F&B 腐向け転生パラレル二次創作小説:Rewrite The Stars 6
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧の騎士 2
天上の愛 地上の恋 転生現代パラレル二次創作小説:祝福の華 10
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
YOI火宵の月パロ二次創作小説:蒼き月は真紅の太陽の愛を乞う 2
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
天上の愛地上の恋 大河転生パラレル二次創作小説:愛別離苦 0
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
天上の愛地上の恋 転生昼ドラパラレル二次創作小説:アイタイノエンド 6
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜 1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
天上の愛地上の恋 転生オメガバースパラレル二次創作小説:囚われの愛 8
天上の愛地上の恋 昼ドラ風時代パラレル二次創作小説:綾なして咲く華 2
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
天愛×腐滅の刃クロスオーバーパラレル二次創作小説:夢幻の果て~soranji~ 0
ハリポタ×天上の愛地上の恋 クロスオーバー二次創作小説:光と闇の邂逅 2
魔道祖師×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想うは、あなたひとり 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:月の国、炎の国 1
天愛×火宵の月 異民族クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼と翠の邂逅 0
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生パラレル二次創作小説:最愛~僕を見つけて~ 1
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
FLESH&BLOOD×黒執事 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧の器 1
腐滅の刃 平安風ファンタジーパラレル二次創作小説:鬼の花嫁~紅ノ絲~ 1
天愛×薄桜鬼×火宵の月 吸血鬼クロスオーバ―パラレル二次創作小説:金と黒 4
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く 1
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら 2
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達 1
天上の愛地上の恋 現代転生パラレル二次創作小説:愛唄〜君に伝えたいこと〜 1
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ風パラレル二次創作小説:黒髪の天使~約束~ 2
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花 2
天上の愛 地上の恋 転生昼ドラ寄宿学校パラレル二次創作小説:天使の箱庭 5
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ転生パラレル二次創作小説:何度生まれ変わっても… 0
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生遊郭パラレル二次創作小説:蜜愛~ふたつの唇~ 0
天上の愛地上の恋 帝国昼ドラ転生パラレル二次創作小説:蒼穹の王 翠の天使 1
名探偵コナン腐向け火宵の月パラレル二次創作小説:蒼き焔~運命の恋~ 1
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔 6
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~ 3
天上の愛地上の恋 昼ドラ風パラレル二次創作小説:愛の炎~愛し君へ・・~ 1
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい 4
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華 0
