FLESH&BLOOD 二次創作小説:Rewrite The Stars 6
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
火宵の月 芸能界転生パラレル二次創作小説:愛の華、咲く頃 2
火宵の月 ハーレクインパラレル二次創作小説:運命の花嫁 0
火宵の月 帝国オメガバースパラレル二次創作小説:炎の后 0
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧の騎士 2
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:幸せの魔法をあなたに 3
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
YOI火宵の月パロ二次創作小説:蒼き月は真紅の太陽の愛を乞う 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 0
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
火宵の月 昼ドラ大奥風パラレル二次創作小説:茨の海に咲く華 2
火宵の月 転生航空風パラレル二次創作小説:青い龍の背に乗って 2
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
火宵の月×薔薇王の葬列 クロスオーバー二次創作小説:薔薇と月 0
金カム×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:優しい炎 0
火宵の月×魔道祖師 クロスオーバー二次創作小説:椿と白木蓮 1
薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:それを愛と呼ぶなら 1
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:黄金の楽園 0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳥籠の花嫁 0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:蒼き竜の花嫁 0
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:月の国、炎の国 1
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
火宵の月 転生昼ドラパラレル二次創作小説:それは、ワルツのように 1
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師 1
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
FLESH&BLOOD×黒執事 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧の器 1
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華 0
火宵の月 現代ファンタジーパラレル二次創作小説:朧月の祈り~progress~ 1
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:ガラスの靴なんて、いらない 2
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
火宵の月 吸血鬼オメガバースパラレル二次創作小説:炎の中に咲く華 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:黎明を告げる巫女 0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:光の皇子闇の娘 0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:闇の巫女炎の神子 0
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く 1
火宵の月 昼ドラファンタジー転生パラレル二次創作小説:Ti Amo~愛の軌跡~ 0
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~ 3
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら 2
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
火宵の月 異世界ハーレクインファンタジーパラレル二次創作小説:花びらの轍 0
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達 1
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花 2
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔 6
名探偵コナン腐向け火宵の月パラレル二次創作小説:蒼き焔~運命の恋~ 1
火宵の月 千と千尋の神隠し風パラレル二次創作小説:われてもすえに・・ 0
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~ 15
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて 10
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう 8
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
火宵の月×天愛クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 0
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい 4
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
魔道祖師×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想うは、あなたひとり 2
火宵の月×ハリー・ポッタークロスオーバーパラレル二次創作小説:闇を照らす光 0
火宵の月 現代転生フィギュアスケートパラレル二次創作小説:もう一度、始めよう 1
火宵の月 異世界ハーレクインファンタジーパラレル二次創作小説:愛の螺旋の果て 0
火宵の月 異世界ファンタジーハーレクイン風パラレル二次創作小説:愛の名の下に 0
火宵の月 和風転生シンデレラファンタジーパラレル二次創作小説:炎の月に抱かれて 1
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 1
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 1
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
火宵の月 異世界ファンタジーハーレクイン風昼ドラパラレル二次創作小説:砂塵の彼方 0
全151件 (151件中 101-150件目)
「えっ、ロシアへ?」ゾフィーはステファニーからロシアに行くと聞いて食べていたクッキーでむせそうになった。「はい、お義母様。エドガー様が悪の組織に連れ去られたので。」「そう・・お気をつけてね。あちらは、かなり物騒になっているそうよ。」「お義母様、行って参りますわ。」翌朝、ステファニーはゾフィーが頼んでいた馬車に乗り、一路ロシアへと向かった。(エドガー、待ってろよ。必ず助けてやるからな!)にほんブログ村
2012年03月04日
コメント(0)
ルドルフとワルツを踊り終えたステファニーは、エドガーの元へと向かったが、彼はいなかった。(おかしいな。さっきまでここにいたのに。)ステファニーはエドガーをくまなく探したが、ホールのどこにも彼はいなかった。エドガーは黙って自分を置いて出ていったりしない。だがエドガーはここにはいない。(エドガーの身に何か起こったとか!?)ステファニーがそう思うと、急に胸騒ぎがした。このままシュタインセルフ城に帰ってエドガーが行方不明になったことをゾフィーに告げようか。それとも警察に行こうか・・ステファニーがエドガーが突然いなくなったことに動揺し、どうすればいいのか考えていたところ、誰かに肩を叩かれた。振り向くと、そこには自分とそっくりの少女が立っていた。「わたし、あなたの恋人の居場所、知ってるわ。」「彼はどこにいるの?」「知りたい? 教えてあげてもいいけどね。」そう言って少女は笑った。(何なんだ、こいつ? エドガーの居所知ってるなら、早く教えろっつーの!)怒鳴り散らしそうになるのを、ステファニーはなんとかこらえた。「ええ、知りたいわ。彼がどこにいるのか、教えてくださる?」「いいわよ。でもタダでは教えないわ。」「どういうこと?」「私と勝負して勝ったら、あなたの恋人の居場所を教えてあげる。」少女はそう言って従者に目配せした。従者は少女に袋を渡した。袋の中から、少女は一振りの剣を取りだした。それは、蒼い鞘で中央にルビーが嵌め込まれたものだった。「あなたも、これと同じものを持っているんじゃなくて?」少女はそう言って従者に再び目配せした。すると従者は、ステファニーにロンドンの家に置いてきたはずの剣を持ってきた。「これは、家に置いてきたはず・・」「私が武器を持って、あなたが丸腰だったら、勝負にならないでしょ? さぁ、お抜きなさいな。」そう言って少女は鞘から剣を抜いた。ステファニーは鞘から剣を抜いて、少女を睨んだ。2人の少女が剣を抜いているのを見て、余興だと思った人々が2人の間に集まってきた。「勝負は1本。どちらが勝っても文句なしよ。」「わかった。」少女はステファニーに突進した。ステファニーは少女の攻撃をかわして、少女の肩を刺した。少女の肩を飾っていた薔薇の飾りが取れ、白い肌が露わになった。「なかなかやるわね。でもこちらも負けなくてよ!」少女はそう叫んで、ステファニーの肩を刺した。ステファニーは少女の攻撃をかわし、少女の手首から剣を払い、彼女の喉元に剣を突きつけた。「勝負あったわね。」少女は両手を上げ、降参のポーズを取った。「私の恋人はどこにいるの?」「・・わかったわ。教えてあげましょう。私についてらっしゃい。」ステファニーは少女の言葉を信じて、彼女の後についていった。にほんブログ村
2012年03月04日
コメント(0)
