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高村光太郎の中で、一番好きな詩です。荒涼たる心持で、それでも顔を上げていたいとき、読みたくなる詩。要するにどうでもいいのか(否、否、否、無限大に否!)火星が出てゐるうろおぼえでごめんなさい。歩くリズムで、冬の寒い道で、つぶやいていたい詩です。今、手元に本がないのに、無性に読み返したくなって、久しぶりに本屋さんに出かけました。ハルキ文庫の高村光太郎詩集をぱらりめくったけれど、収録されていませんでした。(ええっ、)と思って、となりの棚の岩波文庫を手にとって。やっぱり収録されていない。愕然としました。もしや、「火星が出てゐる」は光太郎の詩ではないのだろうか。最初に自分を疑いました。おそるおそる新潮文庫を開いてみると、こちらにはあり。安心しました。ブランデンブルグも、新潮にしか入ってなかった。これもちょっと意外。光太郎の詩は、中学の国語の教科書で初めて読みました。「ぼろぼろの駝鳥」。読みやすい詩を書く人だな、と思って、母の本棚から旺文社文庫を持ち出してきて読んだとき、「火星が出てゐる」に出会ったんでした。母が持っていたのが、ハルキ文庫や岩波だったら、私は別の詩を好きになっていたのかもしれないな。と思うと、少し不思議。自分をリセットして、まっさらになって、読んでみたい気がします。さて。実家には母からいただいた旺文社文庫「高村光太郎詩集」と、高村光太郎記念館が頒布した文庫「高村光太郎詩集」がございます。収録作品はほぼ同じ。後者はワタクシ、古本屋さんでみつけましたのよ。これらには「火星は出てゐる」は入っているけど、ハルキ文庫に入っていた「暗愚小伝」は入ってません。「資料」としてではなく、「詩」を集めるのが詩集なら、やっぱり私は旺文社文庫の肩を持ちたいな。火星が出てゐる。この年になって初読だと、そこまで思い入れない気もします。自分の息が暑苦しいことをもてあましてた15歳、あのときに読んでいて良かったねって、15の私に言ってあげたい。ついでなので、井上ひさしの「太鼓叩いて笛吹いて」を探してきました。カバー折り返しを見てみると、「イーハトーボの劇列車」も「泣き虫生意気石川啄木」も絶版みたい。日本って、つまんない国ですね。
2006年03月30日
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サヨナラは別れの言葉じゃなくて。なんて歌っちゃう三月。職場を退職されるお二方のために、退職記念品を買出しに出かけました。一番下っぱな私が走らされるのは納得ですが、選別するのも一任なんて、知らないよ?お一人は、ご年配のもの静かな男性です。煙草とお酒が大好きで、人付き合いが苦手で、週末は農業をされています。善き人です。はにかんだ笑顔がとてもチャーミング。(何がいいかな、)と上司に相談すると、(酒でも買っとけ)と言われました。そんでもって、自分ではあんまり買わないタイプの日本酒で、うまいやつ、探せって。えーと、自分がどんだけ難しいこと言われているか判ってますか?うらめしそうな顔した私にあわてて、「ようは、とおりが呑みたい酒買えばいいんだよ。」はい、呑みたい酒、選ばさせていただきました。広島は呉の小さな酒造の造っている「華鳩」というお酒。燗に最適、というのが決め手でした。冷では呑んだこと、あるんですけどね。お値段の割りに、美味しいお酒だと思います。甘口だけどくどくなくって、口当たりがやわらかい。すうっと体の中に消えていく。あ、こんなこと書いたら呑みたくなってきちゃったよ。もうお一方は、やさしいおばさま。とても上品で、いつも口調がおっとり柔らかい。そんでもって、ものすごく手が切れて、知識が豊富。ほっこりと笑って、決して人を責めない。きれいな人です。欲の少ない人なので、何が欲しいのか見当もつかなくて。ご当人にそれとなく聞いてみても勘づかれ、(何でもいいです、)といつもの優しい笑みで答えられてしまいました。どうしよう。悩みながら、デパートの贈答品コーナーを見て回りました。切子のグラスにしようか。七宝焼きの飾り皿にしようか。塗りのきれいな大内人形もいいかもしれない。備前焼きの職人さんの一点もの。すごくいいけど、すごく高い。と、目に止まったのが、やわらかな水色の小さな湯のみ。名のある人のものではありませんが、萩焼の釜で職人さんの手で焼かれたものでした。水色、白色、土の色。手の中にしっくりとくるまろみ。器を覗き込めば、奥にしたがって水色はさらに濃くなって、透き通る光をためる。深味。やさしさ、いさぎよさ。おだやかなのに、ゆるがないところ。その萩焼の印象が、辞めていく人にかぶりました。これしかない、と思いました。萩焼は、ふだんつかいの焼き物です。使えば使うほど、色を変えて手になじんでいく。仕事を離れ、介護のために家庭に入る人に送りたかった。時折は自分のための熱いお茶を飲み、手の中にとどまる自分の時間を感じることができるように。独りよがりの選択になっていたら、と思うとすごく怖いです。どうかこの器を見て、かの人が、ふんわり笑ってくれますように。「ありがとうございました」が、ちゃんと伝わりますように。
2006年03月29日
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帰り道、暗い道、ガソリンスタンドだけがぽっこり明るい幹線道路の交差点に、一本だけ、桜が植わっている。いつもこの交差点で、赤信号につかまる。片足で自転車を支えながら、花を見上げる。この時期にだけ、この木が桜だと意識する。夕凪。白い花は、自身発光するかのように、宵闇のなか、浮かび上がって見えた。みっしりとついた桜はそよともせず、まだ一枚の花びらもちらす気配はない。作り物のようにも見えて、手を伸ばそうとして、ふとためらう。掴まえられたら、どうしよう。信号が青に変わる。私は自転車を前に押し出すように、地面を蹴る。細い桜の木から、逃げ出すように。四歳の頃、両親の仕事の都合で、祖父母の家に預けられていた。祖父母の家は木と陽と土の匂いがした。私を家において、祖父母は朝早くから畑仕事に出る。陽が明るい斜めになる十時ごろ、土のついた野菜を収穫して祖父母は帰ってくる。祖父母の家にいると、いつも、乾いた埃で喉がほんの少し熱かった。ちっとも不快ではなかったけど。祖父母が帰ってくると、私は外に遊びに出るのを許される。菜を束ねる祖母のとなりでお話したり、祖父が井戸で根菜を洗うのを手伝うつもりで邪魔したり、土間で毬つきをしたりして、私は遊んだ。飽いたら、近所に出る。祖父母の家を出て、一番近い家は、四軒あった。凹む形の敷地の左右に、二軒ずつ家が建てられ、真ん中に共通の庭がある形式の集合住宅、といえばいいのだろうか。いちばんひっこんだところに、主のような桜の木があった。見上げるような木は抱きつきたいような太い幹を持っていた。その住宅を管理している大家さんの家は、四軒の家のなか、一番手前にあった。おじさんとおばさんだけが、住んでいるのに、なぜか子供のおもちゃが日当たりのいい部屋にたくさんあった。