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2014.02.01
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カテゴリ: 読書案内
【吉田修一/横道世之介】
20140201

◆大人の幻想を押し付けない青春小説

文庫本の帯にある“青春小説の金字塔!”というキャッチコピーがやけに目を惹いた。

どれだけ優れた作品なのかと興味は持ったものの、時間を割いて読むほどのものなのか迷った。
前回ご紹介した白石一文にしても初めて読んだ作家だったが、今回の吉田修一も初めてなので、海のものとも山のものとも知れない。
とはいえ、『横道世之介』という作品で柴田錬三郎賞を受賞しており、さらには本屋大賞の3位にも選ばれている。これは読むしかないと、手に取ったわけだ。
著者の吉田修一は法政大学経営学部卒で、もともとは純文学小説でデビューしているようだ。(『最後の息子』が芥川賞候補作となり、その後、『パーク・ライフ』で芥川賞を受賞)
昨年の集英社文庫ナツイチ(夏の一冊)では、同著者の『初恋温泉』がエントリーされており、さらには『空の冒険』もエントリーされている。
どうやら売れっ子作家のようで、それを知らなかった不勉強な自分が、今さらながら恥ずかしい、、、
『横道世之介』は映画化もされており、昨年の2月に公開された話題作でもある。
一読して思ったのは、大学進学のため上京する人、またはその親の立場である人にぜひともおすすめしたい一冊だということ。

だが、私としては、そういう息子、あるいは娘を持つ親御さんが読んでみるのも一興ではないかと思うわけだ。

あらすじはこうだ。
大学進学のために上京した横道世之介は、入学式の際、人懐っこくてマイペースな倉持一平と出会う。
各サークルの新入生勧誘で賑わうキャンパスで、倉持がサンバサークルに入ることとなり、なりゆきで世之介も入ることになった。
さらには、二人の傍に立っていた世之介のクラスメートである阿久津唯も入ることになった。
その後、倉持と唯はひょんなことから付き合うこととなり、そのうち、サンバサークルには参加しなくなっていく。
一方、世之介は友だちと表参道のカフェで話し込んでいると、ちょっと気の強そうな美人に一目惚れしてしまう。
その美人は片瀬千春と言い、突然世之介に、男と別れるための小細工として「弟のふりをしてくれ」と頼む。
結局、世之介は引き受けてしまうのだが、千春の魅力にどっぷりと浸かってしまうのだった。
世之介は寝ても覚めても千春のことが忘れられず、誰かに話したくて仕方がない。
たまたま教室で一人残っていた加藤に声をかけ、一緒に昼飯を食べることにした。

そんなことがきっかけで、無愛想だが根は悪くない加藤のクーラー付きのアパートに、世之介は入り浸ることになる。
そんな折、倉持と唯は局面を迎えていた。
なんと唯が妊娠し、二人とも大学を中退することになってしまったのだ。

最近の小説の傾向としてよく見受けられるのは、場面があちこちに切り替わり、それはまるでドラマや映画などの手法にも似て、読者が退屈してしまうのを回避するというテクニックである。
一昔前に流行したのは、主人公の回想によって話が進められていくタイプだったが、あの手法はもう時代遅れかもしれない。

そういういくつもの異なった物語が、やがて一つのドラマへと完結していくプロセスは、さながら映画でも見ているような錯覚さえする。
『横道世之介』についても、楽しい大学生活の様々なエピソードが連続しているわけではなく、途中、世之介と関係のあった友人たちのその後の物語が挿入されている。
それはすでに40歳となった友人たちが、日々の生活を送りながら、共に過ごした青春時代の思い出に、いつも明るく笑っている世之介を偲ぶ姿を映し出している。
青春の苦悩とか、どうしようもない焦りや不安などは、意識的なのか描写せず、もっとフワリとした感覚的な世界観を描いているように思えた。

この著者はいろんな意味でプロだ。
読者の質とか、求めているテイストを充分に心得ているからだ。
なので、この小説が評価され、売れに売れた理由が分かる。
大人の幻想を押し付けることのない青春小説で、前のめりになって楽しめる一冊だった。

『横道世之介』吉田修一・著〈柴田錬三郎賞受賞作〉

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☆次回(読書案内No.111)は瀬尾まいこの「幸福な食卓」を予定しています。


コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から





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最終更新日  2014.02.02 06:02:11
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