カテゴリ未分類 0
全101件 (101件中 1-50件目)
栃木県佐野市東石美術館の企画展、秋の夕暮れを観て来ました。前回の風薫るに続くオープン記念展です。風薫るの記事はこちら。【秋の幅広さを感じさせる企画展】今回のテーマは秋なのですが、様々な作品が展示されていました。秋の風景を描いた絵はもちろんのこと、赤とんぼや栗の彫刻などがありました。風景画にしても紅葉が美しいものもあれば、稲の収穫に忙しい農村の様子を描いたものもありました。一言に秋と言っても、色々なとらえ方があるなと感じた企画展でした。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2024.09.15
コメント(0)
栃木県足利市立美術館の企画展、相田みつを展を観て来ました。「にんげんだもの」で有名な相田みつをですが、今年で生誕100年を記念した企画展です。【唯一無二の芸術性】相田みつをは当初書家を目指していました。それと並んでろうけつ染めを習得し、地元足利の店などに書やろうけつ染めを提供していました。やがて独特な書体でシンプルな詩を描くという、他に例を見ない作風にたどり着きました。相田さんと懇意にしていた麺処なか川や、和菓子店香雲堂など、足利の店では相田さんのデザインしたものが今でも使われています。飽きの来ないデザインが愛される理由なのかなと思いました。撮影可能なスペースがありました。古印最中で有名な香雲堂の包装紙のデザインもありました。【複雑な内面を伺える企画展】本展では多くの作品に対して、息子である相田一人さんのコメントが添えられています。間近でみつをさんを見ていた息子ならではのコメントが興味深かったです。相田みつをというとシンプルな言葉による作品が多い印象がありますが、その内面はとても複雑だったと語っていました。ひらがなで書かれた作品が多いですが、カタカナや漢字を随所に使うことにより作品にメリハリやリズムが生まれるように意識していたようです。相田さんは天衣無縫な作風だと思っていたのですが、実際は綿密に考えられていたのですね。【穏やかに真理を突く作品】相田さんは在家であるものの仏教に帰依していたそうです。それもあるのか、相田さんの詩には穏やかな言葉でありながら世の真理を突いた言葉が多いように思います。一人さんのコメントによると、鑑賞者が本展で一つだけ心に残すとしたら「うつくしいものを美しいと思えるあなたのこころがうつくしい」という詩を残して欲しいとありました。これは詩の言葉通りの意味もあるのですが、美しいものがわかる心を持つというのは、逆に犯罪や戦争など美しくないものを感じ取る心を持っているということなのだそうです。第三者の考察ではなく、作者の思いに直接触れられたのが良かったです。個人的には「ただ」という作品「花には人間のようなかけひきがないからいい ただ咲いて ただ散ってゆくからいい ただになれない人間のわたし」が好きです。生誕100年を記念するだけあって、有名な作品だけでなく書家としての作品や初期の作品など、幅広い作品を大ボリュームで味わえる企画展になっています。息子さんのコメントもみつをさんの息吹を感じられて良かったです。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2024.08.11
コメント(0)
群馬県立館林美術館 大森暁生展を観て来ました。2014年に同美術館で開催された企画展でも大森さんの作品が展示されていて、今回また観てみたいと思い行ってみました。【霊気を掘り出す彫刻家】大森暁生氏は動物を主なモチーフとして、写実的でありながら幻想的な作品を生み出す彫刻家です。パンフレット裏面です。鏡から体が半分出ている動物を表現した「frameシリーズ」(上段左)や、角や棘を生やした動物の作品が目を引きます。他にもファッションブランドとのコラボ作品なども展示されています。【反骨の彫刻家】本展では作品だけでなく、大森氏の言葉も随所に展示されています。その言葉を見ると、だいぶストイックに創作へ取り組んでいるように感じました。安易な安定に落ち着かず、常に自分を追い込んでいく姿はまさに求道者ですね。また、近年の芸術界における複雑な作品に複雑な解釈を乗せることを良しとする風潮に違和感を感じていたそうです。ファッションブランドからコラボの依頼があった時「カッコイイから」というシンプルな理由で評価するファッション業界に新鮮さを感じたとも書いてありました。芸術という明確な物差しが無い世界であるため、反骨精神ともいえるその姿勢は印象的でした。【命を描く】いくつかのコーナーの中で印象深かったのが、熊本県動物愛護センターを取材して作った作品たちです。日本で殺処分される犬や猫は年間30万匹と言われています。動物愛護センターとは名ばかりの「処分場」で、多くの命が処理されています。そんな中熊本県動物愛護センターでは殺処分ゼロに取り組んでおり、ほぼゼロを達成しています。大森氏がそのセンターを取材した写真も展示されていました。場所が場所だけに、訳ありの動物が多くいるようでした。人に怯えて近づこうとしなかったり、怪我や病気で体が不自由であったり、そうした環境でも人懐っこくて明るいものなど様々です。そうしたものたちに正面から向き合ってはじめて「モチーフにすることを許される」という大森氏の言葉が印象的でした。こうしたテーマを扱う時にありがちなお涙頂戴や感動ポルノにしないという大森氏の姿勢も素敵でした。この作品たちは目に力を感じました。悲しみや苦しみだけでなく、過酷な境遇を生き抜いていくふてぶてしいまでの強さも内包しています。【作品集等】大森暁生氏の作品集も紹介されていました。木端と言端 彫刻家の作品と言葉 / 大森暁生 【本】最新の書籍です。作品だけでなく大森氏の言葉も多く掲載されています。本展で展示されている言葉はこの本から取っているものが多いようです。しあわせな彫刻 大森暁生作品写真集/大森暁生/芸術新聞社【1000円以上送料無料】大森氏が自分の作品を買った人の家を訪ねて対話するという作品集です。面白い趣向の作品集だと思います。幻触 彫刻家大森暁生 大森暁生/著掲載作品が多く、広く楽しめる作品集です。これらの作品集は美術館でも購入できます。幻想的な作品だけでなく、創作に取り組む作者の姿勢も感じられる企画展でした。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2024.07.28
コメント(0)
とちぎ花センターの企画展、雑草たべてみた展を観てきました。コケと植物展と同時開催されています。コケと植物展の記事はこちら。入るといきなり草食いの心得が。やっぱりむやみに食べない方が良いのですね(笑)。フローチャートがありました。これで自分にあった草が見つけられます。吾輩にお勧めはスベリヒユでした。雑草をあまり食べたくない人におすすめって……さらには雑草レシピもありました。この写真の他にあと2枚くらいありました。そのうえ一か月分の雑草レシピまでありました。ここまでされると若干気味が悪くなってきました(笑)。そのへんで見られる植物たちが再現されています。わざわざ再現しなくても、そのへんで見かけるような気が……実際にそのへんの草を食べる勇気がない方は、コケ風のプリンも売っています。翔んで埼玉の名セリフ「そのへんの草でも食わせておけ!」。それに乗っかった企画ではありますが、食糧難など何が起こるか分からないこのご時世。雑草食は人類を救う? かもしれません。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2024.06.30
コメント(0)
とちぎ花センターの企画展、コケと植物展を観てきました。新聞で開催のお知らせを見た時は「ふ~ん」くらいに思っていたのですが……このお知らせを見て観に行くのを決意しました。とちぎ花センターさんのエッジのきいたノリ好きだなあ。入場すると指名手配のようにナゾの掲示が。隊員(職員)紹介のようでした。一番印象深い隊員は彼です。思ってたのと違うというのはどこでもありますよね。【驚きの生態!】本展は撮影自由なので、色々写真撮りました。様々なコケの生態に驚きました。木や岩についている小さな植物の総称がコケというのだそうです。シダ植物や菌類もコケと名前がついているものもあるそうです。根はあるけど、一般の植物とは役割が違うんですね。コケはタネではなく胞子で増えるので、受粉のために虫を呼び寄せる必要無く、花は咲かないそうです。なるほど、それもそうかと思ったら、花言葉はあるんですね。花は無いけど匂いはあるのですね。【おまけ】本展と関連して、苔テラリウム作家さんの作品が売っていました。本展に入場するとカフェや花販売コーナーの割引券がもらえるので、先に企画展を見た方がお得です。展示会場が温室であるため冷房はありません。暑さ対策を気を付けてご覧になってください。【次回予告】現在第二企画展として雑草たべてみた展が同時開催されています。こちらの記事は次回掲載します。記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2024.06.23
コメント(0)
栃木県佐野市東石美術館のオープン記念展 -風薫る- を観てきました。【東石美術館リニューアル】東石美術館は今年5月にリニューアルオープンしました。だいぶおしゃれな雰囲気です。イベント等で使える貸しスペースや、建物の上がテラスになっています。まだ工事中の部分もありますが、今後設備も充実してくるでしょう。【風薫る】東石美術館は4つのギャラリーに分かれています。それぞれ暁、白日、春く(うすづく)、宵闇と名付けられ、一日の時の流れを表現しています。今回の企画展風薫るは、初夏を感じさせる作品を集めました。東石美術館は近代美術を中心に収集していることもあり、絵画や焼き物などのジャンルにとらわれずさまざまな作品が展示されていました。「風薫る」とは初夏に吹くさわやかな風のことで、俳句の季語としても使用されています。季節外れの暑さが続いていますが、ふっと心地よい風を感じる企画展です。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2024.06.16
コメント(0)
栃木県立美術館の企画展 高橋由一から黒田清輝へを観てきました。明治時代に日本の洋画壇を切り開き「近代洋画の父」と言われた高橋由一と黒田清輝。ちょうど入れ替わるように活躍した両名。本展は近代洋画における「二人の父」と、二人が活躍した時代を比較した世代交代劇を描いています。【高橋由一】高橋由一は日本に洋画壇の土台を気づいた人物です。高橋由一といえば「鮭図」が有名で、美術の教科書で見た方も多いのではないでしょうか。高橋の絵は食品や風景に関わるものが多いです。写実性の高い洋画の良さを伝えるため、生活の身近にあるものを題材にしたそうです。風景画についても「闇」を表現したものが見られます。日本画にはろうそくを描くなどして間接的に闇を表現しているものの、直接的な闇を描く技術はありませんでした。一方洋画は黒い絵の具を使って闇を描くことができます。当時は日常生活の中でろうそくや提灯を使うことが多く、高橋が描いたような闇が身近にありました。風景画の中に闇を取り入れることで、人々に受け入れられるよう配慮したと思われます。また、高橋は工事に関わる絵も多く描いています。当時は近代化を推し進めるために、各地でインフラ工事が行われていました。工事現場の記録に写真が使われていましたが、当時の写真に比べて洋画の方が鮮明で保存性が高かったそうです。そのためこうした分野でも高橋は積極的に洋画を使うことで、有効性を示そうとしていました。高橋の画業からは、洋画を日本に根付かせようとする努力を感じました。身近なものを題材にしたり洋画の有効性を示すことで、洋画が広まるように尽力しているようでした。【黒田清輝】黒田清輝はフランスで絵を学び、高橋由一が亡くなる前年に帰国しました。重厚な作風が特徴である高橋時代に対して、黒田時代の作風は明るい色合いが特徴です。これは黒田が絵を学んだ欧米で印象派や象徴主義が興っていたことが影響しているようです。洋画を広めるために努力をしていた高橋の時代に比べて、黒田の時代は画家の描きたいものをのびのびと描いているように感じました。とはいえ黒田たちも順風満帆であったわけではありませんでした。当時ヌードは欧米では普通でしたが、日本画壇では風紀を乱すとして厳しい取り締まりがありました。裸婦を描いた絵の下半身に布を巻いて展示することになった「腰巻き事件」なんてものもありました。そのため黒田の代表作「花野(パンフレット右上)」では裸婦を正面から描かず、下半身に布をかけるといった配慮がみられます。本展は近代洋画の二人の父にスポットを当てました。二人の父と言っても、その作風や時代には大きな違いが見られます。こうした対比について解説されているのが面白い企画展でした。本企画展は2024年6月16日まで開催です。美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2024.06.02
コメント(0)
栃木県足利市、アールビバン展示会へ行ってきました。本展は芸術作品を扱う会社アールビバンが主催する展示即売会です。背景絵師の世界展、美樹本晴彦展、mocha展が同時開催されました。【背景絵師の世界展】小説やゲームなどの背景を描く絵師さんの絵が展示されていました。スクエニに勤務していたことがある方の作品もあって、確かにファイナルファンタジーっぽかったです。【美樹本晴彦展】マクロスで有名な美樹本晴彦さんの展示会です。美樹本さんのコメントもあり、CGの登場を黒船と呼んでいたのが印象的でした。絵を描く道具としてペンや筆にCGが加わったのは、イラストレーターにとって大きな変化であったと思います。そうした変化に対応するのも、長く続けていくには重要なんだなあと思いました。【mocha展】mochaさんは風景イラストレーターで、海外でも個展を開いた実績があるそうです。草木と空が一緒に収まるような、広さを感じるアングルが特徴的だと思いました。そんなカメラワークに加えて差し込む光も美しい「自然回帰」や、廃墟から見る風景を幻想的に描いた「四景」が特に美しいと感じました。mocha展は今後も各地を巡回する予定です。ホームページはこちら。自然回帰と四景も見られます。【即売会の脅威】吾輩絵の即売会は初めてでした。そもそも10万円以下の絵が一つも無い。家に絵を飾れるってすごいことなんだなあと思いました。それでも売約済みの札が結構かかってたり、そこかしこで商談が行われていたりと、持ってる人は持ってるのですね。そして取り扱っている作品は全てデジタル作品でした。商談している所ではタブレットで細かい部分を拡大したりしていました。絵というとキャンパスに絵の具みたいな印象がありましたが、こうした新しい流れも生まれているのだなあと刺激を受けた展示会でした。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2023.10.22
