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■株価=合理的プライス+ゲタ? 主に株式市場全体の株価水準について考える。 10年以上前に「ファンドマネジメント」という本を書いたときに(正確には1994年です)、株価というものは合理的なプライスとして説明できる部分が、その時の投資家の意識を反映した「ゲタ」(漢字で書くと「下駄」である)の上に乗っているようなものだとイメージするといい、というような事を書いた。 現実の株価が全て理屈でピッタリと説明できる訳ではないが、利益(成長率)、金利、リスク・プレミアムなど、理論上株価を説明する要素(たとえば本連載、第十回「投資家の立場から見る株式価値の基礎」をご参照下さい)の変化を敏感に反映するので、その時の株価の「水準」は必ずしも理屈通りに説明できるとは限らないが、株価の「動き」は割合理屈で説明出来るものだ、というようなことが言いたかった。80年代後半のバブルを見てきたこともあったし、当時、まだ日本の株価は理屈で説明するには高いという意識があったこともあって、この部分の説明には苦労した。理論株価と現実の株価の短期間では修正されないズレを棚上げするための方便が「ゲタ」であった。このいわば粘着的なプライス・エラーとしてのゲタは、もちろん、プラスでも、マイナスでもあり得ると書いたが、この当時は、主にプラスのゲタの存在を意識していた。 自分で書いた本だが、読み返してみると、 「(1)『相場が間違っている』と思っても無理な賭けをしないこと」、「(2)相場がフェア・バリューから大幅に乖離しているように思っても、ファンダメンタルズの変化を軽視しないこと」などということが書かれている。バブルの時期とバブル崩壊の時期にファンドマネジャーをしていて、(1)で失敗した人と、(2)で失敗した人を両方見てきたので、このようなことを書いたのだろう。基本的な意見としては、今でも大きな修正点はない。■現在の株価水準とリスク・プレミアム ただ、現在の株価について考えると、このゲタの部分の存在をあまり意識しなくても、株価水準が説明できるようになったように思う。 適性株価の一番簡単な考え方は、 株価=一株利益/(金利+リスク・プレミアム-利益成長率)、だ。 期待リターン(金利+リスク・プレミアム)と益利回り(一株利益/株価)の式に直すと、 株式の期待リターン=益利回り+利益成長率、ということになる。 ただし、利益成長率は「均一な永続的な利益成長率」として想定される、ある種想像上の成長率で、期待リターンを上回らない数字だ。 たとえば、この想像上の長期利益成長率である「利益成長率」の代理変数として、名目GDPの成長率を使うことにして、これを2%(安倍政権はもっと大きな数字を目指しているようだが、控え目に見た)として、仮に、PERを20倍、つまり益利回りを5%とすると、株式の期待リターンは7%になる。これは、長期国債の利回りを1.7%として、リスク・プレミアムが5.3%あるということだ。 問題は、このリスク・プレミアムの適正な大きさがいくらくらいかということになる。リスク・プレミアムの大きさには、諸説あって、まだ議論が決着したとは言い難いのだが、たとえば、企業年金基金連合会の基本ポートフォリオの国内株式の期待リターンが7%、債券の期待リターンが2%という具合に、5%くらいの数値が機関投資家が想定するリスク・プレミアムの数値である。また、かつて、プロがポートフォリオ分析に使う代表的なマルチファクターモデルであったBARRAモデルの中で、デフォルトのリスク拒否度を計算する際に使ったマーケット・ポートフォリオのリスク・プレミアムは6%であった。 筆者は、現在、リスク・プレミアム5%~7%を「普通の株価水準の範囲」と考えている。敢えて、原則化すると、リスク・プレミアムが6%なら「株価は全く普通」、5%なら「株価は高めの普通」、7%なら「株価は安めの普通」と考えるという感じだ。 