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新幹線でお酒を飲んだ人が多かったらしく,ほとんどの人がトイレへ行ったみたいだった。私たしは,フェリーの乗船口が見えるところに腰をかけた。誰かが間違って乗り込まないよう,見張っているつもりだった・・・,が,欠航の心配がなくなって安心したのか,目を閉じてしまったらしい。カーフェリーの汽笛が夢うつつで,遠ざかって行くのを憶えている。多分,5分か10分・・・だったと思う。 「空ちゃん,みんな大体集まったわヨ!」アンジーの,優しい声で目が覚めた!!“目が覚めた??アタシ寝てた??ヤバッ!!私はハッとして辺りを確かめる。そうだ,私はフェリーの乗り口を眺めていたんだ・・・。何だかいやな予感・・・,私はアンジーにお礼も言わないまま,みんなの集まっている方へ,バックは盗まれてはいないか?確認しながら小走りで行った。 「班長さん,人数の確認をお願いします!」 「OKで~す!」と,次々に返事が返って来た。 「・・・谷やンが,いなンんだよね~。さっきトイレに行くって言ってたけど。」 「・・・。」谷やンとは,“新幹線に乗る前に初めてだから,手をつないでほしい・・,”と,言ったおじさんだった。きっとジェットフォイルも初めてだろう。まさか??誰かがトイレに探しに行ってくれたが,「誰もいませんヨ!」とすぐに戻って来た。私は青ざめ,遠ざかって行くフェリーを恨めしそうに眺めていた。 「あれっ,谷やンだ!!」と,誰かが叫んだ。声の方へ振り向き,みんなの視線の先に目をやれば,係員に連れられた“谷やン”の姿が見えた。どうやら谷やンは,待合室のトイレが混んでいたため,他にトイレはないかと探しているうちに,フェリーの乗船口まで行ってしまったらしい。そして,近くにいた係員に“トイレはどこか”と尋ねたらしい,すると,係員は,トイレのためにフェリーから降りてきてしまったと勘違いして,出港間近だったため,“中にもありますよ”と,答えてしまった。・・・と,言う事だった。 「申し訳ありませんでした,私の不注意です。」と,係員は何度も頭を下げた。 「いいえ,気が付いて良かったです。お世話になりました。」と,私も頭を下げた。 「谷やン!! もうアタシから離れちゃダメよ!!」と,再びアンジーが谷やンの手を取った。 「だから・・・俺は空子ちゃんの方が・・・。」 「何言ってるの,空ちゃんはあなた1人のものじゃないのヨ!!・・・・・。」と,世話女房が愚図の亭主を説教しているようなその光景は,私だけじゃなくみんなの心を和ませた。 つづく
2010/02/26
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ヤツは迎えに来たガイドと,先頭を歩いている。私が一番後ろで落とし物(人)のないようにと気を配っている内に,すっかりガイドと仲良くなったようだ。ホントに女なら誰でも良さそうだ。ヤツのおかげで,バスへの移動はズムーズに行き,全員無事に乗り換えが完了した。やっぱり風が強そうだ!さぁ,新潟港へ出発だ。私は約束通り佐渡汽船へ電話をいれる。 「今,新潟駅を出ました。」 「お気を付けてお越し下さい。」通り一遍の会話だったが,平常通りを予感させた。程なく新潟港に到着した。また明日,ここへ戻った時に迎えに来てもらうバスは,別の人か?と,ガイドに尋ねた。 「明日も私たちがお迎えに来ます。」と,答えが返って来たため,明日の迎えの時間を確認して,ガイドに待合室までの案内をまかせ,私は一足先に団体受付へ急いだ。別に出航時間が迫っているわけでもないが,癖なのか,私は走っていた。私はすぐに,今日の運行状況を確認した。 「風,強いようですが・・・,大丈夫ですか?」 「ジェットフォイルは大丈夫ですよ!!」 「はぁぁ,良かった!!」私の言葉は,息せき切っていて,ため息だかなんだかわからないようだった。こちらの心配を感知したのか?奥からここの責任者らしい,年配の男の人が出て来て, 「お疲れ様です,添乗員さん!! この位の風では,欠航しませんヨ。 ジェットフォイルは波の上を飛ぶンですから・・・。ほとんど揺れも 感じないと思いますよ!」 「あぁ,そうでしたね・・・。取り越し苦労でした。」乗船名簿を渡し,無事受付を終えた私は,すぐに待合室に戻ると,ガイドに連れられたお客さんが,今まさに着いたところのようだった。ここでまた,各班の班長さんに人数の確認をお願いする。ALL OKだ。 「ありがとう,じゃぁ明日よろしくお願いしますネ。」と,私はガイドにお礼を言って,その場でガイドを見送った。ご丁寧にまた勘違い男は,そのガイドを送って行こうとして,追い返されていた。出航時間まで少し時間があったため,再集合の場所と時間を決め,一旦解散する。今アナウスで乗船案内をしている,出港間際の目の前のカーフェリーにくれぐれもに乗らないように・・・と,私は付け加えた・・・間違いなく・・・絶対に・・・。 つづく
