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姉と妹 @ Re:ともたさんへ こんばんは。コメントいただきありがとう…
2025.10.24
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「アンの幸福」ー赤毛のアン・シリーズ5ー感想 村岡花子訳
(L・M・モンゴメリ・1936年、和訳 村岡花子・1958年)

原題は、 「Anne of Windy Willows」
Windy Willowsはアンちゃんの下宿先の名前で、日本語では 柳風荘 と訳されています。

大学卒業後・婚約者であるギルバートの医科卒業を待つ3年間…
サマーサイド中学校校長として働くアン・シャーリーの日々が、ギルバートへ向けた手紙形式で描かれた作品。

シリーズとしては1921年に「アンの娘リラ」が発表され、そこから15年程経ってから、空白期間だった婚約時代の3年間の物語として補完的に発表された作品とのこと。

当初は描く予定のなかった部分 ですので、アン・ブックスシリーズ内においては(アンちゃんの人生の転機が描かれるような)ポイントとなる重要巻ではなく、本当にどこまでもアンシリーズが大好きで、ワールドに浸り切りたい方だけが読めば良いのかな…という作品だと思っています。

端的に言えば…
20代前半ながら、大学卒の女性教員として校長職に重用されたアンちゃんは、学校運営や社交的に様々な問題に向き合いながらも、非常にしっかり順調に職務をこなし、サマーサイドで大勢の知人・友人(特に女性)を得て、3年間を過ごします。
シリーズ中、こんなに順調ばっかりなのは本作くらいでは?…ってくらい順調です。

私のような読者(完全ギルバート感情移入型読者)にとっては、
サマーサイドの生活自体がよく分かりませんし、とにかく早く結婚したい一心だけなので、本作で描写される出来事にあまりひっかかりがないというか、言及することがない作品なのですが…

…それでもちゃんと面白い。
モンゴメリさんは、本当にどんなとっかかりからでもいち作品に仕立てることが出来る、物語構成の神だな、と改めて思いました。


以下、徒然に感想です。

■手紙形式 & アンちゃんによる『ギルバート・ケア』

本作の一番の特色は 『アンちゃんから婚約者・ギルバートへあてた手紙形式』 という点です。

そしてまたその書きっぷりが、 超熱烈ラブレター風味 💌というか…
手紙の主な内容は、アンちゃんサイド(サマーサイド)で起こった出来事の説明なのですが、 随所に「最愛のギルバート」「私たちの未来」の話題を差し込み、 「愛してる」アピールが凄まじいんです。

本作の直前… 大学卒業後・夏休みに婚約する(「アンの愛情」のラストシーン)まで、
大学生活の4年間はアンちゃんの男嫌い&唐辛子対応に拍車がかかり、プロポーズしてくる男ども(ギルバート含)を全員トラウマ級の返り討ちにした挙句、
それでもなおギルバートの存在が怖くて、彼の結婚願望を完膚なきまでに打ち砕こう&周囲にも「友達」と認識してもらおうと、主人公としては禁忌の技(読者に嫌われる)である「他の男とイイ感じ」アピール攻撃まで繰り出して、
終いにはガチでギルバートを殺しかけるところまで追いつめていた…
(そして本当に死ぬと分かった瞬間、アンちゃん自身も死にたくなっていた)

そんな殺伐とした、まさしく 殺し合い …ラブバトルを繰り広げていた女性とは到底思えない、
驚愕のデレッぷり (ものすごい変わり身) に、読者がまず唖然とさせられるところから始まります。

ちなみにギルバート自身は、この熱烈なラブレター群をものすごく喜んで、自然と受け取ると思いますが…
ギルバートに感情移入していると思って読んでいた読者(私)ですら、
「すごく嬉しいんだけど…アンちゃんはいきなりどうしたんだろう…?なんでこんな嬉しいことばっかり言ってくれるんだろう…? 婚約前からの落差が大きすぎて怖い と思いました。


ここで「私はアンちゃんに感情移入して作品を読んでいる」と豪語する妹が、 『アンちゃんの心持ち』を色々説明してくれました。↓

妹談:そもそも本作は、「アンの愛情」のラスト:ギルバートが死にかけて2か月も経たない所から始まっている。

…学生時代はお金がないかもしれないが、将来性抜群&堅実&ハンサムで、結婚相手などより取り見取りであるにも関わらず、 「アンちゃんと結婚できないから」という理由で目指すべきビジョンを見失い、死にかけるギルバートの方がおかしい。
まず、そこだけははっきり言っておきたい。

