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先週の金曜日(2月25日)、ロバート・ゲーツ国防長官はウエスト・ポイント(米陸軍士官学校)で演説、アジア、中東、アフリカへ大規模な地上軍を今後、派遣すべきでないと表明した。アフガニスタンやイラクへの軍事侵攻を占領は間違いだったと言いたいのだろうが、遅くとも2002年の段階で、こうした考え方の米軍幹部は少なくなかった。 エリック・シンセキ陸軍参謀総長やグレグ・ニューボルド海兵隊中将のほか、ウェスレイ・クラーク、チャールズ・スワナック、ジョン・リッグス、ジョン・バチステ、アンソニー・ジニ、ポール・イートン、ポール・バン・リパーなどの将軍もイラクへの軍事侵攻には批判的だ。 そもそも、アメリカの主流派はサダム・フセイン体制と友好的な関係にあった。イランとの戦争も、フセインはイスラム革命が湾岸諸国へ広がるのを防ぐ防波堤として戦ったと自負、アメリカ側もチリの会社を介してクラスター爆弾など武器/兵器を提供していた。そうした流れの中、ドナルド・ラムズフェルドもフセインと握手したわけである。 イラクを敵視、フセインを排除すべきだと主張していたのはイスラエルやアメリカの親イスラエル派である。1980年代、イラクへの武器供与が問題になり、イラクゲート事件とも呼ばれたが、そうしたスキャンダルが浮上した原因は反フセイン派と親フセイン派の対立があった。 それ以前にも20世紀流の戦争は過去のものだと指摘する軍人は少なくなかった。正規戦の時代は去り、チェチェンやソマリアのようなゲリラ戦の時代に入ったというわけである。そうした主張をしていたひとりがレイモンド・フィンチ米陸軍少佐。1997年に指揮幕僚大学が出している「ミリタリー・リビュー」で、そのように指摘している。 しかし、そうした考え方は軍需産業にとって死活問題。ミサイル、戦闘機、爆撃機、戦車、イージス艦など高額兵器を使った戦争でなければ大儲けできない。そうした兵器が必要ないとなったら投資を回収することさえできなくなる。そうした軍需産業にとって都合の良い「理屈」を語ってきたのがRAND出身のアンドリュー・マーシャルだ。 2001年早々、スタートして間もないジョージ・W・ブッシュ政権は中国が先制攻撃してくるかのような脅威論を語っていたが、そのベースにあったのがマーシャルの報告書。長距離ミサイルの開発などで太平洋地域における米軍基地や空母は脅威にさらされているというわけだ。 それに対し、当時の米太平洋軍司令官だったデニス・ブレア提督は違う見解を語っている。アメリカ軍を攻撃するためには長距離ミサイルだけでなく、偵察通信システムを開発しなければならず、OTH(超水平線)目標システムも必要だと語っていた。状況によっては、中国の偵察通信システムを破壊してしまえば良いとも話している。 10年で軍事的な状況が変化したとしても、現在は経済面で中国とアメリカは「相互確証破壊」の状態で、アメリカの好戦派や日本の支配層が望むような展開は現実的でない。ただ、OPLAN 5027-98やCONPLAN 5029(現在はOPLAN 5029だとされている)のような朝鮮侵攻作戦が存在、1998年頃から続く東アジアでの開戦願望は消えていないようだが。
2011.02.28
アメリカの特殊部隊/情報機関がアル・カイダに核物質や生物兵器を渡しているという話が飛び出した。 本コラムでも書いたように、1月27日、パキスタン北東部にあるラホールでレイモンド・デイビスというアメリカ人がふたりのパキスタン人を射殺し、逮捕されている。アメリカ政府はデイビスを外交官だと主張していたが、アメリカの特殊部隊を経て傭兵会社Xe(ブラックウォーター)で働き、CIAに雇われ、外交旅券でパキスタンに入国したということが判明、無人機による攻撃で目標地点を設定していた疑いが出てきていた。 ところが、ここにきてロシアのSVR(対外情報庁/ロシア語の略称はCBP)の衝撃的な報告が外に漏れて話題になっている。それによると、デイビスが携帯していた書類の中に、デイビス自身かアメリカの殺人部隊として知られるTF373がアル・カイダに「核分裂物質」と「生物兵器」を提供、それらを使ってアメリカを攻撃する計画だというのである。殺されたふたりのパキスタン人はこの情報を追っていたパキスタンの情報機関ISIのエージェントだったというわけだ。 いわば、ノースウッズ作戦(偽装テロを実行、キューバに責任を押しつけてキューバに軍事侵攻するつもりだった。拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』に、この作戦に関する文書のコピーを載せている。)や「第2の9/11」を実行するつもりだということ。 アメリカは現在、戦費負担に耐えられない状況になりつつあり、ドルが国際通貨としての地位から転げ落ちそうなのだ。そこで、この攻撃を切っ掛けにして全面戦争を開始、世界経済における西側の主導権を奪い返そうとしていると警告しているのだ。 そして、この大役を任せられるのは「CIAエージェントのティム・オスマン、別名オサマ・ビン・ラディン」しかいないということのようだ。 現段階では真偽不明の情報だが、ありえない話ではない。
2011.02.27
世界的に支配体制が揺らいでいる。権力に対する恐怖の呪縛が解け、どのような独裁者でも民衆が団結して動けば倒れてしまうことに多くの人が気づいたのかもしれない。一連の抗議活動で携帯電話、Twitter、Facebook、YouTube、Ustreamなどが重要な役割を果たしたと言われているのだが、それと同時に新興メディアの果たしている役割も忘れてはならない。実際、参考になる。 米ウィスコンシン州知事に対する労働者の抗議活動はYouTubeやUstreamで映像が流され、メディアとしては中東の状況を伝えるアルジャジーラの存在感は大きい。鳩山由紀夫をインタビューした香港の鳳凰衛視(フェニックスTV)も孫崎享さんのTwitterで紹介されてから話題になっている。また、西側とは別の視点から報道している点でロシアのテレビ局も面白い。例えば、WikiLeaksのジュリアン・アッサンジに対するイギリス司法の姿勢について、ロシア国民の資産を奪ってロンドンに逃げ込んだ富豪たちと対比しつつ批判している。 第2次世界大戦後、アメリカでは報道を操作するための秘密プロジェクトが始まっている。一般に「モッキンバード」と呼ばれているが、実際の名称なのかどうかは不明だ。その中心的な存在は4名。その中でも核になっていた人物がOSSやCIAで破壊工作を指揮していたウォール街の弁護士のアレン・ダレス。 そのほか、ダレスの側近で極秘の破壊工作組織OPCの局長だったウォール街の弁護士フランク・ウィズナー、やはりダレスの側近で後にCIA長官に就任するメディア出身のリチャード・ヘルムズ、そしてワシントン・ポストの社主だったフィリップ・グラハムである。ちなみに、ヘルムズの祖父にあたるゲイツ・ホワイト・マクガラーは国際的な投資家で、グラハムの義理の父(キャサリン・グラハムの実父)であるユージン・メーヤーも金融界の大物。 要するに、巨大金融資本が情報機関という仕組みを利用して報道/情報をコントロールしてきたわけだが、そうした報道/情報支配の構図が今、崩れ始めている。
2011.02.27
米ウィスコンシン州の「インティファーダ」も衰えていないようで、大規模なデモが計画されている。公務員の医療保険負担や年金負担を大幅に引き上げ、労働組合の団体交渉権を剥奪する法案をスコット・ウォーカー知事は米ウィスコンシン州下院で強行採決に持ち込み、共和党の賛成多数で可決されたのだが、それで決着したわけではないということ。知事を操っているのが大富豪のコーク兄弟だということも広く知られるようになっている(日本では知られていないようだが)こともあり、知事や大企業の思惑通りに進むかどうかは不明だ。
2011.02.26
中東の現状を「インティファーダ」と呼んだ人がいる。イスラエルの占領と弾圧に抗議するパレスチナ人の抵抗運動が中東全域に広がろうとしているということだろう。その抵抗運動は簡単に消えそうにはない。 リビアは別にしても、25日の金曜日にイエメンでは全国で18万人が抗議行動に参加、アリ・アブドゥラ・サレー大統領の辞任を要求したと伝えられている。また、エジプトのカイロでは数千人がタハリール広場に集まって「過去に戻るな」という声を上げたが、深夜過ぎに軍は上空に向けて銃を発射、電源を落とした上で棍棒やテーザー(電線の先につけた矢を発射し、電気ショックを与える)を使って強制的に人々を排除したという。エジプト全体では数万人が抗議活動に参加したとする話もある。そのほかチュニジアやバーレーンではそれぞれ約10万人、ヨルダンでは約5000人、イラクでは数万人とった具合だ。 イラクは中東の中で女性の権利が比較的に認められていた国だったそうだが、アメリカ軍に占領されるようになってからイラクでは女性が犠牲になっている。アメリカ兵にレイプされる女性も少なくないと言われ、政府の腐敗も指摘されている。民主化を求める声はイラクでも高まっている。
2011.02.26
