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北山猛邦『踊るジョーカー 名探偵音野順の事件簿』~創元推理文庫、2011年~ 引きこもりの音野順さんと、音野さんを名探偵として仕事をさせる推理作家の白瀬白夜さんのコンビが活躍するシリーズ第1弾です。 二人は、学生時代からの友人。ほっておくと引きこもって寝たりドミノばかりする音野さんは、しかし学生時代にいろんな事件を解決していて、名探偵の素質があるようで…。そこで白瀬さんは、自分の仕事場の一室を音野さんに貸し、探偵事務所を開きます。 そして二人はいろんな事件を解決していくことになります。 以下、本書に収録されている5編の短編について、簡単に内容をメモしておきます。―――「踊るジョーカー」資産家の家で、密室状態の地下室で家主が殺されていた。現場には、多くのトランプが散らばっていた。そして凶器のナイフにも、何枚ものトランプが刺さっていた。「時間泥棒」両親を亡くした姉弟の家の時計が、次々と消えていく。犯人はなぜ、時計ばかり盗んでいくのか。「見えないダイイング・メッセージ」殺された会社社長は、死ぬ直前に、ポラロイド・カメラで室内を撮影していた。それは開かずの金庫の開け方を示すダイイング・メッセージなのか。「毒入りバレンタイン・チョコ」心理学ゼミで起こった青酸中毒事件。誰も怪しい動きをしていなかったはずの現場で、なぜ一人の被害者だけが毒入りのチョコを食べたのか。「ゆきだるまが殺しにやってくる」道に迷った白瀬たちがたどり着いた屋敷では、家長の娘の結婚相手探しが行われていた。条件は、娘が納得する雪だるまをつくること。しかしその夜、候補者の一人が殺されていた。現場には、誰の足跡も残されていなかった…。――― これは面白かったです。はじめて読むシリーズはどきどきしながら読みますが、少し読んだだけで、完全に自分の好みでした。楽天的な白瀬さんの一人称で物語は進みますが、一見かための文章でありながらユーモアにあふれていますし、自分に自信がない名探偵という設定も読んでいてすごく楽しいです。 シリーズの続きを読むのが楽しみになりました。
2016.01.30
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ミシェル・パストゥロー「13世紀における青の向上」Michel Pastoureau, "La promotion de la couleur bleue au XIIIe siecle. Le temoignage de l’heraldique et de l’emblematique"dans Michel Pastoureau, Symboles du moyen age. Animaux, vegetaux, couleurs, objets, Le Leopard d'or, 2012, pp. 271-280. 今回は、パストゥローの論文集『中世の象徴―動物、植物、色彩、物―』より、「13世紀における青の向上―紋章と標章の証言―」を紹介します。 以下、構成に従って簡単にメモしておきます。 紋章学の知見によれば、12世紀から15世紀初めにかけて、紋章の中に青が登場する比率が急増していきます。 アーサー王など、想像上の人物に与えられる紋章も、色の歴史を探る上で貴重な史料となります。14世紀頃までは、たとえばアーサー王伝説の騎士たちに青色の騎士は見られないそうです。これは、青が躍進するまでに、騎士の色の規範が確立していたからではないか、とパストゥローは言います。14世紀以降に現れるようになる青色の騎士は、忠実などを意味するとのことです。 紋章だけでなく、絵画、衣服などの領域でも、同じ時期に青は向上していきます。 また、特に青は王の色となっていきます。フランス王、とりわけ聖王ルイ(9世)の果たした役割が強調されます。対して、皇帝の色は赤だったそうです。 このような青の向上の背景には、感性・社会の変化があったと言います。古来、白・赤・黒の3色が基本であったのが、11-13世紀にはこの図式は古くなり、白、赤、黒、青、緑、黄の6色が西欧の基本色となったとして、本稿は結ばれます。 『図柄と色彩』など、過去のパストゥローの著作を読んできていると、特に目新しい指摘はないように感じました(既に『図柄と色彩』の中にも、13世紀に青が向上していく過程を整理した「次に青がきた」という論文が収録されています)。
2016.01.27
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法月綸太郎『しらみつぶしの時計』~祥伝社文庫、2013年~ 法月綸太郎さんの、ノンシリーズの短編集です。 それでは、簡単にそれぞれの内容紹介をして、感想をメモしておきます。―――「使用中」密室ものの構想を編集者に語る推理作家を待ち受ける運命とは…。「ダブル・プレイ」妻を憎む男に持ちかけられた交換殺人の話。絶対に裏切られないように手を尽くす男だったが…。「素人芸」無駄な買い物ばかりする妻への怒りから、思わず妻を殺してしまった夫。なんとか警察の目をごまかそうとするが…。「盗まれた手紙」二重のカギのかかった箱に入っていた手紙は、なぜ宿敵に盗まれてしまったのか。「イン・メモリアム」作家たちのあいだで噂される「評議会」の真相とは…。「猫の巡礼」飼い猫を検診に連れて行った夫婦は、猫の巡礼の説明を受ける。自分たちの飼い猫を、巡礼に行かせるかどうか迷う夫婦だが…。「四色問題」戦隊物の女性ヒーローを演じた女優が殺害された。