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金さえ有るものなら即時に直接行動が許される。而(しか)して甲から乙へ丙へと轉輾(てんてん)する。テンポの早いこと電光石火だ。貞操の虐待、恋愛の無責任。正に性の自堕落作用だ。
2025年08月31日
三河の××××君、書を寄せたる一節に、年若くして名に狂う田舎の一青年と自白す。率直詐(いつわ)らざる天真流露(てんしんりゅうろ)の言なり。この数文字を見て頗(すこぶ)る君の人格を慕わしく感ず。
2025年08月30日
馬鹿に骨惜しみする奴にはウーンと一ツ重荷を負わせて見たい。人目につかぬ地点で隠れた奉仕( いやな言葉だが )をするものにはウーンと感謝を捧げたい。敢(あえ)て横紙を裂くのでもなく、人情は妙に機微に触れたがるものだ。
2025年08月29日
強いものが弱い人間を要求するのではなくて、実は弱きが故に弱い人間を求めるのだ。強いものは決して他人の力を借りようとは考えない。独自の力でグングンと伸びて行く。弱いものは努めて強がろう見せるがために、強いものの前に出ないで常に弱いものばかり求めて其処に自ら慰めているのだ。
2025年08月28日
亡き父に対する追憶の最も懐しい一齣(ひとこま)は、抱き上げて頬ずりされた時よりも殴られて呵責(かしゃく)されて痛みに泣いた事だとある。涙の愛に浸るのは短かい時間であり、鞭の愛を味うのは長い一生を貫くものだ。
2025年08月27日
8月26日 夜、長女より、ぶどうと梨が送ってきた。大きな果物だった。
2025年08月26日
大石良雄は酒と女と享楽に自ら暗い心の憂鬱を慰めた。世間の眼を欺(あざむ)く、それも幾分はあったろう。が、大部分は後の人が附加したのだ。寤寐(ごび)に忘るることの出来ない胸一杯に溢るる弧憤それが、どうして一日、片時の慰めがなくて生き得られようか。胸然として彼は亡機三昧(ぼうきざんまい)に入った。即(すなわ)ち「無の世界」を味ったのだ。そして味気ない一日の生を刻んで行ったのだ。此間に於ける彼の心「すすり泣く魂の微笑」は女と酒を通して発散されたのだ。
2025年08月26日
人は失敗すれば切に故郷が恋しくなり、生活全く行詰れば耐えらなく奮友が慕われる。
2025年08月25日
懐かしまれつつ呪わるるものは故郷だ。親しまれつつ憎まるるものは近親だ。旅から旅へ放浪する人にして故郷を慕わぬものがあろうか。そして同時に故郷を呪わぬものがあろうか。「血」の流れ、それは禍の伏する処であり、憧れの湧く源である。
2025年08月24日
好きな人でも時とすると気まづい思いがする。嫌いな人でも動もすれば会いたい心が起る。人間の魅力というものは何処に潜んでいるものか全く解らない。
2025年08月23日
若い子の美しく着飾った艶麗(えんれい)の姿を見るとイイナアとうつとりする。相当教養ある青年の洗い晒しの浴衣着を見ると覚えず襟を正す。人に無心を云うために質素の衣を装う不逞(ふてい)の徒を見ると横鬢面(よこびんた)をハリ飛ばしたくなる。
2025年08月22日
人はピシャリと正解されたる時、顔色を赧(あか)らめて、誤解されては困ると弁明し出すものなり。
2025年08月21日
「興」えて他人の事を考えても尚、三分の割引が出る。「奪」って自分の上を裁いても尚、三分の割増が加わる。
2025年08月20日
人の顔を正視し得ない場合が二ツある。自ら良心に咎(とが)めたる時、人の内罪を解し得たる時。
2025年08月19日
言葉荒々しく叱り付けられても胸底に愛を有(たも)つ人には懐かしさがこみ上げて来る。どんなに優しく親切にされても、心の愛から流露(りゅうろ)しないものは何処となく冷たさを感ずる。「 黙って泣く人 」から魂の真実の光が掬(きく)される。「 声で泣いて見せる人 」には天真(てんしん)の子は抱かれぬ。
2025年08月18日
老人の心をして平安に慰めるものは懐かしい愛情の力に限る。その同僚、その環境から温かいアタッチメントを投げられることは晩年を最も賑かにする。
2025年08月17日
