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中途半端で、すみません近日中に続きはあげます殆どサンセツキの世界設定なので、読み飛ばしてくださってもかまいません
2005年12月16日
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「何をしているのですかっ!」 玲鈴は、どちらかと言うと柔和で女性らしい顔立ちだ。灰色のくすみがある碧の瞳は円らでおおきくが、その他の顔の部分部分は小さく、控えめにだが整然と位置づけられている。だが、この時の玲鈴の眉は顰められ、強張り、可愛らしい顔立ちが台無しだった。怒りの仮面が、玲鈴の顔を覆い隠していた。「無茶をしたわね?勇気と無謀は同じではないのよ?」「………咄嗟に身体が動いてしまって」 長姉に怒られる、と言うよりは呆れたように問われ、玲鈴は後日、目を泳がせながらこう答えた。怒鳴った後の玲鈴の対応は、後で心配されるほど、無茶に等しいことだった。 玲鈴は身一つで、荒くれ者と対峙したのだ。「おやめなさい!これ以上、狼藉を働くことは、許しません!!」 目の前にいる、鈴のなる可憐な声で怒鳴られた招かれざる客はどうみても品は良いとは言えなかった。玲鈴は彼らが野盗にしか見えなかった、と後に次姉に語ったが、多大に主観が入っていたのは明らかであった。だが客観的に見ても、下卑た笑みを浮かべ、服装や武器も統一性などどこにも見られない外見には眉を顰めるものがあった。肌が荒れ、汚れた手に握られた刃は、刃こぼれが目立ち、所々に赤黒さが見え、不快感を煽るものがある。だが、何より目に付くのは、中途半端であっても鍛えられた男性に力でかなうわけがない、か弱い女中相手に乱暴に振る舞い、略奪を喜々としている姿は人より悪鬼と言えた。 この様な者達に払う礼儀など、胡家の血の者はもちあわせていなかった。「私は、胡家の三女、玲鈴と申す。ここが胡家としっての狼藉か」 口調がどうしても丁寧になってしまうのは、口癖と言っても過言ではなかった。ただ、怒りの感情をむき出しにし、乱暴さ、乱雑さを言葉の端々に埋め込まなければ怒っていないとは、言えはしない。いくら口調が取り繕われたものであっても、それが怒りにまかせ罵るのより怒りが深くないとどうして言えよう。 現に玲鈴は怒っていた。人の上に立つ貴族として生まれ、それに相応しくなるよう教え込まれたから、かろうじて威厳を保ちつつものの、内心穏やかでは決してない。碧の瞳の奥にあるのは燻った炎ではなく、冷静さと言う水をかけられつつも消えることのない強い火があった。 男達は一瞬、虚を衝かれたかのように目を瞠り動きを止める。だが、見開かれた目に蔑んだ光を浮かべ、丸く開いていた口の端が、卑しさの糸によりつり上げ縫い止められた。「おい、聞いたか?お嬢様だとよ、ここの」「へぇ…だからそ髪が、血のような汚ねぇ色してんだな」「余所者のくせに、皓国ででかい面してるわりには別嬪じゃねぇか」「ばぁか、だからだろが。美人でもなけりゃ、とっくに追い出されてるぜ」 綺麗に彩られた唇から出る言葉は、決して美しいとは限らない。玲鈴はそれを知り尽くしていたが、汚い口からは汚い言葉しかでないものだな、と新しく己の認識に付け加えた。 玲鈴は今年で数え16になるが、童顔であり年齢のわりに幼くみえがちだ。だからだろう、男達は玲鈴が虚勢を張って、偉そうな言葉を、ただ口にしているのだと思っていた。滑稽にさえ見えたのだ。そして自分よりはるかに幼く、力のない少女だと分かると言いたい放題だ。 玲鈴は、蔑み始めた男達に対し、冷めたい視線を向けるだけだった。* 胡家は、皓〈コウ〉王朝が始まって以来、初めて外からの血族の貴族だ。この国の者ではない、外の国からの移住者はほとんどいない。 皓王朝は、対外に頑丈に外交の扉が閉ざされた国だった。