コメント(0)
栃木県の佐野市郷土博物館、貝づくしを観て来ました。【身近な生きもの、貝】貝は私たちにとって身近な生き物ですが、詳しいことまで知っている人は少ないのではないでしょうか。貝の定義は貝殻をとおる中心線から左右対称の姿をしている。頭、足、内蔵塊に分かれる。外套膜を持つ。のだそうです。貝殻がほとんど退化しているものの、ナメクジやタコ・イカも貝の仲間なのだそうです。【美しい貝】一口に貝と言っても、貝殻の形や模様は多種多様です。成長の具合や環境によって年輪のようにスジや模様ができるようです。トゲが生えているのは敵から身を守るだけでなく、波の中で体を固定するためらしく、美しさと機能性が両立されていますね。貝で有名なのは真珠ですね。真珠は摂取している炭酸カルシウムと体液が化学反応してできたもので、貝の表面を削っていくと真珠の層が出て来ます。本展でも削る前後の貝殻が展示してありました。貝の形のままの真珠といった感じで面白かったです。【美味しい貝】貝と言えば寿司や吸い物など、色々な形で食卓に上がりますね。本展では食材としての貝も展示してあります。味の感じやおすすめ料理が細かく展示してあって、執念すら感じました(笑)。【とちぎの貝】栃木県、特に佐野市近辺は貝業界にとってアツい地域なのだそうです。葛生の代表される石灰質の土壌が広く分布しています。貝は殻の材料として石灰を摂取するため、石灰質の土地には多様な貝が生息しています。本展の開催にあたって調査が行われ、正式に生息が確認された種なども発見されたそうです。そのほとんどは貝殻が5mm以下と小さいので、調査にも地道さと熱意が必要なのでしょうね。コンパクトにまとまっていながら貝について色々なことを知ることのできる企画展でした。本展は2022年9月4日まで開催です。佐野市郷土博物館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2022.08.28
コメント(0)
栃木県立博物館の企画展、異界を観て来ました。自分たちの住んでいる世界とは違う場所でありながら、全く接点のない場所でもない世界「異界」。本展は異界を4つの章に分けて考察しています。【第1章 どこに】異界はどこにあるのでしょうか?自分たちの住む範囲の外を異界と呼ぶことができるでしょう。現代よりも人の行き来が少なかった時代、違う村ですら異界であったと言えるでしょう。また古来より人が行き交う辻は霊的な場所であったそうで、辻や村の入口には魔除けの品がよく祀ったそうです。霊感の強い人に言わせると、渋谷のスクランブル交差点は霊がたくさんいるそうですが……他にも背中は魂が出入りする場所であり、魔が入ってくる部分なのだそうです。特に生まれたばかりの子どもはまだあの世に近い存在である(死にやすい)ため、着物の背中にお守りを縫い付けたり魔除けの刺繍をしたそうです。暮らしの中でふいに繋がってしまう世界、それが異界だと言えるでしょう。【第2章 いつ】出産や死、季節の節目など、人は折に触れて異界と接します。本章ではそうした生活の中で触れる異界について展示されています。興味深かったのは「厄神送り」でした。藁で編んだお盆のようなものにお供え物を乗せたものです。これをお正月の三が日の間蔵に置き、四日に川に流します。正月には福の神と一緒に疫病神も来るのだそうです。疫病神も正月の間だけはきちんともてなし、その後丁重にお帰り頂くという風習とのことです。人間は日常とふと繋がってしまう異界を認識していて、その力を避けたりもらったりするような習慣が各地にあるようですね。【第3章 存在するもの】人間は異界に存在する者のことを様々に表現して来ました。幽霊や妖怪、あるいは人々を救う神仏。本章ではそうした者たちについて展示されています。中でも「河童が網にかかった」という記録が結構多かったです。河童についてはその生態が妙に詳しく記録されているのが面白いです。いずれにしても河童に類する何者かがいたのでしょうね。栃木で有名な殺生石についても資料が展示されています。【第4章 なぜ】本章では、なぜ異界が存在するのかということを考察しています。それは教育的な意味も大きかったようです。地獄絵図は悪いことをするとこういう目に遭うぞと戒める役割がありました。同時に仏の救いがもたらされるシーンも描かれていて、こうした絵を前に和尚さんが説法をしていたそうです。面白かったのは「疫病神の詫び証文」でした。捕らえられた疫病神が助けてもらう代わりに書いたもので、証文の相手が実在の人物なのが妙なリアリティがありますね。こうしてみると、異界というものは人々の生活に根差したものであると感じました。天災や病気などままならないものが多かったからこそ、人は異界の力に頼ったり、あるいは避けようと色々な手段を講じてきたように思います。では現代は異界は無くなってしまったのでしょうか?そんなことは恐らくないと思われます。むしろインターネットという広大な異界がすぐそばにあるように感じます。SNSでやりとりしている人は素性も分からないことが多く、まさに異界の住人と言ってもいいのかもしれません。本展は2022年6月15日まで開催されています。我々の世界とつかず離れず存在し、ふとした時に繋がってしまう世界。そんな異界の魅力にしばし浸かってみてはいかがでしょうか。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2022.06.12
コメント(0)
栃木県の佐野市郷土博物館の企画展、佐野の近代化と田中正造を観て来ました。【栃木の偉人田中正造】田中正造といえば足尾鉱毒問題に取り組み、明治天皇へ直訴した人物として教科書に載っていると思います。田中は佐野市の名主の家に生まれ、明治政府が行った地租改正に測量スタッフとして参加しました。その後経済発展に賛同し、積極的に援助を行いました。そうして培った人脈を生かして県会議員、衆議院議員になります。さらに栃木新聞(現在の下野新聞)の編集長となって政治活動を行いました。政治活動の中で足尾の鉱毒問題を知り、解決に奔走しました。そして教科書にも載った天皇への直訴を行い、その後没するまで鉱毒の被害の調査を続けました。【佐野の近代化と田中正造】明治時代の日本は伝統産業が近代化するだけでなく新しい産業が興り、さらに身分の制約なく参入できるようになりました。こうした中で急速に近代化が進み、佐野市では石灰業が盛んになり、それに伴って鉄道も整備されました。しかし発展を優先するあまり環境や人々の健康は後回しにされ、渡良瀬川流域は鉱毒の被害が広がって行くことになりました。本展では佐野の近代化を資料とともにたどることができます。また、田中正造の政治家時代の姿も見ることができます。【運命すら感じるその生涯】吾輩が学生の時、歴史の先生が栃木県出身で日本中誰でも知っている人は藤原秀郷と田中正造だけだと言っていました。小学校には田中正造の写真が飾られていました。当時はあまり意識していませんでしたが、今回の常設展示で田中の生涯を見ると、知らないことがたくさんありました。田中は非常に強情な性格であったようで、幼い頃は両親の手を焼かせたそうです。国会議員時代は不正や鉱毒問題について罵詈雑言を使って糾弾するという手法をとっており「栃木にすごいヤツがいるらしい」と話題になったようです。そして天皇への直訴の際は「職責を汚す」として議員を辞し、一般人になった上で行いました。田中は鉱毒の河川調査中に足利で病に没します。病床に臥せっている時も看護師に「皆田中が病気になったと心配しているが、私が取り組んでいる問題の心配をしている者はいない。君は帰っていいから田中がそう言っていたと皆に伝えてくれ」といったことを言ったそうです。こうした彼の言動に、武士のごとき意志の強さを感じました。田中の生涯について資料を見ると、運命のようなものを感じました。政治家という一般時よりも発信力のある仕事をしていたからこそ、鉱毒問題を多くの人が知る所となったと思われます。経済発展を優先する当時の風潮では、こうした問題に物申すのは勇気がいる行為であったでしょう。天皇への直訴といい、強情とも言える意志の強さがあったからこそこうしたことができたのでしょう。直訴後も渡良瀬川流域の河川調査を精力的に行い、しっかりとしたデータを元に政府への改善を要望しようとしていたそうです。感情論に走らないエビデンスに基づいた活動によって問題を解決しようとする姿勢は、現代の我々も大いに見習うべき所だと思います。それが可能だったのも若い時に測量に携わっていたからであり、巡りあわせを感じます。身近にこれほど偉大な人物がいたとは、なんだか感慨深いです。もはや大河ドラマにできそうな人生だなあと思いました。本展は2022年6月19日まで開催中です。常設展示も含めるとかなり見ごたえのある企画展です。皆さまをぜひ足を運んでみてください。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2022.05.29
コメント(0)
群馬県立館林美術館の企画展、永井一正のポスターデザイン‐いきること・つくること‐を観て来ました。今なおポスターデザイン界をリードする永井さんの軌跡を振り返る企画展です。【幾何学的形態と生きもの】永井さんは幾何学的形態を組み合わせた作風を得意としていて、ポスターを多く作成しました。やがて幾何学的形態が集まって生きものに見える作品を制作するようになりました。写実的ではないものの、生きものに見える表現は印象的でした。【美術館と縁の深いポスター】永井さんは美術館の企画展や公募展のポスターを多く手がけました。特に富山県立近代美術館(現富山県美術館)については、開館以来30年に渡って展覧会ポスターを担当しています。また今回企画展が開催された館林美術館は永井さんの作品を多く所蔵していて、2003年以降事業案内の表紙は永井さんの作品を採用しています。なるほど作品を観た時初めて観た気がしなかったのですが、事業案内で観ていたのだなあと思いました。【そしてLIFEへ】生きものを表現するようになり、やがて「LIFE」シリーズを作成するようになります。同じ表現を繰り返さないことを自分に課していた永井さんでありましたが、LIFEシリーズは40年近く手掛けるライフワークとなりました。館内で撮影可能なコーナーがあったので、そこから印象に残った作品をピックアップします。LIFE(きのこ/笠) 永井一正LIFE(フクロウ) 永井一正LIFE(ウマ) 永井一正永井さんが「生きる風」をテーマにしたシリーズです。生きものから湧き上がる模様が集積して「LIFE」という文字を形作っています。目に見えない生命力や風を表現しているような作品ですね。永井さんの作風はポスターデザインからアプローチしているだけに、生きものの表現も独特でありました。写実表現ではないのですが作品を見て何の生きものなのか分かるのは、その特徴をよくつかんでいるということなのだと思います。永井さんの作品には複数の生きものが同時に描かれているものがあり、中には空想上の生きものがいることもあります。これは全ての生きものが互いに繋がっていて、それぞれが自然を形作っている一員であることを描いているように感じました。環境問題やエネルギー問題が注目されている昨今、生きものが共に生きるということを考えさせられる企画展でした。本展は2022年4月3日まで開催中です。まだ日がありますので、お時間ある方は足を運んでみてください。館林美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2022.02.27
コメント(0)
栃木県佐野市の吉澤記念美術館、放菴と寛方を観てきました。栃木県ゆかりの画家、小杉放菴と荒井寛方。放菴の生誕140年を記念して、同世代を生きた二人の画家の企画展です。【小杉放菴の軌跡】小杉放菴は日光市に生まれ、上京して洋画家として活躍していました。ヨーロッパへの留学を機に日本画へと傾倒していきます。帰国後は再興日本美術院展の洋画部を牽引し、後年は栃木県出身の日本画家による「華厳社」を組織しました。そして晩年は「放菴紙」と呼ばれる特注の紙に枯墨と淡彩で独自の作風を確立していきました。本展では放菴の画業を初期から晩年まで振り返っています。初期は精緻な筆致であるのに対し、晩年は墨の濃淡や淡い輪郭で描く作風へと変わって行きました。初期の「婦人立像」では、木の幹や花・着物の前掛けを描いて、一枚の絵の中で複数の白を描き分けています。一方晩年の作品では墨の濃淡や余白を活かした作品を描いています。一人の画家が描いていくうちに求める作風や描き方が変わって行くのは味わい深いですね。晩年の放菴は世俗から距離を置いて、隠遁者のような生活をしながら絵を描いていました。おとぎ話の絵も多く描いていて、自画像のような老人や孫を重ねたような童子が穏やかに描かれていました。また鬼を含めた人物たちが皆穏やかにほほ笑んでいて、ゆったりとした優しい世界が広がっていました。世間から完全に乖離してはいないのですが、少し距離を置いているがゆえに描かれる作品が美しかったです。【荒井寛方の仏画】荒井寛方はさくら市(旧氏家町)に生まれ、放菴が創設にかかわった再興日本美術院展にも参加しています。美術雑誌に掲載する古画の模写を経て仏画を志すようになりました。その後インドを訪問し、画風に影響を受けます。晩年は法隆寺金堂壁画の修復模写に従事し、その後独自の画風を確立し「仏画の寛方」と評されました。やはり画風の変遷が味わい深かったです。インドに行ってからは仏画の顔が「インド風」になっていました。晩年になるとそれまでの鮮やかな色彩は大人しくなり、抑えた色調になりました。また、表情も落ち着いて荘厳な雰囲気を醸していました。晩年の作風と言っても全くの別物になってしまったわけではなく、それまでの画風の面影を感じました。それまでに積み上げて来たものの上に新たな作風が乗っていることが感じられて面白かったです。本展では画家の画業を初期から晩年まで振り返っています。画家の人生を通して画風が変わって行くのを見るのがまた味わい深いと感じました。本企画展は2022年3月6日まで開催です。お時間ある方は足を運んでみてください。吉澤記念美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2022.02.06
