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藤原歌劇団「ラ・トラヴィアータ(椿姫)」。ずっと新年恒例だった演目が復活。ちなみに藤原では原語の「ラ・トラヴィアータ」を随分前から使用しています。 以前は、デヴィーア、メイ、ボンファデッリ、ゲオルギューなど世界のプリマを呼んできていましたが、今回は3回公演すべて藤原歌劇団の歌手が主演。藤原の顔見世興行的な舞台となりました。初日と3日目を鑑賞。初日はスター、ベテランが揃い、3日目はやや若手〜中堅どころの歌い手。といっても3日目の歌手も、ファンのあいだではよく知られている顔ぶれです。 総合的には、3日目のほうが全体のバランスがよく、いい公演になりました。何より歌手が3人、スタイルの上で揃っていた。 ヴィオレッタ役光岡暁恵さん。ベルカントの名手として知られます。高い技術、美しく澄んだ、しなやかで可憐な声。「ルチア」「カプレーティとモンテッキ」などの名唱が印象に残っています。今日も、ベルカントの流れを汲んだ、ドニゼッティの延長線上にあるヴィオレッタ、と、第一幕では思ったのですが(それはそれでもちろんいいのです)、そして第1幕も上々でしたが(とくに最後のアリアで高音Esにあげてくれたのは嬉しかった。やっぱりあれが聴きたいんですよ、客席にいる身としては。めったに聴けないですからね。ゲオルギューもネトレプコも出していない。メイとかデセイは出しますが)、圧巻は第2幕以降。ベルカントらしい様式美を保ちつつ、そのなかでの細やかな情感の表現が素晴らしかった。デヴィーアのヴィオレッタを思い出しました。(光岡さんのほうが、よりピュアで美しい声ですが)。第2幕のジェルモン(上江隼人さん)との二重唱は、ソプラノの明度の高いながら細やかな感情をちりばめた声と、巧妙に説得を繰り広げるバリトンの、緩急に富んだ声の対比が実に見事で、「声」に集中したくて舞台から目をそらし、天井を見ていました。(失礼!)舞台を見ないなんて歌手の方に失礼、なのはよくわかるのですが、「声」に集中したい、「声」の美しさそして演技に集中したい時は、目をつぶったり視線をそらしたりしてしまうのです。。。。ごめんなさい。でもそれをしたくなる、ということは、それだけ、演技力も含めて「声」が見事だったということで、お許しいただければと思います。光岡さん、レガートも実に美しく、この点も第二幕の二重唱での絶望の歌は圧巻でした。よく通るピアニッシモの見事さも特筆すべきでしょう。 アルフレードの中井亮一さんも、ロッシーニをはじめベルカントオペラが得意な歌手。甘く、柔らかく、テノールらしい若々しい美声、高い技術、そしてイタリア語の明瞭さ〜これは強い〜は随一です。光岡さんとスタイルが揃っていて、第1幕は「ルチア」を聴いているような気分になったりしましたが、それも「ドニゼッティの延長線上にあるヴェルディ」と捉えれば違和感はありません。第3幕のヴィオレッタとの二重唱は、「若者たちの絶望的な恋」の、最後の甘い輝きとして大変印象に残りました。今回の主役の2人のような軽めの声で歌われる「トラヴィアータ」は、若々しさが伝わり、若者たちの恋、という面が際立ちます。実際、モデルになった娼婦や作家は20代だったのですから、そういう意味ではこういう声のほうがいいのではないかと思うのです。 バリトンの上江さん、イタリアでも活躍しているスタイリッシュな声は健在。中声域が充実してきたのは、最近ヴェリズモにも取り組んでいるせいでしょうか。嫌味のない頑固オヤジ、つまらないケレン味がないところが好感が持てますし、他の2人とのスタイルとの共通点も多く、よいバランスでした。そう、主役たちのバランスがいいと安心して聴ける、それがわかったのも収穫でした。 