広大と言ってもあながち誇張ではない島を、いや一大陸を皓王朝が大陸の国々を1000年前に統一して以来、外交貿易を頑ななまでに拒否していた。それを可能にしているのは肥沃な大地と、外敵を拒む広大な海、そして人外の力だった。 世界を閉ざしても衰えない国力を生む豊かな資源はまだ後数百年は尽きることはない。その豊かな大地を囲む輝く海は、まるで島を包み覆い隠しているかのようだ。他の国々と皓国を隔てる距離は膨大で、船旅を貿易船なら約1ヶ月要する。事実、最速で船を走らせても最低10日~半月しなければ水平線以外を見ることは叶わない。まだだれも見たことがない世界中を網羅した広い海面図を広げることができたならば「皓国は孤立しているようにも見える」と、ほとんどの人は言うだろう。 そしてもう一つ、人外の力だった。それは『神』と呼ばれる者達だ。実存が不確かなものではない。人より優れ、超越した存在がいるのだ。その容貌は人であったり、獣であったり、と個々によって違うが、いかなる姿であろうとも、人を高みから見下ろせるだけの権利を持ち得るほど強大すぎる力を持っていることに、なんら違いない。今日その姿を見た者はほとんどいなくはなってしまったのだが、昔は数多の『神』と共存していた。 皓国には守り神が三神いる。それぞれ陸海空を護る、と言われていた。 陸を治めるは、『颯狼(ソウロウ)』。金糸のみでできた毛を纏い、輝きのみを残像とし走るさる姿は誇り高い狼に似た獣の姿である。海を治めるは、『黎龍〈レイロン〉』。黄金の瞳に、空をくねる長い胴体は鱗の一枚一枚が漆黒の宝玉のように輝く優雅な龍である。空を治めるは、『霓鳥〈ゲイチョウ〉』。肢体を雲に溶け込むほどの純白の羽毛に包まれ、長い尾は七色の虹のような色合いをもつ、巨大で、だが優美な鳥である。 この三神こそが、皓国に姿を今でこそ人間の前から消しているが、数多いる神々を束ねていた。それを意味することは、万能と言い換えてもいい、と言うことだった。三神が王座から微塵も動かなくとも、爪を一振りすれば事足りた。それだけで、皓国にいる神々は従い動くからだ。黎龍に、人々へ豊かな農作物の恵みを与えられる能力はない。だが、黎龍が命じれば、肥沃な大地を司る神は動く。森羅万象を掌握しているに等しい三神は、人々の全ての神頼みの対象にされていた。「万能神が、自分たちの味方」 これほど人間を魅力し、虜にするものはそうはない。 雄大で、強力な味方を得ている皓国の外へ開かれる重い扉はさび付き、その頑なさを促進させたのであった。 他国がいくら武力で無理矢理にでも外交の扉の鍵をこじ開けようとしても、どうしてもぶつかる障害物は兵糧だ。整然と軍船を進めるとして、最低半月なのだ。到着までで半月、そしてそれから闘うのだから更に月日は必要だ。これは、重大な問題だった。 だが、この重大さが分からないとある王がいた。部下を呼び、なぜできないのか、と真顔で問いつめたと言う。部下は暴れ出しそうな内心を押さえ込むことにどうにか成功し、こう答えたと言う。「たった1万の兵を連れてこようとも、一日3食としても、最低45万食は必要でございます。つまり、闘う前だけにそれだけの兵糧を。更に数ヶ月は耐えられるだけの食事となれば、船、一つ二つを全て兵糧にして、積むと仮定しても足りないことは必須でございます。そして、それは大前提とし、兵糧を一つたりとも腐らせず、無駄にしない、ということがなせなくてはなりません。これは、難題です」 さすがの王も口を閉ざしたほどだった。1万の兵で、45万食以上。10万の兵を投入すると、450万食になることを、決して聡いと言えない王にも理解し、絶句さざるえないのだ。何よりまだ食物、それも大量のものを船上で長期保存する手段がない。さすがに強行しろ、と言えない。それでは死んでこい、と言っているのと同語になるからだ。 