長期金利と名目GDPの成長率が同一(理論的には落ち着きのいい水準だ)だとすると、市場平均のPERで見て、益利回り5%が20倍(高めの普通)、益利回り6%がPER16.7倍(全く普通)、益利回り7%がPER14.3倍だから、たとえば、米国株の場合、長期の文脈で、S&P500のPERが20倍を超えるとやや高いと言われ出すことなどと一致する。■人間にとっての理論株価 数字を当てはめて計算してみると分かるように、理論株価の算式が変わらないとしても、リスク・プレミアムや、成長率といった、直接には観測できないものの数字を少し動かすと、理論株価は大きく変わる。 ちなみに、余談だが、個別株に関しては、平均株価以上にこれらの数字の想定がぶれやすい。上下で3倍くらい違う理論株価を“理論的に”(たとえば「ディスカウント・キャッシュフロー・モデル」に基づくと言いながら)算出することができるので、M&Aの仲介が儲かる商売になるのだろうし、仲介者にけしかけられて、M&Aが盛んになっている面が相当にあるように思う。 市場全体の理論株価に戻ると、「理論」が今後も不変であるかさえも定かでない。かつて、バブル期の日本の株価を正当化するために「Qレシオ」(株価と時価評価した一株純資産の比。再取得価値との比を取る「トービンのq」とは似て非なるものだった)のようなものが登場したように、怪しい理論がまた生まれてくる可能性もあるし、一時期、その理論の当てはまりが良ければ、それが、相当期間、社会に受容される理論になる可能性もある。 人間の認識力、判断力には限界があるし、同時に、人間には、その時の自分に都合のいい仮説を信じてしまいがちな弱さがある。 運用というゲームを戦う上では、他人に関してこの弱さを見つけて利用することも必要だし、実は自分こそが弱いのではないかという反省が絶えず必要だが、両者は、甲乙つけがたいくらい難しい。もっとも、難しいからこそ、面白いとも言えるのだとも思う。
2007年04月20日
■モンキー・ポートフォリオとは アメリカで古くからよく言われる話に、猿にダーツを持たせて、ウォールストリートジャーナルの株価欄にこれを投げさせ、何十銘柄かでポートフォリオを作ったものの投資パフォーマンスは、人間のプロのファンドマネジャーが運用するミューチュアル・ファンド(米国の投資信託)に負けない(或いは「勝つ」)はずだ、という話がある。有名な話なので、運用業界では、「モンキー・ポートフォリオ」と言うと、無作為抽出で作ったポートフォリオのことだと、話が通じる。「知らない人は、もぐりだ」といってもいいぐらいだろう。 モンキー・ポートフォリオは、投信に「勝つ」のだろうか、それとも「負けない」のだろうか、或いは、言い伝えに反して「負ける」のだろうか。 筆者は、長期的には、モンキー・ポートフォリオが「勝つ」が正解ではないかと考えるが、その理由は、二つある。 一つには、投信は、手数料を取るので、平均的には、信託報酬分くらいは、負けていくのではないかと予想できることで、これは強力な理由だ。内外共に、投資信託のパフォーマンスを調べた実証研究では、「アクティブ・ファンドのパフォーマンスは、ベンチマークに及ばず、その差は、ほぼ運用手数料程度だ」という結果が出ることが多い。 もう一つは、より積極的な理由だが、一つ前提条件が要る。モンキー・ポートフォリオの銘柄毎の投資ウェイトを、できれば等金額ウェイト(100銘柄なら、1銘柄がポートフォリオの1%)、そうでなければ等株数ウェイト、と考えることだ。この場合、TOPIXやS&P500、MSCIのような代表的なベンチマークは、大きな企業ほど株式時価総額に比例してポートフォリオ内のウェイトが大きくなる時価総額ウェイトなので、ポートフォリオに占める大型株のウェイトが大きくなりやすい。 しかし、古くから「小型株効果」という言葉があるくらいで、長期的には、小型株の方が、パフォーマンスが良い傾向がある。