対して初日組は、ヴィオレッタ役砂川さんがほぼひとりで支えていた舞台。日本を代表するスター・ソプラノ、声にも容姿にも華のある歌い手で、表現力もあり、客席を引き込む力がすごい。ヴィオレッタ役は何年か前にびわ湖ホールで聴かせていただきましたが、その頃とはちょっと声が変わってきていて(プッチーニなどが増えてきたからでしょうか)、より劇的な表現に比重が置かれていました。それはそれでいいのですが、高度なベルカントのテクニックもある方なので、もうしばらくベルカントの分野でも歌い続けていただきたいなと。「ドン・パスクワーレ」や「カプレーティとモンテッキ」なども素晴らしかったので。今回、第1幕のアリアがやや力で押した感があってちょっとひやりとしました。実はこの幕で、演出家からの要請で、身体的に無理を強いられた面があったらしいので、それがなければまた違ったかもしれません。 問題は男声陣です。アルフレードの西村悟さんは、声自体は魅力があり、上背もあってヴィジュアルもよく、スター性はあるのですが技術的に「歌えていない」場面が散見され、ジェルモンの牧野正人さんは、堂々とした「声」で圧倒はしましたが、安定度という点ではちょっと。というわけで、すべての負担が砂川さんにかかってきた感あり。そのなかで大役を高いレベルで歌い切る、というのは、まさに「プリマドンナ」とはこういうもの、と見せつけられた思いでした。 佐藤正浩マエストロ指揮の東フィルは、歌手に寄り添う、職人的といいたくなる音楽作り。弦の歌がたっぷりと美しいのは、この作品をはじめイタリア・オペラを数多く演奏してきた東フィルの力でもあるでしょう。 粟國淳さんの演出は、絵画と鏡を大道具に退廃的な雰囲気を出し、衣装(アレッサンドロ・チャンマルーギ)は1840年代の再現。限られた予算で、観客がこの作品に求める豪華さを出していました。第2幕第2場のフローラの館のシーンは、絵画がすべてヌードになり、娼婦の館らしさを演出。一方で細かい演技は歌手に任せられていたようで、ヴィオレッタの絶命シーンの演技も、砂川さんと光岡さんでは全然違っていました。 ベルカントは世界的に人材豊富ですが、日本でもそうなるかどうか、希望とともに考えさせられた舞台でもありました。
January 28, 2019
今日は、指揮者の園田隆一郎さんの講演会のお知らせです。 私が所属している「日本ヴェルディ協会」では、は昨年より、新春講演会として、ヴェルディの名曲を専門家に語っていただくシリーズを始めました(第1回は河野典子さんの《ラ・トラヴィアータ》でした)。 今年は指揮者の園田隆一郎さんをお迎えし、《ナブッコ》を中心にヴェルディ・オペラの魅力を語っていただくことになりました。 園田さんはイタリア・オペラを中心に、日本のオペラ界のこれからを担う指揮者として大変注目されているマエストロです。2006年に、シエナのキジアーナ音楽祭で《トスカ》を指揮してオペラデビュー、同年、ペーザロのロッシーニ音楽祭で《ランスへの旅》を指揮。また同じ年に、藤原歌劇団の《ラ・ボエーム》を指揮して日本デビューを果たしました。以後のご活躍はめざましく、トリエステ歌劇場、ベッリーニ大劇場、フランダース・オペラなどに出演。国内では、昨年のロッシーニ・イヤーの話題公演《ラ・チェネレントラ》(東京、大阪)、《ラ・トラヴィアータ》(藤沢市民オペラ)などのオペラ公演をはじめ、東京フィル、読売日本交響楽団などオーケストラの演奏会にも定期的に出演しています。現在は藤原市民オペラの芸術監督でもあり、ロッシーニ《セミラーミデ》の日本初演は大きな話題を呼びました。また2017年に三河市民オペラで指揮した《イル・トロヴァトーレ》は絶賛され、三菱UFJ信託音楽賞を受賞しています。この公演には私もかけつけましたが、それは素晴らしいものでした。 今回の講演では、園田氏お得意(プロフェッショナルなんです!)のピアノ演奏を交えながら、氏がこれから指揮する予定の《ナブッコ》を中心に、ヴェルディ・オペラの魅力を語っていただきます。氏が指揮した公演の映像もご紹介いただけるとのこと、三河の《イル・トロヴァトーレ》もご紹介いただけるかもしれません!お楽しみに! 新春にふさわしい豪華講演会です。ぜひお運びください。 詳細、お申し込みはこちらから。 日本ヴェルディ協会