権力の座に執着しているらしいリビアのムアンマル・アルカダフィは傭兵を投入、反政府派と徹底的に戦う姿勢を見せている。現段階では反政府勢力が圧倒しているようだが、内乱になる可能性もある。 こうした状況を「チャンス」と判断し、「大量殺戮を防ぐため」という理由で軍事介入を主張するている人々がいることは本コラムで指摘した通り。ネオコン(新保守/親イスラエル派)のジョン・マケイン米下院議員やジョセフ・リーバーマン米上院議員は25日、イスラエルのテル・アビブで発言、リビアの反政府勢力に武器を供与し、飛行禁止空域を作れとアメリカ政府に要求したようだ。1990年の湾岸戦争前後と同じことをしろと言っているように聞こえる。 2008年以来、リビア政府はロビイストとしてネオコンの大物、リチャード・パールが在籍しているホワイト・アンド・ケース法律事務所と契約していたのだが、状況の変化でリビアに対する姿勢も変化したのかもしれない。 リビアに対する軍事行動を主張しているネオコンはマケイン、リーバーマン両議員だけではない。「外交イニシアティブ(PNACの後継団体と見なされている)」なるネオコンのグループがバラク・オバマ大統領に対してリビアに対して行動を起こすように求める公開書簡を出している。 まずリビア政府から制空権や制海権を奪うための作戦をすぐに立てるよう、NATOに対してアメリカ政府は要求すべきだと主張する。要するに戦闘機や軍艦を派遣すべきだということ。資産の凍結や石油取引の停止なども求めている。 しかし、ネオコンに人権云々する資格はない。ガザへのイスラエル軍の侵攻、ガザ支援船の襲撃、そしてアフガニスタンやイラクに対する理由なき先制攻撃と占領、それにともなう大量殺戮と破壊の少なからぬ責任がネオコンにあることを忘れてはならない。言うまでもなく、リビアの問題も「人道的立場」からの発言だと考えることはできない。 この厚顔無恥な書簡に署名した人を見ると、ジェラルド・フォード政権の時代から好戦的なグループの所属、ジョージ・W・ブッシュ政権で国防副長官を務めたポール・ウォルフォウィッツ、イラン・コントラ事件に連座、ベネズエラのウゴ・チャベス政権を倒そうとしたクーデター計画を操っていたひとりでブッシュ・ジュニア政権で中東問題を取り仕切っていたエリオット・エイブラムズ、ブッシュ・ジュニア大統領のスピーチ・ライターだったマーク・ティーセンとピーター・ウェナー、ディック・チェイニー副大統領の国家安全保障問題担当の副顧問だったジョン・ハンナ、さらにネオコンの大物として有名なウイリアム・クリストルやロバート・ケイガンも含まれている。
2011.02.26
公務員の医療保険負担や年金負担を大幅に引き上げ、労働組合の団体交渉権を剥奪する法案が米ウィスコンシン州下院で強行採決され、可決された。スコット・ウォーカー知事はスポンサーの大富豪、コーク兄弟たちの意向を受け、労働者の権利を剥奪し、組合を弱体化する政策を推し進めている。まるで日本のように。 その日本でも菅直人政権は庶民から富を大企業/富裕層へさらに移す路線を驀進中で、ウォーカー知事の行動と連動している。ともに財政赤字を理由にしているところも同じなのだが、それほど事態が深刻ならば、根本原因にメスを入れる必要がある。勿論、不公正な仕組みで富を独占している大企業/富裕層に富を社会へ還元させるということである。国外での「節税」にもメスを入れる必要がある。こうしたことを行わなければ財政赤字は改善されるはずはなく、庶民の貧困化は餓死水準まで悪化することは必至だ。(日本人に中東の人々にような勇気がなければの話だが。)
2011.02.25
エジプトの元副大統領/元EGIS長官で、アメリカのCIAやイスラエルの国防省と緊密な関係にあり、拷問の最高責任者でもあったオマール・スレイマンが銃撃されていたと報道されている。 スレイマンは2月11日にホスニ・ムバラク大統領の辞任を発表しているが、その前、2月4日に盗まれた救急車から撃たれたというのだ。未確認情報の域を出ない話だが、スレイマンが乗っていた自動車は穴だらけになり、その際にボディーガードひとりが死亡、運転手が重傷を負ったともいう。 スレイマンがクリーンな軍人などでないことはエジプト人なら知っているはずで、命を狙われても不思議ではなく、ムバラク辞任後に姿を見せなくなった理由もわかる。ムバラクの後継者どころの状態ではないのだろう。少なくとも「表の顔」になることは困難だ。ほかの軍高官としても、庶民を刺激しないよう、十分に注意を払いつつ「ムバラクなきムバラク体制」を築こうとしているのだろう。革命とクーデターのつばぜり合いは続く。
2011.02.25
リビアでカダフィ体制が崩壊する中、ロッカービーの爆破事件を思い出す人も少なくないようだ。この事件が起こったのは1988年12月のこと。ニューヨークのジョン・F・ケネディ空港へ向かってロンドンのヒースロー空港を飛び立ったパンナム103便が南スコットランドのロッカービー上空で爆破され、243名の乗客と16名の乗員が死亡、地上にいた11名も犠牲になっている。 オランダで行われた裁判によると、爆破に使われたのは東芝製ラジオカセットに仕掛けられたプラスチック爆弾。このラジオカセットが入れられたスーツケースはマルタのルカ空港でフランクフルト行きのマルタ航空機に積み込まれ、フランクフルトでパンナム103便へ移されたとされている。「持ち主」は搭乗していない。 しかし、マルタ航空の記録では該当機に積み込まれた荷物は全てフランクフルトで下ろされたことになっているほか、パンナムのフランクフルトでの担当者も持ち主がいないカバンが103便に積まれてロンドンまで運ばれた事実はないと証言している。その当時、フランクフルト空港とロンドンのヒースロー空港にはX線装置による検査が行われていた。 パンナムが独自に調査した結果によると、事件の数週間前から旅客機を爆破する計画があるとする警告が何度かなされたという。 まず、12月5日にはヘルシンキのアメリカ大使館に「今後2週間以内にフランクフルト発ニューヨーク行きのパンナム機に爆弾が仕掛けられようとしている」とする内容の電話がかかり、8日にはイスラエル軍がレバノンにあったPFLP GCのキャンプを急襲した際、パンナム機攻撃に関する文書を発見したという。また、18日にパンナム103便の爆破計画に関する警告を受けたBKA(ドイツ連邦警察)はこの情報はボンの米国大使館に伝え、さらに20日にもモサド(イスラエルの情報機関)は同じ内容の警告を伝えたという。 パンナム103便に複数の米情報機関員が乗っていたことも謎を深めた。中でも注目されたのがDIA(米軍情報局)のチャールズ・デニス・マッキー少佐とCIAのベイルート支局次長だったマチュー・ギャノン。ふたりは、レバノンで拘束されていたアメリカ人を救出する目的でDIAとCIAが編成した混成チームの中心メンバーだった。このふたりに絡んだ麻薬調査に関する話も伝わっているのだが、真偽不明なので、ここでは触れない。 ロッカービー爆破事件が起こったとき、多くの人は5カ月前の7月に起こったイラン航空機の撃墜を思い出したはずだ。アメリカ軍のミサイル巡洋艦(イージス艦)「ビンセンス」がイラン航空の655便をホルムズ海峡上でミサイルによって撃ち落としたのである。乗員乗客290名が死亡した。ちなみに、この艦船は海上自衛隊とも浅からぬ関係にある。 当初、アメリカ側はイラン機がコースを外れ、飛行高度が約2700メートルと低かったと弁明したが、コースから外れていたのは7キロメートル前後にすぎず、離陸して7分後だということを考えれば高度が低すぎるとも言えない。 アメリカ政府は6180万ドル(乗客ひとりあたり約21万ドル)を支払うことになるが、撃墜の責任は認めず、謝罪もしていない。状況から考え、きわめて不誠実な態度だと言えるだろう。 1983年9月、大韓航空007便が航路を大幅に逸脱し、アメリカ軍が定める飛行禁止空域を横切り、カムチャツカとサハリンを横断、その際にソ連軍の重要基地の上空を飛行した果てに撃墜される事件があった。その際、アメリカ軍は自分たちの規定を無視、航空機に対して警告せず、連邦航空局へも通報していない。それにもかかわらず、自分たちがソ連を激しく非難していたことをアメリカ政府は思い出すべきである。(日本政府も尻馬に乗っていた) こうしたアメリカ側の態度にイラン側が激怒するのは当然のこと。そこで、ロッカビー事件の直後、多くの人が「イランの報復」を連想したわけである。 誰が実行したにせよ、事件の根にイラン機撃墜事件があると考えている人は多い。リビア政府にロッカビー事件に関する証拠があるならば、全てを公表すべきだ。 今回、リビア政府はジャミングで通信を妨害したと言われているが、1978年にリビアへジャミング装置を売ったのは「元CIA」。この頃には武器の売却も行われていた。つまり、遅くともこの頃からリビアとアメリカの情報機関はつながっている。こうした関係も明らかにしてもらいたいものだ。リビア側は「保険」として隠すだろうが・・・。
2011.02.25
リビア北東部の都市、ベンガジは反政府派が完全に制圧し、人々は「自由」を祝っているという。ただ、人々は王制時代の旗を持ち出しているようで、「自由」をどのようにとらえているのかは、現段階では判断できない。現政権に反対する意思表示として、とりあえず前時代の旗を持ち出したと理解できるだろうが、王制時代に戻りたくないという意志が明確ならば、そうした旗を持ち出すことはなかっただろう。少々危うい。 東部の抵抗運動を鎮圧するため、ムアンマール・アルカダフィは息子のサイフ・アルアラブを派遣していたのだが、この人物も反政府派に加わったとも言われている。軍の内部でも命令に背く将兵も少なくないようで、体制は崩壊状態だと言えるだろう。イギリスではアルカダフィの預金を凍結する動きに出ているようだ。 エジプトの場合、支配者(アメリカ)と統治者(ホスニ・ムバラク)が別人格だったので、体制護持のためにムバラクは切り捨てられ、ある程度の「ガス抜き」に成功したわけだが、リビアの場合は支配者と統治者が一体で、状況は泥沼化している。 カダフィ一族は欧米の支配者にとっては扱いやすいタイプの人間に堕落していたわけだが、その欧米、特にアメリカでも強欲な支配者に対する反乱が始まっている。そうした雰囲気を感じた支配層が作り上げたのが「ティー・パーティ」だが、その実態も最近では露呈している。 米ウィスコンシン州での抗議活動の相手はティー・パーティのスコット・ウォーカー知事。この人物は大企業/富裕層、とくにコーク兄弟からの支援を受けている。このウォーカー知事と巨大資本との関係はティー・パーティの本質を明確にした。アメリカの場合、中東のような劇的な展開になるとは思えないが、同じ風が吹いている。