だが、自然の恩恵にこれでもか、と言うほど守られているだけならまだ対処の仕方があっただろう。肥沃な大地を指をくわえて遠くから見ている理由はない。ならば何故か。 理由は神々だった。 皓国の大地が見えたと思ったら、海が荒れ船を飲み込もうとするのだ。暴風が帆を叩き折るかのように吹きつける。灰色を重ね塗り合わせ、黒く見える雲から叩きつけるように雨が降り注ぐ。自然の驚異に耐えても、次の瞬間、死の匂いを纏った、獣の形をした風が船に乗り込み、暴れる。「く、雲の合、間に、りゅ、りゅ、龍がいたんだっ!!」「巨大な白い鳥が、暴風を起こしたんだっ!!」「お、狼が、銀色の狼が、襲ってきたんだっ!!」 奇跡的に助かった兵士は口々に叫んだ。半狂乱な彼らに、祖国の者は不信な目をしつつ、迎えた。現実と言う味付けがない言葉は、空想にしか聞こえなかった。だが、他の目撃者を、と思っても、物言わぬ変わり果てた姿になり果てているので確認のしようがない。彼らの言葉が信じられるのは、権力者がこりもせず、何度か皓国に攻め入らせた後であった。 どうにか神の死に誘う御手から逃れたとしても、更に追い打ちをかけるのが、『守人』だった。 貴族達が己の護衛である守人達に命じ、戦いにかり出すのだ。これが、反則なほど強い。一騎当千を地でいき、船に単身で乗り込んで来ては、破壊の限りを尽くした。死すことを恐れず、いくら血を流し、腕が千切れようとも、何事もなかったように戦い続ける姿に、兵士達は恐れおののいた。「血で化粧をした彼らは、不気味なほどの怪しい美しさであった。まるで堕天した神の御使いのようで……人ではないように見えた」 襲撃された船から、唯一逃げれた兵は将軍に被害を報告した後、そう言葉を漏らしたと言う。神々の使いの様な姿、と称されたのはあながち間違いではなかった。彼らは死に神の美しい御使いなのだから。 神に、守人と言う敵に回す者としては最悪としか言いようがない結託に「やってられるか」と、過去兵を率いた将軍達は口を揃えた。いくら年期を重ね、老熟した良将であっても、人外相手にどう闘えと言う。部下を率い、大軍と闘うことが彼らの役目であり、神や化け物と闘うことは専門外だ。常識をあっさりと破壊する非常識への対抗手段を考えても、常識人である将軍達には浮かぶはずがなかった。部下を、兵を無造作に殺されるのを止めることができないことの無力さをつきつけられるだけで終わったのだった。 命がけで残兵を纏め、どうにか故国に帰りついた将軍に、各国の王は「何故、惨敗してきた」 と怒りだす始末だ。将軍達が怒ったのも、無理はない。皓国征服、と言う無茶難題を押し付ける主君に、否を唱える実力ある、賢明な将軍達が各国に増え続け、とうとう王は兵を出せなくなった。雑兵がいくらいても、率いるものがいなければ、何にもならない。怒り、王は将軍を見せしめに何度か処罰を加えた。だが、結果は変わらない。「皓国に攻め入ると言うことは、処刑台へと登ることとなんら変わりませぬ」 勇猛果敢で知られる将軍達の言い分に、王は呆気に取られた。逃げることを、弱さと考えていたからだ。怒り狂い、処刑を言い渡されても将軍達はひるみもせず言葉を続けた。「ここで死しても、国王を諫めるで、部下の命が一つでも無駄に失われることを止められるならば、私は喜んで、この命を差し出しましょう。何度でもいいます。王、出兵をおやめください」 そう言い切られると、さすがに王も皓国に手を出すことを躊躇わずにはいられなくなった。 こうして皓国は過去150年、他国との戦争が一切ない、と言う偉業をなしえたのだった。
2005年12月16日
