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■投資をする上で一番大切なことは? あるラジオ番組の収録で、「投資をする上で、一番大切なことは何ですか?」という質問を受けた。初級者用、上級者用、それどれに何かを、ということだった。 ラジオなので長時間黙って考えるわけには行かない(5秒間無音だと「放送事故」だ)ので、直ぐに答えたのは、「いくらまでなら損をしてもいいか、見当をつけて、その範囲内で投資すること」ということだった。振り返って考えてみても、初級者用、上級者用共に、これが一番大切な心得だと思う。 なお、投資の世界で、初級者と上級者を区別して扱うことについては、少々異論がある。例えば、株式投資では、どんな銘柄に投資していても、銘柄が同じで、保有している期間が同じなら、初級者が買っても、上級者が買っても、同じ収益率になるのが、投資の世界だ。原理原則で大切なものは、一致していて当然だ。 現実には、上級者も初級者と同じくらい銘柄選択を間違えるのだから(あえて違いを探すと、上級者はこれに慣れているだけだ)、上級者を自認してリスクを過小評価すべきではない。他方、初級者だからといって手心を加えて貰える世界ではないから、初級者も、「自分が初級者だ」という事実に甘えるべきではない。「初心者向けに、いい投信はありませんか?」などと、自分の購入資金額を告げて、セールスマンに相談するようなことをすると、売り手側が売りたい商品を、予算全額、買わされてしまうことになるだろう。実際、購入可能な金額をすべて投じるよりも、一部だけ買う方がいいケースがかなり多いのだが、この点は、投資を検討する上で、見落としがちだ。例えば、バランスファンドを100%買うよりも、「株式ファンドを50%、債券や預金を50%」と運用する方が、実質的に同じ効果で、手数料が大幅に節約できる場合が多いのだが、「初心者だ」という隙を見せて、セールスマンに相談すると、バランスファンドを買わされてしまう。 本題に戻って、投資で、一番大切なことは、許容できる最大限の損失の見当をつけて、その範囲内で投資することだが、これは、どのように行うのか。 例えば、投資信託のように分散されたポートフォリオで国内株式に投資するなら、1年間の最大損失は、投資額の3割程度で済むだろう。すると、仮に、1年間の最大許容損失額が300万円の家計であれば、投資できる上限は、1000万円ということになる。もちろん、この上限額まで必ず投資しなければならないというものではないので、この範囲内で投資金額を決める、という考え方になる。 投資を始めるときには、どうしても、「儲け」のイメージから先に考え始めがちなので、「損」についてあらかじめ考えるためには、意識的な努力が必要になるが、これは大切だ。■株式の持ち方によるリスクの違い 「先ほど、投資信託のように分散されたポートフォリオ」の最大限の値下がりをざっと3割と見込んだが、これは、最近の株式市場の状況を考えると、やや余裕のある想定だ。日立Riskscopeというポートフォリオのリスク値を計測するソフトウェアの2月9日現在(週次モデルによる)のTOPIXの推定リスク値は、12.18%(リターンの年率の標準偏差)だ。仮に、期待リターンを5%と厳しめに見積もっても、マイナス2標準偏差のイベントが起こった場合で5-2×12.18=-19.36と、ざっと2割の損失に留まることになる。もっとも、この推定リスク値は、状況によって変化するので、余裕を見て、3割、というくらいに考えることは悪くない。 ちなみに、個人投資家の数銘柄のポートフォリオだとどうなるだろうか。昨年、村上ファンド問題で個人資産を公開した日銀総裁の福井俊彦氏は、キッコーマン5千株、新日鐵1万株、富士通5千株、三井不動産5千株、商船三井1万株という、株式ポートフォリオをお持ちであった。このポートフォリオのリスクを、日立Riskscopeで計測すると、16.54%である。先ほどと同様の計算を行うと、5-2×16.54=-28.08%と、3割下落に収まっている。このように、東証一部の大型株を、業種分散して持っていると、かなりの程度、リスクは抑えられる。 