2011.02.25
ザックリ言って、米ウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事が行おうとしていることは巨大資本による自治体の乗っ取りである。そのウォーカーが本音を語っている会話(Part 1、Part 2)がYouTubeにアップされ、話題になっている。知事の大スポンサーであるコーク兄弟のひとり、デイビッド・コークの声色を真似て電話したイアン・マーフィーに対し、ペラペラと話し続けた会話が録音されていたのだ。知事は最後まで相手が偽者だとは気づかなかったらしい。何とも間抜けな話ではあるが、その間抜けな男にウィスコンシン州の庶民は生活を破壊されようとしている。愚かな人間に支配される・・・まるで日本。
2011.02.24
リビア情勢は時々刻々、悪化し、犠牲者数は1000人を超えたとする話も伝わっている。そうした中、反政府勢力が相当の地域をコントロールしているという話が流れ、ムアンマル・アルカダフィは徹底的に戦って殉教すると宣言している。 こうした状況を「チャンス」と判断しているのが中東/北アフリカを支配してきた欧米の一部支配層たちで、中には「大量殺戮を防ぐため」という理由で軍事介入を主張する人も出てきたらしい。ユーゴスラビアを先制攻撃して以来、定番になった軍事侵略の口実。東アジアでも準備を進めている。 遅くとも1998年にアメリカ軍は、朝鮮に対する体制の不安定化→先制攻撃→体制転覆→傀儡政権の樹立という作戦OPLAN 5027-98を、1999年には朝鮮の金体制が崩壊した場合を想定したCONPLAN 5029(後にOPLAN 5029)も作成している。黄海で朝鮮と韓国の艦船が交戦したのは1999年のことだった。ともかく、体制が揺らいでいるとき、軍事侵攻して自分たちに都合の良い体制を築くという戦略はアメリカのパターンだ。 で、リビア。かつては「反米」でならし、イスラエルを敵視していたはずなのだが、最近ではそうでもない。治安当局がイギリスの訓練を受けていたことはすでに書いたことだが、それだけではない。2008年以来、リビアのロビイストを務めていたホワイト・アンド・ケース法律事務所ではネオコンの大物、リチャード・パールが在籍しているのだ。その前、2006年にパールはリビアを訪問、アルカダフィと会談し、ディック・チェイニー副大統領に内容を報告していることを示す文書が存在する。 少なくとも最近では、革命の「理想」よりも体制を「護持」することにアルカダフィは熱心だったようだ。
2011.02.23
ウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事は、公務員の医療保険負担や年金負担を大幅に引き上げ、労働組合の団体交渉権を剥奪する政策を強引に推進しようとしていることは本コラムですでに指摘した通りだが、その理由を財政赤字にしていることに対し、アメリカでは大きな疑問があると指摘する声が出ている。 今年度の残りの期間、1億2140万ドルの黒字になると同州の財政局は報告していることが先ず一点。ミネソタ州との税金問題、健康管理や刑務所のコストアップがあると知事側は主張しているようだが、それでも緊急性があるとは言えない状態だということである。 また、来年度の赤字は36億ドルに達すると知事は主張している。確かに財政状態が悪いことは確かなのだが、前知事の時代は59億4000万ドルの赤字だったので、かなり改善されているという反論がある。59億4000万ドルの赤字でも労働者の基本的な権利を奪うほどの事態ではなかったということ。おそらくウォーカー知事も本音では緊急性を感じていないらしく、1億4000万ドルの大企業に対する税の優遇措置を1月に決めている。 要するに、ウォーカー知事が叫ぶ財政危機はインチキであり、ある目的を達成するために作り上げた幻影だということ。その目的とは、ウォーカー知事のスポンサーたち、つまり大企業や富裕層を豊かにさせ、庶民から搾り取る仕組みを導入することだ。実際、米国有数の富豪であるコーク兄弟が知事の重要なスポンサーだということは本コラムでも指摘した。 赤字を理由にして庶民から富を搾り取る一方、大企業や富裕層を優遇するという政策は日本でも採用されている。特に、中曽根康弘内閣からひどくなった。国鉄の赤字は政策的な背景があり、年金などは意図的に赤字を演出、かなりの額が流用されている疑いが濃厚だと言える。年金名簿の問題も、そうした流用を誤魔化すために実行された可能性さえあるだろう。 マザージョーンズ誌の記事を見ても、ロナルド・レーガン政権以降、アメリカで収入を大幅に増やしているのは(おそらく日本でも)上位約1%の高額所得者だということがわかる。上位20%になると、「やや上昇」程度だ。その結果、上位20%が富の約85%を独占することになった。これだけ富が集中するのは、そういう仕組みになっているからにすぎず、高額所得者の能力や努力の結果ではない。 2007年から09年までの期間にウォール街は720%の増益を達成したのに対し、失業率は102%の増加。2010年の貨幣価値に換算して100万ドル以上の非投資収入を得ている富裕層の税率は、フランクリン・ルーズベルト時代、1945年の66.4%から下がり続け、レーガン政権では47.7%、そしてジョージ・W・ブッシュ政権に至っては32.4%にまで引き下げている。その結果、富裕層への富の集中が加速されたわけである。 だが、支配層は自分たちの税負担をさらに減らすつもりだ。「カジノ経済」が破綻して大恐慌へ突入する1929年には13.4%、第1次世界大戦の直前、連邦所得税がスタートした1913年には1.6%にすぎない。日本の支配層もアメリカと同じ道を進もうとしているのだが、最終的には自分たちも餌食になることを忘れるべきではない。(その前に死んでしまうので、かまわないと思っているのだろうが。)
2011.02.23
内閣情報調査室の下に新たな情報機関を設置するため、日本の内閣情報官や公安調査庁長官がアメリカの国務省情報調査局長と話し合っている。この話は本コラムでもすでに取り上げたことだが、今回は内閣情報調査室の「創世記」を振り返ってみたい。 この部署の歴史は1952年4月、内閣総理大臣官房調査室(内閣調査室)が設置されたときに始まる。初代室長の村井順は国警本部の警備部警備第一課長だった人物で、後に綜合警備保障を創設する。 1953年9月、ある事件によって村井が注目されることになった。ロンドンの税関で腹巻きの中に隠していた闇ドルが発見されたのである。 スイスで開かれるMRA(道徳再武装)大会へ出席するという名目での旅行だったが、実際は西ドイツのボンに滞在していたアレン・ダレスCIA長官に会い、新情報機関に関する助言を得ることにあったと言われている。ボン空港に到着すると間もなく、村井はイギリスの情報機関員と思われる人物から尾行されるようになり、ロンドンでの出来事につながったようだ。 当時、内閣調査室で仕事をしていた人物によると、調査は全て下請けに回され、下請け団体は2通の報告書を作成していたという。1通は内閣調査室向け、もう1通はCIA向けである。CIA向けの報告書は内閣調査室向けのものの10倍程度の厚さがあったという。言うまでもなく、情報量もそれだけ違う。 そもそも、MRAはCIAの影響下にある「疑似宗教団体」だと言われているのだが、日本の支配層でのしあがる登竜門としても知られている。例えば、岸信介や三井本家の弟、三井高維(みついたかすみ)、そして中曽根康弘らが参加していた。中曽根はそこでヘンリー・キッシンジャーなどCFR(外交問題評議会)のメンバーと知り合うことにも成功したという。 内閣情報調査室は、最初からCIAの下で組織されているわけで、「新たな情報機関」もアメリカの手先になると考えるべきだろう。オーストラリアやニュージーランドでもそうなのだが、情報機関のネットワークを利用して各国政府をコントロールするのがアメリカ支配層の手口だということも忘れてはならない。(今より組織的な日本支配の仕組みができあがるということ。)
2011.02.23
イラン軍の艦船がスエズ運河に入ったようだ。結局、イスラエルが大騒ぎしただけ。それより、リビア、バーレーン、パキスタン、そしてウィスコンシンなど大変な出来事が世界中で起こっている。
2011.02.22
すでにインターネット上では話題になっているが、内閣情報調査室の下に新たな情報機関を設置する動きがあると報道されている。オーストラリアのシドニー・モーニング・ヘラルド紙によると、WikiLeaksから提供された在東京米国大使館の文書にそうした事実が示されているのだという。 2008年10月、内閣情報官の三谷秀史がランダル・フォート米国務省情報調査局長と会談、「人を使った情報活動」、いわゆるHUMINTについて話し合っていることを文書は明らかにしている。公安調査庁の長官だった柳俊夫はフォート局長に対し、テロに関する情報のほか、朝鮮と中国に関する情報を日本は最優先にしているとしている。 新情報機関の設置は福田康夫と麻生太郎両政権のときに決まったようだが、アメリカ側はエージェントの訓練を急がせているようで、2006年にはフォートから日本のビジネスマンや商社マンのネットワークから協力者を指名するように促している。 アメリカやイギリスの状況を調べると、情報機関で最大の問題は破壊工作(テロ行為)部隊が潜り込んでくることにある。アメリカが主導権を握っているようなので、危険性は高い。また、日本国内で反戦/平和、あるいは環境問題と取り組んでいるような人や団体、つまり巨大企業の利益に反する行動をしている人たちも監視の対象になる可能性が高い。日本もアメリカ流の監視社会、警察国家、ファシズム体制が導入されそうだ。ここに日本流の監視システム、相互監視社会が結びつくと、アメリカよりひどいことになりそうだ。