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濃い藍色の色がすっかり浸透し、その上に暗い灰色の雲が重ねられた空が重苦しく玲鈴の瞳に写った。夜を僅かに照らす星や、月の姿は雲にかき消されている。強風は木々の葉を叩きつけさざめかせ、窓枠が揺れる音と合わさり耳障りな合唱を奏でている。 まるでこの場所だけが世界から切り離されたかのような、妙な孤独感が玲鈴は感じる。気付けば己の身体に抱きしめていた。重力に虜にされたかのように床しか視界を占めないほど落ちていた視線を、玲鈴はふっ、と上げた。「……大丈夫かしら?」 恐怖の変わりに玲鈴の胸を占めたのは、胡家に保護されている一人の少女だった。朔夜と言う名を持つ、玲鈴より幾つか年下の『守人』の少女である。『守人』 その名を聞くと、大半の人間は震え上がる。 金か銀の(自分たちとは違う華やかな)豪奢な髪、人間のものとは思えないほど美しく、様々な色(自分たちと違って黒や茶色ではない)を灯した目、人とは思えないほど(どの部分を取って比べても比べものにならない)麗しい顔。何より同じ人であるにも関わらず、人を塵のように殺せる(人とは思えない、強すぎて、恐ろしい)力。これが皓国の人間の『守人』の存在の認識であった。 上流の貴族の跡継ぎに付き従い、護衛をする者達。故に『守人』。『守人』は例え姿が幼くても、常識を越えた人の力を有していると言う。だから、すでに年が10に満たずとも護衛の任をこなしている。 玲鈴も、始めは朔夜が恐ろしかった。『守人』なのだ。その気になれば、玲鈴など瞬きの間に殺されてもおかしくない。猛獣や猛禽の傍に、進んで近づいていくことはただの無謀だ。何故、胡家で“保護”をするのか、真剣に不可解に思ったほどだ。「護らなくても、“人”よりよほど強いじゃない」 だが、玲鈴は今では悔いていた。「何故、知ろうとせず、距離を置いたのだろう」 これだけで、悔い改めるには充分すぎた。 知ろうともせず、他人に最初に得た印象で虚像を作り上げ、それを本物と思いこむ。そして距離を置き、差別するなど、玲鈴が一番嫌っていることなのだ。同じ轍を踏んでいたことに気付いた時愕然とし、玲鈴はしばらく恥じて朔夜の顔が見れないほどであった。 嫌っている玲鈴でさえ、陥ってしまった錯覚。ならば、どれほどの人間が陥ってしまったかは考えるまでもない。 朔夜の心情を初めて考え思ったとき、玲鈴は慄然した。今まで、どれほどこの見えない剣でずたずたに切り裂かれたかは、考えるだけで震えが止まらなかった。 昔の玲鈴は知らない。朔夜がどれほど自分にとって可愛い存在に成りうるか。 昔の自身と語る機会があれば、玲鈴は得々と語っただろう。「優しくて、けど己が優しさに包まれるのが苦手で。相手を思いすぎて、己を追いつめてしまって。追いつめられて、相手が幸せになるなら例えそれが自分がボロボロに傷つく手段であっても躊躇無く選んでしまう子。いつも素直で、無防備すぎて心配だけど。そのさらけ出された感情はどれも純粋すぎて、眩く見えるの。そして朔夜の心に足を踏み入れることができた人間にの見ることができる笑顔が、どんなに心地よいものか、貴方に分かる?ああ、分からないわよね。だって、知らないもの。朔夜という人間の本質に触れなけれた者だけの、特権よ、これは」 その相手を思い、頼ることをしない、いやできない朔夜を、玲鈴は心配で仕方がなかった。 今宵は、玲鈴でさえ無理矢理恐怖や不安を引きずり出されていた。心の奥に、大きな傷を刻まれた者はどれだけの闇を注がれるか、など予想に易い。 考え始めると、いてもたってもいられなくなる。 玲鈴の足は、本棚へと向かっていた。 朔夜は、玲鈴の話を好んで聞いた。文字を読むことができるが、玲鈴の口から語られる物語を聞くことの方を選ぶほどだ。そこに並ならぬ努力があったのは、玲鈴のみ、いや朔夜を知る者達は知っていた。 始まりは、玲鈴が悔いるのに飽き、現状を改善しようと始めた試みであった。 長姉のように、水を注ぐように己の持っている知識を与えるなど出来ない。次姉のように、困惑し躊躇うその手を強引に引き、外に連れ出し、遊ばせることも出来ない。