どれも新しいものではなかった。私が遊びにいくと、よくその部屋に上げてくれた。マグネットで絵を描くボートがお気に入りで、磁気を帯びたペンで白い板の上にいたずらに線を引いた。お姫さま、お花。ねこに、星。お母さんの絵。お父さんの絵。たくさん書いた。私はその日も、そのお宅で、お絵かきをしていた。よく晴れた日だった。正午のサイレンが鳴ったので、祖父母の家に帰ろうと、私はぱっと立ち上がった。いつも片付けもしないで、自分勝手に出て行った。おばさんにあいさつして外に出る。おおい。呼ばれて振り返って気がついた。おじさんが桜の木に登っていた。枝を切るつもりだったのだろうか。桜はびっしりと花をつけていた。日光をあびて、ピンクを濃くして、反射して、きらきらと光っていた。明日もおいで。おじさんは手を振った。私も手を振りかえした。大きな幹に沈み込むように枝の上に位置をとったおじさんは、桜にうずもれているように見えた。昼ごはんを食べ、日当たりのいい縁側のガラスに寄りかかって、ぼうっとしていた。おなかいっぱいなのと、遊びつかれたのと。うとうとしたい気持ちだけれど、お昼寝するのももったいない。明るい春の日なんだもの。と、突き刺すような音が聞えた。祖父が後ろからやってきて、外をのぞいた。「何の音?」「救急車のサイレンだよ。」「きゅうきゅうしゃ?」白いやかましい車がやってきて、赤い光を不吉に撒き散らしながら、祖父母の家の前の角を曲がった。(いかん、)口の中につぶやいて、祖父は様子を見にいった。すぐに帰ってきて、私をすくいあげるように抱き上げると、奥の間で昼寝をさせた。奥の間は、陽が当たらなくて寒かったけれど、横になるとすぐに眠気がやってきた。ふすまの向こうで、祖父母の声が遠く聞えた。(落ちなさったそうだ・・・桜から・・・)おじさんのことだと直感した。明日はおじさんに会えないのかな。眠る前、最後にそう思った。次の日、祖父母は畑に出なかった。黒い服を着て出て行ったきり、夕方まで帰ってこなかった。今日は外に出てはいけないといわれていた。心細くて、私は土間にうずくまって、祖父母の帰りを一日待った。その後の記憶は、しばらくのあいだ、ない。体を冷やして、寝付いたらしい。苺とれんげの季節の終わるころ、私は本復し、ひさしぶりに外に出た。凹んだ敷地へ遊びにいくと、桜の木は根元から伐られていた。断ち切られた株が、そこにあった。おじさんとおばさんの家は、なくなっていた。玄関まわりの花の鉢も、庭に面してひらめいていたカーテンもなくなって、ただの空き家がそこにあった。私は家に帰り、二度とそこに行かなかった。桜を見ると、ほのか寒さを覚えるのは、春の気温か、記憶のせいか。あの日の、陽の光いっぱいに浴びた桜ほど、見事な桜はいまだ見ない。
2006年03月28日
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あのね、あのね、とおりさん。ケータイであたしの写真撮って、ブログっていうのに載っけてくれたのは嬉しいんだけど、あんまりきれいにとれた写真じゃないと思うの。ロッタちゃんなんか、いっつも気を使ってもらって、ベストショット選びに選んで載せてるでしょう?ぴあのちゃんは、自分でベストショット選んで、載せてくれって頼んでるらしいし。バニラちゃんや木綿ちゃんは、元が美人だから、どんな写真だってかわいいし。あっ、これはロッタちゃんやぴあのちゃんが、美人じゃないって言っているわけじゃないのよ。ロッタちゃんもぴあのちゃんも、彼女たち独自の雰囲気があって、それが一番きちんと撮れている写真が美しいのよ。だから、とおりさんも、あの子たちの写真撮ったあと、どれを載せるのか迷うのよね。えっとだから何が言いたいのかといえば、あたしもお外に行きたいの。お外の、きらきらの陽の光を浴びたお写真、撮って欲しいの。外は晴れてて、とても素敵よ。とおりさん、この頃体調悪くて、お休みの日は寝てばかりじゃないの。ゆっくりでいいのよ、近所をあたしとお散歩しよ?くたびれたら、公園で休めばいいじゃない。あたしはね、お散歩が好き。歌を歌いながら歩くの。歌詞を忘れたら、らららで歌うの。ららら、歌をうたっていると、風も花も草も水も、お友達になってくれるわ。時間が体にしみこんでくるの。それでね、あたしは幸せになれる子なんだって確信するの。なにが起きたって、だいじょうぶなんだから。あたしもとおりさんも、幸せの星の下に生まれてきてるのよ!・・・なんて実音のおしゃべりにのせられて、撮ってきた写真です。
2006年03月26日
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ケータイで撮ったので、写真が暗いんですけど、彼女が実音です。ブライスのアジアンバタフライアンコール。金曜日にお迎えしたのですが、いまだに家にいることが信じられない。販売の抽選はずれたときに、一度はあきらめたのに、運よく韓国逆輸入版のアジアンバタフライをみつけることができたのです。(ヤフオクとかでも逆輸入アジアンよくみかけますね。日本ではほとんど販売しなかったのに、かの国では通常に一定数を発売したのだろうか。)初期のものより、今回のアンコール版の方が、顔が好きです。しっとり落ち着いた美人さんを想像していたのですが、意外と元気よさそうな感じ。そりゃそうよね、日本、韓国、日本と一人で回ったトラベラーですもの。性根はたくましい子だわ。名前は実音。ミインと読んで、つづりはMEAN。お迎えする前、去年の夏に再販予定を聞いたときから、決めていた名前です。だから、お迎えしたのは昨日だけれど、ずっと前から家の子だった感覚。「おかえりなさい」と言ってあげたい。
2006年03月25日
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三浦しをん 新書館 ウイングス文庫表紙が羽海野チカでした。かーわいい!「むかしのはなし」の刹那に魅かれて、エッセイ集を読んでみました。エッセイ。これはエッセイなのか?腐女子の萌え、たたっこんだ奇形の書。ひれふせ乙女!今ココに、勢いだけの、妄想炸裂!!なーんてね。肩肘はらずに、部屋の中、ぺたんと座り込んで読んだらいいと思うの。オタク要素ある元・おんなのこなら、共感覚えることでしょう。ボーイズラブ要素を何からでも読み取っちゃう感性を嫌う人には全く読めない本だと思います。私?私はコロボックル物語の「豆粒ほどの小さな犬」で風の子とフエフキの友情にうっとりとして、またヒイラギノヒコと椿の技師はあやしい(なにが?)んじゃないかしらん、などと石を投げられそうな疑惑を覚えたこともあるので、三浦しをんさんのエッセイは、全然平気。クサナギツヨシファンのお友達とお手紙交換したときに「とおりちゃんの妄想力はすごいねえ」と誉められたこともあるし。(いや、けなされたんでしょう。)えー、だって剛はスマップの秘蔵っ子じゃん!スマップのメンバーに一番愛されているメンバーじゃん!木村くんなんか、落ち込んでるときやくたびれてるときは、必ず剛のとなりに座るんだよ!何をしたって絶対自分を嫌わない、剛のそばにいると、木村くんはなごむんだと思うんだよ。(いや現実には静香さんのとなりでいやされているんでしょーけど。)「妄想炸裂」自分のオタク遍歴をカミングアウトしてしまいそうで、大変キケンな本であります。小声で告白しちゃいますと、ボーイズラブなら、ストイックな感じのやつが好きです。ホモは10代まで。が、基本です。