「レパード、何てことを・・今すぐその人を離して。その人は私達とは無関係・・」そうアレクサンドラが言うと、彼女の喉元にナイフが突きつけられた。「私に指図をするな、“ルビー”。こいつはいい人質になる。これで“サファイア”をおびきだすことができる。」レパードはそう言ってにやりと笑って気絶したエドガーを見た。「また例の場所で会おう。」レパードはエドガーを抱きかかえ、フードの裾を翻して会場を去っていった。「レパード・・」アレクサンドラは呆然としてレパードが去っていた窓を見つめた。にほんブログ村
2012年03月04日
コメント(0)
エドガーとステファニーが舞踏会が行われている広間に入ると、一斉に貴族達の好奇の視線に2人はさらされた。ーあの方は、確か・・ーセルフシュタイン家の・・ステファニーは緊張した面もちで胸を張って歩いた。「大丈夫、周りの言うことなんか気にしないで。」エドガーはそう言ってステファニーに微笑んだ。貴族達の視線ー特に貴婦人達は、また入り口の方に釘付けになった。そこにはコバルトブルーの燕尾服を着た金髪碧眼の青年-ルドルフ皇太子が登場したのだ。ールドルフ様よ・・ーなんて素敵なの・・ーわたくし、あんな人だったら結婚したいわ・・貴族の令嬢達は、そう囁き合いながらルドルフを好色な目で見ていた。ルドルフはまっすぐにエドガーとステファニーの元へとやって来た。「今夜はわざわざ招待状を送ってくださってありがとうございます、ルドルフ様。」「いいんですよ、あんなものは。それよりも、私のせいで1組の恋人達の仲が壊れてしまうと思うと心が苦しくなって・・招待状を送っただけのことです。」ルドルフはそう言ってステファニーとエドガーに微笑んだ。「細やかなお心遣い、感謝致します。」エドガーはルドルフに頭を下げた。「堅くならなくてもいいんですよ。確かあなたはセルフシュタイン家の・・」「はい、エドガーと申します、皇太子様。」「名前で呼んでください。かしこまった呼び方は嫌いなんです。」ルドルフはそう言ってステファニーを見た。広間に音楽が流れ始め、中心で男女が互いのパートーナーと踊り始めた。「踊っていただけませんか?」ルドルフはそう言ってステファニーに手を差し出した。「少しの間だけ、あなたの大切な人をお借りできますか?」「はい、わかりました。」エドガーはそう言ってステファニーに微笑んだ。ステファニーはルドルフの手を取り、広間へと向かった。エドガーはステファニーに手を振った。背後に妖しい影が近寄ってくることも知らずに。ー皇太子様と一緒に踊っていらっしゃる方は・・ーアレクサンドラ様にそっくりだわ・・ー鏡に映っているかのよう・・アレクサンドラはチラリと広間を見た。そこには先ほどの少女が皇太子と踊っていた。2人がワルツを踊っている姿は、まるで一幅の絵画のようで美しい。あのブロンドの少年はどこにいるのかと辺りを見回したアレクサンドラは、自分とそっくりの薔薇色のドレスを着た少女に手を振っている少年を見た。そしてその後ろには-(レパード!)アレクサンドラは急いで少年の元に駆けていった。「あなた、逃げて!!」声のする方を見ると、ステファニーにそっくりな顔をした少女が自分に向かって何か叫んでいる。だが、それに答えようとしたとき何者かに鈍器のようなもので殴られ、気を失った。にほんブログ村
2012年03月04日
コメント(0)
ホーフブルク宮にエドガーとステファニーが着くと、広間には着飾った男女が踊り、談笑していた。その中に、アレクサンドラの姿があった。彼女は真珠色のドレスを着て、お気に入りの真珠のネックレスの先にルビーが嵌め込まれているものを付けていた。レパードはここにはいない。あの男はこんな晴れやかな場所は嫌うのだ。今頃彼は自分にそっくりの“サファイア”を殺そうと策をじっくり練っているだろう。(その方が私としては都合がいいわ。それにしても、皇太子様はどちらにいらっしゃるのかしら?)アレクサンドラはサンクトペテルブルクの貴婦人達がお熱を上げ、噂をしているオーストリアの皇太子に一目会ってみたかった。噂によると皇太子は数々の女性と浮き世を流したという。(とても素敵な方に違いないわ。)そう思いながらアレクサンドラが期待に胸を膨らませていると、急に周囲がざわついた。(何かしら?) アレクサンドラがチラリと入り口の方を見ると、そこには薔薇色のドレスを着た同じ顔をした少女が、ブロンドの美少年と腕を組んで入ってくるところだった。にほんブログ村
2012年03月04日
コメント(0)
「お待たせしました。」エドガーが顔を上げると、そこには美しく着飾ったステファニーがいた。その美しさに、エドガーは言葉を失った。「どうしましたか?」「いえ、あなたがあまりにも美しいものだから、見とれてしまって・・行きましょうか。」「ええ。」ホーフブルクへと向かう馬車の中で、ステファニーとエドガーは互いに何を話せばいいのかわからず、重苦しい沈黙が馬車の中を包む。「「あのっ」」何か話さなければと思い、エドガーとステファニーは同時に声をかけた。「ステファニーさん、お話したいのなら、あなたの方からどうぞ。」「いえ、エドガーさんの方から・・・」「それじゃあ、わたくしの方から・・」ステファニーは頬を赤く染めながら言った。「あの雨の日のことですけれど、わたくし、あの男の方とは本当になんでもなかったんです。 郵便局へ行くのに道に迷ってしまって、カフェで雨宿りしていたらあの方が温かいカフェオレをくださって・・本当にそれだけなんですの。」「その方というのが、皇太子様だったんですね。」エドガーはそう言ってホッとした表情を浮かべた。「あの日、私はあなたがあまりにも楽しそうな顔をしていたから、私はいらぬ嫉妬をあの方に抱いてしまいました。でも今はもう、そんなことはどうでもいい。私はあなたを愛しているのだから。」そう言ってエドガーはステファニーの唇を塞いだ。ステファニーの唇は柔らかくて、キスはバニラの味がした。にほんブログ村
2012年03月04日
コメント(0)
ステファニーは雨の日の一件、ステファニーと話すどころか、目を合わすこともしなかった。ステファニーは誤解を解こうと、エドガーと話すチャンスを作ろうとしたが、エドガーはステファニーを避ける。そんなことが何日が続いた後、セルフシュタイン邸に1通の招待状が届いた。それは、ホーフブルク宮で行われる春の舞踏会へステファニーとエドガーに是非出席して貰いたいという旨が書かれていた。(こんな時に舞踏会なんて・・)ステファニーはゾフィーが招待状を読み上げているのを聞いていくうちに憂鬱な気分になり、フォークとナイフを置いて席を立とうとした時-「まぁ、ルドルフ様からの招待状だわ。」そう言ってゾフィーはエドガーとステファニーに招待状を見せた。招待状のサイン欄には、「R」の飾り文字が書かれてあった。「皇太子様直々のお誘いよ。お断りするわけにはいかないわ。」ゾフィーはすっかり乗り気で、エドガーとステファニーは舞踏会には行かないとは彼女には言えなかった。「これを着ておゆきなさいな。」そう言ってゾフィーが箱の中から取りだしたのは、レース状に真珠が縫いつけてある薔薇色の美しいドレスだった。「こんなの、着れませんわ。」そう言ってステファニーがゾフィーにドレスを返そうとしたが、逆にゾフィーにドレスを押しつけられた。「あなたに着て欲しいのよ。私はもう若くないし、それにセリーヌにはまだ早いでしょ? 本当はこれ、ミッチェルさんにと思ったんだけれど、このドレス、あなたの方が似合うわね。まるでドレスの方があなたに着て貰いたくて待っているみたいで。」ゾフィーはそう言って鏡に映るステファニーを見て微笑んだ。「それと、これ。これもミッチェルさんにと思っていたのよ。」ゾフィーはそう言って宝石箱の中から淡い輝きを放つ真珠のネックレスを取りだし、ステファニーの胸の前でかざした。「これはね、セルフシュタイン家の花嫁に代々受け継がれるものなのよ。」「こんな大切なもの、貰えませんわ。失くしたら困りますもの。」「いいえ、あなたに持っていて欲しいの。いずれ義理の娘となる、あなたに。」そう言ってゾフィーはステファニーの首に真珠のネックレスを付けた。「よく似合っているわ。このネックレスもあなたを選んだのね。」「お義母様・・」「さぁ、楽しんで。 エドガーのことは心配しないで。 何があったのかはわからないけれど、あの子はあなたのことを愛しているわ。」「お義母様、行って参ります。」「楽しんできて。」ゾフィーから励ましの言葉を送られ、ステファニーはエドガーが待つ玄関ホールへと向かった。にほんブログ村
2012年03月04日
コメント(0)
「あら、おかえりなさい。」ステファニーが玄関ホールにはいると、ゾフィーがそう言って彼女の濡れた髪をタオルで拭いた。「お義母様、エドガーさんは見ませんでしたか?」「さぁ・・あの子のことだから、自分の部屋かしらね。それとも、あそこかしら。」ステファニーはゾフィーに教えられ、城のはずれにある温室へと向かうと、そこにエドガーがいた。エドガーは悲しそうな表情を浮かべて、咲き誇った薔薇を見ていた。「エドガーさん?」ステファニーが声をかけると、エドガーが振り向いた。その表情に、ステファニーは恐くて身震いした。「今までどこに行っていたんです?」「・・郵便局に。」「あなたは嘘が下手ですね。」エドガーはそう言って、ステファニーを睨む。「カフェで話していた男性は、誰ですか?」「あの人は、雨宿りした私にカフェオレをくれただけで・・本当にそれだけです。」「本当に、そうでしょうか? 彼と話していたあなたは、随分楽しそうでしたが?」そう言ってエドガーはステファニーに詰め寄った。「エドガーさんが思っているようなことは、何ひとつしておりませんわ。」「・・この話は終わりにしましょう。」エドガーはそう言って、温室を出ていった。にほんブログ村
2012年03月04日
コメント(0)
エドガーは、ステファニーが家族に手紙を出しに行ったまま帰ってこないことを心配して、街に出た。外は土砂降りの雨で、歩いている人はまばらだった。ステファニーは、カフェの窓際の席に座っていた。エドガーが声を掛けようとすると、ステファニーの隣にいる男性が、ステファニーに向かって何か話しかけ、ステファニーは男性の言葉を聞いて笑っていた。その光景を見たとき、エドガーの胸はチリチリと嫉妬の炎に少しずつ焼かれるようだった。エドガーは踵を返して、元来た道を戻った。にほんブログ村
2012年03月04日
コメント(0)