「できないものは、しかたないわ。じゃあ、姉様方がしてないことをするまでよ」 玲鈴にできることは何だろうと考えた結果が、室内で遊ぶことだった。活発な次姉と違い、玲鈴は内向的だ。その違いを引け目に取らず、武器にしようとしたのだ。 だが、最初に叩き出された結果は散々だった。 字を教えようとすれば、すでに識字は完璧だった。本を与えれば、同じ室内で読んでいたが、朔夜が気を張っていて双方とも集中できず、疲れるだけに終わった。手芸を教えれば、己の指を刺す-緊張し、目に見えぬほどであったが指が震えていたからであった-朔夜に、断念せざる得なかった。華道は、と思えばあまりの前進的な作品に玲鈴が頭痛がし、頭が悲鳴を上げるのでこれまた断念した。その他色々と挑戦し、ことごとく敗戦で終わった。朔夜との距離は縮まることを知らず、むしろその距離差を見せ付けただけで終わった。 だが、ここで玲鈴は諦めなかった。最初から、距離の遠さを知っていたし、縮めにくいことも覚悟の上だったからだ。何故ならただでさえ空いていた距離を、遠ざけたのは玲鈴自身だったのだから……。 努力に、努力を上乗せして、ようやく実を結び、朔夜は玲鈴を受け入れてくれた。 朔夜が睡眠欲の腕に抱かれるまでの僅かな時間、本を読み聞かせる。それは子守歌の如く、眠りの淵まで朔夜を誘う役割を玲鈴は喜々と担っていた。ならば、風の音から生まれた恐怖を振り払うのは、己の役目だ、と玲鈴は自負した。 可愛い、妹分のような存在の為、本を選んでいるときだった。 ひときわ風が強く吹いた。そして、その後、風はその威力を一時落とす。 だから気付けたが、扉を隔てた外が、五月蠅い。この異変は玲鈴の胸のうちをざらりと撫で上げた。 第六感が、働いたのかもしれない。自然と顔が強張っていく。「嫌な、予感がする」 手にした本を本棚に戻し、部屋の扉を開け、廊下を歩きだした。騒ぎの方向に向かい、足早に。 廊下の角を曲がったろころで、玲鈴の思考は一瞬凍り付いた。凍ったと思った自覚した瞬間、沸き上がったのはそれを溶かしつくす灼熱の、怒りだった。 「何をしているのですかっ!」 玲鈴の口からでた、灼熱の熱さに感化された声は冷たく彩られた、惨劇の舞台の一端であった廊下に響いた。それは温度差により、異質にさえ聞こえるものであった。
2005年12月10日
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本編の緋深サイドからみた話です補完のようなものですが、よろしければご覧ください[紅の邂逅]捻りも何もないタイトルです赤目の緋深から見た、邂逅まんまです……すみません良いタイトル考えつかなかったんです互いに、相手に罪悪感を抱き、己を責めて何やってるんでしょうね(苦笑)まあ、それだけ自分より相手を大切に思うからこそ、なんでしょうが二人してぐ~るぐると二人に気づき近寄ってきてくれた翡翠王と獅吼に感謝ですよ二人が思考の渦、一回りしたぐらいにちょうどやってきてくれて(笑)じゃないと、いつまでぐるぐるしていたか……けど、二人は根本が違ってます緋深は、己の失敗、および醜態を悔いているのであって咄嗟に朔夜を連れ出したことには後悔してません。むしろ何度やり直す機会を与えても、同じ結果でしょう。逃げたその後の行動が違うだけで(山に向かわない)が、です朔夜は、なんて言うか全てを後悔してたり騒動の発端の一因を担っているのは確かです緋深の「己を疫病神と思っている」はあながち間違ってません(まだ書いてませんが)過去が、どうしてもそう思わせるのです次やり直す機会を与えたら、全てが変わっていたでしょう決して同じ未来にはなりません下手したら緋深と会わない未来を選びかねませんそれは緋深が嫌いだからではなく、大切だからですやり方を激しく間違っていますが断言できますうちの朔夜は、考え方が右斜め45度以上、一般とずれていますこんな変な主人公ですがそのうち性格も変わるでしょう、きっと成長を見守ってあげてくれると、幸いです次は、[紅の雪]をあげようかと思っています朔夜達が、逃げ出した理由十数時間前、何が起こったかそして逃げ出した場所に残った人たちはどうなっているかが、書けるといいなぁ、と思っていますよろしければご覧ください