ちなみに、新日鐵1銘柄の場合のリスクは29.54%、富士通なら25.80%、商船三井なら31.69%である。例えば、新日鐵1銘柄の運用の場合、同様の計算をすると、5-2×29.54=-54.08、と半減以下の損失を覚悟しなければならない、という結果になる。 分散投資をすると、リスクを抑えることができ、つまり、その分、同じリスク水準なら、より大きな金額の投資を行うことができ、より大きな収益を狙うことができるということになる。 ■どんな場合にも次の手があるか? 具体的に、どうやって家計を分析して、資産配分を決めたらよいか、という方法については、当連載の第7回目「投資家のための家計分析の簡便法」を参照していただきたい。ここでは、家計の簡易バランスシート(B/S)、損益計算書(P/L)を作って、運用計画を考える方法を説明しているが、ここで扱っていることの他に、現実には、自分の人材価値なども考える必要がある。 例えば、同じようなバランスシートと損益計算書の家計があるとしても、一家の稼ぎ手が、若く健康でこれからバリバリ稼ぐことが見込まれる場合と、高齢・病気がちなどで今後多くの稼ぎは見込めない場合では、「運用で取ることができるリスクの大きさ」は大きく異なるだろう。 いくらまでが許容損失額なのか、ということに関しては、最終的には、本人が納得して決めるべきだ、としか言いようがない。ただ、例えば、想定できる大きな損が出た場合に、次にどのような手を打つことができるか、というシナリオだけは、考えておきたい。それが、考えられない、考えるのが怖い、考えるのが億劫だ、・・・、というような状態で、投資に参加することは止めておきたい。
2007年02月16日
■株式投資の華、成長株投資 株式投資を始めようとする方から受ける質問で多いのは、「成長性のある会社を教えて下さい」というものだ。雑誌の記者や編集者から、「株式投資をするような視点で、10年先、20年先に成長している企業を選んで、これから就職する大学生に勧めて下さい」などという、大層なご質問をいただくこともある。質問者は、株式投資をする人は、企業の成長を見通すことができる(或いは、「できなければならない」)と思っているらしいのだが、これは、買い被りを伴った誤解だと思う。 はっきりいうと、企業の5年先など分かるものではない。ある程度の数字を具体的に考えることができるのは、2年先くらいがせいぜいではないだろうか。株式投資を考える上では、3年先も「遠い将来」であり、難しいし、意味がない。 しかし、株式投資が、「将来の、ソニー、ホンダを見つけよう」というようなキャッチ・フレーズで語られることは多い。やはり、成長株への長期投資こそ、株式投資の華ではないのか。 ■超過収益が実現するのはいつか 成長株投資について思い浮かぶ事実には、次のようなものがある。以下、「パフォーマンス」という言葉は、投資収益率のことを指しており、意識の中では、市場平均と比較していることをお断りしておく。 (1)上手く行った成長株投資は、何年かの間に、株価が何倍にもなり、大儲けできる。 (2)しかし、「過去の成長率が高かった銘柄」に投資して平均以上のパフォーマンスを挙げることは難しい。 (3)利益成長率が高そうな株のPER(株価収益率)は高い。 (4)しかし、他人よりも上手に将来の利益成長率を予測することは難しい。 (5)収益予想の上方修正があった時には高いパフォーマンスが実現する。 (6)収益予想の改訂には、時系列的にプラスの自己相関の傾向がある(上方修正の後には、上方修正が続きやすい)。 (7)上方修正が続いた後に、失望するような収益予想が出ると、株価は大きく急落する。 これらの経験的な傾向を総合して考えると、結局、次のような状況が現実なのではなかろうか。 まず、成長株が高いパフォーマンスを実現するのは、これまで予想されていた利益よりも、高い利益予想が出たとき、つまり、収益予想の上方改訂があった時だ。ただし、この上方改訂は、市場の参加者の平均的な予想に対して、上方に修正されているのでなければならない。成長株の対市場平均での超過収益が実現しているのは、主に、収益予想が上方改訂されている時であり、それ自体は短期間である場合が多い。 