容疑者は、同じ戦隊物の共演者と思われた。被害者が残したメッセージの意味は。「幽霊をやとった女」落ちぶれた探偵に、夫の様子がおかしいと女性から調査が依頼された。調査を進める探偵だが…。「しらみつぶしの時計」シンクタンクに就職したきみは、いくつもの奇妙な実験の被験者となっていた。今回は、1分ごとに全て異なる時を刻む1440個の時計から、制限時間以内に、正しい時計を選ぶという実験だった。「トゥ・オブ・アス」ボーナス・トラック。――― がちがちの論理的解決のミステリというよりは、不思議な味わいの物語や、登場人物たちの心理的駆け引きといった部分がメインの物語が集められている作品集だと思います。 綸太郎さんの原型となる林太郎さんが活躍する「トゥ・オブ・アス」(『二の悲劇』の原型)が、長編の原型ということもあり興味深く、物語としても面白く読みました。 その他、「ダブル・プレイ」「幽霊をやとった女」が個人的には好みの物語でした。
2016.01.23
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杉崎泰一郎『修道院の歴史―聖アントニオスからイエズス会まで―』~創元社、2015年~ 著者の杉崎泰一郎先生は、中央大学文学部教授で、特に12世紀頃の修道院と社会のつながりに関する研究を進めていらっしゃいます。本書は、先生による、中世を通じた修道院の概説書です。 先生の著作として、手元には次の文献があります。・杉崎泰一郎『12世紀の修道院と社会』原書房、1999年・杉崎泰一郎『欧州百鬼夜行抄 「幻想」と「理性」のはざまの中世ヨーロッパ』原書房、2002年 本書の構成は次のとおりです。―――はじめに第1章 修道院のおこりと西欧への伝播第2章 ベネディクトゥスの『戒律』の成立と西欧への定着第3章 『戒律』の定着と中世修道院文化の萌芽第4章 クリュニー修道院の成立と発展第5章 シトー修道院の改革第6章 ラ・グランド・シャルトルーズ修道院の「大いなる沈黙」第7章 社会活動へ向かう修道院第8章 托鉢修道会第9章 ルネサンス、宗教改革、そして近代へあとがき参考文献索引――― 最新の研究の成果もふまえた、修道院の歴史の通史です。従来の通史ですと、朝倉文市『修道院-禁欲と観想の中世』講談社現代新書、1995年がありますが、本書も朝倉先生の著作と同じくらいわかりやすく読みやすい1冊です。史料の引用が豊富なのも嬉しいです。同時代の人々がその修道院をどのように見ていたのかが浮かんできます。 良い読書体験でした。
2016.01.20
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高田崇史『試験に出るパズル 千葉千波の事件日記』~講談社ノベルス、2001年~ 「QED」シリーズなどで有名な高田崇史さんの初の短編集です。もはや10年以上も前の刊行となるのですね…。というんで、14年ぶりくらいの再読です。 高校生の千葉千波くん、いとこで浪人生の「ぴいくん」、その友人の饗庭慎之介さんの3人が主人公で、パズルを解きながら、ときに本当に起こった事件を解決していきます。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――「《四月》9番ボールをコーナーへ」饗庭の知り合いの刑事が、覚醒剤の取引現場を押さえようとしていた。犯人は、取引前に必ず喫茶店に立ち寄り、そこから取引先へ向かうが、いつも逃がしてしまう。喫茶店で、取引場所を確認しているようなのだが、はたしてその方法とは…。「《五月》My Fair Rainy Day」バイキングに食事に行った千葉たちは、にぎやかな団体と隣になってしまう。そして、団体客の一人が、真珠をレストランの中で落としたと言って、大変な騒ぎに…。「《六月》クリスマスは特別な日」一月から、毎月月末頃に、爆破事件が起こるようになっていた。連続爆破事件の犯人は、なにかの規則で犯行日を決めているようなのだが…。「《七月》誰かがカレーを焦がした」豪邸の千葉の家に、集まった「ぴいくん」たち。メンバーで順番に、カレーに1時間ごとに火を入れるようにしていたのだが、いざ食事となると、カレーは焦げてしまっていた。「《八月》夏休み、または避暑地の怪」旅館にとまり、釣りに出かけた千葉たちは、行きがかり上奇妙なお寺に行くことになる。スイカを持って走っていった少年を、寺の小僧は目撃していたのか…?――― パズルが小説になっています。解説の森博嗣さんも書いていますが、特にそれが感じられるのが《八月》の話。嘘しか言わない小僧、嘘と本当のことを必ず交互に言う小僧って…。なんともシュールなことになっています。 個人的には、《四月》の解決が一番ほっとしました。
2016.01.16
