FLESH&BLOOD 二次創作小説:Rewrite The Stars 6
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
火宵の月 芸能界転生パラレル二次創作小説:愛の華、咲く頃 2
火宵の月 ハーレクインパラレル二次創作小説:運命の花嫁 0
火宵の月 帝国オメガバースパラレル二次創作小説:炎の后 0
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧の騎士 2
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:幸せの魔法をあなたに 3
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
YOI火宵の月パロ二次創作小説:蒼き月は真紅の太陽の愛を乞う 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 0
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
火宵の月 昼ドラ大奥風パラレル二次創作小説:茨の海に咲く華 2
火宵の月 転生航空風パラレル二次創作小説:青い龍の背に乗って 2
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
火宵の月×薔薇王の葬列 クロスオーバー二次創作小説:薔薇と月 0
金カム×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:優しい炎 0
火宵の月×魔道祖師 クロスオーバー二次創作小説:椿と白木蓮 1
薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:それを愛と呼ぶなら 1
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:黄金の楽園 0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳥籠の花嫁 0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:蒼き竜の花嫁 0
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:月の国、炎の国 1
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
火宵の月 転生昼ドラパラレル二次創作小説:それは、ワルツのように 1
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師 1
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
FLESH&BLOOD×黒執事 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧の器 1
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華 0
火宵の月 現代ファンタジーパラレル二次創作小説:朧月の祈り~progress~ 1
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:ガラスの靴なんて、いらない 2
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
火宵の月 吸血鬼オメガバースパラレル二次創作小説:炎の中に咲く華 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:黎明を告げる巫女 0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:光の皇子闇の娘 0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:闇の巫女炎の神子 0
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く 1
火宵の月 昼ドラファンタジー転生パラレル二次創作小説:Ti Amo~愛の軌跡~ 0
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~ 3
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら 2
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
火宵の月 異世界ハーレクインファンタジーパラレル二次創作小説:花びらの轍 0
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達 1
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花 2
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔 6
名探偵コナン腐向け火宵の月パラレル二次創作小説:蒼き焔~運命の恋~ 1
火宵の月 千と千尋の神隠し風パラレル二次創作小説:われてもすえに・・ 0
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~ 15
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて 10
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう 8
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
火宵の月×天愛クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 0
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい 4
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
魔道祖師×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想うは、あなたひとり 2
火宵の月×ハリー・ポッタークロスオーバーパラレル二次創作小説:闇を照らす光 0
火宵の月 現代転生フィギュアスケートパラレル二次創作小説:もう一度、始めよう 1
火宵の月 異世界ハーレクインファンタジーパラレル二次創作小説:愛の螺旋の果て 0
火宵の月 異世界ファンタジーハーレクイン風パラレル二次創作小説:愛の名の下に 0
火宵の月 和風転生シンデレラファンタジーパラレル二次創作小説:炎の月に抱かれて 1
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 1
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 1
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
火宵の月 異世界ファンタジーハーレクイン風昼ドラパラレル二次創作小説:砂塵の彼方 0
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ルドルフ達は京都を離れ、関西国際空港へと向かった。「那覇行きの便までまだ時間があるな。遅めの朝食といきますか。」ヨハンはそう言って腕時計を見た。「朝からいっぱい食うぞv」ルドルフは目を爛々と輝かせながら言った。「あまり食べ過ぎないでくださいね。払うのはいつも私と大公様なんですから。」「わかってる、わかってる。」「わかってないでしょう・・」ユリウスはそう言ってため息をついた。突然、ルドルフのあゆみが止まった。「お前は・・」「どこへ行くんだ?」濃紺のスーツを着た龍季はそう言ってルドルフを見た。「沖縄だ。バカンス気分でな。あんなことがあったし・・」ルドルフはそう言って俯いた。「そうか・・せっかくお前と再会できたのに、残念だな。」龍季はルドルフに微笑んだ。「お前とは一緒にいたいと思っている・・けれど、私は決めたんだ。」ルドルフは龍季を見た。「私は必ず、あいつを倒す。あの惨劇を起こした張本人を、必ずこの手で倒すと。」「・・お前が決めたことなら、俺は止めない。」「ありがとう。」そう言ってルドルフは涙を流した。「ルドルフ様、行きますよ。」「待ってくれ。」ルドルフは龍季に背を向けて歩き出した。「俺はいつでも待っているから・・綾名。」龍季はそう呟いて、空港を後にした。-第11章・完-あとがき終盤は暗澹たる展開となってしまった京都編。旺太のその後について書く機会がありましたら書いてみようと思ってます。次回は沖縄編。いままで孤独だったルド様とユリウスに初めて仲間が出来ます。
2008年02月15日
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2000年7月10日、東京。創立祭の惨劇から1ヵ月経ち、旺太は必死にリハビリに励んでいた。彼はあの惨劇によって、末梢神経を損傷した。しかし彼はもう一度サッカーをするため、毎日リハビリに励んだ。あの惨劇で、彼以外の全校生徒と、その保護者や卒業生達の多くは死んだ。白薔薇学園があった場所は、いまや無残にクレーター状に抉られ、かつて壮麗な姿を見せていた大聖堂と瀟洒な学生寮と講堂、そして校舎は跡形もなく破壊され、瓦礫だけが残っていた。旺太はまだ、彗達の死を信じられないでいた。彗が突然人が変わったように虐殺を始めた時の顔は、今になっても忘れられない。ただひとつわかっているのは、彼らがこの世にいないことだ。(俺は・・生き残ってしまった・・)数週間後、旺太は苦しいリハビリの結果、再びサッカーが出来るようになった。旺太は京都へ向かい、学園跡地に花を手向けた。 そこにはあの惨劇で命を落とした1000人の犠牲者達の慰霊碑が学園の門の傍に建てられていた。旺太は、門の向こうに広がっている瓦礫の山を見た。1ヶ月前、あそこで自分達は青春を謳歌して、幸せな日常を送っていた。しかし、あの惨劇が何もかも奪った。「・・俺だけ生き残って、ごめんな・・」旺太はそう呟いて、慰霊碑に花を手向け、車に乗った。その数分後、ルドルフとユリウスが門のところに白薔薇を手向けた。「一体あの閃光は、誰が放ったのでしょうね?」「アフロディーテだ。あの歌は・・間違いない。」「そう・・ですか・・」惨劇の爪痕が生々しく残る学園跡地を、2人は去った。
2008年02月15日
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「綺麗だから、もっと兄様に花火、見せちゃおうっとv」アフロディーテはそう言って今度は学生寮に向かって閃光を放った。「やめろー!」旺太がそう叫んだのと同時に、学生寮が木っ端微塵となった。「あははは、面白~い!病み付きになりそうv」アフロディーテは操縦桿を握り、上空を旋回した。「さっきのは一体・・」「とりあえず、自宅に戻りましょう。考えるのは、それからです。」「ああ。」ルドルフとユリウスは学園の裏口から出て、自宅へと向かった。「遅かったな。聞いたか、今学園の方で・・」「知っている。というより、現場を見たからな。それに戦闘機も。」「戦闘機?」ヨハンはそう言って眉をひそめた。「どうやら爆撃機のようで、先ほど講堂と学生寮に向かって攻撃しました。」「何だって!?じゃあ生徒達は・・」ユリウスは静かに首を振った。「ちくしょう、どこのどいつが民間人を攻撃してやがる!」ヨハンはそう言ってテーブルを拳で叩いた。「それを今、考えて・・」ルドルフが先ほど見た戦闘機のことを考えていた時、“あの歌”が聞こえてきた。「この歌は・・まさか・・」「兄様、もっと兄様に綺麗な花火、見せてあげるわv」アフロディーテはそう言って笑いながら、悉く学園内を破壊した。「石田、華村!」旺太は学生寮に向かって友人の名を呼んで駆けていった。「人間、見~っけ!」アフロディーテはそう言ってスイッチを押した。瓦礫が旺太の体を下敷きにした。紅蓮の炎が包む学園を上空から見下ろしながら、歌姫は狂気のアリアを何度も歌った。
2008年02月15日
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戦闘機の隊列は、1時間足らずで京都上空に到着した。「兄様のいる所はどこかしら?」アフロディーテはそう言って、目的地の位置を確認した。『アフロディーテ様、くれぐれも無駄な殺生は・・』「お前は黙って。」アフロディーテは通信チャンネルを切った。「ここねv」1分もしないうちに、アフロディーテは白薔薇学園を見つけた。「待っててね、兄様v兄様に綺麗な花火、見せてあげるv」戦闘機の隊列は徐々に、白薔薇学園上空に迫りつつあった。その頃、旺太は憎しみで心を占めながら、ルドルフを探した。「どこだ・・奴はどこにっ!」「なんだ、これは・・まさか、あいつが1人で・・」ルドルフはそう言って虐殺現場と化した模擬店通りを見た。「1人じゃ無理でしょう・・裏で誰かが彼を操っている。」「もしそうだとしたら、一体誰が・・」「見つけたぁ!」怒気を孕んだ声がして、ルドルフは振り向いた。そこには、マシンガンを構えてルドルフを睨む旺太が立っていた。「オータ・・生徒会長はどこに?」「お前が彗を撃ったんだろ、この人殺し!」旺太はそう言って、マシンガンの銃口をルドルフに向けた。「生徒会長は撃たれたのか!?彼は一体どこに・・」「しらばっくれんな!お前が彗を撃ったくせに!」「私が・・生徒会長を?一体何の話だ?」「とぼけんなよ!」旺太はそう言ってマシンガンを乱射した。ルドルフとユリウスは近くの模擬店に飛び込んで身を隠した。「彼は一体何を言ってるんだ?」「ルドルフ様、彼は何者かに嘘を吹き込まれています。」ユリウスはルドルフを見た。「一体どういうことだ?」「恐らく生徒会長は何者かに傀儡の術をかけられ、虐殺を始めた。その後、お払い箱となった生徒会長は、何者かに撃たれた。」「たまたまその場に居合わせたオータに、何者かが嘘を吹き込んだ、ということか。」ルドルフはそう言って唸った。「一体誰なんだ、生徒会長を操った者は・・」「ルドルフ様、上空に戦闘機が。」ユリウスがそう言って上空を見上げた。上空には、20機の戦闘機が隊列を組んでこちらへと向かってくる。「どうして、こんなところに・・」ルドルフは戦闘機を見た。「兄様、見ぃ~つけたぁv」アフロディーテは隊列から離れ、講堂をロックオンしてスイッチを押した。紅蓮の閃光が、講堂に直撃して辺りを炎に包んだ。「これは、一体・・」ルドルフは瓦礫と化した講堂を呆然とした様子で見た。「うふふ、綺麗だわv」アフロディーテはそう言って犬歯を覗かせて満足そうに笑った。