その上で… アンちゃんも、 ギルバートのたちの悪さに本当に懲りた というか。
「ギルバートを諦めさせよう」とか…圧倒的に自分の認識が甘かったことを、強烈に突き付けられた。(人生がひっくり返るレベルで )大後悔&大反省した。

「本当に死にかけられた」ショックが大き過ぎて、一度世界終末を体感した上で、
この先の人生を「ギルバートの目指すビジョンの実現」に捧げることになった というか…
「”ギルバートの女神”として生きていく」人生を選んだ というか…
言ってしまうと 『ギルバート・ケア』に全振りすることになった んだと思う。

黙示録以降、アンちゃんの人生の命題は
『ギルバートがイキイキと働き、充実した日々を過ごす姿を守ること&ギルバートを幸せに晩年まで生かしきる事』 になった。

アンちゃんは、ギルバートの瞬間的行動力・集中力は尊敬しているが、
別に(調子に乗ってor焦って)常に120%フルスロットルで働いてほしいわけではなく、平均80-95%位の、無理のない持続可能な状態で働いてほしい… と思ってる。

婚約後、ギルバートの病み上がり直後に遠恋が始まっているので、アンちゃんとしても本当は近くで見張っていたいが、現状ではそれは難しい状況。

折角アンちゃんが結婚を承諾してくれたのに、自分都合(大学医科)で3年間待たせてしまう…
ギルバート側に、絶対に焦りの感情があるだろうことも、容易に想像できる状況。


そこで、アンちゃんとしては
唯一のコミュニケーション手段である「手紙」を用いて、出来る限りのギルバート・ケアをしよう と、とにかく下記点を強調して手紙を綴っている。

①『焦るな』『時を待て』『安心して過ごせ』
・私は3年後、貴方と一緒に暮らせるようになる日を非常に楽しみにしており、間違いなくそこに向かって、今の生活を日々過ごしている。
 ⇒貴方が私の心持ちを心配をしたり、ご機嫌取りに労力を回す必要は全くない。
  自分の学問や生活を優先し、3年後、無事に医科を卒業して迎えに来い。

②『そちらの状況も報告しろ』
 こちらの状況は事細かに報告するため、そちらの状況もつつがなく知らせるように。

婚約以前のギルバートは、学業(大学トップレベル)&学費稼ぎに加え、アンちゃんへのアプローチ&機嫌取りに非常に労力を費やしていた。
その労力をギルバート自身のセルフケアに回させたい、…とはいえ心配なので状況は細かく報告せよ、ということだろうと思う。


遠恋1年目~2年目のクリスマス&夏休み休暇では、ギルバートはアヴォンリーに帰省していたが、2年目~3年目間の最後の夏休みでは、西部の鉄道敷設に出稼ぎに行く選択をした。

大学生活7年間、本当に最後の最後までギルバートがじり貧だったことが窺えるが、
それと同時に、短期間でより良い給金を求めて遠地の肉体労働に出向いている点から、卒業までの学費のほか、1年後の医科卒業後即結婚に向けて「必要最低限の結婚式/新生活資金を確保したい」という意志を感じる。

ここでギルバートに、アンちゃんの機嫌取り&愛を育むことに労力を割かさせず、
1年後の為の資金稼ぎに注力する選択をさせられたことこそ、アンちゃんが2年間ひたすら手紙で「焦るな、安心しろ」をきちんと強調してきた賜物。
アンちゃんがギルバートに伝えたいことを伝えきれた証拠だと感じた。

妹の見解に、なるほど…確かに、と思いました。


■様々な女性像、いち社会人女性としての活躍

本作には、バリエーション豊かな女性ゲストキャラクターたちが登場します。
未亡人、サマーサイドの覇権一族の女性たち、シングルマザー、婚約に関して諸問題を抱える若い女性たち…etc

中でも、メインで描かれたゲストが下記の2人。
・キャサリン・ブルック …アンの学校の陰気な女性教師。
・エリザベス …柳風荘のお隣・常盤木荘に暮らす少女。
母を亡くし、愛情を感じられない環境下で祖母に育てられている

上記2人については、長期休暇にグリンゲイブルスに招く等、アンちゃん自身が非常に肩入れをし、その結果2人に人生レベルでの大きな変革をもたらします。
環境面も含め、2人にはアンちゃんが共感できる部分がたくさんあって、力になりたいと思ったんだろうな、と受け取っています。