コメント(0)
栃木県の小山市立博物館、とちぎの両生類を観て来ました。身近な存在でありながら意外と知られていない両生類について学べる企画展です。【両生類とは】両生類とはその名のとおり水中と陸上の両方で生活できる生き物です。かつてはたくさんの種類がいたのですが、現在は長い尾と短い四肢を持つ有尾目(サンショウウオなど)尾が無く体幹が短く四肢が発達した無尾目(カエルなど)四肢が無く細長い体の無足目(アシナシイモリなど)の3種に分かれます。体は体毛や鱗、羽毛を持たず、湿った皮膚による皮膚呼吸をしています。【栃木の両生類が大集合】本展は栃木に暮らす両生類18種類が展示されています。知ってそうで知らないことが多くて面白かったです。アマガエルとアオガエルは別のカエルだそうです。またガマガエルとヒキガエルは同じカエルなのだそうです。さらには我々がトノサマガエルと呼んでいるのはトウキョウダルマガエルで、正式なトノサマガエルは栃木県に住んでいないそうです。他にもカエルやサンショウウオの骨格標本も展示してあります。骨や軟骨が色分けされていて、同じ種でもオタマジャクシとカエルで軟骨の割合が違ったりして興味深いです。またカエルを食べる動物たちも一緒に展示されています。昆虫から動物まで、多くの生き物がカエルを食べていることが分かります。カエルは生態系を支える貴重な「栄養源」になっているんだなあと感じました。【自然について考えるきっかけに】本展は決して大きな会場ではないので、割とすぐに観終わってしまいます。ですが各レイアウトは見やすいような配慮を感じました。また各カエルの鳴き声が聴けるコーナーや、アカハライモリの求愛を撮影した映像もあって、コンパクトながら工夫された展示になっています。両生類は水陸両方で暮らせますが、逆に言うとどちらが無くても生きていけない種族です。それゆえに環境が悪化すると真っ先に姿を消すのが両生類なのだそうです。本展は2021年8月29日まで開催です。身近な隣人たちがいつまでも身近な存在であるように、本展が自然環境を考えるきっかけになればと思いました。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2021.08.08
コメント(0)
群馬県立館林美術館、野口哲哉展を観て来ました。野口哲哉は鎧兜姿の人を描いた絵や小さな立体作品を多く作っています。本展では撮影OKの作品もあるので、それらの写真とともにご紹介です。THE MET鎧を着た人が紙袋を下げています。野口さんの作品はこうした鎧を着た人たちが現代人のような振る舞いをしている姿を描いた作品が多く見られます。Thing of the operation 稼働すること -Engineering Armour 工学の鎧-芝浦工業大学とのコラボでデザインした作品です。鎧兜の構造はそのままに、素材を軽量プラスチックに置き換えています。変わるべき物と変えてはいけない物を表現しているそうです。BIAS野口さんの作品はユーモラスに見える作品が多いのですが、それだけではないものを感じさせます。悪魔のようないかつい鎧をまとった男性が思い悩むような姿をしています。外見と自己認識のギャップに思い悩む姿を描いています。STRIPE顔を覆って悲しむ侍の姿を描いた作品です。野口さんの解説によると、ある侍の日記に「頭部の無い遺体を見つけて鎧のデザインでそれが友人だと気が付き、号泣した」とあり、鎧の中のとてつもなく大きなものを現代人が見落としていることに気が付いた、とあります。鎧を着ているという非日常感があるからこそ、誰もが持っている感情が際立つように感じました。【見所の多い企画展】本展は見所が多かったです。各作品のディティールが凄いです。鎧や着物の使い込まれた感じなども細かく表現されています。鎧を作るにあたって描くデッサンも展示されていますが、もはや鎧の設計図でした。こうした細かい部分までじっくり見てみると面白いです。作品の解説や各チャプターのコメントは野口さん自身が書いています。作品を通して描いている想いが感じられます。また、野口さんはレンブラントに影響を受けているそうです。暗闇でスマホをいじる侍の絵が何点かあり、光で人の姿が浮かび上がる手法はまさしくレンブラントを感じさせます。【this is not a samurai】野口さんは自分の作品は侍ではないと語っています。実際には解説の中でも自分の作品をサムライと呼んでいません。鎧を纏ってはいますが、悲しんだり怒ったりぼーっとしたり眠ったり、現代を生きる我々と全く変わらない姿がそこにはあります。むしろ全ての作品に鎧姿という共通点があるからこそ、描いている感情が鮮明に浮かび上がってくるように感じました。【ポンポンは出張中】館林美術館といえば「白熊」などが代表作であるフランソワ・ポンポンが有名で、常設展示されています。現在開催中のフランソワ・ポンポン展に作品を貸し出しているので、白熊や黒豹などは不在です。代わりに野口さんがポンポン自身を作った作品が展示されていて、こちらも楽しめます。一見ユニークな世界観が展開していますが、一方で我々人間が普遍的に持っている感情を感じさせる企画展でした。本展は2021年9月5日まで開催です。まだ日程に余裕がありますので、皆さんぜひとも足を運んでみてください。Clumsy heart館林美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2021.07.04
コメント(0)
栃木県の足利市立美術館、柳原義達展に行ってきました。柳原さんは「手」で有名な高村光太郎らの影響を受けてロダンについて学び、戦前から彫刻制作を始めました。戦争によって作品のほとんどが焼失したうえに戦後の混乱にあって一時創作意欲が減退するものの、フランスに渡るなどして具象彫刻の新たな分野を切り開きました。【犬の唄と道標】柳原さんの代表作に「犬の唄」があります。等身大の裸婦像で、反戦を表現した歌の題名からとったそうです。本作はシリーズ化し、その後も繰り返し作成されています。「道標」も柳原さんの代表作で、鴉や鳩を題材にした彫刻作品です。モチーフとなった生き物たちの生命力に感銘を受け、自分の進むべき方角を示す道標として生み出した作品だそうです。本作も繰り返し作成されました。本展でも鳩の作品がたくさん展示してあって、鳩のいる公園みたくなっていました。【本質を表す彫刻作品】柳原さんの作品は表情や指先などの細かい所はあまり描かない作風でした。ですが全体のバランスや動きがとても細密に表現されています。吾輩はリハビリの仕事をしていますが、作品から感じるバランスの動きが全く違和感がありませんでした。それほど的確に重心やバランスの動きを捉えているのかなと思いました。柳原さんによると「生命の力の移動を見、その移動によってプランが構成される芸術は、絵では出来ない。ただ一つの彫刻の世界、特に具象の作家の仕事ではなかろうか」と語っています。その言葉を聴くと、なるほど移動に重きを置いているからこそ、あれほど動きが違和感なく伝わってくる作品ができるのだなあと思いました。また、そうした動き・移動を表現するのは絵よりも彫刻のほうがより深く描くことができるのかもしれませんね。本展は2021年8月15日まで開催です。まだ期間がありますので、皆さま足を運んでみてください。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2021.06.27
コメント(0)
栃木県の宇都宮美術館、いきものたちはわたしのかがみ を観て来ました。本展はミロコマチコさんの企画展です。ミロコさんは今注目の絵本作家で、本やCDジャケット、ポスターの装画を手掛けています。画面いっぱいに生物や植物を描く作風が有名です。有名なところではNHKの「コレナンデ商会」のアートワークや、小説「万引き家族」の装画を作成しました。【あっちの耳、こっちの目】動物が山車を引いている作品「あっちの耳、こっちの目」は撮影可能になっています。別角度からもう一枚です。あっちの耳、こっちの目は、一つのできごとを人間と動物それぞれの目線から語った作品で、本展では6作品が展示されていました。写真はカモシカのおはなしです。犬を連れた人間に子どもを襲われたカモシカが、怪我をしながらも人間を追い払います。一方人間も角を振りかざして襲い掛かってくるカモシカ対して必死に応戦しています。物事は見る角度によってまるで変ってくるのだなあと感じさせる作品でした。生態系の変化によって、人間と野生動物が遭遇することが多くなっているように思います。そうした問題について考えるきっかけにもなる作品だと言えるでしょう。【神秘的な新作】ミロコさんは1年程前に奄美大島へ住まいを移しました。都会とは全く違う時間の流れは、ミロコさんの作品にも大きく影響を与えているようです。だいぶ抽象的で神秘的な作品があって、それまでのものとはまた違った印象を受けました。今後芸術家としてどのような境地を切り開くのか楽しみですね。本展は2020年11月29日まで開催されています。お時間ある方は足を運んでみてください。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2020.11.15
コメント(0)
栃木県小山市立車屋美術館、描かれた水神展を観て来ました。小山市間々田地区では、毎年5月5日に「間々田じゃがまいた」というお祭りがあります。大きな蛇が町中を練り歩いて五穀豊穣や悪疫退散を祈願するもので、平成31年に重要無形民族文化財になりました。本展は文化財指定一周年を記念して、今年の間々田じゃがまいたに合わせて開催される予定でした。ですがコロナウイルスの影響で今年のお祭りは中止となり、本展も現在まで延期されていました。【水の神に触れる】日本では農耕をしていた弥生時代の頃、既に水の神を祀る習慣があったそうです。元々は蛇を水神としていて、中国から龍がやって来た後も両方をあがめていました。龍と一緒に鯉も文化として取り入れられて来ました。天にいる龍は陽、水中にいる鯉は陰の象徴とされました。対照的な存在でありますが、鯉も滝を登れば龍となることから陰陽が入れ替わるという思想を表現しているそうです。他にも水に関わる存在で有名なカッパも紹介されています。【小山出身のアーティスト】本展では小山市出身のアーティスト秋山佳奈子さんの作品も展示されています。秋山さんの作品「祝祭」です。展示されている秋山さんの作品は撮影OKとなっています。秋山さんのホームページはこちら。他にも日本画家の谷川将樹さんによる講習が開催されています。動画を見ながら各自制作し、完成後にコメントが届くとのことです。こうした新しい講習スタイルも今後増えていくのかもしれませんね。車屋美術館のホームページはこちら。本展は2020年11月15日まで開催です。まだ時間がありますので、時間のある方は足を運んでみてください。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2020.11.01
コメント(0)
栃木県足利市立美術館の企画展、瞬く皮膚、死から発行する生を観て来ました。本展は8人の現代写真家による作品展です。命の根源はいかなるものか? これは芸術のテーマの一つです。限りある時間の中で輝く命を表現した作品は、生を見つめたものであると言えるでしょう。一方で生を見つめることは死を見つめることにつながります。本展は植物や子どもなど伸び行く命を映した作品も多いですが、狩猟された動物の写真作品もありました。生と死は、光と影のように互いを際立たせる存在です。その双方を見つめることで、他方に想いを巡らせてみるのもよいのではないでしょうか。現代社会は死が遠ざけていたように感じます。我々が口にしている食べ物は、どこかの工場ですでに加工されたものが出てきます。人が亡くなるのもほとんどが病院で、生が死に向かって行く過程はどこかリアルさを感じなくなっているように思います。近年のコロナ禍によって死が少し身近になったようなように思われます。ですが日ごろ遠ざかっている分、死が一層不気味に感じるのではないでしょうか。本展では瑞々しい命を描いた作品とともに、リアルな死を描いた作品も展示されています。これを機会に、生きることと死ぬことを見つめなおしてみてはいかがでしょうか。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2020.10.04
コメント(0)
