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10分・・15分・・・20分,まだ出て来ない・・・。トイレ内で倒れてはいないか心配になって,何度となく声をかけていたが,返事が返って来ていたのでひたすら待つしかなかった。でも,バスには乗せられない・・・と判断し私は,乗務員(ドライバー,ガイド)に,バスを駐車場へ移動してもらってかまわないと,伝えた。 「ここから歩くのは大変だよ。待っていもいいですよ!」と,ドライバーは心配顔だったが,私は,バスの中を汚してしまうとみんなに気付かれてしまうと,○×さんを気遣っての決断だったが,駐車場までの移動手段を考えていた訳でもなかった。私がバスを見送ってから間もなく,○×さんはもの凄い臭いをまとったまま,トイレから出て来たのだった。何かを察したのか,管理事務所の人が心配して私たちを駐車場まで送ってくれると申し出てくれた。 「添乗員さん,駐車場まで送りますよ。」 「いえ・・・,でも・・・車を汚してしまうので,・・・ ・・・結構です。」 「大丈夫ですよ。きれいな車じゃないですから・・・。」 「いや・・・でも・・・,ダメです!」 「・・?上の駐車場まで,けっこうありますよ。送りますよ。」 「実は・・・,粗相をしてしまったので・・・無理です。」 「・・・?」 「タクシーを呼んで下さい・・・。」それが正しい選択だと思った訳でもなく,とっさに出てしまった言葉だったが,乗車拒否をされるかも知れない・・・と,すぐに後悔した。 「添乗員さん,大丈夫ですから,どうぞ乗って下さい!!」管理事務所のその若い青年は,粗相の意味がわからないのか,半ば強引ではあるが明るく対応してくれている。そして私が返事を迷っている内に,その車は私の前に横付けされた。もう,迷っていられない・・・,誰に頼るべきか?と,考えるとやはり関係機関に協力を得るしかない・・・,と諦めた。 「それじゃぁスイマセン,古新聞を少しもらませんか?」 「新聞紙ですか・・・?」 「はいッ!」やはり青年は粗相の意味がまったくわかっていないようだ。不思議そうな目で一瞬私を見た。私は,新聞紙を座席の背もたれから足下まで敷き詰めて,全部の窓を全開にした。私たちを乗せた車が走り出した。そして間もなく全員が無口になった。 つづく
2010/10/19
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私は迷いなく,男子トイレの中に入り奥にある個室のドアを開け,○×さんを中へ入れてドアを閉めた。「どうしよう・・・。」(心の声)取りあえず,男子トイレから出てきたものの,固まってしまった。いやまて,やばっ,と私は気付き,バスの方へ急いで戻った。そして○×さんが座っていた座席周りをチェックした。さすがに血相を変えていた私に気付いたのだろう,カマキリが追いかけて来て言うのだった。 「間に合わなかったのか? またやっちゃったか?!」私は無言で,座席の下へ潜り込んでいた。 「おぃっ! やっちゃったのか?!」 「・・・,バスの中は大丈夫のようです・・・。」 「じゃあ,間に合ったのか・・・?」 「・・・,着替えないとバスに乗れないと思います。」 「そッそ・・ゥか,まいったなぁ・・・。」 「しばらく時間がかかると思いますので,皆さんは先に見学に 入って下さい。 ・・・私は○×さんに付き添いますので他 の皆さんをお願いします。」と,馬鹿げた事に私はカマキリ達に頭を下げていた。 「おォっ,そうだな。そうするよ! じゃあなッ!!」“じゃあな”とは・・・何事だ。今考えれば蹴飛ばしてやりたいくらいだ。いやっ,今どこかでカマキリ達に会ったら絶対蹴り入れてやる。と,未だに忘れられない一言になっている。でもこの時の私は,この状況をどう収拾するか,そしていかにして○×さんを消臭するか考えるだけでイッパイイッパイだった。私は男子トイレの入り口に戻り,・・・考え込んだ。その入り口をふさぐように腕組をしながら行ったり来たり・・・。どこで着替えてもらえばいいのか・・・?