2010/02/25
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どこにでも居そーなあの勘違い男は,やっぱり女好きだった。今夜のコンパニオンは(120分)6名,花代は1人18,540円(会社もち)。延長は自由だが,個人負担になっている。おそらく例の女組で何人かを延長し,部屋で飲み直すことになるのだろう。そして翌朝,目の覚めるような延長料を請求され,我に返るのだ。いつものように口々に”馬鹿馬鹿しいなぁ・・・と,つぶやくくせに,また来年も繰り返すのだ。まったく,男ってヤツは・・・,と思う反面,年一回の旅行の楽しみ方の1つだと,理解できなくはないのだ。若い娘と楽しくお酒を飲むのも良し,年に一回飲み潰れるのも良し,徹マンで夜が明けるのもいいのだ。それぞれが楽しければ・・・。只々願うのは,スマートに遊んでほしいと思う,それだけだ。私とアンジーは久しぶりに馬鹿話をして,あっという間に時間が過ぎていった。結局最後の〆は,“男ってバカよねェ~”だった。新潟着30分前,みんなの座席を一廻りする。みんなお弁当は食べ終わっているようだ。私と幹事さんとで,たたんで置いた段ボールをもう一度組み立て,お弁当等のゴミを回収して廻った。そして私は,寝込んでいる人に声をかけて行った。あの勘違い男もスッカリ寝込んでいたため,声をかけるはめになった。 「(肩を軽く叩きながら)もうすぐ着きますよ,起きて下さい。」 「・・・ン~,・・・・・。」よほど深く眠って居たのか?何も言葉がなかった。これ幸い・・・と,私はさっさとその場を離れた。新幹線は定刻通り新潟に到着した。新幹線ホーム~改札~南口のバスまで,1人もこぼさずに連れて行かなくてはならない。私は再び神経をとがらせ,ウチの会社の旗を高く伸ばし, 「みなさ~ん,私の後に続いて下さ~い!!」と,声を張り上げた。 「は~ぃ!!」と,一番前で返事をしたのは,また,勘違い男だった。そして耳元でささやくのだ。 「さっきは起こしてくれてありがと,うれしかった!! 空子ちゃんに,毎朝起こしてもらえたらなぁ~~~ナンテね!」うわっ,めんどくさっ!!こんな忙しい時に。 「スイマセンが,この旗を持ってもらえますか?私,背が低いので・・・。」と,その男に先頭を任せ,私は, 「この旗に付いて行って下さい!!」と,ヤツの方を指さしながら,列の後方へ回り込んで,逃げて行った。 つづく
2010/02/24
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こうしていつもアンジーは,私を和ませてくれるのだ。まったくもって,ありがたい存在なのである。私は,アンジーのビールのつまみのさきいかを頬張りながら,ホテルの部屋割り表を見ていた。確かに,男ばかりの部屋にアンジーの名前があった。何気なく部屋ごとの名前を目で追っていたのだが,あることに気付いた。毎年同じメンバーで,部屋割りをしているようだ。私は,頓着なく隣のアンジーに聞いてみた。 「ねエ,アンジー。部屋割りが毎年同じように思えるンだけど・・・, どうしてかな? 仲良し5人組とか?」 「ン~,それはねェ,ここが酒組,ここが博打組,ここが女組・・・って, ことよ!!」 「へェ~,そう言うことか!!」そこへ1人の社員がやって来て, 「空子ちゃんはアンジーと仲がいいンだね!」と,アンジーの隣の人がトイレに行っていたため空いていたその席に,さっさと腰をかけてしまった。この人は,私が担当当初から居る30代半ばの営業マンだが,何年か前に幹事だった時,妻帯者のくせに夜中までしつこく私を追い回し・・・あまりいい印象のない人だった。そして,もう既にお酒が入っているようだった。 「さっき僕も“空子ちゃんの隣がいい”って言おうと思ったンだけど, 恥ずかしいから言えなかった。ごめん!」 「?・?・?」アンジーは,間髪入れずに言った。 「アンタ,何勘違いしてるの!!」 「だって,アイツらより僕の方がずっといいよねエ~,空子ちゃん!!」 