2008年02月15日
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彗は、逃げ惑う生徒達と客達を無差別に撃っていた。「皆殺しですv」彼の瞳は狂気の色に染まり、精神は狂気に支配されていた。「ママ、どこ~」母親とはぐれてしまった幼児に、彗は銃を向けた。「そこまでにしとけよ。」泰英はそう言って彗から銃を奪った。「・・あなたでしたか・・講堂にいるみんな、殺してきましたよ。」「そうか、ご苦労さんっ!」泰英は彗に銃口を向けた。講堂を出た旺太は模擬店通りに彗の姿を見つけた。「彗・・」親友に駆け寄ろうとしたとき、彗はゆっくりと地面に倒れた。「どう・・して・・」「お前を殺す手間が省けたぜ・・俺の傀儡の術に簡単にひっかかるなんてなぁ。」泰英はそう言って彗の腹を蹴った。「あばよ。」腹部から血を流している彗を残して泰英は歩き出した。「泰英、彗がっ!」「知ってるぜ。彗は、お前が熱を上げている先生が撃ったんだ。」「嘘だ・・そんなのっ!」「嘘じゃねぇよ、ほら。」泰英はそう言って旺太にルドルフの銃を見せた。「そんな・・先生が・・彗を・・」「あいつは彗が邪魔だったんだよ。だから殺したんだ。」呆然と立ち尽くす旺太を残して、泰英は再び歩き出した。「・・われながら、上手い嘘ついたぜ・・」「・・先生が・・彗を・・許せないっ!」旺太の瞳は、ルドルフへの憎しみに燃えていた。
2008年02月15日
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講堂では、創立130周年の挨拶を生徒会長の彗がすることとなっていた。だが予定時間を10分過ぎても、彗は一向に現れない。(どうしたんだろう、彗・・腹壊してんのかな?)旺太がそう思いながら講堂内を見渡していると、壇上に彗が現れた。だが、どこか様子がおかしい。右手に何かを握っている。「講堂に集まりの皆さん、ここで死んでいただけないでしょうか?」彗の言葉を聞いた生徒達はざわめいた。―今、なんて・・―冗談キツイな・・「みんな死にたくないようですね・・じゃあ、後ろの方々、皆殺しにしてください!」後方に控えていた警備員達が一斉に生徒達に向かって銃口を向けた。「マジかよ!?」「彗、やめろ!」旺太が壇上に駆け上がるのと同時に、1発の銃声が講堂に響いた。「せんぱい・・どうして・・」胸に紅い華を散らしながら、中等部の生徒が1人、床に倒れた。講堂はたちまちパニックとなった。「1人たりとも残してはなりません!」「やめろよ彗、どうしたんだよ!?」必死に親友を止めようとする旺太に向かって、彗は彼の腹部を撃った。「どうしても皆殺しにしなくちゃいけないんです、ごめんなさい。」彗は壇上から降り、床に落ちていたマシンガンで逃げる生徒達を撃ち始めた。彼の顔や白い制服は、たちまち生徒達の返り血に染まった「虐殺です、この学園にいる人たちは、全て皆殺しです!」真紅の瞳を狂気で輝かせながら、彗はそう言って笑った。「・・なんだ、これは・・」 ルドルフとユリウスが講堂に入ると、そこには血の海と、変わり果てた生徒達の姿が床に転がっていた。「一体何があった?」ルドルフはまだ息がある生徒に話しかけた。「・・生徒・・会長・・が・・突然・・銃を・・」「生徒会長はどこにいる!?」ルドルフはそう言って生徒の肩を揺さぶったが、彼は何も答えなかった。「生徒会長が・・一体どうして・・?」「ルドルフ様、彼を早く見つけましょう。」「ああ・・」2人が去った後、旺太はよろめきながら講堂を出た。
2008年02月15日
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「なぁ、計画は進んでるか?」「ええ、順調です。」彗はそう言って泰英を見た。「そうか・・じゃあ俺はちょっと、あいつのところに挨拶してくるわ。」泰英は模擬店が並ぶ講堂前へと向かった。「じゃ、私たちは寮で休んでくるわね。」「では、失礼します。」「また後でな。」安博と華と別れ、ルドルフとユリウスは中庭のベンチに腰を下ろした。「腹が苦しい・・」「あんなに食べたら、苦しくもなりますよ。」ユリウスはそう言ってため息をついた。「よぉ、先生。相変わらず綺麗だなぁ。」「お前は・・」ルドルフは泰英を睨んだ。「睨むなよ。俺はあんたを殺しに来たんじゃねぇんだから。」泰英はそう言って笑いながら、ルドルフの肩に手を置いた。「何しに来た?」「別に。あんたと話をしに来ただけさ。これから綺麗な花火が打ち上げられるぜ。それに・・あんたの大好きなものも沢山用意されるぜ。」「・・何が言いたい?」泰英はベンチから立ち上がり、ルドルフ達の元を去っていった。「上手くいきましたか?」「ああ。でもお前の計画じゃなんだかつまんねぇな。」「何を言ってるんです。この計画を成功させるためには綿密な準備が・・」「なぁ、俺がお前にもし、『会場にいる奴らを皆殺しにしろ』って言われたらどうする?」「こんなときに、何を冗談言って・・」彗がそう言って泰英を睨んだとき、彼の真紅の瞳に彗は魅せられた。「・・そんな・・殺したくない・・嫌だ・・」彗は地面に膝をつき、泣き叫んだ。「さっさと殺しちまえよ。」泰英はそう言って彗の髪を梳いた。「・・そうですね、全員殺しましょう。」そういった彗の瞳は、真紅に染まっていた。
2008年02月15日
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ルドルフ達が創立祭を大いに楽しんでいる頃、東京の上空には数機の戦闘機が飛んでいた。「ねぇ、最近働き詰めよね・・少しは休みたいわ。」そう言ってアフロディーテは操縦席で凝り固まった首を回した。『もうしばらくの辛抱です、アフロディーテ様。ルドルフ様に“花火”をお見せしなければ。』「わかったわよ。」アフロディーテはため息をついて、東京の街を見下ろした。表参道の路地を少し入ったところに、ゴシック建築の大聖堂が見えた。大聖堂の様子を拡大すると、結婚式を挙げているカップルが幸せそうな笑顔を浮かべている。「こっちは休み返上で働いてるのに・・」アフロディーテはいいことを思いついた。隊列を離れ、アフロディーテは大聖堂の上空から標的を狙った。「殺しちゃおv」アフロディーテの白く長い指は、波動砲の発射スイッチに伸びた。幸せな光景はあっという間に阿鼻叫喚の生き地獄へと化した。「あはは、面白~いv」アフロディーテは眼下に広がる惨状を見て笑った。『アフロディーテ、おふざけが過ぎますよ。』カエサルの厳しい声がモニター越しに聞こえた。「ごめんなさい、ちょっとイライラしてて・・」『無駄な殺生はおやめくださいと申し上げたはずでしょう?』「そんなに怒らないで。ただの鬱憤晴らしにやっただけなのにぃ・・」『人をゲーム感覚で殺すのはおやめくださいと申しているのです!』アフロディーテはカエサルとの通信を一方的に切った。「カエサルったら、最近うるさくて嫌だわ・・でも、兄様に綺麗な花火を見せるまでは、我慢しなくちゃv」アフロディーテは機体を旋回させて、隊列へと戻った。『いままでどこへ行ってらしたのです?』「鬱憤晴らしに、ちょっとねv」『・・そうですか・・では先を急ぎましょう。』「ええv」
2008年02月15日
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2000年6月10日、白薔薇学園。白薔薇学園の創立130周年を祝う創立祭が、盛大に幕を開けた。体育館には、この日行われる記念公演を観るために1000人の観客が公演が始まるのを今か今かと首を長くして待っていた。「・・なんだか緊張してきたな・・」舞台の袖から満席となった観客席を見ながらルドルフは言った。「リラックスなさい。日頃の稽古と同じだと思えばいいのよ。」安博はそう言ってルドルフの肩を叩いた。「わかってる・・」やがて、舞台の幕が開いた。ルドルフは日頃の稽古の成果を発揮し、貴族の令嬢役を熱演した。その結果、観客から5分間の喝采を受けた。「お疲れさんv」「疲れた・・」ルドルフはそう言って、床にへたり込んだ。「ルドルフ様?」「力が抜けた。」「あなたという方は・・」ユリウスはルドルフに微笑んで、彼に手を差し出した。「ありがとう。」ルドルフはユリウスの手を取り、ゆっくり立ち上がった。 その後ルドルフ、ユリウス、安博、華たち4人は、校門から大聖堂へと一直線に続く道に咲き誇る学園の象徴である白薔薇を眺めて、校門から講堂まで続く飲食店めぐりをし、胃が破裂するまで食べた。「ここのタコスは美味いな。」ルドルフはそう言って大盛りのフライドポテトとタコスを食べた。「・・ねぇ、いつもこの調子なの?」「はい・・」「大変ですね・・」「ええ・・」ユリウス達は遠巻きにタコスを頬張るルドルフを見ていた。「美味いな、このタコス。チキンシーザー4つくれ。」
2008年02月15日
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ルドルフはその夜、また変な夢を見た。美しい箏の音に、ルドルフは牡丹が咲き乱れる中庭へと向かった。“ここは、一体・・”―やっと来たのか、綾名。突然箏の音が止み、真紅の瞳が自分を見つめている。“お前は・・”―やっと、思い出してくれたか。ルドルフの脳裏に、男と過ごした日々の記憶が甦った。“思い出した・・”そこでルドルフは目を覚ました。「ん・・」ルドルフはベッドから降りて、身支度をした。(あの夢は一体・・)脳裏に鮮明に残る前世の記憶。異なる時間、異なる場所。ここで、“私”は生きていた。だとしたら・・あいつは・・考え事をしながら歩いていると、龍季とぶつかりそうになった。「すまん・・」「いや、いいんだ。それよりも、俺のことを思い出してくれたか?」ルドルフは龍季の真紅の瞳を見た。思い出した、全ての記憶を。2人で過ごした、甘い時を。「・・全て思い出した・・お前との時間を・・」「そうか、よかった・・」龍季はそう言ってルドルフを抱きしめた。「もう、離さない・・」「離さないでくれ・・」(ルドルフ様・・)抱き合う2人を、ユリウスは木陰から見ていた。
2008年02月15日
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香華とその父親であり、西岡コンツェルン社長・西岡京介の葬儀は、しめやかに行われた。久岡龍季は、婚約者の突然の死に悲しみながら、葬儀に参列した。―龍季様、おかわいそうに・・香華さんとは6月に結婚する予定でしたのに・・―香華さんを殺した犯人はまだ捕まっていないの?―それが・・まだ・・「私達が来てもよろしかったのでしょうか?」「焼香するだけでいいだろう。」ルドルフはそう言って葬祭場へと入った。―あれは、確か・・―香華様と白薔薇学園の舞踏会で言い争っていた・・―まさかね・・2人が葬祭場にはいると、参列客の視線が一斉に集まった。「気にするな。」「はい・・」ルドルフは親族に向かって一礼し、焼香を上げた。ユリウスもそれに倣って焼香を上げた。「行くぞ。」ルドルフがユリウスの手を引いて葬祭場を出ようとしたときー「また会えたな。」背後から声がしてルドルフが振り向くと、そこには龍季が立っていた。「この度はご愁傷様です。」ユリウスはそう言って龍季に頭を下げた。「ありがとうございます。」龍季はユリウスにお辞儀した。「お前と話がしたいんだが、いいかな?」「ああ。」ルドルフと龍季は、葬祭場の離れにある茶室へと入った。「どうぞ。」龍季はそう言って、ルドルフの前に抹茶を出した。「いただきます。」ルドルフは抹茶を飲み干した。「結構なお点前でした。」「ありがとうございます。」龍季はルドルフに頭を下げた。「お前に茶道の嗜みがあるなんてな。」「うちは財閥であるとともに、茶道の家元だからな。」「世間話をするために、ここに呼んだわけじゃないだろ?」龍季はルドルフを抱き締めた。「まだ、俺のことを思い出さないのか?」「その話はしたくない。私はお前のことなど知らない。」「俺は待っている・・俺のことを思い出させてやる、いつか必ず。」「やれるものなら、やってみろ。」ルドルフはそう言って茶室を出た。「待て、綾名!」龍季の言葉を聞き、ルドルフはなぜだか懐かしさを憶えた。(今のは、一体・・)ルドルフは首を傾げながら葬祭場を去っていった。「綾名・・俺はいつか必ず・・」龍季は、そう言って去っていくルドルフの背中を静かに見送った。真紅の瞳に悲しみを滲ませながら。
2008年02月15日
