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2026.06.26
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カテゴリ: 報徳
報徳論

【3】国を興し民を安んずるは分度を立つるに在るを論ず

問うていわく、
先生の道は限りなき財を生じ、もって限りある土地を開き、また限りある民を恵むとは何の謂いぞや。
いわく、
国の大小均(ひと)しからずといえども、土地の広狭必ず限りあり、人民戸口もまた限りあり。
国の生財に至りては然らず、今年生々して来歳また生々す。
幾万歳を経(ふ)るといえども生財止まず、尽きず、
しかのみならずよく人力を尽くせば、土地の万物を生ずる、あに限りあらんや。
ゆえにこれを名づけて無尽蔵という。
世人はただ目前の財のみを量るがゆえに、限りありとす。
我は年々歳々土地より生じて、尽きざるものをいうなり。
然れども国に分度なければ、国用節なく度なし。
節なく度なければ、奢侈行わる。
奢侈行わるれば、国用足らず。
国用足らざれば、下民(かみん)に取るもの度なし。
下民限りあるの米財を出して、飽くなきの求めに応ず。
国の本たる百姓日々に窮し、周歳勤動すれども、敝衣身をおうに足らず、食糟糠(そうこう)にだも飽かず。
仰ぎて父母を養うあたわず、俯して妻子を安んずるあたわず。
老いたるものは寒さを嘆き、幼(いとけ)なきものは飢えを呼ぶ。
ついに家を売り、田地をひさいで、離散するに至る、
人事の憂患あにこれより痛ましきものあらんや。
これにおいて人民日に減じ、田圃年々に荒蕪す。
それ草木枝葉花実の栄うるものは、その根の固きがゆえなり。
人君の永安は、下民の繁栄にあり。
その本根の民かくのごとく、極窮離散の禍に陥る時は、草木の根を断ずるがごとし。
花実の衰枯立ちどころに至らん。
この時に当たれば智者もその智を用ゆる所なく、勇者もその勇を施す所なし。
然して人君興り廃地を開き、大いに下民を撫育せんとし、我が方法を行わば、米金なきを憂えず、また廃蕪の多きを憂えず。
何ぞや仁政を施せば、国富み民優(ゆた)かなり。
虐政を布けば、国衰え民苦しむ。
盛衰貧富存亡皆人君の仁と不仁とにあり。
余が衰国を挙げんとするに、米金なきを憂えざるゆえんは、先ずその国の分度を立て、規則を定むるがゆえなり。
分度一たび堅立すれば、生財年々に倍す。
何ぞ財なきを憂えん。