「はぁ・・・?!」と,私は肯定も否定も出来ないでいた。 「だ・か・ら,それが勘違いだって言ってるのヨ! ば~か!」 「そうかなぁ・・・?」と,私の顔をのぞき込んでいる。そこへ,アンジーの顔が割って入った。 「そうなの!!アンタも空ちゃんのタイプじゃないの!! さぁさぁ,自分の席に戻りなさい。」トイレから戻って来たアンジー好みの若い社員は,その営業マンに遠慮して私たちの前を通り過ぎようとしたとき,アンジーに強く手をつかまれ,連れ戻された。後方へ歩いて行くその男をチラッと見送ると,私の持っていた部屋割り表を指さしてアンジーは言った。 「アイツの部屋はここ!!」アンジーが指さしたには,さっき言っていた“女組”だった。 つづく
2010/02/23
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私がやっと席に着いて再び“フー”と息をはき出すと,アンジーが缶コーヒーを差し出しながら, 「はぃ,お疲れサン!!」 「ありがとう!!」アンジーのくれた缶コーヒーを,私は一気に飲み干した。でも,休む暇はない。今度は新潟駅に着いてからのシュミレーションを,頭の中で描いていた。迎えのバスは南口で待機しているが,ガイドが新幹線改札まで迎えに来てくれることになっている。新幹線からバスに乗り換えるときはもちろん,新潟港にて,ジェットフォイルに乗船するまで,今日は緊張の連続だ。1人残らず,佐渡島へ連れて行かなければならないのだ。子供じゃないンだから,そんなに神経質にならなくてもいいのだが,船など,天候に左右されやすい乗り物は,とかく心配の種なのである。佐渡汽船に予約確認の電話を入れるため,私は隣の車両のつなぎ目(デッキ)へ向かった。「○×ツアーの桜来です,お世話になります。本日の13:00発の両津行きの 予約の確認です。△○建設33名+1で変更ありません。予定通り, 新幹線で,新潟に11:50に着く予定ですが・・・船の方は大丈夫ですか?」 「少し風が強いですが,今のところは定刻通りです。」 「そうですか, 今のところ・・・。」 「はい,また新潟駅に着いたらお電話頂けますか?」 「はぃ,わかりました。」 今朝のニュースでは,新潟県地方の天候は晴れだったが,強風注意報が出ていたため,少し心配だった。遅れても船が出ればいいのだが・・・,これがもし“欠航”になってしまったら・・・と,考えると頭が痛くなる。今から慌てているわけでもないが,携帯を持つ私の手,は少し汗ばんでいた。私が少し曇った顔で戻って来たのをアンジーは見逃さなかった。 「空ちゃん,何むくれた顔してンの?」 「アッ,いや,強風で船が出なくなったらどうしようかな??って」 「どうにかなるでしょう!! そうと決まった訳じゃないンでしょ!! 先の事でそんなに悩まないの!!」 「エエ,まぁ・・・。」 「アタシなんか,ウィッグが風で飛ばされないか・・・?とか,今夜誰かに襲われ ないか・・・?とか,心配ごとばっかヨ!」 「ククッ ククッ・・・。」 「イヤッ,だって二晩も男ばっかの部屋に寝るのよ~。怖いわ~。ホントヨ~。」 つづく
2010/02/22
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Pg7 「?・?・?・・・」私の隣を狙っている3人のメンズたちだけでなく,まわりのみんながこぞって私を見ている。 「私の席は最後の一枚で,通路側のBです。隣のAはよその方の席です。 通路を挟んだ隣の席なら,ありますけど・・・。 もう・・・,アンジーが座ってます。」今度はみなの視線が一斉にアンジーに集まった。アンジーは,その視線にすぐに気付いた。 「それが,なにか・・・?」何故かみんながアンジーには逆らえない様子で,まだ席に着いていなかった人たちは,空いている席へと散らばって行った。だが,まだあきらめられない男が1人いた。 「帰りは,俺に譲ってね!」 「エエ~,それは無理と言うものよ!」 「どうして?」 「アンタ,空ちゃんのタイプじゃないもン!・・・だいたい, アタシと空ちゃんの間に割って入るなんて100年早いわヨ!シーシー!」と,私とアンジーの間の通路に立っていたその男を,色黒でしわくちゃな,サーモンピンクのマニキュアが悲しい,その左手で追い払った。私はまだ席に着く余裕はない。早速アンジーにバックを預けて,さっき積み込んだお弁当の箱を,私たちの席の通路に運んで来る。あいにく,この大きな段ボールを置いておく場所がないので,お昼用のお弁当ではあるが,早めに配ることになっていた。幹事の2人と手分けして,お弁当を配り始める。案の定こんな質問が来た。 「これ,朝ご飯?」 「いえ,お昼ご飯です。」 「今食べちゃダメ?」 「いいですけど・・・,お昼ご飯はないですよ。」 「そう言う事だよね・・・。」 「とにかく,新潟に着くまでに食べて下さい。」お弁当お配り終え,自分の席に着いたのは出発から25分がたっていた。 つづく