January 25, 2019
今日の午前中は、来月新国で世界初演を迎えるオペラ「紫苑物語」のキックオフ会に。作曲、台本、指揮、演出、監修者が勢ぞろいしてコンセプトを説明するのに立ち会い、その後ちょっとだけ音楽稽古を見せていただきました。 「紫苑物語」の原作は、石川淳の短編。私もオペラ化が決まって初めて読んだのですが、(前も書きましたが)なんとオペラ効果で絶版寸前だったのが増刷が決まったそうです。 まず全体のプロデューサーでもある指揮の大野和士さんが、物語のテーマや音楽のコンセプトを解説。中世日本の物語ですが、テーマはずばり「芸術家の生涯」。主人公の宗頼は、歌人の家に生まれ、才能がありながら父と仲違いし、「弓」の道=殺しの道に走るのですが、それはつまり「自分とは何者か」と追い求めている。自我、妄執の世界。その自分探しの過程で自分によく似た仏師の平太と出会い、彼が刻んだ石仏を射る。その瞬間、現実が崩落し、宗頼も飲み込まれて命を落とすが、あとに「鬼の歌」と呼ばれる風のような歌が残る。それが宗頼が残した「作品」。自分を捨ててはじめて才能が花開く、という結末。とてもオペラにふさわしい内容、とのことでした。 音楽的には、「日本のオペラはどうしても一人語りが多くなってしまうので、オペラの醍醐味である重唱を入れたい」とのことで、二重唱、三重唱、四重唱などが散りばめられた、オペラティックな作品になっているとのことでした。その点で「革命的作品」だそう(大野さん)。(音楽稽古では四重唱をちらりと聴かせていただきました) 作曲の西村朗さん。台本の初稿ができたのが2017年の9月。それから14ヶ月、1日9時間作曲に集中した(すごいですね。でも作品を創るってそういうことですよね)。今時のオペラにはめずらしい「ライトモティフ」も入れたが、これは人物が個性的なので、ライトモティフが立ち上がってくる側面があった。19世紀的な手法で自分ではやらないと思っていたのだが。。。自分の作品の総決算、とのことでした。ジョークを交えながら、西村節。 台本を書かれた詩人の佐々木幹郎さん。作品について、石川淳について、たいへん面白いお話。「石川淳は巨人で、日本中世文学とかフランス文学がもう体に入っていた」「「紫苑物語」は短い作品だが、石川の、人間への思いや、人を殺すということに対する思い、戦前戦中への思いがもり込まれている」「「紫苑」の物語の背景は後醍醐天皇の時代。人間と獣が同じレベルで生きている時代。今は見えない生き物がいる世界」「主人公は歌の世界に反逆して弓矢の世界に入った。人を殺すということがどういうことかわかり、どんどん殺すようになった。けれどその先にある自分の姿、山の向こうにある自分の姿が見たくなり、平太に出会う。平太は仏=人間の手が届かない=ものを創るのが仕事。宗頼はそれを見に行き、弓で射たらそれが崩落し、「歌」が残った」。「殺すことと作ることは表裏一体。芸術家とは何か、人を殺すとはなにか。これを分解してオペラにするのは至難の技だが、自分にとっては楽しい作業だった」 監修の長木誠司さん。構想は6、7年前から。原作をオペラの論理にするため、たとえば原作では醜女のうつろ姫を美貌にした。結果として19世紀的作品になったが、それはオペラが一番面白かった時代でもある。石川淳の原作がオペラになるのは初めてで(たとえば三島はたくさんある)その点でも画期的。