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~ 15
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて 10
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう 8
天愛×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 2
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
薄桜鬼×天上の愛地上の恋 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:玉響の夢 5
黒執事×天上の愛地上の恋 吸血鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼に沈む 0
天愛×F&B 昼ドラ転生ハーレクインクロスオーパラレル二次創作小説:獅子と不死鳥 1
天上の愛地上の恋 現代転生ハーレクイン風パラレル二次創作小説:最高の片想い 4
バチ官×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:二人の天使 3
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
YOI×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:皇帝の愛しき真珠 6
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 2
薔薇王の葬列×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:黒衣の聖母 3
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 2
薄桜鬼×火宵の月 遊郭転生昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁 1
天愛×火宵の月陰陽師クロスオーバパラレル二次創作小説:雪月花~また、あの場所で~ 0
薄桜鬼×天上の愛地上の恋腐向け昼ドラクロスオーバー二次創作小説:元皇子の仕立屋 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君~愛の果て~ 1
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師~嵐の果て~ 1
F&B×天愛 昼ドラハーレクインクロスオーバ―パラレル二次創作小説:金糸雀と獅子 1
天愛 異世界ハーレクイン転生ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 氷の皇子 0
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
F&B×天愛吸血鬼ハーレクインクロスオーバーパラレル二次創作小説:白銀の夜明け 2
名探偵コナン×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧に融ける 0
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「朝早くから呼び出してしまって済まなかったな、クリスティーネ。」「いいえ、お気になさらず。陛下、わたしに話とは何ですか?」「今日のレースを、そなたと観戦しようと思ってな。そなたが嫌であれば・・」「是非ご一緒に観戦させていただきますわ、陛下。」「そうか。ではレースを観戦する前に、食事をしよう。」フェリペがそう言って指を鳴らすと、給仕人が部屋に入ってきて、料理を載せた皿を盆ごとフェリペとクリスティーネの前に置いた。 給仕人が盆を開けると、皿にはチーズと野菜で彩られたサンドイッチが載っており、皿には、“ミラ”と店名が刻まれていた。「この店は、余が王太子時代から贔屓にしていたところでな、サンドイッチが絶品なのだ。」「まぁ、美味しそうですわね。」クリスティーネはそう言うと、サンドイッチを食べた。「どうだ?」「野菜とチーズの相性が良くて、チーズが口の中でとろけているのがわかりますわ。」「そうであろう。余も食べるとするか・・」 朝食を終えたフェリペに連れられ、クリスティーネは彼とともにレミンスター競馬場へと向かった。「アンジェリーナよ、あの娘はまだ来ておらぬのか?」「はい、そのようです。」艶やかな紫のドレスを纏ったアンジェリーナは、そう言うと自分の隣に立っている男を見た。 彼とは長い付き合いであるが、アンジェリーナはこの男が余り宮廷内で権力を持っていないことに気づき始めていた。