群馬県の館林市美術館、安野光雅 風景と絵本の世界を観て来ました。安野さんは自然あふれる環境で育ち、教員をしながら絵に携わるようになりました。絵本や絵画、本の装丁やエッセイなど幅広い活動をしている安野さんの活動をまとめた企画展です。【幅広い活動を振り返る】安野さんは日本だけでなく世界の色々な都市を巡り、その風景を描いて来ました。イギリスを中心に、やわらかい色使いの絵とコメントが展示されています。安野さんは教員をしている時に、教え子のお父さんが編集者だったことが縁で絵本を書くことになりました。初期作「ふしぎなえ」や代表作「おおきなもののすきな おうさま」が展示されています。幼い時から空想することが好きだった安野さんならではの、創造性豊かな作品です。おおきなもののすきな おうさま の1シーンが入場券になっています。とにかく大きな物が好きな王様の日常とムチャぶりを描いた絵本です。安野さんはきりがみで昔話を描くこともしています。絵を描くのとはまた違った難しさがあるとのことだけに、一味違った味わいがあります。文字まできりがみで作ってあるのがすごい。また上皇后美智子様の短歌に植物画を添えた「皇后美智子さまのうた」も展示されています。ここに収録されている絵は、植物とともに小さな妖精たちがやわらかいタッチで描かれていました。都市開発などで失われゆく花たちのことを描いたうたと見事にマッチしていて、やわらかさの中に郷愁を感じさせる作品でした。本展は2020年9月22日までの開催です。あまり日がありませんが、お時間のある方は足を運んでみてください。※この記事に載っている写真は、パンフレット及び美術館入り口のポスターです。館内の作品は撮影不可ですのでご注意ください。安野さんの企画展は2019年に栃木県足利市の美術館でも開催されています。紹介記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2020.09.13
コメント(0)
栃木県の佐野市立吉澤記念美術館、どうぶつランドを観て来ました。【身近で奥深いモチーフ、動物】動物は我々に身近な存在であり、美術の世界でも多くのモチーフになって来ました。本展はそんな動物たちをモチーフにした絵画や工作品を集めた企画展です。小山市出身の画家塚原哲夫さんの作品が数点展示されていました。以前別の美術館で開催された企画展で観た作品もありました。中でも「初雪」と「幻春」がまた観られてよかったです。塚原哲夫展の記事はこちら。【アイディアの面白い企画展】当館はそれほど大きな美術館ではないのですが、展示に工夫が感じられました。どうぶつがかくれんぼというコーナーでは、花瓶やお椀にどんな動物が描かれているかを探してみようという趣向になっています。また、所々クスッと笑える解説文も健在でした。本展は前期が2020年8月16日まで、後期が2020年8月20日から9月27日までです。展示作品が変わるので、両方観てみるのも面白いかもしれません。中でも連作「干支」は前期は子から巳まで、残りを後期で展示しています。コロナウイルス感染予防のため、来館時名前や住所(市まで)を記入する必要があります。記入紙には半券がついていて、半券を渡せば毎回名前などの記入をせずに関連施設(郷土博物館や化石館など)に入館することができます。運営側のこうした工夫もありがたいですね。吉澤記念美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2020.07.26
コメント(0)
群馬県立館林美術館、10のテーマでアートをつなぐを観て来ました。【テーマでつながる作品たち】本展は動物や人間といった10のテーマに分けて、館林美術館の収蔵作品を展示した企画展です。例えば動物のテーマでは、シンプルながらリアルな造形に定評のあるフランソワ・ポンポンの彫刻とヘンリー・ムーアの版画が展示されていました。同じテーマやモチーフであっても、作者の感性や表現技法によって作品は変わってきます。そうした違いを楽しめるのが本展の魅力だと思います。また、存命中の芸術家の作品も多く展示されています。今もどこかで活動している人たちの作品を観ると、遠い昔に生み出された芸術よりも少し身近に感じられるような気がします。本館は距離的に通いやすいこともあって、しばしば訪れていました。そのためか展示されていた作品も「昔観たな~」みたいなものがいくつかあって、久しぶりに友だちに会ったような感じがして面白かったです。パンフレットの裏面です。このように様々な作品を観ることができます。アートというと芸術家が一人で作り出す、孤独な作業のように感じます。ですがテーマやモチーフによって、作品どうしのつながりのようなものがあるように思います。芸術家どうしは会ったことのなくても、作品が顔を会わせているいるというのがちょっとしたロマンのように感じました。本展は2020年6月28日までです。来館には事前予約などは必要なくなりましたが、マスク着用、入り口での体温測定、連絡先の記入などがあります。コロナウイルスについてはまだ油断はできませんが、適切な対応をしてアートを楽しみましょう。館林美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2020.06.21
コメント(2)
栃木県の佐野市立吉澤記念美術館、創る女たちを観て来ました。昨年の台風19号により一旦閉館していましたが、このたび無事に復帰となりました。【アートリンクとちぎ】本展は栃木県立美術館の収蔵品を活用する事業、アートリンクとちぎの一環として開催されました。栃木県立美術館は近代以降の日本女性による芸術活動に対する展覧会や研究に力を入れています。本展でも栃木県立美術館収蔵の作品が多く展示されていました。【創る女たち】美術の歴史の中で、女性は様々な役割を担って来ました。時に芸術家である夫を支える存在であり、時に自身が制作者であることもありました。しかし女性が美術教育を受け、芸術家として活動していくには多くのハードルがありました。本展はそうした困難の中でも制作を続けていた女性たちの作品が展示されています。観た印象としては、生活から産まれた作品が多いように思います。制作をしつつも生活を支えていかなければならず、その生活が新たな創作の源泉にもなっているのかと感じました。本展は2020年3月15日まで開催です。まだ余裕がありますので、皆さんも足を運んでみてください。草間彌生の作品もありますよ。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2020.02.23
コメント(0)
群馬県の桐生短期大学卒業制作展2020を観て来ました。アート・デザイン学科の卒業展です。【pick up】世迷いごと 久保田菜月さんブラック企業で働いている青年。ある夜会社帰りに妖の世界に迷い込んでしまいます。そこには自殺した同僚の姿が。妖という人ではない者が登場することで、我々人間の世界がより生々しく際立つように思いました。怪 小磯 莉菜さんモノクロで描かれた人ならざる者たちのイラストです。歌川国芳や鳥山石燕から着想を得たというだけに、幽玄で印象深い作品でした。アンリアル・リストランテ 豊島 晴仁さん異世界で振る舞われる料理を描いた作品です。明るい色使いながらグロテスクなデザインが味わい深いです。ネウロに出て来そうでした。葦原屋 小根久保佳奈さん日本神話をモチーフにした雑貨企画展です。神話の神々をシルエットで表現しているのがシンボリックで面白いですね。個人的には伊邪那美を描いた扇子が良かったです。左右対称のデザインとしだいに暗くなる色使いが神話の世界をうまく表現していると思います。cafe mimosa 田島のぞみさんカフェのメニューを空間に配置しています。おしゃれで面白いアイディアだと思います。宇宙一半透明 望月 天葵さんクラゲをモチーフにした作品です。暗いもの明るいもの、ポップなものから宝石にイメージを重ねたものまで様々な作品がありました。同じモチーフでここまで印象の違った作品が作れるものなのだなあと驚きました。してみるとクラゲは万能のモチーフなのかもしれません。個人的にはクラゲを線香花火に見立てた「目が合う」が好きです。ちなみに、クラゲは理論上不老不死なのだそうです。各員がアイディアを絞った卒業制作は色々な作品があって楽しめました。今後の日本には美意識を高めていくことが必要だと思います。こうした新しい才能たちが素晴らしい作品を生み出してくれたら良いですね。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2020.02.16
コメント(0)
群馬県桐生市の大川美術館、桐生のアーティスト 2020を観て来ました。【桐生ゆかりのアーティストが集合!】本展は名前のとおり、桐生が出身だったりアトリエを構えているアーティストの作品を集めた企画展です。桐生に縁があるとは言っても、各人の作風やスタンスは様々でした。桐生という土地が作品に影響を与えているかという問いに対して、特にそういうことはないと思うという答えが結構あったのが忖度なしで素敵ですね(笑)。一方で意識していない部分で何らかの影響はあると思うし、アトリエに桐生を選んだのは繋がりのようなものを感じるといった感じの答えも多かったのが印象的でした。感性というか、何か感じるものがあるのかもしれませんね。また、今回は存命しているアーティストが取り上げられているのも特徴的でした。美術館で作品を観る場合、作家はすでに亡くなっていることが多いと思います。今回は今も活躍中のアーティストの作品、それもここ数年で発表された作品が観られるので、より芸術を身近に感じることができると思います。桐生短期大学アート・デザイン学科長の小松原氏の作品もありました。【アートの街桐生】桐生というと織物の街というイメージがありましたが、芸術家を引き付ける何かがあるのかもしれません。同市は戦災をまぬがれ、織物や金物などの製造で発展して来ました。物と一緒に人の行き来も盛んだったようで、来る者拒まずのような雰囲気があって、他所から来た人も暮らしやすいようです。その後織物産業が下火になり、規模縮小を余儀なくされました。閉鎖した工場等が現在芸術家のアトリエになっているケースも多いようでした。レンガ造りで昭和の風情が残る街並みが、芸術家の創作意欲を刺激するのかもしれませんね。物作りと芸術が同居する街桐生の魅力を再確認できる企画展でした。本展は2020年3月22日まで開催中です。まだ期間がありますので、ぜひ足を運んでみてください。大川美術館のホームページはこちら。【関連情報】本展で作品が展示されていた石井壬子夫とその息子克の企画展が栃木県足利市立美術館で開催されます。2020年3月7日からなので、あわせて観てみるのも面白いと思います。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2020.01.19
コメント(0)
アボガド6作品集、剥製のご紹介です。ネットで話題のクリエイターアボガド6。我々の日常をシニカルに抉ったものやかわいらしいものまで、様々な作品が収録されています。剥製 / アボガド6 【本】今作は各章が「~の記憶」と銘打ってあります。例によって画像を載せるわけにはいかないので、がんばって文章で紹介します。【幼少の記憶 Pick up】延命治療冷凍庫に小さな雪だるまを入れようとしている子ども。こういう時期ってあったよなーと思わせる作品です。運ぶ4枚の連作です。コウノトリに運ばれた赤ん坊の絵、大人になり子どもをベビーカーで運ぶ絵、年老いて息子に車いすを押してもらう絵、最期を迎え多くの人に棺桶を運んでもらう絵。人生は常に運んでもらったり運んであげたりするものなのかなと感じました。初夏水を掛け合ってふざけている男子とそれを注意している女子を描いた作品です。重いテーマの作品が多い中、さわやかな青春を感じさせます。女優三つ編みで地味さ制服姿の女の子が、階段の影でタバコを吸っています。傍らにはメガネが置かれていて、学級委員長の腕章。人の裏表を描いているでしょうし、地味でまじめというキャラにされてしまった人が一時自分を解放している所を切り取った作品ともいえるでしょう。一線 刹那連作です。屋上の柵を背面飛びで越える少女。その時になると、案外一線は軽く越えてしまうのかもしれません。血の足跡が、一線を越えるまでには前兆があるものだと感じました。刹那はその落ちていく彼女と目が会った刹那を切り取っています。【社会の記憶 Pick up】笑顔薄暗い洗面所で笑顔の仮面を外す青年。外した顔は真っ暗な闇。無理やり笑顔を作り続けた結果、元の顔も忘れてしまったのかもしれません。仮面の裏に張り付いた、疲れ切った顔も細かいですね。いきたくないずらりと並んだロープの輪の前で座り込む青年。行きたくないと生きたくないをかけてあるのかなと思います。悲鳴溢れた涙が海の水のようになり、目元まで浸かっています。自らの涙に溺れて悲鳴は声になりません。あまりにも辛い時、人は声が出せないものなのかもしれません。孤高画面中央にとてつもなく大きな人が描かれています。あまりに大きく、足から脛の途中までしか画面に入っていません。その周りには多くの人が描かれています。物珍しそうに眺める人、石を投げる人、嘲笑する人、まるで無関心な人……大きすぎる存在は他人に理解されません。それでもすっくと立ち自らの生き方ができることが孤高と言うのでしょうね。匿名黒ひげ危機一髪のように樽に入った人の周りを、ずらりと人が取り囲んでいます。皆トイレのマークのように同じ姿をして、手には剣を持っています。樽には剣が突き立てられ、入っている人はぐったりとしています。刺した者がだれなのか分からない、匿名の恐ろしさをよく表していると思います。【幻想の記憶】人の道真っ暗な中、彼方まで伸びた道を行く青年。道の左右から無数の真っ黒な手が伸びています。手は青年に向かって蠢き、足を掴んでいるものもあります。道自体はまっすぐなのに、そこを歩むことの難しさを描いていると思います。たかい天使に吊り下げられた青年。表情は笑顔ですが、その影は首を吊っています。高いと他界をかけていると思います。【動物の記憶】添い寝眠っている犬と、その耳を布団代わりにして眠る小人が描かれています。平和でほっとする作品です。レジスタンスいわゆる拒否柴というやつでしょうか。4匹の犬に飼い主の方が引っ張られています。大仰なタイトルですが平和な作品です。ウロボロス犬の散歩をしている男女が鉢合わせ。お互いの犬の紐が絡まってしまいます。大仰なタイトルだけど平和です(笑)。四面楚歌コンビニで買って来た唐揚げを4匹の犬にじゃれつかれつつ奪われます。大仰なタイトルだけど(以下略)。前作「果実」に比べると、ほのぼのした作品の割合が多くなっているように思います。社会風刺的な辛辣なものからほっこり系まで、作風の広さを感じました。最初と最後には描き下ろしマンガ「剥製」が収録されています。作家にとって作品は、その時感じた気持ちや思いを切り取った剥製なのかもしれません。そんな美しき剥製をぜひご堪能ください。【関連作品】果実 [ アボガド6 ]前作「果実」です。紹介記事はこちら。剥製 / アボガド6 【本】よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.11.17