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2000年5月下旬。創立祭を間近に控えた白薔薇学園では、どのクラスやクラブも、準備で慌しかった。ルドルフ達は毎日朝早くから深夜まで通し稽古を繰り返していた。「疲れた・・」ルドルフはそう言ってソファに寝そべった。「毎日お疲れ様です。」ユリウスはルドルフの前に紅茶とスコーンが載ったトレイを置いた。「ありがとう。」ルドルフは淹れたての紅茶を一口飲んでほうっとため息をついた。「生き返った・・最近夕飯を食べる時間がないからな・・」「そうでしょうね、もうすぐ創立祭が近いですし。」ユリウスはそう言いながら、ルドルフの隣に腰を下ろした。目の下には少し隈が出来ている。ユリウスも創立祭に向けての準備に毎日忙殺され、休む暇がないのだ。「大公はどこだ?朝から姿が見えないが・・」「ヨハン様なら家庭科室へとお出かけになられました。」「家庭科室へ?」ルドルフはそう言って眉をひそめた。「あいつは料理とは無縁の生活をしてきたと思うが・・」「はぁ~い先生、ご機嫌いかが?」ドアが大きな音を立てて開き、安博途中等部の制服を着た少年が入ってきた。「・・いいわけないだろ。それよりも、お前の隣にいる奴は?」ルドルフはそう言って安博の隣に立っている少年を見た。「ああ、この子は石田華ちゃん。私の可愛い相棒よ。」「初めまして、ルドルフ先生。お目にかかれて光栄です。」石田華は頬を赤く染めながら自己紹介した。「何しに来たんだ?」「差し入れよ、差し入れ。チョコチップマフィンを作って来たのよ。」「ありがとう。」ルドルフはそう言うと、チョコチップマフィンが入ったバスケットを安博から受け取った。「先生、聞いた?この前舞踏会で先生と喧嘩してた女、強盗に惨殺されたんですって。」「本当か、それは?」ルドルフはそう言って安博を見た。「ええ、なんでも家政婦がその女とその女の父親の遺体を見つけたって言うんだけれど・・全身蜂の巣状態で遺体は穴だらけで、辺りは血の海だったそうよ。今ワイドショーで持ちきりよ、そのニュース。なんでも殺された父娘は大手企業の社長とその娘だったからねぇ。」「そうか・・その女の婚約者はどうしている?」「さぁ、知らないわ。」ルドルフは香華の死に衝撃を受けながら、マフィンを一口かじった。「香華が・・殺された?」龍季はそう言って長年自分に仕えている執事を見た。「はい。強盗に全身をマシンガンで撃たれて即死だとかで・・お父様の京介様も・・」「なんということだ・・すまないが、しばらく1人にしてくれないか?」「かしこまりました。」「香華・・どうして・・?」龍季は香華の死にショックを受け、それから数日間部屋に引きこもった。
2008年02月15日
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2000年4月末、スペイン南東部。 地中海沿いに広がる保養地には、たくさんの富裕層がサーフィンをしたり、マリンスポーツを楽しんでいた。「ねぇカエサル、綺麗な花火は見れるかしら?」アフロディーテはそう言って従者を見た。「見れるでしょう、きっと。」「そう・・」「目標地点に到着いたしました、アフロディーテ。」オルフェレウスが操縦席からアフロディーテに声を掛けた。「じゃあ、最終テストを始めて。」「かしこまりました。」オルフェレウスは操縦桿の隣にある赤いボタンを押した。紅い閃光が、ビーチに一直線に落ちていく。それを見た者達は神が天から起こした奇跡だと思い込み、ある者は祈り、ある者は奇跡の瞬間を携帯やカメラに撮った。紅い閃光はモーセの十戒のように紺碧の海を割り、保養地を破壊した。「なんて綺麗なのv」アフロディーテは戦闘機から瓦礫と化した保養地を見下ろしながらそう言って笑った。「最終テストは無事クリアしましたね。」「ええ、でももう少し改良が必要ね。1発じゃつまらないわ。」「仰せの通りに。」アフロディーテとカエサルを乗せた戦闘機は雲の中へと消えていった。「なんだ、これは・・」ルドルフはそう言ってカフェの大型テレビ画面に目が釘付けとなった。そこには跡形もなく破壊されたスペインの保養地が映し出されていた。「6月が楽しみね、カエサル。」アフロディーテは専用の美容師からネイルケアを受けながら言った。「ええ。」「スペインで打ち上げたやつよりも綺麗な花火、兄様に見せるんだv」「・・ルドルフ様もきっと、お喜びになるでしょう。」カエサルはそう言って部屋を出た。(アフロディーテ様はますます邪悪になってゆく・・ホーフブルクやベトナムの時よりずっと・・)あとがきアフロディーテの鬼畜度がベトナムの時よりグレードアップしました。ルド様とは違い、「人間=自分の夢を邪魔する者」と考えているアフロディーテ。オルフェレウスはアフロディーテ同様、人間が嫌いだから鬼畜度アップ。カエサルが一番まともなのかも・・。
2008年02月15日
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京都から遥か遠く離れたアメリカ中西部の研究所に、オルフェレウス達はいた。「“花火”はどうだ?上手く出来ているか?」オルフェレウスはそう言って研究員の1人に声をかけた。「はい。テストの結果、異常はありません。ですが・・」「何だ?」「これを都市部で爆発させるとなると、大量の犠牲者が出る恐れがありますが・・」「これは人間どもに己の愚かさを思い知らさせるためのものだ。何をためらうことがある?わかったら研究を続けろ。」「はい・・」研究員はそう言って研究室へと向かった。「あんた本気かい、あんなやつを京都上空で爆発させるなんてさ。」カサンドラは研究員が先ほどまでいた場所に立って、モニターに映る“それ”を見た。「アフロディーテ様が、“綺麗な花火”をあの方にお見せしたいというから作ったまでだ。私はそれに応えただけだ。」「そうかい・・この調子じゃ、とっても綺麗な花火が拝めるだろうさ。」カサンドラは“それ”を見ながらため息をついた。彼女が立っている場所から数メートル離れたと地下格納庫に、“それ”はあった。オルフェレウスが10年前から開発・研究を進めてきた恐るべき兵器だ。「“綺麗な花火”ねぇ・・あたしに言わせれば、核爆弾にしか見えないね。」カサンドラはそう呟いて研究所を後にした。(アフロディーテ様があんなものを京都上空で爆発させようとするなんてクレイジーだけど、それを作っているオルフェの方がもっとクレイジーだよ。)群青色のジャガーを砂漠の中で走らせながら、カサンドラは乾いた風を受けた。「まぁどうなるかあたしの知ったこっちゃないけどね。」フェニックスのレストランで食事をしていると、スーツのポケットの中で携帯が鳴った。「はい、私ですが。」『準備はどう?オルフェレウス?』「順調です。後は最終テストと、お披露目だけです。」『そう、よかったvお兄様、喜んでくれるかしら?』「きっとお喜びになるでしょう。」『お前にお願いがあるの。この女を殺してくれない?』メールに添付された女性の写真を、オルフェレウスは見た。「本当に、彼女を殺すのですか?」『ええ。私が決めたの。やってくれるわよね?』「・・かしこまりました。」オルフェレウスはそう言って携帯を閉じて、ポケットにしまった。「・・しょうがないお方だ。」食事を終えたオルフェレウスはすぐさま東京へと向かった。「ねぇお父様、龍季様との結婚式を早めたいんだけど、どうかしら?」香華はそう言って父の京介の体にしなだれかかった。「お前がそう言うなら、式を早めよう。」「ありがとう、お父様。」香華が微笑んだとき、ドアが蹴破られ、数人の男達が乱入してきた。「あなたたち、誰?」「お前たちは知りすぎた。」男達はマシンガンを香華と京介に向けて発砲した。「任務完了いたしました。」オルフェレウスはそう言って目の前に広がる惨状を見た。『そう、ありがとう。』「本当に、しょうがないお方だ・・」
2008年02月15日
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波乱の舞踏会は幕を閉じ、ルドルフはベッドに横になりながらアフロディーテの言葉を考えていた。“兄様に綺麗な花火を見せてあげるv”(あの言葉の意味は一体・・)「舞踏会はいかがでしたか?」「高慢ちきな女にイチャモンを付けられた以外、最高だったさ・・女装されたがな。」「そうですか。」「それに、アフロディーテに会った。」「アフロディーテに?」ユリウスの瞳が驚きで大きく見開かれた。「ああ。あいつは私にこう言った。“6月には兄様に綺麗な花火を見せてあげるv”と・・」「一体それはどういう意味で・・」「それを今考えてるんだが・・」「調べてみませんと、わかりませんね。」ユリウスはそう言ってため息をついた。ルドルフは今から調べようと思ったが、疲れているので後にしようと思った。寝静まっている京の街の中心地にある京都ホテルのバー。「わたしに話って、何かしら?高慢ちきなお姫様?」アフロディーテはそう言って香華を見た。「その言い方はよして頂戴。」「あらぁ、本当のことでしょう?他人に自分の性格を指摘されていちいち怒るようじゃぁ、あなたまだ子どもなのねv」「・・あなたに、折り入ってお願いがあるの。龍季様を叩いた女を潰して欲しいの。」「それは出来ないお願いね。だって、あの女は私の大切な家族だものv」アフロディーテはそう言って香華を見た。「それよりも、いい方法があるわ?」「教えて頂戴、どんな方法があるの?」アフロディーテは香華の耳元で何かを囁いた。「・・それはいいわね。」「契約成立ってことで、乾杯v」アフロディーテはそう言って、グラスを掲げた。「ええ。」香華も、グラスを掲げてアフロディーテに微笑んだ。
2008年02月15日
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「ねぇカエサル、兄様があの高慢ちきな女と喧嘩してるわ。」アフロディーテはそう言って何か言い争っている兄と女性を見た。「あれは西岡コンツェルンの社長令嬢・香華(かな)様でいらっしゃいますね。悋気が強くて、婚約者の龍季様はご苦労なさってるとか・・」「わたし、あの女の高慢な鼻を折ってやるわ、いいでしょう?」「・・何事もあなたのお望みのままに。」アフロディーテは兄の元へと向かった。「龍季様に暴力を振るっておいて謝らないなんて、なんて無礼な方なの!」「元はといえばお前が婚約者から目を離したせいだろ?自分の男なら首輪でも付けて監視しておくんだな?」ルドルフはそう言って、香華を睨んだ。「なんて人・・許しませんわっ!」香華は叫んでルドルフに手を振り上げた。「邪~魔っ!」アフロディーテはそう言って香華を突き飛ばした。「久しぶりね、兄様v」「お前、どうしてここに・・」ルドルフは双子の弟を見た。「どうしてって、兄様に会いに来たに決まってるじゃない。それにここはご馳走がたくさんあるしねv」アフロディーテは舌なめずりしながらルドルフと香華の喧嘩を遠巻きに見ている客達を見た。「勝手な真似は許さないぞ。」「そんなことしないわよ。わたしもう行くわね。そうだ、兄様、6月にここで兄様に綺麗な花火を見せてあげるわv」アフロディーテはそう言って不敵な笑みを浮かべて会場を去っていった。(花火?一体何を言ってるんだ、あいつは?)アフロディーテの言葉を聞いた瞬間、妙な胸騒ぎがした。「ルドルフ様に伝えておきましたか?」「ええ。6月には兄様に綺麗な花火を見せてあげるって。ねぇ、準備は進んでるの?」「オルフェレウスからのメールによると、準備は着々と進んでいるようです。式典には何とか間に合いそうです。」「そう・・楽しみだわぁv」アフロディーテは犬歯を覗かせながら笑った。
2008年02月15日
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GW間近のある夜、白薔薇学園の大ホールでは親睦を深めるための舞踏会が開かれた。ルドルフはまたしても安博によって女装を強いられた。今夜ルドルフが着ているのは真珠色のドレスで、真珠の3連のネックレスを首に提げている。「なんで私ばかり・・」「いいじゃない。これも劇の稽古のうちだと思ってさv」「よくない!」ルドルフはそう言って安博を睨んだ。「お似合いですよ、ルドルフ様。」「ユリウス、何故こいつを止めないんだ?」「そんなこと、ご自分でわかっていらっしゃるでしょう?」ユリウスはニッコリと笑いながら言った。大ホールに入ると、皆ルドルフのほうを見て囁き合った。「お前の所為で私は噂されてるぞ。」「何事もプラスに捉えなさいよ。あんた少し神経質なのよ。」安博はそう言って優雅にルドルフをエスコートした。「お前、見かけによらずなかなかやるな。」「こう見えてもあたしはいいとこのボンボンよ。こんな場所でのエスコートなんて、慣れてるわ。」「まぁそんなことはどうでもいい。早く終わらないかな。」「あらぁ、せっかくの舞踏会なんだから楽しまなきゃ・・あら、いい男が入ってきたわv」ルドルフが入り口のほうを見ると、昨夜の男が入ってくるところだった。今夜は黒い燕尾服を着こなし、優雅に歩いている。長い黒髪をなびかせ、まっすぐにルドルフの方へと歩いていく。「私と、踊っていただけませんか?」男はルドルフの答えを待たずに、ルドルフの手を引っ張ってホールの方へと歩いていった。「お前は、昨夜の・・お前は誰だ?何故私を知っている?」「やっぱりお前は・・俺を憶えていないんだな・・」男はそう言って、ルドルフの唇をふさいだ。「私に触れるな!」ルドルフは男の頬を叩いた。「・・俺は、お前のことだけをいままで想って来たのに・・」男は悲しそうに真紅の瞳を濁らせながら言った。そのときー「龍季様、どうなさったんです!?」ビュッシェテーブルの方から、ロイヤルブルーのドレスを着た美女が走ってきた。「あなた、わたくしの龍季様に何をなさるの!」敵意に満ちた美女の瞳に怯まず、ルドルフは彼女をにらみ返した。「それはこっちの台詞だ。昔のことだがなんだか知らないが、付きまとわれて迷惑しているのはこっちなんだ。」ルドルフは鼻を鳴らして笑った。「ま・・なんて方なのかしら、わたくしの龍季様を叩いたのに、謝りもしないなんて!」「先にちょっかいを出したのはそっちだ。」「なんですってぇ~!」ルドルフと美女は一歩も譲らずに、男を挟んで睨み合った。
2008年02月15日