ステファニーがウィーンのセルフシュタイン城に滞在してから1週間が経った。黙って家を出てしまった自分のことを、兄や両親が心配しているだろうと、ステファニーは兄に手紙を出した。『親愛なるお兄様へ, 黙って家を出ていってしまってごめんなさい。わたしは今愛する人とともにウィーンにいます。 わたしのことは心配しないで ステファニー』短く簡潔な文だが、自分の身が安全だということはこれで兄にわかってもらえるだろう。ステファニーは客室を出て、手紙を出すため郵便局へと向かった。「えーっと、郵便局、郵便局はっと・・」ステファニーは郵便局を探したが、なかなか見つからず、ウィーンの街をウロウロしていた。いつまでもこうしていると時間がもったいない。そう思い、ステファニーは通行人に郵便局への道を聞くことに決めた。だが、道を聞こうにも、誰も止まってくれない。その原因は、すぐにわかった。空が急に曇り始めたかと思うと、土砂降りの雨が降り出した。傘を持っていないステファニーは、たちまちズブ濡れになり、急いでカフェの軒先で雨宿りをした。「最悪・・」手紙はバッグの中に入れてあったから濡れなかったものの、全身雨に濡れ、ステファニーはそう呟いてくしゃみをした。「大丈夫ですか?」声とともに、ステファニーの目の前にカフェの店員が温かいカフェオレが差し出された。ステファニーが驚いて自分に差し出されたカフェオレを見た。「これは、一体・・わたくし、ここで雨宿りしているだけですのに。」「あちらのお客様から、あなた様へ。」そう言って店員は奥のテーブルを指した。そこには金髪碧眼の美青年が座っていて、ステファニーと目が合うとニッコリとステファニーに微笑んだ。身なりや雰囲気からして、どこかの貴族の息子のようだ。ステファニーは青年に礼を言おうと、店員からカフェオレを受け取り、彼のいる席へ向かっていった。「カフェオレ、ありがとう。わたくしはステファニー=セルフォード。ロンドンから来ましたの。あなた様は?」すると、青年の口からとんでもない言葉が出てきた。「私はルドルフ。この国の皇太子です。」(ルドルフ皇太子って・・あの女たらしのか!?)社交界デビューする数年前、ルドルフ皇太子が来英し、セルフォード侯爵家で開かれるお茶会ではそのことが話題となっていた。「ねぇ、オーストリアのルドルフ様って、とても素敵なお方よねぇ。 昨夜エドワード様主催の夜会でお見かけしたんだけれど、彼となら結婚してもいいわぁv」「滅多なことを言うもんじゃありませんわ。あの人はあの若さで、星の数ほどの女の方を囲っているそうよ。」「まぁ、あの若さで!? 信じられないわ!」ドア越しに盗み聞いたご婦人や令嬢達の会話からステファニーが描いたルドルフ皇太子像は、“イケメンで女たらしな奴”であり、それが定着しつつあった。そのルドルフ皇太子が、目の前にいる。「皇太子様に、お目にかかれて光栄ですわ。」そう言ってステファニーは笑って、ルドルフの隣の椅子に腰掛けた。「私もですよ、フロイライン。 あなたのような美しい人と出会えて、嬉しいことこの上ありませんよ。」(けっ、何調子いいこと言っていやがる。)自分に笑顔を向け、そう言うルドルフに対してステファニーは心の中でそう毒づいた。にほんブログ村
2012年03月04日
コメント(0)
ステファニーがエドガーの冒険小説を読みふけっていると、ドアが誰かにノックされた。「どなた?」エドガーはトイレに行っていていないので、ステファニーはそう言って椅子から立ち上がった。ドアを開けると、先ほど玄関ホールで会った少女が部屋の前にいた。「あなた、誰? どうして兄様の部屋にいるの?」少女-セリーヌはそう言ってステファニーを睨んだ。「私はあなたのお兄様のお友達よ。ステファニーっていうの、仲良くしましょうね。」そう言ってステファニーが差し出した手を、セリーヌは邪険に払った。「嘘言わないで。あなた兄様の恋人なんでしょ。兄様は私のものなの。あなたなんかに絶対渡さないんだから!!」セリーヌはそう叫ぶと廊下を駆けていった。(ブラコンだな、ありゃあ。)にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「この馬鹿者! 婚約者を他の女に取られるとは何事だ!」ラインハルトはそう言って娘を撲った。「ごめんなさい、お父様。エドガー様はもう、わたくしのことを愛してくれない・・」ミッチェルはうつむきながらそう言って、涙を流した。「そんなことでどうする! いいか、ミッチェル! お前の結婚しだいで、私たちは上流階級の仲間入りができるんだ! あの手この手でエドガーを落とせ! そして自分のものにしろ!」「わかったわ、お父様。」ミッチェルは父の書斎を出て、母の部屋へと向かった。「お母様、入ってもよろしいかしら?」「入りなさい。」ドアを開けると、険しい顔をした母が、自分を睨んでいた。「あなた、エドガー様にホテルから追い出されたんですってね? 一体何があったの?」「お母様、聞いてちょうだい。私、見てしまったのよ。エドガー様が、貴族の女と楽しそうに食事をしているところを。」「まぁ・・あなたという者がありながら、エドガー様はなんということを・・」母はそう言って眉をひそめた。「お母様、私エドガー様のこと諦めないわ。だって決めたんですもの、私必ずエドガー様の妻になるわ。そのためなら、どんなことだってするわ・・」そう言ったミッチェルの瞳には、必ずエドガーの妻になるというすざまじい執念と、エドガーを奪ったステファニーへの憎しみに輝いていた。「その意気よ、ミッチェル。お前のためなら、わたくしなんでもしてあげてよ。」「ありがとう、お母様。」にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「父上、この人は私の大切な人で、ステファニー=セルフォードさんです。」エドガーはそう言って父・エーリッヒにステファニーを紹介した。「噂は聞いているぞ。なんでも、ミッチェルさんからエドガーを奪ったイギリス人の女狐だと。」「父上、ステファニーさんをそのように呼ぶのは止めていただきたい。彼女はこれからあなたの義理の娘になるのですから。」エドガーはエーリッヒを睨みながら言った。「私が義理の娘と認めたのはミッチェルさんだけだ。こんな女狐、決して認めん。」エーリッヒは不愉快そうに鼻を鳴らすと、リビングを出ていった。「その方があなたの愛している人なのね。」ブロンドの髪にブルーの瞳をした女性がソファから立ち上がり、ステファニーにほほえみかけた。「エドガーの母のゾフィーです。あなたが私の義理の娘になるんだったら、私は大歓迎だわ。」「初めまして。ステファニー=セルフォードと申します。よろしくお願いいたします。」「そう固くならなくていいのよ。これから家族になるんですもの。わたくしのことは、『お義母様』と呼んでくださっても結構よ。」ゾフィーはそう言ってステファニーを抱き締めた。それからエドガーとステファニー、ゾフィーの3人でお茶を飲みながら、互いの家族のことなどを話した。「エドガー、創作はまだ続けているの?」「ええ、母上。 ロンドンにいる時でも、構想が思い浮かんだら、必ずメモしますよ。」そう言ってエドガーは上着の内ポケットの中から手帳を取り出した。「それ、なんですの?」ステファニーはそう言って手帳を見た。「それはね、この子の体の一部のようなものなのよ。この子は書くことが好きでね、将来はチャールズ・ディケンズのような作家になりたいと思っているのよ。」ゾフィーはカップを置きながら言った。「まぁ、作家に? 早くエドガーさんの作品が本屋に並ぶのが見たいわ。」ステファニーは目を輝かせながら言った。「エドガー、わたくしこれからシュバルツさんのお茶会へ行って来るわ。」ゾフィーはそう言ってリビングを出ていった。「私の部屋に行きましょうか。」エドガーの部屋は、カーテンや壁紙、ベッドカバーに至るまで、ロイヤルブルーで統一されていた。本棚には隙間がないほど本がたくさん入っており、机の上にはノートやメモなどが散乱していた。「見てもよろしいかしら?」「ええ、いいですよ。」ステファニーは机に置いてあるノートを取り、開いてみた。そこには退屈な日常に飽きてきた少年が世界を冒険する話が書いており、鬱蒼と茂った熱帯雨林のイラストや、狩りをするライオンから逃げまどうサバンナが緻密に描かれていた。「このイラストも、エドガーさんが?」「ええ。私は小さい頃体が弱くて、外で遊べない代わりに自分が世界を旅していると想像しながらこの小説と挿し絵をかいたんです。」「素晴らしいわ。 エドガーさんなら、きっと素晴らしい作家になれるわ。」「ありがとう。」そう言ってエドガーは、ステファニーの頬にキスをした。「あなたは、私の夢の一番の理解者です。これからも、私の夢を応援してくれますね?」「ええ、もちろんですわ。」ステファニーはそう言ってエドガーに微笑んだ。 彼がいつか夢を実現させる時は、彼の傍にいてあげたい-そう思いながらステファニーは再び、エドガーが書いた冒険小説を読み始めた。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「兄様、お帰りなさい! ねぇねぇ、おみやげは買ってきてくれた?」 少女はブルーのリボンを付けた金色の髪をなびかせながら、甘い声を出してエドガーにまとわりついた。「もちろんおみやげは買ってきてるよ。 お前が欲しかったのは、シュタイフの熊さんだろ?」エドガーは妹の頭を撫でながら、ピンクのリボンが巻かれたロイヤルブルーの袋を渡した。少女は目を輝かせながら袋を開け、中から出てきたパールホワイトのテディベアを抱きしめた。「兄様、ありがとう! 大切にするわ!」少女はエドガーに礼を言って廊下を駆けていった。「あの子は?」「私の妹で、セリーヌです。 甘えん坊で、私がロンドンに行くといったらすぐに帰ってきてねと泣きながら約束させられたんですよ。」そう妹のことを話すエドガーの瞳は、妹への慈愛に満ちていた。「妹さんかぁ・・わたくしのところは男ばかりですから、姉がいたらどんなにいいだろうと思っていましたわ。」ステファニーはそう言ってため息を付いた。もし自分に姉がいたら、エドガーと同じように、貴族の子息として普通の生活を送れただろうに。何故自分だけ、女として生きなければならないのかーその問いに、両親は答えてくれることは一度もなかった。このまま1人の女性として一生を終えるのかーそう思うとステファニーは憂鬱になったが、エドガーとともにいる時は、そんなことは忘れようと思った。「こちらです。」エドガーはそう言ってリビングのドアを開け、ステファニーを先に中に入れた。「父上、母上、ただいま帰りました。」エドガーはリビングに入り、奥のソファに座っている両親に挨拶した。「エドガー、何だこの女狐は?」そう言ってハシバミ色の髪をして眼鏡をかけた男がジロジロとステファニーを見た。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「やっと着いた・・」 ロンドンから大陸行きの船に乗り、そしてフランスから汽車で移動した末に、エドガーとステファニーはやっとウィーンに到着した。「これからどうするの?」「確か迎えの者が来てるはずです。」エドガーがそう言ってホーム内を見渡していると-「坊ちゃま~!!」後方から野太い声がして、エドガーに熊のような体格をした男が彼に抱きついた。「お帰りなさいませ、エドガー坊ちゃま! 俺はあなた様の帰りをどれほど待ちわびていましたことか!」そう言ってエドガーを抱きしめ、わんわん泣く男を、他の乗客は遠巻きに見ていた。「あの~、どなたですか?」ステファニーは男に恐る恐る聞いた。「ああ、自己紹介が遅れました! 俺はフェリックス! どうぞよろしく!」男-フェリックスはステファニーが差し出した手をグッと掴んでブンブンと上下に振った。「私はステファニー=セルフォード。