場するほか、ソヴィエト軍内部の厭戦ムードやムジャヒディンの行動など著しくシーンが変わったりするため、かなりブツ切れ感が強く、ストーリーに入れ込むことは難しい。さらに、抒情詩的で攻撃的なナレーションがやたら多く、ドラマにしてはかなり鬱陶しい。政治的、宗教的なニュアンスも強いので、最初は何を目的に制作したのかいささか戸惑うところすらあった。次第に、どうもアフガニスタン側視点で反ソヴィエトであることがわかってくるが、後半になるとより一層その傾向が強くなり、さらにはアメリカCIA批判となっていく。 この攻撃的なナレーションだが、もし本作がノンフィクションで実話を元にしているとすれば、そのナレーションの持つ意味は重い。ソヴィエト兵、アフガニスタンゲリラの心情や実情を知る上で、ナレーションの複雑で抒情詩的で、攻撃的な内容が実に興味深くなってくるのだ。本作では9.11アメリカ同時テロにも言及しているが、ソヴィエトに侵略され、冷戦の影響でアメリカの代理としてCIAに翻弄され、後にはタリバンなどのイスラム過激派と対立するアフガニスタン北部同盟の置かれた苦難の道のりを顕しているのだろう。こうしたアフガニスタン視点での映画は少ないし、ましてやマスード側の戦争映画ともなれば実にレアだ。 だが、残念ながら本作は捕えられたソヴィエト兵が解放されたという実話を元にはしているらしいが、ストーリーや人物設定は架空のようだ。そうなると、フランス人カメラマンのヴェルゴスはポンフリー監督自身のようでもあり、マスード司令官賛美、ソヴィエト、アメリカ批判の内容は、監督の思いが強すぎて、いささか偏ったものではないかという疑念が出てくる。アフガニスタンを愛した監督のアフガニスタンへの愛と情熱、そして強大な二大国家批判に心血を注いだ監督の遺作として、若干フィルターを掛けて見るべき作品ともいえる。 撮影はアフガニスタンで行われたようで、戦車やヘリなどの兵器類はアフガニスタン陸軍による協力のようだ。T-54/55戦車やBMP-2歩兵戦闘車、ミルMi-8ヒップヘリなどの姿が登場している。T-54/55戦車では前面砲塔に増加装甲を施したものもみられる。 ポンフリー監督が作品を通して訴えたかっただろうアフガニスタンの大義と平和というものはひしひしと伝わっては来るが、やや政治色や宗教色が強すぎる感がある。ご娯楽作品としてはドラマ性に問題があるし、ドキュメンタリーとしては信用性に乏しい。中途半端な作品なってしまったのは残念だが、マスード一派視点というレア性を考えれば貴重な作品ではあるだろう。 http://der-stern-des-soldaten.de/index.html 興奮度★★★ 沈痛度★★★ 爽快度★★ 感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 2001年9月11日、アフガニスタンのヒンドゥークシュ山脈にフランス人カメラマンのヴェルゴスがいた。ヴェルゴスは20年前の1979年12月のソヴィエト侵攻時にもアフガニスタンにおり、ソヴィエト軍の蛮行を映像に収めていた。 モスクワ近郊に住むロック歌手のニコライ・ペトロフに召集令状が来る。彼は徴兵逃れを目論むが、入隊して立派になって来いと願う両親に逆らえず入隊する。入隊訓練後、ペトロフはアフガニスタンの前線に送られる。ソヴィエト軍はアフガニスタンの共産勢力を守るために侵攻したのだ。 1983年アフガニスタンのパンジシール渓谷に赴任したペトロフは、アフガニスタン人を襲い、山羊を奪うソヴィエト軍の横行を目の当たりにする。ゲリラによる戦死者も増え、すっかり気が滅入るペトロフだが、逃げ出すわけにもいかなかった。そこで、旧知の手品師ワロージャと出会う。 ペトロフらはアフガニスタン兵を連れて村に徴兵に行く。ムジャヒディンは逃げ出していなかったが、ペトロフはソヴィエト兵モズクがアフガン女性をレイプしようとしているのを目撃。モズクは女性に刺されて死亡するが、ペトロフは女性を逃がしてやる。ソヴィエト軍は犯人探しをするが見つからず、一人の男を射殺し、その晩空爆で村を消滅させるのだった。 偵察任務に出たペトロフらはムジャヒディンの襲撃に会い、ワロージャが負傷し両腕を失う。もはや両親からの手紙にすら失意を感じるペトロフだった。 次の偵察任務でブドウを見つけたペトロフは盗もうとするが、ムジャヒディンに捕まってしまう。ムジャヒディンに拷問されることを覚悟したペトロフだったが、司令官のナジムディンは捕虜を優遇するよう命じていた。次第にムジャヒディンらと親密になり兄弟のように接するようになっていく。そこでフランス人カメラマンのヴェルゴスと出会う。 冬を越し、ペトロフはロバーグ奏者のアサドと親密となり、アフマドというアフガン名をもらう。 いよいよ渓谷にソヴィエト軍の攻撃が強まってくる。マスード司令官は村人たちを退避させ、ソヴィエト軍を迎え撃つ。戦闘でアサドが撃たれ、アサドはペトロフの旧知の伍長を撃つ。さらにナジムディン司令官の姪ライラが死亡し、ペトロフは呆然とする。怒り狂うムジャヒディンに襲われそうになるペトロフだが、ナジムディンによって救われる。生前ライラがペトロフがアフガン女性を救ったことを知らせていたのだ。 ナジムディン司令官はペトロフを自由にしてやる。ヴェルゴスとともにフランスを目指し、パキスタン国境を目指していく。 1984年9月、ペトロフはパキスタン国内で殺害される。
2008年12月05日
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Gyaoで「地獄へ突込め」という作品をやってます。インドシナ戦争のベトミン対仏軍のディエンビエンフーの戦いを描いた作品で、1955年アメリカ製作です。 こんな作品があるとは知りませんでした。 ディエンビエンフーの戦いを描いた作品はかなり少なくて、名作の「スカイミッション空挺要塞 DC3(Dien Bien Phu) (1992仏)」のほかには「インドシナ激戦史 1954 -要塞ディエン・ビエン(2004越)」がある程度です。前者はいい作品ですが、DVDになってないし、後者は??な作品です。そういう意味で、結構レアな作品ですね。 何故かアメリカ製作なんで、ちょっと何なんですが(笑)、なんといっても製作年がディエンビエンフーの戦いの翌年なんですね!!、あの時代としては凄いことです。 内容的には、ちょっとヒーローアクション的な所やストーリーの繋がりの悪さはあるんですが、レアさですべてカバーできます(笑)。当然ビデオにもDVDにもなっていないので、必見です。でも、12月1日正午でおしまいなので、あと1日半しかありません(汗)。
2008年11月29日
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2008 アメリカ 監督:ベン・スティラー出演者:ベン・スティラー、ジャック・ブラック、ロバート・ダウニー・Jr、ブランドン・T・ジャクソンほか107分 カラー TROPIC THUNDER DVD検索「トロピック・サンダー」を探す(楽天) 戦争映画を製作しようとするクルーの顛末を描いたパロディ・コメディ戦争映画。「映画の中で映画を作る」というシチュエーションや、撮影だと思っていたのがいつ間にか本物の戦闘に巻き込まれていくといった意外性が楽しいが、何と言ってもフェイクシーンや著名作のパロディ、有名スターの裏出演など、映画の中に隠された秘密を探していくのが面白い。 コメディとは言うものの、戦闘シーンはそれなりにエグいし、後半部分は真面目な戦争映画かのような臨場感で、コメディであることを忘れて手に汗にぎった。さらに、ふざけた会話やアクションの中に、ホロリと来るような人情話や友情も盛り込まれていて、単なるコメディとは言い切れない。そのため、見終わった後の爽快感は何とも微妙。腹を抱えて笑えるほどのものではなく、むしろニヤリとするタイプか。 映画中の映画は、ベトナム戦争の英雄ジョン・フォーリーブ・テイバック軍曹の手記を映画化しようとしているのだが、ジャングルに迷い込んだあげく、タイ・ミャンマーの麻薬密造マフィアとの戦闘に巻き込まれてしまう。実際の銃撃戦のようなものはさほどないが、火薬を用いた爆破シーンなどは映画中の一つの目玉でもあり、なかなかの迫力。ヘリではイロコイが実際に飛んでいるし、戦争映画的な迫力も十分持っている。 さて、本作の目玉の一つであるフェイクシーンとしては、映画の冒頭でいかにもCMといった風に偽映画予告がなされている。ここをしっかり見ておかないと後で残念なことに。私の見た映画館でもここのシーンでお喋りをしている客もいたが、それだけリアルな?出来。 次に、本作は著名戦争映画のパロディシーンも多数盛り込まれているようだ。すぐにわかるのは「プラトーン」のシーン。「ランボー」「プライベート・ライアン」「地獄の黙示録」のシーンもあるが、私にはここまで。情報によればこのほか、「フォレスト・ガンプ」「フルメタル・ジャケット」「レインマン」「M:I:III」「ナッティ・プロフェッサー」もあったようだ。もう一度見直してみないとわからないかも(汗)。あと、主役はアカデミー賞を狙っているという設定なので、過去のアカデミー賞受賞者の情報も知っていないと面白みも半減かも(私はあまり知らない・・・汗)。 登場人物の中に、カーク・ラザラスやアルパ・チーノなんてのもいて笑える。 また、出演者名に全く登場しないが、結構主要な役で大物ハリウッド・スターが5名もカメオ出演しているらしい。かなりの部分で超目立っているのは「トップ・ガン」の彼。妙なノリでダンスまで披露してくれる。このほか「フォレスト・ガンプ」の彼も出ていたが、ほかの人は見たことあるけど、私はあまり良く知らない(汗)。 これらのシーンは、映画通や事情通の人ならかなり面白いのでは。私はそのあたりがちょっと疎いもので、残念ながら完全には楽しめなかった。DVDで何度も見て探してみるのも面白いのかも。そういう意味では、万人受けするような映画ではないかな。 全般に面白いことは面白いが、結構ショッキングなシーンもあるので、そういうのが苦手な人はやめておいた方がいいだろう。個人的には戦争映画のパクリにもう一工夫あったら面白かったのにとも思った。(カメオ出演者 ネタバレ注意)プロデューサー役:トム・クルーズ、ラザレスの共演者:トビー・マグワイア、トム・ハンクス、ジョン・ヴォイト、ショーン・ペンなど興奮度★★★沈痛度★★爽快度★★★★感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) なんとも寒い救世主スター映画「スコーチャー」シリーズの主演で、落ち目のアクションスター「タグ・スピードマン」。おならを売り物にした下品な芸風映画「ファッティーズ」のコメディアン「ジェフ・ポートノイ」。演技のために皮膚の色まで変えて挑むやりすぎ演技派俳優でオスカー賞を5度も受賞した「カーク・ラザレス」の3名の役者に加え、ヒップ・ホップスターですでに企業家としても成功している成金黒人「アルパ・チーノ」、唯一のオーディション採用で真面目な新人「ケヴィン・サンダスキー」を加えた5名は、雇われ監督のデミアン・コックバーンのもと戦争映画の製作に挑む。 映画は、伝説のベトナム戦での英雄「ジョン・フォーリーフ・テイバック」軍曹の手記「トロピック・サンダー」をもとにした伝記的映画で、両手を失ったテイバック軍曹もアドバイザーとして参加している。だが、爆破専門家のコディは無茶で派手な火薬使用に傾倒し、アカデミー賞すら狙おうとする役者たちを監督がうまくまとめられないことから、たったの5日間で予算を使い切りそうになる。 本国のプロデューサーのレス・グロスマンは監督をしかりつけ、萎縮した監督はテイバック軍曹から一つの提案を受ける。それは、実際のジャングルに彼らを放り込み、遠隔装置による爆破を仕掛け、ジャングルに設置した無数のカメラで撮影しようと言うものだ。監督は5人をジャングルに連れて行き、ある地点まで行くよう告げるが、なんと古い地雷を踏んで死んでしまう。さらに、本物の麻薬密売組織から銃撃を受けてしまう。 やるき満々のスピードマンは、銃撃はおろか監督が死んだことすら演出だと思いこみ、一行の指揮を執ろうとする。ラザレスはおかしいと感じるも仕方なくついていく。だが、地図すら読めないスピードマンはジャングルに迷い込んでいく。ラザレスは役者作りのため軍に入隊したこともあるサンダスキーに地図を読ませたところ、まるで違った方角に来ており、隣国の国境線近くまできていた。スピードマンはまだ演出だと思いこみ、孤高の戦士として単独行動に出る。また、ポートノイはヤク中でヤク切れの症状を起こし始める。 スピードマンは子供ながら麻薬密売組織のドンであるトランの組織に捕まってしまう。最初は、麻薬取締局かと疑われるが、「スコーチャー」シリーズから転身を図った感動作「シンプル・ジャック」の役者だと知り、トランはスピードマンにシンプル・ジャックの演技をやらせるようになる。そして、持っていた携帯電話から彼のマネージャーのリック・ペックにむけて身代金要求を図る。 マネージャーはプロデューサーに相談するが、プロデューサーは全く取り合わず、非情にも命よりも映画が売れることを選択する。さらにマネージャーを高額で買収しようとさえする。 ラザレスら4人は、スピードマンが捕まった麻薬製造キャンプを見つける。そこには爆破主任のコディとテイバックも捕まっていた。テイバックは実は偽物で、ベトナム戦争に行ったことすらなく、手の義手も偽物だった。 4人はスピードマン救出作戦を実行することに。中国人に化けたラザレスが気を引きつける間に、アルパ・チーノとサンダスキーが潜入し、コディらを救出。しかし、スピードマンはすっかりシンプル・ジャックになりきっており、なかなか逃げようとしない。麻薬組織との銃撃戦の中、コディの爆破の助けを借りて、ようやく付近にあったヘリに逃げ込む。しかし、スピードマンは知り合った幼い男の子のことを思い、自分はここに残ると言い出す。しかし、現実はそんなに甘くない。麻薬組織に追われたスピードマンは危機一髪のところで逃げることができるのだった。 この映画でスピードマンは念願のアカデミー賞を受賞するのだった。
2008年11月28日