人間は妙な心理に住する動物で、コセコセとやかましく云われる借金に対しては、実際さほど痛切に債務の責も感じないが、清貧の人が自ら節約を守りつつ他の事業を助けて、しかも一言の請求もしないで沈黙されるのを見ると、鬼のような男でもジツとしていられなくなるものだ。
2025年08月16日
他人からの信書を握った刹那、此封中に何が書いてあるかが直覚(ちょっかく)されるものだ。 十の八九までは違はない。ことほど左様に人間同士は同一心理の線上に生きてるのだ。
2025年08月15日
実子のために農具を以て胸壁(きょうへき)を砕かれた老父、自ら請(こ)うて其子の手に介抱を求め、死水を飲まされて満足の笑に斃れしもの臺灣に在り。親の真情は斯くまでに尊きものかと殺獏(さつりく)以上の復讐に泣かされた。
2025年08月14日
総ての満足は満足のできざる処に得らる。山中に在りて一本よりなき巻煙草を吸う時の愉快は其(そ)れ。
2025年08月13日
他人から思わぬ侮辱を加えられた時には宿債を払ったような気持ちになる。純潔な人から尊敬を払われた時には何か知ら復讐されているようにも感ずる。壁間を漏れ入る賊風すら我を罵(ののし)る声がする。路傍の一木一石すら百雷のように叫ぶ。
2025年08月12日
人に正解即(すなわ)ち真価を知り抜かれたるの時、自ら重荷を卸(おろ)したる心地す。又の人に誤解即ち高く買被(かぶ)られたるの時、自ら天地の縮められたるを感ず。
2025年08月11日
「此人ならば」と信じたる人格者の前に跪(ひざまず)きて全部を語り尽した後の愉快さは、云い知れぬ清涼味のあるものだ。
2025年08月10日
死相が現れていると廔々(るる)云えば、その人は死し、淋しい人だ淋しい人だと同情すれば直ぐその人は泣いて淋しがる。
2025年08月09日
結婚式に列したものは心底密かに厳粛な滑稽味を感ずる。葬式に招かれたものは黙々の裡(うら)に喪主の懐を勘定する。
2025年08月08日
或る名家(めいか)と肩を並べてプラットフォームでも歩く時など、眼をそばだてて視る四周の人に対し「俺は是ほどエライ男だと自ら吹聴(ふいちょう)しているんだナ」と陰口叩かれているように感ずる。
2025年08月07日
人は自殺者に面しては「死なんでもよかったろうに」と必ず後で云うが、生前に死なねばならぬ程の苦悩を訴えても決して真実の耳を傾けるものではない。
2025年08月06日
猿の焼死を見て涙に眼をはらして泣ける園丁(えんてい)あり。而(しか)して平素生ける兎を虎の檻(おり)に投げ入れるのも亦(また)此(この)園丁なり。悲惨や即(すなわ)ち 一。而して猿も獣なり。兎も獣なり。思いきや彼も人なり。是も人なり。
2025年08月05日
8月4日 妹(長女)より野菜や夏服が送られてきた。
2025年08月04日
「あなた」と呼んだ仲が皮が一枚づつ剥(は)げて行くように何時の間にか「おまえ」と変わる。「あなた」は余所々々(よそよそ)しい他人行儀の言葉であり、「おまえ」は親しみ深い情の籠(こも)った、そして最も底力ある呼び声だ。イギリス人は夫婦の間でも「あなた」であり、子供にも「あなた」、犬にも「あなた」だ。独り日本語に「おまえ」がある。「おまえ」と呼ばれる長者を持つものは人生に最も心強い一つだというが、全くそうだと思う。
2025年08月04日
人は誰でも他人の前で「大きくなりたい心」を持っている。虚栄でもあるが亦(また)その人の向上の糧でもある。我が前に頭を垂れているものを、他の人の前で見た時には誰も別人の感がするものだ。
2025年08月03日
一望千里何の変化も風情もない砂漠の道を歩むと、イカな駿馬でもたちまち疲れて斃れる。来る日来る日が長い単調の毎日であったら、どんな人間でも疲労の暗に迷うであろう。
2025年08月02日
誰でも腹の立つ時はカーッとする。カーッとすると夫(そ)れ自体が既に脱線だ。悲劇、惨劇、滑稽劇は多く此のカーツとから勃発(ぼつぱつ)するのだ。若(も)し平和の一日を欲するならばカーツとしない工夫第一だ。同じカーツでもインテリのカーツは陰性で労働者のカーツは陽性だ。顔色の青ざめたカーツよりも日に焼けた赭顔(しゃがん)にカンカンと湯気の立つのは罪がなくて面白い。
2025年08月01日
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