2006年03月24日
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今日読んでいたのは、楽譜。ソナチネアルバム2に入っている、ハイドンのSARABANDE。 ピアノの前に座るのは、ときどき億劫。だけど、一度座って鍵盤に触れると、ふわり、さらわれる。同じフレーズを一時間弾き続けて、あきないときもある。弱く。強く。あ、最後の音、雑になった。もう一回、ていねいに。ちょっと歯切れよく。違うね、しっとりと。遠くに響く感じ?近くに届く感じ?それとも、天に昇る。言の葉はいらない。音色だけ、響け。消える音、どこへ?一つの楽器で和音を奏でることのできるピアノは、孤独な楽器だと思う。けれど、一番、好きな音。音楽で好きなエピソードふたつ。晩年の宮沢賢治。故郷花巻で、体力のおとろえた彼は、蓄音機に枕をつめて音楽を聴いたという。大きな音に耐えることができず、それでも音に憧れて、賢治は震える手で枕をつかんだのだろうか。背中を丸めて布団をかぶり、蓄音機を抱え込むようにして音を聞く賢治が、見える気がする。そしてもう一つ。後悔に沈んで花巻に居を移した、やはり晩年の高村光太郎は、花巻の谷でブランデルブルグ協奏曲を聴いたという。協奏曲は、谷にこだまし、幾重に響いて天に昇っていったという。賢治に届いただろうか。千恵子に届いただろうか。ピアノを弾く。手首がはねる。肩のうしろ、筋肉が収縮するのがわかる。(あ、)そして指先から生まれる音。かみさま、かみさま。呼ぶ声がする。
2006年03月22日
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滝本竜彦 角川文庫「エロスとバイオレンスとドラッグに汚染された俺たちの未来を救うのは愛か勇気か、それとも友情か?驚愕のノンストップひきこもりアクション小説ここに誕生」カバー裏より抜粋。そんなに怖い小説じゃないです。所詮、ひきこもりの小説だし。へろへろパンチです。・ 表紙がかわいかった。・ 角川スニーカー文庫だと心から信じて表紙を見たら、角川文庫だった。・ 私の後輩のメガネ青年は、滝本さんとそっくりな文章を書きます。・ なぜ知っているかというと、時折まわる飲み会の回覧文書に彼の心の叫びが書いてあるから。・ 彼は背が高くって、細身。手が大きく指が細く、冷え性なので指先だけほのか赤いのが可憐。・ 私は彼から「ブギー・ポップ」を借してもらいました。・ 私の仲良しの元・野球少年は、何ページかを読んでから、「この本、読めない」と投げ出した。・ この元・野球少年は、乙一の「暗いところで待ち合わせ」は読むことができた。・ 元・野球少年は、今日はWBCに夢中。・ 一方私は、テレビを見るために体を起こしておくのが大儀くて、布団のうえでのそのそと本を読む。・ 元・野球少年に「渡辺俊介って、里中ちゃんに似てるよね」と話しかけたら、無視された。・ 電車の中で読めないページがこの本にはあります。・ 今日も一歩も外に出なかった私は、夕方になって電子ピアノを弾き始めた。夢中になって、もお二時間。・ 著者紹介の「ひきこもりが高じて大学中退し、輝かしい青春のひとときをフルスイングでドブに投げ捨てる」とあるの、滝本さんが今読んだら、頭かきむしるくらい、恥ずかしくなるんだろうなあ、なんて思って同情する。・ でも、けっこ、好き。という紹介で、「なにこれ?」と思った人、どうぞ。「なにこれ?」以前に、嫌悪感おぼえた人には向いてないと思います。で、向いてない方がまともだと思う。内向きのベクトルで書かれている小説でした。私は、好きかな。(と、逃げ道を残す。)
2006年03月21日
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P.D.ジェイムズ 小泉喜美子訳 ハヤカワミステリ失礼だと思うの。探偵が、「女には向かない」なんて。と思って、読んでいなかったわけではありません。22歳の薄幸で可憐で清楚な女探偵、コーデリアが主人公。うらぶれた中年男と共同経営の探偵社を始めるものの、このくたびれたおじさんは、コーデリアを置いてあっさり自殺してしまう。物語の一行目から、いきなり死んでしまうから、コーデリアは健気に雄雄しく彼の意志をついでいかなきゃならないのだ。最初の依頼は、邸宅にすむ科学者から。彼の息子は、なぜ自殺したのか?その理由を探し当てて欲しいと。はい、すべての読者の頭に浮かぶでしょう疑問。「ほんとうに、自殺なの?」まあ、そういう話です。最初、(あれれ、短編集かな?)なんて思いました。謎が提示され、あっさりと解ける。けれど、また次の謎がくっついてきて、コーデリアは地道な調査で、その謎をほぐす。そうしたら、また次の小さな謎の石が転がる。これで終わっても、まだ終わらない。続いていく事件。たった一つの事件。(どこかで、やめた方が。)手加減、しておいた方が。危ないよ、コーデリアちゃん。殺されるよ?この文庫、解説が秀逸。まったく同感。ですが、先に読んだらだめですよ。ねたばれがあります。女には探偵は向かない?けれど、コーデリアには向いてます。ところで、女探偵っていうと、真っ先に思い浮かぶのは少女探偵ナンシーなんですが。ミドルティーンの女の子しか読まない探偵小説。そういえば若竹七海の「心の中の冷たい何か」だったかに、ナンシーの名前が出てきたもんだから、思わず受けてしまったよ。あとはクリスティのミス・マープルと、タペンス嬢しか思いつかないや。ドラマだったら、ジェシカおばさんとか、ブルームーン探偵社の女探偵とか?(年がばれるぞー。)
2006年03月20日
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風の強い春の夜には、月の光の塊が、ぼたぼたぼたと落ちてくる。ほら、窓ガラスが響いて揺れているでしょう?今日はにぎやかだな。耳をすましていると、どかん、とひときわ大きな音がした。衝撃にブランコの鎖がきしむ音がする。どうやらお隣の公園に、でっかいやつが落ちたらしい。僕はスニーカーをつっかけて、公園に行ってみた。砂場のうえに、淡く青く光る結晶が落ちている。結晶っていっても、僕の腰くらいの高さがあって、かなりの大きさだ。触ってみる。温度はない。たたいてみる。堅い。僕はそこらに散らかっている月の光の塊を集めてみた。相当落ちてる。今日はお月様、やせたんじゃないかしら。砂場のでっかい塊を土台にして、ほかの光を互い違いにのっけていくと、月で作ったジャングルジムができそうだ。塊はいくら大きなものだって、重さがなかった。そりゃそうだ。もとは、光だもん。塊同士は、ぶつけると、ふわりと結合した。つつけばゆれるけれど、離れない。天に帰ろうとして、上へ上へと、伸びていく。滑り台の階段をあしがかりにして、僕は月の光の塔に足をかけた。ぶかっこうな塊の塔は、意外にしっかりしていて上りやすい。ゆれるけれど、僕の足を吸い付けるようにして、守ってくれた。ジャックの豆の木より安全。僕はすいすい上っていった。てっぺんに上り詰めて一番高いところにある小さな塊に腰掛けた。星が近い。手を伸ばすと、オリオンがちょっと嫌な顔をして、腰の短剣を僕から隠した。(捕りやしないよ。)僕が笑うと、(違うよ危ないからだよ、)とオリオンは照れた。オリオン、もうすぐ会えなくなるね。塔は風に吹かれてゆらゆら。僕はご機嫌で、バルバロイの歌を歌った。
