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未開の顔・文明の顔(著者:中根千枝|出版社:中公文庫) 20代後半だった著者が、1953年から1957年にかけて、インド・チベット・ヨーロッパで調査・研究に従事したときの記録。 報告書というわけではなく、随筆として著者の経験が記されているが、文化に対する著者の見解は随所に見られる。 何を以て未開といい、何を以て文明というのかということが明確に書かれているわけではないが、ある民族は未開の状態にあり、ある民族は文明の状態にある、などという単純な割り切り方はできないことを著者が肌で感じているのがよくわかるが、やはり、感情移入できるのは、文字を持ち、抽象的な観念を語ることができる人々であることが正直に書かれている。 最も胸を打たれたのは、インパール作戦の激戦地だった村での見聞である。 首狩り族にとっては勇敢であることが評価の基準であり、よその村との戦争で逃げて帰ってきたりすると、自分の村のものに殺されてしまうような文化の中で育った人間から見ても、日本人は勇敢であったという。 また、意外なことに、日本軍は軍律が厳しく、食料を奪うことをあっても婦女子に乱暴することはなかったという。むしろ、日本軍を倒した英印軍の方が現地の婦女子にひどいことをしたという。 もっとも、食料を奪うということ自体悪いことであるし、インパール作戦では、婦女子に乱暴するような余裕もなかったのではないかと思うが、現地の人々が日本兵の遺体を集めて墓地を作ってくれていたのには感動した。
1999.07.24
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木米と永翁(著者:宮崎市定|出版社:中公文庫) 論文ではなく「雑文」と呼ばれるような、随筆、論評集。 1と2は美術的なことには全く素養がないのでよく分からなかった。 最も面白かったのが4の「有為転変」と5の「時事蒭議」。 感情的にものを言うことなく、論理的で明快である。最も、こういうところが、反共的と思われて、中国では高い評価をされなかったところなのだろう。 ユーゴスラビアなど、今日紛争の起こっているところについては、その紛争の原因が生まれた時点で論評していて、今のようになったのは当然の帰結であったらしい。
1999.07.14
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青い麦(著者:シドニ・ガブリエル・コレット/堀口大学|出版社:新潮文庫) 「ふ・た・り・は、あーおいむぎ」というのは遠い昔に聞いた伊藤咲子の歌だ。当時、『青い麦』というタイトルの小説があることは知っていて、それから取ったのだな、とは思っていたが、読むのは今回が初めて。 読んでいるうちに『肉体の悪魔』を思い浮かべ、フランス人というのはよくもまあ、こんな事ばかり考えていられるものだ、とも思ったが、重要なのは何が書いてあるかではなく、どう書いてあるか、ということなわけで、翻訳を通してではあるが、日本人との違いをいろいろ考えさせられた。 例えば、「夜明け方から、やがて熱した地表が、耕した畝(うね)の、脱穀された麦の、湯気を立てる堆肥(たいひ)のにおいを、爽(さわ)やかな海の風に吹き払わせる時刻になるまでここ数日の八月の朝には、秋の匂いがしみていた。生垣(いけがき)の裾(すそ)には、いつまでも消えずに露が光っていた。」(p35) などという文章だけでも、感覚の違いが伝わってくる。 物語は、十六歳の少年と十五歳の少女の恋愛の物語なのだが、混乱・当惑・嫉妬というものが詳細に描かれている。こういうのを翻訳するのは大変だろう。
1999.07.07
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朝は夜より賢い(著者:邱永漢|出版社:PHP文庫) 1982年から1年8ヶ月にわたって雑誌に連載したものを単行本にしたのを文庫化したもの。 今から10年以上前に書かれたものだが、将来の予想がかなり的中しているのに驚かされる。 また、成田空港について、産業の観点からのみ、反対するのはばかげていると切って捨てているのが、邱永漢の面目躍如というところで、それまでその土地で畑を耕していた人たちの気持ちよりも、人間が集まり商業の発展につながることの方がずっと大切だと完全に割り切ってしまっている。 社会的正義などというものは問題にしないのだが、では、邱永漢が工場を造ったら公害を垂れ流しにするかというと、おそらくそうはしないだろう。 公害問題で訴えられれば結局は大きな出費を強いられることになり、それだけ経営が不安定になるから、それをみこして純粋にコストの面だけから公害を出さないようにするだろう。 最も印象に残ったのは次の箇所である。「この世の中、頭のよい人でないと成功しない、とすれば、生まれつき頭の鈍な人は、とうてい見込みがないことになる。事実、その通りで、頭の回転の悪い人は頭の回転のよい人に使われるめぐりあわせになることが多い。」(p201) ここでいう「頭のよい人」が学校の勉強が出来る人、という意味ではないことは言うまでもない。
1999.07.01
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