コメント(0)
栃木県足利市立美術館、安野光雅展を観て来ました。安野光雅は画家、絵本作家、装丁家、デザイナーといった様々な顔を持ち、色々な賞を受賞している作家です。今回は安野の仕事を4つの視点から展示しています。【ふしぎな絵】安野は絵に興味があったものの、仕事は教師をしていました。たまたま編集長の子どもが教え子にいたことが縁で、絵本「ふしぎなえ」でデビューしました。エッシャーのだまし絵に興味があったこともあり、その影響を強く受けた作品です。部分を観る限りは特に変わったことはないのですが、全体を観ると不思議な絵になっているというのがだまし絵の特徴だそうです。ふしぎなえでも上下がさかさまになったり、端と端がくっついて輪になっている絵がみられました。ふしぎなえは文字が無く、絵だけで表現された作品です。それでもつい見入ってしまい、どんなストーリーがあるのかと想像するのが楽しい絵本でした。【自然科学の絵本】安野は数学にも造詣が深く「空想工房の絵本」という雑誌の表紙を多く手掛けていました。数学や化学、物理というとなにやら堅苦しいイメージがありますが、作品はユーモアと遊び心に満ちていました。一見風景画なのですが、中に色々な動物が隠れている「もりのえほん」や、地動説から天動説に代わって行く様子を描いた「天動説の絵本」が展示されていました。どれも科学分野への知識が深いとともに豊かな感性を併せ持っているからこそできる作品だなと思いました。【昔話・ものがたり】安野はさらに文学にも詳しかったそうです。有名なももたろうを切り絵で描いた作品が展示されていました。また「蚤の市」という作品が面白かったです。名前のとおり蚤の市を描いている作品ですが、ふしぎなえ同様文字がありません。作者コメントによると、絵を見て、読んでもらう子どもと読んであげる大人との間に会話が生まれればそれが作品となるとのことでした。こうした発想は絵本ならではだと思います。本展では足利を舞台にした物語「一〇〇年前の女の子」という小説のカバーイラストも展示されています。【デザイン】安野はポスターも制作していました。舞台は役者と会場を押さえてからチケットを売るのが先で、この時点では台本ができあがっていないこともよくあったのだそうです。そのためポスターが完成したものの内容が変わってしまい、実際に上演される内容とずれてしまうことがあるそうです。通常ポスター作製はスポンサーから「こういう風に作ってくれ」という要求がハードなのだそうです。一方で舞台の場合はこうしたやむを得ないずれが生じることがあるので言い訳がきくと言ってのける安野さんのコメントがキュートですね。本展は2019年12月22日まで開催です。あらゆる分野に精通する安野光雅の仕事に触れてみてください。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.11.10
コメント(0)
群馬県館林美術館のピカソ展を観て来ました。パブロ・ピカソといえば、美術に興味が無い人でも恐らく知っている偉人ではないでしょうか。今回はピカソの代表作ゲルニカのタピスリ(タペストリー)を中心に、ピカソ芸術に幅広く触れた企画展です。【美術の巨人ピカソ】ピカソは初めて口にした言葉が「ピス(鉛筆)」だったという逸話があるほど、幼い時からその才能を感じさせていたようです。ピカソはキュビスムという画法を編み出した一人です。キュビスムは対象を幾何学模様に変換して描く手法です。ピカソというと独特の造形を連想することが多いと思います。吾輩も美術の教科書で観て「変な絵だな~」と思ったのが最初です。確か泣く女だったかと思います。ですがキュビスムは奇抜な見た目が特徴ですが、その中には画家なりの理屈があるように感じます。そうした意味では、奇抜さはあってもシュルレアリスムとはまた違った技法なのかなと思いました。【ゲルニカから生まれた表現】ピカソの祖国スペインは1936年に内戦状態になります。そして1937年に北部の町ゲルニカが爆撃され、人口7千の町で1600人が亡くなったと言われています。パリで開催される万博のスペイン館のために壁画を描く予定だったピカソはゲルニカをテーマに作品を作りました。わずか1カ月で作り上げたゲルニカは内戦の悲惨さを描いた作品でありますが、同時に多くのイメージが描かれていて難解で、万博の際も観た人がみな沈黙してしまうほどだったそうです。解釈についてはピカソも観る人が自由に考えていいと言ったそうです。内戦を描いた作品でありながら、戦いに対してストレートに批判的な作品でもない所がさすが天才の業だと思います。ゲルニカを描くにあたって、ピカソは各イメージをデッサンしていました。本展ではそのデッサンも展示されていて、完成に至るまでに何枚も描いてイメージを固めていった様子がうかがえます。またゲルニカでは使われなかったものの、のちの作品のイメージとなったものもあります。「泣く女」はその一つで、以降多くの泣く女が描かれました。【ピカソのたどった軌跡を観る】ピカソは常に社会との接点を持ち続けており、浮世離れした芸術家ではありませんでした。貧しさや苦しい状況にある人たちや華やかなサーカスの舞台裏など、あまり社会の日が差さない所で懸命に生きる人たちを描きました。ゲルニカを描いた頃は内戦を引き起こした反乱軍のリーダーを批判した絵を描きました。また版画作品を売ったお金をスペイン共和国軍に寄付したりと、自分の考えや立ち位置をしっかりと表明していました。芸術家としては政治的な問題に対してスタンスをはっきりさせるのは心苦しい部分もあったのではと思いますが、内戦という状況の中で自分なりに正しいと思った側を支持したのだろうと思います。内戦が終わり創作に集中できるようになってからは、少しほっとしたような穏やかな作品が多いように感じました。こうした作品の中に芸術家の人生をたどれるのもまた面白いものですね。【動物を愛したピカソ】ピカソは動物が大好きで、常に動物と暮らしていたそうです。闘牛も好きで、闘牛の技を説明する本の挿絵を描いたりもしています。牛や馬などのデッサンは写真かと思うほど精緻です。ピカソというと独特な表現が印象的ですが、変わった絵ばかりを描いている画家ではなく、しっかりとした技術を持ち合わせていることを感じました。つまりピカソは絵が上手いということですね(語彙力)。また、ギリシャ神話の怪物ミノタウロスもピカソが頻繁に描いたモチーフです。人間の女王と牡牛の間に生まれたミノタウロス。牛頭のミノタウロスは王に疎まれ、迷宮に閉じ込められてしまいます。ピカソは妻との関係がうまくいかず、新しい恋人と妻の間で悩んだりもしたそうです。人間と動物の両方の姿を持つミノタウロスを、人間的な理性と動物的な衝動間で懊悩する自分と重ねていたのかもしれませんね。今回はテーマがかのピカソということで、美術館が普段よりも混んでました。館内の空気が普段とは違うような感じすらしました。最初の方は「ピカソだピカソ!」みたいな熱気を感じたのですが、進むにつれて気圧されしたように無言になっていました。発表当時ゲルニカを観た人がみな黙り込んでしまったというのもうなずけます。ピカソ展は2019年12月8日まで開催です。東京などの大都市以外でこうした巨匠の作品をじっくりと観られるまたとないチャンスです。足を運んで損のない企画展でした。館林美術館のホームページはこちら。【関連情報】群馬県桐生市の大川美術館では、現在松本竣介展が開催されています。松本竣介はピカソというあだ名がつけられるほどピカソ好きでした。そんな縁もあってか松本竣介展とピカソ展の相互サービスで、各展の入場券を持っていくと団体割引料金で鑑賞することができます。大川美術館のホームページはこちら。松本竣介展の記事はこちら。そして11月17日(日)に開催のゲストトークでは、あの原田マハさんが来ます。そんな有名人が来るとは、恐るべしピカソ。さらに土曜日テレビ東京で放送されている番組、新美の巨人たちでは、11月16日から2週連続で本展をとりあげます。爆笑問題の太田さんが出演します。新美の巨人たちのホームページはこちら。今群馬を熱くするピカソ展、ぜひご覧になってください。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.11.03
コメント(0)
群馬県桐生市の大川美術館、松本竣介 街歩きの時間を観て来ました。当館設立のきっかけとなった松本竣介の作品を、1年かけて4回の企画展で振り返るという企画です。本展はその最終回です。【街歩きの時間】松本竣介は若くして聴力を失ったため徴兵されませんでした。戦時中で活気のない東京を歩きまわり、都会の風景をしばしば描きました。今回は松本の描いた風景画を、初期から晩年にかけて幅広く展示しています。パンフレットにもある「街(自転車)」です。松本作品にはこうしたいくつかのイメージが重なり合った作品が多いように思います。風景をそのまま描いたものもありますが、街を歩いて得た印象やイメージを集約して絵にしているように感じました。【桐生に昭和モダンを探す】街歩きとかけて、桐生の昭和モダンな建物を紹介する展示も行われています。戦時中桐生市は空襲を免れたため、昭和時代の建物が多く残っています。公共施設や会社、駅なども昭和な雰囲気を感じさせる建物が見られます。散策マップもあるので、これをきっかけに街歩きしてみるのも面白いかもしれません。松本竣介 街歩きの時間は2019年12月8日まで開催中です。松本の画業を様々な角度から振り返る企画の締めくくりとなります。お時間あるかたは足を運んでみてください。企画展第1回目アトリエの時間です。記事はこちら。2回目読書の時間です。記事はこちら。3回目子どもの時間です。記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.10.27
コメント(0)
栃木県の足利市立美術館、浅川コレクションの世界を観て来ました。本展は浅川邦夫氏によって寄贈された数多くの作品の一部を展示した企画展です。浅川氏は現代美術ギャラリーの草分けと言われる南画廊に12年ほど勤め、その後35年にわたって画廊春秋を経営しました。50年にも及ぶ画商人生の中で、量・質ともに優れたコレクションができました。本展は浅川氏のコレクション展示であるため、特定の芸術家にこだわらず様々な作家・技法の作品を見ることができます。また、各作品について浅川氏のコメントが書いてあります。作品や作者との思い出や、買い付けた時の話もあって面白いです。個人的に好きな作品、コンパクト・オブジェです。5点1組の作品ですが、2点だけ売ってしまったので作者さんに怒られたそうです。透明なケースに収納されたオブジェが精密な機械のようであり、また生き物の内蔵のようであり、ずっと見ていられる不思議な魅力を感じました。本展は2019年10月20日まで開催中です。色々な作品に触れ、自分の気に入った作品を見つけてみるのも面白いかもしれません。足利市立美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.09.15
コメント(0)
群馬県立館林美術館の企画展、みつめるを観て来ました。【見ることの不思議と向き合う作家たち】本展は自然や身の回りの物など、日常の中で見たり感じたりしたことを独自の表現へと深めていく7人の作家を紹介しています。7人の作品はこちらです。モチーフ自体は身の回りの風景や物を描いているのですが、それぞれの作風はかなり違いますね。描き方も写実性の高いものから抽象画まで幅広いです。さらには技法もさまざまで、特に浅見貴子さん(中段右)は紙の後ろから墨をにじませる方法で描いているそうです。これは墨のにじみを利用するので、当然細かい所までは制御できません。偶然できたに近い形を作品に用いているのはすごいですね。個人的には伊庭靖子さん(中段左)の作品が印象に残りました。伊庭さんは光の強弱を絵画で表現しています。光の当たり方の微妙な違いを描いていて、写真作品かと思ったほどでした。また、金田実生さん(下段右)の作品も印象深かったです。夜を描いた作品が多いのですが、一口に夜と言っても色々な表情があります。力をじっとためる、休息としての夜。エネルギーが動き回っている、活発な夜。吾輩も田舎に住んでおりますが、虫の声が賑やかな夜もあれば物音ひとつしない夜もあります。こうした静かな中にも力を感じさせる作品は良いですね。他にも庭に咲いたバラを毎日日記のようにスケッチした作品があり、絵を描く人の感性と継続性はさすがだなと思いました。身の回りにあるちょっとした風景。見慣れた風景かもしれませんが、つぶさに見ると毎日違った表情を見せるものです。「見る」という行為を深めている現代作家たちの息吹に触れることができる企画展でした。本展は2019年9月16日まで開催です。まだ日がありますので、みなさん足を運んでみてください。館林美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.07.21
コメント(0)