ロンドンから参りましたの。」「坊ちゃまの恋人っすか? 綺麗な方で!」「あの、私は・・」「坊ちゃまがこんな美人を射止めるなんて! ああ、俺は幸せだ~!!」ステファニーを完全無視して勝手に1人で盛り上がるフェリックス。「フェリックス、僕達は疲れてるんだ。早く休みたいし、父上や母上にシュティファニーを紹介したいんだ。」フェリックスの背後でエドガーは不機嫌そうに言った。「へぇ、わかりました。」さきほどまではしゃいでいたフェリックスはエドガーの言葉を聞いた途端に姿勢を正し、エドガーとステファニーを馬車の方へと案内した。「お屋敷まではここから30分ほどかかりますから、大通りを通っていきましょう。」御者席に座りフェリックスはそう言って鞭を振るった。ウィーンの街並みは、ロンドンとは違う、歴史が所々に感じられる街並みであった。狭い路地の向こうから、白い豪勢な邸が顔を出している。「あれは、何ですか?」そう言ってステファニーは、邸を指さした。「あれは、ホーフブルク。我が国の皇帝陛下がおわすところですよ。」邸に着くまでエドガーは、ハプスブルク家のことやウィーンの歴史のことをステファニーにわかりやすく説明してくれた。「着きましたよ。」フェリックスはそう言ってある城の前で一旦馬車を止めた。「なに、これ・・?」馬車が進むたびにステファニーの目の前に広がっていたのは、色とりどりの花が咲き乱れる森の向こうに見えてくる白亜の城だった。まるで、グリム童話に出てくる白雪姫の城のようだ。「あれが、あなたの家?」ステファニーはそう言って白亜の城を指した。「ええ、あれが僕と僕の家族が住んでいる、セルフシュタイン邸です。」馬車はやがて城の前で止まった。「坊ちゃま、お帰りなさいませ!!」エドガーとステファニーが玄関ホールに入ると、奥から執事やハウスキーパー、メイドを含める使用人達が一斉に出てきてエドガーを迎えた。「お帰りなさいませ、エドガー様。 ロンドンからの長旅、お疲れさまでございました。」エドガーの前に白髪の老人が歩み寄り、恭しくエドガーに頭を下げた。「ただいま、ハンス。父上と母上は?」「旦那様と奥様はリビングにいらっしゃいます。」「そうか、ありがとう。」エドガーは執事に微笑み、ステファニーの手を取ってリビングに向かおうとした。だが、その時2人の前に1人の少女が現れた。「兄様、お帰りなさい!!」少女はそう叫ぶとエドガーの腰に抱きついた。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
少女がいた邸からさほど離れていないところに、インゾルテ邸はあった。貿易で一代で富を築き上げたラインハルト=インゾルテが、金をかけて建てた美しい邸だ。正面には左右に女神の像が置かれ、玄関ホールや全ての部屋に通じる廊下には、全て大理石を使ってある。 ドナウ川沿いの、小さな貧しい農村で生まれたラインハルトは、幼い頃両親に捨てられ、孤児院で育ち、成人する際にそこを出てウィーンで住み込みの仕事を見つけた。田舎育ちの青年が都会のウィーンで生きていくには、何かしら金が要り、それはすぐに底を尽きた。彼は金持ちになりたかった。誰にも蔑まれない者に。彼は金持ちになりたい一身で、イギリスの貿易会社に勤め、そこで貿易のノウハウを学んだ後に、会社を設立し、大富豪としてその名を馳せた。ラインハルトは今や押しも押されぬ大富豪の仲間入りを果たした。だが、彼にはもうひとつ欲しいものがあった。それは、爵位だ。貿易で身を立てたとしても、爵位は商人には与えられない。爵位を手に入れるには、娘を貴族と結婚させるか、王家から認められるような働きをするかだ。ラインハルトは前者を選んだ。貴族が多いウィーンで、娘を名門の貴族と結婚させ爵位を手に入れるのだ。ミッチェルはセルフォード侯爵家の嫡子・エドガーと婚約をし、あとは結婚するだけだ。ラインハルトはそう思っていたのだが、数週間前、そのミッチェルが泣きながらロンドンから帰ってきた。そして彼女から、衝撃的な事実を聞いた。なんと、エドガーがミッチェルを拒絶し、他の女と一緒になろうとしているというのだ。しかもその女は貴族だという。(私は諦めないぞ・・爵位を手に入れるためならば、娘を犠牲にしてもかまわん! いままで私を「成り上がり者」と軽蔑してきた貴族を見返してやるのだ!)ラインハルトは椅子から立ち上がり、窓の外に映るウィーンの街を眺めた。 彼の瞳の先には、オーストリアを統治するハプスブルク王家の城、ホーフブルク宮があった。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
エドガーとステファニーが豪華客船で毎晩舞踏会で優雅な時間を過ごしている頃、ウィーンの最も裕福な者が住む街区にある豪邸の中にある寝室で、少女は入念に化粧をしていた。今夜はあのセルフシュタイン侯爵家の跡継ぎであり、社交界の華でもあるエドガーが3ヶ月ぶりにウィーンに帰ってくる。(エドガー様は、あの成り上がり者の女と婚約したそうだけれど・・私は諦めないわ!)「お嬢様、お客様がお見えになりましたよ。」そう言って乳母のエカテリーナが部屋に入ってきた。「そう、もうしばらくかかると言っておいて。」「かしこまりました。」エカテリーナは頷いて部屋から出ていった。(またあの男ね・・しつこいったら。それに、会うたびに不気味さが増してるし。)少女はため息を付いてパフを置いた。レパードは、客間でイライラしながら“ルビー”を待っていた。(あいつはいつも支度が遅い。女というものは厄介だ。)少女はそんなレパードの気持ちも知らずに、髪に似合うリボンを選んでいた。「やっぱりブルーがいいかしら。それとも薔薇色かな?」鏡の前でそれぞれのリボンを付けながら、少女が呟いていると、ドアが乱暴にノックされた。「エカテリーナ、お客様にはもう少し待ってと・・」「いつまで待たせるつもりだ、“ルビー”?」少女がドアを開けようとすると、野太い声がして、ドアの向こうから全身黒ずくめの男が現れた。「私は待つのが嫌いだと言っただろうが? 何度言ったらわかるんだ?」レパードは恐れおののく少女の顎を掴んで持ち上げた。「行くぞ、“ルビー”」レパードはフードを翻しながら少女の元から去った。「・・わかりました。」慌ててレパードの後を追う少女の姿が、化粧台の鏡に映った。彼女は、ステファニーに瓜二つだった。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
エドガーとステファニーが乗っている豪華客船では、毎晩1等船室では舞踏会や晩餐会が行われていた。ロンドンを離れれば窮屈な社交界から解放されて息抜きできると思っていたステファニーだが、船の上でも社交界は存在していた。(結局は陸地も海も、どこでも一緒ってことか・・)ステファニーはため息を付き、今日のドレスに似合うネックレスを選んだ。「シュティファニーさん、最近お疲れではないですか?」「え?」舞踏会で踊っている時、急にエドガーがそんなことを言い出してステファニーの顔を見た。「え?」「せっかく陸を離れたというのに、船の上でも舞踏会に明け暮れる日々。これでは、休暇ではないですね。」エドガーの言葉に、ステファニーは笑った。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
翌朝、ステファニーはあくびをしながらダイニングに降りてきた。「お嬢様宛にお手紙がございますよ。」そう言って執事のウィルが、1枚の封筒をステファニーに差し出した。「ありがとう。」ステファニーはそう言って封筒を見た。封筒の裏には、エドガーの名前が書かれてあった。朝食を済ませた後、ステファニーは自室でエドガーからの手紙を読んだ。『親愛なるシュティファニー,私は事情があって今日ウィーンに帰ることになりました。あなたさえよければ、私とともに来てくださいませんか? あなたのことを、父上や母上に紹介したいのです。 私は2時の船で発ちます。 あなたが来てくれるのを、待っております。』ステファニーは急いで荷造りをして、家を出たが、すぐに部屋に引き返し、剣を持って再び家を出て、港に行く辻馬車に乗った。港に着いたのは、午後2時5分前だった。「エドガーさん!」ステファニーが手を振ると、エドガーは微笑んで手を振り返してくれた。「ご両親は、このことを知っていらっしゃるのですか?」「いいえ。でもウィーンに着きましたら、手紙を書きます。」「何故、来たのですか?」「あなたと一緒になるために、来ました。」(うわ、何言ってんだ俺!)自分の言葉で顔を赤くするステファニーに、エドガーが手を差し伸べた。「さあ、参りましょうか。」「ええ。」ステファニーとエドガーは、大陸行きの船に乗った。2人を乗せた船は、静かに港を離れていった。―英国編Ⅰ・完―にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「ステフが社交界デビューして、今日の昼にうちに男連れてきたんだよ。あんなに小さかったステフが、もうそんな年頃になったのかと、俺寂しくなってきてさ・・」そう言ってスティーブはブランデーを飲み干した。「ステファニーはもう16だ。お前そろそろ弟のことは放っておけよ。」「放っておけるかよ! ステフは俺が全力で守るんだ!」そう言ってスティーブはレナードを睨んだ。「俺はさ、ステフの兄貴なんだ。俺にできることあったらステフを助けたいし、力になってやりたい。でも、ステフはステフなりに生きようとしてるんだ。もう、俺の役目は終わったのかな・・」「まぁ、そうかもな。」「さびしいな。」スティーブはそう言ってため息を付いた。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「なんですって!? エドガー様から婚約を破棄されたですって!?」ミッチェルはウィーンに帰り、母にエドガーから突然別れ話を切り出されたことを話すと、母は目を丸くして叫んだ。「そうなんですの、お母様。なんでも、彼はわたくしの他に好きな人ができたんですって。」「なんてこと! 許しておけないわ!」「お母様、わたくしどうすればいいの? 彼以外の方とは結婚したくないの。」そう言ってミッチェルは母の胸で泣いた。「大丈夫よ、ミッチェル。お母様がなんとかしてあげますからね。」「ありがとう、お母様。」ミッチェルは母の肩越しで、笑みを浮かべた。その頃、ロンドンのセルフォード邸では、スティーブと彼の親友であるレナードが、リビングでブランデーを飲んでいた。「で、話ってなんだ?」にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「はぁ、疲れた・・」エドガーとマサトの言い争いに巻き込まれ、エドガーがホテルに帰るなり、ステファニーは自分の部屋のベッドに倒れ込んだ。(今日は遅いし・・さっさと寝よう。)ステファニーは眠りに就いた。風の冷たさに、ステファニーは目を覚ました。窓が少し開き、カーテンが風で揺らめいている。窓を開けた覚えはないのに-。ステファニーはそう思ったとき、何者かがステファニーの口を塞いだ。ステファニーは枕元に置いてあった剣を取り、男の手を刺した。男は悲鳴をあげ、窓から出ていった。(あいつは一体・・)にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「レパード、いいのですか?」そう言ってクリスティーンは、パブを去っていくミッチェルの背中を窓から見た。「何がだ?」「彼女はあなたに、“サファイア”を殺させようとしています。」「よいではないか。 私にとってもあの女にとっても、“サファイア”は脅威の他何物でもない。この際、“サファイア”を始末してくれるわ。」レパードは何かを企んだかのように、笑った。「一体何を企んでいらっしゃるのです?」「お前に話すことではない。」にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