汚れた衣類を身に付けたまま,バスに戻る訳にもいかないだろう。そうだ,絶対ダメだ!!そう言えばバスは?ここはバスのお客様を降ろすだけのスペースしかなく,バスは玉泉洞の出口付近にある,駐車場へ移動しなければならない事を思い出した。慌ててバスに戻ると,ドライバーは, 「大丈夫よ添乗員さん,待ってるからさぁ。」南国の気候のせいか,ゆっくりとした穏やかなその口調は私に一瞬落ち着きを取り戻させた。 「でも,バスには乗れないから・・・,先に行って下さい。」そう言って私はまたトイレの入り口まで戻って来たが,ガイドから借りて来たぞうきんを持って,行ったり来たり・・・。私はいよいよ気合いを入れて,その奥のドアの前に立った。 「○×さん,大丈夫ですか?」 「・・・ウン・・・。」その臭いはトイレ中に充満していて,大丈夫であるはずがないことは,すぐにわかった。 「着替えお持ちしましょうか?」 「ウン・・,大丈夫。」私は息継ぎに外へ出て,また考え込んだ。 つづく
2010/10/15
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ホテルを出発して30分位経った頃だろうか,後ろから静かに“トイレ”の声がかかった。 「おッ,○×さんトイレだってよォ! 早く止めろよ。」カマキリが慌てた様子で私に迫った。 「はいッ・・・。」私は急いでドライバーとガイドに相談に行くが, 「あと5分位で着きますよっ,添乗員さん!!」ドライバーは明るく答える。改めて見回すと,バスは熱帯雨林の中の曲がりくねったさほど広くない道を走っていた。中型バスと言えど,こんな所で駐停車するのはマナー違反であることは,誰もが感じることだろう。私は,まず向き直ってカマキリに相談した。 「この辺りでは止められそうにないので・・・, あと5分位で到着しますから・・・。」 「あぁぁ・・・,大丈夫か?」 「聞いてきますね!」本人と言えば, 「わかりました,大丈夫です。」と,落ち着き払って言うのだが,カマキリ達の動揺に私も少し焦りを感じなければいけないような,変な責任を感じていた。少しして,隣のカマキリに目をやると,まるでカマキリ達がトイレを我慢しているかのように青ざめている。やっと事の重大さに気付き始めた私は,もう一度○×さんに声をかけた。 「もう少しですよ,大丈夫ですか?!」○×さんはこの時言葉はなく,大きく頷いて返事をしてくれた。窓の外に向けたそのまなざしは,さっきと変わらず穏やかだが,○×さんに向けられたカマキリ達の視線は,行き場を無くしているようだった。 「お待たせ致しました。ご到着です。バスは出口の方の 駐車場移動いたします。 出発時間は10:40です。」ガイドの案内は,バスのドアが開くと同時に終わった。誰も降りて来ない。ガイドと共に先におりていた私は,バスの奥を覗いて見た。トイレに行きたいと言っている○×さんを先に降ろそうと,通路を開けているのだ。だが,長老の○×さんの動きは鈍く中々出てこられないのだった。ゆっくりとステップを降りて,顔を上げる。辺りをぐるり見回す。まるでスローモーションのようだったが,私がせっかちそうに話しかけた。 「お待たせしました。トイレはあちらです・・・。 ・・・ご案内します。」すぐそこに見えているトイレまで,案内することもなかったのだが,一瞬私の鼻を突いたいやぁ~な臭いに反応し,“ご案内します。”と,言っていたのだった。
2010/10/13
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3日目(最終日)の行程は,玉泉洞見学の後昼食を摂ってから那覇空港へ向かう,と言うもので,至って楽な行程であり時間にも余裕があったため,?気な私は,珍しく緊張感に欠けていたのかもしれない・・・,と,今更ながら反省するのだった。 玉泉洞:沖縄県南部に位置する玉泉洞は昭和42年に調査が 行われた結果,総延長は5000m(公開しているのは890m) を誇ります。ホテルの玄関前に付けたバスに,せっかちそうに乗り込む金バッチや,出発時間ギリギリまでコーヒーを飲みながら煙草をふかしている金バッチに惑わされることなく,私はバスの乗り口でひたむきに彼らが揃うのを待った。