前国王が急死し、当時16であったフェリペが国王として即位した頃に摂政を務めていたこの男は、宮廷内での己の立場が弱いものとなった今でも、自分の言う事に全ての者が従うと信じて疑わない。「アンジェリーナ、今日のお前は美しい。」「有難うございます。」「そなたが女に生まれておったらよかったものを。そうすれば陛下の目にも留まったであろうな。」「ご冗談を・・」男の言葉をさらりと受け流しながら、アンジェリーナは彼に憐れみの目を向けた。「どうした?」「いえ、何でもありません・・」男がパドックの方を見た時、突然競馬場にファンファーレが鳴り響いた。「国王陛下のお成~り!」アンリの声を聞き、競馬場に集まった全ての貴族達が深く頭を垂れ、国王を迎えた。アンジェリーナ達も彼らに倣って深く頭を垂れ、国王が競馬場に入場してくるのを見た。 フェリペの隣には、あのクリスティーネの姿があった。国王にエスコートされたクリスティーネは、美しい真紅のドレスを纏っていた。「あれが・・」「彼女は、陛下のお気に入りだそうですよ。」「あのような小娘が、陛下の寵愛を受けているだと!?」隣で男がアンジェリーナの言葉を聞いて悔しそうに顔を歪めるのを見て、彼はふっと口端を上げて笑った。 この男には、まだ利用価値がある。 インペリアル・ボックスに入ったクリスティーネは、そこから競馬場が一望できる事を知り、驚いていた。「陛下、あの・・」「そなたは何も言わなくてもよい。」「陛下、まもなくレースが始まります。」「わかった。」「ではわたくしはこれで。」アンリは姿勢を正し、フェリペとクリスティーネに頭を下げると、インペリアル・ボックスから出て行った。にほんブログ村
2014年05月30日
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「ワルツがお上手ですね。」「まぁ、ありがとう。」クリスティーネがそう言ってアレクサンドロに微笑むと、彼はすっと彼女から離れて何処かに行ってしまった。「不思議な方・・」クリスティーネはそう呟くと、ドレスの裾を摘んでフィリップの方へと向かった。「フィリップ様、わたくしはこれで失礼致します。」「そうですか。お気をつけてお帰り下さい、クリスティーネ様。」クリスティーネはフィリップに頭を下げると、大広間から出て行った。「なぁアレクサンドロ、あのお嬢様は落とせそうか?」「さぁな。」 バルコニーでアレクサンドロが友人達とそんな話をしていると、急に外が騒がしくなった。「何だ?」「フィリップが旅芸人でも呼んだのか?」「まさか・・」「旦那様、大変です!親衛隊が・・」「何だと!?」執事の言葉を聞いたフィリップは彼を突き飛ばし、何やら慌てた様子で大広間から出て行った。「親衛隊だ、そこを動くな!」 フィリップスが書斎の引き出しを漁っていると、突然親衛隊の制服を着た数人の兵士達が書斎に入ってきた。「何だ、君達は!?誰の許しを得てここに・・」「我々は、陛下の命令に従っているだけだ。」「やめろ、離せ!」 屈強な兵士達に両脇を固められ、フィリップはなすすべもなく彼らに身柄を拘束された。「これから大変なことになりそうだなぁ。」 翌朝、クリスティーネがコーヒーを飲んでいると、ダイニングにアウグストが入ってきた。「お嬢様、フィリップ様が親衛隊に逮捕されました。」「逮捕?それは一体どういうことなの?」「それは、わたくしにもわかりません。噂によれば、フィリップ様は王家への謀反を企んでいたようだとか・・」「まぁ・・」「お嬢様、今日のご予定は?」「11時に、ウェストン子爵夫人のお茶会に出席して、その後はレミンスター競馬場でレースを観戦する事になっているわ。」「今日行われるレースには、国王陛下もいらっしゃいますから、失礼のないようにしてくださいね?」「あなたにそんな事を言われなくてもわかっているわ。アウグスト、後でわたしの部屋に来て頂戴。」「かしこまりました。」 朝食の後、クリスティーネは寝室にアウグストを呼び、彼とともに今日着るドレスを選んだ。「このドレスはお嬢様のブロンドに映えると思いますよ?」「そうね、それにするわ。」 真紅のドレスに着替えたクリスティーネが玄関ホールに降りると、そこには親衛隊の制服を着た一人の兵士が立っていた。「クリスティーネ=ファウジア様でいらっしゃいますね?」「ええ。あなたは?」「わたくしはリカルドと申します。クリスティーネ様、陛下がお呼びです。」「まぁ、陛下が?」にほんブログ村
2014年05月30日