2010/02/19
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私の話が終わるのを待って,お弁当屋さんが声をかけてきた。 「おはようございます。お疲れ様です!」 「あっ,お待たせしました。」お弁当の入った段ボールは,全部で3個,8号車の入り口付近に静かに配置した。 「お気をつけて行ってらっしゃいませ!」と,お弁当屋さんは丁寧に頭を下げ帰って行った。この間にもう一度別の新幹線を見送った。さて,一段落して私は“フー”と,一息吐いて時計を見る。出発7分前だった。ホームのアナウスで,私たちの乗る新幹線の案内があった。 「皆さ~ん,いよいよです。次の列車に乗って下さい。」16,7人づつ,二手に分かれて整列しているみんなに声をかけて廻る。新幹線が到着し,みんな速やかに乗車した。私は,幹事と2人で,ホームに残った者はいないか見回して,最後に乗り込んだ。私が,”自分の席探しは全員乗ってから・・・”と,言ったせいで8号車の通路ではみんな身動きが取れないでいた。私は,車両の座席表を取り出して,中へ割り込んで進んだ。 「3番のAから9番のEまでが皆さんのお席です。とりあえずお掛け下さい。」 「添乗員さんはどこ?」 「私は・・・,えっ9番のBです。」 「じゃぁ,俺その隣っと。」 「俺も隣がいい!反対側の隣は空いてる?」 「あぁ,いやぁ・・・その・・・。」 「ずるいよ!そんなの,ジャンケンしよう!」 「いやぁ・・・でも・・・。」私の隣の席を巡って,3人の男で争奪戦が始まってしまった。もちろん冗談だが,よくもよくも私を巻き込んでみんなを笑かしてくれるものだ。好かれているのか,おちょくられているのか,わからなくなる。 「私の隣に席はありません!!」 つづく
2010/02/18
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今回の幹事の1人に,最後尾を歩いてもらうようお願いして,地下奥深い新幹線ホームへと進む。長~いエスカレーターを何度か乗り継ぐ途中,後ろを振り返ってアンジーを探してみる。ちゃんと,手をつないでいた。嬉しそうなのは,何故かアンジーの方だ。ちなみに,アンジーの名前の由来は,アンジェリーナジョリーのニックネームからもらったのだった。何でも,アンジーは,アンジェリーナジョリーの大ファンらしく,よく映画の話をしながら,“アタシもアンジーみたいに生まれたかったわ・・・!“と,言っている。そして,“アタシにもブラピみたいな人現れないかしら・・・?”と,必ず付け加えるのだった。ともあれ,あのお客はアンジーにお任せするとして・・・,私は再び戦闘態勢に入る。21番ホームに着いた。すぐに下りの新幹線が入って来た。 「皆さんの列車はこれではありません・・・。」と,いささか大きな声を張り上げ,最後尾まで注意を促す。指定席のある8号車まで,ホームをゆっくり移動する。待ち合わせをした,お弁当屋さんが大きな段ボールを2つ台車に乗せて立っているのを目で確認した。8号車付近でみんなを再び集合させる。 「皆さ~ん,私の声が聞こえるところまで集まって下さ~い。 このホームにはもう1回,別の新幹線が入って来ます。 皆さんの乗る列車は,その次の“とき317号”ですので, お間違いの内容にお願いします。皆さんの指定席は8号車で 入り口は2カ所になります。2列に並んでお待ち下さい。 また,停車時間は2分だけですので,先に乗車したお客様は, まず,号車の中央付近までお進み下さい。 全員お乗りになってから,ゆっくりご自分の指定席をお探し下さい。 また,最後尾に並んだお客様には,お弁当を積み込む際,少しお手伝い 下さいますよう,お願い致します。」ってな感じで,列車に乗り込むまでは気が抜けないのだ。オオッと,私のすぐ横でビデオカメラを回している人がいた。のけぞる程,ビックリした。 「桜木さ~ん,すごくカッコ良かったヨ!」 「あははっ,・・・ちょっと近すぎます。」ってか,私は顔も気が抜けないのか!!