収益予想が上方改訂された後は、さらに次の収益予想が上方修正になるケースが傾向としては多く、上方修正が二、三度続く過程では、株価は大幅に上昇する。しかし、上方修正が続いてあった銘柄に、後から投資しようとすると、次に現れた情報によって、株価が急落する憂き目を見るという大きなリスクがある。 それでは、成功したあかつきの成長株とはどのようなものかと言えば、上方修正が続いてあり、まだ酷い目に遭っていない、幸運な会社かつ株価の、銘柄ということになる。そして、結局のところ、利益成長を他人よりも上手く予想することは難しいのだから、「持っていたら、結果論として、上手く行った銘柄が成長株投資だ」というのが現実だ。 ライバルと競うファンドマネジャーの場合、収益予想の上方修正を他人よりも何とか少しでも早く正確に予想し、これを他の市場参加者の期待値と較べることによって評価して、「良い」と思う銘柄に投資して、何とか当面のピークからの急落を避けようとして、良いタイミングで売ろうとする、といった努力を重ねることが一般的だ。 彼らの収益予想の目線の置き方は、せいぜい一年くらい先の数字であることが多い。なぜなら、狙った銘柄について買い持ちのポジションを作るためには、他人よりも先にその銘柄を買う時間的な余裕が欲しいが、いったんポジションを作ってしまうと、次の有効な情報が早く広まって株価に上昇して欲しいからだ。 自分が投資の根拠にしている情報があまりに先に現れるものだとすると、正しい情報だとしても、それが現れるまでに、別の要因が入って来かねない(別の事業分野で失敗するとか、経済的な環境が変わるとか)。実は、遠い将来のことを予想しても、運用ゲームを戦う上では、あまり意味がないのが現実なのだ。(冒頭で、「3年先の予測は意味がない」といったのは、こういう理由だ) もちろん、上手なファンドマネジャーは、値上がりした銘柄を売るとしても、保有株を全部一気に売るようなことはしないから、ある銘柄の保有比率は時間とともに上下することになるが、結果的に長いこと持っていて、大きく値上がりした銘柄について、利益成長の要因を後から整理して、これを予測していたかのように話すことによって、成長株が生まれ、「グロース・マネジャー」(成長株投資を売り物にするファンドマネジャー)が誕生する。 成長株とかグロース・マネジャーというものは、だいたいそのようなものであり、将来そうなる銘柄を見つけようとか、自分自身がそうなろうとかいった具合に、目指して上手く行くものではない(一定数の幸運の持ち主は常にいるが、「運」は意図的には捕まえられない)。 では、実際には、成長株だと思っても、値下がりしないうちに適当なところで利喰ったり、チャンスを見てまた買い増しをすれば良いのか、というと、これも少々違う。結局、いつが売り・買いの丁度良いタイミングなのか、ということは、分からないことがほとんどなのだから、成長株の成果を確保するためには、じっと持っているしかない。上手く行かないことが(しばしば)ある、一銘柄としてはリスクが大きい、ということを考えると、こうした成長株を長期間抱えておくためには、分散投資で一銘柄当たりのリスクを下げておくことができると良い、ということになり、教科書的な運用常識に収斂する(「教科書的」、とはいっても、ここでは、インデックス運用を勧めているわけではありません)。 ■バリュー(割安株)投資との関係 ところで、先ほどの、経験的傾向のリストの「(7)上方修正が続いた後に、失望するような収益予想が出ると、株価は大きく急落する」を考えると、結局、失望された成長株は悲惨なパフォーマンスになるので、これを含む市場平均の足も引っ張り、また「(3)利益成長率が高そうな株のPER(株価収益率)は高い」ということであるから、結局、PERが低い銘柄の相対パフォーマンスが良いとすると(いつも、という訳ではないが)それは、計測上は、市場の誰かの失敗した成長株投資のおかげだ、ということが言える。 株式運用は、皮肉な構造にできたゲームである。
2007年02月02日
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