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1959 東宝 監督:橋本忍 脚本:橋本忍 原作:加藤哲太郎出演者:フランキー堺、新珠三千代、水野久美、笠智衆ほか89分 モノクロ DVD検索「私は貝になりたい」を探す(楽天) 前年TBSテレビのドラマで話題を呼んだ作品の映画版。主役はそのままフランキー堺で、高知で床屋を営んでいた二等兵が捕虜殺害容疑で戦犯となり、無念にも絞首刑に処されてしまうヒューマンドラマ。処刑にあたって書いた遺書の中で、「生まれ代わらなければならないのなら、私は貝になりたい」と言う名フレーズが話題を呼んだ。すでに講和条約は締結されているものの、多くのBC級戦犯が一方的な極東裁判で過酷すぎる刑を受けたこと、旧日本軍の無謀な上官命令や矛盾をクローズアップさせた反戦的メッセージが色濃い。2008年になり、橋本忍により脚本が改訂されリメイクされた。 なお、本作は橋本忍による脚本だが、後年私は貝になりたいのフレーズの原著作加藤哲太郎から著作権に関する提訴を受け、以降原作者加藤哲太郎のクレジットが記載されている。登場人物、ストーリーはフィクションである。 フランキー堺による朴訥とした男の演技は特筆もので、苦悩と絶望の表現や映像が衝撃的。決してハッピーエンドではないストーリー展開は見る者に衝撃を与え、そして戦争とは何か、人生とは何かを考えさせる。脇を固める妻役の新珠や笠の演技が華を添える。 ただ、今となっては映像や編集、そしてストーリー展開にはいささかの古さも感じる。セリフや役者のしぐさはいかにも戦後間もない時期の雰囲気や匂いを醸し出してはいるが、ストーリーの深みという点ではやや物足りない。終盤部の間の取り方は特筆すべきものがあるが、全般に人物の性格付けがさほど強くないうえ、ストーリ展開が早いので感情移入がしずらい側面がある。ただただ、悲壮感と絶望感だけは伝わってくるが、それがどこに起因するのかがいま一つ判然としないので、物語のスケール感が乏しいのだ。予算的なもの、技術的なものの限界なのかもしれない。 音楽はこれまた古いタイプの雅系。決して悪くはないが、今となってはちょっと違和感も。ただ、随所に無音の効果を入れることによってメリハリをつけているのは良い。 当時の作品としては衝撃的で、画期的な作品であったと思われる。それだけの評価を受けている作品だが、リメイクも数多くされているだけに、どうしてもそれと比較して総合評価は抑え目になてしまった。興奮度★★沈痛度★★★★★爽快度★感涙度★★★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 土佐の高知で床屋を営む清水豊松は妻房江と息子の健一と細々と暮らしていた。戦局は悪化しており、友人の酒井正吉が応召されるが、間もなく豊松のもとにも町役場の竹内が赤紙をもってやってくる。房江はショックを隠せないが、豊松は気丈に入隊していく。 軍では二等兵として教練を受けるが、豊松は動作の鈍い滝田とともに班長の立石上等兵に目を付けられる。400機ものB-29による空襲の日、高射砲により撃墜された1機の米軍搭乗員が数名大北山中に落下傘降下する。中部軍司令官の矢野中将は、民間無差別爆撃の米軍に怒りを覚え、国民士気にも関わることから捕虜の捜索と処分を尾上部隊に命じる。尾上中佐はすぐさま配下の日高中隊に捜索を命じる。日高大尉の中隊は大北山山中に入り、豊松らが属する足立少尉の小隊が米兵を発見する。しかし、一人はすでに死亡、2名も意識不明の重症となっており、処分を処刑と判断した日高大尉は新兵教育の一環として2名の米兵銃剣刺殺を命じる。足立少尉、木村軍曹を経由して立石上等兵が最も頼りない豊松、滝田二等兵の2名を選抜。二人は銃剣刺殺を命じられるが、なかなか刺せない。しかし、殴られたあげく再度の銃剣刺殺を敢行させられる。 日本は敗戦となり、豊松は無事床屋に戻る。闇市の仲介役などをしながら生計を立てているところに、MPを連れた県警察のジープがやってくる。米兵捕虜殺害の罪で戦犯容疑者となったのだ。BC級が集められた横浜軍事裁判所では矢野中将が自分の罪だと認めるものの、それ以下の将校、下士官らは罪や命令を否定する始末。日高中隊長は終戦ととともに自決していた。豊松は言葉の通じない軍事裁判と、日本軍の絶対命令指揮系統を理解できない連合軍裁判員に悩まされ続ける。結局、矢野中将と尾上中佐は絞首刑、足立少尉は終身刑、木村軍曹と立石上等兵にはそれぞれ30年と15年の重労働が課せられる。豊松と滝田はさらに軽い罪かと思ったが、なんと絞首刑を命じられる。 死刑囚のみ集められた建物に豊松は収監され、ボルネオで犯した罪で収監されている大西と同居となる。自殺者が出るため2人制となっているのだ。大西は聖書を読み心を落ち着かせている。木曜日の朝、収容所中に読経の声が響き始める。木曜日の朝になると処刑者のチェンジブロックが行われるのだ。その朝は大西が連れていかれてしまう。収容者らに別れの挨拶をし、収容者の合唱となった讃美歌を歌いながら大西は出ていく。 ある日、中庭の散歩で豊松は矢野中将に声をかけられる。しかし、自分の罪を命令した張本人であり無視する。矢野中将は看守を使って何度も訪問を頼んでくる。根負けした豊松は矢野中将の訪問を受け入れる。意外にも矢野中将は豊松に詫びを入れ、自分一人を処刑し、関係の部下の減刑嘆願書を出したと告白する。心を打たれた豊松はその後たびたび矢野の部屋を訪れるようになり、矢野に英文での嘆願書の書き方を教わる。そこで教誨師とも出会う。そして、矢野中将は絞首刑を執行される。豊松は新たな同房者の迷惑にも関わらず、矢野の弔いを続けるのだった。 妻房江のもとに戦犯委員会から絞首刑となった旨の書類が届く。初めて知った房江は単身巣鴨に面会にやってきて、なぜ真実を言ってくれないのかと責めるのだった。 矢野中将の絞首刑ののち、処刑が途絶える。1年間の中断により戦犯の間にも安堵感が生まれ始め、さらに講和条約締結の話も浮上してくる。房江も床屋の理髪台や椅子の新しいカタログを持ってきて、豊松はそれを眺めるのが楽しみだった。 ある木曜日。豊松は看守にチェンジブロックを命じられる。同房者は減刑だと大喜びし、他の収容者たちも豊松の減刑を大喜びする。しかし、所長室で聞かされたのは絞首刑執行だった。あまりのショックと絶望で豊松は動けなかった。教誨師との晩さん会で葡萄酒を飲み、ようやく遺書を書き始める。そして、絶望の気持ちで処刑台の13階段を上っていくのだった。「せめて生まれ代わることが出来るのなら。いいえ、お父さんは生れ代わっても、もう人間になんかなりたくありません。人間なんて厭だ。牛か馬の方がいい。いや牛や馬ならまた人間にひどい目にあわされる。どうしても生まれ代わらなければならないのなら、いっそ深い海の底の貝にでも。そうだ、貝がいい。貝だったら、深い海の底の岩にへばりついているから、何の心配もありません。兵隊にとられることもない。戦争もない。房江や、健一のことを心配することもない。どうしても生まれ代わらなければならないのなら、私は貝になりたい」
2008年11月26日
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「トロピック・サンダー 史上最低の作戦」という映画が始まりました。史上最大の作戦の名前をぱくったようなタイトルですが、戦争映画を作ろうとしている過程をコメディにしたようなものです。結構面白そうなので、富山ではやっていないので金沢まで見に行ってきました。 ちゃんとしたレビューは近いうちに書こうと思いますが、結構意外性のある映画でしたね。コメディなんだけど、シリアスアクション系でもある。微妙なバランスで、B級ぎりぎりの所を渡っていく感じ(笑)。アクションも派手だし、コメディにしては人情も入ってたりして。 あと、キャスト名にも入っていない著名な役者が何人も出ているんですね。かなり目立っているのに、どこにも名前が出てこない(笑)。まあ、それなりに楽しめますかね。真面目にバカバカしいです。
2008年11月24日
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2008 東宝 監督:福澤克雄 脚本:橋本忍出演者:中居正広、仲間由紀恵、草薙剛、笑福亭鶴瓶、石坂浩二ほか139分 カラー 見てきました。旧作を見てからいきましたが、思ったよりも良い出来でした。若干の課題はありますが、フィクションとして見れば完成度は高いのではないでしょうか。かなり涙腺が緩みました(笑)。 1958年にテレビドラマ、1959年に映画として製作され、「生まれ代わらなければならないのなら、私は貝になりたい」と言う名フレーズで、戦犯容疑で処刑される二等兵の悲痛な叫びを描いた著名作のリメイク。当時も脚本及び監督を務めた橋本忍が、当時黒澤明監督に「これでは貝になれないんじゃないか」と酷評されたシナリオを50年経って書き直したという力作。前作ではフランキー堺のコメディ調でありながら二等兵らしい沈痛さを表現した主役を、スマップの中居正広が演じるという大抜擢がどうなるのかも興味がそそった。 結論から言うと、私の予想を反してかなりの上出来。前作で深みが足りなかった点をことごとく補足し、雄大な映像と情緒豊かな音楽でさらにパワーを増している。戦後間もない雰囲気と、人々の言動やたたずまいを果たして再現できるのか、という私の不安は見事に消し去られた。確かに、本作では前作に見られた、いかにも「昭和」という口調も佇まいも感じられはしなかったが、そのことをまるで気にする必要のないほどストーリーに没頭し、登場人物に感情移入できた。見事に現代風にアレンジされたと言って良いだろう。 ストーリーや会話の大部分は前作とほぼ同じだが、「貝になりたい」という意識をより深く感じさせるためのシナリオがかなり追加されており、前作に比して50分も長くなっている。どうしても現代人にとっては、何故妻や子供への情愛を超越して「貝」なのかが理解しにくいと思われ、例えばもう一度妻や子どもと生活したいという方がわかりやすいだろう。しかし、「貝になりたい」が一人歩きしている以上、そこを変えるわけにはいかず橋本忍も腐心したと思われる。 追加は主に妻や子供とのふれあいや愛情シーンとなっており、主人公清水豊松と妻房江の出会い、嘆願書署名集めに妻が奔走するシーンが効果的だ。また、今作では二人目の子供の存在や、巣鴨への面会では子供を連れてくる設定に変更され、ひときわ涙を誘う。これだけ愛し、大切な妻子への思いを描くことによって、「妻や子供を心配することもない(貝になりたい)」ほど絶望したことをクローズアップしている。とは言え、かなり難解であることは確かで、一緒に見に行った同行者は余り理解できなかったようだ。その点で、完全に成功したとも言い難いのが減点要素か。 また、その他の登場人物の性格付けも強化している。中部軍司令官の矢野中将のセリフが増えており、米軍による民間無差別爆撃への怒りと捕虜処分への契機をしっかりと描いた。この矢野中将は一人責任を取ろうとし、部下の減刑と仏教に傾倒するのだが、このあたりは「明日への遺言(2008)」の岡田資中将の姿とオーバーラップするものがある。さらに巣鴨プリズンの看守ジェラーが戦犯容疑者に情を手向けるシーンや嘆願書の200人目となる折田俊夫の人情シーンなどは、ややもすると暗さ一辺倒になりがちな映画に幅と深みを与えている。 このほか、細かい設定変更がなされており、前作と同じセリフながらも喋る役者を変えたり、シチュエーションを変えているところもある。特に顕著な変更ではないが、より一層スムーズなストーリーになるよう工夫した跡がみられる。 映像では、島根県で撮影されたという断崖などの風景は美しさとスケール感を感じる。また、床屋のある漁村セットや巣鴨プリズンも細かく作りこまれている感があって良い。巣鴨の焼け野原や空襲シーンはCGも多用していると思われるが、かなり良質。また衣装関係、特に軍服はかなり芸が細かい。中居君らが背負う背嚢の革ひものひび割れた劣化具合や、各個人のカーキ色の微妙な差や丈の差は見事だ。本当にリアルだ。 音楽関係はほとんど耳に残っていないが、久石譲による音楽がそれほど自然に溶け込んでいたということだろうか。 さて、全般に感動と涙を与えてくれる良作だったわけだが、減点要素としてはやはり主役のキャスティングだ。召集されて以降の中居君の演技は決して駄目ではないし、むしろラストシーンでの気迫こもる演技は素晴らしかったが、所々に見せる軽さが気になった。日頃のバラエティ番組で見せる顔の刷り込みが強すぎるのだろうか。妻房江役の仲間由紀恵は好演技だったが、ちょっと美人すぎたかな(笑)。このほか、同房者を演じた草薙や鶴瓶の演技は前作以上と言え、悪くなかった。 なお、本作は中部軍管区における撃墜されたB-29爆撃機搭乗員の米兵殺害事件である。主人公の所属部隊は第3方面尾上部隊で、大隊長尾上中佐、中隊長日高大尉、小隊長安達少尉、分隊長木村軍曹、班長立石上等兵の部下である。末端の二等兵が「上官の命令は陛下の命令」として捕虜殺害実行を命じられ、戦犯として処刑される悲劇は救いようのない絶望を感じるが、唯一の救いは本作が実話ではないという点だ。原作は実際にBC級戦犯だった加藤哲太郎だが、彼が拘置所で見聞きした体験をもとに遺言形式にしたものがベースとなっており、ストーリーの大部分は橋本忍による脚色である。二等兵で絞首刑となったり、再審請求が認められずにいきなり処刑が実話ではあまりに哀しすぎるから、その点は差し引いて見た方が後味が良い。 似たような戦犯の悲劇を描いた映画としては「巣鴨の母(1952)」、B-29搭乗員捕虜を扱った異色作では大島渚監督の「飼育(1961)」や「海と毒薬(1986)」などがある。 最後に、本作で私は結構涙腺が緩くなった。妻子が面会に来て息子が指を差し入れるシーンや、同房者大西が礼を述べて去っていくシーン、嘆願署名の200人目のシーンなど、ほとんど製作者の企図にはまった感はあるが(笑)、こうしたシーンの盛り上げ方や間の取り方はなかなかうまい。監督が橋本忍ではなく、福澤監督だったのも良かったのかもしれない(笑)。興奮度★★★沈痛度★★★★爽快度★★感涙度★★★★★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 土佐の高知で床屋を営む清水豊松は妻房江と息子の健一と細々と暮らしていた。かつて二人は恋に落ち、店を勘当されてこの土地でようやく店を持ったのだ。戦局は悪化しており、友人の酒井正吉が応召されるが、間もなく豊松のもとにも町役場の竹内が赤紙をもってやってくる。豊松も房江もショックを隠せないが、豊松は房江に髪を坊主に刈ってもらい、入隊していく。 