いわく、
分度とは何ぞや。
いわく、
貧富盛衰に従い、一国経済の程度を定むるをいう。
いわく一国経済の程度を定むる、その方法いかん。
いわく、
国盛んなれば天命盛富にあり、国衰ふれば天命衰貧にあり。
伝にいわく、
富貴に素して富貴を行い、貧賤に素して貧賤を行い、夷狄(いてき)に素して夷狄を行い、患難に素して患難を行う。
君子は入るとして自得せざる無きなり と。
これ盛衰・貧富おのおの天命に従い安んずるの謂いなり。
ゆえに衰時に当たりては、衰時の天命に従い、当時の租税をもって国用を制す。
然れども1,2年の納税をもって定則となすを得ず。
何ぞや。
年に豊凶ありて、租税の多少均しからざればなり。
これゆえに既往衰時に属する10年ないし2,30年の租税を平均す。
この平均の数は、真に衰時中の易(か)うべからざる天命自然の分なり。
この分に従い国用その度を制す。
これをこれ経済の程度を定め、分度を立つるの方法とす。
いやしくもこの分に安んじて、艱難を甘んじ、節倹を尽くし、国家再盛の期に至るまで、確乎として堅く守り、変動せざれば、国本既に堅立す。
国本既に堅立すれば、生財の湧出するや、たとえば川源を開きて流水の限りなきがごとし。
語(論語)にいわく、
殷は夏の礼に因り、損益するところ知るべきなり・・・
(為政第二為政第二
子張問ふ。十世を知るべきや。子の曰はく、殷は夏の禮に因り、損益する所知るべきなり。周は殷の禮に因り損益する所知るべきなり。其れ或ひは周を繼ぐ者百世と雖も知るべきなり。)
今すでに過ぎ去りし数十年の租税を平均し分度となすもの、それこれに由れり。
昔し漢土の開けし時、その用財を我が国に求めず、我が国の開けし時もまた彼の力を借らず。
けだし漢土は漢土の力をもって開け、我が国は我が国の力をもって開けたるや疑いなし。
然らばすなわち衰国を再興するに、何ぞ財宝の乏しきを憂えん。
今国の荒蕪を開き、窮民を恵まんとするときは、その国内の既墾地は、あたかも既に開けたる漢土のごとくにして、その租税によりよろしく分度を定め、国用を制すべし。
その未墾の地は我が国の未だ開けざる時のごとくにして、上古 大神(おおみかみ)の豊葦原を開き、安国と平らげたまいし開国の道に基き、一鍬より開け始めその土地の産粟を分外の物となし、開墾撫恤の用度となすべし。
かくのごとくにして年々歳々息(や)まざるときは、幾万の荒地も必ず開け、幾万の貧民も必ず撫育するに余りあり。
ゆえに荒蕪も開き尽くすべく、貧民もまたことごとく窮乏を免れしむべし。
然して生財の限りなくして尽きざるは、我が開倉積算数の書に著(あら)わせるがごとし。
それかくのごとくして国の廃地ことごとく開け、万民貧困の憂いを免れ、その所を安んずるに至れば、君の大仁国中にあまねくして、下民(かみん)皆その恩に報ぜんとす。
これにおいて、衰時の天命一変して、盛時の天命至る。
ああ人情身貧なれば、その貧を免がるるを求むるの外他なし。
貧苦既に除き富優を得るに及んでは、昔年の艱苦はとみに忘れ、奢侈の心起こり、再び衰貧の憂いを招くもの、凡情の常なり。
一旦艱苦をなむるといえども、なおかくのごとし。
いわんや盛んなる時に生まれ、貧困の憂いを知らざるものをや。
これゆえに忠臣義士一世の間、千慮を尽くし万苦をなめ、上(かみ)君のため、下(しも)民のために、肺肝を砕き、国家の廃亡を興し、上下の艱難を除き、泰山の安きに至らしむるも、佞奸一たび進み君を惑わし、分度を廃し、奢侈遊惰の弊を開かば、積年千辛万苦の功、たちまち水泡に帰し、国家再び衰弊し、百姓塗炭に陥るや、その勢い堤防を決して、流水の拒(ふせ)ぐべからざるがごとし。
もしそれ一国を興して、いやしくもこの再患を生ずるときは、ただにその衰亡に止まらず、佞奸ますますはびこり、弊害言うべからざるに至らん。
かくのごときはむしろ衰国を挙げずして、その弊害を開かざるにしかず。
いわく、
ああ、恐るべし、戒しむべし。
この再患を防ぐもの、それ道あるか。
いわく、
これあり。他なし。
ただ分度を確定して、もって大いに後世を戒しむるにあり。
分度確立すれば、人君といえども父祖の分度を破るをはばかる。
大いに戒しむれば、また父祖の禁戒を棄つるに忍びず。
君まことにこれを守りこれを慎むときは、佞奸出づるといえども、厳刑を恐れて、あえて君に奢侈を勧めず。
いずくんぞ分度を破るを得ん。
これゆえに国家興復の大業を挙ぐるに当たり、衰時の分度を定め、また興復の後、盛衰平均中庸の分度を定め、これを永世国家の基礎となし、その分外の生財は永く百姓撫育仁術の用度となし、君自ら書して遺すべし。
いわく、
盛衰治乱存亡の本源は、分度を守ると守らざるとの二つにあり。
我がこの分度を守りて、領中の衰廃を興し、百姓を安んじ、上下百年の艱難を免れしむ。
子孫永く我が志を継ぎ、富優の時に居るといえども、本源たる分度を確守して戻らざるときは、永世上下の福(さいわ)い余りありて、衰微の憂いなし。
もしこの分度を破らば、忠臣かくれ、佞人進み、奢侈行われ、百姓塗炭の苦を受け、上下の災害立ちどころに至り、天禄永く尽きん。
この分度を守らずして、我が一世の丹誠を棄て、国の大患を生じ、亡滅を招くものは、我が子孫にあらず。
臣下もし分度を破るの計をなすものあらば、国家の恩を忘れ、上(かみ)君を乱し、下(しも)百姓を虐げ、国を亡ぼすの重罪なり。
不忠何れかこれより甚だしきものあらんや。
もしかくのごときものあらば、速やかに厳罰に処して、いささかも宥(ゆる)すなかれと。
かくのごとき書してもって、後世を戒め、かつ翼賛の大夫も、また分度の大要を記して、大いに後人を戒むる時は、永く分度を守り、盛富を保ち、後患なかるべし。
これすなわち再患を拒(ふせ)ぎ永安を保つの要道なり。





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最終更新日  2026.06.26 07:00:06


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