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ファウジア伯爵家の家長となったクリスティーネは、社交界の行事に顔を出すようになった。「なんだか、休む暇がないわ・・」「これくらいで弱音を吐いてはなりませんよ、お嬢様。」ビトールの執務室で書類仕事をしながらクリスティーネがそう言って溜息を吐くと、アウグストは彼女の前に書類を置いた。「これもサインしておいてください。」「これも?」「ええ。あなた様に、休んでいる暇などございませんよ?」15歳の当主にアウグストは厳しい声を掛けると、執務室から出て行った。「クリスティーネ、少しは休みなさい。」「はい、お母様。」「余り無理をすると、身体を壊してしまいますよ?」 ダイニングで昼食を取っているクリスティーネの顔色が少し悪いことに気づいたリリスは、そう言って彼女の手を握った。「お嬢様、今夜はフィリップス様主催の夜会です。」「わかりました、出席します。」 化粧室の鏡の前で、華やかなドレスを纏ったクリスティーネは嬉しそうに笑いながら化粧室から出て行った。「ではお母様、行って参ります。」「気を付けて行くのですよ。」「お嬢様、行ってらっしゃいませ。」玄関ホールでリリスとアウグストに見送られ、クリスティーネはフィリップ=バレンティン男爵主催の夜会に出席した。―あれは・・―クリスティーネ様ですわ、奥様。―お美しい方ね・・ 夜会に出席したクリスティーネに、貴族達が無遠慮な視線を送った。クリスティーネはフェリペから授けられたロザリオをそっと握ると、笑顔を浮かべてフィリップの元へと向かった。「バレンティン男爵様、本日はこのような場にお招きいただいてありがとうございます。」「クリスティーネ様、家督を継がれて何かと大変なことがおありでしょう?何か困ったことがあれば、是非わたしに相談してください。」「ええ、そう致しますわ。」クリスティーネはフィリップに愛想笑いを浮かべながら、その場から離れて人気のないバルコニーへと向かった。「月が綺麗ですね、クリスティーネ様。」背後から急に声がしてクリスティーネが振り向くと、そこには軍服姿の青年が立っていた。「あなたは?」「失礼、わたくしはアレクサンドロ=マコーリーと申します。」「何故わたくしの名を?」「15にしてファウジア伯爵家の家督を継がれた美貌の令嬢・・社交界ではあなたの事をそう讃える方が多いですよ。」「まぁ、そうなのですか・・」クリスティーネがそう言ってアレクサンドロを見た時、楽団がワルツの調べを奏で始めた。「わたしと、踊って下さいませんか?」「ええ。」クリスティーネはアレクサンドロの手を取り、踊りの輪へと加わった。にほんブログ村
2014年05月30日
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「そなたの父、ビトールは余にとって良き友であり、臣下であった。」フェリペはそう言うと、クリスティーネの手をそっと握った。「そなたの父が死んだのは、余の所為だ。余が、あのような事を命じたばかりに・・」「陛下、一体どういうことなのです?」「アンリ、席を外してくれ。」「御意。」アンリはちらりとクリスティーネを見ると、フェリペの私室から出て行った。「ビトールには、アレハンドロの寵愛を受けていたある者の身辺を探れと命じた。」「ある者?」「宮廷でその者の噂をそなたも聞いた事があろう、アンジェリーナという名を。」「アンジェリーナ・・お父様の葬儀の時、墓地の近くにいた方ですか?」クリスティーネがそう言ってフェリペを見ると、彼はブランデーを一口飲んだ。「その者は、余の弟、アレハンドロを毒殺した疑いが掛けられている。」「そんな・・」あの天使のような美しい顔をした修道士に、人が殺せるのだろうか。「クリスティーネよ、人はみかけによらぬもの。アンジェリーナの身辺を探っていたそなたの父は、かの者の部下に刺殺されたのだ。その部下を操っていたのは、アンジェリーナだ。」「どうして、彼がそんな事を?」「それは余にもわからぬ。だが、アンジェリーナには気を付けた方がよいぞ。」「わかりました。」クリスティーネはそう言ってフェリペに頭を下げた時、フェリペは金の十字架の中央にルビーが嵌めこまれたロザリオを彼女の掌に載せた。「これは王家の宝だ。」「そのような大事なものを、頂く訳には参りません!」「ビトールの跡を継ぎ、ファウジア家の家長となったそなたを、宮廷の者達が放っておくまい。余の庇護を受けていると知れば、そやつらも簡単にそなたに手出しは出来なくなるだろう。」「ありがたき幸せにございます、陛下・・」 宮廷は人の欲望や憎悪が渦巻く場所だ。その宮廷に上がることになったクリスティーネの身を案じたフェリペは、敢えてクリスティーネに王家の宝を授けたのだろう。そんな彼の想いを知ったクリスティーネは、フェリペに対して深く頭を垂れた。「おや、クリスティーネ様ではありませんか?」「アンジェリーナ様・・」「そのロザリオ・・」アンジェリーナは淡褐色の瞳を金色に光らせながら、クリスティーネが首に提げているロザリオを見た。「陛下から頂きました。」「そうですか・・」クリスティーネの言葉を聞いたアンジェリーナは、舌打ちすると彼女に背を向けて去っていった。「アンジェリーナよ、何故浮かない顔をしておるのだ?」「いえ・・少し気に喰わぬことがありまして・・」「そうか。それよりも聞いたか?陛下があのビトールの遺児に、王家の宝を授けたそうだ。」「ええ、聞いております。先程宮廷でクリスティーネ様にお会い致しました。15にしてファビアノ家の家督を継げるだけの気質を持った美しい方でした。」「わたしもクリスティーネ様に一度はお会いしてみたいものだ。」「浮気はなさらないでください。」アンジェリーナはそう言うと、自分を抱いている男の脇腹を抓った。「そなたは相変わらず、嫉妬深いな。」にほんブログ村