2010/02/17
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集合場所には時間通り集まっていた。一般往来客が多い場所で自分たちのグループの人数確認なんて非常に困難を極めるものである。中学生の修学旅行でもあるまいし,いい大人たちに“2列に整列!!”って訳にもいかないため,私は予め幹事さんに頼んで,4つのグループに分けてもらい,その中で班長を決めてもらっていた。 「各班の班長さんは,人数の確認をお願いします。」と,私は適度に声を張ってみんなを注目させた。 「ハーイ!」 「ほいヨ!」 「ガッテンダ!」など,いろいろな返事が元気に返って来た。 「1班・・・OKです!」 「2班・・・1名トイレに行ってます!」 「3班・・・2名トイレに行ってます!」 「4班・・・OKです!」こうして添乗員は,みんなの手を借りながら,要領良くスピーデイ―にこなして行かなければならないのだ。それからも続々とトイレへ向かう人が増え,どんどん時間が過ぎて行くものなのだ。誰かが行くと行きたくなるのがトイレで,この先にもトイレがある・・・と言っても不安になるのが人間の心理なのである。そんな事は百も承知だ。だから,団体旅行と言うのは集合時間がやたらと早いのだ。航空機だろうがJRだろうが,出発前1時間前が集合時間になってしまうのは,あたりまえなのだが・・・。こんな社員旅行の打ち合わせの時には,必ず,集合時間が早すぎると言われてしまう。今回もそうだった。1時間前・・・と明示した私に,30分前で十分だ・・・と幹事が言い張り,何とか40分前の集合で折り合いが着いたのだった。とにもかくにも,30分前に全員集合し,出発前の添乗員の挨拶を簡単に済ませ,注意事項をゆっくりと,みんなの目を確認しながら話した。一通り話し終わり,最後に 「何かわからない事はありますか?」と,尋ねてみる。 「あの・・・俺,新幹線に乗るの初めてで不安なので,添乗員さん 手をつないでくれますか?」と,いい年して茶髪にしている,いかにもエロそーな爺さんが言って来た。 「あっ,はぃ・・・いいで・・」 「ああ,わかった,アタシが手をつないであげるわ!!」と,助け船を出してくれたのは,アンジーだった。一同,爆笑のまま団体用改札口へ向かったのは,出発20分前だった。 つづく
2010/02/16
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一足先に上野に着いた私は,待ち合わせの場所を確認してから,自動改札ではない駅員いる改札口へ出向き,本日の予約内容やら運行状況やらを確認する。東京駅発の新幹線は,ここ上野にはたった2分しか停車しないため速やかに乗車して下さい・・・と,念を押された。お客さんたちは知るよしもないが,我々添乗員はバス旅行の業務から比べると,何十倍も神経を使って,事故・トラブル等が起きないようピイピリしているのだ。だから,私は列車の添乗があまり好きではない。でもこの緊張感こそが,私を向上させてくれると信じているのも事実だ。そして,団体は自動改札を通れないため,駅員のいる一番端の改札を通らなければならないのだ。私は駅員に,改札を通る予定時間を予め伝えて,朝食を取りにファーストフードの店に入った。これから始まる分刻みの仕事の緊張感が,食欲を抑え込んでしまっている。コーヒーを飲み込むだけで精一杯って感じだ。 集合場所での挨拶 注意事項: 改札口・何番ホーム・列車番号・指定席(8号車) ホームにて積込み弁当の受け取り及び,個数の確認・クーポン決済 注意事項: 8号車入口(2ヶ所)にて2列・誤乗車の注意 ・お弁当の積込みの手伝いを依頼・先に乗車した者への注意 などなど,行程表に走り書きした注意事項に何度も目をやる。もちろん頭に入っているのだが,言い忘れたら大変だ。以前私は,この中の1つを言い忘れたせいで,お客さんの1人を置いて来てしまったことがあったのだ。その人は慌てず,すぐに駅員に相談し次の列車で追いかけてくれたので,他のお客さんにも以後の行程にもさほど影響が出なかったが,あの失敗は忘れることが出来ない。集合時間10分前,深く深呼吸をして,軽く頬を叩き気合いを入れて,どこに入ったかわからない朝食を切り上げ,私は集合場所へ向かった。 つづく [この物語は少し事実に基づいたフィクションです。]
2010/02/15
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休日とあって人もまばらな静かな駅に,かすれ声なのにやたらと色っぽい懐かしいあの声が聞こえた。 「おはようございます! お早いですね。」 「そうなの! ここでモーニングをしようと思ってネ。 空子ちゃんも一緒にどォォ?」 「私は一足先に上野に行ってますので・・・。」 「あら,そうなの・・・。ザ・ン・ネ・ン!じゃぁネ。」と,左の肘に右手を添えて上品そうに手を振り,思いきり内股の小走りで駅前の喫茶店に入って行ったその人は,某建設会社の社員で,名前は,山村(やまむら) 賢治(けんじ) (54歳) ニックネームは,アンジー(ケンじぃ),性別は,男 時々 女。私が初めてこの会社の社員旅行に同行したとき,幹事だったのがアンジー。