群馬県立自然史博物館の企画展、同居いきもの図鑑へ行って来ました。同居している生き物というとペットを思い浮かべる方が多いと思います。ですが、我々が意識しなくても多くの「同居人」がいるのです。本展はそんな同居する生き物たちにスポットを当てた企画展です。【脅威の常設展示】本題の前ですが、常設展示が侮れませんでした。生命の始まりから恐竜時代を経て現代に至るまでをたっぷりとスペースを設けて展示しています。ここだけでも十分見ごたえがあります。群馬県では結構多くの恐竜の化石が発掘されているそうで、常設展示にも多く展示されていました。一部は現在国立科学博物館で開催されている恐竜博2019に貸し出しているそうです。まさに恐竜大国グンマーと言っても過言ではないでしょう。【同居いきもの図鑑】企画展では、我々の暮らしに同居している生き物を紹介しています。それもゴキブリ、ネズミ、カメムシにシロアリなど、あまり歓迎されない生き物が中心になっています。見やすいように拡大(!)された模型や生態、彼らとの接し方などが丁寧に紹介されていました。人間の営みによって環境が破壊され、絶滅が心配されている種がいます。その一方で、人間の生活に便乗して生き延びているたくましい種もいます。彼らもまた生態系の一部であり、彼らがいなくなってしまえば我々人間の住む環境もまた暮らしにくいものになってしまいます。彼らを見かけるとつい殺虫剤やらなにやらを持ち出してしまいがちですが、相手を知ることが適切な付き合い方を知る第一歩になるのではないかと思います。本展は2019年9月1日まで開催中です。夏休みもしっかりカバーしていますので、足を運んでみてください。しっかり観ると半日過ごせるくらいのボリュームです。公式ホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.07.17
コメント(0)
栃木県佐野市立吉澤記念美術館の企画展、線は、いのち。を観て来ました。【線は、いのち。】絵画や工芸作品など、視覚芸術(目で見る芸術)には線が欠かせません。線が集まって絵になりますし、工芸品を形づくるのも線です。一口に線と言っても、筆で描いた線、彫刻刀で削った線、細いものから太いものまで多彩なものがあります。意識して線を観ると、線だけで表現できるものも多いと感じました。定規で引いたような均一な直線は、都市のビルやタワーの景観をよく表していました。フリーハンドの線は風に震える竹の葉を描き、線と余白によって竹の幹の丸みも表現されていました。線を引くだけでなく、ぼかすことによって動物の毛のモフモフ感を出していました。また、着物の片側だけをぼかすことで立体感を出すなど、様々な技法が紹介されています。工芸品においても線は重要な役割を果たしています。そもそも工芸品を形づくっているのは線です。表面に彫られた線によって模様が描かれ、陶器を焼いた時にできたひび割れすら作品として表現されます。【味わい深い解説も見どころ】吉澤記念美術館はそれほど大きな美術館ではなく、本展もさらっと観ることができます。ですが作品に添えられた解説が面白いです。普通の美術展では四角いプレートに作品名と作者名、ちょっとした解説が載っています。当館ではそれに加えてちょっとしたコメントが吹き出しで添えてあります。また、作品の一部を拡大したものに鑑賞のポイントが書いてあるものもあります。そしてこれらのコメントにユーモアがあって、結構笑えます。美術館というとお堅いイメージがあるかと思いますが、割とパンチの利いたコメントは一読の価値があります。作品を観る時、わざわざ線を意識して鑑賞することは少ないと思います。改めて線に注目してみると、それだけでも作者の息遣いを感じるような奥深さがありました。本展は2019年8月18日まで開催です。夏休みに見に行ってみるのも楽しいと思います。美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.07.07
コメント(0)
栃木県の足利市立美術館、空間に線を引くを観て来ました。【彫刻とデッサン】戦後の日本美術界における彫刻は、いかにリアルに近づけるかという写実的なものでした。その後抽象的な作品や、写実でありつつも作者のイメージを織り込んだ作風も台頭してきました。彫刻家は作品を作るにあたって、自分のイメージを定着させるためにデッサンを描くことがあるそうです。作品の下書きになるので、彼らの描くデッサンは奥行や立体感があるものになります。そうした意味でも、画家の描いたデッサンとはまた違った、設計図を見ているような感覚があります。撮影可能な作品もあります。写真は三沢厚彦氏の作品です。本展は彫刻家のデッサンと彫刻が並んで展示されているので、創作のイメージが感じられて面白いです。吾輩は彫刻作品にはあまり興味がなかったのですが、画家のデッサンとは違う味わいがありました。また作品とデッサンを見比べる楽しさもあり、アイディアを感じさせる企画展でした。本展は2019年7月28日まで開催中です。まだ時間がありますので、皆さんも足を運んでみてください。足利市立美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.06.23
コメント(0)
群馬県前橋市のアーツ前橋、やなぎみわ展 神話機械を観て来ました。やなぎみわ氏は現代美術や演劇界で活躍する美術家です。舞台作品とならんで、日本神話をモチーフにした作品を作成したりしています。また本展では、京都、高松、前橋、福島の大学などと連携した「モバイル・シアター・プロジェクト」が立ち上がり、マシンによって神話世界を表現しています。【幅広い現代芸術】本展は絵画作品が並んでいるわけではなく、オブジェや写真、映像など様々な作品が展示されています。中でも印象深かったものをいくつか。マイ・グランドマザーズ一般の方から募集したモデルにメイクを施し、50年後の自分になる作品です。やなぎ氏はモデルさんと面接していて、各写真にはそれに基づいたちょっとした物語が添えられています。観た感じとしては、何か目的を持つことが大事なんだなと思いました。若いうちは生活のため仕事に追われることが多いと思います。人生を重ねる程に、自分のやりたいことをして生きる方が健康で長生きできるように感じました。やなぎみわ マイ・グランド・マザーズ/バーゲンブック/3240円以上購入送料無マイ・グランドマザーズは単独で出版されています。こちらも観てみてください。フェアリー・テール誰もがよく知るおとぎ話をモチーフにした作品です。主に二人の少女によって表現されていて、老人の役も少女がお面をかぶって演じています。そこには明るさや瑞々しさは無く、子どもならではの冷淡さや残酷さがクローズアップされた不気味さを感じさせます。個人的には赤ずきんと、ヘンゼルとグレーテル、ラプンツェルが禍々しかったですね。本作はアフィリエイトが無かったので紹介していませんが、楽天さんでも取り扱っています。気になる方は観てみてください。【時間に余裕を持ってお越しください】本展は映像作品が多く展示されています。どれも15~30分程度あるので、全部観るとかなり時間がかかります。特にモバイル・シアター・プロジェクトによって生み出された神話機械は、1日3回、各30分の作品です。時間がある時にじっくり観ることをお勧めします。本展は2019年6月23日まで開催中です。腰を据えて鑑賞してみてください。アーツ前橋のホームページはこちら。【送料無料】 神話機械 / やなぎみわ 【本】本展の公式図録です。美術館でも販売されています。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.06.02
コメント(0)
群馬県桐生市の大川美術館、松本竣介展 子どもの時間を観て来ました。【親子の絆を感じる企画展】松本の息子は画家の家に生まれた影響か、幼い頃から父である竣介と一緒に絵を描いたりしていたようです。息子の子どもならではの自由な発想は松本に刺激を与え、松本は息子の描いた絵を模写したりしています。息子は「お父さんが僕の絵をマネした」と文句を言ったこともあるようで、こうしたやりとりもほほえましいですね。東京大空襲を受け、松本は家族を疎開させました。松本は疎開した家族へこまめに手紙を出しています。家族が保管していた20通あまりが展示されていましたが、家族への気遣いとユーモアにあふれた内容で、戦時中の重苦しい感じはありませんでした。【関連の展示も充実】本展のテーマである子どもの時間と関連して、松本竣介以外の画家が描いた子どもの絵も展示されていました。鶴岡政男や藤田嗣治、岸田劉生などがありました。さらには栃木や群馬に在住の画家たちの作品も展示されていて、親近感がわきました。また戦争を生き抜いた画家ということで、去年亡くなった浜田知明の絵も展示されていました。吾輩が浜田の作品を初めて観たのも、この大川美術館でした。敵と戦うだけでなく味方の中でも立場の低い初年兵の苦しみを生々しく描いた「初年兵哀歌」シリーズは鮮烈でした。戦後は世相を風刺するような作品も多く残しており、戦争の悲惨さを描くだけに終始しない幅の広さが魅力的な芸術家であったと思います。松本竣介の軌跡を1年にわたって振り返る松本竣介展。第3段にあたる本展は2019年6月16日までです。お時間のある方は足を運んでみてください。vol.1 アトリエの時間です。紹介記事はこちら。vol.2 読書の時間です。紹介記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.05.26
コメント(0)
栃木県小山市立車屋美術館、塚原哲夫展を観て来ました。小山市は市政65周年、車屋美術館は開館10周年を迎えており、本展はその記念企画の第1段です。塚原哲夫(つかはら てつお)は小山市出身の日本画家です。箔と絵具を何層にも重ね、それをブラシで叩いて箔に小さな孔をあける技法により、独特の色合いを表現しました。【独自の画法と超絶写実】本展では塚原の初期作品から円熟期の作品まで、16点が展示されています。※この記事の画像はパンフレットに掲載されているものです。上は「穂高」、下は「アマ・ダブラム」です。塚原は山をよく描いたそうです。木々の生い茂る山よりも、山自体のシルエットがよくわかるものを好んだようです。特にアマ・ダブラムは山頂付近の雪が舞っている様子や、山肌の光の当たり具合がきれいに描かれていました。箔と絵具を使った独自の画法がよく活かされていると思います。「初雪」です。塚原は鳥を描いた作品も多く残しています。鳥の羽根や足が精密に描かれています。また葉に積もった雪や、穴の開いた枯れ葉の描写も見どころです。個人的に一番印象深い作品「幻春」です。桜の木にとまった白い大鷹を描いています。大鷹はほとんど単独で生きており、塚原はその孤高の姿を愛していたといいます。日本人が好きな桜と、孤高に生きる大鷹を組み合わせた本作は命の気高さを見事に描いていて、厳粛な雰囲気がしました。また下に落ちている桜は、戦争で命を落とした若者を想って描かれているそうです。花のまま落ちている姿に哀悼を感じます。塚原の作品は光の加減がとてもよく表現されていると思います。独自の技法により、角度によって変わる繊細な光を作品に写し取っているように感じました。また、その写実的な画力も見過ごせない点であると思います。塚原は山や鳥をじっくりと観察して描いていたそうです。鳥の羽や足の感じがとてもよく描かれていたと思います。本展は2019年6月9日まで開催です。作品にかなり近づいて観ることができるので、その超絶技巧を味わってみてください。美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.05.05
コメント(0)
群馬県立館林美術館、熊谷守一 いのちを見つめて を観て来ました。熊谷守一(くまがい もりかず)は明治から昭和を生きた画家です。岐阜県に生まれ、自然豊かな環境で育ちました。子どもの頃から絵を描くことが好きだった熊谷は、東京美術学校(現 東京藝術大学)で学びました。黒田清輝に学び、同期は青木繁というゴージャスっぷりです。【モリカズ様式が生まれるまで】熊谷の作風は赤鉛筆で輪郭線を引き、色の塗り分けによって物を描いています。この描き方は「モリカズ様式」と呼ばれています。熊谷といえばモリカズ様式ですが、その様式にたどり着いたのは70歳を過ぎてからです。それまでは緻密なデッサンと荒々しい筆遣いが特徴的です。初期の作品も展示されていましたが、驚くほどデッサンがきちんとしていました。また光の使い方が巧みで、光の当たっている質感が非常にリアルでした。【いのちを見つめて】後年脳卒中になってしまった熊谷は長距離の移動が困難になり、庭で過ごすことが多くなりました。彼の庭には多くの生き物が集まって来ました。熊谷は日がな一日そうした動物や虫と戯れ、描きました。対象を抽象化しているのもモリカズ様式の特徴ですが、それでも何の絵を描いているのかよく分かります。それは熊谷は「いのち」を見つめ、しっかりととらえているからなのかもしれませんね。個人的には「石亀」が好きです。水から陸に上がろうとする亀を描いていますが、水から出ている部分とまだ水中にある部分を色の塗り分けだけで見事に表現しています。97歳まで生き、亡くなる間際まで創作意欲が衰えなかった熊谷守一。仙人とも評された彼ですが、戦前戦後の厳しい時代を生き、我が子を失うという悲しみも味わいました。そうした苦しみを知っているからこそ、虫や鳥といったいのちに向き合い、慈しむかのように描くことができたのではないかと思いました。【関連情報】モリのいる場所 【DVD】熊谷守一は2018年に映画になっています。「モリのいる場所」という作品で、晩年の熊谷のある一日を描いた映画です。守一役を山崎努、妻を樹木希林が演じるという豪華キャストです。公式ホームページはこちら。本展は2019年6月23日まで開催です。まだ始まったばかりですので、皆さんもぜひ足を運んでみてください。館林美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.04.21
コメント(0)
