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できの悪い生徒ばかりだ。教育に対する情熱など起きるわけがない。どいつもろくに授業など聞いていない。漫画を読んだり、雑談ばかりをしている。唯一、クラスの一番前でノートをとっている生徒は、真面目なだけがとりえの人間だ。こんなやつは社会に出ても使い物になるまい。「この式は、つまりエネルギーは質量に光速度の2乗を掛け合わせたものに等しいことを示している。」本当だろうか。アインシュタインはどうしてこんなことを気づき、どうやってこれが正しいと証明したのだろうか。わたしの心の中にわずかに残っていた好奇心が自分に問いかける。しかし、生徒に向けて発した言葉は、「わたしがまだ若かった頃、わたしはアインシュタインとこの式について語り合ったことがある。彼はどうもエネルギーは質量と光速度の2倍を掛け合わせればよいと誤解していたようなのだけれども、わたしが2倍ではなく2乗するのではないかと示唆して、ようやく正しい式を導けたようなのだ。」教室のなかでは、あいかわらず生徒は雑談を続けているし、ノートを真面目にとっている例の愚鈍な生徒はまったく驚く風もなく、物理の先生がアインシュタインに教えてあげたのでこの式が正しくなったとノートに書きとめている。
Jul 29, 2006
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これだけの大発明が日の目を見ないのは残念でならない。最後にこっそりとあなただけに話したい。あなたは遺伝子工学の専門家ではないからやむをえないが、この分野における進歩がいかにすごいものか、時おり、新聞で報道でされるクローン動物の誕生などをはるかにしのぐものであることを知らないであろう。わたしは遺伝子工学によって植物に永続的な“動き“を与えたのだ。おじぎ草という植物を知っているだろう。おじぎ草の葉に触れると、その葉は瞬時の内にすぼまっていく。ただし、時間が経過すると、すぼまった葉は元の状態に戻っていく。難しい理屈はぬきにしよう。ともあれは、わたしはこのおじぎ草の遺伝子を組み換え、ある温度以上になると葉が連続的に上下動する植物の合成に成功した。庭に植えて確かめたが、真夏になって温度が上昇してくると、葉が動き出し風を発生させる。この世紀の大発明は、一部の人間にとっては大変迷惑なものだったらしい。うちわ業界なのか、扇風機業界なのかしらないが、彼らの手引きする暴漢にわたしは襲われ息絶えようとしている。この話は、今となっては、あなただけが知っている事実だ。
Jul 22, 2006
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ゴルゴ13はいつものように一撃でターゲットをしとめると、足早にその場を立ち去った。その日は語学教室に行く日であったのかもしれない。母国語でないとどうしても語彙が乏しくなるし、聞き取れない場合も多々あるにちがいない。ゴルゴ13が寡黙な理由はそこにある。要は話についていかれないので、彼は黙っている。ゴルゴ13は、どこの国に行っても通訳なしで現地の人々と会話をしている。おそらく寝る前に毎日必ず語学のテープを聞いている。日頃使用しない言語は、毎日、語学の勉強をしないとその語学力はすぐに低下してくることは、ゴルゴ13は身にしみてわかっているはずだ。つまり、たくさんの国の言語を毎日勉強している。これを何年も継続しているのだから、ゴルゴ13は精神的に疲労しているかもしれない。以上のことはわたしの想像に過ぎないと反論する人もいるだろう。しかし、もうしばらく時間をくれれば、わたしが実証して見せよう。わたしはゴルゴ13と接触するために、殺人を依頼する。そのための資金作りに、わたしは1日3つもアルバイトをしている。さらに、ゴルゴ13に依頼するときに英語で話せるように毎晩勉強をしている。英検1級は無理そうなので、せめて英検2級を合格したら、ゴルゴ13に接触し、彼の英語の語学力を試してやろうと考えている。(ゴルゴ13に挑戦することは大変に危険です。決してまねをしてはいけません。)
Jul 15, 2006
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生意気にも一匹の蚊が獲物を探しながら、生存そのものに対する不安について考えていた。ぶーんと飛ぶ音こそが生きている証であり、この安心感に浸るために蚊は飛び続けていたかった。生きているからこそ、次に来たるべき現象、生命でなくなることを恐れて不安になる。生命でなくなっても、物質として残るからいいじゃないかと考えて自分を元気づけようとしても、生命でなくなることを受け入れることは簡単ではなかった。しかし、そんな不安も、蚊がうら若き女性の体にたどり着いた瞬間、もっと正確には彼女の柔らかい肌に蚊がその細長い口を突き刺した瞬間に、霧散したのである。生きる喜びを享受すること、これこそが生存に対する不安を払拭するものだと蚊は確信した。完全な解を見つけたと思った。不安で悩んでいる仲間の蚊にアドバイスをしてあげようと、蚊は飛び立つために身構えた。その瞬間である、その蚊が単なる物質になってしまったのは。この哲学者的な蚊は女性の手の動きを読むのを忘れていた。そういうわけで、何匹かの蚊はこの蚊からアドバイスを受けられなくて、未だに生存そのものに対する不安で悩んでいるらしい。
Jul 9, 2006
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満員電車の中で窓に後頭部を押し付けて居眠りをしている男がいる。口がぽっかりあいて、見る角度によっては、上側の歯の裏側すら見える。しかし、わたしが動けなくなったのは、彼の真正面から口の中を覗きこんだときだ。光がまったくはいりこまないのだろう、ぽっかり開いた口のすぐそこに小さな闇の空間ができている。その入り口はとても小さいのだが、闇がそこから人間の頭の中にむかって無限に広がっているように見える。人間の中は無限の闇だ。それぞれの人間がそれぞれの無限の闇を持っていることにわたしは恐怖を感じた。うっかり人々に近づいてはいけない。小さな口が開いて、その体内の闇の中にわたしは吸い込まれていくのではないかと怯えた。闇の無限性に耐えられなかった。満員電車の中で口を開けて眠る男の前から急いで逃げようと思ったが、わたしは動けない。目をそらそうとしたが、その小さな口の中の闇が引きつけて許さない。わたしはあぶら汗をだらだらと垂らしながら、必死に吊り革にしがみついている。次の駅に着く前にその闇の中に引き込まれないようにと祈りながら。
Jul 1, 2006
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