2006年03月19日
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瀬尾まいこ 双葉社風邪ひいて、眠って、目覚めて、また眠る。うつらの午後は、波のなか。ゆらりゆらりの揺り返し。ふらりとする眩暈は楽しいものではないけれど、このときにしか見ることができない夢があります。目が覚めた時間、枕もとの本を探りました。「優しい音楽」ゆらゆら漂うのに、ぴったりした本でした。うすい本の中に、短編がみっつ。表題作の「優しい音楽」がいちばん好きでした。ものすごく単純な筋なので、さらりとご紹介することもできません。思ったとおりにお話はすすんでいくんですけど、道を逸れない安心感がありました。かけがえのないものを失くしたって、幸せになれるということ。傷は癒えなくても、幸せになれるということ。瀬尾まいこさんの小説のなかで、一番好きです。一緒に収録されている「タイムラグ」と「がらくた効果」は、ああ、瀬尾まいこだなあって話です。「タイムラグ」に出てくる深雪さん、「図書館の神様」の主人公さんに似ていると思いました。お話としてはおもしろいけど、彼女たちの人となりはちょっと苦手です。不倫に明るく傷ついてるところが読んでいて痛いし、だからって連れをとられてしまうのも怖いので。
2006年03月18日
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三日後の編集。この日の日記は、全般泣き言日記でした。われに帰ると、恥ずかしいので、全削除。コメントくださった方々、ありがとうございました。日記削除しようかと思ったけれど、かけてくれた言葉が嬉しかったので、こんな形で残しました。これから先の、私のクスリになるように。こうやってブログを書くことで、「じょうぶなあたま」を鍛えていると思うんです。あとは「かしこいからだ」。もっと大事にしてあげなくちゃ。くたびれて座り込んでしまった私に対して、三日眠り続けることを忠告してくれた先輩に、それを許してくれた家族に、ありがとう。
2006年03月17日
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何年か前、台湾に行きました。観光ツアーで立ち寄った忠烈祠。見所は一時間に一回の衛兵交替。一糸乱れぬ行進と儀式。台の定位置に立ち上がると、お人形のように立ち尽くす衛兵さん。服のしわを直すおつきの人。衛兵さんの汗を拭き、夏の暑い日には霧吹きで水をかける。微動だにしない衛兵さんは、まばたきの数さえ、控えているといいます。容姿のよろしい人しか、衛兵さんにはなれないそうです。精悍な美男子。衛兵さんの立つ場所は、三箇所ありました。私は衛兵さんの行進を追いかけて、祠の奥へ奥へ入りました。友達が中央の広い広場ででメインの儀式の写真を撮っているのにおかまいなく、ひとりはぐれて階段の一番うえに上り詰め、ついでに祠の四方の回廊を歩きました。やっと、ここがお墓だってことに気がつきました。遺影が掲げられている。戦いの記録。中国と、日本と。ここは日本と戦った忠烈士を祀る場所だったのです。(この遺影を見せないなんて不思議だな。)ガイドさんも、そのことには一言も触れなかったし。(観光地にして、いいのかな。)遺影に手を合わせました。夏の暑い日でした。薄地の綿のスカートがふわふわ揺れるのを抑えながら、私は回廊からぴょんと衛兵さんたちのいる広場に飛び降りました。あれれ?次の交替時間まで、動いちゃいけない衛兵さんが、動いてる。台湾の子供だと思います。水色のつなぎを着て祠の窓を拭いていた日に焼けた少年たちが、観光客がいなくなった今、窓から次々とびおりて、衛兵さんに話しかけ、衛兵さんの銃を触らせてもらっています。向こうの台の衛兵さんがおりてきて、カメラを持って、少年たちと衛兵さんの記念撮影。衛兵さん、ピース!歯を見せて笑って、Vサイン。嘘でしょ?びっくりした。衛兵さんがちょっと気がかりな顔でこちらを見てた。私は(安心していいよ)って顔して笑っておいた。私も混ぜて写真を撮ってほしかったけど、日本語、話しちゃいけない気がして、黄緑のナイロンの日傘をまわしながら、くぷくぷ笑って帰ったよ。安心した。みんな、人なんだ。衛兵さんたちが怒られちゃいけないと思って、観光バスの中では、衛兵さんたちの話はしなかったよ。一緒にいった友達には、ホテルの部屋に帰ってから小声で報告したけれど。だから、いつ台湾に行ったのかは、秘密です。突き抜けた青い空と、赤い祠と、金モールの制服を着た衛兵さん、水色のつなぎの少年、私の黄緑のナイロンの日傘。白い石の床、照り返し。夏の日のめまい。魔法のとけた夢が、そこにありました。
2006年03月16日
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井上ひさし 集英社井上ひさしの文学に材をとった脚本は好き。「イーハトーボの劇列車」は読むたびに鳥肌がたちます。実際、初読のときは通学の列車の中で読んで、読みきらなくて広島駅のホームで完読したのでした。堅い切符を握り締めて。「上海ムーン」は実際に観ました。魯迅先生の話。古本屋で買った「我輩は漱石である」、図書館で借りた「人間合格」。漱石の方は難解で太宰の方は印象が薄い。「泣き虫生意気石川啄木」はおもしろかったよ。で、「頭痛肩凝り樋口一葉」学校の授業で樋口一葉が出たときに、教官がさらりと触れたっけ。一葉は結核で、結核菌は体のどこにでも入り込む。骨に入ると肩が凝る。脳髄に入ると頭痛がする。正岡子規も結核で死にましたけれど、漱石に宛てて泣き言書いた手紙があります。「痛くて毎日泣いている」って。これも読んだとき、鳥肌だちました。大の男が家から駅舎まで聞こえるような泣き声をあげる痛み。新潮文学アルバムの子規か漱石かに載ってました。ご興味おありの方、どうぞ。ちょっと私もうろ覚えなので、図書館で拾ってこようと思います。閑話休題。ふうっとした無力を感じるお話です。わらべうた、よいやみうた。世の中が悪い。なんて言ってるけれど、世の中さんに出会ったことがありませぬ。時代が悪いと嘆くけれども、時代さんにもお会いしたことございません。正体のつかめぬ世界のなかで、「私がいた」ことを証だてることが、できるなら。荒れた手で筆をもって、肩凝りに悩み、頭痛を抱え、母の愚痴を聞き、恋心を押し込め、プライドだけは高く、夏子さんは小説を書く。あちらの世界になかば足を突っ込んで。最後、クライマックス、女の言い争いの台詞は、さすが凄絶でした。舞台で見ると、いかに迫力あらんことか。目をまんまるにして、早口で読んだよ。そして、あっけらかんと終幕。(続きは?)お話の背中にすがりつきたくなりました。(みんな幸せになったよね?)日本国憲法、覚えてますか?私たちはみんな、幸せを追求する権利を持っているのです。
