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横溝正史『真珠郎』~角川文庫、1974年~ 由利先生シリーズの長編「真珠郎」に、幻想的な短編「孔雀屏風」が併録された1冊です。 まずは、簡単に内容紹介を。ーーー「真珠郎」大学の英語講師をつとめている私―椎名耕助は、同僚の乙骨とともに、長野に旅行へ行くこととなった。旅行先で、二人は、元々娼家であった奇妙な家に宿泊することとなった。旅行前に私が見た奇妙な雲、脅迫する老婆、大学を追放された医学教授、そして私が目撃した美青年の真珠郎と、不吉な予感がわき起こる中、事件は起きる。私と乙骨が湖水でボートに乗っているとき、家の屋根では、真珠郎が家主を殺していた…。 東京に私たちが戻ったのちも、真珠郎による凶行は繰り返される。そんな中、私のもとに、由利と名乗る人物が接近してくる。「孔雀屏風」私のいとこの家には、真ん中で分けられて、半分だけが残されていた、150年前に描かれた屏風があった。戦地に赴いているいとこから届いた手紙には、1枚の雑誌の切り抜きと、不思議な手紙が入っていた。いわく、ずっと目の裏に焼き付いているような女性、それはその雑誌の切り抜きの女性ではないか。そして女性の写真は、屏風の絵柄とそっくりであった…。屏風のもつ物語とは。ーーー いずれの作品もとても楽しく読めました。 まず「真珠郎」は、由利シリーズには珍しく、事件の渦中にある人物の一人称で一貫して描かれています(一部の手紙を除く)。いくつか読んできた由利シリーズ作品では、けっこう場面転換が多く、場面ごとの主役が入れ替わることもしばしばですが、本作では、奇妙な事件に巻き込まれた人物の視点で一貫しているため、臨場感や不気味な印象が特に強く感じられました。一見単純な事件の裏にある複雑な背景が、解き明かされていく過程も面白いです。 「孔雀屏風」は、記事冒頭にも書きましたが幻想的な一編です。二つの家に、半分ずつ保存されていた屏風は、どんな思いで描かれ、どんな歴史をたどったのか。探偵小説的な要素も多少はありますが、それよりも、物語の裏にある思いが印象深い一編です。表紙画像は横溝正史エンサイクロペディアさまからいただきました。
2015.01.31
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Frances Andrews, The Early Humiliati~Cambridge University Press, 1999 [paperback edition 2006]~ 修道院に入るわけではなく、仕事にも従事しながら、結婚している場合もあり、それでいて敬虔な生活を求める人々が、12世紀末頃のイタリアに(特にミラノを中心に)いました。彼らは、「フミリアティ」(Humiliai)と呼ばれます。聖職者の許可なく説教を行ったり、集会を開いたり、宣誓を拒んだりという観点から、一度彼らは「異端」の宣告を受けますが、その後、教皇インノケンティウス3世の尽力もあり、正統なキリスト教徒として、また独自の「修道会」として認可されることになります。 異端と正統の、あるいは伝統と革新のはざまで揺れ動いた彼らの「独特の経験」の理由を明らかにすること、それが本書のねらいだと著者は言います。 前置きが長くなりましたが、まずは本書の構成を紹介します。ーーー謝辞略号一覧地図序論第1章 伝統と歴史第2章 フミリアティの始まり―12世紀の資料第3章 Quia in nullo peccabant―1199-1201年におけるフミリアティの調査と認可第4章 規則第5章 共同体を求めて第6章 新入会員と誓願宣言第7章 統一性と単一性―中央集権的修道会の発展第8章 諸地域におけるフミリアティと教会結論付録1 教皇(あるいは司教)書簡とフミリアティに関する特権の日付順リスト付録2 誓願宣言付録3 遺言状参考文献目録索引ーーー 以下、簡単に各章のメモをしておきます。 第1章は、古くは14世紀まで遡り、著述家・研究者によるフミリアティの評価を見ていきます。羊毛産業への従事という経済的側面や、宗教運動の観点からの評価など、従来の研究が紹介されます。 第2章は、フミリアティが1201年に認可される以前の状況を描きます。敬虔な生活を営んでいた人々は教皇に認可を求め、その生活様式は、公での説教と私的な集会を除いて認められます。しかし彼らはその後も私的な集会や説教を行い、つまり不服従のために、1179年に異端とされます。従来の研究では、この異端的側面が強調されていましたが、そうではないのではないか、というのが著者の立場です。彼らは、同時代の脅威的な異端であったカタリ派に対して対抗する立場をとっていましたし、1186年にある都市のフミリアティ共同体は教皇から保護を受けたという事例も紹介されます。 第3章は、異端とも目されたフミリアティが、教皇インノケンティウス3世により、1201年に認可されるまでの過程を詳細に見ていきます。ここで面白いのは、聖職者、聖堂参事会員、俗人といった多様なメンバーからなるメンバーが、自ら、一つの制度としての組織化を希望していたということです。本章では、フミリアティの代表者、彼らの会則の調査にあたった教皇庁の人々という具体的な個人に焦点を当てているのも興味深いです。 第4章は、フミリアティのいくつかの規則から、彼らの日常的な実践のあり方―高位聖職者が行うべき職務、手仕事の際の沈黙、労働の長さ、告解など―を描きます。さらに、会則の意義に関する分析など、密度の濃い章です。 第5章は、フミリアティの家・教会、住人のあり方、共同体の規模や共同体同士のつながりなどについて論じます。建物については、フミリアティの建物のなかでは、男女は別々に住んでいたこと、新たに教会を建てるには司教の許可が必要だったこと(そしてそれをめぐりフミリアティと司教が対立することもあったこと)などが指摘されます。