軍では二等兵として教練を受けるが、脚の不自由な豊松は、動作の鈍い滝田とともに班長の立石上等兵に目を付けられる。400機ものB-29による空襲の日、高射砲により撃墜された1機の米軍搭乗員が数名大北山中に落下傘降下する。中部軍司令官の矢野中将は、民間無差別爆撃の米軍に怒りを覚え、国民士気にも関わることから捕虜の捜索と処分を尾上部隊に命じる。尾上中佐はすぐさま配下の日高中隊に捜索を命じる。日高大尉の中隊は大北山山中に入り、豊松らが属する足立少尉の小隊が米兵を発見する。しかし、一人はすでに死亡、2名も意識不明の重症となっており、処分を処刑と判断した日高大尉は新兵教育の一環として2名の米兵銃剣刺殺を命じる。足立少尉、木村軍曹を経由して立石上等兵が最も頼りない豊松、滝田二等兵の2名を選抜。二人は銃剣刺殺を命じられるが、なかなか刺せない。しかし、殴られたあげく再度の銃剣刺殺を敢行させられる。 日本は敗戦となり、豊松は無事床屋に戻る。二人目の子供も宿し、闇市の仲介役などをしながら生計を立てているところに、MPを連れた県警察のジープがやってくる。米兵捕虜殺害の罪で戦犯容疑者となったのだ。BC級が集められた横浜軍事裁判所では矢野中将が自分の罪だと認めるものの、それ以下の将校、下士官らは罪や命令を否定する始末。日高中隊長は終戦ととともに自決していた。豊松は言葉の通じない軍事裁判と、日本軍の絶対命令指揮系統を理解できない連合軍裁判員に悩まされ続ける。結局、矢野中将と尾上中佐は絞首刑、足立少尉は終身刑、木村軍曹と立石上等兵にはそれぞれ30年と15年の重労働が課せられる。豊松と滝田はさらに軽い罪かと思ったが、なんと絞首刑を命じられる。 死刑囚のみ集められた建物に豊松は収監され、ボルネオで犯した罪で収監されている大西と同居となる。自殺者が出るため2人制となっているのだ。大西は聖書を読み心を落ち着かせている。木曜日の朝、収容所中に読経の声が響き始める。木曜日の朝になると処刑者のチェンジブロックが行われるのだ。その朝は大西が連れていかれてしまう。収容者らに別れの挨拶をし、讃美歌を歌いながら大西は出ていく。次に同房者となったのは英語が堪能な西沢だった。西沢は英語でマッカーサー元帥やアメリカ大統領に再審申請書や嘆願書を書いていた。豊松もまた西沢にならって書き始める。 ある日、中庭の散歩で豊松は矢野中将に声をかけられる。しかし、自分の罪を命令した張本人であり無視する。矢野中将は看守のジェラーを使って何度も訪問を頼んでくる。根負けした豊松は矢野中将の訪問を受け入れる。以外にも矢野中将は豊松に詫びを入れ、自分一人を処刑し、関係の部下の減刑嘆願書を出したと告白する。心を打たれた豊松はその後たびたび矢野の部屋を訪れるようになり、そこで教誨師の小宮と出会う。そして、矢野中将は絞首刑を執行される。 小宮は豊松が絞首刑であることを高知の妻房江に伝えていないことを知り、真実を手紙にしたためる。はじめて真実を知った房江は3日かけて巣鴨にやってくる。妻子の顔を見て泣き崩れる豊松を看守のジェラーが支える。ようやく落ち着いた豊松ははじめて見る娘の直子の指にキスをし、息子の健一の指にもキスをする。 矢野中将の絞首刑ののち、処刑が途絶える。1年間の中断により戦犯の間にも安堵感が生まれ始め、さらに講和条約締結の話も浮上してくる。豊松は再審申請書を提出済みだが、さらに200名の嘆願書があると良いことを房江に話す。房江は無茶を承知で雪の中、200名の署名を求めて歩きまわる。街の友人や知人の協力を得て、やっとの思いで200人目折田俊夫のもとにたどり着くが、極寒の中運悪く不在だった。その帰途途中で折田は房江の姿を見つけ、その場で署名するのだった。房江は署名を持って豊松のもとに届ける。そして、いよいよ釈放だと床屋の椅子の新調の相談をするのだった。 木曜日。豊松は看守のジェラーにチェンジブロックを命じられる。西沢は減刑だと大喜び。他の収容者たちも豊松の減刑を大喜びする。しかし、所長室で聞かされたのは絞首刑執行だった。あまりのショックと絶望で豊松は動けなかった。教誨師の小宮との晩さん会で葡萄酒を飲み、ようやく遺書を書き始める。そして、嗚咽するジェラーの脇を通り、処刑台の13階段を上っていくのだった。
2008年11月23日
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明日から公開です。私は貝になりたい 1959年に制作された映画のリメイク版です。スマップの中居くんが主役ということで、はたしてどうなんでしょう。 脚本はあの迷作「幻の湖」監督の橋本忍・・・。むふふ。でも、この人八甲田山の脚本もやっているんで、出来不出来の差の大きい人なんですよねえ。 テレビ版も何度か作られているんで、今回の作品と比較して見直してみようと思います。2008年10月31日発売私は貝になりたい〈1958年TVドラマ作品〉1958年テレビドラマ作品(フランキー堺)私は貝になりたい <1959年度作品>1959年映画作品(フランキー堺)所ジョージ主演!昭和33年に放映され、日本中に感動の嵐を巻き起こした名作ドラマのリメイク!DVD未発売。■私は貝になりたい■1994年テレビドラマ作品(所ジョージ)バップ 真実の手記 BC級戦犯加藤哲太郎「私は貝になりたい」2007年テレビドラマ作品(中村獅童)原作加藤哲太郎氏のドキュメンタリー風作品私は貝になりたい橋本忍脚本私は貝になりたい新装版加藤哲太郎著『私は貝になりたい』official book今回作品オフィシャルブック【送料無料選択可!】「私は貝になりたい」オリジナル・サウンドトラック / サントラ (久石譲)今回作品オリジナルサウンドトラック ちなみに、この作品はノンフィクションと思われがちですが、フィクションです。どうもモデルに近い人はいるようですが、大部分が脚色です。しかし、それを差し引いても、実際に同様な経験をされたBC級戦犯がたくさんおられたでしょうから、やっぱり心に染みてきますねえ。
2008年11月21日
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1955 アメリカ 監督:ウイリアム・A・ウェルマン 出演者:ジョン・ウェイン、ローレン・バコールほか 115分 カラー BLOOD ALLEYジョン・ウェイン 中共脱出 特別版(期間限定)(DVD) ◆20%OFF! DVD検索「中共脱出」を探す(楽天) 第二次世界大戦後の中国を舞台にした、反共志向の強いアドベンチャー系ドラマ。アカ狩り(レッドパージ)真っ盛りの頃の作品だけあって中国人蔑視、反共産主義が思い切り前面に出ている。ストーリーは架空なのだろうが、中共に捕らえられたアメリカ人船長が、中国共産党(北京統制政府)の弾圧から逃れたい中国人民間人らと香港に逃げていくという単純なもの。西部劇調というか、なんだか懐かしい感じの映画だ。 主役を演じるのはジョン・ウエインで、それなりに格好良いヒーローを演じているが、もともとの主役はロバート・ミッチャムだったらしく首になり、その後グレゴリー・ペックやハンフリー・ボガードも断ったという。朝鮮戦争停戦間もない時期であり、アメリカ国内ではレッドパージが盛り上がる中、ハリウッドではレッドパージに抵抗する動きもあったようだから、この作品内容に出演するのにギクシャクするのも無理はないだろう。 しかし、今から見ると作品内容はかなり過激。確かに、未だに中国軍は上履きのようなズックを履いているが(笑)、こ汚いズックを履いた中国人としきりに扱き下ろしたり、中国人や中国兵を虫けらのように描く様子にはかなりの人種差別を感じる。最近は中国も世界世論に力を付けてきており、今だったら中国が思い切り反発しそうな内容だ。 大体において、第二次世界大戦時にはアメリカは中国を支援しておきながら、たったその後10年でこの仲違い状態は本当に滑稽に思える。中国という国にもあきれるが、アメリカのご都合主義を強く感じる作品でもある。 ストーリーは極めて単純で、ジョン・ウエインが活躍し、ヒロインといちゃいちゃすれば良いと言うだけのもの。従って、ストーリーの展開や戦闘シーンなどはかなりいい加減。ポンポン船(川蒸気)で中国海軍軍艦(駆逐艦級)と互角に戦ってしまうし、中国軍の弾は当たらない(笑)。登場人物もどちらかというとコメディ調で、謎の船使いビッグ・ハンは何人だかわからないし、ヒロインのミス・キャシーも何人?。共産党員のフェンは太った金満男で、アメリカの共産党員の間違ったイメージという気がしないでもない。共産党員ならもっと痩せていて狡猾なイメージなんだがなあ。 まあ、古い娯楽作品として見ればそこそこ楽しめるが、古い中国像ではちょっとリアリティに欠ける嫌いがあるかな。今の中国はもっと狡猾で、悪どいイメージがあるので、いつの時代の中国ですか?といった不思議な感じを抱くかも知れない。 興奮度★★ 沈痛度★★ 爽快度★★ 感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) アメリカ人のワイルダ船長は中国軍に捕らえられていた。だが、謎の中国人の手引きで脱獄に成功。川では無口のビッグ・ハンという男が待っていた。何を聞いても答えないハンに連れられて、ワイルダ船長はチク・シャン村に到着する。 村ではコツォー村長、医者の娘ミス・キャシーらに出迎えられ、脱獄の糸を引いていたのが彼らだったことがわかる。この村人達は北京統制政府のやりかたに不満を持ち、中国からの脱出を企てていたのだ。その脱出に用いる川蒸気船の操船のためにワイルダ船長を連れてきたのだ。 しかし、この地から香港までの480kmを川蒸気で行くのは無謀であり、いったんは断ったワイルダ船長だが、気の強いミス・キャシーの熱意にほだされて引き受けることにする。180名の村人の中には中国共産党員のフェン一族も含まれていたが、一人残さず脱出するため、武器の準備や海図の作成などにとりかかる。 中国共産軍が村にやってくる。ワイルダは隠れるが、兵の一人にミス・キャシーが襲われそうになり、ワイルダは殺してしまう。さらに、川蒸気のエンジンが壊れてしまう。川蒸気船長のツォーの甥が脱出に参加することとなり、エンジンの修理を行う。 いよいよ脱出の時が来る。川蒸気を火災で沈没したように見せかけて川蒸気を奪い、村人達を乗せる。だが、ミス・キャシーの父親が戻ってこない。実は、北京の要人の手術に失敗し処刑されていたのだ。乗船を渋るキャシーを説得して川蒸気が出発する。途中で遭遇した中国海軍の警備艇を破壊し、川蒸気は進んでいく。 水や食料が乏しくなり、船内では規制をかける。さらに、食事に毒が盛られ、フェン一族の男が犯人だった。また、嵐の中でフェン一族の男の反乱があり、ワイルダは負傷する。治療にあたったキャシーは次第にワイルダに恋心を抱くようになる。 ワイルダはホンハイ湾に沈んでいる難破船で水と薪を補給することとし、停船する。そこでフェン一族を降ろすことにするが、フェン以外の一族はフェンを見捨てて一緒に行くことを望む。その時、中国海軍の駆逐艦の砲撃が始まり、フェンは直撃弾で吹っ飛ぶ。すぐに出港するが、キャシーが父親を捜しに上陸してしまっていた。ようやくキャシーが戻ってきて、間一髪のところで乗船させることが出来る。迫り来る中国軍駆逐艦をまくために、ワイルダは浅瀬の中に逃げ込む。そして、なんとか中国軍をやり過ごし、ついに香港に到着するのだった。
2008年11月18日
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1943 アメリカ 監督:ハワード・ホークス 出演者:ジョン・ガーフィールド、ジョン・リッジリー、ハリー・ケリー・jrほか 125分 モノクロ Air Force空軍/エア・フォース 特別版 / ジョン・ガーフィールド DVD検索「空軍/エア・フォース」を探す(楽天) 第二次世界大戦中に製作された、アメリカの戦意高揚的映画。陸軍B-17フライングフォートレス爆撃機の搭乗員を主役に、真珠湾攻撃、マニラ、リンガエン沖海戦を描いたドラマ仕立てとなっている。戦時中製作だけあって、登場する兵器類も本物が多くみられ、アクションとしてもそれなりにリアルな作りとなっているのが興味深い。 ストーリー自体はフィクションのようだが、日本軍敵視とアメリカ人の戦意高揚を高めるために、真珠湾奇襲など史実に沿ったエピソードを散りばめた作りとなっている。特に、B-17爆撃機がアメリカ本土からハワイに空輸される設定は、1941年12月8日の真珠湾攻撃の際に、アメリカ軍レーダーが日本軍攻撃隊を誤認したB-17爆撃機編隊と一致するものである。 ただし、詳細な部分についてはかなりの史実誤認と歪曲が見られる。真珠湾攻撃時に飛行場に日本陸軍兵士が潜入していたり、スパイが自爆テロを起こしたりしているし、ウェーキ島でも日本兵スパイがアメリカ軍航空機を爆破するなど、汚いジャップという印象を操作している。また、落下傘脱出兵を日本軍機が機銃掃射するなどのシーンも、あくまで日本兵は汚い奴だと思わせたいらしい。 上記の点もあって、ストーリー自体は日本人にとって決して面白いものではない。その分を差し引いたとしても、アメリカ万歳的な内容なので面白みはさほどない。 唯一本作で興味深いのは、やはり登場する実機だ。B-17フライングフォートレス爆撃機が登場するのは当然だが、実機のエンジン音や内部映像が興味深い。飛行シーンや空中戦シーンはミニチュア使用となっているが、地上、離陸シーンは実機の迫力が楽しめる。また、アメリカ軍機としては、P-39エアコブラ、P-40cウォーホーク戦闘機の影像が見られるほか、アメリカ軍偵察機及び日本軍ゼロ戦役としてAT-6テキサン練習機が飛行シーンを見せてくれる。日本軍機役にはP-43Aランサーの姿も一部見える。また、地上機ではB-26マローダー爆撃機が登場している。海軍機は記録影像シーンのみだが、空母から発艦するTBDデバステーター艦上攻撃機が出てくる。 作品後半には日本海軍船団に対する攻撃シーンがあるが、艦船類は皆ミニチュアとなっており、戦艦や空母のほか、変な工作船のようなものが多数出てきて爆発している(笑)。このあたりは日本軍だし、どうでもいいやという感じなのだろう。 戦意高揚映画なため、史実的にも内容的にもあまりリアリティがないのが残念だが、戦時中にアメリカがどのように日本を見ていたのかということを知る上では貴重な映画と言える。まあ、とにかくハワイに日本軍が上陸していたとは驚いた(笑)。 