2006年03月15日
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ブログを始めて、今日で365日です。意地で記入率100パーセント死守。さかのぼって日記書いたり、ずるもしたけど、自分で「一年は!」って決めてたんです。文章を書いて、人に読んでもらうことは夢でした。作家を目指しているのですかって、ブログに来てくださった方に聞かれたことが何回かあります。北村薫が時折語る、「本を読む人間」「文を書く人間」のいやらしさや自意識過剰ぶりが、そこはかとなく伝わったかな、なんて気恥ずかしかったり。でもその自覚から、文字書きは始まるんだよ、などと開き直っていたりもします。作家になりたい、とは思わなくなったのですが、物語を書きたい欲はあります。(いつか、誰か、読んでくれたらいいな。)文芸ひろしま、という市民文芸作品集があります。広島市文化財団が毎年一回、作品募集をしています。童話を載せていただいたことがあります。その授賞式(というほど大したものではない)に出たときに、選の先生がおっしゃいました。「書いたものは、どんなにくだらないものでも、紙に残しておきなさい。載せてもらえる場所があれば、載せなさい。」まあ、そんな場所に恵まれることもなく、年を経たのですが。ブログ、というお手軽な手段があって、思いついたこと読んだ本の感想などをつらつら書いて、ときどき反応をもらえる。楽しいな、と思います。小説を書く、ということについて、忘れがたい言葉があります。「続けること。そしたら周りが勝手に脱落していく。」角川ルビー文庫、「鼓ヶ淵」三田菱子のあとがきだったと思います。鼓ヶ淵のお話そのものはまわりくどいボーイズラブであんまり好きじゃなかったのだけど。(じゃあ、買うなよって。すみません、お年頃だったんです。)一年ブログを続けるぞ、と決心したとき、この言葉が脳裏をぐるぐる回ったのでした。一年、続けられて良かった。時折お立ち寄りくださる方、ランダムでいらっしゃる方、もったいなくもコメントを残していってくださった方、何よりもリンクしてくださっている常連さま、お付き合いくださいまして、どうもありがとうございました。これからも、よろしくお願いいたしますね。さて。これからの座右の銘は「続けるためには、無理は禁物。」記入率100パーセントには、もうこだわらないんだもんね。どうぞこれからも、楽しい夢が見れますように。
2006年03月15日
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三浦しをん 幻冬社しろい本、やさしいひらがな。しをん。可愛い作家名。乙女ちっく古書店主、紅ずきん様のおすすめ本。どんな小説かな、懐古的な物語かな。表紙を開いて、いい意味で裏切られました。最初は、27歳で男は死ぬ運命にある家系に生まれた、ナンバーワンホストのはなし。小タイトルの表紙のうらには、「かぐや姫」のあらすじが簡単にまとめられていました。話の内容に関係あるのかな。ないのかな。もしかしたらベースになっているのかな。あんまりこだわらなくてもいいように思います。巨大な隕石が三ヵ月後、地球に衝突するなら、どうする?なんて世界が、この連作短編の中の時間。どうしたらいいかわからないから、意外と同じこと、繰り返しているかもしれない。不安だけど。怖いけど。逃げ出したって、生きていけるか、わかんないのに。地球が死んでいくとき、人は告知を受けたいかな?知る前の事件と、知ったあとの日常の物語。沈んでいく船の上のマーチを切り取った短編。デコレーションたっぷりのバースデイケーキをぐさぐさ切り分けると、ナイフに真っ白いクリームがまとわりつく。その生クリームのようなお話です。そのまま洗おうか。ぬぐって食べようか。指でちょっとこそぎ落とすと、にぶい銀色が見える。ながめているだけなのに、金属的な味が奥歯にしみてくる。最後のお話で、くるりときれいに丸まってタイトルに乗っかる。(それで、むかしのはなしなのね。)私はこの最後の話がいちばん、好きだなあ。「懐かしき川べりの物語せよ」屋上で少年少女がてのひらを開けば、砂金がひらひら、陽を照らして落ちていく。ほっぺたに落ちる日影は、離れて立ってるあなたがくれた。なんでだろうね。暴力もセックスも、私は嫌いだったのに、懐かしい「むかしのはなし」なのでした。
2006年03月14日
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フレトレ・ロッタちゃん、カスタム。デフォルトのメイクを全部おとして、パステルで色味をのせなおしました。顔もけずって、まぶたを押し上げて、すこし上目遣いになるようにして。髪はデフォルトのまま、前髪をおろして切りました。ザンバラなのは、ご愛嬌。ロッタが、ロッタらしい顔になったなって思います。子供っぽくなりすぎず、透明感のある雰囲気になったかなって。気が強そうで、不安定で。もっと、仲良くなれそうです。
2006年03月13日
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東野圭吾 角川文庫スキージャンプ版アマデウス。ジャンパー、楡井明。あなたは天才ゆえに永遠にうしなはれなければならなかつたのです。ミステリです。天才、楡井を殺したのは誰か。そうして、誰かを追い詰めたのは誰か。事件の構造は?そして、真犯人は?先を先を。もつれるように急ぎ急いで読みました。合間合間に挟まれていく、天才楡井の輝くような笑い声。楡井は情緒が目茶苦茶で、むしろ無神経で、感性ばかりで走り出す。マザコンの甘ったれ。天真爛漫、天衣無縫。人を思う様傷つけて、悪意がないから手に負えない。風に乗るんだ。鳥になるんだ。気持ちいいんだ。空を飛ぶんだ。薄く吹雪く冬の向こう、天才の残滓が光り消え残る。あなたが殺されて物語は始まる。あなたが世界に残したかもしれない話と引き換えに。ミステリとして秀逸。押したり引いたり、足算引き算。途中、先を読むのをやめて「勝負!」推理してはずれたよ。ざんねん。トリノで金メダル一個きりって、つまんない。なんて簡単に言ってもいいのかな?お祭りの、かげ、ひかり。天才は天から降りてきて天に帰る。ドラマ化したらいいのにな。活きのいい男の子がたくさん出て来るので、ビジュアル的に大変よろしいのではないかと思います。
2006年03月12日