ミッチェルは目の前にいる男を見て恐怖を抱いた。「娘、私に何か用か?」紅茶を数杯飲んで気分を落ち着かせると、ミッチェルは男を見て言った。「あなたにお願いがございますの。1人の女を殺して欲しいの。」「その女とは、こいつのことか?」男はそう言って1枚の写真をミッチェルに渡した。そこにはあの女が映っていた。「どう殺して欲しい?」「すぐには死なせないで、じわじわと苦しめながら殺して頂戴。」「金は?」ミッチェルはバッグから札束を5つ出した。「これでいかが?」「悪くないな。」男はそう言って札束を美女に渡した。「さよなら。」ミッチェルはそう言ってパブを後にし、ホテルをチェックアウトしてウィーンへと帰っていった。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
ミッチェルはそのままホテルへと帰った。彼女の中では、エドガーを奪ったあの女への憎しみが渦巻いていた。(許さない・・わたくしからエドガーを奪ったあの女・・許してはおけないわ・・)その夜、ミッチェルはパブ『青い血』へと向かった。2階のドアをノックすると、ブロンドの髪をした美女が出てきた。「どなた?」「ここに、レパードという方はいらっしゃる?」「そちらにお掛けしてお待ち下さい。」美女はそう言って椅子をミッチェルに持ってきた。数分後、ミッチェルの前に黒いフードを被った男が現れた。「私に、何の用だ?」にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
ミッチェルは泣き腫らした目を化粧で隠して、ホテルを出た。大陸行きの船は、もうすぐ出る。だがミッチェルは、ウィーンに帰りたくなかった。エドガーに拒絶され、ミッチェルの心は傷ついていた。ウィーンへ帰る前に、エドガーに会いたい。ミッチェルは重いトランクを抱えながら、ロンドンの街を歩いた。くまなくエドガーの姿を探したが、彼の姿はどこにも見あたらない。諦めて辻馬車を拾おうとしたとき、1台の馬車が彼女の前を通り過ぎた。馬車の中には、エドガーとこの前『ル・モンド』でもめた女が乗っていた。ミッチェルは馬車を必死で追いかけた。やがて馬車は停まり、中からエドガーとあの女が降りてきた。ミッチェルはこっそりと2人の後を付けた。煉瓦造りの邸の中に、2人は入っていった。ミッチェルは柵を飛び越え、2人の後を追いかけた。ミッチェルが息を切らしながら邸の中に入ると、エドガーの声が聞こえた。「私はあの夜あなたを一目見た時から恋に落ちてしまいました。あなたとだったらどんなに貧しく、苦しい生活でも耐えていけます。どうか、私と付き合ってください。」見ると、エドガーがあの女に跪いて愛の告白をしている。「何をしているの!」ミッチェルは怒鳴りながらエドガーの元へと向かった。「ミッチェル、どうしてここに?」エドガーはそう言ってミッチェルを見た。「エドガー、わたくしというものがありながら・・ひどいわ!」ミッチェルはエドガーの頬に平手を打った。「ミッチェル、私はもう君を愛していない。お願いだ、別れてくれ。」「嘘でしょう・・嘘よね、そんなの!?」エドガーから突然別れを告げられ、ミッチェルは涙を流した。「わたくし、あなたと別れたくないの。あなた以外の人となんて、結婚したくないのよ!」「ミッチェル、私達の婚約は間違いだった。」エドガーはそう言って執事に目配せした。「お客様、どうぞこちらへ。」執事はミッチェルの手を掴んで言った。「エドガー、考え直して! わたくしはあなたと・・」執事はそう言ってミッチェルに有無を言わさずに彼女を邸から追い出した。「どうして・・エドガー・・」にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「お前、ステフの何なんだ!」マサトはそう言ってエドガーを睨んだ。「そういう君は?」「俺はステフの親友だ。」「そうか・・」エドガーはそう言ってステファニーの手を取った。「ステファニーさん、私と付き合ってくれませんか?」「え?」エドガーに告白されたステファニーは、目を丸くした。「私はあの夜あなたを一目見た時から恋に落ちてしまいました。あなたとだったらどんなに貧しく、苦しい生活でも耐えていけます。どうか、私と付き合ってください。」にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
ステファニーが起きて時計を見ると、時計の針は正午を回っていた。(うわっ、ヤベエッ!! 今日はあのばあさんのところに謝りに行かないと。) 慌てて水色のドレスに着替え、帽子と日傘を持ってステファニーはシャルステイン男爵夫人の元へと向かった。シャルステイン邸の中にはいると、応接間から笑い声がした。そっと中を覗くと、そこには談笑しているエドガーと男爵夫人の姿があった。「おや、誰かと思ったら、シュテファニーさんじゃないですか。」エドガーはそう言ってステファニーに微笑んだ。「奇遇ですね、あなたに会えるなんて。」「ええ。シャルステイン様とは、お知り合いですの?」「お知り合いも何も、この方は私の伯母ですよ。」(こんな天使のようなエドガーの伯母がこの意地悪ババアなんて・・なんかミスマッチ過ぎる~)そう思いながらも、ステファニーは男爵夫人に茶会に来られなかったことを謝った。「昨日はあいにく都合が悪くて・・」「それならそうと、前日にお返事をいただけましたらよかったのに。全く、最近の若い人は・・」シャルステインはそう言ってステファニーを睨んだ。「伯母上、ステファニーさんはうっかりしてお返事を出すのを忘れてしまったのですよ。誰にだって失敗はあるものです。どうかこの件につきましては、私に免じて許してくれないでしょうか?」何も言えないステファニーに、エドガーが助け船を出した。「まぁ、いいわ。今回は許しましょう。でも、これからは都合がお悪いときは必ずお返事を出してちょうだいね。」シャルステインはエドガーとステファニーを応接間に残し、自室へと戻っていった。「さっきはありがとうございます。助かりました。」帰りの馬車で、ステファニーはエドガーに礼を言った。「伯母上を許してあげてください。最近兄嫁と折り合いが悪くて、ストレスが溜まっているんです。それに、自分より身分が上の者にバカにされるのが我慢ならない性格なんです。」エドガーはそう言ってステファニーの手を握った。ステファニーは慌ててエドガーから手を離した。「あ、そこで停めてください。」ステファニーは馬車から降りて、歩いて邸へと帰った。「お帰りなさいませ、お嬢様。そちらの方は?」「え?」メイに言われて振り返ると、ステファニーの後ろにはエドガーが立っていた。「どうして・・」「別に。あなたのご家族にお会いしたくて。」エドガーはそう言ってニッコリした。「ステフ、お帰り・・」書斎のドアが開き、マサトが出てきた。「お前、誰?」マサトはそう言ってエドガーを睨んだ。「そういう君こそ、誰だ?」エドガーはおうむ返しにマサトに聞いた。サファイアの瞳と、黒曜石の瞳が火花を散らした。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
さきほど見た変な夢の謎を解くために、ステファニーは書斎に入った。薄暗く、四方を本棚に囲まれているこの部屋は、夜になると昼よりも不気味さを増す。ステファニーはランプのあたりを頼りに、一番上の棚にある家系図を取った。セルフォード侯爵家の歴史は、中世-十字軍の時代まで遡る。家系図を紐解けば、何かわかる。少しずつ中世の家系図を見ていくと、謎の女に渡された剣が載っていた。「『“報復の刃”・・初代セルフォード家当主・ロリエンヌが戦場で使い、ロリエンヌの死後、イタリアの修道院に預けられたが、その後盗難の被害に遭い、現在行方不明。』・・じゃあ、これが・・」ステファニーは家系図のページを見た。そこにはロリエンヌの名前は横線で消されている。何故彼女の名前が消されているのか、ステファニーは気になって調べようとしたが、それよりも眠気が襲ってきたので、書斎を後にした。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
びしょ濡れで帰ってきたマサトとステファニーを見て、マルガリッテはシャルステイン男爵夫人のお茶会を放り出してこんな時間まで遊んでいたステファニーに対して激怒した。「全くあなたは何を考えてるのっ! 男爵夫人のご機嫌取りよりも、遊びほうける方を優先するなんて! なんて子なのかしらね!」ステファニーはくどくどと小言を言う母を前に黙っていた。「聞いているの? あなたがしたことは・・」「わかってるわ、お母様。 雨で濡れちゃったから、熱いお湯に入りたいの。」「待ちなさい、話はまだ終わってなくてよ!」怒鳴り散らす母を無視して、ステファニーは浴室へと向かった。「お嬢様、お帰りなさいませ。」メイはステファニーに頭を下げながら言った。「お湯に浸かりたいのだけれど。」「もう用意してございます。」ステファニーは湯の張った桶に入ると、雨の冷たさや母の小言が吹っ飛んでいくように感じられた。「お母様最近うるさくてかなわないわ。私のことはほっといてくれないかしらね。もう子どもじゃないんだから。」「奥様はお嬢様のことが可愛くて仕方がないんです。だから口うるさくなるのですよ。我慢してくださいな。」メイはステファニーに頭から湯を浴びせながら言った。「お母様の気持ちはわかるんだけれど、いつもガミガミ言われるとウンザリするわ。」ステファニーはそう言って風呂から上がった。ベッドで読書をしていると、うとうとして本を持ったままステファニーは寝てしまった。目を開けると、そこは戦場だった。自分は甲冑を着てキャラメル色の髪をなびかせ、敵を戦う女戦士だった。翻る赤い十字の旗。自分は次々と敵を倒していく。だが-背後に敵から刺され、地面に蹲った。『ど・・し・・て・・』驚愕の表情を浮かばせて、自分を刺した相手を見る。それは・・(エドガー!?)「いってぇ!」ステファニーは寝返りを打った勢いで、ベッドから転げ落ちてしまった。「あたた~、腰打ったぁ~。」ステファニーは舌打ちし、腰をさすった。(変な夢・・)にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「ステファニー、おはよう。