2011.02.22
現在、アメリカとパキスタンとの関係が微妙になっている。先月の27日、パキスタン北東部にあるラホールでアメリカ人、レイモンド・デイビスがパキスタン人を射殺した事件が直接的な原因。当初、アメリカ側はデイビスが現地の領事館へ赴任してきた人物で、外交特権があると反論、すぐに釈放するように求めていたのだが、最近になってCIAのエージェントだと判明し、事件には複雑な背景があると見られはじめている。 デイビスの主張によると、オートバイに乗ったふたりの男が強盗のために近づいてきたのでひとりを射殺、逃げるもうひとりも射殺したのであり、正当防衛だと主張していた。その際、デイビスを助けに来た車両が別のパキスタン人を殺害している。 パキスタン西部、アフガニスタンとの国境に近いワジリスタンでは週に何度も無人機による攻撃があったのだが、デイビスが逮捕されてから攻撃がなくなった。そこで、ラホールでの事件と無人機の攻撃が止まったことに関係があるという噂が広まりはじめた。 実際、逮捕前にデイビスは何度かワジリスタンを無断で訪れていたことが判明、彼が目標設定用のGPSを持っていたこともわかった。そこで出てきた噂が、殺されたパキスタン人は同国の情報機関ISIの人間ではないかというもの。単なる強盗事件でも、ランボーまがいのアメリカ人による殺人事件でもなく、スパイ映画のような話になってきたわけだ。 そして、判明したのがデイビスの素性。CIAの人間だということが判明したのである。特殊部隊を経てXe(ブラックウォーター)で働き、CIAに雇われ、外交旅券でパキスタンに入国したという。要するに破壊工作部門の人間。着ている衣服が変化しているだけのように見える。 そして2月21日、デイビスが逮捕されてから初めてワジリスタンで無人機による攻撃があり、15名以上が殺されたという。
2011.02.22
WikiLeaksが公表したサンチアゴ発の電信によると、チリの情報機関の協力を受け、イスラエルはイランのラテン・アメリカでの影響力やイスラム教徒の移民を監視ししているようだ。イスラエルとチリとの関係が深まったのは20世紀の半ばだとしているが、1980年代にはこの関係がアメリカの利害と衝突するということもあった。 当時、アメリカにはチリを経由してイラクへクラスター爆弾を含む武器/兵器を輸出するグループがいた。このグループにはジョージ・H・W・ブッシュやロバート・ゲーツが含まれていたのだが、イスラエルはこうした取り引きを喜ばず、攻撃する。その結果、出てきた話が「イラクゲート事件」。このときもチリとイスラエルとの緊密な関係が機能していた。
2011.02.21
財政赤字の理由は単純でないが、大企業と結託した政治家や官僚の無駄遣い、大企業が労働者や下請け企業へ適切な対価を支払わず、その負担を行政が肩代わりさせられていることなどが大きい。 その根底にある「思想」が新自由主義であり、社会ダーウィン主義である。映画の台詞を借りるならば「強欲は善」という考え方。支配層が最も恐れるのは庶民の団結であり、社会/共同体を否定している。 アメリカのウィスコンシン州ではスコット・ウォーカー知事が財政赤字を理由にして、警察や消防を除く公務員の医療保険負担や年金負担を大幅に引き上げ、労働組合の団体交渉権を剥奪するという日本のような政策を押しつけようとしている。チリでアウグスト・ピノチェトが導入、工業国ではイギリスのマーガレット・サッチャーが最初に導入した新自由主義は社会を崩壊へと導き、経済活動は破綻、投機(博奕)だけが盛んという異様な世界を築き上げた。 新自由主義経済の正体はばれてしまったのだが、それであきらめないのが強欲な人々。ティー・パーティーという「草の根運動もどき」を作り上げて逆襲に転じている。そのひとつの結果がウォーカー知事の政策である。 しかし、こうした政策を唯々諾々と聞く人ばかりではない。1万9000通の電子メールが「物言わぬ多数派」から寄せられていると知事が発言したのに刺激され、通りは抗議活動に参加する人々で埋め尽くされることになった。8万人が抗議活動に参加したとも言われている。州都マディソンの議事堂周辺には4万人ほどが集まり、抗議活動に参加していたジェシー・ジャクソンは議事堂の中へ入り、約8000人を前に演説したという。 このウォーカー知事を後押ししているのが大富豪で石油関連企業を所有しているチャールズ・コークとデイビッド・コークの兄弟。2010年の選挙戦で共和党に100万ドルを寄付し、ウォーカー個人には判明しているだけで10万ドル以上が渡っているという。選挙戦では共和党がウォーカーの対立候補をテレビCMで激しく攻撃したが、その重要な資金源がコーク兄弟だったことは間違いない。 また、この兄弟は気候変動の研究を攻撃するキャンペーンのスポンサーとしても有名で、大気汚染にうるさい気象学者を排除し、あらゆる規制を撤廃させようとしている。さすが、石油を売って大儲けしてきた一族。
2011.02.21
現在、バーレーンやリビアで反政府運動が盛り上がり、治安部隊や軍が激しい鎮圧作戦を展開、失敗に終わっている。この2カ国のほか、アブダビ、カタール、サウジアラビアの治安部隊はイギリスの訓練を受けている。 エジプトの場合はアメリカのFBIが秘密警察SSISを訓練していた。情報機関を率いてきたオマール・スレイマン副大統領はアメリカで特殊工作の方法を伝授され、CIAとも緊密な関係にある。 一連の出来事を見ていると、英米流の治安対策が間違っていることがわかる。暴力/恐怖で支配する時代は過ぎ去ったことを認識すべきなのだが、民主化されると自分たちの利権が脅かされる支配層は暴力/恐怖に頼りたがる。米英追随の日本でも同じことが言える。 かつてヨーロッパの列強は武力を使い、アジア、アフリカ、南アメリカなどを植民地化して富を吸い上げていた。戦後は独裁政権を樹立させて間接的に支配、独裁体制と金融システムを組み合わせて富を吸い上げてきた。クーデターなど力尽くで潰された民主的な政権は少なくない。 独裁体制を支える暴力装置を作る目的で、アメリカは1946年にパナマでLAGS(ラテン・アメリカ拠点訓練所)を設立、1963年にはSOA(米州訓練所)へ改名、1983年には場所をアメリカ国内へ移動させ、2001年にはWHISC(またはWHINSEC、西半球安全保障協力研究所)に再度改名している。 この学校の出身者が自国へ戻り、独裁体制の暴力装置を築き上げ、反政府勢力(民主化を求める人々)を弾圧、つまり拉致、監禁、拷問、殺害してきた。こうした工作を実行するため、「死の部隊」も編成された。だが、LAGS/SOA/WHISCの仕組みはすでに破綻している。
2011.02.21
ロイターによると、イラン軍のフリゲート艦と補給艦は月曜日(21日)にスエズ運河を通過して地中海へ入る予定だという。エジプトの中央で決定した通行許可が現場に届くまで随分、時間がかかった。 ところで、16日にはアメリカの空母、エンタープライズがスエズ運河を逆方向に、つまり地中海から紅海へ抜けていた。アメリカとしては、狭い紅海の中でイランの艦船と遭遇したくなかったかもしれない。空母の派遣はエジプトやバーレーンの情勢と無縁ではないだろう。 そのバーレーンでは民主化を要求する声が納まらず、抗議グループが「真珠ロータリー」を再占拠している。サウジアラビアを含む湾岸の産油国は火の粉が自国へこないように、さまざまな支援をしているようだが、なかなか難しい。時代は動いている。イスラエルの非人道的な暴力行為を批判する声も大きくなっている。 19日には国連の安全保障理事会でイスラエルの入植活動を違法だと非難する決議の投票があり、15理事国のうち14カ国が賛成したのだが、アメリカの拒否権で葬り去られている。エジプトで反独裁の抗議活動が盛り上がっていたとき、アメリカ国務省の広報担当官、P. J. クロウリーはホスニ・ムバラクを支援する理由はイスラエルとの友好関係にあると、思わず口にしている。アメリカの利益など考えないイスラエルを必死に守ろうとするアメリカ政府。アメリカはイスラエルとともに衰退していく。
2011.02.20
リビアの反政府行動で多数の死傷者が出ているようだ。リビア軍は実弾を発射しているようで、死者は数十人とも200人とも言われている。ジャミングでアルジャジーラの通信は妨害されていると伝えられているが、それほど必死に情報が漏れないようにしているのだろう。そうしたこともあり、実態は明確でないが、相当の犠牲者が出ていることは確かなようだ。 抗議行動に参加し、逮捕された人の中には外国人が含まれていると政府側は発表している。そうした外国人の中にはチュニジア人、エジプト人、スーダン人、パレスチナ人、シリア人、トルコ人が含まれているという。 混乱の背後でイスラエルが関与している可能性をリビア政府は主張しているのだが、根拠があるわけではないようだ。アメリカやイスラエルがイランを持ち出すのと同じだ。かつて、バーレーンも国内の不安定化をイランのせいにしていた。 もっとも、アメリカやイスラエルが過去に行った手口をみると、自分たちが築き上げたネットワークを利用して示威活動を展開し、ターゲット国を揺さぶってきたことは確か。1953年のイランにしろ、1965年のインドネシアにしろ、1972年のチリにしろ、示威行動の背後にアメリカがいた。最近の例では、ベネズエラやホンジュラスでも同じことをやった可能性がきわめて高い。 とは言うものの、今回のリビアもそうだとは、少なくとも現段階では、言えない。いずれにしろ、実弾の使用は最悪の選択だった。
2011.02.20
