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綾辻行人『殺人方程式―切断された死体の問題―』 ~カッパノベルス、1989年~ 血なまぐさいのが苦手な刑事・明日香井叶さんと双子の兄で大学生の明日香井響さんが活躍するシリーズ第1作です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 新興宗教団体の女性教主、貴伝名光子が電車にひき殺された。他殺を疑わせる状況もあったが、動機を持つ夫の剛三にはアリバイがあった。 光子に代わり教主となるため、剛三は「お籠もり」の儀式に入る。教団ビルから、一歩も外に出てはならないという儀式だった。 しかし、剛三の死体が、川を挟んで向かいのビルの屋上から発見された。彼の死体からは、首と片腕が切断されていた。 発見現場のビル入り口は、別件で捜査していた公安がずっと見張っており、現場はいわば密室状況であった…。 ――― 10年以上ぶりくらいの再読ですが、あらためて刊行年を見てみると、30年近く前の1989年…。1980年代の刊行だったのですね。 さて、久々に読み返してみて、やはり面白かったです。トリックの概要は印象的だったので、覚えていましたが、伏線や話の持って行き方の巧みさをあらためて感じました。 探偵役の叶さんと響さん、そして叶さんの妻の深雪さんのキャラクターも面白く、館シリーズの雰囲気とは違った読みやすさがあります(館シリーズも、鹿谷門実さんが登場すると読みやすいですが)。 好きなシリーズなのですが、本作と第2弾の2作しか発表されていないのが残念。 次回はシリーズ第2弾を紹介しようと思います。・あ行の作家一覧へ
2018.01.31
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三上延『ビブリア古書堂の事件手帖7~栞子さんと果てない舞台~』 ~メディアワークス文庫、2017年~ ビブリア古書堂シリーズ本編の最終刊です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 栞子の祖父、久我山尚大のもとで書生兼番頭として活躍していた吉原という人物が、ビブリア古書堂を訪れる。前回の事件で他人の手に渡った『晩年』を800万円で譲るという。さらに、栞子の祖母のもとで、祖母が大切にしていたシェイクスピアのフォリオ版の本も入手していた。 そして吉原は、古書交換会に、3冊のシェイクスピアの本を出品するという。本物のフォリオ版は、その中の一つだけだという。 栞子は、本物のフォリオ版を見抜けるのか。しかし古書交換会には、彼女の母、篠川智恵子も姿を見せる。 ――― 明らかに悪役の吉原が持ちかける取引に、手に汗握り、わくわくしながら読み進められました。高額の取引になりますが、栞子さんや五浦大輔さんたちがいかに立ち向かうのかも読みどころです。 シリーズ最終刊、とても楽しく読みました。 そして、本編は本作で終わりですが、番外編やスピンオフのような形での作品の発表は構想されているようで、今後も楽しみです。・ま行の作家一覧へ
2018.01.27
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守山記生『北フランス・ベルギー中世都市研究』~近代文藝社、1995年~ 著者の守山記生先生(1940-2006)は、奈良大学名誉教授で、中世都市研究に関する論考を多く発表していらっしゃいます。(参考:「守山記生先生年譜・著作目録」『奈良史学』24、2006年、2-5頁) 先生の論文として、私の手元には、守山記生「12世紀初期のフランドルにおける政治的変動」関西中世史研究会編『西洋中世の秩序と多元性』法律文化社、1994年、155-172頁 があります。 まず、本書の構成は次のとおりです。 ―――はしがき第1部 フランスの中世都市 第1章 成立期の中世都市コミューン運動―主として北フランスの場合― 第2章 形成期フランス・コミューン都市の軍事的特質について―フランス封建王政との関係をめぐって― 補遺[I] 「神の平和」運動の展開―ランス教会地方・アミアン=コルビー間の動向を主として― 補遺[II] 〔史料紹介〕ノジャンのギベールの回想録―中世都市ランのコミューン運動― 第2部 ベルギーの中世都市 第1章 ベルギーの初期中世都市―フランドル地方を中心にして― 第2章 12世紀初期のフランドルにおける政変とエランバルド一族 第3章 12世紀初期のフランドルにおける政治的変動 <初出一覧>参考文献<図版出典>あとがき〔地名索引〕――― 本書は、以前紹介した、河原温『中世ヨーロッパの都市世界』の参考文献一覧にも掲載されている一冊です。手元にありながら、なかなか読めていなかったので、このたび読んでみました。 本書は2部構成となっていますが、その大半は第1部第1章が占めています。ここでは、カンブレー、ラン、アミアンなど、8つの個別都市の成立状況を、主にコミューン運動の関連から詳細に論じており、参考になります。 第2部では、第1章を興味深く読みました。「考古地理学」の知見を援用しながら、中世初期のベルギー諸都市の状況が描かれます。 