興奮度★★ 沈痛度★★ 爽快度★ 感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) アメリカ陸軍第48航空団司令官からB-17爆撃機9機をハワイのヒッカム基地へ移送するよう命令が出る。機体番号05564メリー・アンはクインキャノン大尉が機長で、副機長ウイリアムズ中尉、航法士モンク・ハウザー中尉、爆撃手マクマーティン中尉、機付長ホワイト軍曹、整備士ワインバーグ、無線手ピーターソン、副無線手チェスター2等無線士、機銃手ウィノッキの9名が割り当てられる。ウィノッキは新任だが、元はパイロット志望でクインキャノン大尉が教官時代に適性で落とされた恨みを持っており、任務後にすぐに除隊する気でいた。 1941年12月7日に、極秘のうちに9機はヒッカム基地に向けて飛び立つが、途中で無線の異変が起きる。日本軍がハワイ真珠湾を攻撃したのだ。B-17編隊はバラバラにハワイ周辺に緊急着陸。メリー・アンもマウイ島に緊急着陸する。そこで島に上陸していた日本軍に襲撃され、メリー・アンはやむなく飛び立ち、ヒッカム基地に着陸する。上空から見た真珠湾は悲惨なものであり、ハワイにいたマクマーティンの妹も日本軍の襲撃で瀕死の重傷を負う。マクマーティンの妹と一緒にいたテックス・レイダー中尉はマクマーティンらに責められるが、当日戦闘機でゼロ戦を4機撃墜していたのだった。 爆撃隊はマニラに転進。ウェーキ島へ着陸するが、そこでは日本軍ゲリラに地上機が全てやられており、日本軍の侵攻も近づいていた。そのため、給油してすぐにマニラのクラーク基地へ進む。その際に海兵隊員からトリポリという犬を預かって乗せていく。 クラーク基地に着き、基地に赴任していたホワイト軍曹の息子ホワイト少尉は着任当日に戦死していたことが判明する。それを見て、ウィノッキは機銃手として戦う意志を固める。 リンガエン沖に日本海軍を発見し、メリー・アンは発進する。しかし、日本軍機の攻撃を受けて被弾。クインキャノン大尉も重傷を負い、搭乗員はパラシュートで脱出。しかし、ウィノッキだけは操縦桿を握って胴体着陸を果たす。だが、指揮官は爆撃機の修復が間に合わないと判断し、爆破を命じる。しかし、マクマーティン中尉、ホワイト軍曹らは2日で修復するとして指揮官に頼み込む。修理中に偵察機の銃手としてチェスターが偵察機に乗り込む。偵察機は被弾してチェスターはパラシュートで脱出を図るが、日本機に銃撃されて戦死。仲間は撃墜した日本機から脱出してきたパイロットを銃殺する。メリー・アンは後部に銃を設置して修理を完了。手渡しで燃料を補給し、日本兵が攻めてくる中をなんとか離陸する。 上空で、日本海軍の大船団を発見する。メリー・アンは位置を電信し、アメリカ陸海軍爆撃隊が到着し、日本軍の艦船を壊滅するのだった。燃料が切れたメリー・アンは海岸に不時着。 ウイリアムズ中尉らは東京大空襲の部隊長として後に活躍する。
2008年11月15日
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1981 アメリカ 監督:ウォルター・ヒル出演者:キース・キャラダイン、パワーズ・ブース、フレッド・ウォードほか106分 カラー Southern Comfort DVD検索「サザン・コンフォート」を探す(楽天) アメリカのルイジアナ州軍の訓練中、迷い込んだ密林の中で謎の現地住民(ケイジャン)に襲撃され、パニックに陥るルイジアナ州軍分隊を描いた、スリラー・パニック系映画。軍物を扱ったスリラー映画は結構残念なB級が多いのだが、本作は微妙な当落線上(笑)。 本作に登場する謎?の集団ケイジャン(Cajun)とは、18世紀以前にアメリカに移住したフランス系住民のうち、ルイジアナ州に住み着いた人々を指すらしい。実態はどうなのかは良く知らないが、本作では、密林の中で文明から取り残されたような独自の生活文化を育んでいる、ちょっと怪しげな集団だ。フランス語しか話さず、独特の服装がなんとも妙なのだが、ケイジャンと言えば、料理や陽気な音楽でも知られるとおり、決して怪しくはないはずだ。しかし、そうした古風さや陽気さの裏返しなのだろうか、本作中では何やら裏がありそうな不気味さをかえって醸し出している。ただ、現在ではこうしたケイジャンを描くことは人種差別にひっかかりそうな気はする。ビデオ題は「ダーティーアーミー/対決!悪魔のカルト集団」とされており、ケイジャンはカルト集団にされてしまっている(笑)。 撮影はルイジアナそのもので行われているが、うっそうとした密林と湖沼が背筋をゾクゾクさせる。そうした中に見え隠れするケイジャンの恐怖はなかなかのもの。特に、終盤まで顔や姿を出さないあたりはその恐怖をより一層高めている。密林や湖沼を知り尽くしたケイジャンの殺人トラップや独自の文化による暗示表現もまた、何が起こるかわからない恐怖感を駆り立てる。 ルイジアナ州兵は二等軍曹に率いられる分隊8名で、職業軍人のほかにパートタイム兵も多く含まれている。そのため規律に乏しく、中には言うことを聞かない破天荒の若者も含まれる。こうした規律のなさがケイジャンに襲われてパニック状態に陥っていくのだ。恐怖に精神が壊れていく兵士や、訓練のために実弾がほとんどないというプレッシャーも見物だ。戦う理由や襲われる理由すらわからないような状況の中、生き残るために兵士達は必死に智恵を絞るのだ。 戦闘シーンそのものはケイジャン相手だけに大人しい。アクション性も決して高いもののではなく、瞬発的な恐怖感というものは少なめ。だが、姿の見えないケイジャンが迫り来る、ジワジワとした恐怖感を堪能する作りとなっている。 全体にそこそこのまとまりとなっているが、ややインパクト不足の感は否めない。ラストのスローモーションシーンは何やら意味深。何かを予告しているかのような雰囲気だが、ストーリーとどのように関係しているのか、想像をたくましくするのも面白い。 また、設定が馴染みの薄いケイジャンということで、ちょっとストーリーに入り込みづらい感じはある。ケイジャンとは何者なのかという暴露があっても面白かったかなあと思った。スリラーと言ってもそんなに怖い部類ではない。興奮度★★★沈痛度★★爽快度★感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1973年のルイジアナ州。ルイジアナ州軍は定期訓練を実施しており、プール二等軍曹に率いられた第2分隊も38km離れた州軍キャンプへ行軍訓練を開始した。分隊にはテキサス出身で石油エンジニアのハーディン伍長が新加入した。大卒のハーディンは軍になかなか馴染めない。分隊にはこのほか堅物のキャスパー三等軍曹、真面目な高校教師でアメフトコーチのボーデン伍長、お調子もののスペンサー上等兵、ちょっと危ない雰囲気のリース伍長、黒人のクリブス上等兵、ヤク中でちょっと馬鹿なスタッキー上等兵がいる。 分隊は行軍するうちに地図にない沼にぶち当たる。そこには現地住民(ケイジャン)のカヌーが繋留されており、リース伍長の強い意見で勝手に拝借していくこととなる。ボーデン伍長は一応置き手紙を置いていく。途中で岸にケイジャンの姿を見つける。プール軍曹は借りていくと大声で話しかけるが英語は通じないらしい。その時、スタッキー上等兵が空砲の機関銃をぶっ放す。驚いたケイジャンは逃げるが、その次の瞬間プール軍曹が頭を撃ち抜かれる。 あわてた分隊は岸に上がるが、無線機も地図も沼に沈めてしまった。プール軍曹に代わってキャスパー軍曹が指揮をとることとなるが、どうも能力的に疑問が残る。リース伍長はプール軍曹の弔い合戦とケイジャンを攻撃することを意見するが、キャスパー軍曹は遺体を運びながらキャンプを目指すこととする。リース伍長は実弾を密かに携帯しており、全員に実弾を分配する。 ケイジャンの小屋を発見。そこでキャスパー軍曹らはケイジャンの生け捕りを計画するが、後方待機を命じられていたボーデン伍長が一気に突入し、ケイジャンを生け捕りにする。小屋には食料や武器がたくさんあったが、気の触れたボーデン伍長は火を付けて灰燼にしてしまう。 一行はケイジャンを人質に進んでいくが、ウサギの皮が8つぶら下がっている所に遭遇し、不気味に感じる。その後猟犬に襲われ、先頭を歩いていたクリブス上等兵が罠で死亡する。スペンサー上等兵はケイジャンを解放しようと提案するが却下。次第にキャスパー軍曹の指揮能力に問題が生じる。ボーデン伍長はついに気が触れてしまう。リース伍長はケイジャンを拷問し、それを止めようとしたハーディン伍長はリース伍長を殺してしまう。ケイジャンは逃げていく。 ついに指揮権をスペンサー上等兵がとることに。途中でシムズ上等兵がケイジャンをみつけて銃を乱射。さらに埋めたはずの遺体がぶら下がっており、次々に木が倒れてくる。混乱した分隊は銃を発射するがケイジャンを倒すことは出来ない。上空に捜索のヘリが来るが見つからない。退却の際にスタッキー上等兵は底なし沼に飲み込まれて死亡。スタッキー上等兵を捜索するため、分隊はスペンサー上等兵ら3名とキャスパー軍曹の二手に分かれる。キャスパー軍曹はケイジャンを発見し突撃するが戦死。シムズも撃たれて戦死する。 残った3名は野営し、朝起きるとそぐそばに列車の線路があった。そこにはボーデンが首をつられて死亡していた。そしてあのケイジャンの姿がある。ケイジャンは西に向かって行けと見逃してくれる。 スペンサー上等兵とハーディン伍長はトラックに遭遇し村に連れて行って貰う。しかしそこはケイジャンの村だった。一見敵意はないようだが、油断はできない。そこにカヌーに乗った2人のケイジャンがやってくる。彼らこそが敵であり、二人は協力して二人のケイジャンを倒して村を脱出する。上空にヘリが飛来し、米軍のトラックが近づいてくる。
2008年11月12日
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2007 カナダ 監督:ダミアン・リー出演者:キム・コーツ、ニーナ・ドブレフほか96分 カラー The poetタンネンベルク1939 独ソ侵略戦争(DVD) ◆20%OFF! DVD検索「タンネンベルク1939」を探す(楽天) 第二次世界大戦序盤の1939年、ドイツ軍によって占領されたポーランドを舞台にしたラブロマンス。著名な将軍を父親に持つドイツ軍士官がユダヤ人女性と禁断の恋に落ちていく話しで、ドイツ軍がポーランド侵攻の後にソヴィエトとの開戦に至る過程が背景となっている。 近年カナダ製作の映画が増えているが、新進監督によるものが多く、かなり当たりはずれの差が大きい。本作監督のダミアン・リーは決して新進監督と言うわけではないようだが、はっきり言ってB級ラブロマンスの域を出ない。 メインジャンルがラブロマンスだけに、背景となっているドイツ軍のポーランド侵攻や独ソ戦描写はあまり期待できない。とはいえ、ドイツ軍としては少数ながらもドイツ国防軍、SS親衛隊、対するはポーランドレジスタンスとロシア人ゲリラが登場し、レジスタンスやゲリラの組織的背景や構成は映画中では余り解説されることはないものの、それなりの雰囲気だけは味わうことが出来る。 レジスタンスとの銃撃戦や、ユダヤ人虐殺シーンの描写はまあまあの出来。グロすぎない程度のリアルな描写で、戦場の悲壮感を浮きだたせている。 だが、メインとなるラブロマンスとしてはかなりの駄作。戦争の不条理に反抗心を持つドイツ軍士官、妙に理解のある士官の母親、貞操の軽いユダヤ人娘など、設定がかなり安直。冒頭からいきなりエッチしてしまう主人公らにも萎えるが、その後も両者が禁断の恋愛感情を持ち続けるというモチベーションがどうも感じられない。さらに、いきなり妊娠、出産と映画内のエピソードに比して早すぎる時間展開も混乱を招く。映画中のイメージだと翌日の雰囲気なのに、実は数ヶ月たっていたりするのだ。ストーリーの熟成度という観点では全く駄目。 また、登場人物の性格付けもかなり浅く、先の恋愛感情の盛り上がりを感じられないことにも影響を与えている。厳格なドイツ軍人である父親の価値観というものの表現が足りないために、息子である士官の反抗心と背徳の苦悩がやや表現し切れていない。また、ユダヤ人女性が性を武器に生き延びていく過程も表現がさっぱりしすぎていて、心情の動きが全くわからない。 映像という点では悪くはないが、ストーリーとしては心に響くものがほとんどなく、ラブロマンスの深みも感じられない。お手軽に相対する二人をくっつけてラブロマンスに仕立て上げてみました的な印象だ。もう少し捻りや深みが欲しかったなあ。興奮度★沈痛度★★★爽快度★感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1939年のポーランド。ドイツ軍はポーランドに侵攻し、ユダヤ人の村を攻撃し虐殺を繰り返していた。ドイツ国防軍のコーニッグ少将を父親に持つオスカー・コーニッグ中尉は特殊部隊員としてポーランドに潜入していたが、吹雪で行き倒れたユダヤ人娘レイチェルを助ける。 レイチェルを介抱したオスカー中尉はレイチェルと恋に落ち、素性を明かす。レイチェルは翌週にユダヤ人男性ベルナルドと結婚することとなっていたが、オスカーと逃げようと提案する。だが、仲間のドイツ兵の手前上、オスカーは彼女を村に帰さざるを得ない。 しかし、彼女のガー村がドイツ軍の襲撃の対象となっていることを知り、オスカー中尉は助けに向かう。レイチェルは戻る途中ベルナルドと出会い、逃げていた。次々に殺されるユダヤ人。ついにレイチェルとベルナルドもドイツ兵に見つかってしまうが、危ないところでオスカーが現れ、二人を逃がすのだった。 オスカー中尉のもとにコーニッグ将軍と母親がやってくる。コーニッグ将軍のやりかたに反抗するオスカー中尉だったが、母親はユダヤ人女性との恋愛に理解を示し、レイチェルを見つけ出し、二人でカナダに逃げることを示唆する。 一方、レイチェルは妊娠が発覚。オスカー中尉の子であることを知りながらもベルナルドはレイチェルと結婚することを決意する。ドイツ兵から逃げながらレイチェルは子供を出産する。しかし、子供を育てていくためにはドイツ軍露営地ビュトゥで働くしかなく、レイチェルはそこで歌手兼ドイツ軍高官の夜の相手をして生活し始める。 コーニッグ少将がビュトゥにやってくる。美しいレイチェルを認めて夜の相手をさせようとする。愛するオスカーの父親だと知り苦悩するレイチェルだったが、少将はそのまま寝てしまう。 オスカー中尉もビュトゥにやってくる。そこでレイチェルの姿を見つけ、二人で逃げ出そうと約束する。しかし、赤ん坊がドイツ兵によって殺されてしまい、怒ったベルナルドがドイツ兵を殺害。ベルナルドとレイチェルは露営地を逃げ出し、ロシアゲリラによって捕らえられてしまう。 オスカー中尉はロシアゲリラの掃討のために出発。ロシアゲリラを発見して捕らえる。ロシアゲリラの首領はベルナルドらにオスカー中尉の狙撃を命じる。ドイツ兵がオスカー中尉だと知ったベルナルドはレイチェルにオスカーのもとに走れと命じ、反転してロシアゲリラに銃撃を加える。ベルナルドは撃たれ、オスカーにレイチェルを頼むと言い残して死ぬ。