2014年05月30日
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「遅いわねぇ、お父様。今日もお仕事かしら?」「そうね。」 ファウジア邸では、ビトールの帰りを待ちながらリリスとクリスティーネが食後の紅茶を飲んでいた。「奥様、大変です、旦那様が・・」「アウグスト、あの人に何かあったの?」「実は・・先程旦那様が、下町の淫売宿でお亡くなりになられました・・」執事長・アウグストの言葉を聞いたリリスはショックの余り、その場で気を失ってしまった。「お母様、しっかりなさって!誰か、お母様をお部屋に運んで頂戴!」二人の背後に控えていた数人のメイド達が慌ててリリスの身体を支えながらダイニングから出て行った。「アウグスト、お父様がお亡くなりになったというのは本当なの?」「はい、お嬢様。旦那様は何者かによってナイフで腹を刺されて・・」「何てこと・・」「これから、旦那様の遺体を引き取りに行って参ります。」「アウグスト、わたしも行くわ。」「お嬢様・・」「お父様の死を、受け入れたいの。お願いアウグスト、わたしも連れていって。」「・・わかりました。」 数分後、アウグストとともにクリスティーネはビトールの遺体が安置されている警察署へと向かった。「お父様で、間違いありませんか?」「はい、間違いありません・・父です。」ベッドに寝かせられたビトールの遺体を警察官に見せられたクリスティーネは、そう言うと嗚咽を漏らさぬようにハンカチで口元を覆った。「父を殺した犯人は、捕まったのですか?」「それが・・場所が場所ですから、目撃証言がなくて・・捜査は難航しております。」「そんな・・」「お父様の無念は必ず我々が晴らしてみせます。」「お願い致します、早く父を殺した犯人を捕まえてくださいませ。」 警察署でビトールの遺体を引き取ったアウグストとクリスティーネは、木製の粗末な棺に入れられた彼の遺体を葬儀用の馬車の中へと運んだ。土砂降りの雨に降られ、クリスティーネは全身ずぶ濡れになりながらも、何とか父の棺を馬車の中に納める事が出来た。「アウグスト、葬儀の準備はわたしがします。」「いいえ、お嬢様、それはわたくしがいたします。」 ビトール=ファウジアが下町の淫売宿で何者かに刺殺されたというニュースは、瞬く間に宮廷中に広がった。「クリスティーネ様、余り気を落とさないでくださいませ。」「今は辛いだろうけれど・・頑張って。」「ありがとう、皆さん。」 葬儀の後、クリスティーネは弔問客達に対して気丈に振る舞った。「お母様、起きていらっしゃいますか?」「ええ・・」 弔問客達が帰った後、クリスティーネがリリスの寝室を訪れると、彼女はそう言ってベッドからゆっくりと起き上がった。「クリスティーネ、あなたが明日からファウジア家の家長となるのですよ。」「わかりました、お母様。お父様の遺志を継いで、わたしがこのファウジア家を守っていきます。」「頼みましたよ、クリスティーネ。」こうしてクリスティーネは、僅か15歳にして家督を継ぐ事になった。家督を継いだ彼女の最初の仕事は、宮廷に上がり、国王にファウジア家当主として挨拶をすることだった。「お初にお目にかかります、国王陛下。」「堅苦しい挨拶はよい。クリスティーネよ、後で余の部屋に来るがよい。」「はい・・」 国王・フェリペとの謁見を済ませたクリスティーネは、王の小姓・アンリに連れられてフェリペの私室へと向かった。「失礼致します、陛下。」「入るがよい。」にほんブログ村
2014年05月30日
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「最近、そなたのことを色々と嗅ぎまわっておる連中が居ると聞いたが?」「ええ。まぁ、誰なのかは見当がつきますが。」アンジェリーナはそう言って男にしなだれかかると、彼は満足げな笑みを口元に浮かべて彼の褐色の髪を優しく梳いた。「どうするつもりだ?」「どうするもこうするも・・口封じをするしかないでしょう?」「その目・・わしはお前が時折見せる獣のような目に惹かれたのだ。」「まぁ・・」「アンジェリーナ、お前はわしの守護天使だ!ずっとわしの傍に居ておくれ!」男はそう言ってアンジェリーナの細い腰を掴むと、そのまま彼の上に覆い被さった。「いけませんよ・・心臓に負担がかかるようなことは・・」「今更何を言うんだ、アンジェリーナ?誘ったのは君の方だろう?」