昨夜は帰ってくるの、遅かったね。」「うん。」 ダイニング・ルームで、ステファニーと彼の親友で日本からの留学生であるマサトは、ステファニーの家族と一緒に朝食を取っていた。「一昨日社交界にデビューして、何かと大変だろ?」マサトはそう言って紅茶を飲んだ。「まあな。お前は? 勉強の方はどうだ?」「順調かな。日本で英語を勉強するよりも、英語の本場でキングズイングリッシュを学んだ方が身につくよ。それに、ここの学校では生徒の個性を尊重してくれるしね。」「なんだかお前の言葉聞いていると、日本の学校は窮屈そうに思えるな。」「日本の学校は、強烈な個性を持つ生徒よりも、校則を守る生徒の方を大事にするしね。それに、同じ日本人の教師が英語を教えたって、ためにはならない。」マサトはトーストとハムエッグを平らげ、テーブルを立った。「今日は天気がいいから、どこか遊びに行かない?」「いいね、それ。」最近家に引きこもりがちだったので、ステファニーはそう言ってテーブルを立った。「ステファニー、今日はシャルステイン男爵夫人のお茶会があるんですよ。」マサトとステファニーの会話を聞いていた母・マルガリッテはそう言ってステファニー睨んだ。「男爵夫人には、適当な理由を言ってお断りします。それでいいでしょう?」「いけません。あなたは社交界にデビューしたばっかりなんですよ。茶会に出席せずに供をつけずに外出するなんて、はしたない。」「別にいいでしょう、お母様。 俺はあのババアと過ごすのなんて嫌だから。」「ステファニー、お待ちなさい!」母の小言を無視して、ステファニーはダイニング・ルームを出ていった。「支度がかかるからさ、書斎で待っててくんない?」「わかった。」マサトはそう言って書斎に入っていった。自分の部屋に入ったステファニーは、一番気に入っているロイヤルブルーのドレスをクローゼットから取り出してベッド脇に置き、同系色の帽子とレースの手袋と日傘をドレスの上に置いた。「お嬢様、お出かけでございますか?」そう言ってメイはベッド脇に置かれたドレスや帽子を見た。「ええ。マサトと一緒にちょっとね。シャルステイン様のお茶会だけれど、今日は都合が悪いからと言ってお断りしてくるわ。」「よほどあの方がお嫌いですのね。」メイはステファニーの着替えを手伝いながら言った。「大嫌い。あんなババアと一緒にお茶をするよりも、わたしはライオンと一緒の檻に入れられた方がマシ。 ライオンは恐いけれど、小言は言わないでしょう。」「奥様には黙っておきますから、今日1日楽しんで来てくださいませ。」「お待たせ。」ステファニーは書斎に入り、本を読みふけっているマサトに向かって言った。だが、マサトは本を読むのに夢中で、ステファニーが呼びかけても反応しない。「マサト!」ステファニーはマサトの頭を軽く日傘で叩いた。「いってぇ、何すんだよ・・ってなんだ、ステファニーか。」そう言ってマサトが振り向くと、そこにはまるで童話の中に出てくる王女のような気高く美しい親友の姿があった。「マサト、どうした?」「ううん、なんでもない。そろそろ行こうか。」マサトはステファニーの腕を組んで、書斎を出た。供も連れず、マサトと2人で歩くロンドンは活気に満ちていているようで、ステファニーはロンドンの街を飽きることなく歩いた。楽しい時間はあっというまに過ぎ、もうすぐ日没になろうとしていた。「そろそろ帰るか。」「うん。」そう言ってマサトとステファニーはカフェを出た。「このまま邸に帰るのはキツイから、馬車呼んでくるわ。」マサトはステファニーにそう言って大通りに出ていった。ステファニーは慌てて彼の後を追うが、ヒールが高いブーツを履いた足ではマサトには追いつけなかった。ステファニーはマサトを追うのを諦めて、マサトが戻ってくるのをしばらくカフェの入り口で待っていることにした。数分くらい経った頃だろうか、急に空が曇り始め、大粒の雨が降ってきた。マサトはまだ、こちらには戻ってこない。イライラしながら待っていると、誰かに肩を叩かれた。振り向くと、そこには腰までの長いウェーブのかかったブロンドをした、ヴァイオレットの瞳をした女が立っていた。冬の冷たい雨の中、女は薄い花柄のワンピースだけを着ていた。「あなたが、“サファイア”ね。」女はそう言って、ステファニーに微笑んだ。「これを。」女はステファニーに、中央にサファイアが嵌め込まれた剣を渡した。「これは?」「あなたしか扱えない、大切な剣。いずれはあなたの身体の一部になるわ。」女は意味深長なことを言って、ステファニーの元から去っていった。「ステファニー、遅くなってごめん。馬車がなかなか見つからなくてさぁ・・どうしたの、その剣?」びしょ濡れになったマサトが、そう言ってステファニーが持っている剣を指さす。「ああ、これ? さっき女の人に会って・・」そう言ってステファニーは女が消えていった方向を指したが、そこに女はいなかった。「早く帰ろうぜ。風邪ひく前に。」「うん。」あの女は一体何者だったんだろうかと、ステファニーは帰りの馬車の中で考えていた。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
クリスティーンは、会合の後ある部屋に入った。そこはレパードが世界各国から集めた宝物を収納してある部屋だ。クリスティーンは天上までの高さに積まれている宝物の中かから、一ふりの剣を取り出した。それはレパードがとある修道院から奪ってきたもので、赤い鞘と、中央にはサファイアが嵌め込まれた豪華なものだ。「これが、“報復の刃”・・」クリスティンはそう呟いて、鞘から剣を抜こうとした。「それは“サファイア”にしか扱えぬ。」「レパード・・」レパードはクリスティーンの手から剣を取り上げた。「これは“サファイア”が持って、初めて意味を持つものだ。わかるな?」「・・はい、わかりました。」「よろしい。」そう言ってレパードはクリスティーンに剣を渡した。「明日、必ず・・」「承知しております。」「よろしい。」クリスティーンは剣の重みを感じながら、部屋を出た。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
ステファニーを乗せた馬車の蹄が路地に響いているのと同じ頃、路地裏にあるパブ『青い血』では、1階では仕事を終えた労働者達が騒ぎ、2階では盛装した男女が、謎めいた会合を開いていた。「で、我らの“サファイア”は今どうしている?」会合を仕切る、黒いフードを被っている男が言った。彼の名はレパード。身体をフードで隠しているのは、戦争により全身に醜い傷ができたからである。彼の半生は謎に包まれている。そして、この会合に集まった男女の正体もだ。「クリスティーン、明日は頼むぞ。」「はい。」レパードに呼ばれた腰までの長さのブロンドの髪をいじりながら、女は立ち上がって言った。レパードはテーブルに置いてある写真を手に取った。そこにはステファニーが映っていた。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「エドガー、レストランのことではごめんなさい。わたくし、後悔しておりますのよ。だから・・」エドガーが部屋に戻ると、ミッチェルがそう言って彼に許しを乞うてきた。「荷造りはもう済んだのかい?」エドガーはミッチェルに背を向け、ネクタイを解きながら言った。「わたくしあなたと一緒にいたいの。お願いよ、ウィーンへ帰れなんて言わないで。」ミッチェルはそう言ってエドガーに抱きついた。だがエドガーはミッチェルを突き飛ばした。「ミッチェル、僕は一度言ったことは取り消さないっていうことは覚えているだろ?」不愉快そうに泣きじゃくる婚約者を見る。「僕は1人でロンドンに残る。わかったらさっさと荷造りをしてくれないか。」これ以上何を言っても無駄だと、エドガーは冷たい目でミッチェルを見た。「・・わかったわ。」ミッチェルはそういって部屋を出ていった。(わたくし、ちゃんと謝ったのに・・どうして許してくださらないの、エドガー?)ミッチェルは泣きながら荷造りをした。翌朝早く、ミッチェルはホテルをチェックアウトして大陸行きの船に乗った。(お母様に、どう説明すればいいのかしら・・玉の輿に乗れそうだったのに、駄目になっただなんて・・)ミッチェルは次第に見えなくなっていく港を見ながら、ため息を付いた。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「それでは、また。」「ええ、またお会いいたしましょう。」そう言ってステファニーはエドガーに手を振り、馬車に乗った。(楽しかったな・・)エドガーといると、何故か楽しい。また彼に会いたいと思う。一体この気持ちは何なんだろう?ステファニーはまだ、自分がエドガーに恋していることなど、わからなかった。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「あら、どなたかと思ったら、ステファニー様じゃございませんこと?」エドガーと優雅なステップを踏んでいると、背後から声がして振り返ると、そこにはシャルステイン男爵夫人の腰巾着であるオルガがいた。「ご機嫌よう。」ステファニーはそう言って愛想笑いを浮かべた。「隣にいる方はどなた?」オルガはエドガーをジロジロ見ながら言った。「この方はわたくしの知り合いで、エドガー=セルフシュタイン様ですわ。」言葉を慎重に選びながら、シュテファニーはオルガにエドガーを紹介した。「初めまして。このような場で美女と噂されるオルガ様にお目にかかれるとは、私はなんという幸せ者でしょう。」そう言ってエドガーはオルガの手に口づけした。「噂? わたくしのこと、皆様何ておっしゃっておられますの?」美少年に見つめられ、オルガは頬を赤く染めて言った。「あなたはまるでヴィーナスのような美しいお方だと皆様おっしゃられておりますよ。」エドガーはオルガに微笑みながら言った。「まぁ、お上手ですこと。」オルガはすっかり上機嫌になり、「後は2人でゆっくりと楽しんでいかれてね」と言ってホールを出ていった。「・・まさか、ブスに『美女』と言って褒める日が来ようとは・・」そう言ってエドガーはホッとしたように、ため息をついた。「え、じゃああの言葉は・・・」「嘘に決まってるでしょう。 世渡りを上手くするには、少しだけ嘘を付くのも一つの方法です。」「そうですわね。わたくしも見習おうかしら。」ステファニーはそう言って笑った。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「今夜は素晴らしいディナーをありがとうございました。」ステファニーはそう言ってナプキンで口元を拭いた。「こちらこそ。私もあなたと過ごした夜のことは、一生忘れないでしょう。」そう言ってエドガーはステファニーの頬に口づけした。2人が『ル・モンド』を出ると、2階の大ホールの方からワルツの調べが流れてきた。「何かしら?」「行ってみましょう。」エドガーはそう言ってステファニーの手をひき、大ホールへと向かった。大ホールには舞踏会が開かれており、至る所に着飾った男女が優雅なステップを踏んでいた。