スエズ運河に向かっているとされるイラン軍の艦船に関する情報が混乱している。2月18日にエジプト軍の内部から、軍はイラン艦船の運河通過を許可したという話が伝わってきたのだが、運河を管理している責任者によると、許可をまだ受け取っていないのだという。軍の指揮系統が混乱しているのかもしれない。 そのエジプト軍、ホスニ・ムバラクが退場した後、経済活動への影響を理由にしてストライキや抗議活動を禁止すると宣言している。さすが、巨大資本化している「軍隊」だけのことはある。カネ儲けにとって都合の悪い混乱だけは早く終わりにしたいのだろうが、民主化など本気で実行する気はない。 反ムバラク派の一翼を担っている「4月6日運動」の幹部がアメリカの政府やシンクタンクの人間と2008年12月に会っているようなので、こうした人脈も現アメリカ政府も利用していることだろうが、こうしたことで押さえられないエネルギーが中東では吹き出している。 ただ、チュニジアで燃え上がった炎はエジプト、イエメン、バーレーン、ヨルダン、リビアなどへ燃え広がっているわけで、再びエジプトで革命の火が燃え上がる可能性も十分にある。いずれにしろ、これからが正念場。
2011.02.19
エジプト当局はイラン軍の艦船がスエズ運河を通過する許可を出したようだ。そもそも目くじらを立てるような話ではなかったのだが、イスラエル外相が戦争を臭わせる発言で激しく非難したことで問題になっていただけのこと。通過を拒否した場合、「ムバラクなきムバラク体制」もアメリカやイスラエルの言いなりだという印象を国民、そして世界に発信することになる。これは得策でないと考えたのだろう。他の親アメリカ/親イスラエル独裁国家にとっても好ましい行動ではないわけで、アメリカ政府も承諾したはずだ。 エジプトでは民主化を求める人々の抗議行動をひとまず押さえ込むことに成功しているが、「ムバラクなきムバラク体制」が民主化への道を進むとは言えない。ホスニ・ムバラクやその取り巻きを切り捨てることで体制を守りたいと考えているだけのこと。今はクーデターと革命が同時進行している状況だ。いつ爆発してもおかしくはない。 さらに、反政府行動はバーレーン、イエメン、リビアなどでも激しくなっている。バーレーンでは抗議活動を行っていた人々が占拠していたロータリーを治安部隊が未明に襲撃して人々を排除、軍隊も出てきて多数の死傷者を出した。治安部隊や軍隊の中にはヨルダン、パキスタン、イエメンなどの傭兵が含まれているようだ。 また、数十人が殺され、東部は政府がコントロールできていないと報道されているリビアでも似た状況があり、チャドから傭兵を雇い入れているという。いずれにしろ、支配層の危機的な状況が推測できる。 イスラム諸国で独裁体制が揺らいでいるということは、アメリカの中東支配体制が揺らいでいるということでもある。例外的な時期もあるが、基本的にアメリカの支配層は民主主義を憎悪してきた。中東の民主化は彼らにとって悪夢である。 しかし、そうした中でもイスラエルに気を遣うのがアメリカ政府。イスラエルはパレスチナ領とされている地域に違法な入植を続けているため、国連の安全保障理事会で非難決議を採択する動きがあったのだが、アメリカが拒否権を行使して葬り去ってしまった。アメリカやイスラエルの言いなりだったことを暴露されたパレスチナ自治政府もアメリカのために動くことはできないだろう。 ちなみに、ほかの理事国、つまりイギリス、中国、フランス、ロシア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ドイツ、ポルトガル、ブラジル、インド、南アフリカ、コロンビア、レバノン、ガボン、ナイジェリアの14カ国は全てイスラエルを非難する決議に賛成している。
2011.02.19
スエズ運河に向かっているとされたイランのフリゲート艦と補給艦に関する情報が錯綜、まるで「消えてしまった」ようである。 イランの艦船がスエズ運河に向かっていると発表したのはアメリカ政府。スエズ運河の入り口でイラン艦船が立ち往生・・・こんな話がいきなり飛び出した場合の衝撃よりも、事前に情報を流しておいた方がショックは少ないとアメリカ政府は考えたかもしれない。また、イスラエル外相はイラン艦船のスエズ運河がイラン攻撃の引き金になると非難している。 ところがエジプト当局はイラン側から軍艦のスエズ運河通過を通告してきていないと発言、エジプト側がイラン艦船の通過を阻止したとする情報も否定しているようだ。アメリカやイスラエルの顔色をうかがってイランの艦船がスエズ運河を通過させなかったとなると、エジプトは新たな混乱要因を抱え込むことになるわけで、対応に苦慮しているのだろう。 そもそも、イラン艦船がスエズ運河を通過するということ自体は大した問題でない。今回の問題はイスラエルが必要以上に危機を煽っていることにある。(核)戦争で世界を脅しているつもりかもしれない。 何しろ、ガザへの支援船を襲撃した問題にしても、違法な入植活動にしても、評判は最悪。「イスラエル・ボイコット」も続いているようだ。イスラエルのイメージを改善させるという仕事をノルウェーの5大PR会社が断るほど、イスラエルの置かれている状況は悪化している。
2011.02.18
スエズ運河を通過してシリアへ向かおうとしていたイラン軍の艦船2隻をエジプト当局が阻止した。イスラエル外相の発言に答えた形である。アメリカとイスラエルへの気遣いはさすが。「ムバラクなきムバラク体制」だけのことはある。日本ではイラン艦船の通行計画をストレートに挑発と表現しているが、日本以外では「挑発」と括弧付き、つまりイスラエルに言わせると、という態度のメディアが多いようだ。 2009年に本コラムでも書いたのだが、この年の6月にイスラエルの潜水艦がエジプトの艦船にエスコートされて地中海から紅海へ入っている。核ミサイルを発射できるドイツ製のドルフィン級潜水艦で、さらに2隻の軍艦が紅海へ派遣された。それまでイスラエルは情報面の理由からスエズ運河を使わなかったのだが、今回はイランへの「示威行動」ということで、あえて姿を見せたわけだ。だからこそ、イランの艦船がスエズ運河を通過することが許せないのかもしれない。 これでエジプト軍がどこを目指しているのかが、一層明確になってきた。やはり革命は道半ばである。
2011.02.17
イスラエルのアビグドル・リーバーマン外相が「イランの挑発行為」を叫んでいる。2隻のイラン軍艦がスエズ運河を通過してシリアに向かうことを非難したのだ。イランとシリアは友好的な関係にあるわけで、別に不思議でも何でもない話だが、イスラエルとイランとの間で緊張が高まったとして石油市場が反応し、ブレント原油価格は100ドルを突破している。 中身のない批判なので、この発言が石油相場を大きく押し上げる要因になるとは考えにくいのだが、昨年の後半から上昇トレンドにあることも事実。この程度の発言にも敏感に反応する状態だと言うこともできるだろう。 リーバーマン外相のイラン非難は、彼の個人的なパフォーマンスという見方もあるが、それはともかく、イスラエルのことを考えないと大変なことになるぞと同外相は世界を恫喝しているつもりなのだろう。 エジプトでホスニ・ムバラク大統領が辞任した(または辞任させられた)直後にアメリカ統合参謀本部のマイク・マレン議長がヨルダンとイスラエルを訪問して「安全保障」について話し合ったというが、その内容にリーバーマン外相は満足できなかったのかもしれない。 最近、アメリカではランド・ポール上院議員がイスラエル支援を打ち切るべきだと主張しているが、内心、そう思っているアメリカ人は少なくない。裏で戦争ビジネスをはじめ、アメリカの支配層と結びついているとはいうものの、イスラエルとしては気になる動きだろう。
2011.02.17
リビアで反政府派が治安部隊と新政府派と激しく衝突していると伝えられている。リビアは一般に「反米」と見られているが、1980年代に発覚した「イラン・コントラ事件」でアメリカの情報機関とリビア政府が緊密な関係にあることが露呈している。ムハマール・ムハマード・アルカダフィは権力者としてなかなかしたたかだということ。ただ、年齢の問題もあり、近い将来に体制が揺らぐ可能性はある。
2011.02.16
エジプトの支配層は「衣替え」に忙しいようだが、その実態は「ムバラクなきムバラク体制」の安定化にほかならない。真の民主化など目指してはいない。そんなことをすれば庶民から富を吸い上げる仕組みが崩れてしまう。エジプトを中東支配、つまり中東から富を吸い上げる仕組みの要にしてきたアメリカ、イスラエル、ヨーロッパにとっても都合の悪い事態になる。日本にとっては中東が民主化してもマイナスにはならないと思うが、何しろ支配層はアメリカの言いなりなので、少なくとも日本の支配層も民主化には消極的だ。 チュニジアやエジプト、最近ではイエメン、ヨルダン、そしてバーレンでも民主化を求める抗議行動が繰り広げられ、バーレンでは民主化を唱えていた人が射殺され、国王が謝罪する事態になっているようだが、こうした行動のエネルギーは「生命活動」に根ざしている。人間として生きることを否定された人々の怒りだ。 アメリカやイギリスの親イスラエル派が主導した中東への軍事攻撃で社会基盤が破壊され、多く(おそらく100万人以上)の住民が殺されている現実、そうした事態に何ら有効な手を打てない親米/親イスラエルの独裁国家に対する反発だけではなく、新自由主義経済の導入による支配層への富の集中と庶民の貧困化への怒りが根底にある。そうした意味で、新自由主義経済への完全復帰を求めるイランの反政府行動は異質なのだ。(現政権も新自由主義経済からの完全な離脱は困難なようだが。) イラクを先制攻撃する前、アメリカ政府は「大量破壊兵器」の存在を声高に叫んでいたのだが、その情報源のひとつとされたのが「カーブボール」という暗号名で呼ばれていたラフィド・アーメド・アルワン・アリジャナビ。彼はガーディアン紙のインタビューで、嘘をついた理由として「民主化」を挙げていた。アメリカ政府も民主化をもたらすようなことを言っていた。 しかし、アフガニスタンやイラクが民主化されたなどとは到底、言えない。破壊と殺戮と腐敗の国になってしまった。フランクリン・ルーズベルトやジョン・F・ケネディは本気で民主主義を願っていたようだが、これは例外。基本的にアメリカの支配層はカネ儲けにしか興味はなく、民主主義を嫌っている。だからこそ、民主的なプロセスを経て成立した政府を暴力的に倒し、独裁体制を樹立させてきたのだ。エジプトもそのひとつ。今回のエジプト革命(現在進行形だが)でアメリカやヨーロッパが掲げる「民主化」の欺瞞性も明確になった。 エジプト革命はもうひとつ、大きな影響をアメリカやイスラエルに及ぼしたとする指摘がある。イラン攻撃が難しくなったというのである。もっとも、これはアメリカにとっても朗報かもしれない。何しろ国家としてのアメリカは戦費負担で沈没しそうなのだから。