大半が乗ったであろうか・・・?出発まではまだ時間はあるが,人数を数えてみようとバスのステップに片足をかけたとき,私の視界に○×さんが入って来た。カマキリにあれ程言われたのだから,私も忘れるわけもなく,足を戻してその方向へ向き直った。 「○×さん・・・,トイレは大丈夫ですか?」 「うン,大丈夫・・・。」顔色も良くないし少し元気がないな・・・と感じながらも,年も年なのでさほど気にも止めず,バスの中へ進む○×さんを見送った。 「トイレ行かせたか?!」カマキリが私のすぐ後ろで,吠えた! 「は・・はぃ,“大丈夫”とおっしゃっていました。」そんなに近くにいたンだ・・・,“なら,自分で聞け”と,思わずボヤいてしまいそうだ。 「・・・,ホントだろうな?!」 「・・・?」何故そこまでしつこく言うのだろう?私が今ひとつ理解していないと察したのであろうか。カマキリは顔を引きつらせながら,こう言った。 「朝はヤバインだよ,間に合わねェから・・・,大変な事に なるからな!! 気を付けろよ!!」私の口は作り笑顔で“はぃ”と言い,心の声は“お前が気を付けろ!”と,叫んでいた。そんなンだから,私は事の重大さにまだ気付いていないのである。ああ・・・我ながら あ・き・れ・る。 つづく
2010/10/12
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一応8時と決めた朝食の時間は,早く目覚めてしまう年配者にとっては待ち遠しかったであろう。私が10分前に会場に着いたときは,既にほとんどの人が席に着いていた。ここは,一般の人も利用する大きな朝食バイキングの会場でこの時間,とても賑わっていた。私は目立たぬようにあちらこちらに散らばる金バッチ達を目で追いながら,人数を数えてみた。2人足りないようだが・・・。そうだ,カマキリだ!寝過ごしてはいないだろうか?世話役である事務局の人間が寝坊していては,金バッチ達に大目玉だろうに・・・。当然,幹事であるカマキリ達に気配りするのも添乗員の仕事なわけで,あまり気が進まなかったが部屋に迎えに行くことにした。エレベーターの前には,朝食後部屋へ戻る人達で比較的混雑していた。私は昇りのボタンを押す必要もなく,その人混みに紛れていると,最初に開いたエレベーターの中からカマキリが降りて来た。 「おはようございます・・・!」混雑していたその中では,私の声が届かなかったようで,カマキリ達は無反で通り過ぎる。私は小走りで近づき,カマキリ達の背中に向かってもう一度声をかけた。 「おはようございます・・・!」 ほんの一瞬だったが,カマキリ達は過剰反応を示した事を私は見逃さなかった。 「おはようご・・・。何だ,今来たのか!!」カマキリは振り向きざまに挨拶を返そうとして,やめた。私には挨拶も出来ないのか・・・?と,ムッとしたのは間違いないが,人を見て挨拶するカマキリ達の行動は,公の人々の中では珍しくもなく,これが一般人と隔たりがあり上手に交われない由縁なんだと立場上とは言え,若輩者の私が納得せざるを得ないのは,単純に大人の判断だと思うのである。全員食事を始めたのを確認し,時計を見ながら慌ただしく私も朝食を摂り始めた。すると,カマキリ達が食事を終えて,私のテーブルに近づいて来た。 「おゥ・・・。」挨拶言葉はこれしか知らないのか・・・?まったく・・・。私は到底笑顔で迎えられそうになかったので,あえて箸を置かずにカマキリを見上げた。 「出発前に必ず○×さんにトイレに行かせろよ!」 「・・・ぁはぃ?!」 「絶対だぞ!!」 「はぃ!!」そんなに目の色を変えて言わなくてもいいだろうに・・・。そう言えば夕べもカマキリは○×さんを気にしていたようだが・・・。私は初めて,どうしてそんなにムキになるのか,と考え始めた。でもその疑問は,2,3度首をかしげている間に私の頭の中を右から左へ通り過ぎてしまった。 つづく
2010/10/05
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