栃木県足利市立美術館「世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦」を観て来ました。【小さくてすごい出版社】タラブックスは南インドのチェンナイにある出版社で、ハンドメイドの絵本を出版しているのが特徴です。インドの民族画家による絵を手漉きの紙に版画の技法で印刷し、製本も手作業で行っています。インドでは各地に多くの民族芸術が存在し、部落の壁や床に絵を描いたり、工芸品を作ったりしています。部族どうしで芸術の行き来は少なく、インドに住んでいる人も知らない芸術がたくさんあるのだそうです。そのうえインドの昔話は多くが口伝なので、子どもたちが読んでいる絵本は外国の物語がほとんどという状態のようです。タラブックスは自国文化のすばらしさに着目して、各地に埋もれていた物語や芸術を出版に結びつけました。【見習おう、タラブックス】そんなタラブックスですが、実はハンドメイドの絵本は全体の2割で、文化雑誌や小説など普通の出版物も扱っているそうです。まあさすがにハンドメイドの絵本だけで食っていけるほど、世界は牧歌的ではないということですね。ですが目まぐるしいこのご時世、下手に専門化しないのが生き延びるコツなのかもしれません。タラブックスは従業員約40名。絵本が有名になってきてもスタイルを変えていません。むやみに量産して質を落とすようなことはせず、手に負える範囲の仕事をストイックに続けています。さらには点在する部族の民族画家たちに著作権の概念を伝え、自らの芸術や伝統を守ることを教えています。そして従業員たちにも可能な限り教育を受ける機会を持つようにしているそうです。近年は従業員数や年商が会社を評価する指標のすべてになっているように思います。ですが無限に大きくなり続ける会社は存在しないわけで、これらのみを指標にしているといつかは破綻してしまうと思います。我が国にも三方よしという優れた考え方があります。ちょっと振り返ってみるといいのかなと感じました。本展は2019年6月2日まで開催です。まだ日がありますので、ぜひ足を運んでみてください。本展で展示されている絵本を手に取って読むことができるコーナーもあります。手漉きで作られた紙の柔らかな感触をぜひ味わってみてください。足利美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.04.14
コメント(0)
桐生大学短期大学部アート・デザイン学科、卒業制作展2019を観て来ました。本校には絵画やマンガなどの英術分野と、グラフィックデザインや空間デザインなどのデザイン分野があります。各分野の卒業制作を展示した企画展です。【pick up 芸術分野編】終ワリ 金子英美利さん4枚の絵画作品です。季節の花の終わり方と女性をモチーフにした作品です。命短い花と女性の美をうまく組み合わせた作品だと思います。ウィンタークラウン 久保田拓人さん交通事故で死んでしまった少年が主人公のマンガです。少年は死んだ魂が行く世界で、数日前に病気で亡くなった少女に再会します。自分よりも大切な人がいるという尊さと切なさを感じさせる作品でした。人工生命体の存在価値はいくらか 関口麻結さん軍人である青年が与えられた任務は、新たに開発された生体兵器の世話。心優しい青年に接するうち、兵器は人を殺すことをためらうようになります。そのため失敗作と評価された兵器は処分されそうになるのですが……AIや遺伝子操作など「人に似たもの」が増えて来ました。彼のことをどう捉えるのか? 生命について考えさせられる作品でした。風景画 田島正巳さん作者さんの好きな風景を描いた油絵です。グラフィックやCGなどが台頭してきた現在において、伝統的な油絵で表現しているのがまた味わい深いです。Black Heron motors 長野穂乃香さん車のデザイン作品でした。若い人から年上の人まで乗れそうな、カッコよさと渋さを併せ持ったデザインだと思います。芸術分野というとイラストやマンガのイメージがあったのですが、こうしたデザインまで手掛けるのだなあと思いました。りとるめいど 中村優佳さんズボラな性格のおかげでプライベートがグダグダな女性。彼女を心配し、親戚の女子小学生がお手伝いさんとしてやってきます。家事も料理もテキパキこなす女の子をみて、主人公も少しずつ自分のことを見つめ直すようになります。年齢に関係なく、他者と接することによって人間は磨かれていくように思います。過激な表現があふれる昨今ですが、こうしたほのぼのした日常を描いた作品もまた良いなと思いました。余談ですが、最後に出てくる駅の館林感がハンパない(笑)。やはりこの辺から東京に行く時は館林駅が便利ですね。【pick up デザイン分野編】お風呂カフェ-Yumegokoti- 岸美波さんお風呂とカフェを融合させた癒し空間のプロモーション的なデザインです。入浴時の注意事項が分かりやすくて良いですね。誘う 岸野愛子さんBIRDMENというマンガを読むための空間をテーマにしたデザインです。一つのマンガを読むために作った空間という、贅沢な仕様です。遊具 藤田果歩さん公園に置く、様々な遊具のデザインです。子どもが遊ぶ物だけに、安全性には十二分に注意が必要です。一方であまりに規制が強く、遊具を置かない公園も増えているそうです。その結果体を動かすことが減り、かえって怪我をしやすい子どもが増えているとか。安全を考慮しつつもデザイン性にも優れた作品だと思いました。変遷 山本夏歩さんファッションの変遷をテーマに、江戸、明治大正、昭和、平成に分けて表現しています。道具と服が次第に寄ってきているのが面白いですね。最近は時計とスマホが合体していますし。軽い気持ちで観に行ったのですが、予想よりずっと面白かったです。自己流で腕を磨く画家もいますが、体系だった勉強をするのもまた有効なんだなあと感じました。芸術やデザインは生活に潤いを与え、心を豊かにしてくれます。将来を担う人材の活躍を観られて良かったと思いました。桐生大学のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.02.10
コメント(0)
群馬県桐生市の大川美術館、松本竣介 読書の時間を観てきました。同館コレクションの中核をなす松本竣介について、約1年に渡り4回の企画展が開催されます。本展はその第2段です。【読書の時間】松本竣介は読書家でもありました。その蔵書は900冊を超え、芸術だけでなく様々な分野の本を読んでいました。館内に再現されている松本のアトリエに、今回は本棚(写真)が追加されていました。これは息子さんが松本の蔵書を保管しており、生前アトリエに並んでいた様子を再現しました。【本から見える作者の横顔】本棚を他人に見せるのは恥ずかしいという読書家は多いのではないでしょうか。蔵書というものは、それだけ持ち主の趣味や考えを赤裸々に反映するものなのではないかと思います。松本は本を大事にし、基本的には書き込みやマーカーをしなかったそうです。ですが特に気に入った本は2冊買い、片方は保存用、もう片方を書き込み用にしていました。この辺も読書家には通じる部分があるように思います。今回面白かったのは、ファッション誌や世間の風俗をスクラップブックにしていたことです。松本は本の表紙や挿絵を描く仕事もしていました。また、妻と一緒にエッセイを書いたりもしていました。そのためいわゆる芸術的な絵だけでなく、今現在のファッションも重要な資料であったように思います。女性を描いた絵が展示されたコーナーがありました。着飾った「仕事用」の女性たちを描いたものと、妻など身近な女性を描いたものの2種類に大別されていて面白かったです。松本竣介展vol.2読書の時間は2019年3月24日まで開催です。まだ余裕がありますので、皆さま足を運んでみてください。第1段アトリエの時間の記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.02.03
コメント(0)
とちぎ蔵の街美術館の企画展、田中一村と刑部人へ行って来ました。【栃木にゆかりのある二人】田中一村(たなか いっそん)は栃木県生まれの画家で、50歳の時奄美大島へ渡り自然を多く描きました。ちょうど先日日曜美術館でも取り上げられました。代表作は「不喰芋と蘇鐵(くわずいもとそてつ)」です。奄美に渡ってからの画業が有名な画家ですが、本展ではそれ以前の若き日の作品が展示されています。刑部人(おさかべ じん)は栃木生まれの洋画家で、今年は没後40年になります。一村とはまた違った画風でした。【苦悩を乗り越えた先の希望】二人とも苦悩の中で模索を続けることになります。青年時代の田中一村は、中国の画家にい倣った作品を多く描き称賛されます。ですが日中関係が悪化してくると需要が減って来ます。そこで一村は「何かに倣った作品との決別」を決意します。しかし彼の新しいスタイルは支援者に受け入れられず、苦悩することになります。刑部人は東京美術学校(現在の東京藝術大学)在学中に帝展で入選し、順調な画家生活を歩み始めます。しかしパリで学んだ画家たちが帰国して来て活躍するようになります。刑部は師から「これからの時代は個性的な絵を描かなければ帝展入選も危なくなる」と言われ、スランプに陥ります。そんな苦悩の中、二人は新たな希望を見出していきます。一村は今までの支援者との関係をリセットして新しいスタイルを模索し、やがて奄美へと旅立って行きました。刑部は苦悩の果てに、個性とは奇をてらったものを描くことではなく、自らの持ち味である写実表現を突き詰めることもまた個性であるという結論にたどり着きます。人生に似て、画業もまた平坦には行かないようです。ですが苦悩の中模索を続けることによって新たな道が開けるのもまた人生に似ているのかもしれません。【おまけ】平成30年に佐野市の旧家で発見された絵が、田中一村の作品であると確認されました。彼の父親も芸術家であり、一村も幼い頃から絵を描いていたそうです。一村は栃木市出身なので、これからも作品が発見されるかもしれませんね。本展は2019年3月21日まで公開です。模索を続けた二人の軌跡を堪能してみてください。とちぎ蔵の街美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.01.20
コメント(0)
栃木県佐野市にあります、佐野東石美術館へ行って来ました。佐野東石美術館は佐野の街中、十字路の角という割と賑やかな所に立っています。駐車場はありませんが、美術館と道を挟んだ反対側に市営の駐車場があります。2時間無料なのでお手軽です。ちなみに今日はイベントがあって停められませんでした。仕方なくすぐ近くの市役所駐車場へ停めました。市役所駐車場は、市役所が休みの時(土日祝日)は一般に開放されています。ちなみにこちらもさのまるのイベントで混雑していました。【円空仏に触れる】今回は円空の仏像を中心とした展示がされていました。円空は江戸時代前期の修験僧です。生涯で約12万体の仏像を彫ったとされ、その柔和で独特な雰囲気の仏像は「円空仏」と呼ばれています。写実からは程遠いものの、なめらかで穏やかな表情は心が洗われるようです。円空仏は日本全国に存在し、寺院や個人蔵のものが圧倒的に多いそうです。当時の生活は病気や飢饉など、心を痛めることが多かったように思います。そんな人々の心を、円空仏はそっと癒していたように感じます。芸術的価値うんぬんではなく、身近に置いておきたくなるような魅力を感じさせる仏像たちでした。本展では、他にも当館が所蔵する作品が展示されています。棟方志功の作品も展示されているので、観てみるのも面白いかもしれません。本展は2018年12月18日までです。もうあまり日がありませんが、時間のある方は足を運んでみてください。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.12.16
コメント(0)
栃木県の足利市立美術館、長谷川利行展を観てきました。長谷川利行(はせがわ としゆき)は描くことで生きた画家です。居場所を定めず、職も家庭も持たず、最後は行き倒れとして養育院に収容され、誰にも看取られずに世を去りました。ですが生活がすさむほどにその技は冴えわたり、わずか15年の画業の中で多くの美しい作品を残しました。【生活に寄り添った、ブレない画風】長谷川は木賃宿を転々とし、カフェやバーの風景や人々を描きました。その作品は抽象的な感じがしますが、多くの絵の具で描いた作品は雰囲気をよく伝えていると思います。画家は時期によって画風が変わったりすることもあるものですが、長谷川は少しも画風がブレていませんでした。彼は学校などで体系的に絵を学んだことはないそうです。それでいてこうした絵が描けるのですから、才能に恵まれた人だったのかもしれません。そして筆も速かったようです。ガラス絵という、ガラスの裏側からハンコのように逆転した絵を描くという技法があるそうです。長谷川はガラスを手に持ち、反対側に手を回してちょいちょいと描いてしまったという話も残っています。【間に合った大作】今回注目された作品の一つにこの「白い背景の人物」があります。これは本企画展の準備中に発見されたという、とてもタイムリーな作品です。白い背景に5人の人物が描かれています。ここでも長谷川らしい、抽象的な雰囲気を感じさせます。他にも某鑑定番組で存在が確認された作品も展示されていました。【描くことが生きること】「生きることは絵を描くことに価するか。」長谷川の言葉です。普通は生きているからこそ絵が描けると思うでしょう。長谷川は描いているからこそ生きていると感じていたように思われます。だからこそすさんだ生活を送りながらも絵の純度が高まっていったのかもしれません。長谷川の画業は、関東大震災の復興から太平洋戦争直前の時期でした。力強い復興から泥沼の戦争へと向かう世相とリンクするように、長谷川はこの世から姿を消しました。本展は2018年12月24日まで開催中です。花火のように儚く美しい画業を、ぜひご覧ください。足利美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.12.09
コメント(0)