新国は、こういう創作オペラを20年前にやるべきだった。 演出の笈田ヨシさん。なんと85歳!矍鑠です。「日本人にあう現代の音楽劇を創るべき。歌手の方は、これまでのオペラの伝統を忘れてどこかにいく努力をしてほしい。この作品には若者がどうやって暴力にいくかが描かれている。暴力と創作の行き来がテーマになっている」 おひとりおひとりの解釈、意気込み、それが一体となって新しい総合芸術が生まれつつある、ということがよくわかりました。「紫苑物語」初日は来月17日です。詳細は以下から。 紫苑物語
January 20, 2019
今月楽しみにしていたオペラ公演は、大阪のいずみホールのモンテヴェルディ「ポッペアの戴冠」。 期待に違わず充実した公演で、これが1回きりなんてもったいない!とつくづく思わされた公演でした。 今回の公演は、2018年度から始まったいずみホールのシリーズ「古楽最前線」の一環です。昨年2月に急逝されたホールプロデューサー、礒山雅先生が立ち上げたプロジェクトで、先生の遺志をついで、ホールのスタッフが続けています。初年度のハイライトがこのモンテヴェルディのオペラ「ポッペアの戴冠」でした。(モンテヴェルディは昨秋、礒山先生が「音楽史上の最大傑作」!だとおっしゃる「聖母マリアの夕べの祈り」の上演もあったのですが、それは日程が合わず)。 「ポッペアの戴冠」は、モンテヴェルディの現存する3つのオペラのなかで、もっとも上演が難しいとされている作品。何しろ楽譜がまともに?残っていないのです。オケ部分などほとんどないに等しいから、公演ごとに創り上げなければならない。逆にいえばそれだからこそ、一期一会的な演奏に出会える作品でもあります。 今回はセミステージ形式。天井が高く、シャンデリアが美しく、壮麗な家具のように豪華なオルガンが特徴的なホールの空間を存分に活用して、立体的な(オルガンの前や、そこに至る階段を舞台の一部として使用)プロダクションになっていました(演出は高岸未朝さん)。ステージの中央にごく小編成のオーケストラを置き、それでも前後左右に余裕があるから、かんたんな大道具も置ける。いずみホールの規模にはバロック・オペラはちょうどいい。それも確認できた公演でした。 すべて日本人(これは礒山先生の意図)のキャストも、レベル高し。ポッペア役の阿部雅子さんは、礒山先生のお弟子さんでモンテヴェルディの研究家でもある方。フレッシュでいきいきした声は生気にあふれ、小悪魔ポッペアをさわやかに演出。ネローネはテノールの望月哲也さん、堂々とした声を生かして好演。性格描写も秀逸(以前望月さんが歌った「皇帝ティトの慈悲」の、ちょっといっちゃってる皇帝役を思い出しました)。オットーネはウィーンなどでも活躍中の国際的カウンターテノール、藤木大地さん。生でオペラを聴くのは初めでしたが、素晴らしい。まろやかに響くむらのない声、カウンターテノールらしい中性的な、不思議な甘さがあり、引き込まれます。 ポッペアに勝るとも劣らないプリマドンナ的な役柄、悲劇の皇妃オッターヴィア役はベテランの加納悦子さん。ギリシャ悲劇の王妃のような真に迫った熱演で客席を巻き込みました(アムネリスみたいな狂乱!)。セネカ役斎木健司さんは、威厳のある声と音量でこれも圧倒。アルナルタ役岩森美里さんの怪演も客席を飲みました。他にも向野由美子さんとか小堀勇介さんとか櫻田亮さんとか鈴木美登里さんとかそうそうたるメンバーがならぶ贅沢さで、日本人歌手、この方面の人材が豊富だとつくづく思わされました。せっかく歌を身につけた歌手の方たちのためにも、こういう公演は首都圏などでもう一度、二度やってほしかった。 指揮とチェンバロは大ベテランの渡邊順生さん。礒山先生とはむかーしいずみホールでモンテヴェルディをご一緒になさったそう。