と、興味深い点もありましたが、誤字脱字の多さや独特の言い回しの多さに、読みづらさも感じました。たとえば、リュシェールという研究者の名前が、ルュシェールとも標記されていて、統一性がありません。その他、「つぎに」とあるべきところが「づぎに」(24頁)、「求めねばならない」が「求めねがならない」(198頁)、「西ヨーロッパ各地」が「西ヨーロッ各地」(222頁)などの誤字が見られました。 言い回しについては、たとえば、「フェルメースによって、中世都市コミューンの起源と意義に関する次の研究がなされた。[中略]フェルメースは、端的にいえば、中世コミューン都市の意義に関する上記の研究で、10世紀末南フランスのアキテーヌ地方ではじめて実施され、教会、とりわけ諸司教の音頭とりで行われた「神の平和」運動の系譜を引く都市に限定された一種の誓約による平和運動と考えた」(11頁)という部分が気になりました。フェルメースの研究が中世コミューンの起源と意義に関するものだと最初に言っているので、後段でそのことを繰り返しているのでかえって読みにくいですし、フェルメースが何を「一種の誓約による平和運動」と考えたのかという目的語が省略されているのも気になりました(コミューンのことを言っているのは文脈から明らかですが)。 と、やや読み進めにくい部分もあり、十分に理解できたとは言えませんが、個別都市の状況や、有名なノジャンのギベールの史料紹介も掲載されており、勉強になりました。・西洋史関連(邦語文献)一覧へ
2018.01.20
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加納朋子『はるひのの、はる』~幻冬舎文庫、2016年~ 『さらら さや』と『てるてるあした』に続く、ささらシリーズ第三作にしてシリーズ最終刊です。 サヤさんの息子、ユウスケくんが本作の主人公です。彼には、幽霊が視えるという体質があります。 まだ小学校に入る前、はるひ野という名の河原近くの原っぱを母親と訪れていたとき、行方不明になった子どもを捜している家族に出会います。直後、はるひと名乗る不思議な女の子が現れて、ユウスケくんはお願いをされます。(はるひのの、はる) 小学校3年生の頃には、母親と一緒に肝試しに参加します。近所に住む元漫画家の男が妻に依頼されて、肝試しを盛り上げようとがんばることになります。(はるひのの、なつ) 小学校5年生のときは、幽霊のお姉さんに声をかけられ、お姉さんが一緒に暮らしていた大好きな男を殺したいという話をされます。男の人に近づこうとし、当時の状況をよく聞いてみると、意外な事実が明かされます。(はるひのの、あき) また冬には、学校で居場所を見いだせない鷹使いの少女が、未来からきたという女性と出会います。(はるひのの、ふゆ) そして、高校生になったユウスケさんは、高校で地縛霊になっているイッサとともに、一人の同級生のために奮闘します。(ふたたびはるひのの、はる 前) …が。どこか世界はずれていき…。 と、連作短編集のようで、最後に全体がきれいにつながるという構成となっています。 前2作の記事を見てみると、もう10年以上前の記事なので(このブログも本当に長くなったものです)、前2作のことはあまり覚えていませんでしたが、解説などにもあるように、本書は単体としても楽しめるつくりになっています。 加納さんの作品を読んだのは2016年に「アリスシリーズ」の感想を書いて以来ですが、やはりとてもあたたかく、面白かったです。 久々に引用をしておきます。「人はね、ほんの時々、落とし穴みたいにして悪いことをしてしまうことがあるの。(中略)魔が差すなんて言い方もするけれど……(中略)それでも、悪いことをする人が絶対に悪いんだけれども、でもその人は、そのとき色んな条件が揃いさえしなければ、一生、そんなことをせずに済んでいたかもしれないの」(40頁)・か行の作家一覧へ
2018.01.13
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S・S・ヴァン・ダイン(日暮雅通訳)『僧正殺人事件』~創元推理文庫、2010年~ (S. S. Van Dine, The Bishop Murder Case, 1929) マザー・グースの見立て殺人という、ヴァン・ダインの非常に有名な長編です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 著名な物理数学者ディラードの邸宅脇のアーチェリー練習場で、矢が刺さった一人の男の死体が発見された。男の名はコクレーン・ロビン。同じ場にいた男は、スパーリング。ドイツ語で、スズメを意味する名だった。この状況は、「だあれが殺したコック・ロビン? 「それは私」とスズメが言った―「私の弓と矢でもって コック・ロビンを殺したの」」という、マザー・グースの童謡そっくりだった。 地方検事マーカムから事件の知らせを受けた素人探偵ファイロ・ヴァンスは、この事件に非常に興味を持ち、助言役として警察の捜査に協力する。 ディラード家には、多くの数学者が出入りしていた。ディラードの弟子のアーネッソンは、毒舌が過ぎる部分があるが、調査に協力したいと申し出る。近所のドラッカーは、幼少時の事故がきっかけで、母が通常ないほどに愛情を注いでいた。