執拗に自分の乳首を舐めまわす男の顔を見ながら、アンジェリーナは吐き気を堪えた。 この男と自分との繋がりは、金だけだ。だが男は、アンジェリーナが自分を心の底から愛してくれていると思い込んでいる。(男なんて・・馬鹿な生き物だ。)男の愛撫に感じるふりをしながら、アンジェリーナはそっと目を閉じた。「旦那、こっちだ。」「リコ、話とはなんだ?」 ビトールはリコに呼び出され、ある場所へと向かった。そこは、金のある男が男娼を買う淫売宿だった。「ここに、アンジェリーナが居るのか?」「ああ。あいつは二階の部屋でパトロンとお楽しみ中さ。」「部屋に案内しろ。」 リコに連れられてアンジェリーナが居るという部屋に入ったビトールは、部屋が無人であることに気づいた。「リコ、お前・・」「済まねぇ旦那、俺も人の子だ。もう危ない橋は渡りたくねぇんだよ。」リコはそう言って俯くと、そのままビトールに身体ごとぶつかっていった。「貴様・・」ビトールは腹部をナイフで刺され、己の腹から飛び出すナイフの柄を見ながらそのまま床に蹲った。「わたしを探っていたのは、あなたでしたか。」「アンジェリーナ・・」「申し訳ありませんが、あなたにはここで死んで頂きますよ、閣下。」アンジェリーナはそう言って笑うと、止血帯の役目を果たしているナイフの柄を掴み、それを一気に引き抜いた。ビトールの腹部から鮮血が噴き出し、彼は思わず痛みで呻いた。「助けてくれ、誰か・・」「さようなら・・閣下。」(クリスティーネ・・)意識が朦朧とする中、ビトールは愛しい娘の笑顔を脳裏に浮かべた。(早く、家に帰らなければ・・娘が、わたしの帰りを待っている・・)にほんブログ村
2014年05月30日
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「この男を知らぬか?」「さぁ、知らないねぇ。」ファウジア邸でクリスティーネの誕生日パーティーの準備が進められている頃、ビトールは下町の酒場に来ていた。彼は店員の男にアンジェリーナの写真を見せたが、男はそう言って首を横に振って何処かへと行ってしまった。(また、空振りか・・) 8年前、国王・フェリペからアンジェリーナの身辺調査を依頼されたビトールは、彼がかつてこの界隈で客を取っていたという噂を聞き、度々足を運んではアンジェリーナの事を聞き回っていたが、収穫はゼロにひとしかった。「旦那、あんたアンジェリーナのこと探ってるのかい?」そう言ってビトールに声をかけてきたのは、農民風の男だった。「ああ、そうだが・・お前は?」「俺はリコ。アンジェリーナとはガキの頃からの幼馴染さ。」「そうか・・ではリコ、昔この界隈でアンジェリーナが客を取っていたという噂があるが、それは本当なのか?」「ああ、本当さ。当時あいつが勤めていた娼館はもう潰れちまって、今は更地になってるけどね。何でも、火事が起きて燃えちまったんだと。」「娼館の経営者が、今何処で何をしているのかは知っているのか?」「ああ・・アントニオなら、数年前に死んじまった。」「そうか・・」「旦那、アンジェリーナのことはあまり探らない方がいいぜ?」「何故だ?」「あいつは、裏でヤバイ連中と繋がっているからさ。あいつに近づき過ぎた者は、必ずその連中に消されるんだ。」リコと名乗った男は、そう言ってビトールの肩を叩くと、酒場から出て行った。ビトールは調査を切りあげ、家族の元へと帰った。「お帰りなさい、あなた。」「ただいま。」「お父様、またお仕事をしていらしたの?酷く疲れた顔をしていらっしゃるわ?」「心配は要らないよ、クリスティーネ。そのネックレス、良く似合っているよ。」「ありがとう。これ、お祖母様のものだったんですって。」愛娘の胸元を飾る真珠のネックレスは、シャンデリアの下で美しい輝きを放っていた。「クリスティーネ様、お誕生日おめでとうございます。」「ありがとう。フィリップ様も来てくださったのですね。」「ええ。我らが歌姫の誕生を祝う宴ですからね。クリスティーネ様、あなたの為に作った曲を、歌ってくださいませんか?」「ええ、喜んで。」大広間に、著名な音楽家・フィリップのピアノの音色と、クリスティーネの美しく澄んだソプラノの歌声が響くと、それまで談笑していた招待客は話をするのを止め、彼女の歌声に聞き入った。「素晴らしい歌声だこと・・」「まるで、天使のような歌声だわ・・」クリスティーネが歌い終ると、彼女は招待客達の喝采を浴びて恥ずかしそうに頬を赤く染めた。「クリスティーネ、素晴らしい歌声だったぞ。」「ありがとうございます、お父様。」「これは一流の職人に作らせたものだ。大切にしなさい。」そう言ってビトールがクリスティーネに手渡したのは、鞘に女神の彫刻が施された護身用の懐剣だった。「まぁ、素敵・・」「これを肌身離さず身につけておくのだぞ。」「わかりました。」 父から贈られた懐剣の意味など知らずに、クリスティーネはそれを受け取って彼に笑顔を浮かべた。悲劇が、すぐ傍に迫りつつある事も知らずに。にほんブログ村