モンテヴェルディが多彩で個性的な音楽で描き出す人間模様を、少数精鋭のオーケストラで変幻自在に表現していました。2回の休憩をはさんで合計4時間の長丁場もあっという間の、モンテヴェルディ・ワールドでした。 東京からの遠征組も大勢。ジャーナリスト、関係者から音楽ファンまで。注目公演の面目躍如でした。 終演後はホワイエで行われた打ち上げに潜入。渡邊先生とも何十年ぶりにお話できましたし、小堀さんや望月さんや藤木さんや阿部さん、そしてオルガンの渡邊孝(以前ライプツィヒで聴かせていただきました)さんなど、いろんな方とお話できてとっても楽しかった。渡邊先生のスピーチで、「歌手の方っていうのはすごいんですね。リハーサルのときと本番とまるでちがう(=飛躍しちゃう、というような意味らしい)。器楽奏者はこうはいかない」とおっしゃったのが、なるほど、そういうものなのか、ととても興味深かった。「歌」ってたしかにそういうところがあるのかもしれません。 「礒山先生、きっと会場のどこかでご覧になってましたね」とみなさんで笑いながら言い交わしていた終演後。先生の遺志を大切に、いずみホールのシリーズ「古楽最前線」はまだまだ続きます。
January 20, 2019
今月、とても楽しみにしてワクワク待っていたこと。 それは、新国立劇場の秋からの新しいシーズンラインナップ発表です。 今日、待望のラインナップが、報道関係者に発表されました(31日には一般を対象にした発表もあります)。 一見し、「これは新国立劇場始まって以来、もっともバランスがとれたラインナップだ」と思いました。 すべてが揃っているのです。 ヴェルディ、ワーグナー、プッチーニ、モーツァルト、リヒャルト・シュトラウス、ロッシーニという「オペラ六天王」が1作ずつ。そして、これまで新国立劇場に欠けていたロシアもの、待望初登場のバロック・オペラ!に、新国に絶対的に不足しているベルカントオペラ。フランスものも怠りなく。ほんとうに、オペラハウスに必須!のレパートリーが網羅されている。とくに国立のオペラハウスが1箇所しかない日本ですから、こういう視点は絶対的に必要なのです。あえていえば日本人の新作や同時代ものがありませんが、日本人の創作オペラは「1年おき」という方針が以前から発表されており、今年はその第一弾として「紫苑物語」が2月にあるわけなので、やはりこの点でも条件は満たしています。 演目は以下のとおりです。 チャイコフスキー「エフゲニー・オネーギン」(オープニング、新制作) ドニゼッティ「ドン・パスクワーレ」新制作 ヴェルディ「椿姫」 プッチーニ「ラ・ボエーム」 ロッシーニ「セビリアの理髪師」 モーツァルト「コジ・ファン・トウッテ」 ヘンデル「ジューリオ・チェーザレ」新制作 オッフェンバック「ホフマン物語」 リヒャルト・シュトラウス「サロメ」 ワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」新制作 再演ものは「このあいだやったものばかり」と思われる方もいるかもしれません。けれど、新国立劇場は自分で持っているプロダクション自身がすごーく少ないのです。どうしても限られてしまう。そして新制作は1シーズン4作と決まっています。それを考えると、順当なラインナップではないでしょうか。 以下、各演目について、個人的に期待している点などをアットランダムに書いていきます。新制作の演出家は(たぶん)適材適所。指揮者は全体的にレベルは高そうで、世界で活躍している中堅どころが多い印象です。 まずは新制作4演目から。「エフゲニー・オネーギン」。待望のロシアもの。「オネーギン」は五十嵐監督時代に一度だけ上演され、それきりです。ロシア・オペラは後にも先にも?これまでそれだけでしたので、覚えている方も少ないでしょう。