また、チェスの定石を発明したパーディーは、ドラッカーと反目しあっていた。 事件の後、コック・ロビンの童謡、そして僧正bishopの署名をもつ手紙がマスコミに届けられ、世間はこの事件に大きな関心を寄せる。 そしてロビン殺害の犯人と目された人物は逮捕されるが、その後も僧正による事件は繰り返されることになる。 ――― これは面白かったです。 解説の山口雅也さんによれば、本作はいわゆる見立て殺人の先駆的な作品とのことです。横溝正史さんの『悪魔の手毬歌』など、日本でも多くの作品に影響に与えている作品ということですが、さすがに、構成も見立ての意味も推理の過程も、どれも面白く、わくわくしながら読み進めました。 現在、創元推理文庫から「S・S・ヴァン・ダイン全集」として、新訳でヴァン・ダインの著作の刊行が進められているようです。本書刊行の後は、ファイロ・ヴァンスシリーズ第一作の『ベンスン殺人事件』が刊行されているだけのようですが、今後の出版が楽しみです。・海外の作家一覧へ
2018.01.06
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G・K・チェスタトン(中村保男訳)『ブラウン神父の童心』~創元推理文庫、1982年~(Gilbert Keith Chesterton, The Innocence of Father Brown, 1911) ブラウン神父シリーズの第一作品集です。12編の短編が収録されています。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――「青い十字架」有名な怪盗を追う刑事のゆく先々で、二人組の神父が奇妙な出来事が起きていた。塩と砂糖を入れ替えたり、必要以上に勘定を払っては店のガラスを破ったり…。果たして二人の意図とは。「秘密の庭」パリ警察の主任ヴァランタンの家で催されたパーティーの中で、事件が発生した。外からは入れないはずの庭の中で、見知らぬ男が殺されていたのだった。「奇妙な足音」ブラウン神父がホテルの一室で書き物をしていると、走るために歩くような、はたまた歩くために走るような、奇妙な足音が聞こえてきた。足音の正体は。「飛ぶ星」富豪の家で寸劇が行われている中、令嬢のプレゼントとして準備されていた宝石が何者かに盗まれる。「見えない男」娘に好意を寄せていた二人の男のうち、一人がもう一人から脅迫状を受けるようになった。そして、男はついに殺されるが、衆人環視の中、犯人らしき男は決して現場に近寄らなかった。「イズレイル・ガウの誉れ」グレンガイル城に住む最後の城主が死んだ。城には、蝋燭はあるのに燭台がない、絵の一部が切り取られているなど、奇妙な状況があった。そして城主の墓を暴くと、あたまがなかった。なぜ奇妙な状況が起きたのか。「狂った形」ブラウン神父たちが訪れた男の家で、奇妙な形の剣で刺されて男が死んでいた。自殺をほのめかすメモがあったが、メモは奇妙な形に切り取られていた。「サラディン公の罪」フランボウに会いたいという男を訪ねたブラウン神父とフランボウ。男の家には無数の鏡があり、奇妙な感覚におそられる。と、男に決闘を申し込む男が現れて…。「神の鉄槌」奔放な兄と聖職につく弟がいた。兄が不倫相手の家を訪れたその朝、事件が起こる。兄が小さな金槌で、頭を粉砕されていたのだった。これほどの怪力は不倫相手の夫しかいないが、夫には完全なアリバイがあった。そもそも、他に大きな金槌がある中で、小さな金槌が選ばれたのも謎だった。「アポロの眼」太陽を直接見てあがめるという奇妙な新興宗教団体が入ったビルで、その宗教にかぶれていた女がエレベーターから落下して死んだ。教祖はその時間、ビルの屋上で祈りを捧げており、完全なアリバイがあった。「折れた剣」常に慎重な戦いを選んでいたセント・クレア将軍は、なぜ最後のブラジルとの戦いで、無謀な戦いを挑んだのか。そして、捕虜は解放するのが常であったオリヴィエ大統領は、なぜセント・クレアを生かしておかなかったのか。過去の資料から、ブラウン神父はおそろしい真実を明らかにする。「三つの兇器」無邪気で人気者の男が死んだ。男が最後にいた屋根裏部屋には、ピストルなど三種類の兇器があったにもかかわらず、なぜ犯人はそれらを凶行に使わなかったのか。――― これは面白かったです。第一話の、ブラウン神父の登場では、どうにも冴えない感じの神父が犯人を追い詰めるシーンの語り口でぐっときました。「見えない男」はあまりにも有名で、なんとなくの真相も知ってしまっていましたが、しかし語り口のうまさが抜群で、とても楽しめました。「イズレイル・ガウの誉れ」は、城のミステリアスな状況へのわくわく感と、ガウがかつてとった行動への感動などで、お気に入りの作品のひとつです。 ブラウン神父がまさに「神父」だからこそ、犯人への糾弾ではなく、改悛を求めたり、犯人の良心に委ねるシーンが多いのもまた魅力でした。フランボウ最後の悪事の際の、ブラウン神父の語りにはぐっときます。 ぜひ続きのシリーズも読みたくなりました。素敵な読書体験でした。・海外の作家一覧へ
2018.01.03
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