2005年12月05日
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長い睫毛が頬に影を描いたのがふいに消えた。 朔夜が急に深く俯いてしまったのだ。緋深は朔夜の旋毛しか見えなくなり、どうしたのか、と怪訝に思い視線をずらした。 朔夜が瞳をそっと閉じていている。一瞬最悪の事態が脳裏を過ぎるが、微かに息をしているのがか細い呼吸音でわかり、気付かれないように安堵の息をついた。 だが、頬のところどころ雪がこびりついている姿に一度は緩んだ眉が、また顰められた。それは緋深の気に入っている柔らかな色を灯す手触りの良い銀灰色の髪も、幾度も降り注ぐ雪で凍り普段より冷たい色に彩られ固まっているのも原因の一因を担っている。 朔夜の髪は、見る者に不自然さを感じさせるものであった。右半分では、風に揺られ肩をくすぐっているのに対し、左半分は背中まで銀糸の束のようになめらかな線を描いている。 右半分の髪を、不揃いになるほど乱暴に切りさったのは緋深であった。悪意あってのことではなく、咄嗟の機転をきかせたとき、どうしても避けられなかったのだ。事態を良いほうに転ばせた代償であった。 緋深はこの行いに後悔はしていない。ただ、やはり罪悪感はあった。朔夜の髪は、いずれ伸びる。わかっていても、切ってしまったことがもったいない、と思う。緋深は、朔夜の髪に触るのが好きだったからだ。 緋深は朔夜を背中から身体を包むように抱きしめていた。腕の中にいる朔夜は力無く、全てを預けるようにもたれ掛かっている。糸の切れた操り人形の如く、身体の力という力が抜けていた。 朔夜が精神的にも、肉体的にも疲れているのことを緋深も理解していたので、眠らせてあげたい、と言う気持ちが顔を見れば見るほどじわじわと沸き上がり、つい叶えたくなる。だが眠らせることで朔夜の体温が下がらせれば、この自然の猛威の中、最悪の場合凍死さえ考えられるのだ。あえて優しくしてやりたい、と言う気持ちから生まれた想いを押し殺し、声をかけた。「眠い、か?」 声に誘われ開かれた、透明感のある紫の瞳に、緋深は一瞬魅入った。 緋深は、この透き通った綺麗な瞳が好きだった。紫色など、以前の緋深にとっては、貴族が好んで着る色という認識であり、嫌悪する、とまでいかなくてもどうやっても好ましい色ではなかった。だが朔夜に出会ってすぐ、と言うわけではないが-出会った当初はどう言葉を言いつくろっても仲が良いとは言えなかったのだ-同じ時間を共有していくうちに、例外的扱いではあるが、紫色はある意味合いを持つようになった。「……緋、深」 小さい、雪の音しか聞こえない静寂に支配権を委ねている山の中でさえ、聞き逃してしまいそうな声が、かろうじて緋深の鼓膜にまで届いた。その寒さからくる震えが隠しきれていないか細い声は、耳の奥で儚く消えるのに、無意識に舌打ちをしかけ、緋深は慌てて止めた。 今舌打ちなんてしたら、朔夜は自分を責めるに違いはない。巻き込んでしまった、と。緋深には自信ではなく、確信があった。 驚き呆れるほど相手を尊重する、と言えば聞こえがいいが、自身を大切に思っていないどころか、己を疫病神とさえ思いこんでいるのではないか、といつも疑いたくなる人間が、朔夜なのである。 朔夜は今、どれほどの罪悪感を抱いているのだろう、と考えるだけで緋深は悔しさから生まれた自身へ対しての怒りはまるで業火のようで、燃やし尽くされてしまいそうだった。(違うのに) 緋深は、奥歯をきつく噛み締めた。 