2008年11月08日
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2006 イギリス・アメリカ 監督:トニー・ビル出演:ジェームズ・フランコ、ジャン・レノ、マーティン・ヘンダーソンほか138分 カラー FLYBOYS[DVDソフト] フライボーイズ プレミアム・エディション 081003kd2p DVD検索「フライボーイズ」を探す(楽天) 第一次大戦時のフランス戦線における、アメリカ人義勇兵パイロットの複葉機による戦いを描いたアクション系ヒューマンドラマ。実在の人物を題材にした物語らしいが、本作はかなりの脚色を加えているようで、伝記的要素を含みながらも娯楽作品に仕上がっている。モーションキャプチャーを多用した先駆け的作品で、鮮明な画像が印象的な作品に仕上がっている。 時代は1916年から1917年頃を描いたもので、アメリカが中立的立場を取っている段階で、ドイツによって苦境に立たされているフランス空軍にアメリカ人義勇兵がパイロットとして参戦する姿を描いている。義勇飛行部隊はラファイエット戦闘機隊と呼ばれ、フランス人司令官のもと、多くのアメリカ人が加わっている。 第一次大戦の複葉機空戦ものは、騎士道が残っているおおらかでロマン溢れる作品が多いが、本作もそういった雰囲気は残している。義勇パイロット同士の友情と、パイロット敵味方の意地が主題の一つにもなっている。そこにラブロマンスが若干加えられ、物語としてはかなりの膨らみを持っているといえる。だが、伝記的要素を持っているがために、描かれたイベント量がやや大目で、物語自体の進行速度がかなり速いのが気になる。従って、友情や意地、ラブロマンスといったあたりの描き方が浅く、心情的部分には入れ込むことが出来なかったのが残念。アメリカ人は様々な事情があって義勇兵に志願するのだが、その辺りの思いとか、悲壮感が弱すぎるので、数多く戦死するパイロット達の死があっけなく、心に残らないのだ。 映像はモーションキャプチャーによる複葉機、そして戦闘シーンが一つの見所でもあるが、使われ方は今ひとつ的確とは思えなかった。機体自体の映像はなかなかリアルに良くできているが、空戦でのアクションや密集度合いが不釣り合い。かつ、機体のアップが多すぎて、空という空間の広がりを感じることができなかった。モーションキャプチャーを自慢したいのはわかるが、空戦シーンというものをもう少し検証して欲しかったところ。 同様に、複葉機は英軍機ブリストル、ソッピースキャメル、ローヤルエアクラフトSE5a、ハンドレページ爆撃機、仏軍機ニューポール11、ニューポール 17、独軍機フォッカーDr.1、ゴータG.5爆撃機などが登場し、その機体はかなり忠実に描かれている。すでに実在しない機体を映像化するには最適の方法なのだが、やはり機動性がとても変。飛行シーンも空戦シーンも複葉機らしさがなく、フワフワとファンタジー映画のような感じがする。また、ドイツ軍機は下翼上にも十字マークが描かれているなど、ミリタリー的検証といった点ではかなりいい加減だとわかる。機体の再現がしっかりしているだけに、余計にそういう辺りのリアルさが目に付いてしまった。なかなか難しいところだ。 なお、実機と思われるものが1機飛んでいて、ソッピースパップと思われる。 基本は娯楽作品の範疇で考えるべき作品で、娯楽先作品としてはそこそこ楽しめる。ただ、先にも述べたが、物語が急ぎすぎなのとアクションがいただけない部分で、ちょっと中途半端な印象も残る。モーションキャプチャーについては、先駆的な作品として評価できるが、今後の使われ方について一石を投じるものでもある。興奮度★★★沈痛度★★★爽快度★★★★感涙度★★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1916 年アメリカはヨーロッパの大戦に中立的立場をとっていた。テキサスのカウボーイ、ブレン・ローリングスは映画で見たフランス義勇戦闘機隊に参加することを決める。同様に、ジェンセンは両親や恋人と別れて参加、パリの黒人ボクサースキナー、ニューヨークの坊っちゃんロウリーは父親に強制されて志願する。 彼らはフランスのヴェルダンにあるラファイエット戦闘機隊に配属となり、一から訓練を開始する。すでに義勇兵として参加していたキャシディ大尉は既に同期が全員戦死し、新兵の彼らを冷たくあしらう。ライオンのマスコット「ウイスキー」を飼うキャシディ大尉は実戦経験のない彼らをバーに入れさせない。訓練中にローリングスとビーグルはガス欠で不時着し、売春宿で介抱される。ローリングスはそこで出会った娘ルシエンヌを好きになる。 ローリングスらは1ヶ月の訓練を終え、新型機ニューポール17を与えられる。機体には先住民の絵が描かれ、好きずきにマークを書き入れる。ローリングスは牧場のマークを入れた。 いよいよ初陣となり、ジャメの武器庫爆撃作戦支援に出撃する。ドイツ軍高射砲とドイツ軍戦闘機の迎撃を受け、初陣は散々な結果に終わる。トッドマンが戦死し、不時着したナンは敵の黒十字機「黒いタカ」に機銃掃射で殺される。ローリングスらは仲間の死に落ち込むが、キャシディ大尉はバーに初めて招き入れ騒ぐ。理解できないローリングスだったが、キャシディ大尉はこれが死者への偲び方だと言う。 ローリングスはルシエンヌを探しに売春宿へ行くが、彼女は売春婦ではなく農家の娘だった。探し当てたルシエンヌと片言の英語で会話をするが、爆撃で死んだ兄夫婦の子供を育てる彼女は、パイロットとの恋に距離を置こうとする。 ドイツ軍爆撃機がレヴォニー爆撃を行い、ローリングスらは追撃に向かう。ローリングスは3機を撃墜するが、弾詰まりで黒いタカに後を取られる。しかし、騎士道精神により見逃して貰う。この戦いでジャンセンが負傷、ポーターは1機を撃墜する。黒いタカはドイツ軍の撃墜王フランツ・ウォルフェルトだった。 ビーグルは全く撃墜できず、本名ではなかったことが判明し、スパイではないかと尋問される。しかし実はアメリカで銀行強盗を行っていたためとわかり、笑って仲間に戻ることが出来た。また、ジャンセンは負傷がもとでパニック障害となり飛行できなくなる。 歩兵部隊にドイツ軍機が来襲。迎撃したロウリーは1機を撃墜するも、危ういところを黒人のスキナーに助けられる。これまで黒人を奴隷と思っていたロウなーはスキナーと和解する。ビーグルは被弾して歩兵戦の昼間地帯に不時着。ローリングスは強硬着陸してビーグルを助けに行くが、助けるためにビーグルの手首を切断する。落ち込むローリングスにキャシディ大尉は「仲間を生かして返すのが俺たちの役割だ。友の仇を討つ。」と語る。 ドイツ軍がルシエンヌのいるムーズ川を越えてくる。ローリングスは命令違反してルシエンヌと子供たちを救いに飛行する。危機一髪のところで彼女らを救い出すが、ルシエンヌは負傷してランスの病院に送られる。軍紀違反の罪に問われるローリングスだったが、逆に勲章を授与される。 ドイツ軍はツェッペリン飛行船で爆撃にやってくる。迎撃したキャシディ大尉は黒いタカとの一騎打ちで被弾、そのまま飛行船に体当たりして果てる。ポーターも戦死する。キャシディはローリングに後を託す遺書を残していた。 ローリングスはランスのルシエンヌのもとに行くが、ルシエンヌはイギリスに避難しようとしていた。戦争が終わったらパリで会おうとの言葉を残して別れる。 再びジャメの弾薬庫爆撃作戦に参加する。ビーグルも義手で参加し、ハンドレページ爆撃機と合流し、爆撃を成功させる。だが、黒いタカにロウリーがやられる。ローリングスは弔い合戦として再び黒いタカのもとに出撃する。黒いタカとの一騎打ちをするが、押し寄せるドイツ軍機に劣勢となる。そこに仲間のスキナー、ジェンセンらが応戦に駆けつけ、ついにローリングスは黒いタカを仕留める。 ジェンセンは終戦まで戦い、スキナーは戦後に米軍に入るが認められず、アメリカ初の航空便パイロットとなる。ビーグルはイタリアに残り、曲芸飛行団を創設。ローリングスはパリでルシエンヌと会えず、テキサスで大牧場を経営する。
2008年11月01日
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1998 イギリス 監督:トム・クレッグ 出演者:ショーン・ビーン、ジェイミー・バートレット、ケヴィン・コリンズ ほか 117分 カラー BRAVO TWO ZERO DVD検索「ブラヴォー・ツー・ゼロ」を探す(楽天) 湾岸戦争に参加したイギリス陸軍特殊部隊SASの隊員アンディ・マクイブ軍曹の実話手記をもとに製作したドラマ。SAS自体は極秘任務の部隊であり、SASの参加した作戦が公になることは珍しい。湾岸戦争を題材にした映画も決して多くはなく、本作はイラク北部の主軸部隊通信線切断とスカッドミサイル破壊任務に出撃したB中隊の話しである。 監督のトム・クレッグはこの後にS・A・S英国特殊部隊というテレビドラマシリーズの作品を手がけている。こちらは主に国内等のテロ対応などを描いたもので、結構良くできている。 湾岸戦争は1990年に起こったイラクによるクウェート侵攻を発端に、1991年に米英等多国籍軍がイラクと戦った戦争で、最新兵器を用いた近代戦となった。序盤はイラク軍のスカッドミサイルでイスラエル等の近隣諸国に被害が出たが、圧倒的な装備の差で2ヶ月余りでイラクは敗戦した。本作はその序盤の出来事と思われ、当初脅威となったスカッドミサイル破壊のミッションを負っている。ちなみに、このSAS中隊はアンディ・マクイブ軍曹を指揮官とした8名で構成され、うち5名だけが生還している。 SASの実態は良く知らないが、映画中ではどちらかというと一般歩兵のようなイメージ。実態がそうなのだろうが、厳格で堅物というのではなく、結構おちゃらけていて陽気な隊員の姿が新鮮だ。反面、SASらしい格好良さはなく、最新装備は壊れすぐにイラク軍に捕まってしまう。実際の戦場とはそんなものなのだろう。 ストーリーは実話を元にしたリアル感は多少あるが、映画としては全体にまとまりが悪い。場面ごとのつながりや、個人個人の性格掘り下げも甘いので、今ひとつ感情移入はできにくい。やはり実話で実在の人物であることが、ストーリーの面白みという膨らみを阻害してしまっているのだろう。 また、原作に忠実にしたからなのか、終盤のストーリー展開が駆け足でちょっとお粗末。尻切れトンボ的な終わり方もどうにも消化不良。原作者の自伝、邂逅記という意味合いが強すぎて、映画という娯楽作品として見た場合は残念な出来。 登場する兵器類は少なめで、ヘリと若干の装甲車類が登場するのみ。南アフリカロケという砂漠シーン以外のスケール感も思ったよりも狭く、撮影自体はかなりお手軽なようだ。その代わり、湾岸戦争時の記録映像が用いられており、多国籍軍の空爆、砲撃シーン、破壊されたイラク軍車両などが出てくる。 ストーリーの起承転結がなく、全体にインパクトのない作品だった。実話だと思って見ても、なかなか心情移入できなかったのが残念。逆に、格好良かったり、衝撃的だったりする他の戦争映画の方が脚色等による虚像なのかもしれず、戦場の実態とはこんなものなのかもしれないと思えば、新鮮な作品だったとも思える。 興奮度★★ 沈痛度★★★ 爽快度★★ 感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1991 年1月湾岸戦争が勃発し、サウジアラビアの多国籍軍基地から英国陸軍特殊空挺部隊(SAS)のB中隊が出動する。家族との別れをしたアンディ・マクナブ軍曹を指揮官とする8名は、イラク北部の主軸部隊通信線切断とスカッドミサイル破壊ミッションのために出動する。 コールサイン「ブラヴォー・ツー・ゼロ」と名付けられた中隊はヘリでイラク北部の20km南に着陸。徒歩で敵s60高射砲陣地に接近する。しかし、そこで羊飼いの少年に見つかってしまい、やむなく撤退を始める。しかし、敵装甲車と遭遇し交戦。無線機が壊れてしまい、170km先のシリア国境に脱出することにする。 だが、折からの砂漠の寒波でマークが低温症にかかったうえ、3人がはぐれてしまう。アンディらはイラク軍の検問所でタクシーを奪って逃走。イラク軍施設を破壊し、さらに徒歩でシリア国境を目指す。国境近くに達するが、そこにはイラク軍の大規模陣地があった。アンディらは攻撃を仕掛けながら突破を図る。バズ、ティンガーは川をわたっていく。アンディとマークはイラク軍兵と銃撃戦を繰り広げ、マークが撃たれてしまう。バズは低温症で死亡する。 一人になったアンディは国境まであと2kmというところでイラク兵に見つかってしまい、捕虜となる。イラク軍はアンディをイスラエル兵だろうと尋問し、拷問を加える。さらにティンガーが捕まって送られてくる。アンディは歯を抜かれるなど過酷な尋問に耐え、近距離観測小隊の兵と嘘を突き通す。バグダッド軍情報部刑務所に移送され、そこでスタンも加わり3名となる。いつ処刑されるかとびくびくしているところだったが、イラク軍幹部からSASの英兵がシリア国境を越えたとの情報を聞く。クリスが脱出したようだ。 時間がたち、スタンとティンガーが連れ出される。残されたアンディーは銃殺の覚悟を決めるが、イラクが停戦を決め、アンディーは病院に収容される。そこで負傷したマークと再会を果たす。1991年3月10日、アンディはイギリスに帰国する。結局8名の隊員のうち、帰還できたのは5名だった。
2008年10月29日
