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2026.06.26
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カテゴリ: 報徳
報徳論



問うていわく、
かって聞く、
先生の道は、聖人位に在(いま)して、国家を治め、百姓を安んずるの大道なりと。
然るに無利息金を貸して、庶民の活計を助く。
それ聖人民を治むるに、仁政をもってす。
いまだかって金銀を貸すの術を聞かず。
しかして無利息金を用うるもの聖人の道なるか。
いわく、
舟に刻んで遺物を求め、柱に膠(にかわ)してもって弾ずるもの、何ぞ活用の道を知らんや。
昔、堯・舜の天下を治むるに当たり、民人いまだ上古の風を失わず、淳朴質素にして奢靡(しゃび)に流れず。
人皆信実を主として詐偽に走らず。
ゆえに生財多く費用少なし。
聖人斯民(しみん)を愛しこれを恵む子のごとく、四海一家の親睦するがごとし。
その仁政を布くや、多端なりといえども、皆その時のよろしきに随う、何の疑いかあらん。
禹・湯・文・武・周公は聖人なり。
しかして同じく善政を施し、天下を治むといえども、世異に人情もまた時とともに変化す。
なんぞ一を執って活用の道なからんや。
よく下情に達し、時を計り、そのよろしきを見て、仁政を行い、万民をして困苦なからしむ、
その事同じからざるがごとしといえども、その天下を富まし、四民皆孝悌忠信礼義を行い、生を楽しみ、死に喪して怨みなく泰然たる治平に在りては一なり。
それ天の万物を生ずるや、四時錯行寒暑冷暖時とともに循環す。
春夏秋冬に随い、人事のよろしきを制してもとらず、もし一を執って活用の道なきときは、単衣夏に適すといえども、冬に至りて寒さを防ぎ身を全うするあたわず、絮衣(じょい:綿着)は冬によろしといえども、夏これを用いんとせば必ず炎熱に窮せん。
四時なおかつ同じからずしてその事もまた異なり、その事異にしてそのよろしきを得るものは、すなわち聖人の意なり。
いわんや数千歳の間においてをや。
必ず時運の盛衰人情の厚薄かつ質素浮華の異なるなからんや。
このゆえに今の政(まつりごと)を古えに施さば、民怪しんで服せず。
古えの政をもって、今を制せんとするも、労して功なきもの多からん。
夏・殷・周三代礼制を同じうせずして、天下治まるとはこの謂いなり。
今の古えを去る幾千歳、諸民往々淳朴を失いて、浮華を好み、質素の風漸く衰え、奢侈に流れ、惰遊にはしる。
これをもって生財は月々に減じ、用度は年々に増す。
これを生ずるものは少なく、これを用いるものは多く民末利を逐(お)って、本業をゆるがせにす。
土地荒蕪し賦税随って減じ、国用乏しく、下に取るもの度なく、百姓いよいよ窮し、上下の憂い極まるに至るもの少なからず。
けだし貴賎となく、貧困すれば、財を他に借らざるを得ず。
ゆえに貸借融通の道繁(しげ)く行われ、その不足を補うをもって、大小経営の資となす。
貸す者はその息を取って、奢侈の費用となし、借るものは利息増倍の責を償うあたわずして、あるいは倒れあるいは逃る。
終に貸す者は利のために慈愛の道を失い、不仁に陥り、借る者は利のために立つべからざるに至り、貸借こもごも利を争い、互いにその非を誹り、怨恨を来たし、仇讐の思いをなすもの多し。
借るもの傾覆すれば、貸すもののみ何ぞ独り全きを得ん。
これ財宝豊饒(ほうじょう)の時に当たり、昇平の大恩を忘れ、奢侈に流るるの禍なり。
然かれども自然の人情財利に走るもの時の勢いなれば、この憂いを助くるに誠心をもってし、信義に報ゆるに信義をもってし、人を敬するに礼節をもってし、かつ事を換うるに事をもってし、物を換うるに物をもってし、淳朴質素をもって身を養い家を治むるを常とす。
今は然らず。