住人に関して興味深いのは、女性の上長も存在したこと、フミリアティの活動は多くの女性を引きつけ、参加した女性たちも重要な役割を果たしていたということです。さらに、異なる地域の共同体同士で、メンバーの行き来やつながりがあったことが示されます。 第6章では、入会時の誓願や儀礼について論じた後、家族での入会の事例や、入会前からフミリアティと関係のあった公証人が、入会後によい地位についたことなどが紹介されていて、興味深いです。 第7章では、第一会から第三会まで存在するフミリアティに総長を設けるという制度が1246年に始まったこと、このことにより統一性を強めようとするも、フミリアティ内部で論争が起きたり総長を批判する者たちが出たりすることもあった、といったことが示されます。 第8章は、在地教会や托鉢修道会と、フミリアティの相互関係が示されます。お互いに対立することもありましたが、著者は、基本的には共存関係にあり、対立は一時的であったことを強調しています。 イタリアではフミリアティに関する研究も多いのでしょうが、邦語や英語ではフミリアティに関する詳しい研究はあまりないような印象です。本書は、背表紙の内容紹介では、フミリアティに関する英語での大部の研究としては初と評されています。具体例も豊富で、興味深い一冊です。
2015.01.24
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横溝正史『死仮面』~角川文庫、1984年~ 金田一耕助シリーズの中編「死仮面」と、ノンシリーズ作品「上海氏の蒐集品」の2作が収録された1冊です。 表題作「死仮面」は、一部横溝さん自身の原稿が未発見の頃に収録されていて、その部分(2節分)は、かわりに中島河太郎さんによって書かれています。後に刊行され、発見された幻の原稿も踏まえた春陽文庫版『死仮面』で感想を書きましたので、今回は併録された「上海氏の蒐集品」についてのみ、簡単に感想を書いておきます。 記憶を失った上海氏は、台地の上の草原を散歩するのが日課でした。しかし、そこには団地が建ちはじめ、居心地の良い場所は少なくなっていきます。そんななか、上海氏は、台地の下の家に住む、一人の少女に出会います。台地の下の家々は、土地を売るかわりに、大金を手に入れ、それは少女の家も同じはずが、少女の家だけは昔のままに残されています。未亡人のその母親が、お金をためこんでいるというのですが…。そして、母娘の状況はさらに怪しくなっていき、上海氏は嫌な予感に襲われることとなります。 戦後の復興の中で起きた、後味の悪い事件を描く一編です。表題作「死仮面」も重たい物語ですから、なかなか暗めの作品集といえます(杉本一文さんによる表紙は、表題作もさることながら、本書全体の雰囲気にぴったりです)。 「上海氏の蒐集品」は、不可解な謎に論理的な解答が明快に与えられる、という作品ではありません。なんとなく、真相(?)も予想できます。ですが、ぐいぐい物語に引き込まれ、暗めにもかかわらずその独特の雰囲気に飲み込まれてしまうのは、やはり横溝作品の魅力だと思います。※表紙画像は、横溝正史エンサイクロペディアさまからいただきました。
2015.01.17
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フレデリック・フォーサイス(篠原慎訳)『ジャッカルの日』(Frederick Forsyth, The Day of the Jackal, 1971)~角川文庫、1979年~ フリールポライターのフォーサイスが作家デビューしたという、長編スリラーです。 舞台は、1964年のフランス。フランス大統領シャルル・ドゴールの打倒をもくろむ組織OASと、大統領を守る官憲側との壮大な戦いが描かれます。 何度も大統領の狙撃に失敗したOASは、プロの暗殺者ジャッカルを雇います。ジャッカルは、OASの助けをほぼ借りず、独自に暗殺の作戦を綿密にたてていきます。 一方、OASが暗殺者を雇ったという情報を得た官憲側は、優秀な警察官のルベルに、作戦を委任します。犯人のコードネームしか分からない状況から、ルベルはいかなる作戦をとるのか…。 普段は全く読まないジャンルの作品ですが、ルベルの作戦が進み始め、一方ジャッカルが何手も先を考えた計画を実行していく、その緊張感に、わくわくしながら楽しく読むことができました。
2015.01.12
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横溝正史『夜光虫』~角川文庫、1975年~ 由利先生&三津木俊助シリーズの長編です。 簡単に、内容紹介と感想を。ーーー 花火見物でにぎわう夜、ある重大事件の犯人が、護送中に逃亡した。男は、川に浮かぶ船から船へと飛び移り、やがてレコード歌手の諏訪鮎子の船にたどり着く…。 また別の船には、唖の少女と、その乳母たちが乗っていた。男はその船にも飛び移ってきたが、それを見た少女は、動揺を隠せなかった。花火が一瞬照らした男の肩には、不気味な人面瘡がついていたのだった。 少女の乳母からの依頼で男を捜すこととなった由利先生と三津木俊助は、彼には大きな秘密が隠されていることに気づく。ひょっとこ長屋の住人たちや、鮎子のパトロンたちは、なぜ人面瘡の男を追っているのか。 その秘密を追う中で、さらに殺人事件も発生する。ーーー 数年ぶりの再読です。最初に読んだときはあまり印象に残っていないのですが、今回はとても楽しめました。 人面瘡のある美青年、唖の少女、ひょっとこ長屋の住人たちという、インパクトのある登場人物たちもさることながら、美青年に隠された過去の因縁などなどの、どろどろとした背景もとても楽しく読めました。※表紙画像は、横溝正史エンサイクロペディアさまからいただきました。
2015.01.03
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