従って、等金額ウェイト(時価総額の小さな銘柄のウェイトがベンチマークと比較して相対的に大きくなる)や等株数ウェイト(単純な株価の高さがウェイトを決めるが、やはりベンチマークよりは、小型株の比率が大きくなりがちのはずだ)のモンキー・ポートフォリオは、時価総額比例ウェイトのインデックスにやや勝ちやすいはずだし、投信がインデックスに負けがちなのだから、投信に対しては、優勢のはずだと推測できる。 ところで、猿は、本当に、ダーツを投げることができるのだろうか。また、どの程度上手く投げるのだろう。ダーツを投げることが出来ても、妙に上手くて、同じような場所にばかり投げているとすると、ポートフォリオの業種ウェイトに偏りが出来て、かえって効率の悪いポートフォリオが出来てしまうかも知れない。もちろん、ここでの議論も含めて「モンキー・ポートフォリオ」と言う場合には、ランダムに銘柄を選んだポートフォリオというのが前提条件だ。■小型株効果はあるか? 時価総額の小さい企業の方が、投資対象としてパフォーマンスが良い傾向があるという現象は、古くから「小型株効果」として知られている。いわゆる株式市場のアノマリーの中でも、古くから研究されており、有名なものの一つだ。 これまでにも、2、3年の単位では、日米問わず、時価総額の小さい銘柄が、相対的に、良いときも悪いときもあるが、長期間のデータを採ると良いことが多い。 小型株効果が存在する理由については、今までに、いろいろな推測や説明がなされているが、一つの説明として有力なのは、小型株は大型株ほど経営が安定していないので、それだけ投資する際にリスクが大きく、投資家が大きなリスク・プレミアムを織り込んで株価形成するので、小型株の方が、パフォーマンスがいいというものだ。 また、大まかにいって、たとえば巨大企業の成長には、物理的な限界や、製品マーケットの限界、或いは経営能力の限界といった、何らかの成長の限界が考えられるので、企業の規模が、今後短期間の間に更に何十倍にもなるような事態は想像しがたいが、小型株の場合なら、そうしたこともあり得る、というような違いもある。 そういえば、ざっと20年くらい前に、筆者が始めて投信の運用をするときに、米国株を少々買う気になったのだが、ニューヨーク・ダウの30銘柄から、当時、世界一の時価総額だった、IBMだけを除いた29銘柄を買ったことがあり、IBMが相対的な長期低落傾向に入りかけていたときだったので、ダウに楽勝だった覚えがある。この場合に、IBMの相対パフォーマンスが良くなる可能性もあったわけだが、それは「株価が何倍にもなる」というような形では訪れないだろうから、負ける場合でも、そう怖くない、という意味はある。■日本株の場合 もっとも、ここのところの日本株の運用で、小型株効果に期待できるかと考えると、これは、かなりリスキーに感じられる。 読者もよくご存じのように、現在の日本株市場では、外国人投資家の影響が大きく、外国人投資家は、売るにせよ、買うにせよ、時価総額の大きな株をまとめてトレードするので、大型株がまとめて上下するような、ある種、無機質な株価形成がなされている。 こういう状況では、企業の規模で勝負することは、小型株効果以前の問題として、市場の上げ下げそのものを当てに行っているような感じになる。 とはいえ、長い目で見ると、大型株と、小型株の間にある程度のバランス調整が働くことを前提に考えると、やはり、小型株の相対ウェイトを高くして運用することが、長期的には有利なようにも思える。たとえば、2004年、2005年のマーケットのように、新興市場銘柄を中心に小型の株のパフォーマンスが良い場合の相対的な値上がり率は大きいので、長いこと持っていれば、大型株が大きく上がった後でも、小型株が追いついてさらに上を行くことがあるような気もする。 もちろん、投信の場合、信託報酬は、ファンドマネジャーにとって、競争上大きな重荷だし、日本株を運用するファンドマネジャーから見ると、ニホンザルと日経新聞によるモンキー・ポートフォリオも、たぶん、勝ちにくく、手強いライバルだろうと推測される。
2007年04月06日
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