2014年05月30日
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クリスティーネが母・リリスとともに王宮へと向かうと、そこには喪服姿の貴族達がアレハンドロの死を嘆き悲しんでいた。「お母様、あの方達はアレハンドロ様がお亡くなりになって悲しんでいらっしゃるの?」「ええ、そうですよ。さぁクリスティーネ、わたくしたちもアレハンドロ様の為に祈りましょう。」「はい・・」クリスティーネがリリスと王宮礼拝堂の中へと入ると、そこにはアレハンドロの棺に取り縋って泣いている王太后の姿があった。「この度は、お悔やみ申し上げます、王太后様。」「リリス、そなたも来てくれたのか。」王太后はそう言ってハンカチで涙を拭くと、リリスの隣に立っているクリスティーネの方を見た。「この子が、そなたの娘か?」「はい、クリスティーネと申します。」「初めまして、クリスティーネと申します、王太后様。」クリスティーネは母から教わった通りに、優雅に王太后に向かって礼をした。「まぁ、可愛らしいこと。」「王太后様、ミサのお時間が迫っておりますわ。」「わかった。リリス、後で会おうぞ?」「はい・・」女官達に身体を支えられながら、礼拝堂から出て行く王太后を、リリス達は静かに見送った。 ほどなくして、アレハンドロの冥福を祈るミサが礼拝堂で執り行われた。「母上、余りお気を落とされぬよう・・」「フェリペ、お前は弟が死んでも悲しくはないのか!?」「母上・・」 葬儀の後、フェリペはそう母親から詰られ、彼は溜息を吐いた。王の仕事は雑務が多く、たった一人の肉親である弟の死を彼が嘆き悲しんでいる時間などない。「母上、わたしは決して・・」「お前は薄情者だ!」王太后はそうフェリペに向かって怒鳴ると、執務室から出て行った。「お呼びでしょうか、陛下。」「ビトールよ、また呼びだしてしまってすまぬな。」「いいえ。先程、王太后様が執務室から出て行かれたのを見ましたが・・一体何があったのですか?」「何でもない。それよりもビトール、お前にひとつ頼みたい事がある。」「頼みたい事?」「ああ。アンジェリーナの身辺を密かに探って欲しい。」「かしこまりました。では、わたくしはこれで失礼致します。」妻子とともにビトールは王宮から辞した。 アレハンドロの突然の死から8年もの歳月が過ぎ、美しく成長したクリスティーネは、15歳の誕生日を迎えた。「誕生日おめでとうございます、クリスティーネ様。」「ありがとう。」「奥様がお呼びですよ。」「わかった、すぐに行くわ。」「クリスティーネ、お前に渡したいものがあるのよ。」朝食の後、クリスティーネが母の部屋を訪れると、リリスは彼女にビロードの箱に入った真珠のネックレスを手渡した。「お母様、これは?」「これはわたしの母・・あなたのお祖母様のもので、わたしに受け継がれたものです。大切にするのですよ。」「はい、お母様!」 鏡の前で真珠のネックレスをつけたクリスティーネは、嬉しそうに何度も真珠のネックレスに触れた。「真珠は繊細な宝石ですから、お手入れには気をつけるのですよ?」「わかりました、お母様。」にほんブログ村
2014年05月30日
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「あなた、王宮からお手紙が届いておりますわ。」「王宮から?」 娘との遠乗りを楽しんだビトールが邸に戻ると、リリスがそう言って彼に王家の紋章が捺された真紅の封筒を手渡した。「これは・・何ということだ・・」「どうかなさいましたの、あなた?」「リリス、わたしは急いで王宮に向かわねばならん。」「何が書いてあったのですか?」「王弟閣下が、お亡くなりになられた。」「まぁ・・」「家の留守を頼むぞ。」「はい。あなた、お気を付けて。」「ああ。」乗馬服から正装である軍服に着替えたビトールは、妻にキスするとそのまま邸から出て行った。「お父様は?」「お父様なら、王宮に行かれましたよ。クリスティーネ、着替えてらっしゃい。わたくし達も王宮に行きますよ。」「わかりました、お母様。」 ビトールが王宮の礼拝堂へと向かうと、そこには息子を亡くした王太后がハンカチを握り締めながら王弟・アレハンドロの遺体に取り縋って涙を流していた。「アレハンドロ、何故この母よりも先に死んだのですか!?」「落ち着いてください、母上。」嘆き悲しむ王太后の身体を支えている国王・フェリペの顔にも苦渋の表情が浮かんでいた。「陛下・・」「おお、来てくれたか、ビトール。」「この度はお悔やみ申し上げます。王弟閣下は何故お亡くなりになられたのですか?」「それが・・」「あの男に毒を盛られたのです!アレハンドロはあの男に騙されたのです!」「あの男?」「ビトール、余の部屋へ参れ。そなたに話したい事がある。」「わかりました・・」ビトールがフェリペとともに礼拝堂を出て、彼の私室へと向かう途中、彼は一人の僧侶とすれ違った。 