初めはどう接していいかわからなかったが,社長のアドバイスで,“アンジーが男の時は男のように,女の時は女のように対すればいい・・・“,と言われ,構えずに自然に接していたら,とても仲良しになれたのだった。アンジーがカミングアウトしたのは40代後半で,いつも飲み会で,酔っぱらうと女っぽくなってしまったらしく,同僚たちも今更・・・と,驚きもしなかったが,女の職場ではないだろう・・・と,非難された時もあって,回りの視線は必ずしも優しくはなかった,と,アンジーは,胸の内を打ち明けてくれた。それ以来,私たちは“空子ちゃん,アンジー”の仲になったのだ。もっとも私は,女の時のアンジーしか知らないのだが,他の社員に聞くと,仕事中のアンジーは,“ニッカポッカでくわえ煙草,時にはたるんでいる若い衆に怒声を浴びせる事もあって,まさしく男の中の男って感じだ“と,聞いたことがある。私の知るアンジーからは,想像も出来ないが,たぶんアンジーは自分を守るため,仕事中は男の中の男を一生懸命演じているのだろうと,私は思う。そんな事を考えながら,私は上野行きの電車に揺られていた。 つづく
2010/02/12
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私の名前は, 桜来 空子(サクラギ クウコ) 30歳 添乗員歴10年 独身。 今日から2泊3日で新潟へ,社員旅行に同行する。お客様は,某建設会社の社員33名でほとんどが男性,女子社員は経理を任されている50絡みの人と,総務の20代前半の娘,の事務員2名だけである。ウチの会社とこの建設会社との取引は今年で6年目,1泊2日と2泊3日の社員旅行を毎年交互に実施している。私がこのグループに同行するのは今回で5回目,と言う事もあって,みんな顔見知りで,余計な緊張感もなくとてもリラックスして仕事が出来るのだ。(ちなみに,2回目からず~っとご指名を頂いている。)今回のコースは,1日目,新幹線で新潟へ行き,新潟港からジェットフォイルで佐渡島に渡り, 八幡(やはた)温泉に泊まる。2日目,尖閣湾・佐渡金山・スカイラインを観光し,再びジェットフォイルで 新潟に戻り,弥彦(やひこ)温泉に泊まる。3日目,弥彦神社・寺泊アメ横などを観光し,燕三条から新幹線で上野へ戻る。と,こんなところだ。私はJR○×線で一足先に上野へ向かうため,地元の駅まで来ていた。もちろん添乗員は集合時間より,30分以上早めに着かなければならないため,この時間には,駅で誰にも会わないはずだった 「オハヨー,空子ちゃん!お久しぶり!」 つづく
2010/02/10
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私たちの飛行機は定刻通り離陸し,羽田空港には定刻5分遅れで到着した。相も変わらず,ボデイ―チェックは時間をかけられてしまったが,別室に連れて行かれることもなかったからだ。羽田空港では解散になるのだが,みんな乗り合わせでマイカーで来ていたため,到着ロビーを出るとすぐに駐車場に電話を入れた。車を持って来てもらうことになっているのだ。何故か,約束したように社長の車が一致番先に到着し,社員たちは迷いなくベンツのトランクを開け,社長夫妻の荷物を詰め込んでいる。その間,社員たちの車が続々到着するのだが,誰1人車に乗り込む者はいない。私は目立たぬように,そっとベンツの後部座席に乗り込んだ。そして,白い手袋をした駐車場の係が,社長が運転席に座ったのを確認し,そのドアを静かに閉める。そして,丁寧にお辞儀をして・・・,うわぁぁぁ・・・ナント言う事でしょう。左側前方には,社員が1列に並びお辞儀をして見送っているではないか!何の打ち合わせをしていた訳でもないのに,社長も奥様も動じる様子はみじんもない。むしろ社長はごく自然に軽く左手を上げ,社員たちに別れを告げた。私は何を思ったか,座席の後ろに身をかがめ,すっぽり隠れてしまった。後ろの座席の者など,スモークガラスで見えるわけもないのに・・・。こうして親分の沖縄旅行は幕を閉じようとしている。今までにない見送りだったが,なんだか気持ちいいものだなぁ,と,私は1人でニンマリしていた。 「空子さん,来年はどこにしようかね?」と,気の早い社長がバックミラー越しに,疲れも見せずに笑顔で話しかけて来た。 「そうですねエ・・・。」私の方はいささか疲れ気味で,思考能力が鈍っているようだ。 「空子さんはどこがいい?」 「私が行きたいのは・・・“韓国DE焼き肉”かな?」 「いいねエ,それ! そうしようかお母さん!」隣の奥さんに楽しそうに話しかけている社長は,やたらと元気で今からでも韓国へ行けそうな勢いだ。 「お母さんは朝から晩まで買い物だね・・・!」「まぁねェ・・・,ウッフフ」と,2人の会話は私の心をなぐさめ,穏やかな気持ちにさせてくれた。でも,どこの国へ行こうとも,入国審査を避けて通ることは出来ないのだが・・・。そんな心配もつゆ知らず・・・。Su・・・・・。 場所は香港,私は成田空港で見知らぬ人から預かった荷物を持っていた。 それを約束の場所へ届けようとホテルを出たところで,見るからに悪そーな 連中に拉致され,車に乗せられた。 私は,“バックを渡せ!”と,BOSSの前に突き出された。 後ろ向き座っていた,その男がこっちを向いた。 香港マフィアのBOSSは・・・,社長だった。 「空子さん・・・空子さん。着きましたよ!」ウトウト・・・どころか,私は完全に眠ってしまったらしい。そして私を起こしたも・・・,BOSSだった。 おわり [この物語は,事実に基づいたフィクションです。]