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男は艶やかな黒髪をなびかせながら、彼の家を後にした。緩やかな坂道を下りながら男は、“彼”との思い出に思いを馳せた。あれはここが動乱の時代で血に塗られた都であった頃、“彼”とは夜の路地で会った。“彼”は幕府側の人間で、自分は新政府側の人斬りだった。敵同士の恋が、不幸な末路を辿ることを知っていた。だが止められなかった、“彼”への想いを。“彼”の瑠璃の瞳が好きだった。美しく淡い、海の色。“彼”はあれから100年以上経っても変わらない姿だった。だが“彼”は自分のことを憶えていなかった。(何故だ・・何故憶えていないんだ?)男の真紅の瞳から、一筋の涙が流れた。「あら、誰かと思ったら・・その様子じゃあ、兄様にフラれたのね?」神経を逆なでするような声がして振り返ると、そこには“彼”と同じ顔をした少女が立っていた。「放っておいてくれ。」「人の不幸は蜜の味よv私はあなたの不幸を今、満喫したいのv」少女はそう言って男の体にしなだれかかった。「兄様はお前と会っても何も思い出さないわ。だからいい加減諦めたら?」「・・俺はあいつのことが忘れられないんだ。」「未練たらたらね。ま、最後は自滅するんだろうけどv」少女は瑠璃色の瞳を輝かして、男の元を去っていった。「・・お前になんと言われようとも、俺はあいつを取り戻す。」男の真紅の瞳が決意に燃え上がり、彼は闇の中へ消えていった。「一途というか、なんというか・・未練たらたらなのよね、彼。ま、私は関係ないけどねv」アフロディーテはそう言って笑いながら、闇の中へと消えていった。
2008年02月15日
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「お帰りなさいませ。劇の稽古はいかがでした?」ユリウスはそう言ってルドルフに微笑んだ。「まあまあだな。相手役がちょっと嫌な奴でな。ところで、なんだそれは?」ルドルフはユリウスが弾いている楽器に視線を移した。長方形の横長の見慣れない楽器。「ソウ、という日本の楽器だそうです。お弾きになりますか?」「ああ・・」初めて触れる楽器なのに、何故か弾き方を知っている。勝手に指が動いて、美しい音色を生み出していく。「とてもお上手ですよ。」「まるで昔からこの楽器のことを知っているようだ・・不思議だな。」その夜不思議な体験をしたルドルフは、夢を見た。ブロンドの長い髪が、畳の上で美しい海を作っている。―どうした、泣いているのか?筝の音が聴こえて、目を覚ますと愛しい人がまるで自分をあやすかのようにそれを弾いていた。彼が優しい目で、自分を見た。しかし、顔が思い出せない。彼は一体誰なのだろう?「ん・・」ルドルフは寝室を出て、リビングに置いてある筝を弾いた。初めて弾くのに、なんだか懐かしい気がしてならない。「相変わらずお前の筝は、聞くに堪えないな。」暗闇の中で声がして、ルドルフは振り向いた。そこには漆黒の衣に身を包んだ黒髪の美丈夫がいた。どこかで見たことがあるような。「お前は・・誰だ?」ルドルフがそう言うと、黒髪の男は悲しそうに真紅の瞳を濁らせた。「俺のことを憶えていないのか・・俺は一秒たりとも、お前のことを忘れたことはなかったのに。」男はそう言って、ルドルフの唇をふさいだ。「また会おう。」「待て、お前はっ!」ルドルフが男の服を掴もうとすると、男は既に闇の中へと消えていた。
2008年02月15日
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「苦しい・・」安博にコルセットを締められながらルドルフはそう言って顔をしかめた。「ファッションは我慢よ。」安博はそう言って更にコルセットでルドルフのウエストを締め付けた。「これくらいでいいわね。じゃあ行くわよ。」「行くって、どこへ?」「体育館よ。」安博はルドルフの腕を引っ張って家庭科室を出て、体育館へと向かった。「眞二、連れて来たわよぉ~」安博はそう言って壇上でテキパキと指示を出している生徒に声をかけた。「ありがとな、ヤス。」肩までの茶髪を背中でポニーテールにした眞二と呼ばれた少年はそう言って安博に微笑んだ。「紹介するわね、先生。こちらは演劇部の部長、華村眞二。あたしの大親友よ。」「初めまして。この度は俺達に協力してくださり、ありがとうございます。」「こちらこそ。」ルドルフは少しひきつった笑みを浮かべながら言った。「それにしてもドレス、お似合いですね。」「やっぱ欧米人は違うわね。蒼いドレスが瞳の色と合ってるじゃない?」「確かに、着こなしてるってカンジがするよね。」それからルドルフは演劇部の部員達と劇の練習をした。 白薔薇学園創立130周年記念公演を飾るのは、19世紀末パリを舞台にした哀しい恋物語だ。ヒロインである貴族の娘・アンジェはある夜、舞踏会で1人の青年に恋をする。やがて惹かれ合う2人だが、実の兄妹だった。苦悩した末に2人は心中をする、というストーリーだ。「・・で、私の相手役は誰なんだ?」「僕ですよ。」黒のフロックコートを着こなした彗がそう言ってルドルフを睨んだ。「よりによって相手役があなたですか。こっちの足を引っ張らないでくださいね。」「それはこっちの台詞だ。」ルドルフはそう言って眞二に向き直った。「稽古はいつ始めるんだ?出来ることならさっさと終わらせて帰りたいんだが。」「じゃあ、今から始めようか。」台本読みから始まった稽古は、あっというまに運命の舞踏会のシーンとなった。「私と踊ってくださいませんか?」「ええ、喜んで。」ルドルフと彗は優雅なワルツのステップを刻んだ。「さっきのすごくよかったよ。今日の稽古はこれで終わり。明日もよろしくね。」「明日もこいつとするのか?」ルドルフは不快げに鼻を鳴らしながら彗を見た。「2人とも、私情は抜きにして、稽古に集中してよ。頼むからさ。」「・・いいだろう、向こうが私の足を引っ張らない限り。」「それはこっちの台詞ですよ。台詞忘れたら許しませんから。」「行くぞ、山岡。」ルドルフはそう言って彗に背を向けて歩き出した。「・・劇では相性は最高なんだけど、実際の相性は最悪だな・・」眞二はため息をつきながら、体育館を去った。
2008年02月15日
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「ルドルフ先生、ちょっと顔貸していただける?」 昼休み、ルドルフがユリウスとランチを取っていると、突然1人の男子生徒に腕を掴まれて無理やり立たせられた。「なんだ貴様っ!」「貴様じゃなくて、山岡安博よ。じゃあ司祭様、ちょっとルドルフ先生を貸していただける?」「もちろん、喜んで。」「ユリウス、何を言って・・」「さぁ、行きましょう。」安博はそう言ってグイグイとルドルフの腕を引っ張りながらカフェを後にした。「私をどこに連れて行く気だ!」「私の城よ。」安博は被服室へと入っていった。「みんな、ターゲット無事にゲットできたわよ!」そこには数人の生徒達がいて、安博の言葉を聞いてみな歓声を上げていた。「・・一体どういうことだ、これは?」「6月にこの学園が創立130周年を迎えるのはご存知よね?」「知ってるが、それが何か?」「あたし達、演劇部とタッグを組んでお芝居を上演することになったのよ。配役もほぼ決まってるんだけど、肝心のヒロイン役が決まらなくて・・先生に白羽の矢が立っちゃってわけ!」ルドルフは嫌な予感がした。「私にそのヒロイン役をしろ、というわけだな?」「大正解!」「却下だ、そんなもの大却下!」ルドルフはそう言って被服室を出ようとしたが、安博に腕を掴まれ、今度は無理矢理椅子に座らされた。「話は最後まで聞いてちょうだいな、先生。あっという間に終わるんだからさ。」「・・・」有無を言わさず、ルドルフはヒロイン役を引き受けることになってしまった。(晴天の霹靂だな、まさに・・)ヘアメイクを施されたルドルフはため息をついた。「次は衣装合わせね!」「・・別の日にしないか?」「駄目よ。せっかくヘアメイクしてるんだから!」(いつになったら解放されるんだ・・)
2008年02月15日
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「はぁっ!」ユリウスは気合を入れてサーベルで泰英に斬りかかった。「そんなんじゃ、俺は倒せねぇぜっ!」泰英はそう言って日本刀を一振りした。泰英の攻撃を受け、ユリウスは壁際まで吹っ飛んだ。「う・・」強い。いままで戦った敵の中でも、彼は圧倒的な強さを持っている。「喰らいなぁっ!」泰英の攻撃を、ユリウスは寸でのところで避けた。(このままだと埒が明かない・・)ユリウスは素早く泰英の後ろに回りこみ、遠心力を利用して首に一発喰らわせた。「がはっ!」泰英は頭からコンクリートの壁に激突した。(やった・・か?)「・・やっぱ強くねぇと、戦い甲斐がないな。」泰英は頭から血を流しながらゆっくりと立ち上がり、ユリウスを睨んだ。黒い目は狂気で濁り始めていた。「行くぜ、可愛い子ちゃんv」泰英は口から涎を流しながら、ユリウスに向かって日本刀を振りかざした。激しい剣戟の音が、あたり一面に響いた。(この馬鹿力、普通じゃない!まさか、彼が・・)「余所見すんなよ!」泰英がそう言ってユリウスの腹に蹴りを入れた。「うっ」コンクリートの地面に蹲るユリウスに向かって泰英はまた蹴りを入れた。「お前らムカつくんだよ!魔族だか従者だかなんだか知らねぇが、俺らの邪魔ばっかしやがって!ここはなぁ、俺らのシマなんだよ!」「何を・・言っている・・私は・・」「とぼけんなよ!」泰英はユリウスの髪を掴み、喉笛を掻っ切ろうとした。そのとき、1発の銃声が空気を切り裂いた。「そこまでだ。」「ちくしょう・・腕が・・」泰英は唸って撃たれた右腕を押さえた。「私の従者を傷つけるものは、死すべし。」ルドルフの瞳が蒼から真紅へと染まる。「ちくしょう、よくも俺の腕をっ!」泰英は左手で日本刀を掴み、ルドルフに突進した。ルドルフはサーベルを抜き、泰英の左腕を斬り落とした。「うがぁぁっ!」「・・煩い奴だな。命をとらなかっただけ有り難いと思え。」「・・許さねぇ・・俺は絶対お前を許さねぇ!次会ったら、殺す!」泰英はそう言って斬りおとされた左腕を掴んで去っていった。「大丈夫か?」「ええ、なんとか・・でも・・」「でも?」「彼は、鬼族かもしれません。」「そうか。」ルドルフはそう言って、ユリウスを横抱きにして図書館を後にした。「・・あいつ殺してやる!」泰英は木陰からルドルフを睨みながら言った。ルドルフに斬り落された左腕はすでに再生し、右腕も銃弾を受けた傷だけが残った。「俺様を完全に怒らせたな・・鬼族の力、見せてやろうじゃねぇか。」そういった泰英の瞳は、ルドルフと同様真紅に染まっていた。「奇遇ですね、あなたにこんなところで会うとは。」泰英が振り向くと、図書館の前に設けられたベンチに彗が座っていた。「何の用だ。俺ぁ気が立ってんだ。舐めた口きくとこれで八つ裂きにするぜ。」泰英はそう言って彗に日本刀を向けた。「僕がそんなもの、怖がるとでも?さっきさんざん彼にぶちのめされたくせに。」「てんめぇ・・」「暴力で訴えるよりも、ここはひとつ、協力しませんか?あなたと僕は言うなれば血が繋がった家族なんですし。」「・・てめぇは気に食わねぇが、仕方ねぇ。」「決まり、ですね。」彗はそう言って泰英に微笑んだ。その瞳は真紅に染まっていた。
2008年02月15日
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「何を言うかと思えば・・そんなことか。」ルドルフはそう言って笑った。「安心しろ、お前の親友などお前にくれてやる。向こうが一方的に迫っているだけだ。誤解するな。」「嘘だ!あなたはその色香で旺太を惑わしてるんだ、この魔王め!」「・・黙れ。」ルドルフは彗に拳銃を突きつけた。「それ以上その生意気な口を閉じないと撃つぞ。」「・・乱暴な方ですね。」彗はそう言ってルドルフを睨んだ。「お前が私を侮辱したからだ。」ルドルフは彗を睨むと、音楽室を出て行った。「・・負けない・・絶対に・・」あんな魔王に負けるものか。絶対に彼から旺太を守ってやる。ユリウスは図書館で、鬼族について調べていた。オイゲンのノートによれば、日本には始祖魔族と同じような鬼族というものが棲息しているらしい。朝早くから図書館で調べていたが、目ぼしい資料は見当たらなかった。(仕方ない・・また明日調べよう。)ユリウスは図書館を後にし、ルドルフ達がいる家へと帰ろうとした。そのとき、背後に強い視線を感じて振り向くと、そこには赤毛の少年がユリウスを待ち伏せしていた。「大聖堂に舞い降りた天使ってのは、あんたかい?」「お前は・・」ユリウスは少年を睨んだ。「自己紹介が遅れたな。俺は陽村泰英。ちょっとお付き合いいただこうか、天使様?」泰英の全身から邪悪なオーラが出くるのを、ユリウスは感じた。(もしかして彼が鬼族・・?)「断る。」「へえ、そうかい。じゃあ、力ずくで。」泰英はそう言って腰に帯びていた日本刀の鯉口を切った。「望むところだ。」ユリウスは護身用のサーベルを抜き、その刃を泰英に向けた。
2008年02月15日
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彗は、中庭で寛ぐ教師と司祭の2人組を見ていた。教師の方は、旺太が最近熱を上げているドイツ語担当のルドルフ=フランツだ。そして司祭の方は、大聖堂で働いているユリウス=フェレックスだ。2人が一緒にいる姿は絵になるほど、美しい。特にルドルフの方はいつも華やかな雰囲気を纏っていて、自然と彼の周りには人が集まる。中庭で寛ぐ2人を、遠巻きに彼らのファン達が見ていた。彗はじっと、ルドルフを見た。旺太はルドルフのことが好きなのだろうか。確かにルドルフは綺麗で華やかで、旺太が惹かれるのは仕方がないのかもしれない。だが彗はルドルフのことが嫌いだった。旺太は騙されているだけなのだ、彼の外見に。薔薇のように美しい彼は、性格は棘だらけなのだろう。(旺太はどうしてあんな人のことを・・)彗の胸にルドルフへの激しい敵意が芽生えた。旺太に愛されるのは自分だけだ。彼には渡さない。彗はルドルフを睨むと、廊下を歩いていった。それと同時に、彼はいままで胸の中に秘めていた旺太への想いに気づいた。「僕は必ず旺太を彼に触れさせない・・絶対に!」ルドルフへの燃え上がるような敵意と、胸を焼き焦がすような旺太への激しい恋情を抱きながら、彗は歩き続けた。やがてその激しい炎が、自分を焼き尽くすことも知らずにー「あなたに、お話があります。」放課後、彗はルドルフを音楽室に呼び出した。「話とはなんだ?」「単刀直入に言います。旺太には近づかないでください。」菫色の瞳に怒りを宿しながら彗はそう言ってルドルフを睨んだ。