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2007 イギリス 監督:マーク・ミュンデン出演:ジェラルド・カーンズ、レオ・グレゴリー、マシュー・マクナルティほか95分 カラー THE MARK OF CAINキングダム・ソルジャーズ -砂漠の敵-(DVD) ◆20%OFF! DVD検索「キングダム・ソルジャーズ」を探す(楽天) イラク戦争におけるイギリス陸軍のイラク人捕虜虐待問題を題材にした社会風刺的ドラマ。イラク南部のバスラにおける治安維持活動でのアクションシーンも多少はあるが、主に捕虜虐待に荷担したイギリス兵の精神的呵責や軍の指揮系統の矛盾を問うヒューマンドラマとなっている。イギリス軍に限らないが、イラク戦争での捕虜虐待事件は問題となっており、本作は一応フィクションということになっているが、少なからず実際の事件を参考にしているものと思われる。 戦地での捕虜虐待問題はイラク戦争に始まったことではなく、戦争では必ずつきものの悪事である。ジュネーブ協定で古くから禁じられてはいるが、戦地おける狂気と兵士の精神的暴走はそう簡単に止められるものではないのが実態だ。第二次大戦の戦犯裁判でも取り上げられたことが多いが、命令を下す上官の残虐性だけでなく、末端兵士の無知さ、戦地治安の異常さ、報復行為など要因は多岐にわたり、原因を特定して断罪することはなかなか難しい。とはいえ、残虐行為によって命を失った者にとっては、余りに理不尽な行為であり、出来る限りその根絶を目指さねばならないのも事実である。 本作は、その捕虜虐待行為が発生する過程、関与者の精神状態、そしてその事件の発覚と軍の対応を一連のドラマとして再現して見せている。捕虜が無実だったり、軍が隠蔽工作を行うなど、やや恣意的なストーリーではあるが、例えばの話しとして見る分には、タブーとされがちな戦争の陰部を垣間見ることが出来るという点で新鮮な作品だ。 ただ、何分にも題材が重たいので95分が結構長い。捕虜虐待に加わる兵士の気持ちや良心の呵責にさいなまれる気持ちは、犯罪行為としてやはり重たい。また、上官命令は絶対という軍の規律は堅く、軍は真の勇気よりも忠誠を優先するという風刺が痛々しい。軍にとって末端の兵士は所詮虫けらでしかないのだという衝撃の事実を目の当たりにさせられる。 本作中では、苦悩する兵が何度も「カインの烙印(罪)」という言葉を発する。原題もそうなっているのだが、聖書に出てくるものらしく、アダムとイブの子カインが弟を殺してしまうという一節だそうだ。私には今ひとつピンと来ないのだが、本作にとっては重い命題になっているのだろうか。 映像的には低予算映画らしく、用意されたセットも登場する兵器類もチープ。戦闘シーンもたいしたことなく、イラク治安維持活動だからそんなもんだろうとは思うが、イラク人憎しで捕虜虐待するシーンに持って行くには、起承転結としても盛り上がりに欠けてしまってしる感じ。従って捕虜虐待ばかりに目がいってしまって全体のバランスという点ではちょっともったいない。 興味深かったのは捕虜虐待シーン。捕虜虐待を行ったという主設定なのだが、いつまでたっても虐待シーンが出てこない。実は最後の最後で映像が出てくるのだが、もったいぶった編集がサスペンス的な雰囲気を醸し出している。ただ、私個人的にはあまり効果的では無かったような気はするが。全般的にグロさ度は低めかな。 タブー的題材を扱った作品であり、娯楽性は低い。こういう社会的問題に関心があるならば見る価値はあるが、そうでなければ面白くはないだろう。 興奮度★★沈痛度★★★★爽快度★★★感涙度★★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 2003年8月のイラク南部のバスラ。イギリス軍は治安維持活動を行っていた。若干18歳の新兵マーク・テイトとシェイン・ガリバーは初めての戦場に緊張しながらも手柄を求める若者だった。ガソリンを求めて暴動を起こすイラク人を抑えて満足するマークだったが、分隊の短気者ランス・クエリー伍長にトリークル(甘ちゃん)と馬鹿にされいじめられる。それでも分隊の軍曹に困った事があれば言って来いと優しくされる。 パトロールはコーラ缶などに詰められた爆弾の存在など危険を伴うものだったが、ある時ガソリンを盗んだとイラク人に暴行を受けるクウェート人を発見する。暴行を制止する軍曹らだったが、イラク人は殺せ殺せとわめき散らす。たかが盗みで射殺とは論外だったが、イラク人をなだめるため軍曹は順番にクウェート人を殴り倒すこととする。マークは勇気を見せるため最初に殴る。シェインは殴る事ができず、殴ったふりをしていた。 次のパトロール中にイラク人の襲撃を受ける。初の銃撃戦に恐れおののく二人だったが、敵の放ったロケット砲で車内に残っていたグリンが戦死する。イギリス軍は犯人一味の潜む住宅を急襲し、怪しい男たちを確保する。シェインは吠えてうるさい犬を射殺する。 捕虜はいずれMPに引き渡すこととなっていたが、仲間を殺された怒りから軍曹らは捕虜の虐待を計画する。部隊の指揮官少佐も暗黙の了解済みだった。マークは捕虜の虐待に良心の呵責を感じ逃げようとするが、シェインは仲間を殺された報復だとしてマークを強引に誘う。監獄でシェインは捕虜を殴り、捕虜同士キスをさせたり男根をくわさせたりする。マークも嫌々ながらもそれに従うのだった。捕虜の男の一人が脳挫傷で瀕死となるが、捕虜の母親には脱走しようとしたからだと嘘の説明する。マークは混乱し従軍牧師のもとに赴くが、牧師もまた特殊な状況下だから仕方ないのだと冷めた言葉を放つ。 シェインとマークは任務帰還を終えて本国に帰還する。シェインはイラクでの出来事を得意になって恋人のシェリーに話し、捕虜の虐待を写した写真を見せる。不快に思ったシェリーは、浮気をしたシェインに怒った際に捕虜虐待の事実を警察に通報する。イラクでの捕虜虐待事件が明るみになり、写真に写っていたマークとシェインは軍法会議にかけられることになる。同様に写真に写っていたクエリー伍長や軍曹は司法取引によって罪を逃れ、少佐も全く知らなかったと抗弁する。結局捕虜虐待の罪は若い二人だけに押し付けられ、マスコミの餌食となっていく。マークは軍曹らを憎み、徐々に気がおかしくなってくる。錯乱したマークは病気休暇を許されるが、ついに自殺を図ってしまう。シェインは軍曹らに軍に忠誠を示せ、裏切るなと言い含められるが、マークの葬儀にも来ない軍曹に憤りを感じ、真実を語る事を決意する。 軍法会議の場で、シェインは捕虜虐待の真実を述べ、軍曹やその他の兵の暴行、少佐の指示であったことを暴露する。騒然とする軍法会議だったが、シェインはそのまま軍刑務所に拘留される。護送にあたったクエリー伍長は市民の誰もおまえなど助けてはくれないんだと冷たく言うのだった。
2008年10月22日
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1958 イギリス 監督:レスリー・ノーマン出演者:ジョン・ミルズ、ロバート・アークハート、レイ・ジャクソン ほか135分 モノクロ DUNKIRK激戦ダンケルク(amazon.uk) 第二次世界大戦時の緒戦ダンケルク撤退作戦を描いたアクション・ヒューマンドラマ。現在日本語版DVDのリリースがないため、英語版を視聴した。主にフランス兵を主眼においた「ダンケルク(1964)」という映画もあるが、こちらはイギリス兵が主役となる映画で、ダンケルクの撤退戦を戦う陸軍兵だけでなく、撤退作戦を支えた民間船主も描いた視野の広い作品となっている。 ダンケルク撤退戦はドイツ軍によるフランス、ベルギー電撃侵攻に伴い、退路を断たれた35万名の仏英軍がイギリス本土に撤退するため、1940年5月 26日から6月4日にフランスのダンケルク海岸から船で脱出した作戦で、別名「ダイナモ作戦」とも言う。ドイツ軍航空機によるダンケルク爆撃を受け、 200隻に及ぶ艦船損失を負いながらも、殿のフランス軍後衛部隊を除いて大部分がイギリス本土への撤退に成功している。だが、イギリス軍が持ち込んだ重火器等の兵器を全て失い、フランスはドイツに占領されて士気は低下し、1944年のノルマンディー作戦までの4年間ドイツ軍に支配されることになる。 本作はベルギーに展開していたイギリス陸軍第13旅団B中隊の兵士のダンケルク撤退の様子と、ダンケルクに兵士救出に向かう民間船主の活躍が描かれている。 突然のドイツ軍侵攻により、混乱の撤退のうち本隊とはぐれて迷子になった分隊の迷走ぶりが興味深い。何が起こっているのか、ドイツ軍がどこまで来ているのか、自分たちはどこに向かえばいいのかすらわからない小隊は、本能の向くままダンケルクに向かう。ダンケルクの海岸では、砂浜を埋め尽くさんばかりの英仏兵であふれ、我が物顔に攻撃するドイツ軍戦闘機の餌食となっていく様は悲壮感あふれる。丸腰で戦意喪失状態の歩兵にとって、まさに打つ手なしとはこのことなのだろう。 一方、イギリス本土では前線の緊迫感など微塵も感じられない訳だが、戦雲急変の様子に次第に軍に協力的になっていく民間人の姿が描かれている。生命の危険をも顧みず小型ボートまでも駆り出して救出に向かう民間人の姿は勇敢ではあるけれど、戦時のプロパガンダ、戦意高揚作戦の成果だとも言える。自発的に船を供出するものもいれば、断ることができない雰囲気に飲まれていくものもいるのだ。 ストーリー自体はちょっと単調気味。ダンケルクとイギリス本土を二元中継しているので、ブツ切り感も強く、今ひとつ盛り上がりに欠ける。ダンケルクの悲壮感も民間船舶の勇敢さも、本来はもっと際だたせて描くことも可能だったはずで、ちょっともったいない気がした。また、登場人物の性格付けがあるようでいて、今ひとつ生かされておらず心情移入も難しい。登場人物の個性を強く出さずに、ドキュメンタリー風に仕上げる意向があったのかしれないが、その辺りはやや古い映画のイメージだ。 イギリスでの撮影のようだが、予算的にはチープな部類で、スケール感は大きくはない。登場する兵器類も極めて少なく、撮影に用いたと思われるものは軍用トラックにジープ、小型ボート類だけと思われる。映像としてはドイツ軍機(Ju-88爆撃機、Ju-87スツーカ)、イギリス海軍駆逐艦が出てくるが、いずれも記録映像と思われる。実際のダンケルク撤退時の映像と思われるシーンも見られる。なお、艦船沈没シーンは「怒りの海(1953)」からの流用だ。 ドイツ軍の機甲師団が迫ってくる設定場面もあるが、ティーガー戦車などの映像は多分一度もなかったように思う。着弾シーンは比較的力が入ってはいたものの、戦場のリアル感という意味では減点要素だ。 全般に、起承転結に乏しく、映画としての完成度はさほど高くはないが、英軍及び民間人視点でのダンケルク撤退戦という題材はレアであり、貴重な映画であることは間違いない。興奮度★★★沈痛度★★★★爽快度★★★感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1940年のロンドン、軍情報省。新聞記者のチャールズ・フォアマンはヨーロッパのドイツ軍情勢に耳を傾けているが、オランダ、ベルギー、フランス方面の情報なしという英軍の見通しの甘さに疑問を感じている。国境線には50万にも及びドイツ軍が待機しているはずであり、情報と対策が練られていないことに不安を感じる。国民もまたドイツの放送を嘘と信じ、ドイツは攻めてこないものと思っている。 バーで、フォアマンは企業家のホールデン氏と会話し、ホールデン氏は軍服のバックル納入による戦時特需を喜んでいた。この話しをそばで聞いていた傷痍軍人はホールデン氏の言葉に激怒し、フォアマン夫妻はこの状況を思案する。 ついにドイツ軍が電撃戦を開始し、ベルギーに侵攻する。Dijle川防衛の任務についていた第13旅団B中隊のランプキン中尉、ビンズ・タビー伍長ら6名の小隊は、橋を爆破したうえでの撤退を命じられる。橋を爆破したランプキン中尉らが戻るとすでに中隊の姿はなかった。トラックが一台待っており、それに乗ろうとした矢先、ドイツ軍爆撃機の襲撃を受ける。この攻撃で運転手とランプキン中尉が戦死。タビー伍長ら5名は仕方なく徒歩であてもなく歩き始める。 途中でベルギー人避難民の一群に出会うが、彼らを助けることは出来なかった。さらに、一台のバイクと出会い、近くに砲兵部隊がいることを聞き、合流することにする。そこで少佐、准尉の指揮下に入りドイツ軍を迎え撃つが、ドイツ軍の砲撃でフレイザー伍長が戦死。それを目撃したバーロウが弱音を吐く。危機を感じた少佐は、タビー伍長らに北に向かって自分の師団に合流するよう命じる。タビー伍長らは陣地を離れると砲兵陣地はスツーカ爆撃機の猛爆を受けて炎上する。 イギリス本土の司令部では、ドイツ軍の侵攻に手を焼き、もはや撤退しかないと判断する。しかもドーバー海峡を渡ってダンケルクから撤退させるには海軍の協力が必要だった。ドーバー海軍司令部ではウェセックス、グレイハウンドらの駆逐艦を呼び寄せ、救出に向かわせる。さらに「ダイナモ作戦」と名付けた救出作戦は、民間所有の船の徴用も開始し、BBC放送で呼びかける。フォアマンはすぐに徴用に応じることを決意し、ホールデン氏にも呼びかけるが、ホールデンは乗り気ではない。だが、結局徴用に応じるため港に赴く。港の海軍指揮所では徴用の理由を教えないため、民間人船主たちは不満を漏らす。そこに、ダンケルクからの撤退兵が到着し、そのやつれた姿を見て船主たちは徴用の理由を理解する。フォアマン氏は海軍士官に船の徴用だけでなく、自分が操縦して参加することを志願する。ホールデン氏も後に続き、多くの船主が危険な任務に従事することとなる。 タビー伍長らは農家に潜伏していたが、ドイツ軍に発見され逃亡するが、デイブが撃たれて死亡。タビーは夜間移動を試みるが、周りにはドイツ兵がうようよしていた。再びドイツ兵に発見されて逃げ、ようやく友軍のトラックに拾われてダンケルクに到達する。ダンケルクでは多くの兵仏兵が滞在しており、船による撤退を待っている。しかし、艦船の絶対数が少ない上、昼間はドイツ軍の爆撃にさらされて沈没する艦船も少なくなかった。タビー伍長らもいったんは船に乗り込むものの、砲撃で炎上し再び陸に戻る羽目に。 海軍のラムゼイ中将は海軍艦船のダンケルク急行を命じ、アイバンフー、インパルシブ、イカルス、ハーベスト、ヘブン、ラパンの駆逐艦を向かわせる。 砂浜ではドイツ軍の度重なる砲撃と航空機攻撃にさらされ、損害を被る。責められる空軍士官はイギリス軍にはたった4戦闘飛行隊しかないのだと呟く。砂浜に設けられた病院には次々に負傷兵が運び込まれるが、軍医は少ない。 フォアマンやホールデンのボートがようやくダンケルクに近づき、砂浜にあふれる兵士を見て愕然とする。フォアマンのボートはドイツ軍の爆撃で沈没。ホールデンのボートも故障してしまう。修理の間、フォアマンは砂浜にあがっているが、ドイツ軍の機銃掃射で死亡してしまう。修理の終わったホールデンのボートにはタビー伍長ら20名ほどが乗り込み、イギリスを目指す。だが、途中でエンジン故障となり、漂流しているところを大型船に救われる。タビー伍長らはようやくイギリス本土の土を踏むことが出来た。そしてホールデン氏も誇らしげに上陸するのだった。