2010/02/09
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「はぁ,・・・・えっ・・・。」 何のことだかわからず,私は一瞬固まってしまった。でも,すかさず先輩の女子社員が割って入った。 「アンタ!何訳わかんないこと言ってるのヨ・・・,ここは那覇空港!」と,私の代わりに答えてくれ,私に「どうもスイマセン。」と,言いながら,そのめんどくさい天然娘の手を引いて,連れて行ってしまった。どうやら,どこの航空会社で帰るのか?と,聞きたかったらしい。「それは,○×コウクウ(航空),ここは那覇クウコウ(空港)・・・。」と,あきれながら説明しているのが,聞き取れた。遠ざかって行く彼女たちの会話に夢中になり,ボーっとしていた私は,残りの搭乗券を握りしめたまま,突っ立っていたらしい。待っていた社員に声をかけられ,我に返った。彼らは,口々に 「どうもスイマセン。」と,言いながら搭乗券受け取った。 「あっ,いいえ。」 「どうもスイマセン。」 「いいえ。」 ・・・・・ ・・・・・ この会話が何回繰り返されただろう・・・。私は必死で笑いを堪えていたのだが,あと1人のところで,吹き出してしまった。そして最後の一枚は,社長の分だった。 「ホントにどうもスイマセン。」と,これまた深々と頭を下げるのだ。 「もう,やめて下さい!」と,私が答えると,それが何かの合図のように,そこにいた社員たちは,一同に大爆笑となった。笑いを堪える事も,腹を抱えて泣くほど笑う事も,結構疲れるものだなぁ,と,考えながら,私は委託手荷物の整理をしていた。 つづく
2010/02/08
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空港までの道のりは,さほど時間もかからず,ガイドの挨拶の時間もかなり短縮され,今日1日話し続けた濃厚な時間から比べると,あっけない幕切れだった。羽田に着いてからは,三々五々解散になってしまうので,私も那覇空港に着く直前に,マニュアル通りの挨拶を済ませた。 「熊谷オートプランカンパニーの皆さん,3日間大変お疲れさまでした。 ほとんどのお客様が,ここ沖縄は初めて・・との事でしたが, いかがでしたか?楽しくお過ごし頂けましたか? ・・・・・ ・・・・・ 羽田に着きましたら,そのまま解散になりますので,少し早めですが ご挨拶させて頂きます. ・・・この3日間 天候にも恵まれ,・・・・・・。 楽しい旅行が出来るのも,日頃のお仕事のご苦労があってからこそ, だと思います。 どうか明日からもまたお仕事に励んで頂きまして,また旅行をご計画 の折には,私どもにお声をかけて頂きますよう,よろしく お願い申し上げます。 ・・・・・ ・・・・・ 羽田空港でお別れとなりますが,みなさんご自宅までどうぞ お気を付けてお帰り下さい。 また,お目にかかれる日を楽しみに致しております。 このたびは“×○ツアー”をご利用頂きまして, 誠にありがとうございました。」ってな,具合だ。定刻17:20発羽田行き。私たちは予定通り1時間前に空港に着いていた。早速チェックインを済ませた私は,「搭乗口に30分前に再集合」と,告げ,搭乗券を配っていた。すると,あの天然娘が話しかけてきた。 「あのオ,空港はどこですか?」 つづく
2010/02/05
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私たちは,駐車場から整然と歩みを進め,ひめゆりの塔の前で静かに手を合わせた。あまり広くないその場所には,修学旅行の生徒たちが次々と到着し混雑していたため,社長もさっさとその場を離れ,木陰に入って学生たちの様子を眺めていた。隣にいた私に社長は,学生たちへの目線をそのままににしてつぶやいた。 「ちょうどこの位の年頃ですねーエ・・・。」 「はい,そうですね・・・。」無邪気にはしゃいでいる学生たちに目をやり,説教じみた言葉で愚痴る訳でもなく,只ただ私たちは無言のままそれを見つめていた。私は親分のそうゆうところが大好きだ。 私たちはひめゆりの塔を出ると,琉球ガラスの工房を見学し,遅めの昼食を取った。ここに着いたとき,社長は“海人(うみんちゅ)Tシャツ”に着替えていた。私はここで初めて気が付いた。社長は戦没者に敬意を表し,“黒”を着用していたのだ。そう言えば,大きな数珠も持っていたような気がする。社長の心遣いは,誰に押し付けることもなく,それを自慢げに口にすることもないのだった。「自分は,仕事以外で人に教えてもらうことがあっても,誰かに説教すること など,絶対にない。私はそんなに偉い人間ではないから・・・。」と,社長に初めて会った頃,若い時は,何度も警察の世話になり,親不孝をしてしまった・・・と,ばつが悪そうではあったが懐かしそうに話てくれたことを思い出した。間違いなく親分肌で,面倒見のいい,いたずら好きできれい好きな社長は,怒らせると怖いらしく,社員一同はいつも緊張感を保ったまま仕事をしている。いい加減な仕事をして社長を怒らせてしまった時などは,本当の“親分”になってしまうのだと聞いたことがある。だから,社長の“親分ファッション”は,旅先の見ず知らずの人よりも,社員たちの方がとてもリアルに見えているのかも知れない。私たちは,沖縄での全行程を終え,那覇空港へ向かった。 つづく