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「そとへでてごらん!そとは風がおいしくてそれはすてきよ。でてごらんそとへ!トテター、トテ、トテタ!」ぱっと咲いたアマリリスが吹き鳴らすトランペットの音です。外へ出てほらん。誘惑のラッパ。くまのチロ吉物語 もえるイロイロ島 偕成社 沖井千代子 作現在は絶版です。小学生のとき、図書館で借りてきて、夢中になって読んだシリーズだったんですけど、タイトルも作家名も忘れてしまって、読み返そうにも探し出す手段がなくて。覚えているのは、「熊のぬいぐるみと三人の子供が主人公」で、「三作」あって、「主人公たちが住んでいる町は広島」で、「異世界での冒険の敵がキノコだった話」があって、その話は「悪役のベニテングダケのお姫さまが炎上する城のなか滅びて終わる」。それからプロローグで、「えんこう川(これはほんとに広島にある川)のかっぱが葦の間から登場する話」があること。ときどき思い出したように、記憶のキーワードでググってたんですけど、ついに「えんこう川」でヒットしました。ブログで子供に読ませたい本として、紹介してくださっていた方がいたんです。すぐ図書館でリクエストして、今一作目が手元にあります。お話そのものは、私が大人になってしまっているので、あの頃ほど夢中にはなれないのだけれど、いまだ私がときどき迷いこむ「想像遊び」の道具立てが散らばっていて、とてもいとおしい。アマリリスのラッパに誘われて、熊のぬいぐるみを小脇に抱えて、公園にかけだしていく女の子。お母さんは足踏みミシンを踏みながら、(しょうがない子ね)と首を振る。赤いセロファンをもらったの!マンションの窓から見えた赤いキラキラにつられて、幼馴染の男の子兄弟ふたり、飛び出してくる。赤いセロファンで、何を折ろうか?やっこさん?おりづる?そうだ、だましぶね!とっておきの赤いセロファンで折った舟は、目をつむってだまされるのを待っているうちに、白い帆船に姿をかえる。三人の子供と、動き出したぬいぐるみを乗せて、空を飛ぶ!1980年の出版です。主人公の子供たちが広島の町を足場にしているので、広島出身の作家さんかと思って、そちらの資料からもずいぶん探したんですけどみつかりませんでした。著者紹介みてみたら、愛媛出身で、現在名古屋在住。学生のとき、広島におすまいだったみたいですけど……この学校って、私の母校の前身だわ。でもって、私、学生のとき、児童文学研究会に所属していたのですけれど、たぶん、沖井千代子さん、大先輩にあたられるんだろうなあ。なんだか灯台もと暗しな気分です。卒業生作家の出版した本くらい、部室に備えてあればいいのに。そしたらこんなに探すの苦労しなかったのにー。と、なんだか悔しい。(高校生の頃から探していたのよ。)それから、知らずして重なってきた、この本との縁がいとおしい。不思議な気分で、表紙をなでる。本が好きで、良かった。
2006年03月11日
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群ようこ ちくま文庫着たきり雀で、こころは孔雀。樋口一葉さんのお話です。5千円札取り出して、お顔をしばし眺めていました。意志の強そうな、良いお顔をされています。美しい眉、秀でた額。お金でたくさん苦労した一葉さんが、お札になっただなんて皮肉だね。一葉さん、笑ってる?お札に折り目はついているけど、一葉さんの肖像にはしわ一つない。24歳で、亡くなったんだもんね。明治の女の、24歳。ストレプトマイシンがまだなくて、結核が不治の病だったころ。早逝には間違いないけど、もしかしたら人生半分くらいは、生きたのかもしれない。(下天のうちをくらぶれば 夢幻のごとくなり)でももっと、書きたかったろうね。淡々と、淡々と。群さんの筆は一葉さんを描きます。健気で、陰湿で、単純で、幼い一葉さん。女狐だったり、可憐だったり、男前だったり、乙女だったり。あんまりお友達になりたいタイプじゃないな、と思う。だけど、「たけくらべ」は好きだったな、と思い出す。あんまり淡々と書かれているので、一葉さんに思い入れすることはない。一葉さんの苦労話でも、伝記でもない。記録。年表を読むのに近い、けど。やっぱりこの本は小説で、さいご、音のならないクラッカーの五色のテープが目の前弾けた気がしたよ。一瞬の、センチメンタル。なんとなく他のも読みたくなって、井上ひさしの「頭痛肩凝り樋口一葉」を図書館で借りることにしました。こちらでは、どんな一葉さんに会えるのかしらん。余談。「たけくらべ」っていうと、「ガラスの仮面」思い出すんですけど。中学生のころはマヤちゃんのみどりが絶対いい!って思っていたけど、今だったら亜弓さんのみどりの方が魅力的だと思うなあ。ヘレンケラーはマヤちゃんの方がやっぱり好きだけさ。
2006年03月10日
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映画、観に行っちゃいました。ナルニア、ナルニア。私はエドマンドに会えると思って、前の日からどきどき。だって初恋の君(の一人)ですもの。一緒にでかけた連れは本を読まない人なので、ナルニアがなんだか判らなくって、どきどきしたって。おもしろいのかどうか、不安だよーって。おもしろいに決まってるじゃん!映像もきれいで、とってもよい映画でした。ルーシーが幼くてびっくり。あんなに小さかったんだ。でも違和感はないです。本を読んだときは、もっとおとなしい子を想像していたんですけど、映画のルーシーはおしゃまな感じがかわいいです。末っ子の魅力大爆発。4人の兄弟、みんな良かったなあ。エドの第二次反抗期ぶりが、小説以上に判りやすく描かれていて愛しかった。強い兄に対する反発、持て余している心の子鬼。口にできない言葉、わかってほしいけど、わかってもらうための努力は意地でもしたくない。いやはや、この思春期の少年に、なんて過酷な試練を架すんだよ。なんかもう、途中で可哀想になりました。一回くらい役に立てばいいのにさ。ほんと、弱いんだから。スーザンは臆病なお姉さん。やさしそうな顔立ちの人が演じていて、とっても似合ってました。押し出しの強くないところが、好もしい。笑った顔になごみます。そしてピーター!一番うえのお兄さん。私はエドモンドが大好きなので、ピーター、あんまり好きじゃなかったんですよ。いばりんぼの出来すぎくんめって思ってた。だけど映画のピーターは好き。弟妹思いの責任感あるお兄さん。端正な顔立ちの少年。ナルニアの王になるようアスランに告げられて、重い責任に悩む横顔。(弟ひとり、助けられなかったのに?)ピーターも、まだ子供だったことに、初めて気がつきました。剣を振るうことに怯える表情が良かった。惚れそうでした。いや、惚れたかも。ごめん、エド!それでもあなたが、いっとう、好きよ!ナルニアの本を読んでいる私もおもしろかったし、初めてナルニアに触れた連れもおもしろがった映画でした。「主役は誰だったって思う?」聞いたら、「ライオンでしょ」だって。なんだ、よくわかってるじゃん。ハリーポッターの映画は本を読んでおかないと話がわからないところがあるけど、ナルニアは話がきれいに判るところが良かったって言ってました。あ、エンドロールはじまってすぐ、席を立たないでくださいね。ちょっともったいないです。歌一曲分、待った方がいいと思います。では、皆様。よいトリップを!