やはりこの「幸福」の時点では、アンちゃんは「大学卒の女性」…というおそらく島内でも数えるほどしか居ない超貴重人材として重宝される立場のため、マシュウ/マリラや近所の大人たち・ジョセフィンおばさんに支援される側だった「赤毛のアン・青春・愛情」時代とは異なり、 支援する側に回っていることが見て取れます。
※アンちゃんの立派に成長したこの姿は、子ども時代から彼女を見て来て、支援する立場だった大人たちからしたら本当に嬉しいだろうな…と思います。


上述したように、サマーサイドでの生活では、アンちゃんが様々な人々に干渉していきますが、同じようなとっかかりで関わっていったとしても、良い方に転じることもあれば、悪い方に転じることもある。
同じことをしても、結果が真逆になる事象が多々発生しています。

人に寄っては、全くそんなつもりじゃない受け取り方をされたり、「あ~関わるんじゃなかった!」と思うような出来事も多々起こります。
でも人に寄っては、キャサリン&エリザベスのように、アンちゃんとの出会いがその人にとって人生レベルの大きな転換点となる場合もあります。

…人との関わり方に正解はない。
でも、アンちゃん自身の立場がしっかり確立しているので、他の誰に何を思われようと、アンちゃん自身がスタンスを変えることはないし、人と関わっていくことに悲観的になる必要はない…というモンゴメリさんの価値観もよく見て取れます。
※「炉辺荘のアン」でも、これと同様の価値観を感じます。


■アンの「幸福」…結婚までの心の準備期間

最後に、 本作の和訳タイトル 『アンの幸福』 について。

アンちゃんの心持ちはこうだと思う(妹談)↓

婚約時代の3年間は、ギルバートにとってはひたすら巻きたい遠恋期間だったかもしれないが、
アンちゃんにとっては、落ち着いた心持ちで「結婚後」を想像することができるとても大事な時間だった と思う。

「アンの愛情」記事 ​でも書いて来た通り、結婚自体に大きな恐怖心を抱いていたアンちゃんは、婚約の時点で初めて「結婚」に向かう自分が想像できた。
この3年間で、結婚するとどうするのかな…あれもできるな…これもできるな…と「家庭を築いていくこと」を夢見ることが出来た。

その中で、 深層部分でいちばんハードルの高かった「出産」に向かう覚悟も固めていったと思う。
※アンちゃんにとっては、ギルバートは「大成すべき人/理想の家庭を築くべき人」。
ギルバート自身はそう思ってはいないかもしれないが、アンちゃんの意識としては、こんなに優秀な人は絶対に血をつないでしかるべきであり、「子どもはマスト」。


大学時代を描いた「愛情」は、(アンちゃんのトラウマを下地とした)破壊的思考回路に寄り、クライマックスで破滅(世界の終末)にたどり着く物語だったのに対し、
本作が描いているのは、 建設的な未来を目いっぱい想像しながら、その上で今の日々を大事に過ごすことが出来る… まさに アンちゃんの「幸福の日々」 だな、 と思います。


世界的な名作・アンシリーズは、現実的な…不愉快も理不尽も、抗い切れない時代の大きな流れや悲劇…そういったものもたくさん存在する世界線なんですけど、

でもその中で、主人公のアンちゃんは出逢いに恵まれて、彼女自身もいっぱい努力して、大勢の人に認められて、その上で、尊敬できる大好きな人と、愛ある大家族を築いていく…
…自身の両親が道半ばで倒れ実現出来なかったビジョンに、勇気を持って向かっていくことが出来た、 本当に本当に幸せな人生を歩んだ女性 だと思っています。

後年になってから公表された、 本作「アンの幸福」&子育て時代を描いた「炉辺荘のアン」は、モンゴメリさんが、アンちゃんの人生がどれだけ夢心地な幸せなものであるかを噛みしめながら執筆された作品なんだろうな、 と感じました。





…アンの幸福は、ギルバート的に感想書くことがあまりないかな…と思ってましたが、妹の見解含め、結構書くことが出来ましたね。

アンシリーズは、1作1作の意義&構成がしっかりしているので、本当に感想が書きやすいです!

by姉



◆小説 赤毛のアンシリーズ(村岡花子訳) 感想リンク
アンの青春(Anne of Avonlea)1909
アンの愛情(Anne of the Island)1915
アンの幸福(Anne of Windy Willows)1936





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最終更新日  2025.11.16 01:40:37
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