今回、ロシアもの復活にあたって再び「オネーギン」ではありますが、認知度、人気度からいえば順当なのかもしれません(個人的には「ボリス」が聴きたいですが、まあ「オネーギン」のほうが受けそうです)。 ロシア・オペラはさっぱり詳しくないので、キャストを見ても何のコメントもできずお恥ずかしいのですが、指揮のユルケヴィチはは評判を聞いたことがあります。ポーランド国立歌劇場音楽監督。演出のベルトマンは、モスクワの「ヘリコン・オペラ」の創設者だそうで、自らのカンパニーを国際的な名声がうたわれるところまで高めたそう。「オネーギンホール」と呼ばれるモスクワの美しいホールの4本の柱がモチーフだそうで、美しい舞台になるようです。 「ドン・パスクワーレ」。ドニゼッティ晩年の傑作オペラ・ブッファ。とかくベルカントにうとい新国、ドニゼッティといえば「愛妙」ばかりで最近ようやく「ルチア」、のところに待望の演目です。そしてキャストが凄い!イタリアの名バス、スカンディウッツィのタイトルロールに、現代を代表するベルカント・バロック歌手のひとりで、グラインドボーンで大ブレイクし、いまやグラインドボーン支配人夫人でもあるダニエレ・ド・ニースのノリーナ。そしてエルネストには魅惑のベルカントテノール、マキシム・ミロノフ。いやこれはウィーン級の贅沢さ。そしてそして、指揮者にも注目。イタリア人指揮者コンラート・ロヴァーリスは、鍵盤楽器の名手でもあるバロック〜ベルカントの名手。以前トリエステで、バルチェッローナとスラクーザが出た「セビリヤ」を弾き振りしてとても素晴らしかった。これは楽しみです。今回、キャストで一番楽しみなのはこれですね。演出はイタリア人ヴィツィオーリ、スカラ座発のおしゃれなプロダクションです。 「ジューリオ・チェーザレ」。満を持して、のバロック・オペラ、ヘンデルの大作の登場です。新国でのバロックオペラは、中劇場での「ポッペアの戴冠」があっただけ。もちろんオペラパレスでは初めて。なにより、パリ・オペラ座のロラン・ペリ!のおしゃれなプロダクション(デセイ主演で映像あり)を持ってくるという。なんという贅沢。そしてクレオパトラ役にミア・パーション!トロメーオには藤木大地など、旬のキャスティング。そして指揮はバロックの大家アレッサンドリーニです。総合的な贅沢さではこれも突出しているかもしれません。 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」。これは昨年から発表されていました。オリンピックにちなんだ「オペラ夏の祭典」のプロダクションです。大野マエストロ自ら指揮をとり、ヘルツォークの演出によるプロダクションは、ザルツブルク・イースターおよびザクセン州立歌劇場との共同制作。すごいことです。こういう海外との共同制作(レンタルではなく)も待たれていたことですから。歌手陣はマイヤー、エレート、林正子など。ちょうどバイロイトが始まる時期なので、他の2箇所のキャストとは入れ替えがあるようでした。 いずれ劣らぬワクワクのプロダクション。「ロシア、ベルカント、バロック」が欠けている、という大野さんの視点がさすが(というか、これまでが偏りすぎていたかも)です。 再演ものの注目点を。 「椿姫」、主役のパパタナシュは先日偶然パルマで聴けました。上背と華のある大型ソプラノという印象。ジェルモンは須藤慎吾さんで、これは「オーディションで勝ち取った」(大野さん)とのこと。素晴らしいです。アルフレード役のアヨン・リヴァスはフローレスの母国ペルーの出身。指揮のレプシッチはハノーヴァー州立オペラの音楽監督。 「ラ・ボエーム」。なんとニーノ・マチャイゼがミミで登場。華があるひとですから楽しみです。ムゼッタ役の辻井亜季穂さんはヴュルツブルク歌劇場専属歌手として活躍中の期待の新星。指揮カリニャーニ。 「セビリア」。