栃木県小山市立車屋美術館の企画展、木とあそぼ~アートでZOOへ行って来ました。【触って遊べる企画展】本展は木を用いて色々な造形作品を作っている杉山明博さんの作品を展示しています。杉山さんは子どもの造形表現に関する研究に携わってきました。子どもたちの感性を育てるためには、観るだけでなく触ったり嗅いだりと多くの感覚を用いることで、発想力や感性が磨かれていくと考えられます。本展では直接触れる作品が多く展示されています。カエルの口からビー玉を入れると、空洞になっている体の中を転がりながら音がする作品がありました。また、おなかが洗濯板のようになっていて、木琴のバチでこするとカエルの鳴き声のような音がします。他にも様々な材質の木がぶらさがっていて、手触りや叩いた音がすべて違うという作品もありました。さらには木のパーツがたくさん置いてあり、自由に動物を作ることもできますし、動物の形をした枠の中に色々な形の木を詰めていくというものもありました。また様々な木材について解説したコーナーがあり、直接触ることもできました。素材によって色々な特徴があり、一口に木材と言っても奥が深いんだなあと思いました。本館は決して大きな美術館ではありませんが、子どももかなり遊べる内容になっていました。こうしたアイディア溢れる企画展もまた楽しいものでした。【何度も遊べる企画展】本展では入場券の代わりにこのようなパスをもらえます。これを提示すれば、企画展の開催中何度でも入場できます。子どもがいる方は何度遊びに行っても楽しめるのではないでしょうか。本展は2018年12月16日まで開催中です。もう少し時間がありますので、ぜひ足を運んでみてください。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.12.02
コメント(0)
群馬県桐生市大川美術館の企画展、松本竣介 アトリエの時間へ行って来ました。松本竣介は今年で没後70年を迎える画家です。家族を愛し、守りながら36歳の若さでこの世を去り、没後評価が高まりました。本展では松本竣介の作品を中心に、彼と交流のあった芸術家たちの作品が展示されています。日本に西洋画が伝わり、写実的な画法が浸透して行きました。それも一段落し、画家たちはただの写実画ではなく自分自身の表現を模索していた時代でありました。観ていると直球の写実画よりも、自分のイメージを描いた作品が多いように感じました。パンフレットにもなっている「街」です。いくつかの風景や人物を配し青で塗った作品は、シャガールのような印象を受けました。自画像とも言われる「立てる像」です。吾輩どこかで観た記憶があるのですが、確か若くして亡くなった画家たちの作品を集めた企画展だったような気がします。【松本竣介を再現する】大川美術館は桐生出身の実業家、大川栄二が収蔵した作品を集めた美術館です。その起源は大川が松本の作品に感銘を受け、作品を集め始めたのがきっかけです。松本と縁のある大川美術館が今回行ったのが「竣介のアトリエ再現プロジェクト」です。館内に生前のアトリエを再現するというものです。面積も間取りも同じ。遺族が保管していたアトリエ内にあった物を借りて来るという徹底ぶりです。アトリエ部分は撮影可なので、撮って来ました。アトリエというともっとごちゃごちゃしているかと思ったのですが、整理整頓されています。松本の人柄も何となく感じられました。別角度でもう一枚。松本はかなりの読書家だったそうで、アトリエにも多くの本がありました。今回はその費用を捻出するため、クラウドファンディングを使ったのも面白い所です。芸術というと浮世離れした印象を受けますが、こうした試みも実業家が起こした美術館ならではでしょうか。【壮大なる企画展】大川美術館では今回の企画展から2019年の冬にかけて約1年間、松本竣介の企画展を開催します。今回の「アトリエの時間」から始まって「読書の時間」「子どもの時間」「街あるきの時間」という、テーマを分けた企画展です。各企画展の間、並行して再現されたアトリエも展示されています。2019年に開館30周年を迎える大川美術館。そのきっかけを作ったともいえる松本竣介に関する企画展だけに、並々ならぬ気合いを感じました。1年かけて松本竣介の作品を味わってみるのも面白いのではないでしょうか。大川美術館のホームページはこちら。【関連情報】群馬県立館林美術館では2018年12月24日まで企画展「時代に生き、時代を超える」を開催しています。こちらは日本の近代美術を集めた企画展で、松本竣介もこの時代に生きていました。相互企画で「松本竣介 アトリエの時間」と「時代に生き、時代を超える」それぞれの観覧券を提示すると、団体割引で入場できます。これを期に近代美術にどっぷりつかってみるのも面白いかもしれません。館林美術館のホームページはこちら。「時代に生き、時代を超える」に関する記事はこちら。そして本日2018年11月25日20時からの日曜美術館(再放送)で、この松本竣介展が取り上げられます。ゲストに大川美術館の館長も出るそうです。日曜美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.11.25
コメント(0)
群馬県立館林美術館の企画展、時代に生き、時代を超えるを観てきました。【板橋区立美術館全面協力!】本展は板橋区立美術館が全面的に協力しています。板橋区立美術館は1979年の開館以来、昭和の前衛美術を中心に作品を収集して来ました。中でも戦前に若い芸術家が集まったアトリエ村「池袋モンパルナス」に関する作品を多く収蔵しています。関東大震災の後、池袋はまだ都会ではなく物価が安かったので、多くの芸術家たちが移り住んできました。パリのモンパルナス地区にも多くの芸術家が集まっていたことにちなんで、池袋モンパルナスと呼ばれるようになりました。【時代を強く、しなやかに生きる】本展のテーマである1920~1950年代は、関東大震災や経済の混乱、太平洋戦争の始まりと敗戦など、混乱の多い時代でした。芸術の世界も例外ではなく、都市部の生活が変わってきたり、シュルレアリスムが伝わってきて、新しい芸術が生まれてきました。やがて戦争が始まり、物資や思想の制限が厳しくなりました。芸術家は絵の具の調達も困難になり、戦争を批判するような作品は発表できませんでした。こうした厳しい時代の中で、生活と制作をどう両立させるか。そうした芸術家たちの苦労と試行錯誤の跡が見て取れる企画展でした。一人の芸術家にスポットを当てる企画展も面白いですが、こうした時代を横断する形での企画展も色々な作品が観られてよいものでした。本展は2018年12月24日まで開催されています。まだ余裕がありますので、時間のある方は足を運んでみてください。館林美術館のホームページはこちら。【関連情報】群馬県桐生市にある大川美術館では、松本竣介(まつもと しゅんすけ)の企画展を開催しています。同館では松本の作品の収蔵に力を入れていました。松本は池袋モンパルナスで作成をしていた芸術家の一人です。それにちなんで、館林美術館と相互割引中です。館林美術館の「時代に生き、時代を超える」と、大川美術館の「松本竣介 アトリエの時間」それぞれの観覧券の半券を提示すると、団体割引料金で入館できます。両方の企画展を観てみるのも面白いかもしれませんね。大川美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.11.11
コメント(0)
足利市立美術館の企画展、長重之展へ行って来ました。長重之(ちょう しげゆき)は東京・日暮里に生まれ、戦時中父親の実家である足利へ疎開してきました。それ以来足利を拠点に現在も活動している美術家です。疎開した翌年父が病死し、重之はわずか10歳で家督を継ぐことになります。さらに戦後の農地解放により多くの土地を失うなどの苦労をしてきました。その後ガス会社や精神病院の作業療法助手を経て、芸術家の道を歩むことになります。【視点の境界線の芸術家】長は最初絵画作品を描いていましたが、やがてインスタレーション作品を多く手掛けるようになりました。観た感想としては、視点が面白い作品が多いように思いました。水面数メートルからのぞきこみ、そこに棲む魚や動物たちをイメージした作品がありました。またはるか上空から見下ろした、地図のような作品もあります。彼自身も創作の歴史を「地図を描いてきた」と総括しています。視点とならんで、境界線も印象的でした。代表作「視床」シリーズは、色の違う立体を組み合わせることでメリハリのある感じがしました。同じく代表作の「ピックポケット」シリーズは、大きなポケットの作品です。ポケットというのは服の表面にあり、周りと区別された境界です。シリーズの中にある「ピックポケット<閉じ込められないもの>」は、透明なピックポケットの中に長の思い出の品を入れた作品です。ピックポケットが現在と過去の境界として表現されているのかなと思いました。現在も制作を続けている長重之さんの企画展は2018年11月4日まで開催中です。地元で活躍している芸術家の作品を観るのは面白かったです。お時間ある方は足を運んでみてください。足利美術館のホームページはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.09.16
コメント(0)
アボガド6のイラスト集、果実のご紹介です。アボガド6さんは新進気鋭の映像作家で、ボーカロイド楽曲の映像を手掛けていました。吾輩ボーカロイドは好きですが、彼のことは知りませんでした。不覚。最近はTwitterやpixivでイラストを投稿しています。その社会風刺的なイラストは大きな反響を呼び、多くの人々から評価されています。吾輩もTwitterで知りました。果実 [ アボガド6 ]【pick up】吾輩の好きなイラストをご紹介します。いっそ写真に撮って画像を載せたいくらいですが、完全に著作権違反なので文章で説明します。うまく伝わるようにがんばります。蝉時雨カバンを傘代わりにして走る少女。降っているのは雨ではなく、蝉の鳴き声が文字となって降り注いでいます。アボガド6さんは風刺的な作品が取り沙汰されることが多いですが、こうした明るい色彩とテーマの作品も上手だと思います。機能不全家族顔が歯車になっている両親。その間に挟まれて、子どもは血まみれの肉塊になっていく。説明不要なほど分かりやすく、風刺的な一枚ではないでしょうか。クビ祈る姿勢で手を組み、上を向くスーツ姿の人物。その首元には「こちら側のどこからでも切れます」の文字が。これを観てから、お弁当についているソースとかの袋を切るのが少し怖くなりました。朝日薄暗い部屋で膝を抱えてうずくまる人物。戸の隙間から入る朝日は無数の手になって、彼をつかもうとしています。悩みや辛い思いをしている時、朝が来るのが憂鬱で恐ろしいと感じないでしょうか。彼らにとって朝は清々しい一日の始まりではなく、忌まわしい苦痛が再開する合図なのかと思います。この作品に共感する方は多いのではないでしょうか。こういうこと、吾輩はよくあります。朝なんて来なけりゃいいのにとよく思います。遠いところへ天使の輪を頭に乗せた少年が、自転車で光の階段を上って行きます。その階段の始まり部分には、首を吊っている人のシルエットが描かれています。死以外に救いがなかったこと、少年の喜びに満ちた表情がとても痛々しいです。個人的にはこのイラスト集で一番好きな作品です。アボガド6さんがTwitterで作品を公開すると、30分もしないうちに軽く1000を超えるいいねがつきます。一番最初にいいねをつけた人が感動のあまり証拠画像を載せたりしています。また、とりあえず「深い」と感想を書く人や、そんなにかと思うような深読みの解釈を書く人もいます。さらには解釈をめぐってフォロワーどうしの小競り合いが始まるのが風物詩となっております。色々すごいですね(笑)。皆が心に抱えながらも蓋をしている疑問ややり切れなさをすらりと抉る、美しいイラストをご堪能ください。果実 [ アボガド6 ]アボガド6さんのTwitterはこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.09.13
コメント(0)
先日栃木県立博物館の企画展レッドデータブックとちぎ2018を観てきました。その時に同時開催されていた「栃木の平野の暮らし」と「小泉斐の世界」も観てきました。【栃木の平野の暮らし】栃木県で広く行われていた稲作に関わる企画展です。稲作に関する道具が多数展示されていて、昔の稲作の様子が紹介されていました。何より驚いたのが、全部手作業。その上つい数十年前までこうした方法で稲作が行われていました。確かに吾輩も幼い時に近所の田植えを手伝ったことがありましたが、今の感覚では考えられないような途方もない作業だなと思いました。日本国民の勤勉さと忍耐強さはこうした所で培われているのかなと思いました。吾輩は仕事柄高齢の方に多く接しますが、農業が機械化される前の世代の方がやたらと我慢強いのはこの辺が影響しているように感じました。また、当時は田植えは女性の仕事でした。稲作でも特につらい部分ですが、未婚の女性にとっては異性にアピールするチャンスだったそうです。未婚の人と既婚の人とでは帯の色が違っていたそうですし、気合を入れてアピールしたい時はモンペを新調したりしていたとのことです。いわば田植えが婚活の場だったのですね。こうした一見大変な作業でも、その中に楽しみを組み込んでしまうのが人間の強さなのかなと思いました。【小泉斐の世界】小泉斐(こいずみ あやる)は下野を代表する文人画家です。神官の家に生まれ、宮司を務めていました。家督を譲った後も精力的に作画活動を行っていました。人物画・風景画・仏画など多くのジャンルを描き、描法や絵の具も色々なものを試みていた挑戦的な画家でした。今回は数ある作品の中から鮎、人物、風景に絞って作品を展示しています。作品は風景がシンプルに描かれつつも人物は丹念に描いていたりと、一枚の作品の中にもメリハリを感じました。本展では小泉の弟子である田谷芝斎(たや しさい)の作品も展示されています。彼の作品は特に注目されてこなかった上に、画家の没年や出身地などもわかっておらず、謎の多い人物です。また、芝斎は益子町の亀岡八幡宮の神宝を描いたものも残しています。神宝を見ることができる立場の人物だったのか? こうした背景を想像してみるのも面白いですね。芝斎の作品「寒山拾得図」です。細かい描写にこだわりつつ、奇怪な人物が特徴的な作品です。これら二つの企画展は、前回の記事で紹介したレッドデータブックとちぎ2018と同時開催です。まとめて回れるようになっているので、続けて観てはいかがでしょうか。レッドデータブックとちぎの記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.09.11
コメント(0)
全101件 (101件中 1-50件目)