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河原温/堀越宏一『図説 中世ヨーロッパの暮らし』~河出書房新社、2015年~ 西洋中世の都市の研究で有名な河原先生、考古学的知見を取り入れて研究を進めていらっしゃる堀越先生のお二人による、中世の日常生活に関する一般書です。このシリーズはカラー図版が豊富なので、見るだけでも楽しいです。 お二人について、私が所有している著作は次のとおりです。・河原温『中世ヨーロッパの都市世界(世界史リブレット)』山川出版社、1996年 ・河原温『都市の創造力(ヨーロッパの中世2)』岩波書店、2009年・堀越宏一『中世ヨーロッパの農村世界』山川出版社、1997年・堀越宏一『ものと技術の弁証法(ヨーロッパの中世5)』岩波書店、2009年 本書の構成は次のとおりです。―――序章 中世ヨーロッパの世界―農村と都市―第1部 農村の暮らし 第1章 中世農村の誕生 第2章 農民と領主 第3章 村の姿 第4章 農民の仕事第2部 都市の暮らし 第5章 中世都市の誕生 第6章 都市の労働第3部 中世人の日常 第7章 中世の人々の一年と一生 第8章 衣食住あとがき参考文献・図版引用文献一覧――― 第1部は中世の農村の、第2部は中世都市の、簡明な概説となっています。 第1部で面白いのは、三圃制について。秋に種まきをして翌年初夏に収穫する小麦などの冬麦、春に種をまいて秋に収穫する春麦、そして休耕地の3つに農地を分ける輪作方法は三年輪作システム、それを村落共同体全体で行う(ここがポイント!)のが三圃制なのですが、わが国では厳密な用語の使い分けができていないと著者は嘆きます。第3章も、いろんな村の様子を写真で見ることができて面白いです。個人的には、中世の石橋の写真が印象的でした。 第2部で面白かったのは、13世紀末頃のパリの課税台帳が紹介されていることです。同じパン屋という仕事でも、人によって課税見積額に大きな差があります。それだけ売り上げに差があったのでしょうか(そのあたりの税制について全く知識がないので…)。そして、いろんな職業を紹介する第6章も興味深く読みました。 第3部は、特に興味をもって読みました。個人的には、声や鐘などの音を通じた人々のつながりについてふれた節が面白かったです。聖職者たちの説教、市場での商人たちの声、布告を伝達する際に鳴らされたトランペット、時間を知らせる鐘の音…。中世の様子がいきいきと浮かんでくるような感じがします。 図版豊富で面白い1冊でした。
2016.01.13
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歌野晶午『女王様と私』~角川文庫、2009年~ 歌野晶午さんのノンシリーズの長編です。 いつものように内容紹介を……といきたいところですが、解説の杉江松恋さんも書かれているように、ネタばらしをせずに書けるあらすじが本当にわずかしかありません。 主人公の真藤数馬さんは、高校中退後も親のもとで仕事をせずに引きこもって暮らしている人物です。誕生日の翌日、彼が妹と買い物に出かけていると、黒服の人物にからまれます。その後も、黒服に会うようになるのですが……といったところです。 で、紆余曲折を経て、数馬さんは連続少女殺人事件の真相解明に乗り出すことになります。はたして引きこもりの数馬さんは、事件を解決できるのか……。 というところで、なんとも紹介の難しい作品です。なんともいえない読後感です。
2016.01.09
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筒井康隆『乱調文学大辞典』~講談社文庫、1975年~ 雑誌に連載されていた「乱調文学大辞典」と「あなたも流行作家になれる」の2本が収録されています。 辞典の方は、実話も織り交ぜつつ、冗談メインみたいな感じでしょうか。思わず笑ってしまったのは、古代ギリシャの歴史家トゥキディデス(ツキジデス)の記事。こういうの大好きです。 「あなたも流行作家になれる」は、作家に向いている資質の試験があったり、原稿後れの言い訳の仕方を伝授したりと、こちらも楽しく読みました。
2016.01.06
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二階堂黎人『誘拐犯の不思議』~光文社文庫、2013年~ 前回に引き続き、水乃サトルシリーズ(学生編)の長編です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― 売れ出しの心霊写真家・上祐レイを交えた討論会の後、レイはサトルに、数枚の写真を見せる。それは、男の死体であった。そしてその場に居合わせたサトルの恋人・二之宮彩子は、その写真の男を知っているという。 彼女は、自身が経験した誘拐事件を告白する。彼女は、写真に写っていた男に誘拐された。男には、ボスという人物もいるようだった。犯行グループは、番組制作会社社長である彼女の父親に1億円の身代金を要求した。彼女の父には、外に言えないプールしている金額があるということだが…。 身代金の受け渡しは成功したようで、彩子自身は無事に解放された。しかし、その後、誘拐犯の男が殺害されたようだった。 警察に一切の相談をしようとしない彼女の父親を納得させるため、サトルは独自に事件の真相解明を試みる。――― 誘拐ものでいえば、歌野晶午さんの『ガラス張りの誘拐』や『さらわれたい女』がすごく面白かったので、本書にも期待が高まりました。…が、自分の恋人が当事者ということもあってか、サトルさんがちょっと混乱している場面もあったりして(自分が指摘していたことを忘れている??)、惜しい感じもしました。 ともあれ、事件の背景にある人間関係も興味深いですし、前作『智天使の不思議』同様アリバイ崩しがメインとなっていて、謎解きも興味深く読みました。 上祐さんという人物は、今後、学生サトルさんにとってのライバル的な存在となっていくのでしょうか。***明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
2016.01.02
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