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デスク周りの整理をしていると小説の教室に通っていた頃の原稿が出てきた。教室で配布された日付けは十月五日。何年前だったか。四,五年前のことか。題名は「闇坂(くらやみさか)」ああ、あれか、と思い出す。「ふびんや」という連作の何作目かで「あず」という登場人物が顧客の家へ古物を引き取りにいく話だ。そうそう、そうだった、と罠にかかったように読み始めてしまう。「シンと冷える寒さが町を包む。暮れの商店街に人通りは絶えないがどのひとも押し寄せる冷気から身を守るように背中をまるめ挨拶代わりに今日の寒さを口にする」そんな書き出し。これが物語の扉。現実の自分の日々から紡ぎだされた架空の世界がひろがる。母親がいて、娘がいる。ふたりが言葉を交わす。寄り添って生きるふたりをわたしはとても好きだったな、と思い出す。母親が持ち帰った古い雛人形。薄汚れて傷ついて、痛々しい姿。その持ち主の切ない物語が続く。読みながら、まあ、とか言ってしまう自分に苦笑する。これ書いたの、わたしなのに。こんなの今の自分にはかけないな。よく書いたもんだわ、と。原稿から目を離せば、扉が閉じる。ここにいて「断 捨 離」を唱えていらないものを捨てようとしている自分。文袋を作り始めてその材料やら在庫やらで部屋は次第に手狭になりなんとかしようとしている最中なのだ。原稿は、作文を書く自分のもの。文袋屋のものではない。邪魔なの?原稿のなかの母娘にそう訊かれてるような気がしてくる。なんと答えればいいのか。ふたりの連作は、宙ぶらりんのままだ。その続きを書かねば、と思いながら時間ばかりが過ぎた。自分はここにいながらここではない世界への扉をあけてここにはいないひとをおいかけてここではない世界のひかりやにおいやことばやおもいやであいやわかれを言葉を使って紡ぎだすこと。ここにいて自分の手の中で手触りや輪郭をたしかめながら誰かのために形あるものに仕上げていくこと。そことここの間の扉がだんだん重くなってきているようなそんな気がしているのよ、と答えたら、あの母娘はまた悲しそうな顔になるだろうか。
2011.01.30
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退屈しのぎに昔の自分が書いたのを、読み直していやん、おもしろいやん!と思ったりするお正月。2007年03月13日 ぐるぐるまわり 朝、ある柑橘系果物を剥いていた。 それはグレープフルーツに似た新種で 名前はたしか・・・メルロ・・・ ああ、そのさきが思い出せない。 そこまでで記憶が途切れている。 まあ、メルロなんとかで そのあとがなんであろうとも 食べているこの果物は変わらないのだけれど それにしても日々の物忘れ全開状態に 危機感を持つおばさんは しぶとくメルロなんだったか思い出そうとした。 片づけをし、食器をしまい 洗濯ものを干しながら メルロメルロメルロと唱えていると メルロポンティということばが浮かんできた。 ああ、メルロポンティであったか と一瞬思ったのだが なんだか違和感がある。 それは果物の名ではなさそうだと思い至る。 ではメルロポンティとはなんぞ? こんどはそっちが気になってきた。 メルロポンティメルロポンティメルロポンティ 掃除機をかけながら、また繰り返し唱えてみる。 わからんが、ひとの名前のようでもある。 が、特定できない。 メリル・ストリーブなら知ってる。 マディソン郡の橋のひとだ。 ああ、それもえらく古びたものに聞こえるなあ。 それにしてもなんで 相手がクリント・イーストウッドだったんだろうなあ。 なんか違う感じがするなあ・・・。 いやいやハリウッドのひとではなさそうだ。 メルロポンティメルロポンティメルロ・・・ ・・・メロスは激怒した。 「それだから、走るのだ。 信じられているから走るのだ。 間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。 人の命も問題でないのだ。 私は、なんだか、 もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ」 いや、メルロポンティは走らんな。 メルロポンティメルロポンティメルロポンティ・・・ プレタポルテはフランス語の既製服で モンテカルロはモナコで モンティパイソンは・・・可笑しかった。 メルロポンティメルロポンティメルロポンティ・・・ クイックルワイパーで床を拭いてるときに ふっと思い出した。 この名前、「千夜千冊」で見たような気もする。 そう気づいてみるとなんだか気落ちしてしまう。 ああ、このひとはきっと賢いひとだ。 賢くてその筋ではえらく有名で、 世の中の賢いひとはみんなメルロポンティさんを知っていて そして、きっとわたしには皆目わからんひとだろう。 ああ、短いお付き合いでしたねえ。 メルロポンティさん。 さようなら、ごきげんよう。 で、あの果物は・・・ メルロなんだろう。
2011.01.01
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