これも「ドンパス」なみに、いやひょっとしたらそれ以上にキャストが凄い。ロジーナに脇園さん、バルトロに、ベルカント・バスとして大活躍中のボルドーニャ。フィガロには、この役で世界を席巻しているフランス人バリトン、センペイ。バジリオにマルコ・スポッティ。伯爵のバルベラは知らないひとですが、かなり活躍している様子。やっぱりベルカントは人材豊富!!!!指揮は日本によくきているアッレマンディ。 「コジ」。フィオルディリージ役のエレオノーラ・ブラットが大いに楽しみ。旬のプリマのひとりです。ドン・アルフォンソ役アルベルギーニにも期待。デスピーナに高橋薫子さん。指揮オルミ。 「ホフマン」。タイトルロールにステファン・ポップ。どこかで聞いた名前と思ったら、2年前デヴィーアの「ノルマ」でポッリオーネを歌っていたひとでした。良い声のテノール。悪役4役は先日パーヴォ指揮N響の「ドン・ジョヴァンニ」でレポレッロを歌っていたケテルセン。女声3人は日本勢。アントニアに木下美穂子さん。ジュリエッタに横山恵子さん、オランピアに安井陽子さん。 「サロメ」。指揮に安定のトリンクス。タイトルロールはアレックス・ペンダというブルガリアのソプラノ。ヘロディアスに大ベテランのジェニファー・ラーモア。ヨハナーンにワーグナー歌いのトマス・トマソン。 全体に歌手は初登場組が多く、それは大変いいことだと感じます。 欲を言えば、指揮者陣に、注目の若手、的なひとが欲しかった。スター性のある。大野さんの後任でリヨンにいったルスティオーニあたりとか(忙しいでしょうが)。「椿姫」なんか、ルスティオーニと、この間彼とオランジュで共演していたエルモネラ・ヤホあたりでやってくれれば最高ですが。。。。ギャラのこともあるだろうし、また安定感のあるひとを優先したのかもしれませんが、ちょっと地味です。 詳しいラインナップはこちらから。新国立劇場
January 17, 2019
年明け1月にとても楽しみにしていたコンサートのひとつが、今日終わりました。ロレンツォ・ヴィオッティ指揮するヴェルディ「レクイエム」(オケは東響)。 はたして、期待以上。超名演に出会えた喜びを噛み締めています。 ヴェルレクはまあいろいろ名演に出会ってきたとおもっていましたが、今日のはちょっと次元が違いました。聴きながらなんども鳥肌。開始のピアニッシモから涙。なんども涙。最後の「リベラ・メ」では涙が湧き上がり、終演後、涙声でブラヴォーを叫んでいました。こんな体験は初めてです。 ヴェルディの音楽が誘う涙は特別です。それはプッチーニのように、「さあ泣いてください」ともっていくベタな涙じゃないんです。ヴェルディは潔いから、そういう女々しい(失礼!)涙は流させない。あの音もこの音も涙を誘うくらい美しい、でもそれはその瞬間だけ。瞬間の美学の連なり。そこが好きなのです。ぼろぼろ流れないけど、ずっとまぶたのふちにとどまり続ける涙。これぞ、ただしきヴェルディの涙。それを思い切り味あわせてくれた90分でした。 とはいえ、今回のヴェルディ「レクイエム」で発見した最大のことは、これは宗教音楽なのだ、と痛感したことです(当たり前なんですけどね)。でもヴェルレクって、すぐ「オペラ的」と形容されてしまう。でもそれは間違い。ヴェルディはテクストに実に忠実に作曲しているのだ、と、いやというほど思いました。ヴェルディの神への敬虔さ。ヴィオッティの、作品への、ヴェルディへの敬虔さ。それが重なり合って、奇跡的な名演が生まれたと感じます。きくところによると、ヴェルレクはヴィオッティにとって、19歳のときにムーティの指揮で歌ったりもした、とても思い入れのある作品なのだそう。それをきいてさらに納得したのでした。 音楽的には、まず、ヴィオッティの特徴として、とても明晰で格調が高い。どのパートもくっきり。