2008年10月16日
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2002 イタリア 監督:アルベルト・ネグリン出演者:ルカ・ジンガレッティ、ジェローム・アンガー、アマンダ・サンドレッリほか200分(DVDは前後編) カラー PERLASCA. UN EROE ITALIANO/PERLASCA: THE COURAGE OF A JUST MANポニーキャニオン 戦火の奇跡~ユダヤを救った男~前編 DVD検索「戦火の奇跡」を探す(楽天) 第二次世界大戦時のハンガリーでナチスによるユダヤ人虐殺から多くの命を救ったイタリア人ジョルジョ・ペルラスカを描いたヒューマンドラマ。イタリア製作のテレビムービーで、実話をもとにドラマ化したものののようだ。 ハンガリーのブダペストに駐在していた商社マンのイタリア人ジョルジョ・ペルラスカは実在の人物で、訳あってスペイン領事になりすまして多くのユダヤ人を保護したということだが、映画中のナレーションによれば1990年にTVで取り上げられるまではその存在が世に知られていなかったそうだ。1988年にハンガリーのユダヤ人女性によって、パドヴァで暮らしているのが発見され、一躍脚光を浴びたのだそうだ。1992年に他界するが、イスラエルでは記念樹が植えられている。「シンドラーのリスト」のオスカー・シンドラー、「日本のシンドラー杉原千畝物語六千人の命のビザ」の杉原千畝と並ぶ、ユダヤ人救出劇のイタリア版ということだ。 戦時下のハンガリーはドイツの圧迫を受けて枢軸国側につき、「矢十字党」という反ユダヤファシズムによってユダヤ人迫害が実行されていた。ドイツナチ党のハーケンクロイツに似た矢十字のマークが印象的である。政権を取った矢十字党は、駐留するドイツ軍とともにソヴィエトを初めとする連合軍と戦い、 1944年12月にはソヴィエト軍による包囲「ブダペストの戦い」を迎えることとなる。映画中でも冷酷極まりない矢十字党は戦後戦犯として裁かれている。 興味深いのは当時の国際情勢で、ハンガリーという国でドイツ人、イタリア人、スペイン人、ユダヤ人の置かれた環境の推移である。スペインは過去のスペイン内戦でドイツの支援を受けており、ファシズムという基盤によって友好関係を保っている。しかし中立的態度を保つスペインに対し、ドイツは次第にいらだちを際だたせていくのだ。イタリアは枢軸国であったが、本作の舞台となる1944年12月頃にはすでに連合国に下っており、ドイツ人にとって決して友好的ではない。実際に本作でもペルラスカは矢十字党によって指名手配されており、追われる立場なのだ。だが、ペルラスカはスペイン内戦時にフランコ軍に義勇兵として参戦しており、スペインはこの時の功績から彼にスペイン市民権を与えることとなる。ユダヤ人はハンガリーにおいても矢十字党によってゲットー隔離、強制労働を強いられるのだが、もともと矢十字党はさほど反ユダヤではなかったらしい。ナチ党による影響が強かったということだろう。 ペルラスカはスペイン市民権を得て、スペイン大使館領事のふりをするのだが、ユダヤ人に保護証明書を発行してスペイン大使館領内に匿うことでユダヤ人の命を救う。その根拠となるのが1924年にスペイン法律で可決されたリビエラ法によるセファルディ(スペイン系ユダヤ人)を国民と認めるというものであった。 戦後ハンガリーはソヴィエトによって占領されるが、このように国の違いによって振り回される戦時下の人々が良く描かれている。 ペルラスカは一世一代の大嘘で自身の身とユダヤ人の命を救っていくのだが、本作ではユダヤ人保護、2名の子供保護、ゲットー虐殺の回避などがエピソードとして描かれており、どこまでが事実で脚色があるのかどうかはわからない。ただ、2名の子供を救出した場面で会った人物が悪名高きアイヒマンであったことは事実のようだ。 200分の作品でやや冗長ではあるけれど、これだけ多くのエピソードを盛り込であるのだから仕方ない。ストーリーも常に手に汗握る展開で最後まで飽きさせない。終盤の展開が早く、やや浅い作りとなってしまい、感動がちょっと薄れてしまうのが残念だが、あえてヒーローに仕立て上げないという意図があったのだろうか。 また、ペルラスカの大嘘つきシーンの設定がちょっと甘いのももったいない。テレビムービだから仕方ないのかも知れないが、ドイツ軍将校や矢十字党員をそんなに簡単に騙せるのだろうか。もう少し捻りがあっても良かったかな。 登場人物も多く、映像にもスケール感があったのは良い。 全体にイタリア人気質ぽく、明るく脳天気に展開する作品だ。もちろん、明るく楽しめるような場面ばかりではなく、見るに堪えない場面も多いのだが、最終的にはそう感じさせないのはさすがイタリアといったところだろうか。ペルラスカの決まり文句「あなたはハンガリーで一番美しい」はやっぱりイタリア人(笑)。 個人的には途中で保護した口のきけなくなった男の子ベンがとてもかわいかった。手の仕草や表情が実にかわいい。興奮度★★沈痛度★★★★爽快度★★★★感涙度★★★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1944年のハンガリー、ブダペスト。牛の輸入をてがけるイタリア人ジョルジョ・ペルラスカは裏切り者としてハンガリーの政権矢十字党から追われる立場だった。イタリアに残してきた妻子のもとに帰るため列車に乗り込もうとするが、軍の少佐に見つかってしまう。少佐に金を渡して見逃して貰おうとするが、任務に忠実な少佐は認めない。だが、その時に空襲が始まりペルラスカは逃げ延びる。 ペルラスカは偽造した帰国許可証を貰うため、ドブリッチ将軍のパーティーに赴く。だがそこにドイツ軍のブライマーSS大尉がやってきて裏切り者を逮捕していく。ドブリッチ将軍も自殺する。ペルラスカはハンガリー人の伯爵夫人によって急場を助けられる。 伯爵夫人の紹介でパヨル病院のバラシュ医師を訪ねたペルラスカは伝染隔離病棟に案内される。そこには匿われた多くのユダヤ人がいた。だが、病院にもブライマーSS大尉が捜索に訪れ、危機を感じたペルラスカとユダヤ人は病院からの逃亡を図る。しかし、それはブライマー大尉の策略で、多くのユダヤ人が殺され、逮捕される。ペルラスカはユダヤ人女性マグダとその娘リリーと建物に潜む。ペルラスカは思いついて自身の会社の友人に鞄を持ってきてもらう。そこには彼がかつてスペイン内戦に参加した際のフランコ将軍からの感謝状が入っていた。 ペルラスカはスペイン大使館に赴き、大使に保護を申し出る。感謝状を見た大使はペルラスカにスペイン市民権を与え、ユダヤ人のマグダとリリーの保護も了承する。実は、大使館の弁護士も事務員も皆ユダヤ人で、大使館所有の建物内にはすでに多くのユダヤ人が保護されていたのだ。同様にスウェーデン、ポルトガル、スイスの大使館もユダヤ人を保護していた。 スペイン大使館所有家屋には多くのユダヤ人がいたが不良少年もおり、ペルラスカはそれを退治する。だが、目を離した隙に矢十字党が侵入し、ユダヤ人を連行してしまう。リリーだけが残されていた。ペルラスカはすぐに貨物駅に赴き、担当のドイツ軍SS中尉と金を積んで交渉する。その結果、リストに掲載されたユダヤ人を取り戻すことに成功し、さらにリスト外のユダヤ人もできるだけ連れ出すことに成功する。しかし、リリーの母親マグダの姿がなかった。ゲットーにも赴き救出するがそこにもいない。結局強制労働収容所イシュトバンコートにいることが判明し、そこでも会社の金をはたいてマグダらの救出に成功する。しかし、すでに何人ものユダヤ人が殺されていた。 再び大使館に戻ったユダヤ人たちだったが、スペイン政府は大使館の閉鎖を決定。大使はスイスに移転することとなる。残されたユダヤ人を守るため、ペルラスカは勝手に信任状を作成し、スペイン領事になりすます。矢十字党はユダヤ人を連行しにくるが、ペルラスカはそれを追い返す。しかし、矢十字党の司令官パイナと面会している最中にユダヤ人は強制連行されてしまう。ペルラスカはパイナに取り入って、なんとかセファルディ(スペイン系ユダヤ人)の保護の約束を取り付け、再びユダヤ人はスペイン大使館に戻ることが出来る。 ペルラスカはスウェーデン大使館から連行されるユダヤ人の子供の列に出会う。そこで、強引に二人の子供を救出するが、そこで出会った男はアイヒマンだった。 ペルラスカはさらにユダヤ人を救うため保護証明書を5,000通も作成する。そこにスイスに移転したスペイン大使からペルラスカの通行許可証が届く。帰国に揺れ動くペルラスカだったが、結局ハンガリーに残ることを決心する。 戦局が悪化し、ブダペストはソヴィエト軍に包囲される。ペルラスカは6,000人のユダヤ人をスイスに逃がすことを計画。伯爵夫人の所有する列車を借りようとするが、すでに撤退しようとするブライマーSS大尉によって接収されていた。その頃、矢十字党員が大挙してスペイン大使館の家屋に潜入し、マグダやリリーら数名だけはなんとか逃げることに成功するが、残る全員を連行してしまう。ペルラスカは軍の少佐に助けを求めようとするが、途中の空襲で運転手の少年が大怪我を負う。ようやく少佐を連れてくるが、連行された大人たちは皆銃殺されてしまったあとだった。唯一エバだけが助かった。さらに少佐から矢十字党がゲットーユダヤ人の焼き討ちを計画していることを知らされる。 ペルラスカはゲットーのラビに蜂起を促したうえで、矢十字党のパイナ司令官と敗色強いハンガリーからの逃亡用通行許可証と引き換えにゲットー虐殺計画の撤回を取り付ける。スイスのスペイン大使もペルラスカの嘘に口裏を合わせてくれる。 ゲットーの虐殺は撤回され7万人のユダヤ人の命が救われる。ブダペストにはソヴィエト軍が侵入し、ブライマーSS大尉をはじめ矢十字党のメンバーが絞首刑にさらされる。ユダヤ人は元の家に戻り、ペルラスカはスペイン大使館を閉鎖しイタリア人に戻る。だが、生き残った罪の意識にさいなまれるユダヤ人弁護士だけは大使館に居残り、ソヴィエト兵に殺されてしまう。 ペルラスカは貨物列車に乗って帰国しようとするが、そこでまた軍の少佐に見つかってしまう。だが、今度は快く見逃してくれるのだった。そして彼に助けられたユダヤ人が見送りに来る。
2008年10月10日
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1948 アメリカ 監督:サム・ウッド出演者:クラーク・ゲイブル、ウオルター・ビジョン、ヴァン・ジョンソン、チャールズ・ビッグフォード ほか111分 モノクロ COMMAND DECISION戦略爆撃指令 特別版 DVD検索「戦略爆撃指令」を探す(楽天) 第二次世界大戦時の米軍によるドイツ昼間爆撃作戦を題材に、指揮官とパイロットらの確執を描いたヒューマンドラマ。アクション系かヒーロー系の映画かと思ったが、思いのほかシリアスで重い内容となっている。 実際、イギリス本土に駐留した米軍航空部隊はドイツ空爆の任務につくが、英軍は夜間爆撃、米軍は危険な昼間爆撃を担当することとなる。しかも足の短い連合軍の戦闘機の護衛範囲は限られており、その結果多くの爆撃機が対空砲火やドイツ軍戦闘機の犠牲となっている。 本作は、その多大な犠牲を払ったB-17フライングフォートレス爆撃機によるドイツへの空爆作戦を描いており、独軍の最新鋭戦闘機(Me262?)製造工場破壊のミッション「ステッチ作戦」を実行するが、爆撃機100機、搭乗員1,000名にも及ぶ甚大な犠牲を払うこととなる。この無謀ともいえる作戦を指揮する司令官とその上官や部下との確執がメインとなっているのだが、作戦実行の是非や、指揮官の苦悩や宿命が如実に描かれている。 損害率20%超えという決死の爆撃任務に就くパイロット達の恐怖と心情もさることながら、部下の兵を死に追いやる命令を下さざるを得ない指揮官の苦悩が苦しい。戦争の不条理とはいえ、大を救うために小の犠牲を止むなしとするのは人としても辛いことである。だが、誰かがやらねばならない宿命でもあるのだろう。 また、本作で興味深いのは作戦の実施に影響を与えるのは現場の人間だけではなく、本国の議員たち、そして国家予算、さらにはマスメディアであることも描かれている点だ。戦争に勝利するためには、現場の将軍は嘘をついてでも議員対策や予算取りにも腐心しなければならないのだ。そのためには従軍記者への広報活動も重要な任務であり、虚偽の報告や隠蔽工作もやらねばならない。最近の日本に於いても防衛省の事故や過失の隠蔽体質等が指摘され問題となっているが、現場の士気や作戦行動の成否を主眼に考えるとすれば、軍という存在そのものが大きな矛盾を抱えていることを考えさせられるのだ。国家の勝利という大義を取るのか、個々の正義を取るのか、いつの時代であっても解決できないジレンマがあるのだ。 ストーリーとしては、各人の個性が良く出ていて面白いのだが、やや戦時中のプロパガンダ映画のような編集の稚拙さを感じ、登場人物の設定や説明がわかりにくいのが残念。モノクロ映像というのもあるが、淡々とした流れのため盛り上がりに欠けてしまっている。エンディングに向けてもいささか尻切れ的な感じもした。軍への風刺的内容も含んでいるだけに、製作が難しいタイプの映画だとは思うが、もう少しヒーローチックにしても良かったかなと思う。 本作に登場する爆撃機はB-17爆撃機で、記録映像と実機の実写が用いられているようだ。制作年代が戦後間もないので映像からはなかなか区別しにくいが、尾翼のマーキングは様々なものが見られ、色々な資料映像を切り貼りしていることが想像される。また、空中での映像は一部模型が用いられているが、機内からの映像はなかなかリアルで秀逸。 パイロットが負傷し、爆撃手が応急に操舵して着陸するシーンは見物。ふらつくB-17の飛行映像は手に汗握る。 なお、登場する爆撃隊だが勲章を授与されたパイロットが第32爆撃飛行隊と言っていることから、第15航空軍の第301爆撃航空群あたりをモチーフにしているのかな。主人公の准将は群司令官といったところで、上司の少将は航空団司令官かな。ただ、たかだか航空群司令官ごときで爆撃作戦を決定しているのはちょっとおかしいかも。 