2006年03月09日
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紅ずきんさんのところで、こっそり拾ってきました。トラベルバトン。出不精でインドアな私でも答えることができるでしょーか。・旅行するのは好きですか?好き。ふっと思い立って出かけて、知らないところをほっつき歩くのが一番好き。・絶対旅にかかせない持ち物リストお金。文庫本が一冊。荷物が多いとほっつき歩けないので、旅行に出かけるときは、いつもすっぴん。タオルが一枚。・海外で今までどんなところに行ったことがある? 香港(マカオ)、上海(蘇州)、韓国、台湾。アジアばっかり。・一人旅が好き?かつてスマップに夢中だった頃(いや、今でも好きだけど)、コンサート時期は大阪名古屋東京福岡と飛び回っておりました。小倉、岡山にも行ったなあ。いつもいつも付き合ってくれる人はいないので、時々は一人でお宿に泊まります。三日連続のコンサートのときなんか、チケットが取れなかった日はヒマなので、周辺観光地をうろうろしてました。一番長丁場だったのは、大阪に剛の「鎌田行進曲」観に行ったときだなあ。金曜から日曜まで、夜、昼夜、昼夜と5公演みて、次の日奈良に抜けて山の辺の道を踏破して帰りました。すごい開放感でした。・国内旅行?それとも海外旅行?どっちも好き!・いつかは行ってみたいところベスト3花巻。イーハトヴに行きたいな。熊野。ちょっと交通機関調べたら、とっても遠そう。車なしで、どうやって行けばいいんだ、ここ?屋久島。縄文杉にご挨拶してきたい。あら。国内でそろっちゃった。バリやイギリスにも行きたいけど、そこは「いつかは行ってみたい」じゃなくて、「もうほんと行きたい!」とこなので。 ・行きたいけど行けなさそうなところベスト3月。ロケットやシャトルに乗るにしても、乗り物酔いしやすい私は無重力に耐えられないと思うので。ファンタージエン。幼心の君に差し上げる良いお名前が考えつかないので。(「はてしない物語」)古代エジプト。キャロルみたいな知識がないし黒い髪だから真っ先に奴隷にされそうだし。やだやだ、怖い。(「王家の紋章」)・私のおすすめスポットベスト3(国内篇)石見銀山 炭鉱跡(島根)坑道にもぐれます。ちょっとした肝試しの雰囲気もある暗い坑道から出ると、時間に忘れられた里の緑の稲田が輝きます。夏の暑い日にぜひどうぞ。松田屋ホテル 本館 (山口)湯田温泉のホテル。本館は木造二階建て。お庭にはかつて幕末の志士たちが会談したという軒があります。石造りの家族風呂は、江戸の時代からずっと使われており高杉晋作や大久保利通も入浴したとか。高杉晋作は憂国の志を宿の柱に彫り付けました。館内には幕末資料館もあります。この宿に泊まって、寝転がってお宿にあった司馬遼太郎の「街道を行く」を読みながら、庭の松を見上げる。至福でございましたよ。ここはお料理も美味しいです。沖縄スポットじゃないけど。島まるごと好き。夕焼けが美しい。空が広くて丸い。・私のおすすめスポットベスト3(海外編)おすすめできるほど、海外行ってないからなあ。どの国に行ってもおもしろがってのぞいちゃうのは、スーパーマーケットとコンビニとデパ地下。お惣菜やお茶やお酒、インスタント食品、お菓子を買うのがおもしろい。・ズバリ!恋人と行くなら?近場の温泉。最近くたびれてるみたいだから、のんびり休ませてあげたいよ。書いてると、また旅に出たくなる。奈良に行きたいなあ。ふきのとうが大きくなってて、れんげが咲いて、山が霞んで。春の国に、行きたいなあ。
2006年03月08日
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桜庭一樹 東京創元社 ミステリフロンティアなんだかあっさり読めちゃったな、なんて思ってページ数みると、231ページしかなかった。ページの紙がわりあい厚めだから、必然、本も厚くなって、長いお話のような気がするだけ。片手で持ってみると、おどろくほど軽い。このなかに、あたしの中学2年の物語が閉じ込められてる。そりゃもう、ひどい話。読んでみる?かわいて明るい、昼下がり。日本の本州の端っこに、橋でやっとこさつながってる小さな島に、あたしは生息している。ざざん、寄せる波。緑の光る遺跡。けっこう高い、むき出しの崖。一軒だけあるマクドナルド。自転車で白い道を走る。軒先に、開いた干物がはためいている。死ぬほど後悔しているのに、もしも神様があの夏休みの始まりに、時間を巻き戻してくれたって、あたしはきっと、おんなじことを繰り返す。行き場がない。居場所がない。がんばってがんばって、やっとみつけた小さな場所を、あたしより駄目なやつが、力の強いだけのクズが踏んづけていく。踏みにじっていく。(死んじゃえ!)耳の上のへんの髪を両手でつかんで頭を抱える。(もうやだ、いなくなっちゃえ!)目をぎゅっとつぶる。傷つけるものを、否定することは、罪ですか?たぶん、今、あたしは透明な目をしている。涙も出ない。どうしよう。……ちょっと、雰囲気、真似したつもりなんですが。読みにくいだけかも。どうしよう。ノリノリで書いたのに。(ばか)カバー裏の作者紹介によると「閉塞状況に置かれた少女たちの衝動や友情を描いた作品に独自の境地を持っている」作家さんだそうです。同感。古典的な物語だと思います。夏の日の白い眩暈、それがもたらしていく弱者の破滅。読後感がいいものでは決してないけれど、行き詰った気分のときに読めば、同じ穴の狢をみつけて安心するかも。ぼけっと魂の荷物をしばし宙に浮かせたら、少しは整理がつくものです。自虐的な気分のときに読めば、逆に楽になるような気がする。なんて、独り言。もう少女って年じゃないので。女の方も、読みましょうかね。(海外翻訳ものはちょっぴり苦手なんだけど。)
2006年03月07日
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恩田陸 集英社副題は常野物語。とこのものがたり、と読みます。遠耳、遠目、つむじ足。長寿、予見、透視。不思議な力を持った人たちの話。場面を変え、時を変え、人を変えての連作短編集。時折、登場人物たちの歩みは重なり、また離れて、重なって。ページをめくると、夢のとばりが揺れる。(会ったことがあるかしら?)あなたに。一冊読み終わって、これすべてプロローグという印象。流れを感じさせながら、戦いは始まりもしない。十、入った短編すべて、イントロダクション。物語はどこへ、滑り出していくのでしょう?恩田陸の話は、夢の途中、中途半端に投げ出される浮遊感が快感ではあるのですが、これはちょっともどかしすぎる。夢はとなりにあるようで。くぐっていけない、常野への道。今日は昨日の続き。綴られる日常。だったら、今日の続きの明日を教えて?この本、1997年出版なんですね。蒲公英草紙は、確か去年の出版。最初っからこの小説好きだった人、よく待ったなあ。すぐに「蒲公英草紙」開くのも勿体ない気がしちゃうので、しばらくうつらうつら、このじれったさを楽しみましょうか。不思議な世界は、薄紙の向こう。