それぞれが十全にあぶりだされ、くっきりしているのに調和している。デュナーミクの幅はとても広いですが(初日のサントリーでは大太鼓が割れたとか)、それも煽り立てるわけじゃない。何より、みなさん口を揃えていう通り、ピアニッシモがとにかくすごいので、音のないところまでいつも立体的で、音楽で満ちている。すみずみまで磨き尽くされ、丁寧なんです。完璧主義。そこが品格があると感じるひとつの理由でしょうか。リハーサルも徹底しているときいて、これも納得したのでした。28歳の指揮者がそこまで完璧主義を通すのって、今時、なかなかまれなのではないでしょうか。合唱も彼の世界に完全に一体化し、しめやかな鎮魂から地獄の風景まで、テキストをあざやかに体現していました。 ソリストは日本人のトップクラスが勢ぞろい。三河での「イル・トロヴァトーレ」のレオノーラの名演以来、ヴェルディ・ソプラノとして注目している森谷さん、やはりすばらしい歌唱。やや華奢ながら華があり、すらりと立ちあがり、自然に美しく上り詰めてゆく声。柔軟性に富み、内部から照らされるように明るく、光を発している声。ブレスコントロールの素晴らしさ。技術力は抜群です。時折、音楽を受け止めるように両手を広げるのが感動的でした。 メゾの清水華澄さんも、情感ゆたかな美声をうまくコントロールし、ピアニッシモも美しく歌っていました。森谷さんと清水さんの二重唱では時々「時よ止まれ」と呟きたくなる美しい瞬間が立ち現れていました。 テノールの福井敬さんも堂々と美声を披露し、バスのジョン・ハオさんもピンチヒッターにもかかわらず大健闘。充実の独唱陣でした。 こういう演奏を聴くと、モーツアルトもプッチーニもワーグナーもロッシーニも「おとといおいで」と思ってしまう。私はつくづくヴェルディアンです。 実は木曜日の夜から風邪をひき、金曜日は完全ダウン、昨日も家からは出られず、いろいろ予定をキャンセルしたのですが、これだけはどうしても!這ってでも!と思っていたので、なんとかかけつけました。行って正解。行かなければ一生後悔したことでしょう。 楽屋でマエストロにご挨拶。森谷さんとも遭遇。森谷さん「ヴェルディが歌いたい!」そうです。私も森谷さんのヴェルディが聴きたい!主催者のみなさま、どうぞよろしくお願いします!!!!
January 13, 2019
あけましておめでとうございます。 本年もどうぞよろしくお願いいたします。 さっそくですが、新年初講座のおしらせです。 今月開講するのは、朝日カルチャーセンター新宿での2本。 「モーツァルトとフランス革命」(3回) および「クルレンツィス」(1回)です。 「モーツァルトとフランス革命」は、モーツァルトの「三大オペラ」を材料に、当時進行中だったフランス革命が、いかに作品に反映されているかを読み解きます。雇い主の貴族にたいする従僕や小間使いの反乱を描く「フィガロの結婚」、大貴族の没落を描く「ドン・ジョヴァンニ」、そしてフランス革命後の市民社会を予告する「魔笛」。3作はわずか5年間の間に書かれていますが、そこに描かれた社会変動はあまりにも鮮やかです。18世紀末がどれほど激動の時代だったかを教えてくれる貴重な例と言えましょう。 詳細は以下でご覧ください。 モーツァルトとフランス革命 「クルレンツィス」は、この2月にいよいよ初来日を果たす指揮者、テオドール・クルレンツィスの魅力を紹介する講座です。今ヨーロッパでもっとも熱い視線を浴びるクルレンツィス、いったいどこがそれほど革新的なのか?音や映像を交えながらたっぷりご紹介します。 詳細は以下から。 クルレンツィス 講座終了後は有志でお茶会も予定しています。ぜひお運びください。
January 6, 2019
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