2008年02月15日
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「はぁ~、疲れた・・」昼休み、ルドルフはそう言って職員室の自分の机の上に突っ伏した。「お疲れ様です。」ユリウスは恋人の机に淹れたての紅茶を置いた。「ありがとう。」ルドルフはユリウスに微笑んで紅茶を飲んだ。「そういえばまだ昼食べてなかったな?」「・・そうでしたね。」ルドルフとユリウスはカフェへと向かった。「これもいいな、あとこれも。」ルドルフのトレイにはタコスやケバブ、ハンバーガー、サンドイッチ、ベーグル、ドーナツ、フレンチフライなどが山盛りになっていた。「・・それ全部、お1人で食べるんじゃないでしょうね?」「まさか、お前の分もあるぞ。」カフェでボリューム満点の昼食を食べた2人は、中庭へと出た。「なんだか眠たくなってきた。」「あんなに食べたら眠たくもなりますよ。」そう言ってユリウスはルドルフに膝枕をした。春の陽光を受け緑の芝生は美しく輝き、桜の花びらがルドルフのブロンドの髪にひらひらと落ちた。穏やかな午後のひととき。こんな安息の時を過ごしたのはいつの頃だっただろうか。「・・久しぶりだな、こんなときを過ごしたのは。ホーフブルクの頃以来だな。」「ルドルフ様・・」「もう戻れないのかな、あのときには・・」「戻れますよ、きっと。」ユリウスはそう言ってルドルフの頭を撫でた。「そうだな・・」ルドルフはユリウスに微笑んで目を閉じた。今は久しぶりに訪れた安息の時間を満喫したかった。
2008年02月15日
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「ん・・」たらふく朝食と昼食、そして夕食を食べた後、ルドルフはユリウスと愛し合った後、眠った。「まだお腹が空いておられるのですか?」「いいや・・喉が渇いた。」「そうですか。」ユリウスはそう言ってルドルフの首筋を差し出した。ルドルフは静かにユリウスの首筋に犬歯を立てた。「まだ、血が欲しいのですか?」「最近喉がひどく渇いてな。ユリウス、付き合ってくれるか?」「・・はい。」ルドルフとユリウスは、夜の京へと向かった。「・・疲れた・・」彗はやっと塾が終わり、ため息を付きながら学園の方へと歩いていった。彼はイギリスへ留学を希望しており、夕方から夜遅くまで毎日のように塾に通っていた。両親はどうしても白薔薇学園大学に進学して欲しいと思っているが、彗は自分の足で立ちたかった。(僕は親の言いなりにはならない。)携帯をバッグから取り出して画面を見ると、1通のメールが入っていた。(誰からだろう?)そう思いながら彗がメールを見ようとしたときー彗の目の前に、1人の少女が現れた。ブロンドの髪が、美しく春の夜風になびき、アイスブルーの瞳は冷たく彗を見下ろしている。少女が着ている服は19世紀後半のヴィクトリア朝のドレスで、袖口と裾の部分に白いレース飾りがある。「お前、美味しそうねv」少女はそう言って彗に微笑んだ。真珠のような犬歯が桜色の唇から覗いた。(まさか・・吸血鬼!?)小学校5,6年の頃、オカルト好きの母の影響を受けて、少し吸血鬼のことを調べてみた。本やインターネットで色々調べてみたら、ある伝説を見つけた。 その伝説とは、ハプスブルク家の皇太子で、マイヤーリンクで謎の死を遂げたルドルフ皇太子は、実は吸血鬼だったのではないかというものだった。そして皇太子には双子の弟がいて、マイヤーリンクで死んだのは皇太子ではなくその弟である、と本には書いてあった。今、彗の目の前に立っている少女は、どこからどう見てもルドルフ皇太子にそっくりだった。癖のあるブロンドに、アイスブルーの瞳。「お前、とっても美味しそうv」少女はそう言って彗の襟首を掴み、首筋をあらわにした。「誰か・・」「逃がさないわよ。お前は私のものよv」少女は彗の腕を掴み、自分のほうへと引き寄せた。(もう駄目だ!)少女が犬歯を彗の首筋に立てようとしたときー「おやめください、アフロディーテ様。」闇の中から黒衣を纏った薄茶色の髪とハシバミ色の瞳をした青年が現れた。「カエサル、邪魔しないでよ。」少女は頬を膨らまして、青年を睨んだ。「お食事はもうお済になりましたでしょう?」「んもぉ、わかったわよ。」少女は去り際に彗をチラリと見て、笑った。美しい2人の狩人は、闇の中に溶けて消えていった。
2008年02月15日
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翌朝、旺太は朝練の帰りに大聖堂に寄ってみた。 白薔薇学園は明治初期にフランス人が志が高い若者達の教育施設として開設し、21世紀に入るまでに各界の著名人・有名人がここを卒業した。 敬虔なカトリック信者であった初代理事長・ジャン=ピエールは、広大な学園内に壮麗なゴシック建築の大聖堂を建設したのは学園が出来てから数年後の1870年。戊辰戦争の傷痕がまだ深かったときで、文明開化の時代が花開いたときでもあったので、当時大聖堂が完成した時には明治政府の高官達が国を挙げての完成式典を盛大に行ったという。 それから130年もの間、この大聖堂は学園のシンボルとして近所の人々から尊敬と羨望の眼差しで見られ、入学試験の頃になると印刷される入学案内のパンフレットの写真にも大聖堂が毎年登場する。旺太は、美しく装飾された扉を開け、大聖堂の中へと入った。建物の天井部分にはキリストの誕生とその奇跡を描いたフレスコ画があり、窓にはキリストの一生を描いた美しいステンドグラスが春の陽光を受けて七色の美しい光を放っていた。荘厳でとても美しい聖堂の内部にいると、まるで別世界にいるような感覚を旺太は覚えた。「誰かそこにいるのですか?」背後から凛とした声がして、旺太は振り向いた。そこには黒の法衣を纏い、ロザリオを提げた美しい司祭が立っていた。艶やかな漆黒の髪と、美しいエメラルドの瞳。旺太はしばし司祭の美しさに見惚れていた。「何か御用でしょうか?」「はい、あの・・あなたでよければ相談に乗ってもらえませんでしょうか?」「よろしいですよ、さぁこちらへ。」旺太は司祭とともに学園内に設けられているカフェテリアへと入った。「で、相談とはなんでしょうか?」「あの・・好きな人がいるんですが・・相手は同性で、メッチャ綺麗な人で・・どうやったら自分の想いを彼に伝えられるのかな~って・・」「難しいことではありません。彼に会って自分の想いを告白なさい。」司祭はそう言って旺太に微笑んだ。「ありがとうございます!」旺太はカフェを出て行った。「・・困ったことになりましたね、ルドルフ様。」「ああ。」柱の陰からルドルフが苦虫を噛み潰したような顔をして出てきた。どうやら旺太との一部始終を聞いていたらしい。「余計なことを言ったな、ユリウス。あいつは昨日私の後を子犬のようについて回ったんだぞ。」「機嫌を直してください、ルドルフ様。」美しい司祭―ユリウスはそう言って恋人を見た。「今日の昼をおごってくれるなら許してやる。」「・・わかりました。」ユリウスの笑顔が少しひきつったが、ルドルフはそれを見ない振りをした。「昼飯は中庭で食べよう。今日は天気がいいし。それに・・」「それに?」「まだ朝飯を食べていない。」「・・あなたという方は・・」ユリウスはため息をついて、椅子から立ち上がった。
2008年02月15日
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「旺太、旺太!」「んあっ!?」2時間目の数学の授業中、ボーッとしている旺太の肩を、彗が小突いた。「・・山里、次の問題を解いてみろ。」数学担当教師の内山がこめかみに青筋を走らせながらチョークで旺太を指した。「え、え~と・・」数学は旺太にとって大嫌いな科目だ。小学校4年の時まではなんとか理解できたが、中学受験のために必死に数式や公式を覚えて知恵熱を出し、それ以来数式や公式を見ると気を失いそうになる。(なんだよこれ、わかんねぇ~!)目の前の黒板に書かれているのは高校2年の数学の基礎である簡単な計算問題なのだが、数学嫌いの旺太にとっては悪夢に近いものであった。「・・山里、もういい。石山、解いてみろ。」「はい。」彗はため息をつき、椅子から立ち上がって黒板の問題を難なく解いた。流石校内トップの成績だけあり、さきほどまで悪戦苦闘していた旺太とは大違いだ。「山里、サッカーもいいが、学生は勉強が本業だ。それを忘れるなよ。」「・・すんません。」その後旺太はみっちりと内山の小言を聞かされ、大量の宿題を出された。「・・俺もうヤダ・・」「諦めては駄目ですよ、旺太。僕が教えてあげますから。」放課後、彗は付きっ切りで旺太の宿題に付き合った。「それにしてもどうして授業中ボーッとしてたんです?なんか変なものでも拾い食いしましたか?」「いや、なんかその・・一目惚れってカンジ?」「僕の顔なんか幼稚園の頃から飽きるほど見てるでしょう?馬鹿なこと言ってないで早く問題を解く!」彗はそう言って旺太の後頭部を軽く教科書で叩いた。「ちげーよ、1時間目のドイツ語の先生!メッチャ美人だったじゃん!」「男に美人はないでしょう。」「お、もしかして妬いてんの?お前も美人だけどさ、あの先生にはなんか・・華やかっていうか、煌びやかっていうか・・」その言葉を聞いたとき、彗の胸が少しざわついた。「・・どうした、気分でも悪いか?」旺太が心配そうに彗の顔を見た。どうやら自分は真っ青な顔をしていたらしい。「大丈夫です、軽い貧血ですよ。それにしても旺太、数学なんて簡単なのに、どうしていつも簡単な問題でつまずくんですか?」「天才のお前にはわからねぇよ。中学受験のとき数式やら公式やら覚えて知恵熱出してから数学アレルギーなんだよ、俺。」「マイペースで覚えていけばいいんです。」「俺もう無理だ・・」「大丈夫です。」彗はそう言って旺太を励ました。「はぁ~、疲れたぁ~」学校を出て寮の部屋に入るなり旺太はベッドにダイブした。「卒業までこの調子ですか・・胃が痛くなりますね、全く。」「そんなこと言うなよ、俺はお前だけが頼りなんだからさ~!」「はいはい、わかりましたよ。」彗はため息をつき、机に置いてあるA4サイズのノートパソコンを立ち上げた。「旺太、明日からはちゃんと授業聞いて・・」小言とともに彗が旺太の方を見ると、彼は口を開けて爆睡していた。「・・ったく、人の気も知らないで。」彗はそう呟き、英文学のレポートに取りかかった。
2008年02月15日
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2000年4月、京都。 名家の御曹司たちが通う私立の名門校・白薔薇学園では紺の詰襟の制服を着た生徒達が校門へと次々に入っていく。「おーすっ!」そう言って1人の少年が校門に入ろうとしていた少年の肩を叩いた。「相変わらず手加減というものを知らないんですね、旺太は。」肩を叩かれた少年はそう言って眉をひそめた。プラチナブロンドの髪が春の陽光を受けて輝いていた。「ごめんごめん。だから許してくれよ、彗(すい)。」「今回は許してあげましょう。けれど3度目は許しませんからね。」肩を叩かれた少年―彗はそう言って肩を叩いた少年を睨んだ。「サンキュ、彗v今日の昼はおごってやるよ!」そう言って歓喜の涙を流している少年の名は、山里旺太という。浅黒く日焼けした小麦色の肌に、肩までの黒い髪。肩には相棒のサッカーボールを担いでいる。彼はインターハイを6連覇したほどの強豪・白薔薇学園サッカー部のキャプテンでもある。そして彼の隣を歩いているのは、石山彗。白薔薇学園の生徒会長で、眉目秀麗・頭脳明晰な美少年だ。父親が日本人で、母親が英国人であり、母親譲りのプラチナブロンドと菫色の瞳という美しい容姿の持ち主である。旺太と彗の家は隣同士で、更に母親同士が中学時代の親友だったということからか、幼い頃から数え切れないほど互いの家を行き来しあう仲であった。だが一度、2人が離れ離れとなったのは旺太が中学受験に失敗し、彗が難関校でもある白薔薇学園中等部に首席で合格したときだった。それでも旺太は諦めずに猛勉強の末、1年前に白薔薇学園高等部への切符を手に入れた。「聞いたか?今日新しい先生が来るんだって。」「そうですか。」「楽しみじゃねぇの!?」「別に。」彗は素っ気ない返事をして、校門をくぐった。「また今年もお前と同じクラスだな。」旺太はそう言って白い歯を見せて彗に笑顔を見せた。「また宿題写させてくれとかいうんでしょう?昔から全く変わってないですね。」「いいだろ、別に。俺お前と違って頭悪いもん。」「ホント、変わってないですね。」彗はため息をついて旺太とともに教室に入っていった。「よぉ~、久しぶりだな旺太。」そう言って髪を真紅に染めた少年が旺太を見た。制服の襟をはだけさせ、ブランド物のシルバーアクセを付け、右腕に青龍のタトゥーを入れている少年の名は、陽村泰英。旺太の中学校時代の悪友である。泰英は白薔薇学園高等部に入学できるほどの学力の持ち主ではなかったが、国会議員である父親の賄賂によって裏口入学した。中学時代から素行が悪く、窃盗・傷害などを繰り返した札付きの不良だった。「・・あなたも同じクラスなんですね。揉め事を起こさないでくださいね。」彗は嫌そうな顔をして泰英を見て言った。「相変わらず生意気だな、頭でっかちのお坊ちゃん。」泰英はそう言ってタバコを吸った。「彗、無視しとけよ。あいつはお前のことからかうのが趣味なんだからさ。」「そうですね、バカを相手にしてると時間の無駄ですね。」彗は泰英に背を向けて自分の席に座った。「今日は新しい先公が来るんだってぇ?どんな奴が来るか楽しみだぜ。いじめ甲斐があるからなぁ。」泰英はケタケタ笑いながらタバコを吸った。1時間目はドイツ語の時間だった。教室のドアを開けて入ってきたのは、長身の美形の男が入ってきた。癖のあるブロンドの髪は春の陽光を受けて美しく輝き、アイスブルーの瞳は美しい光を放っていて、彼は貴族的で優雅な雰囲気を纏っていた。「初めまして。今年からドイツ語を担当することとなったルドルフ=フランツだ。よろしく。」男が教室に入ってきたとき、旺太の初恋が始まった。あとがき京都編スタートしました。今回は学園モノに挑戦。私立のセレブ名門男子校・白薔薇学園を舞台に繰り広げられる愛憎ドラマを書いてみようと思います。スポーツマンの旺太、頭脳派の彗、そしてヤンキーな泰英と、個性豊かな生徒達が多いです。あと癒し系キャラとか、おネエキャラとかを色々出そうと思います。