エドガーにエスコートされたステファニーが大ホールに入ってくると、いままで踊っていた男女は踊るのをやめ、雑談をしている者達は話を止めてステファニー達の方を見た。(何だ?)歩くたびに、視線を痛いほど感じた。(髪が崩れてるのかな・・?)「どうしました?」周りの視線が気になり、うつむいてしまうステファニーを訝しげに見ながら、エドガーは言った。「気分でも悪いのですか?」「いいえ・・ただ・・」「ただ?」「みんなが、わたくしを見ているので・・居心地が悪くって・・」そう言ってステファニーがうつむくと、エドガーは笑ってこう言った。「それはあなたが美しいからですよ。周りの目など気にしていたら、恋も人生も楽しめません。みんなが見ているのは、あなたの美しさ。自分はおかしいから見られてるんだと思わず、自分は美しいから見られているんだとお思いなさい。」エドガーの言葉を聞いて、ステファニーの心は安らかになった。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「まぁ、よくもやってくれたわね!」そう言ってミッチェルはステファニーに向かって手を振りかざした。「止めるんだ、ミッチェル。」エドガーは険しい表情を浮かべて、婚約者の手を掴んだ。「離してよ、エドガー! こんな無礼な人、許してはおけないわ!」「無礼なのは君の方だ、ミッチェル!」怒りで興奮したミッチェルに対し、エドガーは声を荒げた。「手を出したのは君の方だ。それにステファニーさんは娼婦なんかじゃない。無礼な振る舞いをステファニーさんにしたことを謝りたまえ。」「嫌です、誰がこんな人に謝るものですか!」「いい加減にしろ! 自分の非を認めないつもりなら、君とは今後一切口をきかない! 明日ウィーンに帰ってくれ!」ミッチェルはステファニーを睨み、2人の元から去っていった。「申し訳ない、僕達のせいで他の客の素敵な夜を壊してしまって。」そう言ってエドガーは支配人に謝罪した。「いいえ、こちらは大丈夫でございます。では、デザートをまた新たに作らせますので。先ほどの騒ぎで溶けてしまっているでしょうから。」支配人はそう言って2人のデザートを下げた。「楽しいディナーになると思ったのに、僕の婚約者が無礼なことをして君に嫌な思いをさせてしまって、申し訳ない。許して欲しい。」エドガーはそう言ってハンカチを取り出し、ステファニーに差し出した。「ありがとうございます。」ステファニーとエドガーがおいしいスイーツを堪能している頃、ミッチェルは寝室のベッドで涙を流していた。(どうして、エドガー? 私よりも、あんな女の方が大事だというの?)エドガーはいままで、あんな風に自分に対して怒らなかったのに。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「失礼しますわ、『ル・モンド』はどちらかしら?」ステファニーはそう言ってドアマンに微笑んだ。「『ル・モンド』は、ロビーをまっすぐ行って右の突き当たりにございます。」「そう、ありがとう。」『ル・モンド』は、本場パリで修行したシェフやパティシエが本格的なフランス料理やスイーツを提供し、サービスが行き届いたフランス料理店で、貴族を中心とした上流階級の客に評判がいい。ステファニーが店の中に入ると、ボーイに奥の特別席を案内された。「お待たせしてしまいまして、ごめんなさい。 道が混んでいたものですから。」「いいえ。私も今来たところですから。」エドガーはそう言ってステファニーに微笑んだ。「今宵のあなたは、とても美しい。宮廷でお見かけしたときよりも美しさが一段と上がっている。」「まぁ、嬉しいことをおっしゃいますこと。」ステファニーはそう言って前菜のマリネをナイフとフォークを使って口に運んだ。「それにしても、ロンドンは観光するところがいっぱいで、どこへ行けばいいのかわからないな。」エドガーは前菜のハムを切りながら言った。「よければわたくしが、ロンドンを案内してさしあげましょうか?」ステファニーは何故か、心にも思っていないことを言ってしまった。「本当ですか?」「ええ、穴場の人気スポットも知っておりますのよ。」(何言ってんだ俺。どうしちまったんだ?)心ではそう思いながらも、何故か口が勝手に動いてしまう。やがて2人の前に、デザートが運ばれた。「ここのスイーツ、一度食べてみたかったんですの。」そう言ってステファニーがスプーンを手に取ったとき-「エドガー様!」背後で鋭い声がして、エドガーとステファニーが振り向くと、そこには黒髪でちょっと太めの女が立っていた。「ミッチェル、客室で休んでいたんじゃないのかい?」エドガーはそう言って婚約者を見た。「わたくしというものがありながら、こんな女と・・」ミッチェルはそう言ってステファニーを睨んだ。(な、なんだ?)ミッチェルはつかつかとステファニーに近寄り、グラスをとってステファニーに水を掛けた。「わたくしの婚約者をたぶらかそうだなんて、汚い女! お前なんかとっとと路地裏に帰ればいいのよ!」 水を掛けられ、娼婦呼ばわりされたステファニーは頭に血がのぼり、ミッチェルに平手を打ち、水入れの中の水を頭から彼女に掛けた。「それはこっちのセリフだ、このタカビー女! 誰が娼婦だ、あたしは歴とした貴族だこの野郎!」にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
ステファニーはエドガーとのデートのことを聞いて怒りまくるスティーブを部屋から追い出し、ネグリジェからイブニングドレスに急いで着替えた。エドガーが帰った後、ステファニーは昨夜の疲れがどっと押し寄せてきて、ベッドで休んでいると、起きたらもう時計は夜の6時を回っていた。メイにコルセットを締めて貰い、お気に入りの、肩に薔薇の飾りが付き、ライン状に薔薇のコサージュが施されている真珠色のドレスをまとい、キャラメル色の髪は適当にセットして馬車に飛び乗った。(髪は崩れてねぇな・・化粧も完璧だ。よし、これで人前に出られるぜ!)コンパクトに映った自分の顔を見て、ステファニーは満足そうに微笑んだ。「お嬢様、ホテルに着きました。」「ありがとう。」ステファニーは御者にチップを握らせ、優雅な足取りでホテルに入っていった。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「ステフから離れろ、この変態っ!」スティーブは怒りで顔を真っ赤にしながら、弟の貞操を奪おうとする少年に銃を向けた。「お兄様落ち着いて! わたしこの人にデートに誘われただけだからっ!」怒りで興奮する兄を、ステファニーは慌ててなだめはじめた。「おお、ステフ! あいつになんか変なことされなかったか! この僕が来たからには、すぐにあいつをやっつけて・・」スティーブはステフに銃で狙いを付けながら言った。「大丈夫、大丈夫だから! だから銃を下ろして、お兄様!」スティーブは弟の身が安全だと知ると銃を下ろした。ステファニーがホッと胸をなで下ろしているのに対し、銃口を向けられたエドガーは相変わらず涼しい顔をしている。「賑やかなご家族をお持ちですね。」「貴様、誰が賑やかだとぉ!」エドガーの言葉を聞き、スティーブはまたしても彼に銃を向けた。「お兄様、落ち着いてっ」ステファニーはまた兄をなだめはじめた。エドガーはそんな2人を尻目に、懐中時計を取り出した。「もうこんな時間だ。私はもう行かなくては。ではフロイライン・シュティファニー、今晩7時にまたお会いいたしましょう。」「ちょっ、まっ・・」エドガーはステファニーの返事を待たずに勝手にデートの約束を取り付け、部屋から出ていった。「デートだと? 一体どういうことか説明しろ、ステフ!」怒り狂う兄を前に、ステファニーは深いため息を付いた。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
(な、なんなんだこいつ! いきなり抱きついてきやがって・・)「ちょっ、離して・・」エドガーに突然抱きしめられ、ステファニーはエドガーの腕の中で暴れた。「しばらくこうさせてください。昨夜私はあなたのことばかり考えて一睡もできずに朝を迎えました。私はあなたの温もりを、少しでもいいから感じていたいのです。」エドガーはそう言ってステファニーを力強く抱きしめた。「そ、そんなに抱きしめられたら窒息する・・」ステファニーはそう言って咳き込んだ。エドガーは慌ててステファニーから離れた。「すいません、あなたに会えた喜びで、つい・・」(なんなんだ、こいつ!? 一体何者!?)ステファニーは警戒しながらエドガーと距離を取った。「で、わたくしに何のご用ですか?」ステファニーの言葉を聞き、エドガーは花のような笑顔を浮かべながら言った。「今夜7時に、私が宿泊するホテルのレストランでディナーをご一緒できればよろしいのですが。」(こいつ、何言ってんだよ!? いきなり抱きついた後は、デートの誘い!?)ステファニーが固まったままその場から動かないでいると、エドガーは昨夜と同じようにステファニーの手首を掴み、自分の唇をステファニーの唇に重ねた。(・・え?)ステファニーが呆気にとられていると、バーンという音がして、ドアが何者かに蹴破られ、ちらりドアの方に目をやると、慌てふためいているメイ達の姿と、怒りで顔がゆでたこのようになっている兄-スティーブの姿があった。「ステフから離れろっ!」スティーブはそう言って拳銃をエドガーに向けた。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
(あん時、俺と踊った奴じゃねぇか!)昨夜ワルツを踊った相手が目の前にいることにステファニーは驚き、目をパチクリとさせた。「突然のご訪問、失礼を。私はエドガー=セルフシュタイン。以後お見知りおきを、レディー。」そう言ってエドガーはステファニーの手の甲に口づけた。「わ、わたくしはステファニー=セルフォードと申します、ミスター・セルフシュタイン。こちらこそよろしく。」自己紹介と挨拶を述べたステファニーは、エドガーを見た。昨夜シャンデリアの下に照らされていたエドガーは、まるで童話の中に登場する王子様そのものだったが、今の彼は昨夜の時よりも高貴さと優雅な雰囲気を内側から醸し出していた。「エドガーとお呼び下さい、フロイライン。」エドガーはそう言うと、ステファニーを抱きしめた。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