内容的にはさほど盛り上がらず、特に面白いと言う映画ではないが、米英軍のドイツ空爆作戦を取り上げた映画が幾多もある中で、作戦実行の裏舞台に主眼をおいた作品という意味では貴重なものと言える。なお、同じB-17を扱った作品「頭上の敵機(1949米)」とセットで見るとよりいいかもしれない。興奮度★★沈痛度★★★★爽快度★★感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1943 年のロンドン。英情報省ではドイツ本土爆撃作戦に関する記者相手の広報が行われていた。ブロックハースト記者は、夜間爆撃のイギリス軍にくらべ昼間爆撃のアメリカ軍は戦果が大きいが、被害も大きいことに懸念を抱いていた。爆撃隊の指揮官で「鉄の男」と称されるケイシー・デニス准将の無謀な作戦が原因ではないかと疑っている。 爆撃隊指揮官のデニス准将はドイツの工業地帯を壊滅させるため、連日の出撃を命じ、パイロットたちは全く休暇が与えられていなかった。そんな中ジェンクス大尉が任務拒否し、謹慎処分に処す。デニス准将の上司ケイン少将は爆撃作戦の成果に喜ぶものの、議員らによる軍事委員会の視察を目前に控え、損失を少なくするようデニス准将に命じる。しかし、天候の具合からデニス准将が目論む工場地帯爆撃は議員視察とちょうど重なってしまう。作戦決行に反対するケイン少将を説得するため、ついにデニス准将は作戦の目的がドイツ軍の最新鋭戦闘機LW1生産工場破壊「ステッチ作戦」であることを明かす。ケイン少将は本国の許可も得ずに勝手に作戦を実施したことに怒る。そこに、デニス准将の旧友ガーネット准将がやってくる。デニス准将は自分の後任ではないかと疑う。 それでも、ステッチ作戦は実施される。爆撃は成功するものの、出撃36機中11機しか帰還できなかった。全体では52機の損失だった。さらに、パイロットが負傷し爆撃手が操縦する機体はデニス准将の指示で着陸するものの最後に爆発してしまう。 ところが、帰還したテッド大佐によって爆撃地点が間違いで魚雷工場であったことが判明。海軍に恩が売れると言う声もあったが、作戦実施の代償は余りに大きかった。作戦続行を主張するデニス准将だが、ケイン少将は議員団が来ることを心配し、継続をためらう。情報将校のランシング少佐は決行を主張する。また、ブロックハースト記者がステッチ作戦に感づき、ステッチ作戦についてを明かさざるを得なくなる。だが、ケイン少将は作戦の中止を命じる。 議員団がやってくるが、新たな問題としてマルコム議員の甥であるジェンクス大尉が謹慎処分となっていた。デニス准将は作戦決行の代償にジェンクス大尉を視察団の案内役として謹慎を解き勲章を与えることをケイン少将に進言する。やむなくケイン少将はステッチ作戦決行を認める。 議員団の目の前で爆撃隊が出撃していく。爆撃は成功するがテッド大佐の機は炎上してしまう。1,000名の搭乗員の命が失われたことを責めるマルコム議員。デニス准将は気落ちする。その姿を見て甥のジェンクス大尉はマルコム議員を叱責する。 ケイン少将はデニス准将を解任せざるを得ず、後任にガーネット准将をあてる。ガーネット准将は作戦の中止を決めるが、部下のエバンス三等軍曹らがデニス准将を慕っていくのを見て、ステッチ作戦の継続を決める。本国帰還の挨拶にきたデニス准将は「兵の心情を思いやるのはやめた。上に立つものの宿命だ」と言う。そこに、デニス准将宛の命令書が届く。左遷と思っていたデニスは、思いがけずB-29爆撃隊の総司令官として着任することとなる。ステッチ作戦の実施は評価されていたのだった。
2008年10月08日
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1965 イギリス 監督:シドニー・ルメット 出演者:ショーン・コネリー、ハリー・アンドリュース ほか 126分 モノクロ THE HILL丘 特別版 / ショーン・コネリー DVD検索「丘」を探す(楽天) 第二次世界大戦時のアフリカ戦線におけるイギリス陸軍刑務所を舞台にした、社会派ドラマ。軍の上官命令絶対服従的矛盾と刑務所での看守と受刑者の虐待を題材に、人間の本性と愚かさを風刺したシリアスものとなっている。単に告発的な展開のみならず、サスペンス的なドキドキ感も交えているため、映画としての完成度も高い。 映画は北アフリカ戦線の設定だが、刑務所内だけの映像で戦争映画的なドンパチや兵器類の登場は全くない。題名の「丘」とは刑務所内に設けられた訓練という名の虐待用の砂丘で、この丘を完全装備で繰り返し上り下りさせることで看守たちは囚人兵を痛めつけていくのだ。 看守のリーダー的存在はウイルソン特務曹長(一等准尉?)で、ウイルソンに盲目的なウイリアムズ上級軍曹が、入所してきた元曹長のロバーツら5名の囚人兵を目の敵にしていくのだが、その虐待の過程は生やさしいものではない。人を人として扱わない虐待は軍隊ならではの過酷さではあるが、現社会における特権者と非特権者のいじめや暴力沙汰に通じるものがある。特権者は虐待することに生き甲斐を感じ、その理由を超えて止められなくなる快感が生まれる。本作においても、前線勤務者に対する後方勤務の看守の後ろめたさを発端に、虐待はエスカレートしていく。 ショーン・コネリー扮するロバート曹長は虐待に抵抗していくのだが、唯一の正義漢看守ハリスの存在が大きい。いじめや虐待に立ち向かうにはこうした味方の存在が重要だ。 ラストシーンは視聴者に考えさせる終わり方だ。決してハッピーエンドではない結末は、人間の性を表してもいるのだろう。 役者は個性派が揃っており、硬派風のショーン・コネリーを始め、陽気な黒人、ひ弱な兵など性格付けがしっかりしていて良い。それぞれが役割をきちんと持っており、最後までそれを裏切らない行動が見ていて爽快感を感じる。 全体によくまとまった完成度の高い映画だと言えるが、やや重いテーマであるが故に気軽に見ることが出来るものではないかもしれない。 興奮度★★★ 沈痛度★★★ 爽快度★★ 感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 北アフリカのイギリス陸軍刑務所。看守リーダーのバート・ウイルソン特務曹長は刑務所の主的存在で、彼の作り上げた丘は囚人たちの恐怖の的であった。そこに憲兵を3名襲撃した罪のマクグラス、ウイスキー3本を盗んだキング(黒人)、妻恋しさに無断離隊したスティーブンス、タイヤを盗んだバートレット、上官を殴ったロバーツ曹長の5名が入所してくる。 ウイルソン特務曹長は新人のウイリアムズ軍曹を5名の指導看守にあて、ウイリアムズ軍曹は早速ロバーツを目の敵にする。ロバーツらは早くの丘の上り下りをさせられ、ロバーツは食事すら与えられない。マクグラスはロバーツのとばっちりだと喧嘩をふっかける。ウイリアムズは再び5名を丘登りさせ、スティーブンスが倒れてしまう。これを見た看守のハリス軍曹はウイルソンにやりすぎだと告発するが、とりあわない。 司令官の観閲整列のさいにスティーブンスの装備が汚れていることがバレ、スティーブンスは罰則を受ける。ウイリアムズ軍曹にしごかれたスティーブンスは精神がおかしくなる。ロバーツらはハリス軍曹を頼って軍医大尉にスティーブンスの治療を頼むが、ウイルソン特務曹長はそれを認めない。スティーブンスはそのまま死んでしまう。 ウイルソン特務曹長は軍医大尉を脅してこれを事故死扱いにしたてあげる。 ロバーツはスティーブンスの死がウイリアムズ軍曹のせいだとして、司令官に実情を訴えることを決意する。また、監獄ではスティーブンスの名を連呼して囚人たちが騒ぎを起こす。そしてロバートとキングは司令官の面会を要求する。ハリスの計らいでウイルソン特務曹長は司令官への面会を認めざるを得なくなる。しかし、ウイルソンはハリスを降格処分にする。 司令官への面会を約束されたはずだが、ロバーツはウイリアムズ軍曹によって大怪我を負わされてしまう。ハリスはロバーツを医務室に連れて行くが、ウイルソン特務曹長によって再び阻止され、怪我はマクグラスのせいにしてしまう。 代わりにキングが司令官の元に行くが、軍を辞めたと大騒ぎして変人扱いされる。房に戻るとロバーツが軍医大尉によって治療を受けていた。そこにウイリアムズ軍曹とウイルソン特務曹長が来るが、ロバート、キング、マクグラスから真実を聞かされた軍医大尉は、今度は特務曹長の言い分を聞かなかった。ウイルソン特務曹長は「ここでは全て私の言いなりだ。こんなこと25年間初めてだ。」と愕然とする。ついにロバートらが勝った瞬間だった。 取り残されたウイリアムズ軍曹にキングとマクグラスが飛びかかって殴りかかる。ロバーツは慌てて制止する。「台無しだ」。
2008年10月06日
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1945 アメリカ 監督:マーヴィン・ルロイ 出演者:スペンサー・トレイシー、ヴァン・ジョンソン、ロバート・ミッチャム ほか 138分 モノクロ THIRTY SECOND OVER TOKYO東京上空三十秒 特別版(期間限定)(DVD) ◆20%OFF! DVD検索「東京上空三十秒」を探す(楽天) 真珠湾攻撃に対する報復として、アメリカ軍が初めて行った「ドゥーリトル爆撃隊」による東京空襲を描いたドキュメンタリー風ドラマ。 ドゥーリトル日本空襲は1942年4月18日に、日本近海に進出した空母ホーネットから発艦した16機のB-25爆撃機によって行われた。大型爆撃機の空母発艦という無謀ともいえる計画だったが、良く訓練されたドゥーリトル中佐に率いられた爆撃機は東京、川崎、横須賀、名古屋を爆撃し、そのまま中国に向けて抜けた。この爆撃で日本は50人の死者を出し、うち1名は無差別機銃掃射による小学生と言われる。爆撃機はいづれも中国に不時着するも、8名が日本軍の捕虜となり、将校は戦犯容疑で処刑されている。 本作は片脚を失いながらもアメリカに帰還したテッド・ローソン中尉を主人公に仕立てあげられており、作戦遂行シーンだけでなく、ローソン中尉夫妻等のメロドラマが加えられている。 戦争末期とはいえ、戦時中に製作された作品であり、多分に戦意高揚的意図が見える。実機の爆撃機を用いたアクションシーンも多く、全般的に爆撃隊員の活躍を称賛する雰囲気が強い。 だが、興味深いのは、すでに戦勝を意識しているのだろうか、それまでのプロパガンダ映画のような日本憎悪一本槍でなく、爆撃隊員が日本人を嫌いではないと言ったり、日本人に哀れみさえかけているようにも見える。アメリカ映画特有のメロドラマが多分に取り込まれている点も、日本兵がほとんど登場しないのも、もはやこの戦争に勝ったという余裕すら感じさせるのだ。また、焼夷弾や爆弾を投下するのだが、指揮官は「一般市民を巻き添えで殺すことはやむを得ない。道徳心に責められるな。」と言っており、すでに市民巻き添えの意識が強くあることがわかる。 全般的には、ストーリーも編集もさほど特筆することもなく、古臭いイメージの映画。戦時プロパガンダに商業ベースを無理やり突っ込んだような感じで、日本人にとっては面白くないかも。 ただ、映像的にはなかなか凝っており、飛行シーン等には合成映像が当時にしては上手に用いられている。また実機も多数登場し、空母ホーネットやその発艦シーンもある。ホーネットはこの年の10月に沈没しているので、貴重な記録フィルムでもある。空母に吊り上げられるB-25もレアだが、圧巻なのは、離陸訓練のシーンで尻餅をつくB-25の映像。実際にわざと尻餅をつかせて撮影させたのだろうか、さすが戦時中だけのことはある。また、登場するパイロット役がA-2フライトジャケットを着用しているのもリアルだ。 東京空襲シーンは東京らしくはないが、ミニチュアと思われる立ち並ぶ家々が爆破されていくのはなかなか秀逸。この他実写も取り入れられており、オークランドで撮影されたそうだ。黒煙をあげる工場が一瞬写るが、これは実際の石油基地の火災現場を偶然撮影したのだそうだ。 全体に特筆する内容でもないが、日本人にとっては屈辱の本土空襲の緒戦の歴史を知る上では貴重な映画ではある。 興奮度★★★ 沈痛度★★★ 爽快度★★ 感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 真珠湾攻撃から131日後、アメリカ軍は爆撃機B-25による日本本土空襲を計画した。指揮官はドゥーリトル中佐で、B-25爆撃機24機と志願パイロットが集められたが、その作戦内容は極秘扱いで何も知らされていなかった。陸軍パイロットのテッド・ローソン中尉は新婚だったが、危険な任務と聞かされていたにも関わらず志願した。この他、ディーン・ダベンポート中尉、チャールズ・マクレア中尉、ボブ・グレイ中尉、ヤコブ・ショーティ・マンク中尉、ランドール中尉、スミス中尉、ホルストロム中尉らがいた。彼らは海軍のミラー大尉の指導のもと、短距離離陸の訓練を受ける。エンジン出力を最高にし、一気に操舵を引き上げることで彼らは空母からの離陸が可能になった。 ローソン中尉の妻エレンは妊娠していた。危険な任務と知りながらもローソンは辞退せず、エレンもまた夫の無事帰還を祈るのだった。 いよいよ出撃の日が来る。ローソン中尉らは空母ホーネットに乗艦する。広い空母のなかは迷路のようで、お客様気分を味わうのだった。そこで、初めて今回の作戦を聞かされる。空母から発艦した爆撃機は日本を空襲した後、中国の常州まで飛んで着陸することとなっていた。身を守るために、日本には不時着しないことが重要と聞かされる。 本来は夜間出撃の予定であったが、日本近海で日本の監視艇に発見され、急遽昼間爆撃に切り替わって出撃する。飛び立った16機のB-25は東京、横浜、名古屋等に飛来し、爆撃を行う。 テッド・ローソン中尉の機は無事に爆撃任務を完了するが、燃料切れで中国大陸沿岸に不時着する。その衝撃でローソン中尉が足に甚大な傷を負う。彼のクルー5名は、中国人住民チャーリーらに助けられるが、医者がいるところまでは距離が遠かった。なんとかチュン医師のところまで搬送されるが、麻酔薬もないためになかなか治療ができない。そこに、やはり不時着した他機に搭乗していたスミス中尉がやってきて、ローソン中尉は足を切断手術する。 その後、ローソン中尉らは米軍輸送機により本国に戻ることが出来たが、片足を失ったショックから妻に会う気が起きなかった。しかし、昇進したドゥーリトル准将に計らいで妻と再会を果たすのだった。
2008年09月27日
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