2006年03月06日
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初めてバイトをしたのは、17の春。お友達のお祖父さんの同窓会が集会所で開かれるからって、受付とお茶くみに借り出されました。ちょうど今日みたいな、寒い地上に温かな陽のおりてくる日曜日でした。まぶしい空の下、木の下で、白いエプロンをつけた私たちは、次から次へと現れる沢山のおじいさんにお茶を出しました。集会所は丘の上にあり、大きな公園がそばにあって、隣接して墓地もありました。お祖父さんたちはお茶を飲んで受付をすませたあと、小さな花束を受け取ると、お墓へ向かいました。古びた石の大きなお墓は、みるみる花に飾られて、お地蔵様のような温みを持ちました。太平洋戦争で亡くなったお友達のお墓なのだそうです。最後に私たちも手を合わせに行きました。神妙な気分になった私たちの背中に、集会所で折をつついてお酒を呑んで、愉快に騒ぐお祖父さんたちの声が響きました。生きている。私たちは集会所の別の部屋で折り詰めをいただきました。「お酒、運ばなくていいんですか?」気をきかせて尋ねると、おばさんは「男だけで呑ませとけばいいのよ、」なんて笑ってました。「おーい、お酌ー。」ときどき、酔っ払った声が響きます。「はーい、」返事だけをして、おばさんは燗をつけます。お酒を呑まないお祖父さんが、こちらをかばってお酒をとりにきます。私は陽だまりのなか、うとうと眠くなりました。集会所の端っこに、小さな木の本棚がありました。本の交換本棚でした。不要な本を持ってきて、立てておいてください。って。読みたい本がある人は、本棚の上の缶に五十円を入れて、もらって帰るシステムでした。缶のふたをあけると、中は金色で、からっぽでした。私はお財布から50円玉を出して、缶の中にいれました。本棚の上に缶を戻すと、硬貨がゆれて、ぺこんと間抜けな音を立てました。荻尾望都の「銀の三角」をかばんにいれて、私はまた、うとうとしました。三時になって会は終わりました。真っ赤な顔のご機嫌なお祖父さんは、それぞれ帰っていきました。食べ切れなかった折り詰めを大事に抱えながら。私たちは、お墓に供えきれずに余った花をもらいました。やさしい黄色のフリージアでした。本と花とバイト代を抱いて、帰りました。最初で最後のバイトでした。
2006年03月05日
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北尾トロ メディアファクトリー相互リンクさせていただいております、紅ずきんさんから教えていただいた本です。ダ・ヴィンチに連載されていたらしい。くだらなくも真剣な調査が繰り広げられます。ゴミ捨て場に本を置いてみて、拾っていく人がいるかどうか。電車の網棚に雑誌を置いてみて、拾っていく人がいるかどうか。チリ紙交換に挑戦!オンライン古本屋に挑戦!!北尾さんは本が好きな人なんだなあ、としみじみ。「本」という形態を愛する人。書く人がいて、編む人がいて、紙を作る人がいて、インクを合わせる人がいて、刷る人がいて、包む人がいて、運ぶ人がいて、並べる人がいて、売る人がいて、いま、私の手元に本がある。すごくいい本が手の中にあるとき、神様と運命に感謝します。そりゃ、ちょっとやそっとじゃ手放せやしない。私にとって合わない本も、ほかの誰かにとっては運命的な本かもしれない。「本」として生まれた。幾人もの手を経て、ここにある。そんなら、本として生きたまま、他の誰かの手に渡りますように。北尾さんは、この本のなか「本のリサイクル」を繰り返します。資源ごみとしてのリサイクルじゃなくて、本が本のまま誰かの手の中を生きていくリサイクル。その思想の延長としてオンライン古本屋の店長さんになられました。とっても素敵だと思います。そうして、この本を教えてくださった紅ずきんさんも、素敵なオンライン古本屋の店長さんなのです。笑琳舎本たちが、ぴかぴか笑ってるよ。本のリサイクルのほかにも、ニューヨークの本屋めぐり、翻訳に挑戦、自分用の本棚を作る、センター試験(国語)に挑戦、などなどお莫迦な調査が満載です。肩肘はらない本で、楽に読めました。なんだか、にこにこしちゃったよ。
2006年03月04日
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久世光彦さんがお亡くなりになったのですね。合掌。寺内貫太郎一家、時間ですよ共に観たことはなく、私にとって久世さんは「一九三四年冬――乱歩」の作家さん。妖しく美しく不思議な小説でした。「卑弥呼」は途中まで読んで肌に合わなくて読むのをやめたのだけど。乱歩のじめじめした小説を、しっとりとしめったものに作り変えたような物語でした。まとわりつくような感じ。乱歩の小説は本を閉じると、その中にエログロが閉じ込められるようでほっとします。じめじめした文章には羽根はなく、舞い上がれない。本の中、世界は這いずってうめいているけれど、眠らない限りこの本を開かない限り、本の世界がこの世に溢れてくることはない。久世さんの死去を知り、「一九三四年冬――乱歩」の妖気香気がふと香りました。閉じられた世界は永遠に残り、香るものは生きる。ずっと。「ちょっと早すぎるんじゃない?」「そっちこそ。ずいぶん早かった」なんて。あっちの世界で、向田邦子さんとお話されているのかな?「触れもせで」が、好きでした。
2006年03月02日
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今日は職場のボーリング大会。運動神経が壊滅しているワタクシも泣く泣くの全員参加レクレーションです。会場に出かけると、エレベーター前、さんざめいてたむろしている制服姿の集団と遭遇。短いスカートからむきだしになった太い足にとっても感心。なんだかおもしろくなさそうな顔の男の子、女の子。表情を決め兼ねていて。卒業式あとの打ち上げボーリングだったのかな?大丈夫。卒業したからって急にくたびれた大人にならなくてもいいんだよ。2ゲームで188のスコアに終わったボーリングの後、焼鳥屋でビール3杯飲んで、とろとろの肝を三本かじる。お店の人がまかないのホットサンド食べているのをうらやましく慎ましく眺めていたら、二枚トーストをお裾分けしてくれました。炭火焼のベーコンと辛いソーセージとレタスの千切りトッピング。味付けは手作りマヨネーズ。四人で来てたので勝ち抜き二人のジャンケン勝負だ!最初はグー。やったね。勝ったぜ!!満腹でお店を出ると十時。小さな花束を持った制服姿がいまだ、うろうろ。カバンにコサージュとめてる子とか。そろそろお家に帰りなさい?大人になるのって、楽しいことではないのかもしれないけれど、君たちが感じているほど悪いことでもないと思うの。卒業おめでとう!擦れ違う、すべての人たちに幸多かれ!
2006年03月01日
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