2011.02.16
ホスニ・ムバラクの退場でエジプト革命の第1幕は終わったものの、革命劇はまだ続いている。体制を守るためにムバラクは切り捨てられたのであり、オマール・スレイマン副大統領、つまりEGIS(エジプト総合情報局)「前」長官が居座っている一点を見ても、革命が成功したと言えないことは明らかである。クーデターが進行中だとも言える。勿論、革命が敗北したわけでもない。これからが正念場なのである。 前にも書いたように、エジプト軍は巨大資本としての側面を持っている。まず、経済活動を復活させてカネ儲けを再開したいはず。だからこそ、街中から抗議活動を一掃し、ストライキを禁止する。観光客を呼び込む準備を早く終えたいという気持ちもあるだろう。民主化など実行するつもりはないだろう。軍にまかせていたなら、「適切な時期」など永遠に来ない。 アメリカにしろ日本にしろ、巨大資本が労働者の権利を認めようとしないのと同じように、エジプト軍も労働者の権利など認めない。エジプトも「私有化」と「規制緩和」で一部の人間に富が集中し、貧富の差が拡大したわけで、社会問題の根はアメリカや日本と同じである。 ただ、エジプト経済にとってアメリカからの援助は大きな意味はない。何しろ、そうした資金は支配層の懐、いやスイスあたりの銀行にある支配層の口座へと流れていくだけだからだ。エジプトを民主化するためには、少なくとも現在の軍幹部を追放する必要がある。エジプトの民衆がその気になれば、十分に可能な話だ。
2011.02.14
イエメンとアルジェリアで民主化を要求する数千人規模のデモが行わ、アルジェリアではインターネットが機能停止になり、数百人の逮捕者を出したという。まだ大規模な抗議活動とは言えないが、支配層は早い段階で潰そうと必死のようだ。 国家単位で見ると、チュニジアやエジプトのように独裁者を排除するほど盛り上がった国もあるが、全体としてはさほどでない。それにもかかわらず、各国の支配層が神経質になっているのは、中東全体で庶民が目覚めつつあることを感じているからではないだろうか。「汎アラブ主義」の復活を指摘する声もある。 これまでイスラム諸国の独裁者はアメリカやイスラエルにすり寄り、庶民を弾圧して私腹を肥やしてきた。その一方でアフガニスタン、イラク、パレスチナで住民が殺戮される様子を眺め、手をこまねいているばかりだった。そうした支配層に対する怒りがかつてはPLOを生み出し、最近では急進的なイスラム武装勢力への支持につながっている。 それに対し、チュニジアで始まった今回の民主化運動は「草の根革命」。「前衛」が指導する旧来の革命とは違い、明確な指導者が存在しない。弾圧も難しいということだ。日本のマスコミはアメリカの親イスラエル派(ネオコン/シアコン)の支配層が目指す「世界秩序」にとって邪魔な人物を倒すべき独裁者としたがる傾向が強いが、アメリカでも革命のエネルギーは溜まりつつある。そして沖縄でも。
2011.02.13
エジプトの話が続いたので、アメリカの話をひとつ。 近年、アメリカでは「ティー・パーティー」と称する「草の根運動」が盛り上がっていた。その主張を聞いてみると、結局、巨大企業や富豪にとって都合の良い仕組みを強化して庶民から搾り取ろうというもので、いわば支配階級の別働隊にすぎないのだが、中には興味深い人物も加わっている。規模が大きいため、こうした人が入り込む余地があったのだろう。 その人物とはロン・ポール下院議員と息子のランド・ポール上院議員。連邦準備制度を批判するほか、軍事予算の削減を求め、息子はイスラエルへの援助も辞めるべきだと主張している。アメリカにも変化の兆候が出ているとは言えるだろう。
2011.02.13
強欲な人間はカネで全ての方がつくと思っているのかもしれないが、中東で親米/親イスラエルの独裁体制が崩壊する中、バーレーンでは各家庭に3000ドルずつ配るのだという。何ともはや・・・いや、日本でも似たようなことを考える連中がいた。ただ、その一方で庶民からさらに厳しく絞り上げる仕組みを完成させようとしているわけで、国民を愚弄するという点では日本の方がひどい。
2011.02.13
ほかの独裁者と同じように、ホスニ・ムバラクは巨万の富を溜め込んできた。つまり、庶民から盗み取ってきた。その額は70億ドルとも700億ドルとも言われ、スイスの銀行口座のほか、アメリカ、イギリス、フランスなどに隠している。 11日にスイス当局は、ムバラク本人やその家族の資産を凍結すると発表しているが、調査の手が及ばないように隠すのがスイスの金融機関の仕事。ほかのタックスヘブンも同じだ。本来なら各国政府が「制裁」しなければならないのだが、何しろ各国政府の要人たちも顧客なわけで、犯罪的ビジネスは大繁盛だ。スイス当局が本気だとも思えない。 それでも、人々の要求で当局が動くこともありえる。一部でも回収されることを嫌っているだろうムバラクは抗議行動が盛り上がる中、イギリスやスイスから別の場所、例えばアラブ首長国連邦やサウジアラビアへ移していたとも伝えられている。ただ、息子たちが「ビジネス」に投じてきたカネは捕捉されてしまうだろうが。 エジプト軍の思惑とは関係なく、ムバラクを裁判にかけるべきだという声がエジプト国民の中から湧き起こっている。国民を弾圧し、その富を盗んできた罪で罰するべきだというわけだ。エジプトからの国外逃亡も視野に入ってきた。本人の意志か、まわりの意志かは別にして。ただ、すでにチュニジアの独裁者が逃げ込んだサウジアラビアは難しい。もし、またサウジアラビアが受け入れたならば、独裁者の国という批判で今度はサウジアラビアが揺らいでしまう。ムバラク体制からカネを受け取っていた国や企業も気が気ではないだろう。
2011.02.13
ホスニ・ムバラク大統領の「辞任」にともない、エジプトでは60日以内に選挙を行う必要があるはず。実施されるかどうかはエジプトが「民主化」に向かっているのかどうかをチェックするひとつの試金石になる。 アメリカが仕組んだ政変なら短期間に、反対勢力が準備できない間に「選挙」を行って傀儡政権を作り上げるのだが、今回はアメリカ政府の準備ができていない可能性が高い。すでに民主化を要求する人々への軍や秘密警察の弾圧は激しくなっているようだが、そうした人々を一掃することは難しだろう。軸になる人物、政党が存在しないのでアメリカの意向に添う政権を樹立できると見通しているのだろうか、あるいは屁理屈をこねて時間稼ぎをするのだろうか? 言うまでもなく、ムバラクやオマール・スレイマンたちを操ってきたのはアメリカであり、イスラエルも緊密な関係を維持してきた。だからこそ、ムバラク退陣を求める運動が盛り上がったときにガザから食糧がエジプト側へ運ばれ、退陣が決まったときにはガザでも歓喜の声があがったわけである。食糧不足で苦しんでいるガザの人々がエジプトの民衆を支援した気持ちは中東の状況を反映している。アメリカやイスラエルと組んだ独裁体制に対する怒りは中東全域で爆発寸前なのである。サウジアラビアでも、いつ怒りが爆発しても不思議ではない。
2011.02.13
イスラエルのハーレツ紙によると、ホスニ・ムバラク大統領は「辞任」する前にイスラエルの元閣僚、ベンヤミン・ベンエリエゼールと電話で20分ほど話したという。その中でムバラクはアメリカを罵倒、独裁を正当化するために「急進イスラム勢力」の危険性を訴えたという。これはイスラエル政府のロジックと同じだ。 しかし、中東で急進的な勢力が人気を集める理由は、アメリカやイスラエルと組んだ独裁者が民衆を弾圧し、絶望の淵に追い込んでいるからなのであり、ムバラクにしろイスラエル政府にしろ、原因と結果を逆にしている。 また、ムバラクは決して官邸から離れないと主張、殺されても構わないと語っていたという。もし、ムバラクが「避暑地」にでも移ったとするならば、それは自分の意志ではなかった可能性がある。フィリピンのフェルディナンド・マルコスと同じように。
2011.02.12
ホスニ・ムバラク大統領が辞任した。独裁者を倒したエジプト国民が狂喜乱舞するのは当然のことだろう。が、革命が成功したとはまだ言えない。ムバラクの側近、ここ数年は事実上の大統領だった可能性のあるオマール・スレイマン副大統領が残っているからである。CIAやイスラエル軍と緊密な関係にあり、拷問を指揮してきたEGIS(エジプト総合情報局)の「前」長官が健在である以上、民主化されたとは到底、言えない。実際、スレイマンとエジプト庶民の戦いはすでに始まっている。(弾圧史をまとめた映像) 本コラムでもすでに書いたことだが、民主化を要求して活動していた人々やジャーナリスト数千人を軍が拘束し、拷問したと言われている。ターゲットの追跡に利用された装置を提供したNarusはイスラエル人が創設し、アメリカを拠点とする会社。良くできた話である。 民衆の怒りという点では、沖縄も中東の親米/親イスラエル独裁国家と同じ状況の中にある。「琉球処分」で、日本政府は琉球を沖縄として自国領に組み込んだが、公正な扱いをしてきたとは言い難い。そうした差別の歴史が基地問題の根にあるわけで、そうした状況に対する怒りが爆発寸前まで高まっている。 エジプト人が抗議行動を始める切っ掛けはムバラクの息子たちが導入した新自由主義経済にあるのだが、この話は日本にも当てはまる。中曽根康弘が先鞭をつけ、小泉純一郎が骨格を作り、菅直人/前原誠司/岡田克也たちが完成させようとしている「遣らずぶったくり経済」は日本社会を破壊し、弱者を貧困地獄に突き落としている。強者に従順な日本人にも限界はある。日本の支配者たちは、エジプトを「対岸の火事」だと思うべきではない。