その僧侶は女と見紛うほどの美貌の持ち主で、華奢な身体つきもあいまってか、ビトールは彼を一目見た時、女人禁制であるこの場所に修道女が迷い込んでしまったのかと思った。「陛下、この度はお悔やみ申し上げます。」「そなたも来たか、アンジェリーナ。」「ええ。何と言っても、アレハンドロ様はわたくしにとって特別なお方ですから・・」そう言って伏し目がちにフェリペを見る僧侶の姿は、まるで最愛の夫を亡くした新妻のようであった。「陛下、さっき礼拝堂で会った僧侶・・彼は何者なのですか?」「あれは、アンジェリーナといってな、アレハンドロが生前懇意にしていた修道士だ。まぁ、修道士といってももうすぐ還俗するという噂を聞いておる。」「そうですか・・」「ビトール、そのアンジェリーナの事でそなたに話がある。」「何でしょうか?」「そなたは、アレハンドロが男色家であったことを知っておろう?」「ええ。それがどうかなさいましたか?」「アレハンドロの相手は、あのアンジェリーナだったのではないかという噂が宮廷内に広まっていてな・・現に、二人が仲睦まじい様子で手を繋ぎながら中庭を歩いている姿を目撃した女官が居る。今この時期に、そのような醜聞が広まれば・・」「一大事ですね。陛下、アンジェリーナはどうなさるおつもりで?」「アンジェリーナはもうすぐ還俗する身だ。いずれ宮廷で会うこともあろう・・」 フェリペはそう言うと、眉間に皺を寄せた。「偏頭痛の発作が・・」「心配事が多いのだ。ビトール、アンジェリーナから目を離すでないぞ。」「御意。」にほんブログ村
2014年05月30日
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第一部「旦那様、お生まれになりました!」「そうか。男か、女か?」妻・リリスが産気づいてから数日後、彼女が籠っていた寝室からシーツに包まれた赤子を抱いた女中が出て来たのを見た男は、そう言って女中に詰め寄った。「男です。」「何たることだ!それでは、我ら一族の野望が潰(つい)えてしまうではないか!」男はそう女中に怒鳴ると、彼女の手から赤子を奪い取った。「旦那様、何をなさいます!」「こやつの命を今ここで奪ってやる!」「お止め下さい!」女中が男から赤子を奪い取ろうとした時、赤子と男の目が合った。赤子はじっと男を見た後、満面の笑みを浮かべた。「まぁ、男でもよい・・」「旦那様?」 男がリリスの元へと向かうと、彼女はベッドに力なく横たわっていた。「リリス。」「あなた・・申し訳ございませんでした・・」「謝るな。この子は、我が一族の希望の星となるだろう。」男はそう言ってリリスに微笑むと、そっと赤子の頭を撫でた。「何を考えていらっしゃるの、あなた?」「この子の名前はクリスティーネだ。」「それは女の名前ではありませんか!」「そうだ。こいつは男だが、女として育てる事にした。」「そんな、あなた・・」「もうこれは決まったことだ、リリス。」「そうですか・・ならば、わたしはあなたに従うまでですわ。」彼女はそう言うと、涙を堪えた。 それから7年後、ファウジア家の一人娘・クリスティーネの誕生日パーティーが盛大にファウジア邸で開かれた。「おめでとうございます、クリスティーネお嬢様。」「おめでとうございます。」「ありがとう、みんな。」華やかなドレスを身に纏ったクリスティーネは、そう言うと使用人達や招待客達に笑顔を振りまいた。「クリスティーネ様は可愛らしいこと。」「本当ね。まるで、天使のようだわ。」「成長したらさぞや美人になられることでしょうね。」「ええ。」「奥様も、色々と大変じゃございません?」「いいえ、ちっとも。あの子はわたくしの生きる希望ですもの。」リリスはそう言うと、招待客達に愛想笑いを浮かべた。「お母様。」「あらクリスティーネ、どうしたの?」「これ、お母様に。」クリスティーネがそう言ってリリスに差し出したのは、白い薔薇だった。「まぁ、これをわたくしに?ありがとう、クリスティーネ。」リリスはクリスティーネを抱き締めると、彼女の髪を優しく梳いた。「あなた、これで良かったのかしら?」「何がだ?」「クリスティーネを、女として育てたこと・・もし、あの子が真実を知ってしまったら・・」「その時は、わたしからあの子に話す。だからお前は、何も心配する事はない。」「はい、あなた・・」 リリスは夫に抱き締められながら、我が子の将来を案じた。「クリスティーネ、気を付けて行くのですよ?」「はい、お母様。では行って参ります。」翌日、クリスティーネは父親と共に遠乗りへと向かった。「クリスティーネ、剣術を習いたくないか?」「ええ、習いたいですわ。」「そうか、ではわたしが稽古をつけてやろう。」 クリスティーネの父・ビトールはそう言うと、クリスティーネに優しく微笑んだ。にほんブログ村
2014年05月30日
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