財利を先んじ、誠意を後にし、恩を謝するに財をもってし、信義を通ずるに財をもってし、人を敬するに幣帛苞苴(けいはくほうしょ)をもってし、事を求むるに金銀をもってし、物を求むるに金銀をもってし、華美奢侈をもって身を養い家を保たんとす。
かくのごとく時勢同じからざるものは、叔世自然に薄俗に赴き、本を忘れ末に走るがゆえに、金銀にあらざれば一日も安からざるもののごとく汲々たり。
この時に当たりては聖人出ずるといえども、救助撫恤の道を行い、大いに仁政を下さんとするに、必ず金銀をおきて道行われざるは論を待たずして知るべきのみ。
我かって仰いで古えの人情時勢を考え、俯(ふ)して当時の民情を察し、衰貧浮薄の憂いを除き、四民各々淳厚篤実の行いに帰し、その所を安んずるの道を求め、往古我が国の開けたる道をもって、荒地を開き米粟を生じ、窮民を賑わし、かつ時のよろしきに処し、無利息金をもって、前条いかともすべからざる諸民の困苦を消除するや、譬えば雑巾をもって板敷の塵芥を除くよりも易し。
それ日月天に循環して国土を照らすこと、期年360日、一日の欠くるなく、一刻の留まるなし。
ゆえに森羅万象生々しておのおのその生を遂げ、その期年生ずる所のもの幾千万億、その数量るべからず。
かくのごとく無量の万物を生々すといえども、日月いささか光を増すにあらず、また光を減ずるにあらず、ただ年々天に循環して、下土を照臨し、万物を発生するのみ。
大なるかな日月の恵み、我が無利息金をもって、衆民の困苦を除き、安栄の地に至らしむるは、すなわち日月の国土を照らすに基き、救助の道となす。
何ぞや。
世上の貴(たっと)ぶ所、金銀に過ぎるはなく、世人の貧困を治するものも、また金銀より速やかなるはなし。
然れども利息増倍のために却(かえ)って諸人の困乏を増し、遂に怨恨争論傾覆の禍を生ずるに至る。
これをもって無利息金を出し、諸民に貸し与え、年を期するに、あるいは5年あるいは7年、もしくは10年をもって償わしめ、その返金をもってまた他に貸し与え、年々歳々かくのごとくにして止まざれば、利息なきが故に借る者大いに幸いを得て必ず累年の貧苦を免(まぬが)る。
あるいは有利の負債を償い、貸借紛々の憂いとみに消し、まさに滅びんとするの家再び栄えるものあり。
あるいは家屋雨露を障するの力なきもの、居家(きょか)を得てもって安んじ、衣(い)なきものは衣を得、農具なきものは農具を得、食なきものは食を得、田圃なきものは田圃を求め、凡そ下民おのおの欲する所を得、昔日貧困のために、心を労し憂苦にたえず、生を肯(がえ)んぜざるもの、今日たちまち幸福を得てもって、父母妻子を養い、孝悌の道を行う。
ああ人情窮すれば良心を失い、随って放僻邪肆(ほうへきじゃし)に流る、衣食住全ければ自ら栄辱を知り、良心発動して人倫の道行わる、これ人の常情なり。
今仮に1,000千金ありとす。
これを5ヵ年賦に貸し出し、一周度すなわち60年間循環するときは、その活用して諸民の有益となる金高25,000両余となる。
然して元金1,000両はいささかも減ぜず増さず、いわんや幾千万両においてをや。
ああ無利息金の徳大ならずや。
けだし日月の下土を照覧し、万物を生々するに基きしとは、それこれをいうなり。
あにこれ区々たるの行いならんや。
それ王者は天に代わって、蒼生を安撫したまうがゆえに、斯道(しどう)を布かせたまわば、天下衰貧の憂いなく、浮薄遊惰の民なく、ことごとく王化に浴し、感戴して生を楽しむに至らん。
国君これを行わば一国興起し、泰然たる治平に至らん。
聖人また興るといえども、今の世に当たり、国家を治め、万民の窮苦を除き、仁を四海に施し、永く上下の憂患なからしむるもの、あにこの道に由らずというべけんや。





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最終更新日  2026.06.26 09:00:08


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