2011.02.12
ホスニ・ムバラク大統領が辞任し、軍が実権を掌握したとオマール・スレイマン副大統領がテレビで発表、抗議活動に参加している人々はさまざまな方法で喜びを表現しているという。この声明が正確なのかどうかは不明だが、軍が強制的に排除しても不思議ではない状況にはなっていた。 しかし、スレイマンが居座っている以上、民主化への道は険しい。民主化を要求する人々は、これから秘密警察や軍との戦いが本格化する。本当の革命はこれから始まると言えるかもしれない。 ところで、ムバラク体制のプロパガンダを続けてきたテレビ局にデモ隊は押しかけたというが、当然だろう。日本のマスコミも「他山の石」にすべきだ。
2011.02.11
日本のマスコミは伝えない「エジプト革命」が燃え上がる熱気とグロテスクな権力者を感じることのできる映像がYouTubeにアップされている。
2011.02.11
ホスニ・ムバラク大統領が権力に執着している間に状況は悪化、その間にオマール・スレイマン副大統領の過去が知られるようになってきた。 スレイマンがアメリカで特殊工作の訓練を受け、EGIS(エジプト総合情報局)の長官として拷問を指揮していたことは以前から指摘されていたことだが、情報の広がりは限られていた。 ところが、時間の経過とともに、スレイマンの「拷問人」としての側面が広く知られるようになってきたようだ。スレイマンを中心として「ムバラクなきムバラク体制」の樹立を狙う人々にとっては好ましくない展開だ。このままムバラクが居座り続けると、スレイマンの大統領就任も難しくなる。 エジプトの状況は他国へも影響しつつあり、イラクでもアメリカの傀儡政権に反対する抗議行動が活発化している。エジプトで事態の収拾に手間取ると、革命に炎は中東全域へと広がって民主化が進む可能性が高まる。庶民にとっては良い展開だが、日米欧、そしてイスラエルの支配層にとっては「悪夢」だろう。
2011.02.11
ホスニ・ムバラク大統領は辞任を拒否した。一部の権限をオマール・スレイマン副大統領に委譲するとはしたものの、あくまでも権力の座にしがみつくと宣言したのである。本人は「外国からの圧力には屈しない」と主張しているが、辞任を要求しているのはエジプト国民だということを理解していないようだ。庶民を人間だと思っていないのかもしれない。 これで民主化を求める人たちの怒りが高まることは確実で、「ムバラク体制」の継続を望んでいる人々にとっても好ましい展開ではない。強制的にムバラクを排除する事態も想定できる。ムバラクに対する人々の怒りが高まっている現在、国民弾圧の責任をムバラクに押しつけてしまおうというわけだ。 何しろ、スレイマンという受け皿は用意されているわけで、例えば韓国の朴正煕大統領やフィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領のようなことになる可能性もある。ただ、エジプトは軍と経済活動との関係などもあり、ほかの国に比べてクーデターまでのハードルは高い。 反ムバラク派にとっての問題は、誰が軸になるかが明確でないこと。当初、「ムバラク後」はモハメド・エルバラダイ前IAEA(国際原子力機関)を軸に展開すると見られていたのだが、民主化要求の象徴になっているタハリール広場に現れた際、人々の心をつかむことに失敗しているので、後継候補者としては不適格なのかもしれない。日米欧やイスラエルが計算できない人間が登場する可能性もあるだろう。 いずれにしろ、金曜日の展開は重要だ。
2011.02.11
ホスニ・ムバラク大統領が2月10日夜に辞任するとNBCが伝えている。オマール・スレイマン副大統領が引き継ぐようなので、これはアメリカやイスラエルが何年も前から描いていたシナリオ通りの展開ということになる。とりあえず、ムバラクが辞任すれば抗議行動の目的は達したことになるのだが、スレイマンが引き継ぐのなら「ムバラクなきムバラク体制」が続くだけの話である。 スレイマンの「クーデター発言」もあり、エジプトでは民主化を求める声が高まっている。金曜日には大規模なデモが予想されているわけで、その前に庶民の怒りを静める必要があると判断、ムバラク辞任で抗議活動を分裂させたいと願っているのだろう。 ただ、本当に民主化を望むのであれば、スレイマンを後任にすることは許されないだろう。金曜日はエジプトの将来を左右する日になるかもしれない。
2011.02.10
独裁体制を倒し、民主化を実現しようと立ち上がった人々、あるいはそうした行動を取材しているジャーナリストをエジプト軍は秘密裏に拘束、拷問している。逮捕者の総数は数千人に達するという。 こうした弾圧では、インターネットや携帯電話の切断や監視を可能にする装置が使われている疑いがあるのだが、その装置を開発したのがNarus。1997年にイスラエルで創設され、現在はアメリカのカリフォルニア州を拠点にしている会社で、NSA(国家安全保障局)とも緊密な関係にある。噂の追跡装置を使えば、GPSを搭載した携帯電話の使用者の場合、その個人がどこにいるかを特定することができる。 ところで、本来、エジプト政府にとって都合の悪い人々を逮捕、拷問するのは秘密警察のSSISの役目。このSSISに拷問の方法を教えてきたのがアメリカのFBIだとテレグラフ紙は伝えている。情報機関を率いてきたオマール・スレイマン副大統領はアメリカで特殊工作の方法を伝授され、CIAとも緊密な関係にある。SSISとFBIとが結びつくのも必然だ。こうした体制のエジプトにイスラエルが親近感を持つのも自然なことなのだろう。
2011.02.10
イラクへの軍事侵略もそうだったが、アメリカはイスラエル/親イスラエル派の好戦的なシナリオに引きずられて国力を急速に弱めている。 エジプトの民主化要求/独裁打倒の抗議行動に対する方針でもアメリカはイスラエルに押され、状況を悪くしてしまった。その象徴的な存在がオマール・スレイマン副大統領、つまり「前」EGIS(エジプト総合情報局)長官だ。 繰り返しになるが、スレイマンはアメリカで特殊工作の訓練を受けた軍人で、CIAの拉致/監禁/拷問の秘密工作に協力してきたエジプトの「拷問人」。民主化を認めるようなタイプの人間ではない。イスラエルとも友好的な関係にある。 2008年8月にエジプトをイスラエルのエーウド・バラク国防相の一行がエジプトを訪問しているのだが、ホスニ・ムバラク大統領は老け込み、ろれつが回らなかったようだ。その際にエジプト側で応対したスレイマンをイスラエルは高く評価、「ムバラクの後継者」と見なすようになる。イスラエルの国防省とエジプトのEGISはホットラインで結ばれ、毎日連絡を取り合っているという。スレイマンの副大統領就任は次期大統領へのステップだとイスラエルは考えているのだろう。 しかし、エジプトの民衆は「ムバラク体制」を拒否し、スレイマンたちが描く筋書きに従おうとしていない。エジプト政府は活動家やジャーナリストを理由もなく拘束しているが、それでも民主化を求める声は小さくならない。業を煮やしたスレイマンはクーデターを実行する可能性に言及して人々を脅したのだが、その発言が民主化を求める人々の怒りに火をつけることになった。スレイマンを支持している日米欧の国々は、その報いを受けることになるかもしれない。
2011.02.09
1981年10月以来、ホスニ・ムバラクは大統領として、エジプトの親米/親イスラエル体制を維持してきた。1928年5月生まれなので現在82歳、5月には83歳になる。人間には老化と寿命があるわけで、アメリカやイスラエルの支配層が「ムバラク後」について十分に準備してきたことは言うまでもない。 2005年6月にフィナンシャル・タイムズ紙はムバラク大統領が副大統領を指名するつもりだという記事を書いているが、その情報源はオマール・スレイマンEGIS(エジプト総合情報局)長官(当時)であり、副大統領の最有力候補はスレイマン自身だと推測されていた。現在、そのシナリオ通りの展開になっている。 スレイマンがアメリカで特殊訓練を受けた軍人で、CIAの拉致/監禁/拷問の秘密工作に協力してきたエジプトの「拷問人」だということは本コラムでも指摘済みだが、こうした関係は必然的にイスラエルとの友好的な関係につながる。今年1月29日に副大統領となり、EGIS長官を辞めたことになっているが、それが形式的なものにすぎないことは言うまでもないだろう。 2008年8月、イスラエルのエーウド・バラク国防相がエジプトを訪問した際、ムバラクの老け込み具合にショックを受けたという。そのとき、イスラエルの交渉相手はスレイマンだったようで、その頃からムバラク大統領は「お飾り」に近い状態だったのだろう。 実務的には引退状態のムバラクでも、「権威の象徴」という意味はある。ムバラク辞任を先送りにしている理由はそこにあるのだろう。そして、その去就を決定するのはスレイマンということになる。イスラエルにとっても、ムバラクはすでに「過去の人」である。 その前年、2007年にガザをめぐってイスラエルとエジプトの関係が悪化していた。イスラエルは、エジプト側から武器がガザへ入っていると主張していたのだが、これに対してスレイマンとタンタウィ国防相はイスラエル軍がフィラデルフィ(エジプト領)に再侵攻することを歓迎すると口にしている。 そして2008年12月、イスラエル軍はガザに軍事侵攻、白リン弾のような「化学兵器」やGBU-39(スマート爆弾)を使用、医療機関や国連の施設もターゲットにしていた。 この軍事侵攻で、人道法や人権法に違反する多くの行為があったことを国連の調査委員会も認めている。委員長を務めた「ユダヤ系」のリチャード・ゴールドストーンをイスラエル政府や親イスラエル派は激しく攻撃していたが、委員長は毅然とした態度を崩さなかった。