2008年02月15日
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ユリウスとヨハンは、朝食を食べながらルドルフのことを考えた。彼らの勤務先は、私立の名門男子校・白薔薇学園だ。生徒の多くは国会議員の息子や名家の御曹司など、いわゆるセレブ校である。100年以上の歴史がある白薔薇学園は、外国人講師による語学教育を重要視しており、ユリウス達は語学堪能なところを買われて雇われたのだった。「俺はガキの子守なんか苦手だが、文句は言えねぇな。お前はいいよな、司祭の経験があるから。」「ええ・・」ユリウスは白薔薇学園に併設されている大聖堂の司祭として働いていた。「私達のことよりも、ルドルフ様が心配です。」ユリウスは食器を下げながら、寝室の方を見た。京都に来て数日後、ルドルフは昏睡期を迎えた。それから20年、ユリウスとヨハンはルドルフを支えるために働き詰めの生活を送ってきた。だがルドルフは一向に目覚める気配がない。「確か昏睡期は、10~20年くらいだったよな?もう20年経っても目覚めねぇってのは・・」「・・オイゲンのノートによれば、始祖魔族の昏睡期には個人差があり、10~20年の者もいれば、30~40年の者もいるそうです。」ユリウスはため息を付いてコーヒーを飲んだ。「あいつらのことはまだ解明されてねぇのが現状だもんな。あの阿呆な心理学者の記録はどっちかっていうと確かな情報じゃねぇってことだ。」ヨハンは吐き捨てるように言いながら、テーブルを立った。「ルドルフが目覚めないんなら、俺が叩き起こすまでだ。」そう言ってヨハンが寝室のドアを蹴破ろうとしたときールドルフが蒼い瞳をゆっくりと開き、ベッドから身を起こした。「おはようございます、ルドルフ様。」ユリウスはルドルフの手を握って、彼に微笑んだ。ルドルフはユリウスのシャツをはだけさせ、彼の首筋に犬歯を立てた。暗室状態となっている寝室の中で、ルドルフの蒼い瞳が爛々と光を放った。「朝食が出来ておりますが、召し上がられますか?」ユリウスがそう言ってルドルフから離れようとすると、ルドルフは嫌そうに顔をしかめた。「・・わかりました。」ユリウスはルドルフの頭を撫で、自分の首筋を彼に差し出した。「俺は一足先に出るぜ。」ヨハンは寝室を出て、学園へと向かった。
2008年02月15日
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ルドルフ達は香港を後にして、京都へと向かった。 というのも、京都には始祖魔族と同じ“鬼族”というものがいるらしいという情報を得たからだ。「もし鬼族というものが、私たちと同じ始祖魔族の仲間だったら・・」「受胎期のリスクを回避できる方法があるかもしれませんね。」ユリウスはそう言ってルドルフに微笑んだ。「ただ、嫌な予感がする。」「嫌な予感?」「なんだかわからないが・・」ルドルフは飛行機の窓の外を見た。そこには、富士山が映っていた。「少しお休みになってください。」そう言ってユリウスは自分のブランケットをルドルフに渡した。羽田空港を出て、ルドルフ達は新幹線で京都へと向かった。「これから色々と忙しくなるな。」ヨハンはホテルの部屋の窓から古都の景色を眺めた。高級ホテルのスイートルームに落ち着いたルドルフ達は、早速家探しをしたが、なかなかいい物件が見つからなかった。「ホテル暮らしには金がかかるし、仕事も見つけないとな。」「ええ・・」翌日、ルドルフ達は職探しと家探しをした。華やかな経歴を持つ彼らだが、面接では悉く落ちた。半ば諦めていたとき、私立の名門男子校が外国人講師を募集してるという記事を求人誌で見つけた。給料が良く、しかも彼らが探していた物件が学校の近くにあった。面接で彼らは採用され、新しい生活を送ろうとしていた。「これで家賃6万は安いな。スイス宮にいた頃と同じ広さだな。」ルドルフはそう言って部屋を見て回った。「もっと安い物件が学校の傍にあったんですが・・何しろあそこは木造2階建てのアパートでして・・」「あいつは昔の優雅なライフスタイルを捨てたくないからなぁ・・それにあそこは4畳半だったからな。ここなら1人ずつ寝室がもてるし、キッチンが広いし、バスルームも広いしな。」ヨハンは荷物を置きながら言った。「おなか空きましたでしょう?今からご飯を作りますね。何が召し上がりたいですか?」「豚カツ定食。」ルドルフがそう言ってユリウスを抱きしめた。「そんなヘビーな物を食べると、胃がもたれてしまいますよ。」「いいんだ。豚カツが食べたい。」「下ごしらえが大変なので、嫌です。」「わかった・・じゃあ外で食べに行こう。」「仕方ありませんね・・」ユリウスはため息をついて、ルドルフとヨハンとともに新居を後にした。「美味かったな、あの豚カツ。」「おなかいっぱい食べたら、眠たくなったな。」「それではお2人とも、お休みなさい。」しばらくして、3人の寝室からは寝息が聞こえてきた。このとき3人は知らなかった。この学園の秘密を。-第10章・完-
2008年02月03日
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「今帰ったぜ。」 胃にもたれる食事を終えてヨハンがそう言ってルドルフ達の部屋に入ると、ルドルフがピザを食べていた。「おかえり、大公。」「よく食べられるな、お前・・」ルドルフの足元には、ジャンクフードが入っている紙袋が転がっていた。「これからデザートを食べようと思って。大公も食べるか?」「いや、いい。久しぶりにファーストフードを食べたら胃がもたれちまった。」ヨハンはそう言って胃をさすった。「そんなことを言うな、私が奢るから。」ルドルフはヨハンの手を引っ張って寝室を出て、会場からほど近いところにあるアイスクリーム店へと向かった。「・・お前、胃がもたれたりしないのか?それに昔は甘い物嫌いだったのに・・」ヨハンはそう言ってチョコレートサンデーを食べているルドルフを見た。「甘いものは別腹だ。お前に話したいことがある。」「俺に話したいこと?」「・・私の受胎期についてだ。」ヨハンの目が鋭く光った。「お前とあいつ、どちらかが出産すれば、どちらかが命を落とすっていうアレか・・なんとか回避できないのか?」「できない。だから私は決めた。」ルドルフは、そう言ってヨハンを見た。「大公、もし私が死んだら・・」「そんなこと言うなよ!お前は死なねぇ!」ヨハンはルドルフを抱きしめた。「大公、ありがとう・・」ルドルフは涙を流しながら、ヨハンの耳元に何かを囁いた。「・・そんなこと・・」「もう、決めたんだ。」このとき、ルドルフはある決断をしていた。
2008年02月03日
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「よく食べるんですね?」「まぁな。さっきから腹が減って仕方がないから。」「お連れの方々はどうしました?」「ユリウスなら先に休んでいる。それからヨハンはナンパをしに行った。」ルドルフはそう言ってチラリとダンスフロアを見た。そこにはセクシーな美女と踊っているヨハンの姿があった。「できれば僕と踊っていただけませんか?」「このベーグルセットを食べ終わってからな。」ルドルフはベーグルとフレンチフライを食べ終え、手の汚れをハンカチで拭いた。「では、参りましょうか?」艶星は完璧にルドルフをダンスフロアまでエスコートして、ボサノバのリズムの合わせて踊った。「その美しいスタイルは、どうやって維持しているのですか?」「別に何にも。ただ食べて寝るだけだ。」「食べてすぐに寝るなんて・・それは太る原因になりますよ。」「代謝がいいんだ、私はな。」ムッとした表情を浮かべながらルドルフは言った。どうやら彼の気分を害してしまったらしい。「ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったんです。きっとあなたのことだから、食事制限やジムにでも通っているんじゃないかと思って・・」「私は食事制限やジムとは無関係のところで生きている。それだけだ。」ルドルフはそう言うともうこの話題にはうんざりだといった表情を浮かべた。曲が終わり、ルドルフは艶星から離れてビュッフェテーブルに備え付けてある持ち帰り用の紙袋を数枚掴んでハンバーガーやサンドイッチ、フレンチフライ、オニオンリングなどを包装紙に丁寧に包み、紙袋の中にどんどん入れていった。「これでよしと。」最後の紙袋にピザやタコスなど、肥満の原因となるジャンクフードを詰め込んでから、ルドルフはパーティー会場を去っていった。「お帰りなさいませ。その袋はどうしたんですか?」ユリウスは両手に沢山ジャンクフードが入った紙袋を抱えたルドルフを見て言った。「腹が減ったから、一晩中食べようと思って。」「さっきから食べてばかりではないですか。気づいてますか、最近昔の服が入らなくなったのを。」「そんなの関係ない。」ルドルフは紙袋のひとつからタコスを取り出して食べ始めた。「全くもう・・」ユリウスはそう言ってため息をついて、目を閉じた。隣ではルドルフが2つ目の紙袋を開けて、ボリュームたっぷりのチーズバーガーとフレンチフライの山盛りを食べている。ヨハンはため息をつきながら、ダンスフロアで踊っていた美女と別れた。今度こそはいけると思ったのに、ついてない。彼女は既婚者だったのだ。腹が減ったが、もうパーティーは終わってしまった。この時間帯に営業している店はファーストフードの店くらいだ。ウェスト周りを気にしているヨハンにとってファーストフードは避けたいところだが、仕方がない。ヨハンはため息をついてパーティー会場を出て、会場から近いファーストフード店に入った。
2008年02月03日
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艶星は邸宅に足を踏み入れ、自室に引き籠るとベッドに身を横たえた。鬱陶しそうに少し伸びたプラチナブロンドの髪を掻き上げた。脳裏に浮かぶのは、自分達が昔、人間達から受けた凄まじい迫害の記憶だった。あの頃自分と麗陽は日の果てにある古の都にいた。そこでは魑魅魍魎が跋扈し、自分達の敵が上流社会を中心に活躍していた。兄と自分は、貴族に成りすまして敵から逃れようとした。しかし―(思い出すな、あんなことは!)プラチナブロンドの髪を弄り、艶星は目を閉じて眠ろうとしたが、なかなか眠れなかった。あんな屈辱を受けた記憶は、そう簡単に消え去るはずがない。あの時、艶星は心に誓ったのだ。“彼ら”を自分達と同じような目に遭わせてなぶり殺しにしてやると。兄がどう言おうと、もう決めたのだ。(絶対に、彼らを殺してやる!僕と、同じ目に遭わせてやる!)艶星は自室を出て、パーティー会場へと戻った。昔のことを思い出して少し腹が減ってしまった。ビュッフェテーブルへと向かうと、先ほどまで男を鞭打っていたルドルフがロースとビーフと野菜をベーグルで挟んでフレンチフライとともにパクついている。彼の体を包み込む蒼いチャイナドレスといい、ワインレッドのハイヒールといい、何もかも彼にぴったりだった。それよりも何よりも、彼自身が美しかった。括れたウエストに、すらりと伸びた美しく長い足。もし彼が女性として生を享けていたのなら、今頃一流ブランドのモデルか、絢爛豪華なドレスと宝石を身につけ、ハリウッドのレッドカーペットの上を歩いている女優の筈だ。ルドルフは右手にベーグル、左手にシャンパンが入ったグラスを持ちながら、食事を楽しんでいた。ベーグルを一口大に千切るその仕草はとても洗練されていて、美しい。遠くでルドルフを見ていた艶星は、新たな激情に駆られた。兄よりも早く、ルドルフを自分のものにしたいという欲望を彼は抱いた。「またお会いいたしましたね。それにしてもあんなにたくさん食べてもその美しいスタイルを維持できるだなんて、お羨ましい限りです。」「・・嫌味か、それは?」「いいえ、賞賛ですよ。」艶星はそう言って心からの笑みをルドルフに浮かべた。
2008年02月03日
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艶星はカエサルのサーベルを弾き飛ばし、彼の腹部を短剣で切り裂いた。「くっ・・」カエサルは腹部を押さえながら呻いた。「あなたには、ここで死んで貰います。」艶星は冷たい笑みを浮かべて、自分の血を無理やりカエサルに飲ませた。「うぐぅっ・・」カエサルは艶星の血を飲み、芝生の上でのた打ち回りながら苦しんだ。「カエサル・・」芝生に倒れ、生きたえだえとなったアフロディーテが従者を見た。「あなたたちには、死んで貰います。」艶星はそう言って笑い、サーベルを構えた。それはゾッとするような冷たい、悪魔の笑顔だった。「さよなら、アフロディーテ様。」艶星はサーベルをアフロディーテに振り下ろそうとしたきー「やめろ、艶星!」アフロディーテと艶星の間に、麗陽が割って入った。「邪魔しないでくださいよ、兄さん。」艶星は舌打ちをして、異母兄を見た。「今がいいところなのに・・」「そのレディーには手を出すな。その人は俺達にとって大切な方だ。」「始祖魔族がなんだっていうんですか、兄さん?僕達が人間から迫害を受けていたとき、彼らは僕らを見捨てた!神かなんだか知りませんが、いっそ滅びてしまえばいい!そうした方が僕達のためです!!」艶星の桜色の唇から、怨嗟の言葉が次々と飛び出してきた。「あの方達は俺達を見捨てたわけではない、艶星。お前は誤解している。あの方達は苦しんでるんだ、自分達の存在に・・」「僕は必ず彼らを殺します、僕達に生き地獄を味あわせた彼らに。」艶星はそう言ってニッコリと笑って、中庭を去っていった。