2010/02/03
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当然ながら社長のシャツの話で盛り上がり,バスの中は賑やかになってきた。みんな思い思いにおしゃべりを始め,様々な笑い声が聞こえてくる。だが,ガイドはまた声のトーンを変えて,匠にみんなを黙らせ,“ひめゆりの塔”の説明が始まったのだった。沖縄陸軍病院の看護要員として,2つの高校の女子生徒222名で構成されたひめゆり学徒隊の,名前の由来から,病院周辺の激しい砲撃により,分散して地下壕に潜んでいたとこ。戦況が絶望的になった頃,解散命令が出されても,既に沖縄のほぼ全域を米軍が支配しており,地下壕から出ることは死を意味することであったこと。そして最後まで生き残ったのは,・・・・・第三外科壕の生徒,たった5人だったことまで。ガイドは,無念だったであろう女学生たちのけなげで儚い人生を語り,短い移動時間に上手に納めて行くのだった。バスが駐車場に入る頃には, 「私のような,戦争を知らない若輩者がお願いするのは大変恐縮ですが, どうかこの悲惨な戦場であった沖縄を忘れないでほしい・・・。 そして,私と一緒にひめゆりの塔の前で手を合わせてほしい・・・。」 と,ガイドは締めくくった。私は常日頃,旅の準備は・・・と,問われると,その土地の気候や習慣など,最低限の事はもちろん伝えているが,出来れば・・・と,前置きして現地の文化や歴史を少し頭に入れておいてほしいと,お願いする。それは,何も知らないで現地で見・聞きする時より,少し情報が頭に入っていて実物を見た時の方が,何十倍も感慨深いものになるからである。 今回はそんな前準備をしなくても,十分みんなの心に届いたであろう。ひめゆりの塔を知らない者などいないのだから・・・。私は,バスが定位置に止まった頃,静かな車内を振り返って見た。涙を拭っている者も,鼻をすすっている者も1人としていなかったが,社長を見ると,さっき体を拭いていたタオルで顔を覆っていた。社長は大きく深呼吸して,真っ赤になった目をもう一拭きして,急いでサングラスをかけ直したのだった。 つづく
2010/02/02
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2010/02/02
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私たちはガイドの案内で,平和記念公園を1時間以上歩いていた。社長のスケスケシャツは,汗でペッタッと素肌にくっついて離れない。高価そうな扇子も,まったく涼しさを感じさせないのが残念だ。“暑くても1枚下着を着た方が,汗を吸い取ってくれるのに・・・”と,余計な事を言いそうになって,私はあわててその言葉を飲み込んだ。ガイドは予定通り,出発時間5分前に私たちをバスへ誘導した。最近の観光地では,環境保全のためバスは,駐車場内でエンジンをかけたままお客さんを待つことが出来ない事になっているのだ。しかし,暑さに慣れない本土からのお客さんのために,ドライバーも気を利かせてくれたみたいだ。バスの中は,ガンガンに冷えていた。社長は座るより早くシャツのボタンをはずし,上半身全体の汗をタオルで拭き始めた。前が終わるとタオルを奥さんに渡し,背中を拭いてもらっていた。どんなにか不快だったであろう,社長の顔を見るとホットした様子が伺えた。いつの間にか私は社長の方をジーと見つめてしまっていたみたいだ。それに気付いた奥さんが,ウフッフと笑いを堪えながら私に打ち明けた。 「実はねエ―,このシャツの下に下着を着るはずだったンだけど-, あの例のねエ-,・・・ほらあの肌着よ・・。」 「・・・。」私は一瞬何のことかわからないでいた。すると,話を聞いていた奥さんの後ろに座っていた社員が気が付いた。 「エッッ,まさか?あれ?!」 「そう,あれ!」 「 サクラフブキ 」 「そう,桜吹雪!」 「エ~~~!!」近くにいた私を含む5.6人が一斉に反応した。奥さんは相変わらずウフッフといいながら楽しそうに話している。 「でもねー,あまりにもリアルだったからねエ・・・,“やめよう・・・” って事になったのよ。」 「本物に絡(から)まれたら大変だからね!」と,社長が振り返って言った。 「そう,そう。・・・ウッ,臭っ!」と,奥さんは,社長の汗をたっぷり含んだタオルの臭いを嗅いでいた。私はここで,奥さんも相当な天然であることに気付かされたのだった。 つづく
2010/02/01
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