2011.02.09
独裁体制を倒そうという運動が盛り上がる中、エジプト軍が武力の行使に慎重な姿勢を見せているが、その理由は軍と「平和産業」との関係にあるとする指摘がある。イスラエルとの戦争が続いていた1960年代から70年代にかけてエジプトでは軍隊が巨大化したのだが、イスラエルと平和条約を結んだ後、軍隊は縮小に向かい、退役した兵士の失業対策を考えなければならなくなってのことだという。 エジプト経済の中で大きな比重を占めている観光産業にも軍は深く関わっていると指摘されている。風光明媚な海岸線は軍が支配していたのだが、その海岸線をビジネスに使うために開発業者と手を組んだのは、その一例。結局、経済活動の5から40%を軍が支配していると推測されている。 推測にはかなり幅があるのだが、ともかく軍は国内産業の内部に利権を持つようになっているわけで、混乱/内乱は死活問題につながるわけだ。そうなると、戦車などの兵器ではなく、見えないように弾圧していくことになる。アメリカで特殊工作の訓練を受けたオマール・スレイマンEGIS(エジプト総合情報局)長官が得意とする分野だ。 言うまでもなく、このスレイマンもムスリム同胞団を敵視している。エジプトを民主化するためには、そのムスリム同胞団をも納得させる必要があるわけで、交渉がすんなりと進むと期待することはできないだろう。 エジプト軍のビジネス界への進出は軍事力の行使にブレーキをかけているのだが、その一方でイスラエルやアメリカの軍事力行使を後押ししてきたという側面も忘れてはならない。ガザに対する兵糧攻めはエジプト政府の協力なしには不可能であり、ヨルダン川西岸やレバノンなど北部での軍事作戦も今のようにはできなかっただろう。CIAの拉致/拷問工作にも協力してきた。 エジプトに限らず、中東の親米/親イスラエル独裁国家はパレスチナ人などイスラエルの犠牲になっている人々を見捨て、自分たちの限られた仲間で富を独占してきた。エジプトの場合、ホスニ・ムバラク大統領から息子の代へ移行する中、「新自由主義経済」が推進され、そうした矛盾が噴出して今回の事態へ至っている。すでにエジプトの「御用メディア」もムバラク大統領を見捨てたようだが、エジプトの民主化は独裁者を排除するだけでは実現しない。正に「革命」が必要なのである。
2011.02.08
アメリカ政府の特使としてエジプトを訪問、その後で「ホスニ・ムバラクは大統領にとどまるべきだ」と発言したフランク・ウィズナー・ジュニア。この人物が顧問に就任(日本流に言えば、天下り)しているパットン・ボグス法律事務所とエジプトの軍や経済界との関係が、日本ではともかく、世界的な話題になっている。 そこで、パットン・ボグス側は「エジプト政府との関係」は1990年代半ばのことであり、ウィズナーはエジプトの件と無関係だと弁明しているようだ。そうなると、この法律事務所がサイトで書いていることは「誇大広告」だと言われても仕方がないということになる。 そのサイトを見ると、過去20年にわたってパットン・ボグスはエジプトで活動、エジプト軍、エジプト経済開発局にアドバイスする一方、ヨーロッパやアメリカにおいてエジプト政府のために調停や訴訟を行ってきたとしたうえで、エジプトの経済界との関係も誇示しているのだ。 ウィズナー家と情報/破壊工作機関との関係はともかく、フランク・ジュニアとムバラク大統領との緊密な関係も指摘されている。だからこそ、パットン・ボグスは顧問として受け入れたのだろう。 ウィズナーだけでなく、エジプトのオマール・スレイマン副大統領の正体にも触れようとしないで「エジプト革命」を語ることはできない。このふたりはエジプトの独裁体制を象徴する人物なのである。
2011.02.08
エジプト軍が本性を現し始めた。反独裁の抗議活動が盛り上がっていたときは「中立」を装っていたのだが、うねりが小さくなったところで反撃を開始、民主化を要求する活動家や外国人ジャーナリストを拘束し始めたのである。金曜日に大規模なデモがあることを想定し、その谷間で行動を開始したようだ。公正で民主的な選挙など許さないという強い意志を感じさせる。 こうした逆襲には、日米欧の支配層が民主化を望んでいないという背景がある。だからこそ、拷問を指揮してきたオマール・スレイマン副大統領、つまりEGIS長官を「移行政権」の責任者に据えることもできるわけだ。話し合いで解決する気持ちがあるかどうか、疑問だ。イスラエル政府による「主要国」に対する圧力も影響しているかもしれない。 フランク・ウィズナー元駐エジプト大使がエジプトを訪れた際に、反撃態勢の最終的な打ち合わせが行われた可能性が高いだろう。前回も書いたことだが、ウィズナーが顧問を務めているパットン・ボグス法律事務所の顧客リストにはエジプト軍も含まれている。 しかし、エジプト国民の民主化を求める意志は、エジプトや日米欧の政府が考えている以上に強い。万一、平和的な手段での民主化が潰されたなら、次の段階は武装闘争しかなくなる。そうなった場合、エジプトの支配層だけでなく、日本、アメリカ、ヨーロッパにもその矛先は向くと覚悟する必要がある。
2011.02.07
先週末、「ホスニ・ムバラクは大統領にとどまるべきだ」とフランク・ウィズナー元駐エジプト大使は語ったという。ウィズナーはアメリカ政府が特使としてエジプトに派遣していた人物であり、その発言の影響は大きい。エジプト庶民のアメリカに対する憎しみを一層、強めることになるだろう。 本コラムではすでに書いたことだが、ウィズナーの父親、フランク・ウィズナー・シニアは第2次世界大戦から戦後にかけてアレン・ダレスの側近として破壊工作(テロ行為)を指揮していた。 親子を一緒にすべきでないという意見もあるだろうが、情報機関の世界では秘密の保持という意味もあり、家族のつながりが重要な意味を持つ。ブッシュ家もそうした家族のひとつだ。 ウィズナー・ジュニアは1961年から国務省に勤務、後にザンビア、エジプト、フィリピン、そしてインドで大使を務め、1997年に同省を退職した。この年、情報機関と関係の深いことで有名な巨大保険会社AIGの重役に納まり、2009年に同社を辞めると、パットン・ボグス法律事務所の顧問に就任している。 この法律事務所が問題。エジプトの軍や経済開発局などは、エジプト経済界と同様に、この法律事務所の顧客なのである。つまり、ウィズナー・ジュニアはエジプトの独裁体制を支えてきた勢力の手先だということになる。当然、ムバラク体制を護持しようとする。 ウィズナー・ジュニアがエジプトを訪れた直後、民主化を要求して広場を占拠していたグループに「親ムバラク派(警官、与党メンバー、カネで雇われた人々など)」が襲撃しているが、その後の展開はウィズナー・ジュニア/パットン・ボグス法律事務所のアドバイスによるものだった可能性が小さくない。当然、アメリカ政府も無関係だとは言えない。当時、日本のマスコミはウィズナー・ジュニアがムバラクに大統領を辞任するように説得したかのように報道していたが、これは「ガセネタ」だったわけだ。
2011.02.07
アメリカや西ヨーロッパの主要国はエジプトの反独裁行動を和らげるため、ホスニ・ムバラク大統領を辞任させ、オマール・スレイマンを「移行政権」の責任者に据える腹を固めたようだ。 本当にエジプトが民主化してしまえば、過去の歴史もあり、アメリカやイスラエルの影響力を排除し、西ヨーロッパからも独立する政権が出現する可能性が高い(ほかの中東諸国でも同じ事が言える)わけで、拷問の責任者であるスレイマンを据えて「ムバラクなきムバラク体制」へ移行しようと思っているのかもしれない。が、こうした目眩ましを「目覚めたエジプト国民」が容認しない可能性もある。 2月5日午後、エジプト軍の戦車2両が民主化を求める人々が占拠しているタハリール広場に入ろうとしたのだが、これを人々が阻止している。ムバラクが辞任しないかぎり、自分たちも広場から撤退しないと主張していたという。エジプトや欧米のエリートたちによる話し合いだけで物事を決められない段階に入っているのだ。 日本では「クリーンな軍人」だと表現されているスレイマンだが、その実態は「クリーン」からほど遠い。情報機関EGIS(エジプト総合情報局)の長官として拷問を指揮してきた人物なのである。ジョージ・W・ブッシュ政権が実行した「容疑者」の拉致、拘束、拷問作戦に協力したことからもわかるように、CIAと友好的な関係にある。 1980年代にスレイマンはアメリカで特殊部隊の訓練を受け、1993年にEGIS長官に就任し、その2年後、アメリカが秘密裏に拘束した人物をエジプトで尋問/拷問することに合意している。2003年にアメリカ軍がイラクに軍事侵攻してから、この仕組みはフル稼働することになった。そうした尋問/拷問の過程で殺された人間がいることは本コラムで書いた通りだ。(しつこいようだが、こうした人物を日本のマスコミは「クリーン」だと表現している。) WikiLeaksが公開した文書によると、アメリカ政府は「4月6日運動」とも2008年には接触している。この人脈を使い、スレイマンを中心とする移行政権を「反ムバラク派」にも認めさせるつもりだろうが、これを一般国民が受け入れるかどうかは不明だ。
2011.02.06
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