2008年02月03日
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アフロディーテはそっと、艶星に近づいた。犬歯を覗かせ、アフロディーテはそっと彼に忍び寄った。「見ぃ~つけたぁ~」そう言ってアフロディーテは艶星の首筋に犬歯を立てた。「美味しそうね、あなたv」「・・僕の血を吸わない方がいいですよ・・毒がありますから。」艶星はゾッとするような冷たい声でアフロディーテに言った。「キツイ冗談ね。」アフロディーテはそう言って笑いながら艶星の血を吸い続けた。しかし、その美しい顔は苦痛に歪み始めた。「うっ・・」「言ったでしょう、僕の血には毒があるって。」冷たい目で艶星はアフロディーテを見下ろした。「お前・・一体何者・・?」芝生で蹲りながら、アフロディーテは艶星を見た。「共食いなんかしようとするから、あなたは死ぬことになるんですよ。始祖魔族はもっと頭が良いと思いましたが、期待はずれでしたね。」艶星は隠し持っていた短剣を出し、アフロディーテの喉元に突きつけた。「ここでお別れです。」「アフロディーテ様!」艶星が短剣を振りかざしたのと、カエサルがアフロディーテの元に駆け寄ってきたのはほぼ同時だった。「アフロディーテ様に触れるなっ!」「・・たいした忠犬をお持ちですね。」艶星はそう言ってフッと笑った。「お前の息の根は私が止める!」カエサルはサーベルを持って艶星に突進した。「やってごらんなさい!」激しい剣戟の音が、中庭に響いた。
2008年02月03日
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「・・兄さんも、身を固めてくれるんだ・・」艶星は、誰もいない中庭でそう呟いて、ため息をついた。彼がこの邸に連れてこられたのは7年前、麗陽の父・陽春がまだ生きていた時だった。あの頃艶星は一人ぼっちだった。 大好きだった母は苦労して自分を育て上げた後過労で亡くなり、母方の祖父母にたくさんの愛情を注がれてながら暮らしたが、彼らは不慮の事故で死んでしまった。艶星は祖父母の死後、伯父夫婦に引き取られ、そこでさんざん扱き使われた挙句、激しい折檻を受けて死に掛けているところを、麗陽の父・陽春に引き取られたのだ。大都会・香港の暮らしは、黒竜江省にある農村の地獄のような暮らしより、いままで一度も経験したことがないような天国のような暮らしだった。陽春は正妻・春艶(しゅんえい)との間に出来た麗陽と自分を分け隔てなく育ててくれた。麗陽も、春艶からいじめられるたびに、何かと庇ってくれた。陽春が亡くなり、麗陽が家を継いだ後も、自分を家に置いてくれた。何かと自分によくしてくれた腹違いの兄。今度は自分が恩返しする番だ。(兄さんにはあの人と幸せになって欲しい・・)艶星はそう思いながら、眼前に広がる香港の夜景を見た。夜空には、ネオンがまるで星のように輝いていた。艶星の脳裏に、兄の足を踏みつけていたブロンドの女性―いや、男性が浮かんだ。あの人なら、兄を幸せにしてくれるだろう。あの人になら、兄を託せられる。
2008年02月03日
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アフロディーテは会場でお気に入りのアリアを熱唱した。アフロディーテが歌い終わると、彼女は喝采を浴びた。「ねぇ、あの子は誰?」アフロディーテはそう言って麗陽の隣にいる少年を指した。「確か彼はミスター・リーの異母弟だったと思いますが・・」「あの子、とっても美味しそうv」アフロディーテは犬歯を覗かせながら言った。「兄さん、僕はこれで。」「まだいろよ。今夜お前に紹介したい奴がいるんだ。」麗陽はそう言って会場の隅でロースとビーフをパクついているルドルフの腕を引っ張った。「紹介するよ、艶星。俺の未来の妻、ルドルフだ。」「誰が未来の妻だっ!」ルドルフはヒールで麗陽の足を踏みつけた。「痛てぇっ!」「兄さんにお似合いの人ですね。兄さんはいつも遊んでるから。」艶星はそう言って兄を見た。「麗陽の腹違いの弟、艶星です。どうぞ兄をよろしくお願いしますね、ルドルフさん。」「何を言っている、私はこいつとなんか・・」「じゃあ、僕はこれで。」艶星はルドルフに微笑んで、会場から去っていった。「・・完全に誤解しているな、あれは・・」ルドルフはそう言ってため息をついた。「どうでもいいけど、足どけてくれねぇか?」「嫌だ。」 尖ったヒールを麗陽の足に更に食い込ませながら、ルドルフは去っていく艶星の背中を見送った。
2008年02月03日
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「とんだ災難でしたね、ルドルフ様。」ユリウスはそう言ってルドルフにクリームチーズとワインを差し出した。「まぁ、しっかりお仕置きしてやったからな。」ルドルフはため息を付いてワインを飲んだ。その時、入り口付近がざわついた。2人がチラリとそちらの方を見ると、そこにはカエサルとアフロディーテの姿があった。「・・アフロディーテ・・」ルドルフはカエサルとアフロディーテを睨んだ。「どうしますか?」ユリウスはそう言ってルドルフに拳銃を貸した。「奴に気づかれないようにあいつを・・」「困りますよ、そんなことされては。」背後から凛とした声がして、ユリウスの銃はいつの間にかなくなっていた。「お前は・・」背後を振り返ると、そこには1人の少年が立っていた。年は17,8くらいで、プラチナブロンドの髪に、瑠璃色の瞳をしている。背丈は麗陽よりはやや低く、華奢な細身の身体を黒い燕尾服が包んでいる。「ここであなたがあの人を撃ったらどうなりますか?あなたの立場がやばくなるだけですよ。」「・・それも、そうだな。」ルドルフはそう言ってビュッシェテーブルの方へと向かい、料理を取り始めた。「あいつは一体何者なんだろうな?」「先ほどの少年、全く気配を感じませんでした。もしかしたら・・」「・・そうかもしれないな。」「・・あの、お料理載せすぎですよ・・まさか全部食べるというんじゃ・・」いつの間にかルドルフの皿には、料理がてんこ盛りになっていた。「ここに来てから3時間も経ってるのに、全然食べてないんだ。」ルドルフは海老フライをかじった。「ルドルフ様~」ユリウスはオニオンリングを食べているルドルフを見てため息を付いた。「兄さん、あの人達はどなたですか?」そう言って麗陽に話しかけてきたのは、先ほどの少年だった。「来てくれたのか、艶星(えんせい)」麗陽は異母弟に微笑んだ。「こういう場所はあまり好きじゃないんですけど・・兄さんの為なら、出てみようかなって・・」少年―艶星はそう言って麗陽に微笑んだ。「あまり無理すんなよ。」「はい。」兄と弟は互いに微笑み合った。
2008年02月03日
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ルドルフが大勢の客達の前でSMショーを繰り広げている頃、1台の高級車が麗陽の邸宅にある駐車場に停まった。「ねぇカエサル、本当にここに兄様がいるの?」ロイヤルブルーのドレスを纏い、ダイヤのネックレスを付けたアフロディーテがそう言って従者を見た。「彼は必ずここにいます。さっき彼のオーラを感じましたから。」「オーラ?」「ええ、激しい怒りで燃え上がる紅蓮の炎のような真っ赤なオーラが。」「どうせ誰かに女装されて最高にムカついているんでしょうね、きっと。」アフロディーテはそう言って笑った。「参りましょうか。」カエサルが差し出した腕に、アフロディーテは自分のそれを絡ませた。「ええ。」ルドルフは漸く男を打ち据えるのをやめて、あっけに取られているユリウスの方へと歩いていった。彼の鞭の洗礼を受けた男は会場を出て行った。男と入れ違いに、上品な雰囲気を漂わせた男女のカップルが入ってきた。男は漆黒の燕尾服を着ており、ブロンドに近い薄茶の髪がシャンデリアの下で輝いている。女の方はブロンドを高く結い上げ、バレリーナのような白く長い首にはダイヤのネックレスを付けている。見たところ、身なりといい、洗練された歩き方といい、2人は貴族だ。「ようこそ、私のパーティーへ。」麗陽はそう言って恭しくカップルに頭を下げた。「綺麗な菫色の瞳ね。」女の方が麗陽の瞳を覗き込みながら言った。「何をおっしゃいます。あなたの蒼い瞳の方がお美しい。」「まぁ、お世辞が上手いのね。」鈴を転がすような笑い声を響かせながら、女は麗陽に微笑んだ。「麗しいレディ、あなたのお名前は?」「アフロディーテよ。あなたは誰なの、色男さん?」「俺は李麗陽。以後お見知りおきを、レディ・アフロディーテ。」麗陽はそう言ってアフロディーテの手の甲に接吻した。
2008年02月03日
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李麗陽が開いたパーティーは、盛況だった。「ルドルフ、お前デカイな。」ヨハンはそう言って艶やかなチャイナドレスに身を包んだルドルフを見た。「・・黙れ。」不機嫌な顔をしてルドルフはヨハンのスーツにシャンパンを掛けた。身長190センチあるルドルフは、9センチヒールによって頭が天井に届くほどの高さになっていた。「何すんだ、これは俺の大切な・・」「代わりなら私の金でいくらでも買ってやる。それで文句ないだろう?」ルドルフはヨハンを睨んで言った。ヨハンはため息をついて、スーツの汚れを落とすためにトイレへと向かった。「何か食べる物を持って参りましょうか?」「・・クリームチーズとワインを。」「かしこまりました。」ユリウスはそう言ってビュッフェテーブルの方へと向かった。ルドルフは絡みつくウィグのブロンドを後ろに払い、壁際に寄りかかりながらシャンパンを飲んだ。(全く、なんで私がこんな格好をしなくちゃいけないんだ・・冗談じゃない!)ブスッとした顔をしてシャンパンを飲んでいると、誰かに肩を叩かれた。振り向くと、仕立てのいい服を着た男が立っていた。「君どこから来たの?暇だったらさ、僕と遊ぼうよv」やけに男は馴れ馴れしい口調で言いながら、ルドルフの腰を撫で回した。ルドルフは無視した。だが男は諦める様子はなく、酒臭い息をルドルフに吐きかけた。「ねぇったら・・」「五月蝿(うるさ)い!」ルドルフは男の手首をひねり上げ、突き飛ばした。男は派手な音を立てて床に転がった。「私に気安く触るな、この下郎が!」男の股間を、ヒールで踏み潰しながらルドルフは男を睨んだ。男は苦痛のうめき声を上げた。ルドルフはそれだけでは飽き足らず、壁に掛けてあった乗馬用の鞭を取り、男を激しく打ち据えた。「気性が荒い女王様だぜ・・」その様子を傍で見ていた麗陽は、それを見てため息をついた。
2008年02月03日
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(ったく、なんで私がこんなものを・・) 化粧室でチャイナドレスに着替えて、美容師にヘアメイクされながらルドルフは始終不機嫌だった。鏡に映ったルドルフはブロンドのウィグを付けられ、今左右の爪には美しい模様のネイルアートを施されている。いままで何度か女装したことがあったが、その度にルドルフは嫌な思いをしてきた。何故自分はこうまで弄られなければならないのだと。(やはり顔が原因か?女顔だから・・)女顔という点ではユリウスも同じである。(わからないな・・)ルドルフはう~んと唸った。「あまりそんな顔しかめないでください。メイクが崩れますよ。」そう言って美容師は自分のヘアメイクの出来に満足しながら言った。「ありがとう。」ルドルフは美容師に礼を言うと、化粧室を出た。「終わったぞ。」ヒールの音を響かせながら麗陽の寝室に入ると、彼は口をあんぐりと開けて自分を見ていた。「何ボケーッとして突っ立てる。行くぞ。」「いやぁ・・あまりにもお前の美しさに見とれて・・」「お前、本当に殺してやろうか?」チャイナドレスと同系色の青地に牡丹のネイルを振りかざしながら、ルドルフは麗陽を睨んだ。「・・すまん・・」「まったく、何のために悲しゅうてこんな格好を・・」ブツブツ言いながらルドルフがパーティー会場へと入った時―それまで談笑していた客達が一斉にルドルフの方を見てどよめいた。―綺麗な方ね・・―まさか麗陽様の婚約者?―綺麗な足ね・・ユリウス達の方へと歩く度に、そのどよめきが大きくなった。(どうしてみんな私を見るんだ?)ルドルフは周囲の視線から目を逸らし、歩き続けた。「ルドルフ様・・」「どうした、ユリウス?」「お前、やっぱ変わるな・・」「そんなこと言うな。」(私は何故か弄られる・・)
2008年02月03日