(今日はゆっくりベッドの中で休もうと思ってたのに・・) メイ達に着付けを手伝って貰いながら、ステファニーは慌てて着替えを済ませ、昼食を急いで平らげた。「お嬢様、間もなくお客様がお見えですよ。しゃんとしてください。」あくびをしながらベッドに腰掛けるステファニーに、メイがピシャリと言った。「お客って誰?」「昨夜の舞踏会でお嬢様に一目惚れなさったとか。とにかく、お会いすればわかりますよ。」ではわたくしたちはこれで、と言ってメイと彼女の同僚達は部屋を去っていった。(誰なんだろう・・俺に急に会いたいってやつは・・)しばらく待っていると、ドアが開き、その向こうにブロンドの髪とエメラルドの瞳をした少年が立っていた。「あなたは・・」「思い出してくれましたか、フロイライン?」にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「ああ~、よく寝た。」ここはセルフォード侯爵邸にある、ステファニーの寝室。社交界デビューを果たした彼は、宮廷で緊張しっぱなしでデビュー初日を終え、さっきまでぐっすりとベッドの中で寝入っていた。「腹減ったなぁ。」そう言ってステファニーはベッドから降りて机に置いてある時計を見た。時計の針は正午を指していた。今からメイドに昼食を運ばせて、部屋でゆっくりと昨夜の疲れを取ろう-そう思いステファニーが再びベッドに入ろうとしたとき、ドアが乱暴に開かれ、肩までの長さのブロンドをなびかせながら、弟のレオナルドが入ってきた。「お姉様、昨夜のお話を聞かせてよっ!」「レオ、く、苦しい・・」ベッドに勢いよく乗られ、弟の全体重を胸に感じたステファニーは、そう言って咳き込んだ。「ねぇお姉様、宮廷にはたくさんごちそうがあった? 皇太子様はいらっしゃった? シャンパンも飲んだんでしょう?」興奮して矢継ぎ早に質問してくる弟に笑顔を向けながら、ステファニーは淡々とした口調で答えた。「宮廷にはたくさんごちそうがあったけど、皇太子様はお見えにはならなかったよ。シャンパンはおいしかったかな。」「いいなぁ~、僕も社交界に出たいよっ」「レオにはまだ早過ぎるよ。それよりも今は先生が来る時間じゃないのか?」ステファニーがそう言うと、レオナルドは顔を曇らせた。「あの先生嫌いだよ。僕が綴りを間違うとぶつんだもの。それに宿題をたくさん出すし。」レオナルドはそう言って、ステファニーに愚痴をこぼし始めた。セルフォード家の家庭教師であるウィリアム=ガードナーは古希を迎え、厳格な性格で、授業をサボったり、宿題を忘れたりすると必ず鞭を振るった。ステファニーも長兄のスティーブも、幾度となくガードーナーの鞭の洗礼を受けている。「大丈夫、レオが真面目にしていれば先生は優しくしてくださるよ。さ、お部屋にお戻り。」ぐずる弟をなだめて部屋に帰らせると、ステファニーは再びベッドに横になった。うとうとしていると、ドアがドンドンと叩かれた。「お嬢様、入ってもよろしいでしょうか?」ドアの向こうから、メイド長のメイの声が聞こえた。「どうぞ。」「失礼いたします。」ドアが開き、糊のきいた白いエプロンをつけ、黒髪をきっちりとまとめたメイが、昼食を載せたトレイをステファニーの前に置いた。「お嬢様、だいぶお疲れのようですね。」メイはそう言って、あくびをするステファニーを見た。「うん。昨夜は何かと大変だったから。今日はゆっくり休みたいから、誰にもこの部屋に通さないでね。」「わかりました、と言いたいところですが、さっそくお嬢様にお客様がお越しになっております。」メイは表情を変えずに言った。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
ステファニーの元から去った少年は、ボーイからシャンパンを受け取ると、一気に飲み干した。「エドガー、こんなところにいらしたのね。」突如彼の前に、薔薇色のドレスを身にまとった黒髪を結い上げた美女が現れた。「ミッチェル、ダンスの時に君をほったらかしにしてしまってすまないね。」「わたくし、あなたと踊るのを楽しみにしていたんですのよ。それなのに、あなたは・・」美女-もといエドガーの婚約者・ミッチェルはそう言って口を尖らせた。「本当にすまないと思っているよ。僕は美しいものを見ると手を出さずに入られない性分なんでね。」エドガーはそう言って、ステファニーを探した。ステファニーは、浅黒い肌をしたラテン系の男とダンスを踊っていた。何故かエドガーは、ステファニーと踊っている男に嫉妬した。(どうやら僕は、あのフロイラインに一目惚れしてしまったみたいだ。)にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「私と踊ってくださいませんか、フロイライン?」 肩を叩かれステファニーが振り返ると、そこにはブロンドの髪にエメラルドのような深い緑の瞳をした少年が自分に向かって微笑んでいた。ダンスを申し込まれて、することはひとつ。ステファニーは少年が差し伸べた手に、ポンと軽く自分の手を置いた。少年はステファニーの手首を掴み、フロアの方へと歩き出した。「わわっ」いきなり手首を掴まれ、フロアに連れ出されたステファニーは、ドレスの裾を踏んづけて転びそうになった。だが、すんでの所で少年がステファニーを抱き留めた。「大丈夫ですか?」「え、ええ・・」しおらしい乙女らしく、ステファニーは頬を赤く染めながら言った。ワルツを踊るのは今回が初めてなので、ステファニーはどうすればいいのかわからなかった。「あの・・わたくしワルツを踊るのが、今夜で初めてなんです。」ステファニーが思い切ってそう言うと、少年はステファニーに微笑んでこう言った。「僕がリードしましょう。」それからステファニーは少年とともにワルツの調べに乗りながら、優雅なステップを踏んだ。夢のような時間はあっという間で、楽団は曲を奏でるのをやめ、フロアで踊っていた男女はまた社交の場に戻っていった。「初めてにしては、上出来でしたよ。」「ありがとうございます。」ステファニーはそう言って少年の元から去ろうとすると、少年はステファニーの手首を掴んで、ステファニーの唇に口づけをした。「縁があったら、またお会いしましょう。」少年はそう言って、ステファニーの元から去っていった。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
(なんだかあの婆さんにさっきからすっげえ見られてるよ・・) ステファニーは先ほどから、シャルステイン男爵婦人達の氷のような冷たい視線を感じて、居心地の悪さを感じていた。社交界デビューの日に早々とお局様に目をつけられてしまった。(とんだへまをやらかしちまった・・それに、普通の貴族のお嬢さんと比べて、俺は2年早くデビューしちまってるというのも、あの婆さんの癪(しゃく)に障ったのかなぁ・・)通常、貴族や上流階級の家に生まれた子女は、18で宮廷に行って女王に拝謁してから社交界得ビューする。だがステファニーの場合、「本人の事情」により、2年早く社交界デビューを果たしたため、社交界のしきたりを破ったとシャルステイン男爵夫人から思われて睨まれてしまったのではないかと、ステファニーは思っている。華やかな社交界の裏では、貴族達による醜い足の引っ張り合いが行われている。シャンデリアやご婦人方の宝石で輝く華麗なるこの世界では、常日頃様々な陰謀が張り巡らされているのだ。その社交界を取り仕切り、まとめ役となっているのは、他ならぬシャルステイン男爵夫人である。彼女を味方につければ恐いものなし、逆に敵に回せば、彼女の影に一生怯えなければならないか、ご機嫌取りをするかのひとつにふたつにしかない。だがステファニーは、シャルステインに媚びを売ったりする気などさらさらなかった。今社交界を取り仕切っているのは彼女であっても、そこから一歩出れば彼女はただの婆さんではないか。そんな婆さんのご機嫌取りをするくらいなら、この際開き直って型破りなことをして婆さんに睨まれながら社交界ライフを満喫した方がいい。幼い頃から鼻っ柱が強く、曲がったことは大嫌いという性格ゆえか、ステファニーはシャルステインにデビュー初日に睨まれたことを失敗と思わずに、熾烈な社交界を生き抜くための試練のひとつとして考えた。(さっきはへまをやらかしたけど、1度失敗したら今度は気を付ければいいもんな。ケ・セラ・セラだ。)ステファニーはそう思いながら2杯目のシャンパンをグッと飲み干した。その時、誰かに肩を叩かれた。「私と踊っていただけませんか、フロイライン?」にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
「全く、近頃の子は、なんていう口の利き方をするのかしら。」扇子を扇ぎながら、シャルステイン男爵夫人はボーイから飲み物を取っている捨てファニーを睨みつけながら言った。「見ない顔ね。あの子は誰?」「セルファード侯爵家の1人娘で、ステファニー様ですわ、マダム。」男爵夫人の取り巻きの1人であるオルガがそう言ってステファニーを見た。「立ち居振る舞いといい、言葉遣いといい・・あの子はレディーとしての教育を受けていないんじゃございませんこと? あれが貴族の令嬢かしら?」オルガがそう言ってあざ笑うと、男爵夫人はため息をついて言った。「あの子は社交界にデビューしたばかりだから、まだここでの振る舞い方がわからないだけでしょう。まぁ、このわたくしが社交界はなんたるかをみっちりと教育してさしあげますけどね・・」鷹のような冷たい瞳が、ステファニーの姿を射た。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
1880年、ロンドン。 大英帝国の黄金期とも呼ばれるイギリスを治める女帝の前に、美しい少女が1人頭を垂れていた。彼女の名は、ステファニー=セルフォード。真珠色のドレスをまとい、結い上げたキャラメル色の髪が時折シャンデリアのクリスタルに反射して美しく輝く。「女王陛下にお目にかかれて、光栄です・・」ステファニーは、女王の前でカチコチになりながらも、挨拶を述べた。「はぁ~、疲れた。」無事女王への拝謁を終え、ステファニーはホッと胸をなで下ろした。早く帰りたいところだが、今夜は彼女にとって一生を左右するであろう大事な社交界デビューの日だ。(ったく、なんで俺が女の格好して女王の前に出なきゃなんないんだ。)髪をいじりながら、ステファニーはため息を付いた。ドレスを身にまとい、真珠のネックレスをつけているステファニーはどこからどう見ても貴族の令嬢だが、実はわけあって女として育てられた歴とした男子である。何故女として育てられたのか、幾度もステファニーは幼い頃から両親や親類に尋ねたが、両親や親類は決して語ろうとはしなかった。兄であるスティーブや弟のレオナルドは貴族の令息として普通に生活をしているのに、何故自分だけ貴族の“令嬢”として暮らさなければならないのか、いまだに納得できなかった。一体、過去にセルフォード侯爵家の次男に何があったというのだ。「ったく、やってらんねぇ。」「口をお慎みなさいな、ここは宮廷ですよ。」氷のような冷たい声が背後からしてステファニーが振り返ると、そこには銀髪をきっちりと結い上げ、紫のドレスの裾を翻しながら、シャルステイン男爵夫人がステファニーを睨みつけていた。(ゲッ、ババアがいるのに気が付かなかった!)デビュー初日に、お局様に目をつけられてはいけない、そう思ったステファニーは、男爵夫人に愛想笑いを浮かべた。「申し訳ございませんでした。次から気をつけるようにいたしますわ。」「よろしい。」男爵夫人は取り巻きを連れて、ステファニーから去っていった。にほんブログ村
2012年03月03日
コメント(0)
全151件 (151件中 101-150件目)