巻き込まれた、など微塵も緋深は思ってなかった。脳裏にほんの十数時間の光景が過ぎる。 朔夜に《あいつ》の指が、銀灰色の髪に触れ梳いたのを視界に入れた瞬間、心の奥で激しく火花が弾けた。 触れられたことで、強制的に怯えの色を瞳に灯され、透明感のある円らな紫色の瞳が曇った。 生きた彫刻のように固まっていた細い身体が、震えだした。 声も出せないほどの恐怖に捕らえられ、泣き出しそうだった。 その姿だけで、充分すぎである。緋深にとって《あいつ》を敵とみなすには。(---朔夜が傷つけられたっ!!) 火花は冷静さを加熱し溶かしきり、火花の燃え後から生じた白い煙は思考を浸食し、気付けば、思わず朔夜の手を引き、走りだしていた。 ただ、このまま朔夜をこの場所にいさせてはいけない。いや、緋深がいさせたくない、と強く思いその衝動だけに突き動かされていた。その時“後先”なんて言葉、頭の中にある辞書から消えてなくなっていたのである。雪が降っていたことなど、冷静さがもとの温度を取り戻すまで気付けない醜態を晒すほどに。 火花の余韻が消え去ったときには、人気のないところへ、の一心で山の方に、とっさに逃げている時だった。 『木を隠すなら森』と言う。追っ手にとって大勢人がいれば、いるほどこちらは認識しにくい。逃げ込める隠れ家があるわけでもなければ、確実に撒ける道をしらなかった。ならなおのこと人混みに紛れるべきだった、と冷静になった頭脳は緋深を指摘し、非難する。 緋深は、わざわざ足跡を一つ見つけられれば、追う者からすれば追っている者だと瞬時判断できるような場所に自ら飛び込んでしまったのだ。追っ手をまくことの困難さを知り尽くしている、とどこかで自負していた緋深からすれば、こんな愚直な手段を取った自分が信じられなかった。 その結果が、つけが、朔夜を凍えさせている。 単衣の上に、厚い生地とは言えない薄花色の着物を纏っただけなのだから凍えるのもしょうがないとも言える。綿入れの一つも掴んでこなかった自分の思慮の浅はかさ、余裕のなさが尚いっそ悔やまれた。 …そう言う緋深も、厚着とは決していえない格好である-厚着であったらとっくに朔夜に着せていた-が、朔夜は寒さに対しまったく免疫がないのに対し、多少はあるのでまだ耐えられいた。(………くそっ) 内心自身に悪態をつきつつも、青く染まった唇を、震えながら開けようとするのを止めるため、そっと冷え切った指で朔夜の口を覆った。体温がとっくに失われた指で触れることに躊躇いがなかったわけでもないが、口を開けると、冷気の大きな固まりが、直接肺を突く。肺を傷つけることは阻止すべきだ、と躊躇いを押し殺す。「喋らなくていいから…」 安心を少しでも与えられるよう、努めて平然と聞こえるように注意しつつ、言葉の隅々まで優しさを織り込み、穏やかさをかろうじて保ちつつ、言い聞かせる。己の中のあちこちに散らばっていた辛抱強さ総動員して、やっとだった。穏やかさ、を保つことがが一番何より困難だったからだ。 緋深は、無力すぎる自身を憎みさえしていた。それが外に漏れ出さないようにかなり腐心しなければならないほど、それは苛烈だった。 もともとはどちらかと言えば白いと言える朔夜の肌が、更に白さが増し、淡く青味を帯びている。瞳が隠れれば、生きている人間、と言うよりは人形のようにも見え、緋深は背筋に悪寒が走ったのを感じた。己の罪状をまざまざと目の前に突きつけられた罪人に似た恐れと、朔夜を失うのではないか、と言う恐れは、恐怖の二重奏となり、緋深の中で鳴り響いている。 普段の朔夜は、喜怒哀楽が激しいわけではない。むしろ喜んだり、柔らかな笑顔は希少とさえ言ってもいい。だがそれに反比例してぼんやりしたり、困惑した表情などは多かった。 けれどどんなものであっても、必ず朔夜の顔にはいつも感情が見ることができた。感情を良くも悪くも偽る方法を知らない朔夜だからだ。