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「やめろっ!」ルドルフはそう叫んで麗陽を突き飛ばした。「抵抗するほうが燃えるぜ。」麗陽は菫色の瞳を爛々と光らせながらルドルフを抱きしめた。「俺はお前と何が何でも一緒になるぜ。」「誰が・・っ!」ルドルフは麗陽の頬を引っ掻いた。「狼に爪を立てたぁ、ますます気に入ったぜ。」「黙れ!」ルドルフは麗陽を投げ飛ばして部屋を出ようとした。だがドアには鍵がかかっていた。「逃げようとしたって無駄だぜぇ。」麗陽は卑しい笑みを浮かべながらルドルフに近づいてきた。ルドルフは麗陽の股間を蹴り上げた。「おうっ」麗陽が床に蹲っているところを更にルドルフは彼の腹を蹴った。麗陽は怒りに燃えたルドルフの蒼い瞳を見た。極寒の国に浮かぶ青空のように澄んでいて美しい。「悪かったよ。だからそんなに怒るなよぉ。」「誠意が感じない謝り方だな。」ルドルフは麗陽を冷たく見下ろしながら言った。「乱暴なことをして済まなかった。さてと、あんたに似合う服を探そうか。」麗陽はルドルフの手を取り、衣装部屋へと向かった。そこにはフォーマルな服からカジュアルな普段着まで靴やバッグといった小物一式が全て揃っていた。「あんたにはこれが似合いそうだな。」麗陽がそう言って取り出したのは青地に大輪の牡丹が美しいチャイナドレスだ。腿の部分には深いスリットが入っている。「・・こんなものを私に着れと?殺されたいのか?」ルドルフの蒼い瞳が少し紅く染まった。「あんた見たところ、スタイルいいし、足も綺麗だからさ、こんなのが似合ってるかなぁ~なんて思って。」「ふざけるな。何故私が足を赤の他人に見せないといけないんだ。本気で殺されたいようだな、お前は?」慌ててフォローしようとした麗陽の言葉は、ルドルフの怒りに火に油を注いだようだった。「一度だけ、一度だけでいいから着てくれよ。一度だけでいいからさっ!」「・・ふん、いいだろう。着替えはどこでするんだ?」「それなら、隣の化粧室でできるぜ。」「わかった。」ルドルフはそう言って麗陽からチャイナドレスを引ったくり、化粧室へと入っていった。「・・気難しい女王様のご機嫌を取るのは大変だぜ・・」麗陽はため息をついてボヤいた。「何か言ったか?」化粧室のドアから顔を出しながらルドルフはそう言って麗陽を睨んだ。「何、何にも言ってねぇよっ!」「ふん、ならいい。」(本当に大変だぜ、女王様のご機嫌取りは・・)あとがき香港編突入いたしました。今回は新キャラ・麗陽vsルド様の対決、ラウンド1をお届けいたしました。俺様キャラ同士の2人ですが、ラウンド1はルド様の圧勝で終わりました(笑)。ルド様は俺様+女王様キャラですから。麗陽はどっちかっていうと俺様だけど遊び人タイプです。女王様(ルド様)のご機嫌取りをするのは大変です。一番苦労しているのはユリウスかもしれませんね。俺様キャラって書くの楽しいです。蛇足ですが、麗陽は中国人と英国人のハーフです。髪の色はブロンドにしようかな~と思ったんですが、それじゃルド様と被るので黒髪にいたしました。
2008年02月03日
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九龍島にあるマフィアの邸宅で、パーティーは開かれた。燕尾服姿のルドルフとユリウス、そしてヨハンは、招待状を出した人物を捜していた。「えらい盛況だな。マフィアのパーティーだってのに、警官までいやがる。」ヨハンはそう言ってシャンパンを呑んでいる男達を見た。「あれは悪徳警官だろう。クスリ欲しさに情報を流している奴らだ。」ルドルフは吐き捨てるように言って警官らを一瞥し、シャンパンを呑んだ。「招待状を送った奴はどこにいるんだ?こう人が多いと見つけられな・・」「待ってたぜぇ、可愛い子ちゃんv」神経を逆なでするような声が背後から聞こえて、ルドルフは振り返った。そこには漆黒の髪をなびかせ、菫色の瞳で自分を見つめる長身の男が立っていた。「お前は誰だ?」「俺のパーティーにようこそ。俺は李麗陽、あんたの夫となる男さ。」男―麗陽はそう言ってルドルフの手の甲に接吻した。ルドルフはサーベルに手を伸ばした。「そうカッカッすんなよ。怒ると綺麗な顔が台無しだぜぇ?」麗陽はルドルフの手を掴み、サーベルを取り上げた。「貴様っ!」ユリウスが麗陽に殺気を送る。「撃てるもんなら撃ってみな。でもお前さんが撃てば、困るのはどっちだろうなぁ?」麗陽はそう言って鼻を鳴らしてユリウスを見た。「・・招待状を送ったのは、お前だな。」「その服似合ってんなぁ。でもなんか素っ気ないぜ。」麗陽は白の燕尾服姿のルドルフをジロジロ見た。「俺の部屋にあんたに似合うやつが沢山ある。付いてきな。」そう言ってルドルフの腕を掴むと麗陽はさっさと会場から去っていった。「離せっ!」ルドルフは麗陽の腕を引っ掻いた。「威勢がいいな。ますます好きになったぜ。」有無を言わさず、麗陽は自分の寝室にルドルフを連れて行き、彼をベッドの上に放り投げた。「何のつもりだ、貴様っ!」「何って、やることといえばひとつしかねぇだろう?」麗陽はルドルフの唇を塞いだ。
2008年02月03日
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「で、“彼”は見つかったのか、麗陽?」そう言ってイギリス人実業家・リチャード=パターソンは目の前に座っている男を見た。男の名は李麗陽。九龍島を縄張りとする大物マフィア・蒼牙社のボスだ。麗陽とはビジネス上で親しくしている。「ああ。どうやらこの街にいるらしい。男にしちゃ別嬪だぜ。」麗陽はそう言ってリチャードに“彼”の写真を見せた。そこには19世紀末、ホーフブルクをバッグにオーストリア皇太子が写っている。「これがヴァチカンが命を狙っている“闇の使者”か。私には天からの使者に見えるがね。」「同じ事を言ってくれるね。なんでもこいつ、15年前ベトナムでひとつの村を消したっていうぜ。」麗陽はリチャードに数枚の写真を見せた。そこには紅蓮の炎をバックにサーベルを振るう“彼”の姿と、ボロボロになったアオザイを纏った“彼”と死体の山が写っていた。「これは・・」「15年前ヴァチカンに派遣された宣教師が撮ったんだってさ。俺達はこんな化け物を始末しなきゃならねぇなんて、面倒な仕事だぜ。」「ああ、まったくだよ。」リチャードはそう言ってため息をついた。「俺があいつを誘き出すぜ。もちろん、あいつの連れもな。」麗陽はそう言ってリチャードを見た。「何をするつもりだ?」「今夜気晴らしにパーティーを開くんだ。あんたも来なよ。きっと面白いものが見られると思うからさ。」麗陽はリチャードに招待状を渡した。「・・わかった。」リチャードは事務所を出た。「さてと、可愛い子ちゃんに似合う服を探すとするかぁ。」麗陽はほくそ笑んで事務所を出た。その日の夜、ルドルフとユリウスの元に招待状が来た。地元の有志によってパーティーが開かれるらしい。「・・どうする、出るか?」「ええ。」「俺も行くぜ。」こうしてルドルフ、ユリウス、ヨハンの3人は、パーティー会場へと向かった。狼が待ち受けていることなど知らずにー
2008年02月03日
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「あいつは?」ユリウスが夕食の支度をしていると、ヨハンがそう言って寝室のドアのほうを指した。「今は落ち着いて寝ておられます。ただ・・」「ただ?」「まだ15年前のことが尾を引いているようでして・・」ユリウスは言葉を濁してビーフシチューを味見した。「あいつが何言ったんだ?」「私は・・死神だって・・」「あいつが、そんなことを・・」ヨハンは寝室のドアを開けた。ルドルフは安らかな寝息を立てている。「お前は死神なんかじゃねぇ・・そんなこと俺が一番よくわかってる。」ヨハンはルドルフを抱きしめた。その頃、九龍島にあるマフィアの事務所で、1人の男がある1枚の書類を見ていた。「こいつが闇の使者、か・・闇というよりは天からの使者のようだな・・」伸び過ぎた前髪を鬱陶しそうにかきあげ、男は書類を机の上に置いた。「頭、あいつが来ましたぜ。」岩のような厳つい顔をした部下の男がそう言って事務所に入ってきた。「そうか。ご苦労だったな。」男は机から立ち上がり、書類を見た。「もうすぐお前を殺しに行く。おとなしく待ってろよ、可愛い子ちゃんv」ルドルフの写真にナイフを突き立てながら、男は事務所を見た。
2008年02月03日
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「ん・・」ルドルフはゆっくりと目を開けた。「起きたか?」ヨハンはそう言って、ルドルフの手を握った。「大公・・どうしてここに?」「言っただろ。俺はお前と一緒になるためにあいつの従者になったんだ。」「アフロディーテの・・従者になったのか、お前は。」ルドルフはベッドから起き上がりながら言った。「バカかお前は。アフロディーテの従者になったからといって私と一緒になれないことくらい、わかるだろう。」「それでも俺はお前と一緒になりたいんだ。」ヨハンはルドルフに抱きしめた。「・・勝手にしろ。」ルドルフはそう言って寝室を出た。「お目覚めになりましたか、ルドルフ様?」ユリウスはルドルフに微笑んだ。「長い間、待たせてすまなかった。」「何をおっしゃいます。」ユリウスはルドルフを抱きしめた。「大公の話は聞いたか?あいつはアフロディーテの従者になったそうだ。」「そう・・ですか・・」「バカな奴だ、あいつは。どうして私なんかに構うんだ。」ルドルフはそう言って俯いた。「私は・・死神なのに・・」「そんなこと、おっしゃってはなりません。」ユリウスはルドルフの髪を優しく撫でた。「私の所為で誰かが死んでいく・・あの日ホーフブルクにいた者達、ベトナムで虐殺された者達・・私がいる所為で、何の罪もない人達が殺される・・」ルドルフはユリウスの手を振り払い、頭を抱えた。「私さえいなければ・・私さえっ!」「ルドルフ様・・」
2008年02月03日
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ルドルフは仄暗い闇の中に立っていた。「ユリウス、どこだ?」ユリウスの姿を探したが、彼はどこにもいない。「ユリウス、聞こえているんだろう!ユリウス!」「ここにいるのは、お前と私だけ。」背後から声がして、ルドルフは振り返った。そこには水色の髪と菫色の瞳をした男が立っていた。「お前は、一体・・」「久しぶりだな、ルドルフ。」男はそう言ってルドルフに微笑んだ。「何故・・私の名を知っている?」「お前のことは何もかも知っている。」男はルドルフの頬を撫でながら言った。「お前はまだ、本性を出さないのか?」「・・あんなの私じゃない。あんなの・・」返り血を浴びて重くなった軍服。自分の足元には死体の山。あんなの自分じゃない。「認めろ、ルドルフ。あれはもう1人のお前。」男は優しくルドルフに囁いた。「お前は目覚めるべきだ。本来あるべき姿のお前を。」男はそう言ってルドルフの唇を塞いだ。「お別れだ、ルドルフ。」「待て、お前は・・」男はやがて、闇の中へと消えていった。
2008年02月03日
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1980年、香港。ユリウスは所有するマンションへと移り住んだ。ベトナムでの悪夢からか、ルドルフは一向に目覚める気配がない。もう15年も経ったが、あの村で起きた惨劇は片時もユリウスの脳裏から離れることはなかった。アフロディーテによって虐殺された村人達。そして・・(思い出すな、あの日のことは。)ユリウスは頭を振り、スクランブルエッグを作ることに専念した。出来上がったスクランブルエッグを皿の上に移そうとしたとき、誰かがチャイムを鳴らした。「はい、どなた・・」ドアを開けると、そこには大きな荷物を抱えた軍服姿のヨハンが立っていた。「よう、久しぶりだな。」「大公様、どうぞ。」ユリウスはそう言ってヨハンを中に招き入れた。「ルドルフはまだ起きねぇのか?」「はい・・15年前のことがあまりにもショックだったようで・・」「そうか・・俺もあの日のことを思い出すと夢でうなされるぜ。」ヨハンはため息を付いた。「スクランブルエッグ、ごちそうさん。」「大公様はいつ香港に?」「数ヶ月前さ。その前にはプノンペンにいた。」「争いはいつこの世からなくなるんでしょうか?」ユリウスはそう言ってため息を付いた。ベトナム戦争終結後、カンボジアでポル・ポトによる大虐殺が起こった。「あそこは地獄だったぜ・・何の罪もない奴らがバタバタ死んでいくんだからな。」いままでヨハンが経験してきた戦場よりも、カンボジアほど悲惨で惨たらしかったものはなかった。何故自分が戦っているのか、わからなくなっていた。「俺、軍辞めて来たんだ。あいつと一緒にいる時間を作りたいからさ。」「ありがとうございます。」ヨハンはルドルフがいる寝室へと行った。ルドルフは安らかな寝息を立てて眠っている。「よう、元気か?」
2008年02月03日
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ルドルフは、永い眠りの中、幸せな夢を見ていた。それはまだ、ユリウスと出会って間もない頃のものだった。いつも夏の休暇にはユリウスと南イタリアやイシュルで楽しい時間を過ごした。あの幸せな時間が、ずっと続けばいいのにと思っていた。だが運命の歯車は回り始め、幸せな時間と引き替えに、ルドルフとユリウスは深い闇の中へと身を投じた。あの日から自分達は引き返せない道へと入っていってしまった。それは、あの幸せな時間と別れを告げることを意味していた。覚悟していた。ユリウスがアフロディーテを解放したことによって、ルドルフが自ら光が見えぬ漆黒の闇へと身を投じたのだ。もう幸せな時間は戻ってこない。(それでも私は、あいつを・・)その頃アフロディーテは、香港市内の高級マンションの一室でカエサルの帰りを待っていた。「カエサル、早く帰ってこないかしら?」ソファに寝そべってテレビを観ながら、アフロディーテはそう言ってスナック菓子を食べた。「またそんなものを食べていらっしゃるのですか?」買い物から帰ってきたカエサルがそう言って呆れ顔でアフロディーテを見た。「だって美味しいんだもん、これ。」「私が何か美味しい物を作りますから、お待ちください。」「わかったわ。ねぇ、ユリウスと兄様、どこにいるのかしら?」「・・さあ、見当もつきませんね。」カエサルはパイの下地を作りながら言った。「ねぇ憶えてる?お前が私をホーフブルクから出してくれた日のこと。あの日私のために沢山の人が来てくれて、とっても嬉しかったの。でも、あの人達は私ではなく、兄様の誕生日を祝うために来てたのよ・・」それまで明るかったアフロディーテの声が急に暗くなった。「みんな、私のこと愛してくれないんだって思って・・それでキレちゃって、兄様の大切なもの、全部奪っちゃったv」アフロディーテはそう言って笑った。「カエサル、後悔してる?私のところに来て。」「・・いいえ。」戻らない時間を悔いても、仕方がない。今は、アフロディーテのために忠誠を尽くすだけだ。
2008年02月03日
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