どんな時も素直すぎるほどで、純粋すぎる感情をくみ取れるのは安易だった。(大丈夫、だよな?) 不安に突き動かされ、緋深は朔夜を強く抱きしめた。 一瞬強張るかと思った身体は、一度ぴくりと動いただけだった。それに少しだけ喜びを-朔夜は他人との接触は、慣れた人意外拒絶してしまいがちだったから-覚えつつも、壊してしまわないように力加減をしつつも、抱きしめることを止めなかった。 腕のなかに朔夜の存在を感じられたことに、崩れ落ちてしまいそうなほどの安心にようやく不安は霧散する。(朔夜は、ここに、いる。俺の、傍に) 一言一言を噛み締め、意味を吟味するように確かめ、ようやく腕の力を抜くことができた。 時々緋深は、こうした不安に襲われる。 朔夜は儚い印象もあるが、弱いわけではない。見ようによっては弱々しい外見に反して高い戦闘能力を秘めているのだ。 何故、不安になるか。それは、もし仮に繋いでいた手を興味本位で振り解けば二度とその手は繋ぐことは不可能になることを緋深は知っていたからだ。手の力を緩めても、するりと繋いだ手は解けることもだ。そうなれば朔夜はこちらを振り向かず、走り出し消えてしまうのだ。そしてもう二度と出会えなくなる。 誰かに教えられたわけでもない。朔夜がそう言ったのでもない。 だが、緋深は、肌でそれを感じ取っていた。 いつか緋深より小さく、細い指が解けてしまうときを考えるだけで、莫大な不安に駆られる。未だ不安を押し殺すことも、押さえつけることさえできない己の未熟さに嗤いながらも、緋深は確かめずにはいられなくなるのだった。虚空にただ一人うち捨てられるのに似たそれは、すでに恐怖の域にさえ達する。(朔夜は、ここに、いる) もう一度心で呟き、緋深はいつの間にかきつく瞑っていた目をほどいた。腕の中で凍える朔夜を見つめていると、いつ息絶えてるか分からない喉をかみ切られた草食動物が連想されるほど、弱々しい。(何故、肩代わりできないのだろう) 不可能な願いだと分かっていても、馬鹿げていると思っても、緋深は願ってしまう。 今、朔夜を苦しめるものを肩代わりしても、全て引き受けても、一向にかまわなかった。凍えている空の下で、雪にまみれることなど自身には慣れきったことだからだ。正直、慣れても辛いところがないとは言えない。それでも緋深は仮に無茶な願いが叶うとしたら、一瞬も躊躇ったりすることは皆無と言い切れた。身を切るような冷たさに耐えることで、腕の中にいる朔夜を守れるのなら、躊躇う理由はなかった。 昔と同じ色をした凍えた空の下でも、今は腕の中に確かな暖かな存在がある。昔耐えられたのに、今耐えられない訳など何処にもないではないか。掛け替えのない腕の中の、大切すぎる存在を守るためなら、何でも耐えれるだろう。例えそれが他人から錯覚だ、と言われても、緋深には関係ないと言い切れた。(朔夜を、護る……絶対に) 何度も己に課した誓いにも似た、決意をもう一度心の中で呟いた。何故なら、敵が近づいてきている。雪を踏み分ける音は、確実にこちらに近づいてきてたのを先ほどから緋深は聴覚していた。(どこまでやれるか?) 緋深は、力を正確に把握している人間だった。 今どれだけの力が自分が使え、敵との力を正確に図れるだけの訓練を積んでいた。慣れているとはいえ、自然の驚異に晒された身体でどれだけ闘えるだろうか。 弱い敵ならいい、と思う。(ま、人生そうそううまくいかないし…) 最悪の親友は同等の最悪である。連鎖反応のように物事が起こっていく以上、緋深より強い敵が出てきてもなんらおかしくない。(誰がきても、朔夜を、『あいつ』にだけは渡さない) 緋深は朔夜から視線を外し、静かに面を上げた。 深紅の炎にも似た瞳に、相反した冷たすぎる鋭い光が過ぎった。
2005年12月05日
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